きさつのけんし   作:サイコロステーキ

4 / 5



今朝の作者
「ほーん、なんか見慣れない鬼滅SSがランキングにあるじゃん」

「これ儂書いとるやつやんけ」

皆様応援ありがとうございます。





第4話

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤとした往来の喧騒から離れ、閑静という言葉の似合う住宅街。決して豪華ではないものの、しっかりとした造りの日本家屋が立ち並ぶ通りに千華と鏡壱は歩いていた。

 

きょろきょろと周囲を見遣る鏡壱。麓の町にはこういった雰囲気の住宅街はなく、珍しいものに感じる。質素ではあるが立派な家屋はまさしく質実剛健と言うべきものであろう。

 

「ふふ、こういった場所は珍しいですか?」

 

「は、はい。なんか他の場所と雰囲気が違って…。町に住む人は商人が多いけど、なんていうかこの辺りはそういう感じの人が住むのとは違う気がして」

 

「勘が良いのですね。ここらは元々武士の家系だった方の家ばかりでしてね。商家の方々の住む家とはまた趣が違うでしょう?」

 

千華曰く、なんでも昔にこの辺りを治めていた殿様が武士を管理しやすいようにこの区画にまとめて住まわせていたのだそうだ。

だが今はもう武士という階級自体なくなり、皆刀を捨てた。あとには立派な武家屋敷だけが残ったのだそう。

 

「へぇ。千華さんの家もここら辺にあるんですよね?ってことは武士の家系の方なんですか?」

 

「ええ。大したこともない田舎の武士だったそうですが」

 

手を繋ぎながら千華に連れられて道を進む。

しばらくすると立派な門構えの屋敷にたどり着いた。

 

「ここですか?」

 

「はい。何もない、ただ広いばかりの家ですけれど」

 

苦笑しながら門扉を開いた彼女に続き、門をくぐる。すると通りがけに眺めた屋敷と比べても随分と立派な屋敷が建っていた。

 

「お、大きい」

 

「大きいだけですよ。さ、こちらへ。どうぞあがってください」

 

前を歩き、玄関を開けた彼女に促されるまま屋敷に入る。

 

「お、お邪魔します」

 

木造建築特有の仄かに薫る木の匂い。少しひんやりと冷たいがしっかりと張られた床板。住めれば問題ないと言わんばかりにボロい普段の山小屋とは天地の差だ。

 

いくつか部屋を抜けおそらく居間と思われる部屋に通される。

 

「本当は来客用のお部屋もあるのですが、1人では大きいですし、寂しいでしょう?」

 

「あ、はい。泊めていただけるだけで十分なので全然気にしないでください」

 

「ふふ、本当は寂しいのは私の方なのです。折角ですからね、一緒にお喋りをしたいのですよ」

 

なんだか儚いような、そんな笑みを浮かべて千華は鏡壱の荷を預かってくれる。

 

「お夕飯はまだでしたよね?今仕度をしますから少し待っていただけますか?」

 

一息つくこともなく、鏡壱を座らせると炊事場の方へと彼女は向かう。

 

「手伝います。こう見えてもよく料理はするので多分大丈夫です」

 

慌てて立ち上がり彼女のあとを追うが、

 

「いけませんよ、鏡壱君。子供とはいえ貴方は男子。炊事場は女の戦場、男子は禁制です」

 

穏やかに千華は告げ、鏡壱の頭を撫でる。

妙に優しい手つきがくすぐったくて、迷惑ばかりかけているという罪悪感も何処かに行ってしまう。結局言いくるめられ、大人しく座って待つことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

手を合わせ、千華に向けて頭を下げる。

 

「お粗末さまでした」

 

千華の振る舞ってくれた飯を平らげた鏡壱。大変な御馳走なんてことはなかったが手の込んだ料理は非常に美味だった。

 

淹れてもらったお茶を啜り、ほっと一息。

 

「とっても美味しかったです。ご飯までいただいてしまって、なんてお礼を言えば…」

 

