今回からスタートになります、Fate/Phantom Grail。第1話です。
もしかしたら1話ごと短いかもしれませんが、お付き合いいただけると幸いです。
それでは、よろしくお願いします!
暗がりの教室で目を覚ます。
私は、いつから寝ていたんだろう。授業が終わって、ホームルーム……それから後の記憶がない。
廊下にはまだ微かに電気がついている。誰かはいるようだ。
「…………8時……」
眠気まなこで腕時計を見やり、やっとの思いで時間を見分ける。
「はぁ……」
もうため息しか出ない。
普通なら下校時間に友達でも起こしてくれるのだろうが、私にそんな人はいない。
くわえて、まさかこんな時間まで寝てしまうとは。そんなに疲れてたかな、私。
こうなると、もう立ち上がるのも億劫だ。
……いっそのこと二度寝してしまうか……いや、なんか眠たくもないし……。
と、そこでふと思い出した。
そういえば、今朝方ぶつけた覚えもない右手の甲にアザができていたことを。
「……うえ、何これイタズラ?」
そこにはアザの代わりに、こすっても消えない十字みたいな形の模様が描かれていた。
「油性ペンじゃん……」
消えるどころか伸びもしないし、なんならインクもつかない。
これは油性ペンだ、と確信して諦める。
いつも一人でいる私に話しかけてくる人は大抵面白半分か罰ゲーム。たまに血迷った男子が近づいてきたりもするけど、残念ながら私は誰かと遊ぶことはない。
そんな私のスタンスが嫌いと思われる陽キャ……を装った性悪女どもがたまにイタズラを仕掛けてくることはある。
だからまあ、別に気にはしない。……この模様、なんか嫌いじゃないし。
しかし秋になろうというのに残暑の残る教室にはクーラーなど無いし、もしあっても消えてるし。つまるところ暑い。
気づけば寝汗でワイシャツが微妙に濡れて気持ち悪い。
「……外、出たら乾くかな……」
横着な私は、アイロンをかける手間を惜しむのであった。
「なんだ、思ったより涼しいじゃん」
嬉しいんだか悲しいんだか、自分でも分からない。
暑さにこたえた身体に涼しい風は気持ちいい。それだけは分かる。
「あ、そうだ。今ならできるかな」
グラウンドへと出た私は、カバンを端に置くと数歩前に出て、頭にその形を思い浮かべる。
あとはそのまま身体を回し、踊るように足でその形を描いていく。
「よし、できた」
「洲崎さん?」
「ひゃぅ⁉︎」
「何してるの?」
不意に視界に入ってきた顔に驚いてのけぞる。
そんな私をキョトンとした顔で見るのは、風になびく美しい黒髪を手で押さえる超美人。
「と、遠坂さん? なんでここに……」
「いや、それはこっちのセリフなのだけれど」
「あっ、そう、そうですよね……」
「…………」
私の返答を待つ遠坂さんは、私の右手と地面に描いた模様を交互に眺めて眉を潜める。
「寝てたら、外に出たくなって……それで」
「寝てた? ……いえ、それはいいわ。それよりも」
怪訝な顔をする私の手をとって、遠坂さんはまじまじと右手のアザを見つめた。
「これはなに?」
そのままハッキリと模様を指差し、私を睨み付ける。
「これは……お父さんから教わったもので……意味はよく分かってない……です」
「……そう」
手を離すと同時に背を向け、ぶつぶつと独り言を言いながら物思いにふける遠坂さん。
「あ、あの……」
――刹那。
キィンという甲高い金属音とともに、私と遠坂さんは土煙に包まれた。
「けほっ、けほっ……」
「まったく、不意打ちとはなってないな」
顔を上げると、片手に白い短剣を携え赤い外套を翻した長身の男性が立っていた。
まるで、私と遠坂さんを何かから守るように。
「アーチャー!」
「マスター、どうする。彼女を逃すか」
その問いにちらりと私を見た遠坂さんは、首を横に振る。
「いえ、このままよ。このまま、私と彼女を守って戦いなさい」
「まったく無茶を言う……」
「本っ当に幼稚なマスター」
