よう実 Aクラス昇格RTA Dクラスルート   作:青虹

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2022年最初の投稿なので初投稿です。

モチベーションが復活したので、1年生編は書ききりたいと思います。2年生編をどうするかは未定です。

前回までの内容でポイント計算に誤りがあったので修正しましたが、進行に影響はないので悪しからず。


12月 裏話

 12月に入り、Dクラスは晴れてBクラスへと昇格した。とはいえ、教室が変わったわけでも、席が変わったわけでもなく意外と実感は伴わなかった。Cクラスが違反行為をして100クラスポイント失ったとはいえすぐ後ろには一之瀬たち元Bクラスがおり、依然予断を許さない状況にあることは間違いない。

 そんな中、愛はとある人物と接触を図るために図書館を訪れていた。向かう先はミステリー小説が所狭しと並べられている棚。そこに椎名ひよりはやはりいた。熱心に本を探している蒼白の髪の少女は、現Dクラスの生徒である。

 

「椎名ひよりちゃんだよね?」

「はい、そうですが……。あなたはあの八遠愛さんですよね」

「正解」

 

 あの、とはなんだと思った愛だが、それは口にしなかった。有名人だという自覚はあったし、それだけのことをしているという心当たりはあったからだ。

 

「どの様な用でしょうか?」

「たまには本でも読もうかなって。椎名ちゃんが本が好きなのは聞いてたし、せっかくならおすすめを紹介して欲しいかなって思って」

「なるほど、分かりました」

 

 わずかに目を輝かせながら、椎名は愛に合いそうな本を手に取っていく。

 

「八遠さんはミステリー小説を読んだことはありますか?」

「実はないんだよね……」

「ではアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』がおすすめですよ」

「あっ、名前は聞いたことあるかも」

 

 世界的ミステリー作家の代表作である作品。定番だからこそ面白いのだと椎名は言った。

 

「あとは『モルグ街の殺人』も合うと思います。この作品は推理小説の原点とも言われていて、展開は王道ですがわかりやすくて入りやすいと思いますよ」

 

 手に取って分かったが、短編小説らしい。数十ページで話が終わるため、確かに読みやすそうである。

 

「なるほど。じゃあ両方とも読んでみるね」

「そう言ってくれて嬉しいです。私はいつもここにいるので、よければ読んだ感想を聞かせてください」

「うん、そうするよ」

 

 そうして手続きをして、昼休みが終わるまでの間愛は読書に没頭した。

 話が中盤に差し掛かったところで本を何冊も抱えた椎名がやって来て、一番上から順に読み始めていた。思わずそれを全部読むつもりなのかと聞いたところ、もちろんですと返ってきた時は正気かと疑ってしまった。

 しかし人にはそれぞれ没頭できることがあって、椎名にとってのそれが読書なのであればそれは苦行ではないのだろう。

 

 では、愛にとって没頭できることは何だろうか。今まで色々なことを試してみたが、何でもすぐにマスター出来るためにすぐに飽きてしまう。

 継続できることの要因の一つとして、成長を感じることが挙げられる。今までできなかったことができるようになって達成感を覚える。すると、人は更なる向上心を抱きのめり込んでいく。

 

 愛は今まで色々なことに手を出してきたが、どれもすぐに上達してしまう。成長を感じることは大切なのだが、その過程での苦労も必要だ。つまり何の苦労もしていない愛には達成感を得ることはできなかった。

 

 いずれにせよ。今は没頭できることがある。それからのことは後でじっくり考えればいいだろう。

 そんなことを考えていたら昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り、愛は現実世界に戻ってきた。

 

 ちょうど終盤に差し掛かるところで時間を迎えてしまったため、続きが気になって仕方がなかったからだろうか。この日の授業はいつもよりも早く終わったような気がした。

 