「良いのですよ。私も久々に誰かとご飯を食べられて楽しかったので。一人のご飯は味気ないですからね」

 

本当に楽しいと思ってくれたのだろう。にこやかな彼女だが、やはりどこか寂しげなモノを感じた。

 

「千華さんはやっぱり1人でこのお屋敷に住んでるんですね。あの…家族の方とかは…?」

 

カチャカチャと音をたて、食器を片付ける彼女の手が止まった。

彼女はこちらを見遣ると困ったような、悩むような顔をして、ようやく口を開いた。

 

「両親は昔、流行りの病で命を落としました」

 

妙な間で話し辛いことがあるのを察するべきだった。鏡壱は軽はずみに尋ねたことを後悔した。

 

「す、すみません!嫌な事聞いちゃって…」

 

「いえ、良いのですよ。ずっと昔のことです。とうの昔に整理はついてますから」

 

慌てたこちらを申し訳なく思ったのだろう。優しく微笑む。

 

「鏡壱君は優しいのですね。貴方は誰かのことを想いやって労る事ができる。難しいことではないのかもしれないけれど、出来ない人も沢山いますから」

 

もう手慣れたのだろうか。自然に自分の頭に手をのせ、撫でる。ジジイにこんなことされた日には子供扱いにブチ切れて木刀で襲いかかるが、不思議なことに彼女にされても不快なモノは一切ない。それどころか、なんだかほわほわとした暖かいモノを感じる。

 

「千華さんも」

 

「千華さんも良い人だ。困ってた俺を助けてくれたし、家に泊めてくれるし、ご飯も御馳走してくれた」

 

この暖かさが何なのかは分からないが、鏡壱はこの感覚をよく知っている。もう素直にはなれないから滅多なことでは覚えないが昔ジジイに拾われてしばらくの頃。何度も叱られて、何度も褒めて貰えて、そんなことをしていた時によく感じていた。とにかく暖かくて、涙が出そうなときもあって、でも決して苦しくなくて。ジジイにそれが何なのかと聞けばそれはきっと幸せの熱なのだと答えた。

 

「大したことではないですよ。貴方くらいの子供が不安そうに往来でうろうろしていたら誰でも助けたくなるものです」

 

「そんなことない!俺、色んな人に声かけたけどあんまり相手にしてもらえなかったし、いや俺が悪かったのかもしれないけど…。とにかく!助けてくれた千華さんは良い人だ」

 

やけに噛み付いた鏡壱に少し困惑気味な千華。だが、ふふっと笑みを溢すと慈しむように語る。

 

「ああ、そうなの。きっと君がそこまで言うのですからそうなのでしょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからそれからお風呂までいただいた鏡壱。

夜も随分更けてきて、あとはもう寝るだけという頃。

 

押入れから取り出してきた布団を千華が敷いてくれている。本当は自分がやると言ったのだが客人にそんなことはさせられないと、彼女に止められてしまった。彼女が世話をしてくれる中、何もせずに部屋に居るのがなんとなく辛くて厠を借りることにした。

案内されたように部屋を出て、縁側を歩く。張られた木板がギシギシと音をたてる。

 

嫌に綺麗な夜だった。

やはり昼間から雲の少ない空に幽玄の月は輝き、満天の星が煌めく。

 

「明日は満月かな」

 

僅かに欠けている月を見遣り、溢す。きっと明日の晩は見事な満月に違いない。月を見上げ、感傷に浸る。我ながら似合わないな、とそんな自嘲しながら厠へ向かった。

 

だが途中、妙な匂いが鼻についた。微かな灰の匂い、燃えるような、そんな匂いだ。はて、火事でも起きたか。しかしそんな気配はない。妙に思って匂いを辿ると1つの部屋についた。

人様のお家で勝手は良くない。そうは思っても気になると止められないもの。好奇心とはかくも抑え難きものであったか。鏡壱はゆっくりと障子を開き、中を伺った。

 

居間よりも小さな部屋にあったのは仏壇であった。

どうやら匂いはあげられていた線香の香りだったようだ。気になってしまったもので、仏壇に近寄り、手を合わせてから観察する。大きな家に見合ったと言える立派な仏壇だ。手入れも行き届いており、ホコリ1つ見当たらない。

 

だが眺めていた鏡壱は首をかしげた。

仏壇には位牌が4つある。おそらくうち2つは病で亡くなられたというご両親に違いない。けれど、あとの2つは誰のものであろうか?

