よう実 Aクラス昇格RTA Dクラスルート   作:青虹

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失踪するつもりが疾走してたので初投稿です。

小説は書ける時は書けるけど書けない時は全く書けない()


11月 裏話

「寒くなってきたなぁ……」

 

 11月に入ると、突き刺すような冷たい風の存在感が大きくなってくる。登校中に上着を羽織ったりマフラーをしたりする生徒が目立ち始める中、当然のように愛は冬用の制服のみである。

 

「そうね。もう11月だもの」

「うへぇ、ここからさらに寒くなると思うと気が滅入っちゃうよ」

「八遠さん、寒いのが苦手なのかしら?」

「ちょっとだけね。毎年体中にカイロを貼り付けて、こたつに潜り込んで乗り切ってきたけど、しばらくはできそうにないしなぁ」

 

 それはちょっとどころではないのではと堀北は思ったが、口には出さなかった。

 

「にしてもどうしようかなぁ」

「ペアのことよね」

「そうそう。まさか山内くんとは思わなかったよ」

 

 愛も堀北も成績は上位──愛は常に首位──なので、須藤ら3バカの誰かになることはほぼ必然と言える状況ではあったが、それを加味しても愛は山内がペアということに頭を悩ませているようだった。

 

「山内くんってあんまり評判良くないじゃん?」

「それはそうね。池くんや須藤くんは改善の兆しが見えているけれど、山内くんはそれが見られないもの」

 

 残念なことに山内は少しばかり空気を読むことが苦手な生徒だった。須藤は堀北の努力に加え、もともとバスケには熱心だったことから変わり始めている。池は同じクラスの篠原のことが気になっているらしく、こちらも状況は好転しつつあった。

 

「けれど、ペアになった以上少なくともこの試験中は向き合わなきといけないわよ」

「わかってるよ。わかってるけどなぁ」

 

 この後も山内が改善することもなく、3月には退学してしまうことを知っている以上、愛からすれば山内に対してどうこうするということにあまり前向きではなかったのだ。

 

「まあいつもみたく勉強会すれば多分なんとかなるって」

「それが妥当ね。例の3人を呼べばいいのよね?」

「そゆこと。あと綾小路くんも暇そうにしてるだろうし呼んであげてよ」

「……そうね」

 

 綾小路は相変わらず3バカと会話している姿を見かけるが、それ以外の人と話しているとことはあまり見ていない。3バカを集めたらいよいよ綾小路の会話の相手がいなくなってしまう。

 

「まあ、退学にならないようにだけしてあとはほどほどに頑張りますかね」

「ここで勝てばBクラスにジャンプアップできるかもしれないのだから、あなたは取れるだけ取りなさい」

「大丈夫だって。元から全教科満点のつもりだから」

「……」

 

 自信満々にそう言って、本当に満点を取ってしまうところが愛の恐ろしいところだ。勉強に絶対の自信を持っている堀北だが、愛には勝てないのではないかと思い始めていた。

 

「まあ任せときなって。勝つ確率上げる方法はあるから」

 

 一人だけ最終目的が違う愛が本当にそんな作戦を実行するのだろうかと思ったが、堀北はそれを口にはしなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 放課後、堀北が愛に連れられてやってきたのはBクラスの教室だった。

 ここに秘策があるのだろうかと疑問符を浮かべる堀北をよそに、愛はBクラスの生徒に話しかけていた。少なくとも、昨日の状況を思い返すほど試験本番が不安になるのは確かだった。須藤と山内の学力が中学生レベルですら怪しいなどと分かれば、そう思うのは仕方ないだろう。

 先が思いやられため息をこぼしていると、前方から快活な声が耳に入る。

 

「あれ、八遠さんと堀北さん?」

 

 愛が探していた人というのが、目の前にいる一之瀬だった。

 

「一之瀬さん、今ちょっと時間ある?」

「うん、全然大丈夫だよ」

 

 そう言うと、愛は一之瀬を連れて屋上の方へ歩き出したので、堀北もついていく。

 屋上につながる扉の前まで来ると、愛は足を止めた。

 

「ここなら人が来ないから大丈夫かな?」

「それで、私に用ってなにかな?」

「BクラスとDクラスで、合同の勉強会を開けないかなって思って」

「どうしてかな?」

 

