よう実 Aクラス昇格RTA Dクラスルート   作:青虹

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久々の投稿なのにみんなちゃんと読んでくれてて泣きそうなので初投稿です。


9月 裏話 その2

 続くハードル走、綱引きは1位。順調に勝ち星を重ねていく中、問題の障害物走が立ちはだかる。

 堀北が狙われる競技こそがこの障害物走であり、標的にされている可能性の高い愛も警戒しておく必要がある。

 

 今回も先に堀北が出走する。やはり隣には木下の姿があった。スタートしてすぐは木下の方が前に出ていたが、障害は堀北の方に軍配が上がる。学の真似事の成果が少なからず発揮されている、ということだろうか。

 一瞬、学のいる3年生のテントの方へ目をやった。その表情は真顔そのものであったが、間違いなくその視線は妹に向けられていた。

 一見関係性はあまり良くないように見える。しかし、もっと高い志を持って欲しいという兄の妹に対する本音。憧れの人に追いつきたいという妹の兄に対する羨望。本質はそこにあって、互いの不器用さのせいで関係が拗れてしまっているだけ。ちょっとのきっかけで仲のいい兄妹に戻ることができる。

 原作では学がここを後にする数分前だったが。もっと早く気づけよと思う一方、あのタイミングだからこその良さもあるような気がした。

 

 思考が横道に逸れたが、レースは堀北が最後から一つ手前の障害物を越えたところだ。

 その数m後ろに木下が控えており、他2人は置いていかれる展開。

 一度。堀北が後ろを振り返った。僅かに減速し、1m程度差が詰まったように見える。

 

 本当に木下という生徒に名前を呼ばれたのか疑問だが、残念ながら愛は聴力系のチート能力は持ち合わせていない。いくらハイスペックだと自覚していても、少し耳を澄ませば必要な情報だけを的確に拾えるような耳はしていない。

 

 その後も何度も振り返り、差が詰まる。最後の障害物を越える頃には、差は殆ど無かった。

 そしてゴール手前2、30mのところで2人の足が絡まり転倒。堀北はすぐに起き上がってゴールラインを越えたが、3位だった女子生徒に抜かれて2着。木下は足を引きずりながら──おそらく演技だろうが──ゴールラインになんとかたどり着き4着だった。後で怪我の重大性を主張する時の信憑性を増すためだろう。見た限り、リタイアしなければならない程の怪我ではないように見える。

 原作通りの流れだが、一目見ただけではどちらが悪いとかは分からない。それに加えて愛と龍園以外はこの展開は予想外なのだから、どちらが悪いかなど確証を持って言えるはずもない。結果的に2人ともリタイアするという事実が残るだけだ。

 

 何度も呼ばれたから振り返った、と本人は振り返っているが、普通に考えてレース後に要件を問いただせば良いだけで、わざわざレース中に気にする必要は無いのではないか。

 レース自体は問題なく進行しているのだから、まずは目の前の勝利に向かうべきである。

 この時点での堀北の未熟さが露わになった出来事だった。

 けれども、一応様子見くらいはした方が良いかもしれない。

 

「堀北、大丈夫か?」

 

 話しかけてきたのは、愛の次の走者の三宅だった。体育祭の異様な雰囲気はそれまでの距離感をも無かったことにするらしい。

 

「さっきから足を気にする仕草はしてるから、ちょっと痛めたかもね。でも本人は少し無理してでも続けようとすると思うよ」

「そうだろうな」

 

 無人島で、体調不良のまま6日間戦い続けた過去があるから断定できる。そうでなくとも、我の強い堀北の性格から簡単に分かることだ。

 隣がCクラスの生徒なので、聞こえないように小声で会話を進める。

 

「堀北が何度も振り返っていたから、レース中に何かあった可能性もある」

「もしかしたら、Cクラス──というより龍園の仕業かも知れないね。無人島のこと、まだ根に持ってそうだし」

「Cクラスの生徒が意図的に転ばせたということか?」

「可能性はあるよ。でも偶然起きた事故として扱われるのが妥当な流れじゃないかな」

 

