黎デュアル下
◇
士道は、黎と話した後もしばらくその場に立ち尽くしていた。
黎が言っていることも間違えいない。だが歪んでいる。
俺達<ラタトスク>も、精霊を助けるという正義を持っている。
だが歪んでいてもそれが黎が抱く正義なのであろう。
この世界の正義ってなんだ…正解ってなんだ。
士道は空を見上げながらそんな答えがないことを考えていると前方から4人歩いてくるのが見えた。
折紙「いた」
七罪「いた」
よしのん「みつけたよ~士道くん」
四糸乃「見つけました」
六喰「見つけたぞ主様」
士道「おはようってどうしたんだこんなに早く」
折紙「迎えに来た」
士道「別に良いのに…ってこんなことしてる場合じゃない!みんな今すぐフラクシナスで話すことがある。今居ないメンバーを集めてくれ」
六喰「ふんむ。わかったのじゃ」
四糸乃「はい…」
士道はインカムで琴里に頼み七罪と折紙と共にフラクシナスで回収してもらった。
そして3人は先にメインルームに足を運んだ。
琴里「何があったか説明して頂戴」
士道「実は、今朝も黎に会った」
琴里「それで?デートに誘ったの?」
士道「違う。今朝黎に会った時、黎は血塗れだった」
琴里「まさか!!」
士道「多分察してると思うが彼女、黎は人を殺している」
琴里「これで最近の連続殺人事件と繋がったわね。それで理由は?」
士道「虐待をされている子供を助けるためだってあいつは言っていた」
琴里「そう・・・・。被害が出ている以上こちらも場合よっては実力を行使することになるかもしれないわ」
士道「あと、あいつは「僕を止めたいなら力ずくで止めてみなよ。僕は夜あそこにいるから」って言っていた」
その時メインルームに他の精霊全員が入って来た。
琴里「みんな…」
十香「新しい精霊なのだな…」
二亜「なになに?今回の子はどんな子だった少年?」
琴里「話を戻すわ。黎は力ずくで止めろと言ってはいたけれどとりあえず士道は今晩、黎ともう一度話をしてもらうわ」
十香「私達は何をすれば良いのだ?」
琴里「みんなには、士道の護衛をしてもらうわ。場所は、森だからみんなは、木の影にでも隠れて様子を伺って頂戴」
折紙「わかった」
よしのん「四糸乃頑張って全力で士道くんを守ろう?」
四糸乃「うん…!」
耶倶矢「我の力を持ってすれば精霊1人を拘束することなど…痛い!」
七罪は耶倶矢の頭にチョップを落とした。
七罪「悪魔で私達は士道を守る事なんだから」
琴里「話は以上よ。悪いけど士道は残って頂戴」
士道「え?なんで俺だけ?」
◇
黎は、展望台のベンチで小説を読みながら考え事をしていた。
普通の人間が僕を止めるのは無理だと思うけど、とりあえず暇つぶしにはなると思うし。
狂三「あらあらあなたがこんなとこにいるなんて」
本に集中していて僕の背後に時崎狂三が立っているのに気づかなかった。
黎「また君かい?時崎狂三… しつこいんだね。君も」
狂三「わたくしは、ただの散歩ですわ。書物好きなんですの?」
黎「小説は良いよ。色んなことを僕に教えてくれる。あとひとつ聞いていい?」
狂三「なんですの?」
黎「この漢字なんて読むの?」
黎が狂三に本を見せ指さした漢字は漁火だった。
狂三「いさりびですわね」
黎「ありがとう。ねぇ、時崎狂三は漁火って見たことある?」
狂三「わたくし、あまり潮風は好きではありませんので海には行きませんの」
黎「僕には海は本で出てくる物でしかないから」
黎は悲しい顔をしながら言った。
狂三「あなた…1人ぼっちなんですの?」
黎「人間は、誰もがみな1人だと思うのだけれど」
狂三「あなたいつも答えのない答えを求めているんですの?」
黎「そうだね。僕は求めてる、この世界の正義をね」
狂三「あらそうですの。ではわたくしはこの辺で」
黎「時崎狂三、また漢字教えてね」
狂三「ま、考えておきますわ」
狂三は、いつものように影の中に消えていった。
黎「さてと、僕もどこかに行くとしますか」
昔の僕は楽しむ物が本しかなかった。
図鑑、詩、小説色んなものを読んできた。
妹は、僕が学校から帰ると毎日「本を読み聞かせて」って言われていた。
◇
妹が好きだったのは大体がグリム童話だった。
しかも、なんにも変更されていない本家のグリム童話だ。
正直当時の僕は、これを読み聞かせ良いものなのか?