 現状として、クラス内でグループが出来始めクラスごとで勉強会が始まっている。そんな中わざわざ合同で勉強会をする意味に堀北は疑問を抱いた。直接対決はしないとはいえ、互いに敵対関係であることには違いないからだ。

 

「一之瀬さんもわかってると思うけど、この試験の結果は今まで以上に重要で一番形に見えるっていうのはわかってるよね?」

「あはは……、そうだね」

 

 愛が言う通り、BクラスからDクラスがおよそ150ポイント以内にひしめき合っているために、今回の試験のあとクラスが入れ替わる可能性がとても高い。

 

「特に、一之瀬さん達BクラスはAクラスに負ければ即Cクラス落ち。なんとしても避けたいのは事実だよね」

「うん。だからみんな、今まで以上に必死に頑張ってる」

「私たちは勝てばCクラス、一之瀬さんたち次第ではBクラスに上がることだってできる。だから負けるわけにはいかないんだよね」

 

 当然今までも試験に真剣に取り組んでいたのは事実だが、クラスの昇格や降格を目の当たりにして今まで以上に頑張らなければならない状況に置かれている。

 

「そこで、合同勉強会につながるってわけ。普段あまり関わりのない人たちと同じ勉強会に参加することで集中力を上げるのと、対決はしないけど入れ替わるかもしれない状況下にある現状を逆手にとって、モチベーションアップにつなげる。これが狙いだよ」

 

 確かに、愛の説明は理にかなっていた。今回の試験の対戦の構図、それぞれのクラスが置かれている現状、そこからくる対抗心を利用する。しかし──。

 

「八遠さん、それは良いけれど私たちがBクラスに上がる可能性を狭めていないかしら?」

「そう言いたい気持ちはわかるけど、そんなに急ぐ必要はないと思うよ。それに、Bクラスが勝てばAクラスとの差も縮まるし、Bクラスが勝っても利益はあるよ」

「言われてみればそうね……」

 

 この合同勉強会に、愛の一人勝ちを早めてしまう要素があるのではないかと堀北は思ったが、勝った時の見返りが大きすぎる今回の試験で合同勉強会をしない手はなくなっていた。

 

「その話は平田くんにしてあるのかな?」

「もちろん。快く賛成してくれたよ。だからあとはBクラスの賛成待ちってところかな」

「その話を持ってきてくれたのはありがたいけど、なんで私たちなのかな?」

「なんで、って?」

「Aクラスでも良かったんじゃないかなって。八遠さんはAクラスと仲が良さそうだし、でもDクラスの大半がそうじゃないよね。交渉するならそっちの方が良かったんじゃないかなって」

 

 愛が坂柳と親しげにしているのは有名な話であり、何より噂ではあるが愛が手に入れたクラスポイントがAクラスに流れているのではないか、と言う話もある。堀北はそれが事実だと知っているが、あまり接点がないBクラスの一之瀬が事実かわからないのは当然と言ってもいい。しかし踏みとどまらせるのには十分だった。

 

「それも考えたけど、AクラスとDクラスの組み合わせは危険すぎるんだよね。Aクラス側がどう思ってるのかは知らないけど、例の噂が流れてからAクラスへの印象はあまり良くないみたいだから。それで面倒ごとが増えても困るだけだからね。それなら変な噂も何もないBクラスの方が都合が良かっただけだよ」

「なるほどね。わかった、その案に乗るよ」

 

 こうして、DクラスBクラス合同勉強会の開催が決定したのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 結果から言うと、合同勉強会は成功だった。全3回のうち1回目が終わっただけではあったが、それぞれが集中して取り組めていたように思えた。

 場所の確保という問題は、クラスを3つに分けることによって解決した。更に、こうすることによってグループをローテーションすることで3週間の間同じだけの効果が期待できる。茶柱や星之宮に掛け合って、教室を一つ借りれば準備は整った。

 愛と堀北が教えていた3バカに関しては、前日に勉強する分野を指定し、分からなかったところを後日解説するという方法を取った。

 

 しかし、堀北は不満だった。当然、勉強会にはない。

 