 感情的になって相手に過剰な力を加えて倒したりした場合は明らかに加害者側が悪いが、今回の場合はそのような様子は見受けられなかった。自然に見せるために練習させたと龍園が話していることからも計画的なのは確かだが、木下の意図しないタイミングだったのかも知れないし、本当は堀北の足が木下の足に絡まったのかも知れない。

 スライディングやタックルなら判別はまだ容易だが、走っている時に足が絡まるとなると、加害者と被害者を判別することは難しい。

 堀北が木下に呼ばれたことも、堀北には聞こえていても応援している生徒は自身やその周りの歓声に掻き消されて木下の声など聞こえやしない。

 無視し続けられなかった堀北の負けである。

 

「災難続きだな……」

「これ以上は何もないといいけどね」

 

 当然三宅もそう思っているようだが、中学時代に関わりがあった経験からこれだけでは終わらないと確信しているのだろう。表情が一層険しくなっていた。

 

 それからしばらくして愛の出番になった。

 スタートと同時に、一斉に飛び出す。

 最初の直線でいきなりハードルが3つ待ち構えている。2番目のハードルだけはくぐらなければならず、ここで減速する上、最後のハードルを越えるための速さが足りなくなる。一歩ほどリードを取ったが、身体の小ささがここで発揮されるのは些か不満だった。

 運動が苦手な生徒が悪戦苦闘しながら何とか通過したところを、それでも問題なく越えていく。

 直線が終わるとレーンがなくなり、順位がはっきりと分かるようになる。

 この時点で愛は先頭。2つ目の障害も問題なく越えたが、Cクラスとの差が広がることはなかった。

 

「八遠さん」

 

 最後の障害へ移る途中。堀北にも行われた例の名前呼びが始まった。Cクラスが──というよりも龍園が──やりたいことは把握しているので、無視して走り続ける。

 

「八遠さん!」

 

 3つ目の障害を越えてもなお、愛は反応しない。声に苛立ちや焦りの色が見え始めてきた。

 それでも愛は、まるで聞こえていないかのように走り続ける。

 

 愛にとって、凡人は興味の対象外だ。決して自惚れているわけではなく、自分が優秀で才能溢れる少女だと自覚しているから。

 

「八遠さん!」

 

 だからこんな茶番に付き合う義理はない。それなりのプライベートポイントを払ってくれない限り、決して興味を示さない。

 

「八遠さん!!」

 

 ゴール直前。最後に疲れ切った体から絞り出された叫びが聞こえた。

 それでも振り向くことはなかった。

 

 走り終えた愛は、肩を揺らすCクラスの生徒のもとへ向かった。

 

「レース中しつこく呼んでたけど、何か用事でもあった?」

「……別に、何でもない」

「その割には随分と必死そうだったけど?」

「何でもないって言ってるでしょ!」

 

 まるで怯えるように、愛から離れていった。

 この後、それなりの()()が加えられるのだろう。だがモブAが龍園から暴力を受けたとしても、愛にとって全て()()()()()()()()なのだ。自分には関係ないから。これからに何も影響を与えないから。

 

 障害物走までを終えてここまで問題なく原作をなぞっている。それでいて愛はポイントを伸ばし続けていて理想的な展開だった。

 

 ──ここまでは順調。そう、そう思っていたのに。

 

 

 

 

 

 

「須藤くん? 彼はもうダメよ。退学してもらうほかないわね」

 

 昼休みも終わりに差し掛かった頃、愛の計画は崩壊した。人気のない校舎の影の下で、堀北はそう言い切った。

 

「……」

「それに、わざわざクラスポイントをAクラスに譲渡してまで一人でAクラスに上がろうとするあなたの言うことは、悪いけど信じられないわ。合同で集まった時もあなたは坂柳さんと仲良くしていたわよね。それをAクラスの人たちは把握していたように思えるわ」

 

 周りに人がいないのがせめてもの救いだったか。他のDクラスの人が聞いていれば、更に動きにくくなるだろうから。

 

「Aクラスと内通しているのは明らかよ」

 