「……時間ですか。読書をしていると、あっという間に時間が過ぎてしまいますね」

「たしかに。こんな感覚は久しぶりかも」

「そうなんですか。意外です」

「意外?」

「はい。私が見る限り、八遠さんは常に楽しそうにしていますから。八遠さんのことはあまり知らないので、間違っていたらごめんなさい」

 

 椎名の言うことは正しい。中学生までの目標もなく何となく過ごしていた日々とは大違いである。

 友達は当然おらず、むしろどこか避けられているようだった。「できるヤツ」はちやほやされるが、「できすぎるヤツ」は避けられてしまうらしい。レベルが高すぎる相手には挑まない。そういうことなのだろう。

 

「間違ってないよ。高校生活は楽しめてる」

「よかったです」

 

 授業の開始時刻が刻一刻と迫っているため一度お別れとなった。本の感想を語り合う約束をし、愛は教室に戻った。

 

 そして放課後、いつものように堀北と家に帰ろうとした愛だったが。

 

「八遠、ちょっといいか」

 

 それは出待ちしていた茶柱の手で早々に打ち砕かれることとなった。

 

「何の用ですか?」

「着いて来い」

「はぁ、わかりました」

 

 堀北に先に帰るように伝え、いつの間にか移動を始めた茶柱を追いかけるように愛は急いで歩き始めた。

 行き着いた場所は生徒指導室。半年ぶりだった。愛を座らせ、対面するように自身も腰を下ろすと茶柱は口を開いた。

 

「ここでこうして話すのも久しぶりだな」

「そうですね。あの時はプライベートポイントでAクラスを目指すのはやめた方がいいと言われた気がします」

「気がする、ではない。そう言ったのだ」

 

 そうでしたっけ、とわざとらしく愛は呟く。茶柱がそう言ったことははっきり覚えていたが、愛からすればあまりにもくだらないことだったので引き出しの奥の奥に入り込んでしまっていたのだ。

 今思えばプライベートポイントを2000万集めるのはあまりにも苦行だったし、ここまでこの学校の試験を経験してきてクラスポイントを集めた方がAクラスを目指すには適している。

 だからと言って、もう一度1からやり直すとして方針を転換させるのかと問われれば愛は首を横に振るだろう。

 クラスポイントを手に入れられる機会は限られており、そのタイミングを逃さず最大量集めるだけの作業になりかねないからだ。ただ、これは記憶持ちだから言えることであって普通であれば当てはまらないかもしれない。しかし愛は当てはまらない方の人間だ。模範解答を片手にテストに臨んだところで、それに従えば確実に100点を取ることが出来るが、それが果たして楽しいのかと言われてハイという人間はいない。

 

「この前の特別試験ではかなりクラスに貢献していたようだな」

「何のことですか?」

「話は聞いている。現Cクラスとの合同勉強会の発案者はお前だとな」

「星乃宮先生から聞いたんですか」

「ああ。お前の手柄にしないようにと頼み込んでいたらしいな」

 

 一之瀬経由だろう。そういえば勘は鋭かったな、と愛は他人事のように思った。

 

「それは認めますが、それが何か?」

「Dクラスは今月Bクラスに昇格した。そしてBクラスとCクラスはそれぞれCクラス、Dクラスに降格となった」

 

 思えば5月の時点でBクラスとは700ポイントほど離れていた。しかしそのポイント差は縮まり、ついにひっくり返した。茶柱からしたら、トラウマにも等しい過去を忘れることができる千載一遇のチャンスのはずだった。

 

「あの時全てのクラスポイントを失ったDクラスがこれほどの早さで息を吹き返すなど誰も想像していなかった」

「そうでしょうね。今までDクラスがCクラスに昇格したこと自体が珍しいとのことでしたから」

「ああ。しかし、疑問も残る。半年前、私とお前はここで話をした。その時お前はプライベートポイントでAクラスに移動すると言っていたな。だが振り返ってみればどうだ。無人島試験でも船上試験でも体育祭でもペーパーシャッフル試験でもお前は結果を残している」