「ねぇ八遠さん」

「……なに?」

「なに? ではないわよ。私が言いたいことわかるでしょう?」

「まあ、うん。わかるけど」

 

 堀北は納得がいかなかった。愛が主導して企画したはずの合同勉強会が堀北の手柄にすり替わっていたのだから。

 無人島試験の時と全く同じである。

 

「おかげでBクラスの人たちからも余計な感謝をされてしまったわ」

「感謝に余計なんてないぞ、堀北くん」

「私は何もしていないのだから、これは余計よ」

 

 身に覚えのない感謝をされたところで、困惑するだけだ。なぜ感謝されているか分からないのだから当然だ。

 

「だって堀北ちゃん、クラス内での地位が欲しいんでしょ? だったらちょうど良くない?」

 

 前回の体育祭での失敗を取り戻すためにも、堀北は一定の成果を上げなければならないということは事実だった。

 

「けれど、こんな形では欲しくなかったわ」

「まあまあ、そんな贅沢は言わないでって。これで発言もしやすくなると思うから」

 

 堀北は頭を抱えた。話が何一つ通じていない。しかし、今から抗議したところでこの問題が解決できるはずもなかった。愛はしっかり、平田や一之瀬にも堀北がやったことにしてくれと頼み込んでいたのだから。

 いくら頑張っても、あの二人の発言力には抗えるわけがない。

 急に色んな人から話しかけられても、対話の苦手な堀北には一苦労だが、慣れていくしかないと諦めた。

 

「なぁ、あの勉強会って堀北が中心になったって本当か?」

「えぇ、そう──」

「ううん、私が考えたの」

 

 隣の席の綾小路が、登校して一番にそう尋ねたため、堀北は定型文で返そうとしたところ愛に遮られた。しかも、事実を口にしたので堀北は余計に驚いた。

 

「そうなのか? 平田から堀北が企画したと聞いたんだが」

「あれは嘘。手柄を堀北ちゃんにあげたんだよ。黙っていてもバレそうだったしね。それに、無人島試験の時には綾小路くんも同じことしてたし」

「それはそうだが……」

「それに、綾小路くんなら言わないでしょ?」

 

 愛と綾小路はお互いに邪魔をしないと取り決めをしている。だから愛は綾小路には伝えてもいいか、と思ったのだ。

 

「そうだな」

 

 それきり、この場で綾小路はそのことに追及することはなかった。

 

「ちなみに、堀北ちゃんは勉強会で何をしてたの?」

「主に問題作成ね。かなりの量だから苦労しているけれどね」

「結構余裕そうじゃん。ちゃんと高得点は取れるのかな?」

「当たり前よ。そんなことで点数を落とすような勉強をしたことはないもの」

「まあ、私に勝てるかって言われたら別の話だけどね」

「……」

 

 余裕そうな笑みを浮かべる愛を堀北は睨みつけた。しかし、実際に今まで勝てた試しはない。満点以外を取ったことがないのだから、引き分けが限界だ。

 

「まあ、退学にならないように頑張って。堀北ちゃんに退学されたら困るからね」

「……八遠さんもよ」

「おっ!? 堀北ちゃんがデレた! 綾小路くん、堀北ちゃんが遂にデレ──いたああああああああっ!?」

 

 いつかの綾小路のように、コンパスの針を突き立てられた愛の絶叫がDクラスの教室に響き渡った。

 

 

 

 ***

 

 

 

「八遠、ちょっといいか」

 

 昼休み、山菜を求めて食堂へ向かおうとしたところ、綾小路に声をかけられた。

 

「どうしたの?」

「少し話をしたいと思ってな」

「ふぅん? 綾小路くんからそうやって声をかけてくるなんて珍しいね」

 

 6月に不干渉の約束をしてから、二人で話すのは久々だ。

 

「せっかくだし、食堂で食べながら話そうよ」

「堀北はいいのか?」

「堀北ちゃん、今日は弁当って言ってたから。それにいつも一緒にいたら落ち着かないでしょ?」

「そうだな」

 

 愛の言葉に、綾小路は同意した。

 