 これは1番の身内の失敗──いや、愛の失敗だ。

 愛は睨みつけてくる堀北を見て思った。

 順調に思えた教育──調()()だったが、思っていた以上に足りていなかった。より正確に言えば、須藤の重要性を理解させきれていなかった。

 堀北の代わりに須藤、池、山内に勉強を教えた。暴力事件に至っては話し合いすらもさせなかった。

 効率を求めすぎたことが仇になってしまったらしい。須藤は期待通りの成長をしなかったし、堀北は変な所で鋭かった。

 

 方針を切り替えよう。クラス順位は捨てる。最優秀賞を目指して取れるだけのポイントを確保する。

 須藤の復帰はポイント稼ぎに欠かせない人材だっただけに、この欠損は痛い。

 いくら愛の身体能力が高いといえど、男子種目に参加することはできないし、須藤の方が力は上。残念だがその分野においては負けを認めざるを得ないのだ。

 この体育祭はやり過ごす。痛手は最小限に抑える。今後を見据えた上での、現状での最善策だった。

 

 体育祭が終えた後は、堀北の育成だ。葛城に付き従う戸塚のように、堀北を愛の下僕にする。命令すれば一つ返事で行動に移してくれるだけの存在になってもらって構わない。2000万ポイントが貯まれば堀北は捨てることになるが、その後は知った話ではない。妨害した罰だ。

 当然2年生に上がれば生徒会の一員として働いてもらうことになる。

 側から見れば自立し、成長しているように見える。実際は愛の指示に従う犬でしかない。これが理想……いや、絶対条件だ。

 なるべく早く堀北を忠犬に仕上げる。ある程度調教は進んでいたが完璧でなかっただけ。決して不可能ではない。万が一無理そうなら、()()()()()を使うことも辞さない。

 

「そっか、じゃあいいや。須藤くんが帰ってこないのは仕方ない。勝ち目は無くなったけど、残りの体育祭を楽しもうか」

 

 そう言う愛の目はやはり笑っていなかった。それを察知した堀北は、この時になってようやく自らの過ちを悟った。

 そしてそれが、手遅れであることも。

 

 だが結局、何を間違えたのかは分からず仕舞いだった。

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

「負けてしまいましたね」

「仕方ないかな。私一人の力だけじゃどうにもならない状況だったし」

 

 保健室前で合流した愛と坂柳は体育祭を振り返る。

 結果的にA、Dクラス共に惨敗。けれども赤組としては勝利を収めたため、クラスポイントの大きな変動はなかった。

 元から負けで終わる予定だった愛としては想定通りだったわけだが、それと同時に自らの甘さを認識した。

 天才的な能力と原作知識があっても、ボロは出てしまう。ただ、1年生の初秋という比較的早い段階で学べたのは逆に良かったのかも知れない。

 

「先輩方に助けられて、被害がほとんどなかったのが救いだね」

「愛さんはとても頑張っていましたよ。最優秀賞おめでとうございます」

「学年別だけどね……」

 

 そこに関してはあまり満足な結果ではなかったが、坂柳に褒められると無条件に嬉しさが込み上げてくる。

 

「よぉ、チビ共」

 

 その声で頭が冷えたのが分かった。龍園翔は最悪のタイミングで現れた。

 

「船上試験の時は随分と調子に乗ってたが、今回は俺の勝ちだな」

「この結果は想定内だから問題はないよ」

「ハッ、随分と強がるじゃねえか」

「ただ、今回は素直に負けを認める」

「──あ?」

「けどまあ、龍園くんのおかげで大事なことに気づけたからね。次の試験が終わった頃にはクラスが入れ替わってるんじゃない?」

 

 当然それは、愛個人としての敗北宣言だった。

 

「納得行かねぇな」

「もしかして龍園くんは『くっ……、殺せ!』みたいなのを所望で?」

「お前如きに欲情するヤツがいればいいがな」

「この世を探せば絶対何処かにいるし! ……いやでも気持ち悪いからやめて欲しい」

 

 ぺったんで悪かったな。一之瀬みたいに中3の時に急にでかくならなくて悪かったな。何してもダメだったんだから諦めろ。

 声に出ないように、心の中でそう叫びながら睨む。しかし龍園は気にするそぶりを見せず、視線を隣の坂柳に移した。

 

「で、このチビの甘い蜜を吸ってるAクラス様はどんな気分だ?」

「私は何とも。今はまだ準備期間ですので」

 

