よう実 Aクラス昇格RTA Dクラスルート   作:青虹

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今年初めての投稿なので初投稿です。

最後にアンケもあるのでよかったら答えてクレメンス!(過剰な催促)
あ、あとお気に入り3000件、総合評価7000pt突破ありがとうございます。
あと、ここすきもいっぱい使ってもろて......


9月 裏話 その1

 夏休み明けの行事といえばと聞かれて、真っ先に思いつくものの一つは体育祭だろう。最近では熱中症対策の為に時期をずらす地域もあるが、文化祭と並んで学校における9月や10月の代名詞と言えることは確かだ。

 他の学校に比べて特殊な高度育成高等学校も例に漏れず、激動の夏休みが終わると体育祭開催の知らせが飛び込んで来た。

 

 体育祭でもプライベートポイントやこの後行われるテストの点数を獲得できる。須藤などの運動能力の高い生徒はモチベーションが上がっていたが、逆に苦手な生徒は落ち込んでいた。

 

 説明が終わってもまだ時間が余っていた。茶柱から自由に話し合う許可が降り、教室は喧騒に包まれた。

 

 しかし愛は眠り続けていた。監視カメラの存在を知りながら。

 茶柱は説明している時から気付いていたが、指摘することはなかった。他の生徒は話し合いに気を取られて気付かない。説明を受ける時に気づいていた生徒も、見て見ぬ振りをした。堀北も須藤や池達に囲まれたせいでそれどころではなかった。

 故に愛は起きることが無かった。

 

 教室には夏でも快適に過ごせるように冷房が設置されている。おかげで蒸し暑さに苦しむこともないし、汗をかいて鬱陶しいと思うこともない。

 しかし愛は大量の汗をかいていた。それなのに表情は至って正常。

 そのせいで誰も気づくことはない。

 

「……なお──」

 

 今見ている夢が悪夢ではないだけなのか、それ以外なのか。

 喧騒に掻き消されたため愛の声を聞く人はおらず、真相を探ることは出来なかった。

 

 そんな愛も授業後には目を覚まし、堀北と共にこの後行われる集会のために体育館へ移動していた。

 

「八遠さん、途中で寝ていたけれど体育祭の内容は分かっているのよね?」

「もちろん、最初は起きてたからね」

「あなたが授業中に居眠りなんて珍しいことがあるのね」

「あはは、最近夜寝付けないんだよね」

 

 目の下にクマがあり、その言葉に嘘偽りはないと言うことが分かる。

 そんな愛に、僅かに怒りを露わにしながら堀北は話を続ける。

 

「早く寝ろと言ったのは貴方よ。……その、悩み事があるのなら相談に乗るわ」

「うん、ありがと」

 

 しかし、すぐに目を背けてしまった。不慣れさからくる恥ずかしさなのだろう。

 堀北が少しずつ変わり始めていることに、愛は悪い気はしない。今まで孤独だった堀北に、心を許せる相手が出来るのはとてもいいことだ。

 

 体育館に到着すると、藤巻という男子生徒の話の後学年別で話し合いをすることとなった。今回共に戦うのはAクラス。坂柳が所属するクラスだ。

 

「あっ、有栖ちゃん!」

 

 見つけるなり手を振って駆けてくる愛を見ながら、坂柳は笑みを溢す。友人に会えたからか、力を認めた人に会えたからか、はたまた背後の堀北の驚きの表情に愉悦を覚えたからか。

 

「こんにちは、愛さん」

 

 Aクラスのリーダーである坂柳と、Dクラスのカースト下位の愛。接点がなさそうな二人が仲良く会話している光景に、事情を知らない葛城派とDクラスは呆気に取られていた。

 

「有栖ちゃん、お願いがあるんだけど」

「何ですか? 愛さんの頼みなら何でも聞きますよ?」

「最近、また溜まってきちゃって……」

「ふふっ、そうですか。では放課後私の部屋に来て下さい」

「ありがと。優しくしてね?」

「どうしましょうか」

 

 そう言って、悪戯な笑みを浮かべた坂柳。

 後ろで二人の話を聞いていた堀北は睨みつける。もっとも、愛の意図的な言葉選びにより耳が赤くなっていたのでただでさえ薄い効果は無くなっていた。むしろ坂柳の心を躍らせ、逆効果だった。

 

「皆さんがこちらを見ていますし、今はここまでにしておきましょうか」

「うわぁ、私目立たない人なのにめっちゃ注目集めてる……」

 

