よう実 Aクラス昇格RTA Dクラスルート   作:青虹

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3月に入って初めての投稿なので初投稿です。

1ヶ月半も待たせて本当にすいませんでした。モチベが上がらなかったりテストがあったりこのすばのゲームにハマったりしていたせいなので私は悪くないです(すっとぼけ)

それと、いつも誤字報告してくれる皆様、本当にありがとうございます。ちゃんと確認してるはずなんだけどなぁ......


7月 裏話 その2

 5日目早朝。突然の悲鳴に叩き起こされた。誰かと思えば軽井沢だった。そう言えば今朝だったかと愛は人ごとのように思案する。

 軽井沢の下着が盗難されるという事件。Cクラスの伊吹が起こした事件で、男女関係の崩壊と特別試験が大きく動き出すキーポイントとなる。

 既に軽井沢の友達が対応にあたっているが、溢れる涙は止まりそうにない。

 

 下着の盗難。そういう事をするのは、男子しかいないという結論に至るまでにそう時間はかからなかった。

 女子たちは平田に頼んで男子を起こさせると、男子たちを糾弾し始めた。4日目までの雰囲気は霧散し、重苦しい空気が立ち込めていた。

 

「下着泥棒が出たのね?」

「そうらしいよ」

 

 軽井沢曰く、朝起きたら無くなっていたという。それで真っ先に疑われたのが男子という事だ。確かに世間一般を見ても、下着泥棒の犯人が男であることが多い。

 しかし、世の中には様々な性癖をもった人がいる。

 ノーマルだけでなく、同性にしか愛情が湧かないという人だっている。もしかしたら、明かしていないというだけでそういう女子がクラス内にいるかも知れない。

 

「下らない事をするのね」

「せっかくうまく行ってたのに、それに水を差しちゃってるから余計にね……」

 

 当然、男子もその雰囲気を望んでいる。順調に進んでいるところを()()()()ためと考えれば辻褄が合うのだが、クラスメイトの下着を奪われたという恐怖や怒り、不信感を抱く女子と、突如濡れ衣を着せられた男子がその結果に至るのは厳しい。

 しかし、男子の中に犯人がいるという考えに至りやすいのもまた事実。そんな男子の近くにはいたくないという意見が多発し、途中堀北と軽井沢の口論もあったが互いのテントの距離感を空けるという事で決着がついた。

 そして今、綾小路と平田がその対応にあたっているところだ。

 愛は伊吹が綾小路の側を離れたタイミングで声をかける。

 

「お勤めご苦労さま」

「別に気にすることじゃない」

 

 綾小路は杭を打ちながら言う。

 

「まさかこんなことになるなんてね」

「だな。昨日までは上手くいっていたから、このまま終わってくれると思っていたんだが」

 

 伊吹を迎え入れた時点でそれは不可能だと愛は知っているし、綾小路も気づいていただろう。

 愛は離れたところで一人座る伊吹を見て、ため息を漏らした。

 

「やっぱり伊吹さんってスパイなんじゃない?」

「さあな。八遠の言う通りなのかもしれないし、本当にCクラスと喧嘩をしただけなのかもしれない」

「綾小路くんとしてはどっちだと思ってる?」

 

 綾小路の顔を覗き込む愛。綾小路は自らの力を隠すためか、答えをはぐらかすことがしばしばある。普通に聞くだけでは、綾小路の考えを聞き出すことはできないだろう。

 

「嘘はつかないでよ」

 

 しばしの沈黙。その後、綾小路は静かに口を開いた。

 

「伊吹が犯人だと思っている」

「何で?」

「順調に行っているDクラスを崩すためだろうな。現に男女間の溝はかなり深まっている」

 

 愛は頷く。元からスパイとして送り込まれてきたのだから、その考えは辻褄が合う。

 

「龍園が全員撤退させたってことは、リーダー当てでのポイントの獲得を狙ってるわけだよね。今回の事件がどう繋がるの?」

「さあな。もしかしたら、直接は関係無いかも知れない」

 