「まだ山菜定食を食べているのか?」

「もちろん。目標を達成するためには外せないからね」

「随分とストイックだな」

「そうかなぁ? 舌が慣れてきたからか分からないけど、最近は普通に美味しいなぁって思い始めてきたから、そんなに苦痛じゃないよ」

「……そういうものなのか」

「そういうものだよ」

 

 食堂につき、同じように食べにきた生徒の列に並び、順番を待つ。

 しばらくして、愛の番がくると──注文すらしていないのにも関わらず愛の目の前に山菜定食が現れた。

 

「は?」

 

 その光景に綾小路は思わず驚いた。ポーカーフェイスが一瞬崩れかけるほどには驚いた。

 

「夏休み明けくらいからこうなったんだよね……」

「多分、厨房から列に並んだ私を見つけて『山菜の子が来たぞ』って報告が入って、私がここにくる頃には出せるような状態になるように準備しているんだと思う」

「有名人だな……」

「あんまりうれしくはないんだけどね……」

 

 相変わらずの山菜定食を受け取った愛は、綾小路に席取っておくねと一声かけて去っていった。

 

「お客さん、注文は?」

「あ、ヒレカツ定食でお願いします」

「ヒレカツ定食1つ!」

 

 山菜定食の味は少し気になるところではあるが、注文しようという気は綾小路には起きなかった。

 

「綾小路くん、ここ!」

 

 揚げたてと思われるヒレカツ定食を受け取り、愛が消えていった方へ向かうと綾小路を見つけた愛が手を振って綾小路を呼んでいた。

 

「ヒレカツ定食かぁ、美味しそうだね」

「いるか?」

「ううん、大丈夫」

 

 愛は堪えた。時々堀北お手製の夜ご飯を食べているとはいえ、食堂の有料ご飯を食べてしまったら戻って来れなくなると思った。山菜定食ですら美味しく感じる今の愛の舌にヒレカツ定食を与えたら、美味しさのあまり狂ってしまうのではないかと思った。

 

「結局山菜定食って美味しいのか?」

「んー、わかんない。私は美味しいと思うけど、普通の人が食べたら不味いって思うんじゃない? でも、最近はよもぎの天ぷらとかたまに見るようになったよ。あれは普通に美味しいと思う。ソースでもいいんだけど、個人的には塩が一番合う。あとは──」

「わかったわかった」

 

 山菜定食トークが止まらなくなると悟った綾小路はその話を途中で止めた。

 

「ごめん、本題とは全然関係なかったよね」

「その話はまた今度に聞くことにする。八遠に聞きたかったのは、合同勉強会のことだ」

「勉強会?」

「ああ」

 

 ヒレカツと白米を口に運び、飲み込んだところで綾小路は口を開いた。

 

「あの勉強会の意味はなんだ?」

「意味?」

「そうだ」

「意味って言わなかったっけ? 集中力とモチベーションアップのためって」

「それは表向きの理由だろう。それだけならDクラス内だけでもできるはずだ。実際、この前の期末試験はいつも通りに勉強会をしたがみんな真面目に取り組んでいたと思う」

 

 実際のところ、無人島試験、船上試験を経て試験に対して真面目に取り組んでいる生徒がほとんどだ。今回の試験も区分上は試験なのだから、今まで通りの勉強会でも十分に効果は期待できると考えていた。

 

「それなのに、お前はBクラスとの合同勉強会を選んだ。その理由はなんだ?」

「……綾小路くん、鋭いね。さっき刺されたコンパスの針よりも鋭いよ」

「話を逸らさないでもらえるか?」

「Bクラスにコネを作っておく必要があったんだよ」

「Bクラス、というよりも一之瀬か」

「うん。最近一之瀬さんに関してあまり良くない噂を聞いたからね」

「よくない噂?」

「実は犯罪歴があるんじゃないかってね」

「あの一之瀬がか?」

 

 一之瀬といえば善性の塊でお人好し。犯罪というものとは対極に位置しているのでは、と綾小路は思った。しかし、そういう人間が闇の一面を抱えているというケースが少なくないのもまた事実。

 