あまり教育に良くない物だとわかっていたが妹の頼みを断るのが可哀想に思えて仕方なく読み聞かせていた。
ある日、妹が僕にいつものグリム童話ではなくまた別の本を持って来た。
黎「どうしたの?」
妹「これ読んで」
そう言いながら僕に渡したのは
「地底旅行」と表紙に書かれていた小説だった。
黎「珍しいね、グリム童話以外の本を持って来るなんて」
妹は笑みを浮かべながら頷いた。
黎「わかった。じゃあ公園行こうか」
妹「うん!」
僕が本を読み聞かせる時決まって近所の公園に行く。
家にいるといつ父に邪魔されるか分からないからだ。
黎は妹の手を引いて公園に歩いて行った。
それ「地底旅行」は子供の冒険心をくすぐる内容だった。
妹「ねぇ、お姉ちゃんいつか一緒にこの世界の色んなものを見てまわろ?」
黎「そうだね。いつかは…」
しかしそんな未来は来なかった。
妹はもう居ないのだから…。
本を開く度にどうしても思い出してしまう。
でも辛くはないこの思い出が僕に力をくれる…。
怒りや憎悪を忘れないために…。
本を読んでいるうちに街がオレンジ色に染まっていく。
黎「さぁ、いきますか」
僕を楽しませてくれよ?五河士道。
◇
士道は、琴里と1対1の面談をしていた。
内容は、黎をデートに誘う方法である。
琴里「今回、デートを誘う前にこうなってしまったけれど、まだチャンスが無くなった訳じゃないわ。もし戦闘になった場合は十香達が守ってくれるけど、後は士道次第よ。せいぜい頑張りなさい」
士道「なぁ琴里」
琴里「何よ」
士道「正義ってなんだ?」
琴里「はぁ?そんな歳にもなって厨二病なんて勘弁して…」
琴里は残念な人を見るような目で士道を見下していた。
士道「違う!違うから!黎と俺達の正義って同じなのかってさ?」
琴里「さあね。そんなものに答えなんてないわ。少なくとも私達<ラタトスク>は精霊を助けることが正義だと思ってるわ」
士道「そうなのか…」
琴里「士道、そろそろ時間よ」
士道「あぁ。わかってる」
琴里「さぁ、私達の戦争<デート>を始めましょう」
◇
黎は昨日士道と出会った川の近くの岩の上に座って本を読んでいた。
前方から草をかき分けてこっちに向かってくるの足音が聞こえてくる。
あと10m、8、6、来た。
士道「来たぜ。黎」
黎「こんばんは五河士道今夜は綺麗な満月が見られそうだよ」
黎はそんなどうでもいい話を持ち掛けてきた。
士道「本当に争う気なのか?」
黎「できればしたくないかな」
士道「なら…」
黎「でも言動には責任を持たないといけないからね」
黎「よっと」
黎は座ってた岩の上飛び降りこちらに歩いてくる。
黎「一様ルールを言っておこう」
士道「ルール?」
黎「何事もルールが無いと面白くないからね。あと……さっきからか隠れている人達も出てきなよ!」
士道「なっ!?」
理由は分からないが黎は既に十香達が隠れていることを知っていた。
黎「僕が気づかないとでも思ってたの?そんなわけないじゃん。ずっと見てたんだから…」
士道「見ていた?」
黎「そう。見ていたの君達全員を」
ガサガサ音を立てながら全方向から擬似霊装を纏った十香達が出てきた。
黎「それじゃあ説明するね」
この後黎が言い出したルールに全員が耳を疑った。
黎「その1、君らは僕を殺すか、気絶させたら勝ち。僕は君らを全員戦闘不能にしたら勝ち、あと僕がこの中の誰かを殺しても負け」
黎が言っていることの訳が分からなかった。
普通なら自分に有利立てるルールを作るはずだ。
なのに黎が出してきたルールは、自分が死ぬ可能性があるルールを出してきた。
士道「待ってくれ!そんなことをしたら」
黎「そんなことをしたら僕が死んでしまうかも、とでも言いたいのだろうけど」
