意外にも、口火を切ったのは一番恐縮しているはずのミクだった。
「それで、私は何をすればいいんでしょうか?」
パーティーの立案者であるケイに向けて、彼女はおずおずと切り出す。ルビー色の液体をグラスの中でゆっくりと回し、ケイはもったいぶるようにグラスを頭上に掲げてみせる。
「そうだな……。ミクちゃんは街中じゃ歌えないんだったよな? その辺りはカイトから聞いてるよ」
僕はそれを聞いて目を丸くした。疑問の声を口に出さなかったのは幸運だったと思う。さらっと嘘をつかれて驚いたが、ケイにミクの詳しい事情は話していない。どういうことだと言う視線をケイに送るが、彼は「そういうことにしておけよ」というアイコンタクトで返してきた。
これじゃ僕の口が軽いみたいじゃないか、と若干の不満を感じたけれど、今は抑えて後でケイに聞きただすことに決める。
「まず、俺らがスタジオでセッションする。で、そのCDをミクちゃんに渡す。ミクちゃんはそれを聞きながらイメージを膨らましつつ自主練習をしてもらう、ってのが当面の方針かな」
一口ワインを口に含み、カウンターにトンと静かにグラスを置いたケイは、今度はミク以外の面子を指差す。
「演奏組は一刻も早く暗譜してリハに備える。それが出来たらミクちゃんを交えて全体練習。ま、おおまかな流れはこんなところか。そこんとこはお前らなら大丈夫だろ?」
クリス、ニック、グレイグは心得たという風に軽く頷く。流石にこの三人はプロだ。言われなくとも自分の成すべきことは心得ているのだろう。
「僕は?」
唯一あぶれた僕は、もちろん演奏会の流れなんて把握していない。そもそも作曲家である僕がこれから出来ることというのは一体何があるのだろうか。
「カイトは曲の細かい部分を俺らと擦り合わせる作業だな。楽譜だけじゃ分からない局所的なとこを俺ら四人とシェアする感じ」
「なるほど」
「本番は大体二ヶ月後を予定してるから、そこそこシビアなスケジュールになるだろうが」
パキンと指を鳴らし、ケイは楽しげに口を歪めた。
「協力して最高の舞台にしてやろうぜ」
「おうよ」
ニックがウォッカの入ったグラスを軽く掲げる。釣られるように皆が各々のグラスをそれに合わせた。カキンとガラスの鳴る音が重なる。こころなしか、皆の気持ちが同じ方向を向いたように思えた。
正面のミクと視線が合う。気まずそうにさっと目を逸らした彼女は、しばらく恥ずかしそうに目線を下に向けた後、僕の方を見てほのかにはにかんで見せた。彼女の中の堅い氷は、徐々に解けつつあるようだった。