ツクモ!〜俺以外は剣とか魔法とかツクモとかいう異能力で戦ってるけど、それでも拳で戦う〜   作:コガイ

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大樹の罠

「体の内側に意識を向け、魔力の感覚をより明確化……」

 

 ルディアは目を閉じ、集中する。 

 

「外からの感覚は完全に切る……」

 

 例えその耳が、その肌が、四方八方から飛んでくる攻撃を捉えても。

 空気の流れや、空を切る音。

 

「『コレ』の原因となる物を排除……」

 

 敵の攻撃が、体に当たる。その感覚を彼女の脳は読み取るが、()()()()()()()()()()()

 

「打ち破る……この幻術を……!」

 

 活にも似た声、それにより、彼女の感じる世界は霧が晴れたかのように『幻』がなくなる。

 

「ふぅ……幻なんて厄介な物、使うなんてね」

 

 彼女が目を開けると、そこは暗い森の中であった。幻にかかる前と同じ。そして不気味なツタもそこに存在していた。

 

「他の二人は……」

 

 そして、彼女は同行していたはずのイーサンとカリューオンを探すべく、まずは周りを見渡す。

 そこには……

 

「ルディアは幻術が解けたんだな」

 

 大きな耳と尻尾を携えたカリューオンがいた。

 

「ええ。敵は厄介な物を持ってるわね、幻覚を見せる()()だなんて」

「ああ、どこから飛んでいるのかは知らないが、目に見えず、無意識に呼吸で体の内に取り込んでしまう。それでも、魔力で常に洗い流せば大丈夫だろう」

 

 ルディアはひとときの間のみ、幻に囚われていた。しかし、彼女はその現実からの乖離、差異などを見つけ、それが現実ではないとすぐに看破した。

 

「カリュは私より早く幻を解いたみたいね」

「いや。私はメティス様の計らいで、元々他人からの術には耐性を持っているんだ。とは言っても、最初に目眩はしたがな」

「へぇ、便利な物ね。それよりも、イーサン(ヨシアキ)は?」

「……残念ながら幻に引っかかり、何処かへ行ってしまったようだ。私が持ち直したときにはもう居なかった」

「それを早く言いなさいよ!」

 

 イーサンがいない。それは彼女達にとって一大事だ。いくら多少戦闘ができるとはいえ、彼はこの世界の事を知らなさすぎる。そして、もちろんこの森のことも。

 もし誤って、危険な森の奥へと行ってしまったなら……

 

「ともかく跡を追うしかないわ」

 

 そう言うと彼女は何故かしゃがみ足元の地面を触ったりじっと観察しだす。

 

「彼の靴は確か……うん、これね」

 

 どうやら足跡からどこへ行ったかを探し当てるつもりのようだ。

 

「ほう、鹿狩りの経験が活きているみたいだな」

「感心するのは後にして。彼の命が関わってるんだから」

「分かっている。では迅速に行こう」

 

 僅か情報を頼りに彼女らは、この広大な森の中から一人の男を探し出すため、道を外れる。

 その先に予想外の結果が待ち受けていても。

 

 ーーーーー

 

 彼女らの探し人、イーサンは森を彷徨っていた。もちろん、それは現実の森ではなく幻覚によって見せられた偽の森。

 

「はぁ、はぁ……ど、どこまで行けば良いんだよ……」

 

 日の光も刺さない暗い森の中、一寸先は闇とはまさに今の状況だろう。

 下手をすれば木にぶつかってしまうだろう……

 

「いっ……! 木にぶつかったのか……」

 

 ……ともかく、それくらい彼の視界は塞がっていた。

 そんな中、彼は暗闇の中で人影を見つける。もちろん暗いので、その詳細までは彼には分からなかった。

 

「だ、だれかいるのか……?」

 

 声をかけるも、その人影からの反応はなく、人影はそのまま奥へと進む。

 

「ま、待ってくれよ……!」

 

 何の手がかりも目印もないとは言え、その人影を彼は不用意にも追ってしまう。

 そして、辿り着いた場所は……

 

「ここは、家……?」

 

 森には、いや『この世界には』似合わない、現代風の家だ。

 何故、という疑問は彼には浮かばない。ただ、この先に何かがあるような気がしてならなかった。

 

「扉……開けるべきなのか……?」

 

 彼はドアノブに手をかけようとするものの、その直前でためらってしまう。この向こうには何か、恐ろしいものが待っていると、直感していたからだ。

 

「開けなよ」

 

 その時、後ろから声がかかる。

 

「その先に、何があるのか。君にはもうわかってるんだろ?」

「何って……俺に分かるわけが!」

 

 そいつが誰か、という疑問に持つ前に、彼は否定しようとする。しかし、それと同時に言葉に詰まってしまった。

 

「過去に見たことをもう一度見るだけ。そうだろ?

