スペースコロニー回転中心構造体内部付近。
ハッチに三つの人影。
モビルスーツではなく、ノーマルスーツ。
更に詳しく言えば、パイロットスーツであった。
それも、ヘルメットは脱がず、バイザーを下ろしたままの状態。
こちらからは、顔が見えないと言う事。
その内の一人は、コロニーの外壁で作業していたあの人物ある。
他の人物と見分けられる程の身体的特徴は無かったが、他の二人が個性的であり過ぎた。
一人は、背が低く作業していた人物よりも頭一つ分小さく、全体的にふっくらとしている。
俗に言う、小太り体型。
特に目を引くのは、お腹周りである。
以降、【小太りの人物】と呼称。
一人は、背が高く作業していた人物よりも頭二つ分は大きく、がっしりとした体格をしている。
大入道と言うのは、こう言う人物なのだろうと思える。
特に目を引くのは、腕の太さである。
以降、【背の高い人物】と呼称。
この二人に比べたら、コロニー外壁で作業していた人物は普通と評価される。
以降、【普通の人物】
三人が居るハッチの後方にある大型通路の後方。
この人物達とよりも、小さく見える三つの人影。
それはモビルスーツ。大きさから考えて、かなり離れていると思われる。
三機はコクピットのハッチを開いたまま片膝を付き、その大きな機体(からだ)を丸くしていた。
三人は、ハッチに陰に身を隠し、作業を開始する。
小太りの人物が、手にしていたアタッシュケースを床へ降すと共に胡座(あぐら)をかく。
開く。
中からは、以前使ったものとは異なる機械が顔を出す。
小太りの人物は、蓋に収められていた[銀色の折り畳み傘]を開き、三脚を取り付け、小型の[パラボラアンテナ]とした。
受信面と思われる方をコロニー内部に向け床へと置き、機械とケーブルで繋ぐと設置作業完了とした。
儀式。
癖。
左肩へ右手を乗せると、
『コキコキ。』
音が出る程に首を左右へ傾ける。
次は、
『ボキボキ!』
指を鳴らすのは、もはやお約束。
十本の指を、
『ワキャワキャ。』
節足動物の足の動きの如く動かし、儀式を終える。
そして、アタッシュケースに収められた機械のスイッチをおもむろに入れた。
機械の表面を彩る光と共に、
『ブーン。』
低く唸る様な音が、はっきりと聞こえた。
そう、ここには音の波を伝える空気がある。
宙に映し出されたパネルに指を掛けると、作業を開始した小太りの人物。
普通の人物と背の高い人物は、小太りの人物の作業と儀式を尻目に、通路の出口ギリギリのラインへ立つ。
そして、それぞれが手にしていたモノで目の位置のバイザーへ当てる。
それは、我々が知る【双眼鏡】に酷似していた。
以降、【双眼鏡】と呼称。
それに両手を添え固定する。
双眼鏡を通した視線がコロニーの内部、居住スペースへと向けられた。
添えた指を動かす度。
音と共に、
『ウィーン』
レンズの焦点が動き、
『カシャ!』
シャッター音に、
『ズィー。』
録画音を奏でた。
そのレンズに映るのは、スペースコロニーの生活者の日常…。
街を行き交う車。
街を行き交う人達。
生活という営みであった。
不意。
アタッシュケースの中の機械が、
『ピピッッッ!』
小太りの人物の操作に答えた。
バイザーの奥の見えない口元か、
『ニヤリ。』
形を作り、音を出した。
目はディスプレイに表示されたデータを追う。
コロニーの内部を見ていた二人も、機械音に惹き付けられる。
双眼鏡を外し、
『コン。』
小太りの人物の方へ、
『コン。』
低重力の中を弾み寄る。
小太りの人物の後ろから行われた仕草は、
『どれどれ。』
そう語る。
小太りの人物を中心にして右に背の高い人物、左に普通の人物。
三人がバイザー越しにパネルの表示を覗き込む。
忙しく切り替わるパネルは、
『ピッ!』
音と共に、一つの結果表示で止まる。
その結果を見詰める三人。
暫時。
普通の人物は、先程の位置へ一目散に弾み走る。
小太りの人物は、また指を動かしパネルの操作を開始。
背の高い人物は、首を巡らせコロニーへ視線を送る。
それは、普通の人物の背中へと移動し見詰めていた。
逸(はや)る気持ちが、そのまま行動に出る。
通路の縁ギリギリに足を止めるが早いか…。
手にしていた双眼鏡を構えるが早いか…。
双眼鏡を通した視線をコロニー内部へと向けた普通の人物。
右から左へ。
上から下へ。
高速移動する景色。
それは、目的の場所を探る行為の経過。
不意。
景色と共に動かしていた張本人も止まる。
双眼鏡のレンズに映るのは、高いフェンスに囲まれた広い敷地の施設。
右の指が、
『ギュィィン。』
双眼鏡のスイッチを操作する。
ズームアップ。
レンズが遠くの焦点を、目の前に近くに寄せた。
作業中。
それは、聞こえるはずの無い怒号が聞こえるほどに、忙(せわ)しげに行き交う人々。
追跡。
作業者を追う視線が、見付けた巨大なトレーラー。
荷台に掛けられたその大きさに見合うサイズのシートは、下にあるモノを隠すはずが、凹凸によりモノを目立たせていた。
驚きは、
〘見付けた!〙
身体を硬直させ、心を踊らせた。
暫時。
命令が軍人としての挟持(きょうじ)を思い出させる。
だが、視線を送る双眼鏡の遥か奥の瞳に、
『ニヤリ。』
浮かんだ野心の炎。
そう、出世欲が勝った瞬間であった。
踵(きびす)を返す力を反動に換え蹴る床。
近くまで来ていた背の高い人物の横を風の速さで駆け抜ける。
更に、つま先を支点に全身をバネとして、加速し速度を増す。
それは、小太りの人物の横を過ぎ去った後に風を土産にするほどであった。
向かう先には、駐機する三機のモビルスーツ。
呆然。
唖然。
遠ざかる普通の人物に向けた体に、伸ばした腕。
その仕草は、
『待て!』
全身で語っていた。
頭から、
『!』
出たマークは、普通の人物の意図を理解した証。
取り出した丁寧さとは、真逆の乱暴さでパラボラアンテナをアタッシュケースの蓋へ押し込む小太りの人物。
直後、背の高い人物に向かい、
『来い!』
左腕で合図した。
そのまま、立ち上がる勢いで床蹴り、遥か先の小さく見える普通の人物の背中を追う。
その後ろを、少し遅れ背の高い人物が追っていた。
小太りの人物が追いついたのは、普通の人物がモビルスーツを起動させ歩み出した後だった。
慌てコクピットに潜り込み起動させるが、今度はモビルスーツの背中を追う羽目になった。
際(きわ)。
コロニー内部と中央構造体の境に立つモビルスーツ。
その瞳の単眼が、双眼鏡に映った施設へ向けられた。
そして、コロニー内部へとモビルスーツを、今は上になっている居住エリアに向かって降下させた。
続く二機が降下を始めたのは、居住エリアが下になっていた頃であった。