 わざとらしく、そう呟いた愛。

 元から一定の関係があったAクラスの生徒からは驚きはなかった。それよりも、この奇怪な光景に強く疑問を抱いたのはDクラスだ。

 坂柳とは初対面だが、Aクラスのリーダーの一角であることは風の噂からもたらされていた。そんな生徒と愛が、仲睦まじく談笑している。

 そこから導き出される結論は一つ。

 

「八遠さん、Aクラスと繋がっていたの?」

「いやいや、そんなわけないじゃん。もしそうだったら無人島試験でAクラスのリーダーの名前を書いてないし、船上試験であんなことしてないし」

 

 私の活躍がなければAクラスはもっとポイントを稼いでいた──背伸びをして、堀北の耳元でそう囁いた。

 

「それとも私を信用できないの?」

「いえ……そういうわけじゃ」

「そうだよねっ」

 

 そう言うと、堀北の目の前で笑顔を見せる。一瞬だけ顔を覗かせた悪寒の元凶の姿はどこにもなかった。

 

 その後は平田の尽力で平静を取り戻し、BクラスとCクラスの分裂とは対照的に円滑に進んだ。

 

 その間愛が口を開くことは一度もなかった。

 

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 誰にでも秘匿したい事はある。それは綾小路にも、堀北にも、櫛田にも、愛にも当てはまる。

 人は皆、そうやって関係を維持している。逆に言えば、秘密を知る事で関係性は大きく変化していく。

 

 ──良い方にも、悪い方にも。

 

 4人でサッカー部の偵察に訪れた愛の本当の目的はそこにあった。

 中学生時代の大きな闇が櫛田にはある。それを知るのは堀北と綾小路だけ。仮面を被り続けるためには二人は邪魔でしかないので、どうにかして退学させたいと考えている状況だ。

 この後、堀北が船上試験での謎を櫛田に問い詰め、対立が深まる。堀北と綾小路を退学させようと動き始めるのも丁度この頃からだ。

 更に、()()()()にも踏み込むことによって、対立が如実になっていく。

 愛はそれをも利用しようと画策していた。より多くのポイントをできるだけ早く得るため。そして未来の出来事を知っているというアドバンテージを活かすためにも。

 

 いずれは櫛田の仮面を剥がすことになる。しかし、まだ早いのだ。

 半年後。愛は誰よりも先を見据えていた。

 

 偵察に来て暫く、一人の男子生徒が姿を現した。南雲雅、次期生徒会長だ。

 平田達よりも能力が抜きん出ているらしいが、どれほどだろうか。今後の指標の一つにもなると思い、プレーを見つめる。

 

 トラップでディフェンスを置き去りにし、ボディフェイントでタイミングをずらす。両足共にかなりのレベルだ。シュートの威力もコースも申し分ない。

 

 ……確かに、運動能力は高い。個人の技術で見れば、全国レベルはありそうだ。

 

 一年生で見れば、櫛田が注意人物だと言っていたBクラス所属の柴田。裏に大きく蹴り出されたボールを何度も追いかけていたために、その俊足はよく目に焼き付いた。

 かなりの本数をこなしているため、体力もそれなりにあるだろうと柴田を評価する。

 須藤と比べると──接戦だろうか、組み合わせ次第でどちらに転んでもおかしくない。

 

 暫くして、十分な偵察ができたと判断した堀北が、撤収を提案した。

 これ以上はただの観戦になってしまいそうだと思い始めていた愛にとっても丁度いいタイミングだった。

 

「ごめん、用事があるから先に帰るね」

「ええ」

 

 一言、断りを入れてから3人の前から立ち去る。

 しばらく進み、後ろを振り返る。姿は見えないが、おそらく堀北が櫛田に問い詰めている頃だろう。

 

 この日のやるべきことを終えて脱力すると、途端に残暑が愛に襲いかかってくる。

 

「暑すぎ……アイスが恋しい……」

 

 服は家から持ち込むことが許されているものの、アイスの持ち込みは流石に許されなかった。というかそんな想定は誰もしない。

 

 自室に恋焦がれながら、ゾンビのようなフラフラとした足取りで()を目指す。途中でコンビニが見えた時は立ち寄ってしまおうかと思ったが、頭を振って自制した。

 

 そうして暫く進んでいくと、目の前から見知った人物が歩いてくるのが目に入った。

 銀髪の天才少女、愛の唯一の友人である坂柳有栖だった。

 

「有栖ちゃーん!」

 