 だから、何の心配もいらない。だってそれは……」

「や、やめろ!」

 

 惑わすような言い方に、彼は顔を伏せ、首を振る。

 

「何をだい? 君はもうとっくに……」

 

 その誰かが、何かを言いかけた瞬間、イーサンの頭に衝撃が走る。

 まるで頭を撃ち抜かれたかのような、けれども本当に貫通したわけではない感覚。もしそうだとすれば、彼はもうとっくに死んでいる。

 

「いってぇ……何だ、急に」

 

 彼は何かが当たった場所である頭を触る。そこは何故か濡れていた。

 気づけば、謎の声はなく彼の視界は緑色に変わっていた。おそらくは森の中なのだろうが、彼の目はぼやけており、しっかりと物を捉える事ができなくなっていた。

 

「……さ……、ヨシアキ!」

 

 そして、聞き覚えのある声が耳に入る。その声は

 

「ルディア……? どこにいるんだ、ルディア!」

「ヨシアキ、ここよ!」

 

 段々と彼の感覚が明確になっていくと同時に、彼は自身の置かれている状況を把握していく。そして、ルディアがどこにいるのかも。

 イーサンは、周りにツタの壁が阻んでいる事に気がつく。だが、そのツタの壁は所々隙間が空いており、そこからルディアやカリューオンの姿も見えた。

 

「ルディア、カリューオン! ここは一体……」

「話は後! そこにいるやつから早く逃げて!」

 

 彼女が指差した方向に、彼が目を向けるとそこには

 

「な……」

 

 絶句するしかない、巨大な物がそびえ立っていた。

 周りの木とは比べ物にならないくらい巨大な大樹。高さ十メートルをゆうに越えたそれは、しかしその表皮が作る模様はどこか人間の顔をしているかのようで、僅かに動いている。

 しかも、周りのツタを自由に操っているようで、その数は数えきれないほどの無数。しかも、それは不気味に蠢いていた。

 極め付けは所々から生えている獣の足や顔だ。それは大樹が吸収しているが如く、ズブズブと取り込まれていく。

 そこで、彼は思い出す。この森に連れてきた馬車の御者の話を。

 

「魔物がいないって……こいつが吸収してるのか!」

 

 周りの魔物を吸収する事で巨大化し、ここまで成長した。それがこの大樹の真実だろう。

 

「そんなこと言ってないで早く逃げろ! 君は幻覚を解く術を持たないのだから……」

 

 カリューオンの必死の警告も虚しく、イーサンはまたもや感覚が朦朧としてくる。

 

「あ……まずい……またあれが……」

 

 彼の体はひざまずき、動かなくなってしまう。おそらくは幻覚を見せられてしまったのだろう。

 

「ヨシアキ! ヨシアキ!

 ……呼び掛けても無駄か。とにかく、向こうに行く方法を探さなきゃ、彼が危ない!」

 

 大樹から伸びるツタの触手、それはイーサンに向かっている。何をするつもりか彼女らに検討はつかないが、良くない事で間違いはない。

 

「このツタがあの大樹の意思で動いているなら、入口なんて作ってる訳がないだろう。

 ここは力技で切り開くしかないな」

 

 カリューオンは爪を立て、ツタを切り落とそうと構える。しかし、

 

「っ! カリュ、後ろ!」

 

 後ろから二匹の魔物に襲われてしまう。

 

「なっ……! はあっ!」

 

 それぞれ蹴りと直剣でなんとか対処したものの、その魔物の姿は衝撃的なものであった。

 

「こいつらは……! 先ほど倒したはずでは!」

 

 その二匹の魔物、片方はツノが生えてイノシシで、縦に傷跡があり、もう一匹は胸にアザがある熊の魔物であった。

 しかもその二匹、体が植物に浸食されているような姿であった。

 

「どうやら、あの大樹が何かを仕掛けたみたいね。なら、もう一回倒すだけよ!」

「グオオオ!」

 

 イノシシが突進を仕掛け、熊は爪を振り下ろす。その行動はさっきと全く変わらず、二人にとってそれは、ただの繰り返しだ。

 

「はあっ!」

「これで!」

 

 ルディアはイノシシを傷跡に沿って真っ二つにし、カリューオンは胸のアザにに向かって手を貫通させる。しかし、

 

「こいつ……再生してる!?」

「く、心臓がないか!」

 

 どちらも違った結果を見せる。

 イノシシは真っ二つにされながらも、その断面から触手のようなものが生えて、元に戻っていく。

 熊は生物の要である心臓がなく、カリューオンはそれを掴む事ができず、さらにはそのまま襲いかかってくる。

 

「ウオオオン!」

「舐めるな!」

 

 右腕による押し潰すような一撃をカリューオンは咄嗟にもう片方の手で止める。どちらも人間ではないその腕力で、拮抗状態となる。

 その隙に彼女は腕を引き抜こうとするが、

 

「っ、離さないつもりか!」

 

 触手が彼女の体を掴む。

 

「ウゴオオオ!」

 

 動けなくなった彼女を、熊はもう片方、左腕の一撃を加えようとする。が、

 

「ふっ……!」

 

 彼女は体を上下逆さに捻り、ローリングソバットもどきで熊の左肩をぶち抜いた。

 

「グガッ……!?」

「まだっ!」

 