 順当に考えるなら、Dクラスの輪を崩すことが目的だと言える。しかし、誰が主導したのか、伊吹の独断なのか、真の目的は別にあるのか、どれ一つとして愛には見当もつかなかった。知っているのは、綾小路の暗躍によってDクラスを勝利に導いたという事実だけだからだ。

 

「私たちにできることはルールの穴を掻い潜ることだけだよね」

「ああ」

 

 今も木陰で腰を下ろす堀北に一瞬視線を送った。

 

 それからの探索も男女別になるなど、徹底的に区別がなされた。愛としてはあまり関わったことのない女子生徒と組む羽目になり、あまり気乗りはしなかった。

 

「最低だよね、男子」

「せっかくうまく行ってたのに」

 

 探索に行っても、聞こえて来る声は非難ばかりで、それに夢中になっていることもあって探索の進捗の遅さに拍車をかけていた。

 

「どうしよう、次私が狙われたら」

「無理無理無理! 想像もしたくない」

 

 雑談に耽る女子を余所に、愛は探索を続ける。確かに下着泥棒も耐え難い事件ではあるが、犯人が伊吹と分かっている上にこれは一度きりのもの。それ以上に目先のポイントが最優先事項だ。

 

「八遠さんこんな状況でよく探索できるよね」

「あんなことが起こったっていうのは許せないけど、だからって負けるのもやだし」

 

 しかし、女子たちは勝てっこないと首を横に振る。その表情は男子のせいだと言っているように感じた。

 

 その後も、女子たちの悪態を聞きながら探索は進んだ。道中で食料を集めながら進んだが、いつもよりも収穫量は少なかった。

 

 ほぼ一人で行ったも同然の探索の疲れを取ろうとテントに戻ったところで、愛は言葉を失った。

 

「……は? なにこれ」

「あー、これ? 暑いしやってられないってことで軽井沢さんたちが頼んでくれたんだよね。ほんとありがたいわ」

 

 同じテントで寝る、探索に行った女子とは別の生徒が言った。

 いつも寝泊りするテントの中には、扇風機や枕など今まではなかった小物が鎮座していた。

 

「これってもう一つのテントも?」

「そうだよ」

 

 つまりこれは余計な出費だったということだ。苦労して設置した袋のマットも替えられていたので、結局12ポイントの出費。

 

「なんでこんな無駄な買い物したのさ」

「それは軽井沢さんに直接聞いてよ。あそこのグループが勝手に決めた話だから」

「分かった。ありがと」

 

 テントから出て、愛は軽井沢を探す。しかしその姿は見当たらず、代わりに別の声が聞こえて来た。

 

「テントの中、見たのね」

「うん。堀北ちゃんは知ってたの?」

「中に入るまで気づかなかったわ。軽井沢さん達が勝手に頼んだようね」

 

 ポイントはクラス共有であるから、全体にその情報が行き渡らなければならないはずだ。探索に行った愛に知らされていないのはまだしも、ずっと拠点にいたはずの堀北すら知らないとは。

 

「誰かによって意図的にこのことが隠蔽されてるってこと?」

「そう考えるしかなさそうね」

 

 知識を探れば、軽井沢は平田にはこのことを報告しているらしい。だが、そこから先には発信されていない。

 

「……勝手に無駄遣いするなんてね。これくらい我慢できるでしょ」

「あり得ないわね」

 

 軽井沢に問い詰めたところで話にならないことが目に見えていた愛は、今も忙しそうに指示を出す平田の元へ向かった。

 

「ねえ平田くん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」

「うん、でももう少し待ってて」

「分かった。でも、早くしてよ。私待つのは好きじゃないから」

 

 平田の奥で顔を歪めて睨み付ける男子の姿があったが、愛にとってはただの流れ弾だった。愛は犯人を男子と決めつけたわけでもないし、恨んでいるわけでもない。むしろ、女子の方が信頼できないほどなのだから。

 

