『ボッ!』
点る、
『ボッ!』
光が、
『ボッ!』
断続的に繰り返し、真空の宇宙(そら)へ疑似の音を出す。
それは、小さく噴射された姿勢制御バーニア。
入港速度まで減速した艦を、接岸の速度へと減速させる。
そして…。
揺れを伴い、
『ガコン!』
接岸アームが艦の巨体を受け止める音は、その内部に響き渡る。
ブリッジ内に、
「接岸完了!」
女性オペレーターの声が響く。
その声に頷き、右手は鍔の部分へ、左手は制帽の上部やや後ろへ。
制帽の位置を、再度正す。
その後、軽く握った左手が作る虚空へ、
「うん。」
喉の調子を整える音を吐き出す。
右手は肘掛けに備え付けられたマイクを、握った左手の代わりへ持ち上げる。
そして、
「皆、ご苦労であった。」
労いの間を取り、
「本艦の試験運行は無事終了である。」
続け、
「次の試験航海に向け、直ちに作業に移行。」
強く、
「まだ、慣らし運転も半ばであろうが、各所のチェックを怠らぬよう、くれぐれも頼むぞ。」
一息、
「以上、艦長より。」
マイクのスイッチを離しオフにする。
戻すマイクを視線が追うのは、まだこの艦(ふね)に不慣れだと仕草が語る。
正面に向き直りながら、
「例の作業はどうなっている?」
ブリッジ内へ、疑問を投げる艦長。
自分の前のモニターから目線を外さず、
「現在、確認中です。」
答える女性オペレーター。
短く、
「うむ…。」
答えたが、
〘流石、精鋭を揃えたと言うところか…。〙
内心は、
〘指示を出さずとも、自分の仕事が解っている〙
感心した。
傍らに目をやると、副艦長が各所からの報告に対応し指示を出していた。
その様子に、軽く首を左右に振り、
〘優秀過ぎるのも、考えものだな。〙
心の中で苦笑い。
〘何故? そんな事を思う?〙
自らに投げかけた疑問。
それは、穏やかな心の水面を揺らす微風。
揺らぎ…。
ざわつき。
自分自身でさえ、その正体を知らない。
だが、確かにそこにある何か。
いつの間にか、左腕を肘掛けに立て、頬杖を付いていた。
そして…、
『コン…。』
リズムを、
『コン…。』
取りながら、
『コン…。』
右人差し指で肘掛けを打つ。
そのまま聞いているのに、聞いていいない状態の深みへと落ちて行く。
「………。」
「艦……。」
「艦長…。」
浮上。
呼ばれ、現実の水面へと意識が引き上げられる。
頬杖を外し、
『ブルブル。』
音が出る程に首を左右に振る。
声の主へ、
「すまない。」
目をやり、
「何かね? 副艦長。」
聞き直す。
その表情は、
「いえ…。」
心配だと言い、
「どうか、されたのかと…。」
声も同意だと表す。
気付く、
「ああ…。」
心の中に、
「胸騒ぎがするのだよ…。」
生まれたものの正体は、
「何も起きなければ良いのだが…。」
軍人としての感なのだと。
その声に、
「胸騒ぎですか…。」
乗る不安の感情。
根拠もあった。
人類が宇宙進出の後に報告された事案。
到底、現代の科学では証明できない、超感覚とでも言うべき事件の数々。
例として…。
家族の怪我を離れた場所から察知した。
直前でキャンセルした、乗るはずのシャトルが事故を起こした。
等、数えきれないほどであった。
思い出す、
〘確か、超感覚を軍事転用する研究機関が秘密裏に設立された噂もあったな…。〙
副艦長。
それを読み取り、
「気にしないでくれ…。」
右の口角を上げ、
「私の…。」
誤魔化す笑いの、
「思い過ごしだ。」
艦長。
受け、
「解りました。」
こちらは、
「艦長。」
少し開いた目で笑う。
もう一度、
〘私の思い過ごしだ…。〙
心の中で、
〘そう、思い過ごしだ…。〙
反復する艦長。