「知らない人からすれば、私がDクラスに貢献しているように見えますね」

 

 茶柱は静かに頷いた。

 無人島試験でリーダーの名前を書いたのも、船上試験の法則を見つけたのも愛だ。体育祭はクラスとしては負けたが、愛個人の成績は学年1位だった。

 ペーパーシャッフル試験でも同じことが言える。

 しかし、愛は自身のクラスがAクラスに昇格することを良しとしない。それでは目的は果たせないからだ。

 これからはAクラスを抜かないようにポイントを調整しようとしていることは、茶柱も分かっていた。

 

「現時点で我々とAクラスのポイント差は473ポイント。決して楽ではないが、お前が2000万ポイントを集めるよりは現実的だと思うが?」

「方向転換をしろ、ということですか?」

「端的に言えばな」

 

 Aクラスとは若干離れているとはいえ、今までのペースを考えればその方が楽だということは明白であった。

 

「無理な話ですね、それは」

「そうか」

 

 しかし、愛がそれを拒否することは想像に難くなかった。茶柱は愛の返事を軽く流す。

 プライベートポイントを使ってクラス間の移動をすることを目論む生徒はかつてにもいた。成功までの道筋が見えているのか、はたまた考えなく突っ走っているのか。愛の能力からして前者だと茶柱は結論づけたが──何よりタイミングが最悪だった。

 入学者名簿に目を通した時、平田や堀北、櫛田、高円寺といった能力が高い生徒がDクラスに集まっていることが分かった。

 0ポイントからのスタートとなってしまった時は諦めかけたが、長年の思いは簡単には燃え尽きなかった。

 坂柳理事長が特別な生徒だという綾小路とオールAの愛がいたため、逆転の目はあると考えていた。

 しかし愛は茶柱を裏切るような形でプライベートポイントでのAクラス昇格を宣言した。

 残された綾小路に期待するしかない──そう思っていた。だが今、DクラスはBクラスに昇格している。

 

「だが、お前がAクラスに昇格するという点では変わらない」

「そうかもしれませんね。ですがそれではつまらない、そう思いませんか?」

「つまらないだと?」

「試験ごとに数百単位で動くポイントを自分のところに集めればいいだけですから」

 

 作業ですよ、そんなものと愛は当然のように言ってみせた。

 

「ですが、2000万ポイントを集めるためには多少知恵を働かせなければならない。急ぐほどに、さらに高度なものを要求される。クラスポイントよりは難しいんですよ、これが」

「感想など求めていない」

「でも茶柱先生が求めているものはここにはありませんよ」

 

 茶柱も愛も、Aクラスに昇格したいという点では一致している。しかし手段は決して相容れないものだった。

 

「悲しいですね。目的は同じなのに、ここまで分かり合えないなんて」

「……ああ、そうだな」

「私が勝手にAクラスを目指すこと自体は何も問題ないと思うんですけどね。何かやらかしても私が自滅するだけですし。でもクラスポイントでとなるとAクラス昇格目前で大きなミスを犯したら……一生ものの後悔だと思いますけどね。そう思いません? 茶柱先生」

「……」

「何度も言いますが、私のやり方を変えるつもりはありません。止めたければ私が2000万ポイントを集めるより先にAクラスに昇格させてくださいね。……万が一そんなことになれば、無理矢理下げますけどね」

「そんなことができるとでも?」

「クラスポイントを上げることと逆のことをやればいいだけですから。手を抜いてクラスの意向に背けば、あれよあれよという間に下がっていく。増やすよりは簡単ですよ」

 

 愛は生徒指導室を後にした。茶柱はそれを見送ることしかできなかった。

 

「……やはり私はあの罪を一生償っていかなければならないのだろうか」

 

 一人残された茶柱は、力なくそう呟くことしかできなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 師走の季節は早くも中盤へ差し掛かり、寒さがより一層強まってくる中、いよいよ冬休みが目前に迫ってきた。