 堀北と共にしばらく川辺に座って涼んでいると、相変わらずの爽やか顔で平田は現れた。

 

「ごめんね、待たせちゃって。それで話って何かな?」

 

 平田が隣に腰を下ろすと、いつもより数段冷たい声音で最初に愛が話を切り出した。

 

「さっき帰ってきたら女子のテントの中の物が増えてたんだけど、どういうこと?」

「あれは軽井沢さんたちの要望だよ」

「夜が寝苦しいからって?」

「うん」

 

 やっぱりか、と愛はため息を溢す。女子たちの勝手さには呆れるばかりだ。

 

「平田くんは軽井沢さんたちに対して念押しするようなことは言ったの?」

「……言ってない」

 

 愛は驚きを隠せなかった。ルール上誰でも注文できるので、軽井沢が勝手に注文してしまったのだと考えることはできる。だが、その後何も注意しないのは大問題だ。ここで見逃すと今後ますます態度が大きくなることは目に見えているはずだ。

 

「何で言わなかったの?」

「その方が女子の雰囲気も悪くならないかなって……」

「そうだよね、平田くんなら絶対にそうするよね」

 

 平田は秩序を守りたがるタイプの人間だと愛は認識している。

 現状、軽井沢たちはこの試験に気乗りしていない。そこへ平田が何かを言えば、表向きは平田の彼女だと聞き入れるかも知れないが、すぐにやる気を失くしてしまうとも考えられる。

 

「まあ私もそれは否定しないけどさ……」

「けれど、ポイントの使用は共有されるべき情報よ」

 

 堀北は愛が平田の肩を持ったことが意外だったらしく、愛の言葉に食いついた。

 

「もちろんそう。だけど、今この情報が広まれば混乱は更に深まる。それに、今朝ああいう事件が起きたばかりだから、この情報を公開するのは良くないって私は思うけど」

「それは……」

「だけど、このことが見逃されていいわけでもない」

「それは、そうだね」

 

 誰かが輪を乱すような行為をすれば教師や親が怒るように、平田もこの件に対して厳しい対応を取らなければならない。

 

「せめてマニュアルはちゃんと管理しておかないと。軽井沢さんって身勝手なところがあるから想定は出来たんじゃないかな」

「そうだね。彼氏の僕ならそれくらいのことはすぐに分かるはずだよね……」

 

 彼氏であるはずの平田がそこまでの考えに至らなかったのは、軽井沢を信用しすぎたからか。

 愛に代わって、堀北が口を開いた。

 

「Dクラスは女子の態度が横暴な傾向にある」

 

 池や山内、須藤と言った3バカも自分勝手と言えるが、池は今回の試験に前向きに取り組んでいるし、須藤も暴力事件で少しは反省したことだろう。

 山内に関しては空気が読めないことがあり、その上平気で嘘をつくため要注意であることには変わりはないが。

 

「確かに、クラスの崩壊を防ぐには大切だけど、それは目先だけを考えてのこと」

「……うん」

「将来的なことを考えると、ここで女子の身勝手な行為を放置しておけばエスカレートする可能性があるわ」

「じゃあ、みんなの前でこの事実を言えっていうこと?」

 

 それは違うよ、と平田の言葉を否定したのは愛。

 必要なのは、晒し上げることではない。再発防止をすることだ。

 

「軽井沢さんたちに、今後は身勝手なことをしてクラスの迷惑にならないようにと念押しして欲しいんだ。そして、次クラスに不利益になるようなことがあればすぐにクラス全体で共有する、ってね」

「つまり、軽井沢さんたちに圧力をかけるってこと?」

「まあ、ストレートに言うとそう言うことだね。平田くんの気持ちも分からないことはないけど、悪には毅然とした態度で立ち向かうこともリーダーには求められると思うよ」

 