 坂柳陣営は順調に拡大が進んでいると話を聞いている。無人島試験と船上試験での連敗が効いているらしい。

 坂柳としても葛城中心に進めた体育祭は負けて欲しかったのだ。

 結局クラス順位は全クラス思い通りになったということだ。先輩の頑張りで、組としては勝利したA、Dクラスの方が勝ったと見ても良いほどだ。

 

「ですがそれももう終わりです。次からは私が主導します」

「宣戦布告ってヤツか?」

「一度もAクラスの座を譲る気はありませんよ?」

「そこに私も加わったら、いよいよ勝ち目はないね。その頃にはうちのクラスはBクラスに上がってるだろうし、ボコボコに叩いても良いんだよ?」

 

 綾小路という存在がいるので、意外と返り討ちに遭うかも知れないが。むしろその可能性の方が高いだろうか。それもそれで面白そうではある。

 

「それと私の名前をしつこく叫んでた陸上部の子、あれ何がしたかったの? 随分と必死だったけど」

「お前をリタイアさせようと思ってたんだがな。堀北が釣れただけでも十分な成果だ」

「その子はそのあとどうなったのさ。木下って子は龍園くんが痛めつけて怪我を悪化させたって聞いたけど」

「別に何もしてねぇよ。特に故障した様子もないのに次学校に来たら松葉杖ついてたなんて変な話だろうが。前払いしたポイントは返させたがな」

「龍園くんにしては優しいですね」

 

 これで、3月の退学者投票の候補に名乗りを上げたかも知れない。

 陸上部の子からすれば、自身も同じように痛めつけて欲しかったのだろう。そういう性癖とかではなく、木下への落とし前がつかないから。

 坂柳の表情を見るに、皮肉を込めた結果が今の発言だったのだろう。

 

「じゃ、これからもお互い頑張ろうね」

「そんな悠長なことを言ってられるのも今のうちだがな」

「またね、ドラゴンボーイくん」

「テメェ……!いい加減にしろよ・・!」

 

 青筋を浮かべ、怒りで震える龍園。殴りかかってこないのは、この瞬間を監視カメラに記録されていることを分かっているからだった。

 

「Xといいテメェといい……次言ってみろ、タダで済むと思うなよ」

 

 反撃をすることはせず、龍園は立ち去った。

 

「やっぱり龍園くん弄りは楽しいなぁ」

「ふふっ、面白い反応でしたね」

 

 今回はカメラが抑止力になったが、死角になる場所はいくらでもある。手が出ないとも限らない。

 

「有栖ちゃんは不用意に言わないようにね」

「それくらい分かってます。安直に身を危険に晒すほど愚かではありませんから」

 

 坂柳がそう言うのであれば大丈夫なのだろうが、本当に殴られた時のことを考えるとどうも落ち着かない。

 

「うっかり口が滑ったら助けてくださいね?」

「言われなくても守るけどさ……」

「はい。一番頼りにしていますから」

 

 そう言って、坂柳はからかうように笑った。

 誰かに頼られるというのは初めての経験だが、案外悪くない。更に言えば耐性がないので割と危ない。

 

「何があっても有栖ちゃんは私が守るからねっ!」

「クラスが違うんですから、無理はしないでくださいよ?」

「じゃあ早くAクラスに上がって有栖ちゃんと同じクラスになればいいじゃん」

 

 今まで友達はおらず、親からの愛情も注がれてこなかった愛の中で、確実に坂柳の存在は大きくなりつつあった。そしてそんな自分を受け入れていた。

 

「待ってますから」

「絶対だよ? 上がろうと思ったらクラスが入れ替わってたとかやめてよ」

「当然です」

 

 Aクラス昇格への気力が湧いてくるのを感じる。まずは堀北を躾けなければならない。坂柳のためならば堀北を犠牲にする覚悟はできている。

 

「そういえば」

「……な、何?」

 

 坂柳の表情が変わったのを見て、愛は体を硬直させた。これはあれだ、よからぬ事を考えているときの表情だと一歩後退りした。

 

「借り物競走のお題は何だったんですか?」

「べ、別に普通のやつだし」

「その割には随分と取り乱していたようでしたよ」

「そんなところまで見なくてもいいじゃん……」

「ちゃんと見ていてと言っていたのはどこの誰でしたっけ」

 