 学校の規則により帰省は出来ないものの、特別試験はなく完全なオフとなる。年内の特別試験は全て終了しているため、Bクラスの空気の緊張感は和らいでいた。

 

 しかし、そろそろ龍園たちがアクションを起こしてもおかしくないと愛は考えていた。Xの正体である綾小路を炙り出そうとする時期がちょうど今のはずだからだ。

 現に、Cクラスのつきまといを受けているという報告が一部生徒から上がっている。愛もその一人だったが、付き合うだけ無駄だとわかりきっていたため無視を決め込んだ。他の生徒に比べて、自宅に篭ったり部活をしたりしている時間が圧倒的に長いという恩恵もあったかもしれない。それでも部全体に悪影響が出かねないほどのストーキングを受けた時は、ミスを装って急所にテニスボールをぶつけておいた。誰が何と言おうとミスである。

 

 しかし愛には待つことしかやることがなく、気が抜けているのも事実だった。

 いくら最速を目指そうにも、あらゆる手を使えるわけではない。詐欺をすれば当然処罰を受けるし、常にポイントを稼げる場があるわけではない。カジノがあればなぁと思ったが、日本ではまだ合法ではないし高校生がやるべきことではないだろう。

 愛ができることと言えば、特別試験でできる限り多くのポイントを集めることだけだ。

 

 この日も、いつものように晩御飯は何にしようかなぁとか考えながら帰宅するために荷物をまとめていた。

 

「ちょっと失礼するぜ」

 

 Bクラスの穏やかな空気を一瞬にして張り詰めさせた、鋭い一声。龍園翔だった。彼は石崎やアルベルトら取り巻きを連れてやってきており、Dクラス内の緊張は一気に高まった。

 

「どうしたのかな、龍園くん」

「別に俺がこのクラスに遊びに来たって問題ねぇだろ? 同級生なんだからな」

「そうだね。でもこの学校では事情が変わってくる。君がこうやって訪ねてくるのも初めてだしね」

 

 クラスの代表として危険な来客の対応をする平田。他のクラスメイトはただ見守っているだけだった。というよりも、見守っているのが最善だった。

 Bクラスを一瞥した龍園と視線が合ったことを愛は感じたが、気づかないふりをする。

 その視線は最終的に高円寺へと行き着いたが、本人は気づいていないのか気にしていないだけなのか、荷物をまとめて教室を後にしようとしていた。

 当然龍園がそれを許すことはなく、高円寺の行手を阻んだ。

 

「私になにか用かな?」

「ああ。あと八遠、お前も来い」

 

 突然の指名に、隣の堀北が驚きと疑いの眼差しを向けた。その直後に、それ以外のクラスメイトからの視線も集まった。『高円寺とセットだしな』と言わんばかりの目が、何十個も向けられた。

 

「八遠さん、あなたまた何かしたの?」

「何もしてないしそもそも『また』って何!?」

「あなたいつも落ち着きがないじゃない」

「やることがいっぱいあるだけだし!」

 

 愛は鞄を持ち、教室を後にする。一瞬のうちにDクラスの生徒に囲まれ、逃がさないという意思をひしひしと感じた。

 

「高円寺くん、なんだがSPに守られてるみたいだね!」

「年上の女性だったら最高だったんだがねぇ」

「それ多分下心丸出しの男が集まってくると思うな」

 

 ある意味で身の安全は保障されていそうではある。

 最序盤で地下牢獄にぶち込まれるファンタジー世界の主人公のようでもあるなぁ、と思いながら龍園の後ろをひた歩く。

 

「龍園くん、どこに向かってるの?」

「話がしやすい場所だ。この辺は人が多いからな」

「人通りの少ない場所……。もしかして私、襲われちゃう?」

「俺がそんなことするわけねぇだろ変態が。ペドフィリアでもない限りお前を襲うヤツはいないだろ」

「ジョークに対してあんまりな言い草すぎる……ッ!」

 