黎「僕は負ける気はない」
黎「あと」
黎は上を見上げて話し出した。
黎「高みの見物を決め込んでる人達の参加もいいからね」
士道が、付けているインカムから警報の音が鳴り響いた。
黎はコインを胸元から取り出しそれを投げた。
黎「これが地面に落ちたらスタートだから。じゃあね」
黎はそう言うと俺達の前から姿を消した。
コインはキーンと音を立て地面に叩きつけられた。
黎「はじめようか。僕らのゲームを」
◇
ゲームが始まり士道達はいつ襲われてもおかしくない状況の中、作戦会議を行っていた。
士道「どうする?」
折紙「相手は1人、だけど時崎狂三のように分身を使えるのかもしれない。ならこのまま固まって行動した方がいい」
折紙はさっき、黎が言っていた「ずっと見てたんだから」という言葉に違和感を持っていた。
耶倶矢「我はこの森ごと吹き飛ばすべきだと思うぞ」
隣にいた夕弦はすかさず耶倶矢の頭を引っぱたいた。
耶倶矢「あ、痛!何すんのよ夕弦!」
夕弦「否定。耶倶矢は黎と一緒にこの自然を破壊するつもりですか?」
耶倶矢「い、いや、それはー。あはは」
耶倶矢は頬をかきながら苦笑いした。
七罪「んで、結局どうすんのよ?」
士道「とりあえず折紙が言ったようにしよう」
四糸乃「あの…ほんとに…戦わないとダメ…何ですか?」
士道「あいつが言う以上、そうなんだろう」
四糸乃「そう…」
急に四糸乃の口調が変わり忍者刀を構え襲いかかって来た。
十香は士道の前に出てサンダルフォンで忍者刀を抑えた。
十香「く、四糸乃!何故シドーに刃物を向ける!」
七罪「十香そいつは四糸乃じゃない!」
四糸乃「正解、さすがだね」
四糸乃の姿は光を放ち黎の姿になった。
七罪「あんた……。四糸乃をどこにやったのよ!<ハニエル>━カリドスクーペ」
七罪はハニエルでメタトロンをコピーした。
七罪「<メタトロン>━マルアク」
メタトロンから放たれる無数の光線が黎を襲う。
しかし黎はその光線を全て避けて見せた。
黎「あの子には少し寝てもらってるよ」
黎「君も眠ってもらうよ」
俺達が瞬きするより早く動きいつの間にか七罪の真後ろにいた。そして黎は七罪のうなじを手の甲で殴った。
その瞬間七罪の擬似霊装は溶け、落ちていく。
士道「七罪!」
士道は落ちてくる七罪を受け止めその場に寝かせた。
十香「私達もいくぞ!」
黎「頑張れ頑張れー」
早くも七罪と四糸乃が戦闘不能になってしまった。
黎のあの速さは耶倶矢や夕弦より遥かに上だ。
琴里が言っていた「狂三より厄介かもしれない」の意味がようやく理解出来た。
黎はただ速いだけじゃない、今まで多くの戦闘経験を積んできたのだろう。
黎「ほらほらー僕はまだ満足してないよー」
折紙「<メタトロン>━マルアク!」
耶倶矢「いくわよ!夕弦。<ラファエル>━エル・レエム!」
夕弦「承知。わかってます。<ラファエル>━エル・ナハシュ!」
4人は全員天使を構え黎に向かっていった。
黎「良いね良いねそう来なくちゃ。<ウリエル>━」
黎が静かに唱えると黎の周りに光が集まり黎が複数人現れた。
十香「何?!」
黎「数なら数で」
美九「<ガブリエル>━ロンド」
黎「させないよ」
士道「美九危ない!」
美九の背後には黎の分身体が立っていた。
六喰「<ミカエル>━セグヴァ」
黎「な?!」
黎の後ろには穴ができておりそこからミカエルが黎に鍵先を刺した。
刺された黎の分身体は光になりスーと消えた。
黎「マジか…」
黎は自分の分身体が消える瞬間を口を開けながら見ていた。
十香「何よそ見をしている!」
十香のサンダルフォンが黎の胸に当たった途端黎の身体は丸太に変わった。
十香「なに?!」
耶倶矢「忍術…」