 

疑問はあったが鏡壱は何を勝手に詮索しているのだと自分を叱り、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、待っていましたよ、鏡壱君」

 

布団の準備も終えた千華が座って帰りを待っていた。

 

「すみません、お待たせしました……ん?」

 

またも鏡壱は首をかしげた。

ここで寝るのは自分だけと思っていたが、敷かれている布団は二組あった。

そんな自分の疑問に気づいたのだろう。千華は少し恥ずかしそうにはにかみながら事情を語る。

 

「これなのですが私も一緒に寝させてもらえませんか?」

 

「えっと、…」

 

「ご、ごめんなさい。いきなりそんなこと言われたって困りますよね。ふふふ、いい歳をして情けない。人肌が恋しいのでしょうか」

 

今片付けますね。そう言って慌ててこの場を離れようとする千華。

 

「あ、いや!全然構いませんから!」

 

自分は全く気にしない。

それどころかそもそも泊めさせてもらう身なのだ。彼女が望むならなんでもしよう。

 

「本当ですか?私に気を使って無理を言ってはおりませんか?」

 

「いや、全然!本当に!千華さんならむしろこっちがお願いしたいくらいです!」

 

すみません、流石にこちらからお願いはしないと思います。そんな風に些か過ぎた言葉に申し訳なくなりながら、彼女に拒絶の意思がないことを伝える。

 

「そうですか。それならば共に寝させくださいな」

 

こちらの想いも通じたのだろう。どことなく申し訳なさそうにしながら彼女は片付けようとしていた布団を元に戻した。

 

「明日は目的通りに薬屋に向かうのでしょう?それにお家へ帰るならば体をよく休めませんと。早く寝ないといけませんね」

 

鏡壱に布団に入るように促し、もう眠るようにと優しく声をかける。

 

「もし眠れないのなら子守唄でも歌ってあげましょうか?」

 

「流石にそんな子供じゃありません!」

 

いたずらっぽく笑った千華に言葉を返す。

ちょっとからかわれたのがムカっとして彼女に背を向けて寝転んだ。

 

「あらあら。怒らせてしまったかしら」

 

ごめんなさいね、そんな声がしたと思ったら自分の体に腕が伸びてきた。どうやら抱きしめられているらしい。背中には人の温もりがあり、微かだが鼓動も伝わってきた。そのまま抱えられて頭を撫でられる。彼女の息遣いを間近に感じた。

 

千華に包まれている。鏡壱はそう感じた。

なんだかよく分からないがこの上なく心地が良い。ぬるいお湯に浸かっているような、気持ちの良さ。ずっとずっと前にこんな風にしていたような気もする。だがやはり知らない感覚だ。

 

千華に出会ったときから感じる妙な感覚。

彼女は暖かく、そして優しい。

 

そういう女性をなんというのだったか。

こんなふうに抱きしめてくれる人をなんというのだったか。

 

明確な答えが浮かばない。

 

だってきっとそれは、

 

 

 

自分が知らないものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして長らく忘れていた忌むべき過去も追い縋る。

 

穢れは周囲に澱みを生み、澱みは禍事を引き寄せる。

少年に迫る災厄を祓ってきた雷の剣士は此処に在らず。

 

 

 

いつだって。

 

幸せが壊れるときには、

 

 

 

 

血の匂いがする。

 

 

 

 

 

 







千華さん、ショタをお持ち帰りして布団に誘う危ない人になってしまった。

あと週末はちょっと忙しいので更新ないかもしれませんが悪しからず。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。