 メンバーが特殊すぎるが故にこれといった会話や有力な情報が溢れることもなく、並木通りから少し外れた人気のない場所に誘導された。

 

「ちょっと待ちなさい。あなたたち2人に何か用かしら」

「クク、やはり釣られたか」

 

 そこに堀北と綾小路も合流する。平田はいないようだ。別段仲が良いわけでもないので、いてもいなくてもさほど変わらないが。別でやることがあるのであればそちらに取り組んでもらっていた方がありがたい。

 

「それで、話とは何かね? この後も予定があるから早く行きたいのだが」

「ハッ、そんなに焦るんじゃねぇよ。俺が聞きたいのはBクラスを裏で操っているヤツのことだ。それとお前らには借りがあるからな」

「借り……? 身に覚えがないね。高円寺くんは?」

「私も何のことかさっぱりだね」

「干支試験ではお前らのせいでポイントを取り損ねたんだよ」

「あっそうなんですか。……おっと落ち着きたまえドラゴンボーイくん! ここで暴力に頼ったら退学処分になってしまうかもしれないよ……っと、か弱い女の子相手に突然の一撃は卑怯じゃないかな?」

 

 そうは言うものの、生徒会長の稽古のおかげか不意打ちでも見切れるようになってきたので当たることはほぼないのではないかと思う。全力の綾小路を相手にしたら流石にひとたまりもないかもしれないが。

 

「もう一度口にしてみろ。次はぶっ殺すからな」

「きゃーこわーい」

 

 この学校だからなどに関係なく、いくら人気のない場所でも人を殺すという行為を容易に行えるわけがない。

 

「とはいえ龍園くん、やり方が汚いというか、小賢しいというか、小物臭いというか、何というか……」

「俺はただ手段を選ばないというだけだ」

「よりかませ犬感が増したッ!」

「お前、龍園さんのこと好き放題言いやがって……!」

「落ち着け、石崎。このチビがこうして吠えていられるのも今のうちだ、好きにさせておけ」

「は、はい」

 

 その割にはドラゴンボーイと呼んだら蹴りが飛んできたではないか、というツッコミは心の中に留め、話を先に進めることにした。

 

「それで、私たちを呼び出した理由って何?」

「お前らのクラスの中に裏でコソコソ動いている奴がいるからそいつを突き止めに来たんだよ。同じことを2度も言わせんじゃねぇ」

「ふむ、だとするとなおさら私が呼ばれた理由がわからないねぇ」

「そうか? 高円寺。俺からすればお前にも可能性があると思ってるが」

「干支試験の時はあの集まりに参加して時間を取られるのが嫌だったからねぇ。カラクリは丸わかりだったからすぐに終わらせただけのことだよ」

 

 愛に手鏡を持たせ、髪のセットをしながら高円寺は話を進めていく。

 

「私はこのクラスがどうなろうが気にしないのでね。たまにこのリトルガールとのお遊びに付き合う程度さ」

「幼女ちゃうわい。あと見にくいなら自分の端末を使ってほしいな」

 

 しかし悲しいことに話は進んでいくが髪のセットはそうはいかなかった。愛と高円寺の身長差のせいだった。

 

「つまり私は無実というわけさ。もっと調べたいのであればいくらでも調べてもらって構わないが、全て無意味だということは先に伝えておくことにするよ。では私はこの辺りで帰らさせてもらうよ。この後も用事があるのでね」

「ああ」

「そんなに簡単に帰らせていいんですか、龍園さん!?」

「こいつはXじゃねぇからな」

「あっじゃあ私もこの後用事あるから……」

「チビは待て」

「私調べでは私はチビではないから帰るね!」

「オカルト雑誌よりもあてにならん調査で誤魔化そうとするんじゃねぇ」

「オカルト雑誌よりはあてになるでしょうがっ!」

 