 平田は誰にでも優しい。公平性という意味ではリーダーに適しているが、優しさが裏目に出ることもしばしばある。それが今回の一件に繋がってしまったのだろう。

 1年生も終わりに近づけば、堀北がリーダーの一角を担うことになる。堀北の性格は平田の弱点を補うには丁度良い人材だ。綾小路が目を付けたのは、隠蓑にすることや元来のリーダー気質もあるだろうが、こういう理由も少なからずあるのではないだろうか。

 

「ま、リーダーでもなんでもない私が言える話じゃないけどね」

「……ありがとう。女子たちに話してみる。これもクラスが前に進むために必要なことだもんね」

「心を鬼にして頑張って」

 

 これで女子が協力的になってくれれば良いのだが。

 愛は雲ひとつない空を見上げた。

 

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 6日目の探索。愛は綾小路たちと共に探索に向かっていた。

 綾小路が原作通りの攻略をするなら、愛の同行は必要不可欠だ。理由は単純、綾小路が佐倉の連絡先を持っていないからだ。

 一方、愛は4月からコミュニケーションを取っていて、連絡先も交換済みである。結局佐倉の連絡先を渡すことのなかった綾小路だが、今同じ話を持ちかけたところで、流石の山内もその事実に辿り着くだろう。

 ならば、同じ誘いを愛がすれば良い話だ。そして堀北を水場に移動させ、水浴びをさせれば伊吹がキーカードを盗んでくれる。

 

「ねえ山内くん、お願いがあるんだけど」

「な、何だよ」

 

 普段話したことがない愛から声をかけられ、山内は僅かに警戒する。

 だが、山内のような男は誘惑に弱い。とても弱い。佐倉の連絡先をちらつかせば、堀北に泥を被せてくれることになった。こうして尊い犠牲が生まれる運びとなったのだ。

 佐倉ホイホイに完全に乗せられた山内は、愛も引く量の泥を堀北に被せ、綺麗に背負い投げされた。頭を強打してとんでもないことになるのではないかと一瞬思ったのはここだけの話だ。

 

「佐倉の連絡先、くれるんだよな……!」

「もちろん」

 

 そうは言ったが、実際のところ渡す気にはならない。佐倉と山内が二人きりになると、強姦されるのではないかと思っている。愛が本気で恨むほどスタイルの良い佐倉は、ネット上でアイドルとして活動していた。

 この学校に進学してからは、校則を守って活動は休止しているようだが。しかし、例の事件が全く解決していないので、佐倉の内面は全く成長していない。

 今の佐倉では山内の誘いなど断れるはずもない。

 しかし、ポイントのためならば愛は平気で嘘をつく。そういう意味では山内と変わらない。クラスにとって利益か不利益か、意外とそれくらいの違いしかないのかも知れない。かと言って山内がクラスに貢献するようになったからと言って愛と同列になるかと言われればそういうわけでもないのだろう。

 

「八遠」

 

 堀北のキーカードを見送った後、マニュアルを燃やした綾小路に呼ばれた。

 ……なるほど、そっちの顔か。

 

「どうしたの?」

 

 愛はいつも通りの口調で答えた。

 綾小路がついて来いとジェスチャーをしたため、愛は従う。雨が降り始め、徐々に雨脚が強まっていく。

 森の中へ入り、人気のないことを確認すると、綾小路は切り出した。

 

「お前はオレの作戦をどこまで見破っていた?」

「どういうこと?」

「この試験が始まってから、オレはお前に誘導されている」

「気のせいじゃない? たまたま攻略方法が同じだっただけってことだよ」

 

 ホワイトルームでは敵なしと言われた綾小路。ホワイトルームで頂点ということは、並ぶ人間はいないということ。そんな綾小路の作戦が八遠に筒抜けだったことは、綾小路にしてみれば由々しき問題だった。

 

「例えば下着事件。お前は軽井沢と同じ部屋だったはずだが、終始落ち着いていた」

「それは綾小路くんもでしょ」

「さっきもそうだ。山内に泥を被せさせたのは、堀北を一人にするため。水場へ誘導したのも堀北の体調を悪化させるためだ」

 