 完全に退路が塞がれていた。全て洗いざらい話すほかに生き残る道はなかった。もっとも、その道も無事とは言い難い。坂柳が魔王か何かに見えた。

 

「1枚目が『好きな先生』でしょ。そして2枚目が『友達10人』。私には高すぎる壁だったよ……」

「1枚目は分かるのですが、2枚目は……?」

「察して。察してください」

「何ですか? 愛さんの口から言ってくれないと分かりません」

「ぐすっ……有栖ちゃんがいじめてくる……」

 

 いくら坂柳とはいえ、あんまりな仕打ちだった。

 

「分かりました。愛さんが可哀想なので、友達がいなかったのだと勝手に解釈しておきます」

「酷い! 死体蹴りなんて酷すぎるよ!」

 

 膝から崩れ落ちた。坂柳のSっぷりはある程度は理解していたはずだが、想像以上だった。

 

「で、3枚目は何だったんですか?」

「教えないし……私をいじめる悪い子には教えないし……」

「ふふっ、反応が面白いのでついやり過ぎてしまいました。では、『好きな人』に綾小路くんを選んだ愛さんは──」

「待って!? その情報はどこから漏れた!?」

 

 坂柳有栖はどうやら、敵を倒したら死体蹴りをした上で燃やし、残った灰をコンクリート漬けにして海に捨てるタイプの人間らしい。徹底的の度を超えてしまっている。

 

「クラスメイトの一人が借り物競走の手伝いをしていたんです。たまたまですよ」

「運命ってやつはこれほどまでに残酷だったんだね……」

 

 仕組んだとしか思えない神の悪戯に、愛は嘆くしかなかった。

 

「で、でも綾小路くんはたまたま近くに居ただけだから! 有栖ちゃんのことが1番好きに決まってるじゃん! もちろん友達としてだけど!」

「では堀北さんは?」

「嫌い」

「即答ですか」

 

 今まではいい感じの駒にはなる人という評価だったが、今日の一件で確定した。堀北鈴音は八遠愛の計画の障害となる人物。ならばそれを取り除くのは当然のことだろう。

 堀北自身は支配下におけば使えるので、完全には排除しないが。

 

「堀北ちゃんのせいで今日の予定が全部狂っちゃったからね。今日から私のおもちゃに就任したんだ」

「堀北さん、どうなっちゃうんでしょうか」

「どうなっちゃうんだろ。でも、堀北ちゃんはそれを所望らしいから」

「楽しみですね」

 

 堀北は我の強い人間だが、これから真逆に変わってしまう。愛にとっても未知の領域であり、余計に好奇心を駆り立てていた。

 

「そろそろ帰りましょうか。今日は私の奢りで、一緒に食べに行きませんか?」

「えっ、いいの!?」

「はい、もちろんです。愛さんは誰よりも頑張っていましたから。私からの最優秀賞です」

「ありがとう! 有栖ちゃん大好き!」

 

 抱きしめたい衝動に駆られたが、ぐっと堪える。その代わりに、空いている手を取った。

 並んで、橙の空の下を進む。繋がれた手からは人肌の温もりを感じる。

 誰からも愛されてほしいという願いを込めて付けられたはずの名前。しかしそれに反して愛とは程遠い人生を送ってきた。

 最近になって、ようやく()()()()()()()気がする。

 誰かと他愛のない会話をすること。誰かとボードゲームをすること。誰かとご飯を食べること。その価値を。

 

 どれだけ天才でも、一人では決して成し得ないことだ。

 

「有栖ちゃん」

「どうしましたか?」

「……ううん、なんでもない」

 

 声をかければ、返事がある。そんな当たり前のことすらも、親にはしてもらえなかった。

 

「ありがと」

 

 隣に坂柳がいる事を確認するように、もう一度握り直した。

 




勉強から解放されて浮かれてるので失踪します。

良ければアンケートに協力してくだせぇ......!
明日の19:00にまた投稿します。失踪とは(哲学)

あと、Twitter始めたので一応リンク貼っときますね。
https://twitter.com/SEIKOU58447587
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