 突っ込む部分を間違えたような気がしなくもないが、早く帰りたい愛としてはこの状況をどう打開するか真面目に考えていた。勢いで坂柳を呼んだが……。これは時間がかかるやつだ。

 

「おやおや、男数人で女の子を取り囲んで何をするつもりですか?」

「はっ、人聞き悪いな坂柳。聞きたいことがあっただけだ。手荒な真似をするつもりはねぇ」

「ますます怪しいですね」

「八遠、お前が呼んだな?」

 

 一字一句その通りであったが、そのまま肯定すると負けた気分になると思った愛は適当な言い訳をすることにした。

 

「この後遊ぶ約束してただけだし」

「初耳です」

「らしいが?」

「君たち実は仲いいとかないよね?」

「アホか(ないですね)」

 

 否定した割には声が被っている。アニメでよく見るリア充のやりとりだな、と愛は心の中で笑った。

 

 確かに一人で来いとか大人数で来いとか何も言っていない。龍園がなにか面白いことしようとしてると言っただけだ。

 ……大人数で来る要素しかないな。愛は反省した。

 

「ところで、龍園くんが探してるXってどんな人なの?」

「Xは体育祭で俺の邪魔をした。しかしそいつは簡単に仲間を切り捨て、目的のためなら手段を選ばねぇ。俺と考えが近いヤツだ」

 

 なるほど。私ではないな。愛は改めてそう思うと同時に、少しだけ安堵した。

 

「私はどちらかというと表立って動いている方だと思うけどね。船上試験の時からずっと私なんじゃないかとか疑ってるみたいだけど、それは大きな間違いだよ」

 

 愛がそう言うと、龍園は不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

「俺は一度たりともXが一人だと言った覚えはねぇがな」

 

 

 

「ふぅん?」

 

 意表を付かれたが、確かに龍園が言うようにXが一人だとは一度も聞いていない。愛も綾小路も裏でかなり動いているため、その仮説は正しいと言えるだろう。

 

「初めに違和感を覚えたのは5月。須藤に暴力事件を起こさせようとした時のことだ。あの特別棟に監視カメラは一切なかった。だが実際は須藤の正当防衛を示す証拠が提出された」

 

 愛は龍園の話を静かに聞くことにした。どこまで情報を得ているのか、そして現時点でどれだけやれるのか、見定めたかったからである。ここにいる他のメンバーにある程度の秘匿情報が漏れたところで、あまり問題にはならないと判断したということも大きい。

 

「無人島試験でもだ。お前は鈴音と同じ部屋だっただろう。鈴音は試験開始時点であまり体調が優れていないように見えたが、お前はそれを指摘しなかった。結果的に鈴音はリタイアしてリーダーは変更。俺たちの読みは外れた」

「堀北ちゃんが初めから体調不良? 私にはそうは見えなかったよ」

「嘘つけ。いつもはあまり汗をかかない鈴音が一目見てもわかるほどに汗をかいていただろうが」

「えっそんなところまで見てるのストーカーじゃんこっわ」

 

 流石の愛でも引いた。おそらく原作の須藤ですらそこまで見ない。

 

「確かに八遠さんは私の体調不良に気付いていたわ。けれどリーダー変更は元々私が考えていたものよ。もし続行が困難なほどまで体調が悪化した時のために、代わりを綾小路くんにお願いしていたの」

「伊吹は取り返すのに必死だったと話していたがな。体調不良で体力が限界って時にそんな演技ができるとは到底思えねぇがな」

 

 確かに、ここまでの話を聞いているとかなりの情報を集めていることはわかる。しかし直接Xにつながる情報はまだ出てこない。

 

「ククク、この謎のXはじっくり炙り出すことにしてやるよ。ネタは十分集まっているからな」

 

 綾小路を誘き寄せるために軽井沢を使ったことを考えると、もし同じ方法を取るのであれば堀北あたりが狙いか。

 いずれにせよここまで来ると予測することしかできないため、確証を持って動けないと言うのは痛い。

 