 相変わらず底の見えない瞳を愛に向けながら、淡々と続ける。

 

「まるで未来が見えているようだな」

「あはっ、それ茶柱先生にも言われたなぁ。まさか綾小路くんもそんな下らないSFを信じてるなんてね」

「まさか。オレが信じるわけがないだろ。オレは自分しか信じない。堀北も、平田も誰も信用しちゃいない」

 

 それが堀北に仲間が云々言う人の台詞かと思うと皮肉なものだ。

 

「過程は違えどお前がやったことはオレがやろうとしていたことと全く同じだ」

「なら私と綾小路くんは同じような思考回路の人間ってことだ。目的のためなら他人を捨てることを厭わない、そういう人間たちなんだよ、私たちは」

「そうか? オレにはそうは見えないが」

 

 その言葉に愛は首を傾げる。

 綾小路は自身が勝っていれば良いと考える人間。愛も自分がAクラスで卒業出来れば良い人間。どちらも最後に自分が頂点にいられれば良いと考えている。

 

「お前は心の底では誰かを信じたいと思っているだろ」

「何それ。私は誰も信じない。これは過去の教訓だから、絶対に揺るがないよ」

 

 過去を振り返れば下らないことづくしだったが、お陰で今がある。

 

「綾小路くん、これ以上の追求はしないほうがいいよ。私のことなんて誰も分からない。何を聞いたって答えは一向に出ないんだから。綾小路くんだって詮索して欲しくないでしょ? それと同じってことだよ」

「……そうだな」

 

 気がつけば、かなり時間が経過している。そろそろ戻らなければ怪しまれるだろう。

 

「最後に一つだけ。私を隠れ簑にしないでね。堀北ちゃんがいるんだから。もしそうしたら邪魔したって扱いにするから」

「分かった。肝に銘じておく」

 

 愛が綾小路に背を向けて歩き出すと、綾小路は横に並ぶわけでもなく後ろをついて来る。

 

 足元に注意を払いながら戻ると、堀北が申し訳なさそうな顔をして歩いてきた。

 

「どうしたの、堀北ちゃん」

「ごめんなさい、キーカードを盗まれてしまったわ……。あの時手元に置いておかなかった私の不注意よ……」

 

 このままだと、CクラスとAクラスにリーダーが知られてしまい、ポイントを落とすことになる。試験終了時には100ポイントも残っていないだろう。

 

「これは私の問題よ。だから一人で取り返しに行く。Aクラスも私の力で上がってみせる……。だから……私に手を貸すことはもうしなくていいわ」

 

 堀北はそう言い残すと、一人で伊吹を追いかけて森へ入っていった。

 

「後で様子は見に行ったほうが良さそうだよね」

「ああ。あいつはずっと風邪を我慢しているから、間違いなく倒れる」

 

 伊吹だって簡単には返してくれない。記憶通り戦いが始まるだろう。そして、コンディションが最悪の堀北は間違いなく負ける。そしてそのまま意識を失ってしまう。

 

「そしてリタイアさせてリーダー変更、か」

「ああ」

 

 これで伊吹の行動は徒労となる。リーダーを外し、龍園の潜伏も水の泡と化すだろう。

 

「じゃあ、行くか」

「下克上の始まりだね」

 

 放火事件で混乱に包まれるDクラスを他所に、愛と綾小路は堀北の後を追う。

 雨でぬかるんだ地面は滑りやすく、かなり危険だ。

 

「隠れたほうがいいな」

 

 前方に明かりが映り、急いで木に隠れる。恐らくキーカードの確認だろう。綾小路がカメラを壊したせいで龍園と葛城が足を運ぶことになったのだ。

 しばらくして、その光も遠くへ去っていった。

 近くで堀北が倒れているのを確認し、近寄ると愛は堀北の頭を膝に乗せた。

 

「これ、結構な熱だよ」

「だろうな。1週間の我慢に加えてこの雨だ。重症化してもおかしくない」

 

 しばらくそうしていると、堀北が目を覚ました。

 