 先ほどまでの死人のような足取りは何処へやら、途端に活力を取り戻し、坂柳の元へ駆けていく。

 そんな愛の姿に、坂柳はふっと笑う。橋下や神室はいない。完全にプライベートモードなのだろう。今回も試験に参加できないために、簡単に指示だけ出して話し合いには不参加なのだと考えれば納得がいく。

 

「随分と汗だくじゃないですか」

「だって、暑いし……」

 

 少しだけではあるが走ったのも理由の一つかも知れない。

 

「折角ですし、何処かに入りませんか?」

「えっでも──」

「私の奢りです。その代わり、貸し一つですよ?」

「ありがと、死にそうだったから助かるよ」

 

 坂柳はサディストな人間なので、貸しが少し怖いが──貴重な甘味を味わうチャンスを見逃すわけにはいかない。

 友達だから大丈夫だろうと思いつつも、本当に貸しを作ってよかったのかと、内心冷や冷やしながら近くの喫茶店へ向かう。

 

 立ち寄ったのは、近くの喫茶店。エアコンの効いた涼しい空間は、熱波に晒され続けた愛にとってオアシスそのものだった。

 案内された席に向かい合って座り、愛は汗を拭う。やってきた店員にアイスコーヒーを注文する。

 

「愛さん、Dクラスは順調ですか?」

「うん、順番決めが終わったところだよ。私、全競技に出るからちゃんと見ててね! 最優秀賞狙ってるから、絶対見てね!」

「ふふっ、そんなに捲し立てなくてもちゃんと見ますよ」

 

 目を輝かせる愛を落ち着かせるように、坂柳は微笑みながら言った。

 

「あと堀北ちゃんのも見てあげてほしいな」

「堀北……ああ、体育館でチラチラ見てきていた」

「そう、あの子。私のお気に入りだから」

「愛さんが言うのであれば、少しは見ておきましょうか」

「できれば動画に収めてくれると助かるんだけど」

「……分かりました。端末でもいいならば撮りますよ。することもないですし」

 

 何故そこまで要求するのだろうかと思い巡らせて──なるほどそういうことか、と一つの結論に至って坂柳は頷いた。それに愛も頷き返し、真意を確認し合う。

 

 敢えて事前に防ぐことはしない。そこに綾小路の狙いがあるし、何より出来るだけ愛の知る展開の範疇で進めたい。この後何が起こるのか、という予測は簡単ではあるが、既知と仮定には雲泥の差がある。

 もちろん、想定外への対策も万全にする必要があるのも承知ではあるが。

 

「愛さん、顔が固いですよ」

 

 言われて気付く。今日の愛の役目は終わったのだから、少しくらい羽目を外しても構わないだろう。

 あの坂柳でさえ休息を楽しんでいるというのだから。

 

「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに」

「いいんですよ、愛さんには笑顔が一番お似合いですから」

「いふぁいいふぁい」

 

 坂柳に頬を引っ張られながら思う。入学してから今まで、2000万ポイントという目標だけを考えて思考を張り巡らせてきた。

 けれど。今くらいは、等身大の八遠愛でいてもいいのだろう。一切の煩悩を捨て去って、目の前の娯楽に浸ろう。これからのことは未来の自分に任せよう。

 

 運ばれてきたブラックのアイスコーヒーに大量の角砂糖とシロップを加え、愛は笑顔を作り直した。

 

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

 体育祭が行われるのは9月下旬。残暑も幾分か和らぎ始める時分だと認識していたが、今年に限ってはここまで魔の手が伸びていた。

 競技待ちの列に並ぶ愛は、まだ走ってすらいないにも拘わらず額に汗を滲ませていた。

 ふと部活をやっていない自分を頭に浮かべたが、暑さにやられて無様に保健室へ連れて行かれるところまでは安易に想像できた。更に、既に保健室へと行ってしまった高円寺と1日の大半を過ごす羽目になると考えると、思わず身が震えた。真っ直ぐに坂柳のところに逃げ込むだろう。

 

 既に他学年の競技が始まっているが、保護者がいないにも拘わらずそれに匹敵するほどの熱気を帯びていた。

 一般的な体育祭と比べて、現金同様の価値を持つポイントという、学生にとって喉から手が出るほど欲しい報酬が得られるからなのだろうか。茶柱や上級生は試験ではないと話していたが、利用価値の高い報酬が獲得できるチャンスだと考えるとそうは言っていられないのかもしれない。

 事実、愛も密かに熱を燃やしていた。

 