「少しよろしいですか?」

 

 ここまで沈黙を貫いていた坂柳が初めて口を開いた。

「私も以前からBクラス内にDクラスの邪魔をする生徒がいるという話は聞いていました。その結果Dクラスだった愛さんたちはBクラスに、Cクラスだった龍園くんたちはDクラスへと落ちてしまったわけです。Xを炙り出す以前に、ドラゴンボーイさんはすでに負けてしまって──」

 

 ドラゴンボーイ、と言う単語が聞こえた瞬間、龍園が坂柳との距離を詰め容赦なく蹴りを放つ。愛も同時に動き出し、間に割って入って攻撃を防ぐ。できるだけ力を分散させようとは努めたものの、体格差から来る衝撃の重さには耐え切ることができず弾き飛ばされる結果となった。

 

「いったぁ、腕が千切れるかと思ったよ」

「愛さん、大丈夫ですか?」

「うん、ちょっとヒリヒリするくらい」

 

 生徒会長から武術を学んでいなければ、本当に腕が折れていたかもしれないと思う程度に、龍園の一撃は愛にとって重く感じた。それを受け流すことができたのは成果が出ているということでもあった。

 

「あなたの今の行為は大問題よ、龍園くん」

「大丈夫、堀北ちゃん。今は重要な話じゃないから」

 

 龍園に詰め寄ろうとする堀北を制し、話の脱線を防ぐ。

 

「話を戻しますが、結果的にDクラスはXに敗北し窮地に立たされているわけです。このようなことをする前にやるべきことがあるのでは?」

「いや、現状はXを探し出すことが最優先だ。そいつらを潰してしまえばBクラスは終わりだからな」

「なるほど、Dクラスのリーダーはあまり賢くないようですね。それが分かっただけでも十分です」

「それはお前だ、坂柳。葛城を利用されて契約を結ばされたんだからな。それにお前もチビとも同じような契約があるんだろう?」

「確かにそうですね。そもそも前者は葛城くんがその考えを示したわけですし。それに後者に関してはAクラスも愛さんもどちらも損するような内容は一つもありませんよ?」

 

 前者は葛城派の失脚につながると思えば坂柳にとってはそこまでデメリットではないのだろう。

 

「龍園くんは本来得られるはずだったクラスポイントを自ら手放し、その結果今あなたたちはDクラスに転落している。到底正しい判断だったとは思えないわね」

「そうか? これで俺たちはクラスポイントを200ポイント得られたも同然なんだぜ? しかもそれはAクラスが失脚しない限り永続的に続く。どこかの誰かがAクラスにクラスポイントを貢いでいるおかげでしばらくは安泰だろうがな」

 

 これでDクラスは、仮にクラスポイントを全て失ったとしても最低限の収入が保証されていることになる。とはいえ、真の目的はそこではないだろう。

 

「龍園くん、今日はもういいでしょ。これ以上は平行線だよ」

「ああ。今日のところはこの辺りでいいだろう。行け」

「よぉし、有栖ちゃんどこ行く!?」

「ものすごいテンションの変わりようね……」

 

 堀北が頭を抱えているのをさし置いて、愛は坂柳と共にこの場を立ち去った。

 

 

 

 ***

 

 

 

初夜の道場に掛け声が響く。窓の外は闇夜に染まり、隔離されたような感覚に陥る。

すっかり日常となった学との稽古は、始めた頃と比べて様になっていた。とはいえ学に勝てるわけではなく、才能ある人が努力したらどうなるのかという問いの答えになっていた。

愛がこの領域に到達しようとしたら、学以上の鍛錬を必要とするだろう。もっとも、そこまでのレベルを要求しているわけではないのだが。

稽古の最中は、無駄な言葉は発さない。ありすぎる身長差のせいでまともなメニューはこなせないが、それでも当初の目的は達成しつつあった。

 