「噂だし、確かじゃないんだけどね」

「それとお前が一之瀬に接触することになんの関係がある?」

「一之瀬さんが退学してしまう……そんな可能性があるんじゃないかなって」

「退学だと? 話が飛躍しすぎて理解が追いつかないんだが」

「噂は真実だろうが嘘だろうが、本人に大きな影響を与えることになる。いくらメンタルが強そうな一之瀬さんでも、犯罪者扱いされたら堪えるんじゃないかなって思う」

「納得がいかないな。一之瀬のクラスメイトなら助けようとすると思うが」

「私はそうは思わないけどね」

 

 一之瀬はクラスメイトを不安にさせないようにと強がって一人で抱え込んでしまう人間だ。当然、Bクラスの生徒では役に立てない。一度口に出してしまえば楽になるケースも多いので、原作の綾小路がやったように強引に話させる必要がある。

 

「とにかく、それで一之瀬を助けようってことか?」

「そういうこと。退学されたら困るしね」

「一之瀬は優秀だからな」

「その通り」

 

 愛としては来年以降の学年単位での争いに向けて、一之瀬は確保しておきたいのだ。

 

「八遠、今お前が矛盾したことを話していることに気づいているか?」

「そんなの知ってる。けど、これは必要なことなんだよ。というか、綾小路くんもなんとなくわかるでしょ。南雲先輩が生徒会長になったことで起こる変化に」

「まあな」

 

 須藤の暴力事件や体育祭での激走がないとはいえ、学がその足で1年生の無人島試験や船上試験を視察しに来たことや入学試験での全教科50点という不気味な結果さえあれば、綾小路の能力を高く買っていてもおかしくない。

 

「とにかく、一之瀬さんは今後のためにも欠かせないから退学だけは避けなきゃいけない。もちろん、綾小路くんも協力してくれるよね?」

「分かっている」

 

 6月に取り決めた約束は所詮口約束でしかないため、綾小路からすればいつでも破ることができる状況にはある。しかし、軽井沢や櫛田のことなど、対応しなければいけないことが山積みのため、愛を敵に回すことは適切ではないと判断した。

 

「綾小路くんって、私がやろうとしてることに賛成? それとも反対?」

「お世辞にも賛成とは言えないな。オレも堀北と同じようにクラスポイントを集めてAクラスを目指さなければならない状況にあるからな」

「堀北ちゃんのお助けマンみたいな感じ?」

「そういうことにしておいてくれ」

「じゃあそういうことにしとく」

 

 できれば2年生に進級するまでにAクラスに移籍したかった愛だったが、現時点で500万ポイントしか貯まっておらず絶望的だった。下級生が入学する半年後を思い浮かべ、愛はため息を吐いた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 師走の時期が迫ってきたある朝。Dクラスの教室は異様な空気に包まれていた。

 

「なあ、俺たちDクラスを脱出できるのか?」

「できるって! Cクラスなんかに負けるわけねぇだろ!?」

「うんうん、3人とも珍しく真面目に頑張ってたからね」

 

 池、須藤、山内の3バカと愛は、堀北を囲むようにして集まっていた。クラス変動の可能性が大いにあるとだけあって落ち着かない様子で、それは堀北も同じのようであった。

 事実、Aクラスを最も渇望しているのはこの堀北と言っても過言ではない。

 

「おいお前ら、席につけ」

 

 そんな喧騒の中でも、茶柱の声はよく響いた。各々の席に座ると、早速声を上げたのはやはり池であった。

 

「センセー、テストの結果って今日発表ですよねー?」

「ああ。今から発表する」

「俺たち、昇格できてますか?」

「まあ落ち着け池。それも今から発表する」

 

 前方の黒板にテストの成績と退学者、そして勝敗が掲示される。

 一番上には、指定席だと言わんばかりに八遠愛の名前がある。

 

「成績は自分で見てくれ。それに退学者はなしだ。ここまででいまだに退学者が0のDクラスは初めてだ」

「それ本当っすか!?」

「ああ」

 

 確かにいつもの問題よりは少し難しかった、というのが愛の感想だった。今回はCクラスが相手だったから良かったかもしれないが、AクラスやBクラスを相手にしていたら退学者が出ていた可能性があった。

 

「そして、DクラスはCクラスの成績を上回った」

「僕たちの勝ちってことですよね? 先生」

「ああ、そうだ平田。良かったな、Dクラス脱却だぞ」

 