耶倶矢は目をキラキラ光らせながら黎達を見ていた。
折紙「本体はどこ」
黎「さぁねー」
背後から黎は折紙を抱きしめた。
折紙「<メタトロン>━カドゥール」
メタトロンは刃に変わり後ろにいた黎を切った。
しかしさっきと同じように光に変わっただけだった。
黎「そろそろ陸も飽きてきたし空中戦といこうか」
そう言うと黎は飛んでいった。
耶倶矢「くくく、我ら八舞に空中戦で勝てると思ってるのか?」
黎「口だけじゃなくて早く来て」
耶倶矢「こんのーー!舐めるなー!」
夕弦「追撃。せいやー」
黎と八舞姉妹が戦っている中士道は妙な違和感を抱いていた。
それは琴里達の指示が一切ない事だ。
士道「インカムの故障か?こんな時に!」
◇
フラクシナスではアクシデントが起きようとしていた。
琴里「なんで士道との通信が遮断されてるのよ!」
令音「分からない、だが意図的なものであるのは確かだ」
琴里「解析を急いで。マリア下の状況はどうなってる」
マリア「はい。今のところ全員黎に遊ばれてます」
琴里は「あーやっぱりかー」というような表情をした。
マリア「あと黎が3人います。忘れてましたが既に七罪と四糸乃は戦闘不能のようです。七罪は伸びてます。大変です琴里」
二亜「あたしの未来の仕事仲間がーー!あいつ何してくれてんだー!」
二亜は肩を落としながら艦長室から出ていった。
琴里・マリア「二亜、うるさい(です)」
琴里「それでどうしたのよ」
マリア「四糸乃の姿を捕らえることが出来ません」
琴里「もっと良く探して頂戴必ずいるはずよ」
◇
十香「このままだと全滅になってしまう」
十香には1つ考えがあった。
それは士道に封印されている自分の霊力を逆流させること。
もし、失敗したらあの時みたいに自分で無くなってしまうかも知れない。
黎に打撃を受け夕弦が物凄い勢いで落ちてきた。
夕弦「ぐっ」
士道「大丈夫か!夕弦!」
耶倶矢「夕弦!大丈夫!」
夕弦「応答。まだ、いけます」
もうやるしかない。
考えろ私が最も嫌いとすること……。
十香の限定霊装が溶け本来の霊装、アドナイ・メレクへと変わった。
十香「これならいけるかもしれない」
十香を見た折紙達も「対抗するには、そうするしかない」感じた。
折紙達も十香と同じように限定霊装から本来の霊装へと変えた。
黎「へー面白くなってきたーー!!」
士道「黎!もういいだろ!!」
黎「僕は最後までやるよ」
士道「黎…」
俺はあいつにただ罪を増やして欲しくないだけなのに何故聞く耳を持ってくれないんだ。
折紙「十香」
十香「なんだ」
折紙「メタトロンとサンダルフォンの同時攻撃をしたい」
十香「わかった」
十香は地面に降り玉座を顕現させた。
黎「少し待ってあげるよ。何か大きなことするんだろう?」
十香「死ぬなよ!黎!」
黎「はいはいわかったわかった~」
折紙「<メタトロン>━アーティリフ」
十香は玉座を破壊しその破片がサンダルフォンに集まって剣の形に変えていった。
十香「ハルヴァンヘレヴ…!」
ハルヴァンヘルヴの斬撃とメタトロンの砲撃が黎に直撃する直前黎はニッと笑った。
折紙「手応えはあった」
数十秒後爆発の煙の間から光が漏れ出した。
だんだん黎の姿が捉えれるようになった。
次に俺達が黎を見た時目を疑った。
その姿は今までの何度も見てきた四糸乃の天使<ザドキエル>のシリヨンだった。
だが本来のシリヨンとは色も形も少し違う。
士道「お前…それは…」
黎「…………………………」
十香「貴様!四糸乃に何をした!」
何を聞いても黎は反応すらしなかった。
黎「<ルシフェル>……」
黎が静かに唱えると目の前に彼女の身長以上ある大きな鎌が現れた。
黎はそれを握りしめ勢いよく振りかざした。
END