「鈴音は最近はどうだ?」

 

稽古後、水分補給をしながら学は愛に訊く。ここ最近、ほぼ毎回だ。

 

「数日では変わらないですよ。ですが少しずつリーダーの自覚が出てきたのか、積極的に話をしに行く時もありますけどね」

「そうか」

「あなたの妹はここに来てから見違えるほどに変わりましたよ」

「・・」

 

学が妹を遠ざけるのは、自らを目標に設定して欲しくないからだ。兄は妹の才能をちゃんと評価しているし、それ相応の人間に成長できると期待している。それこそ、自身を越えていけるほどに。

一方妹は兄を目標にし、兄を評価して力を積み重ねてきた。

 

「あなたが堀北ちゃんの何を認めないのかなんて知りませんが、今の堀北ちゃんが先に進むためにはあなたとの和解が必要なんです」

「そこに至るかどうかは鈴音次第だ。己の過ちに気づけるかどうか、そこに全てがかかっている」

 

・・この2人は不器用すぎる。あまりにも。されど、愛は深く介入することはできない。

 

「まあ、よその兄弟の話に赤の他人の私が踏み入るのはおかしな話なので、言いたいことは言わないでおきますけどね」

「ああ。そうしてくれ。・・そうなったら、大事な忘れ物をしてしまうかもしれないからな」

 

これは2人の問題であり、八遠愛の問題ではないのだから。

 

 

 

***

 

 

 

 龍園がBクラスに乗り込んでから数日後。今年最後の登校日の放課後、愛は屋上へと続く廊下に一人で龍園の待ち伏せをしていた。目視で茶柱と学を確認できる位置だ。

 目的は龍園への接触。

 龍園はやはり、最初に綾小路を潰す選択をした。愛とは違い綾小路は龍園を誘導していたので当然といえば当然である。

 愛はここで龍園の今後について問うておく必要があった。このまま身を引くのか、それとももう片方のXを潰しに来るのか。龍園を度外視できるかどうかという問題は、現状の課題にどの程度リソースを割くことができるかという点で重要だった。

 

 しばらくして、予定通り綾小路に叩きのめされた龍園がこちらに歩いてきた。

 

「その様子だと、X潰しには失敗したようだね」

「ああ。俺はX一人ごときに完膚なきまでに返り討ちにあった。表に残り続ける理由はどこにもない」

「今まではあれだけ威勢が良かったのに、いざとなるとあっさりと引き下がるんだね」

「まあな」

 

 いつもの王様気取りな龍園ではないせいか、かなり会話がしづらい。それだけ綾小路に植え付けられた恐怖は龍園にとって大きなものになってしまったということだ。

 

「もう一人のXとやらは諦めるのかな?」

「いずれにせよ、この体たらくではそんなこと出来やしないからな」

「引く、というのはリーダーを降りるだけ? それとも──」

「ここを出ていくってことだ。今までやってきたことが全てアイツの手のひらの上だったんだからな。どうでもよくなった。お前も俺を引き止めるつもりか?」

「別に。私にはやらなきゃいけないことがあるから、龍園くんが諦めずにX潰しを続けるのかどうするのか気になっただけ」

 

 愛は一息ついて窓の外を見やる。清々しいまでの、晴天だった。

 

「けどちょっと失望したよ。諦めないことが君の美徳だったのに、いざこうなるとすぐ辞めてしまうなんてね」

「勝手にそう思っておけ」

「私から聞きたいことはそれだけ。じゃ」

 

 間もなく、新たな年を迎える。クラス情勢が大きく変わり戦いもまた新たな局面を迎えることを感じさせた、龍園のあっけない幕切れだった。




1年生編完結までは週1で投稿したいと思うので、来週まで失踪します。

今回は中途半端な時間の投稿ですが、来週からはキリのいい時間に投稿したいですね。
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