 DクラスがCクラスに勝利したことによって、Dクラスは100クラスポイントを追加し、一方のCクラスは100クラスポイント引かれる。差は36ポイントしかなかったので、茶柱のいう通りDクラスを脱却したことになる。

 

「更に、Aクラス対BクラスはAクラスの勝利となった。これにより、DクラスはこれよりBクラスとなる」

「うおおおおおっ! 俺たちすげえじゃん!」

「ああ、今までDクラスからBクラスにまで上り詰めた代は一度たりともなかった。これは誇れることだ」

 

 熱狂するDクラス──Bクラスであったが、堀北は冷静だった。

 今回Bクラスに昇格できたことは喜ぶべきだが、Bクラスとは60ポイントしか差がない。それに加えて目標のAクラスまでは500ポイント近い開きがある。まだまだ気を抜けないと思った。

 

「だが、ここで気を抜けば再びDクラスに転落する可能性もある。浮かれていると掬われるぞ」

「分かってますって。でも俺たちならAクラスも夢じゃない! そうだよな、平田!」

「そうだね。今の調子なら十分狙えると思うよ」

 

 入学して約半年でここまで巻き返したのだから、そう思うのは当然のことだ。

 

 しかし愛はそんな彼らを軽蔑の目で見つめていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 八遠愛という人物を、綾小路はいまだに把握できないでいた。

 

 無人島試験の時には、綾小路が考えていた作戦を見透かしたかのような動きを取り。直後の船上試験では、図ったかのようなタイミングでグループ分けの法則に至った。自身が正解で間違いという可能性を全く考えていない目だった。

 

 ──綾小路くん、ちゃんと足下は注視したほうがいいですよ。

 

 体育祭の後、坂柳はそう忠告した。足下──つまり綾小路に近いところに気をつけろということだった。真っ先に浮かんだのは愛の顔だった。

 

 その中での、今回の動き。堀北の発案だと聞いた時は成長を感じた。しかし、愛は自らの口で自身がやったことだと明かした。

 綾小路はこの合同勉強会が一見クラスの益を考えての行動かと思ったが、坂柳の言葉を信じるのであれば裏に重大な意味が隠されているということになる。

 坂柳を信じるわけではないが、真意が気になった綾小路は昼休みに愛に声をかけた。

 

 一之瀬が目的らしいということは聞き出せたが、愛から出た言葉は曖昧だった。

 愛の口から放たれた一之瀬は犯罪者であるという可能性。そして退学。

 綾小路としても一之瀬の退学の阻止だけは概ね賛成だったが、それ以外が()()()()()()()()()辿()()()()()()

 

 それに加え、異様なほど愛が櫛田を避けているということも気になった。

 入学当初、学年全員の連絡先を交換すると息巻いていたが、櫛田自身が嫌う堀北は別として愛とも交換できていなかった。それに加え、余計な会話を拒まれているという。

 この学校で櫛田の本性を知る人物は、綾小路と堀北だけである。愛が櫛田を避ける理由が一つとして見当たらないのだ。

 櫛田は入学以前に愛との面識はなかったと話す。本能で危険を感じているのか、それとも……。

 

 綾小路はその考えを切り捨てる。身体能力が極めて高い人間はいれど、超能力を持った人間は存在しない。SFが現実に起こるなど、ありえない話である。

 

 愛が一之瀬を助けようと画策しているのも全て、自身がプライベートポイントでAクラスに上がるためだ。綾小路は愛がそうすることに対して、特別反対しているわけではなかった。

 愛がAクラスに上がって坂柳と手を組んでも結構。綾小路はそれでいて、二人まとめて倒すつもりだ。負けたらそれで、あの男を否定することができる。失敗が確定したとしても、愛が貯め続けたポイントを活かす場面は必ずある。

 将来的に牙を剥く可能性はあるが、現時点で優先順位は低いと考えている。それよりも優先すべきは櫛田の退学。

 

 現に今回も問題をすり替えようとしてきており、クラスに直接的な害を与え続けている。結局それは叶わなかったわけだが、堀北がどうやって乗り越えたのか、それを知るべく綾小路は歩き出した。

 




テストが近いので今度こそ失踪します。

次回投稿は8月と思われ(フラグ)
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