闇から出てきた人影は、月明かりに光る何かをこちらに向ける。
「……セイバー……」
「ご名答! 察しがいいのはいい事だけど、時にそれは身を滅ぼす」
「生憎、馬鹿に成り下がる気はないのでね」
彼は空いた片手に黒い短剣を構えると、そのまま腰を落として視界から消えた。
「アレは……」
「サーヴァントよ」
「サーヴァント……?」
「英霊の現し身。歴史に名を馳せた英雄よ」
「……彼も」
「ええ。これは、サーヴァントを武器に使う戦争なのよ」
「戦争……じゃあ、死ぬかもしれないってこと……⁉︎」
「当然よ。その覚悟をして、わたしはここに――」
「私は違う!」
彼女の言葉に叫び、私は遠坂さんにすがるように続けた。
「私は……死にたいなんて思ってない……お父さんとお母さんのぶんまで生きなきゃいけないの……だからっ!」
「運が良ければ生き残る。戦場なんてそんなものよ」
「それでも……私……は……」
崩れ落ちる。
まさかここで生きて、こんな事になるなんて思わなかったから。
私たちの近くに着地したアーチャーと呼ばれた彼は、激しく壊れた剣を捨てるとまた新たに剣を握る。
彼と戦っていたサーヴァントは高笑いと共に刀を肩に乗せた。
「アーチャーのくせに、なかなか良い剣捌きだし」
狐のような耳と、ミニスカートが目立つ和装。なんというか、ちぐはぐだ。
「軽口もいい加減に……っ」
斬りかかる彼女の剣を受け止めた彼は、そのまま横腹に蹴りを入れて引き剥がすと、剣を投げ矢をつがえる。
「――I am the bone my sword.」
吹き荒れる。
目を見開き手を離したその矢はまっすぐ進み、砕かれる。
「ご自慢の弓もその程度? なんかガッカリ」
「……ナメるな」
「ッ……!」
手に持った2本の剣を振ると同時に、投げた剣が彼女へと当たる。
吹き荒ぶ疾風は髪を揺らし……。
――白と黒の剣を、私の前に突き刺した。
「ガッカリ。この程度で、サーヴァントを名乗るなんて」
「くっ……」
……ダメだ。
このままじゃ、私も遠坂さんも死ぬ。
それは嫌だ。
嫌だ。私は生きなきゃいけないんだ。
だから、私は……!
「――汝の身は我がもとに。我が命運は汝の剣に」
「洲崎さん⁉︎」
お父さんからのおまじない。
本当に力が欲しいと思った時にだけ言っていい、おまじない。
「聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば答えよ」
「それは……」
徐々に模様が輝く。
「違いをここに。我は、常世全ての善を成す者。我は、常世全ての悪を敷く者」
輝きは強く、それは風を纏っていく。
「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来れ、天秤の守り手よ」
手のあざから光が噴き出し、私の視界は――。
光が止んだ頃、砂に描いた魔法陣の上には白いマントをなびかせた人影がいた。
「さて、ボクを呼んだのは……キミだね?」
辺りを見回し私を見るや否や、その顔を近づけてきた。
「そ、そう……だけど……?」
「ふんふん……うん、ボク好みだ」
「……は?」
「キミの生きたいって願いを聞き入れて、ボクはここに来た」
振り返った……彼女? は「おっと」と頭をかいて何かを考え出す。
「んー。早速で申し訳ないんだけど」
「うん?」
「よっと」
私を抱き抱え、笑顔を見せ、そして――。
「逃げよう!」
「えっ……あっちょ待っ……⁉︎」
私の静止など一切聞かず、彼女はフェンスを飛び越えたのであった。
……ちょっとは、私の言う事聞いて欲しいなぁ……。
――第1話 「開戦」――
ありがとうございました。
さて、洲崎さんの今後が危ぶまれますが……それは2話からのお楽しみ。
それではまた次回、お会いしましょう!
[出典]
遠坂凛/アーチャー...Fate/stay night
セイバー...Fate/Grand Order