「八遠……さん?」

「綾小路くんもいるよ」

「ごめんなさい……キーカードは取り返せなかったわ……」

「一人で行っちゃうんだもん。せめて私でも頼ればよかったのに」

「だけど、もうあなた達に迷惑をかけるわけにはいかないもの……」

 

 力なく言葉を溢す堀北に、愛は馬鹿だなぁと呟かずにはいられなかった。

 

「私たちは友達でしょ? 迷惑だなんて気にしなくていいからさ。頼りたくなったら頼ればいいんだよ。私は堀北ちゃんを助けてあげるから」

 

 綾小路が愛に鋭い視線を送っているが、気づかないフリをする。

 

「堀北ちゃん、もう試験を続けるのは無理だよ」

「いいえ……少し休んだら戻るわ……。だから二人は先に戻ってて……。後少しだもの、リタイアするわけにはいかないわ……」

「堀北、無理はするな」

「無理なんてしてな……い……」

 

 再び意識を失った堀北。堀北は大丈夫だと言っているが、誰がどう見ても試験続行不可能だ。このまま強制的にリタイアしてもらわなければならない。

 

「無理してないだなんて、説得力ないなぁ……」

「八遠、お前もだぞ」

「ん? 何のこと?」

「分かってるだろ」

「まあね」

 

 綾小路は堀北を軽々と抱き抱えた。力仕事は綾小路に任せたほうがいい。点呼の時間も迫っているので、愛は拠点に戻ることを決めた。

 

「勝ったね」

「勝ったな」

 

 雨に濡れて、ジャージも泥まみれで気持ち悪い。体を冷やしたまま寝ると愛まで風邪を引く羽目になってしまうだろう。

 

「帰ったらシャワー浴びるか」

 

 勝ちを確信した愛は、元来た道を引き返していった。

 

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 7日目昼。前日の雨が嘘のような快晴で、夏特有の蒸し暑さが襲いかかってきた。

 ようやく試験が終わり、最初の集合場所である浜辺に集った一年生たち。

 長く辛い試験が終わったこと、これから結果が発表されることもあり、些か落ち着かない様子だ。

 リーダーは全クラス分記入し、他クラスからの攻撃は回避した。最早負ける要素は残されていない。

 

「諸君、初めての特別試験ご苦労だった。結果発表にもう少し時間がかかるため、楽にしてもらって構わない」

 

 愛の一番の話し相手は今頃船で安静にしていることだろう。それが原因で一人になってしまった愛は、他クラスの様子を観察することにした。

 

 Aクラスは戸塚が自慢げに葛城と会話している。中身はきっと『ざまあみろ坂柳』程度のことだろう。これからざまあされるのは戸塚なのだが。

 

 Bクラスは、試験を無事に乗り越えられてほっとしていると言った印象か。誰にも不満の色がないことから、最終的な結果を度外視すれば最も上手く乗り切っただろう。

 

 そしてCクラスは……。

 

「クククッ……」

「龍園!?」

 

 遅れての登場だった。『ヒーローは〜』と言う言葉があるが、いつからいい身分になったのやらと愛は一人呆れた。

 1週間も大変だったなと言っているが、その本人が0ポイントで数日を過ごしたと考えると可笑しな話だ。現に、龍園のジャージは至る所に汚れが付着していて、過酷さが窺えるものとなっていた。

 龍園は完璧な作戦とやらを熱弁していたが、看破されている作戦に耳を傾けることはしなかった。

 

「では、これから結果を発表する。4位はCクラスの0ポイント」

 

 龍園のあり得ないという表情。池や須藤の煽りもあって、滑稽さを増していた。

 

「3位はBクラスの90ポイント。2位はAクラスの120ポイント」

 

 Bクラスは確かに悔しげな声は聞こえたものの、後ろ向きな声音はない。90ポイント貰えたからオッケーだと言う様子だ。

 対するAクラスは、1位を狙っていたのだろう。葛城の困惑と坂柳派の野次、戸塚の喚きが聞こえた。

 この時点で1位が確定したDクラスからは驚きと喜びの声、どれだけのポイントなのか期待する声が上がる。

 