 一つ前の競技が終わり、一年生最初の種目である100m走の時間を迎える。

 移動を終え、Cクラスの生徒の方を見た。事前に誰が陸上部か調べておいたから分かったことだが、やはり陸上部の女子生徒が相手だった。

 堀北と同様に愛もリタイアさせたいのだろう。

 確かにあまり速そうには見えないかも知れないが──それでも舐められているようにしか思えなかった。

 

 順番は堀北の方が前。Cクラスの伊吹と同順だ。本人による希望なのは間違いないだろう。無人島で出し抜かれたことを根に持っているのかも知れないが、堀北はただ自滅しただけ。たまたま風邪を引いた堀北を綾小路がうまく利用しただけというのが一連の出来事の全容で、事情を知る愛からすれば、完全に騙されている伊吹の姿を見ると思わず笑いが込み上げてくる。

 

 その2人の順番が回ってきたようで、既にスタートを待つだけの状態だった。

 ピストルが鳴り、2人がほぼ同時に飛び出す。コンディションの差もあり、一方的と言っても良い結果だった無人島の時とは打って変わって2人は互角の戦いを見せていた。

 一年生競技の中では今までで1番の盛り上がりを見せている。

 愛の位置から見ると、堀北と伊吹はほぼ同時にゴールラインに達したように見えた。しかし、僅かに堀北の方が速かったらしい。

 堀北の方が一部分前に──やめよう、この話は余計なところにまで被害が及ぶ。

 

 競技は進み、いよいよ出番が回ってきた。CクラスとAクラスは男子。最優秀賞を取るにはここは落とせないので、相手が男子だろうが負けは許されない。

 

 乾いた音とほぼ同時に足に力を込める。スタートで僅かにリードを得た。そこから加速して、少しづつ引き離して、後半もあまり減速することなくゴール。

 タイムは出ないが、後続とは5m程の差があったので悪くない走りだったのではないか。

 

 全員が走り終えたが、Dクラスとしての成績は芳しくない。自分の成績にしか興味がない愛は全く気にしていないが、テントでの士気は少しだけ下がっている。

 更にはサボった高円寺と須藤との間でいざこざが起こるなど、崩壊の兆しは顔を出し始めていた。

 

 しかし、その全てを愛は無視した。愛の目標には、須藤も高円寺も障害でしかないのだから。

 

「八遠さん、お願いがあるんだけど……」

 

 次は何時からだろうかと確認しようとしたところへ、平田が歩いてきた。

 言いたいことは予想がついたが、一応彼の話を聞こうと無言で続きを促した。

 

「高円寺くん、体調が悪いとかって言ってた?」

「ううん、知らない。けど私が見た限りではいつも通りだったよ」

「そっか……」

「もし仮病だとしても本人が体調不良を訴えてるなら、私たちにできることは何もないからね」

 

 今頃須藤が高円寺がいる保健室にいるだろうが、それも徒労に終わることは間違いない。

 人間の体調は刻一刻と変化しているのだから、他人が体調を断定することはできない。医者を連れてきて、診断してもらうほかない。

 

「須藤くんには悪いけど、高円寺くんのことは諦めてもらうしかなさそうだね」

 

 平田は無言で頷いた。その顔には悔しさが滲み出ていた。

 

「この後に影響が出ないと良いけど……。ごめんね八遠さん」

「こちらこそ、力になれなくてごめんね」

 

 気にしないでと言い残して、他の女子に呼ばれた平田は去っていった。

 

 龍園の思い通りにさせるのは好きではないが、体育祭に限っては()()()()()なので、反撃したい気持ちを堪え、次回以降に取っておかなければならない。

 

 奇しくも、龍園と愛は同じ時刻に同じ笑みを浮かべていた。本番はこれからだ。

 




次回は明日の同じ時間に投稿するので、それまで失踪します。


アンケを取ろうと思ったのは、私自身が5000〜8000字程度が1番読みやすいと思ったからです。
10000字もあると疲れる方もいるのではないかと思います。今回、試験的に分割してみたので、どちらの方が読みやすいか答えていただけると幸いです。
明日の話を読んでから投票してくださっても構いません。
参考程度にですが、8月の裏話が13500文字程度、今回が6300文字程度、次回は7800文字程度です。


最後に、私の個人的な事情により長い間更新できなかったことを謝らせてください。更新速度が亀になったり飛行機になったり不安定ですが、完走だけはします。これからも応援していただけると嬉しいです。
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