 さらには、それに続くように頭、腹、右肩へ、次々と蹴りの連撃を続け、最終的に彼女の捕まっていた腕の周りを剥がしていく。

 さながら、鮮やかに舞う蝶のようでありながら、荒々しさを持つ蜂のようだ。

 

「……厄介だな」

 

 しかしながら、体をバラバラにしても、その一個一個の動きは止まらず、また元の体へと戻ろうとしていく。

 

「それだけじゃないわ。奥、まだ来るわよ」

 

 ルディアの言う通り、森の暗闇の中から次々と魔物の大群が押し寄せてくる。

 あの大樹は吸収するだけでは飽き足らず、魔物の体を支配しているのか。

 

「不死身の軍団……まさにこの状況を表すにはちょうど良い言葉だ。全く、ただの人探しかと思えば、とんだ厄介事になったな」

「本当にそうね。この量、まともに相手してもキリがないわ」

「どうする? 彼は助けるんだろう?」

「当たり前よ。見てカリュ、あいつらの体、触手で繋がってるみたいよ」

「ほう、よく見つけたな。そして、それらはすべて大元であるあの大樹に繋がっている……」

「そう言うことよ。私が火の魔術を使う。そうすれば、まとめて燃やせるはずよ。

 カリュ、アンタは一瞬でいいから足止めをして」

「了解だ」

 

 一歩、カリューオンは前にでると、大きく息を吸う。そして、最大限まで吸った瞬間に息を止め、溜めていた空気を吐き出すかのように

 

「破ッ!!!」

 

 耳をつんざくような声を上げる。

 体に強制をするような声によって魔物たちは気圧され、動きを止める。

 対象でないルディアでさえも、その体にピリピリとした軽い雷が通ったかのような感覚に陥る。

 

「魔術……じゃ、ないようね。単純な技か、それともツクモに似た何かか……」

「ルディア、今だ!」

「……ええ、分かってる!」

 

 ルディアは魔力を火に変換し、手のひらに集める。数は三。少なく思えるが、それは手始めでしかない。

 

「威力は小さいけど……! 火球(ファイア)!」

 

 手を前に突き出すと共に、その火球らは魔物へと向かい、敵の体を燃やしていく。しかも、火球は当たった瞬間に破裂し、周りにいた魔物にも火を移す。

 それにより、放った数である三よりも多く、敵を燃やしていく。

 

「まだまだ!」

 

 しかも、彼女の追撃は止まず、さらに他の魔物にも火球を放つ。連射していく様は、機関銃のようだ。

 

「グオオオ!」

 

 火を纏い、次々と苦しんでいく魔物であったが、それと同時に大樹と繋がっているツタとは切り離され、火を消そうと転がり始める。

 

「末端は切り落として、元となる大樹には燃えないようにしているのか!

 ただの木にしては、知能が高すぎる……!」

 

 大樹には届かなかったものの、魔物の軍勢は数を減らし、彼女らは優勢に立っていく……かに思われた。

 

「っ……」

 

 突然、魔術で敵を焼き尽くしていたルディアは膝をついてしまう。

 

「なっ……ルディア! どうしたんだ!」

「ごめん……アンタ達との戦いの疲れがまだ残ってたみたい……。魔力ももう底をついちゃった……」

 

 一人が戦闘不能となる。それは大きな痛手だ。言い方を変えれば、それは足手まといとなるのだから。

 

「く……メティス様がいれば……」

「……そうよ、メティス。カリュ、アイツを呼べないの……? 使い魔なら、主に……」

「悪いが、無理だ! 実はさきほどから連絡を取ろうとしているのだが、反応がない……!」

「絶体絶命ね……」

 

 そういいながらも、おぼつかない足取りで彼女は立ち上がる。

 

「ルディア……!? 無茶をするな!」

「いいえ……ここで無茶しなきゃ、死ぬだけよ」

 

 彼女達の目の前にはまだ魔物が多く残っている。瀕死ぎりぎりの状態の者がいるなかで、逆転するならば、それはツクモしかない。

 

「私がやるわ。アンタはヨシアキをお願い」

 

 ルディアは刃渡りそこそこの剣の代わりに、小さく扱いやすい短剣を手に持つ。

 それこそ、彼女が本気である証拠。短剣には人の顔をしたオーラが浮き出る。触れるだけですべてを切り開くそれは、さらに光を強くする。

 彼女の想いが強くなっていく証拠だ。

 

「無茶だ! いくらツクモの力とはいえ、この数を相手に……」

「やるわ。やってみせる。その想いを可能にするのが、ツクモの力よ」

 

 こうなってしまえば、頑固として動かない。敵として相対した時も、そう考えていたカリューオンは、もう半ば諦めていた。

 

「……死ぬなよ」

「当然よ。やるなら全員生き残る」

 

 絶望的な状況で、彼女たちはそれでも希望を掴もうとする。果たして、その結末は……

 

「なっ……!」

「何……!?」

 

 まだ、だった。この盤面をひっくり返す要素はもう一つあった。

 ツタの壁の向こうから光が、熱線が放たれる。

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