「1位はDクラス……305ポイント」

 

 男女問わず、大きな歓声が上がる。1位になっただけでなく、最初のポイントを上回ったのだから。

 特に何もしてないだろと言いたい気分になった愛だが、試験中の仲違いが解消されるならそれでいいかと思った。

 

 船に戻ると、堀北がデッキに来ていた。結果を知らされ、慌てて出てきたのだろう。

 

「ちょっと綾小路くん、八遠さんこれどういう……」

「流石堀北さん!」

「えっ?」

 

 堀北は愛と綾小路に聞きたそうにしていたが、クラスメイトに取り囲まれて遮られてしまう。

 暗躍を全て堀北の発案にしてくれと平田に頼んだのだ。

 

「いやー、良かったね。無事1位で終わって」

「そうだな」

 

 しばらく堀北たちの微笑ましい様子を見守っていようと愛は決めた。

 今回は嘘まみれであの輪が生まれたが、将来的には真実を以てああならなければならない。

 

 しばらくして、ようやく解放された堀北が疲れの色を見せながら歩いてきた。

 とりあえず座ろうかという愛の言葉で、近くのベンチに腰掛けた。

 

「堀北ちゃん、体調はどう?」

「大分良くなったわ。迷惑をかけて悪かったわ」

「ううん、迷惑だなんて思ってないよ!」

 

 堀北が風邪を引いていなければ、リタイアの口実を考えることが困難だっただろうから、と愛は心の中で付け加えた。

 

「それで、この結果はどういうこと?」

「見たままだろ」

「見たままだね」

「私が言いたいのはそういうことではないの」

 

 そう言いながら愛たちを睨む堀北。愛は笑ってそれを受け流す。

 

「綾小路くん」

「これのことか」

「それは……!?」

「そういうこと。リーダーは変わりました」

「でもリーダーは変えられないはずじゃ……」

「いや、違うぞ堀北」

 

 確かに簡単にリーダーは変えられない。しかし、マニュアルにはこう書いてあったのだ。『()()()()()()()リーダーを変更することはできない』と。つまり、正当な理由さえあればいつでもリーダーは変えられるのだ。

 

「なるほど、私の体調不良は正当な理由だと」

「そういうことだ」

 

 今回の試験の全体を把握した堀北は、深々とため息を吐いた。

 

「あなたたちはいつからこのことを考えていたのかしら?」

「伊吹さんを見つけた時くらいからかな」

「同じくらいからだ」

「ちなみにリーダー当ては説明があった瞬間かな。無理に我慢するよりもそこを狙ったほうが効率いいしね」

 

 今度はこめかみに手を当てた堀北。

 

「あなたたちを見誤っていたわ……。特に綾小路くんは」

「確かにね。今までパッとしなかったし」

 

 暴力事件が無くなったので、綾小路が実力を発揮したのはここが初めて。堀北が驚きを隠せないのは仕方ないことだろう。

 

「ねえ堀北ちゃん」

「何かしら」

「折角だし、美味しいもの食べにいかない?」

「まだ体調が万全ではないのだけれど」

「大丈夫だって! 綾小路くんも行こっ」

「お、おう」

 

 無人島試験が終わったが、すぐに船上試験が始まる。だが、始まるまでは浮かれてもいいだろう。

 船上試験のことは始まってから考えればいい。あのカラクリは把握しているので、後はどうすれば愛にとって一番利益がある結果になるか考えればいいだけ。試験はこれも1週間。時間は十分にある。

 ならば、試験の合間の数日間は何も考えず楽しめばいい。

 

「だからって私の布団に潜り込まないでくれるかしら……!」




私は思いました。無断で失踪するのは良くないなと。なので大変僭越ながらこの場を借りて申し上げさせていただきます。











失踪しますね......(失踪するとはとは言ってない)

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