ツクモ!〜俺以外は剣とか魔法とかツクモとかいう異能力で戦ってるけど、それでも拳で戦う〜   作:コガイ

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炎を纏い

 ルディアとカリューオンの戦闘中、善明はまた幻覚を見ていた。真っ白な空間で、ただ彼一人。

 

「また……か……」

 

 そして、もう一人。姿ははっきりと見えないが、彼はなぜか自身より少し年上で、男だと判断する。しかし、さっきの謎の声の主と同一人物かどうかまでは分からなかった。

 

「……うん、君がいいね」

「何の事?」

「いや、まあ、気にしなくていいよ。

 俺はただ君に力を与えるだけだから」

「はあ?」

 

 謎の男の言葉は、善明を疑心にさせる。急に出てきて力を与えると言うのは、怪しいほかないだろう。

 

「あ、ごめんごめん。説明不足だったね。

 ……とは言っても、どう説明したらいいやら」

「あなたは……誰だ?」

「誰、か。俺は……正義のヒーロー、謎の男だ!」

「はあ?」

 

 その言動で、ますます怪しくなってしまうその男は、ぼんやりとしか見えないはずなのに、ポーズを決めている事はなんとなく分かる。

 

「まあまあ、俺の事はどうでもいいよ。

 どうせ、()()()()()()()んだから。」

「それって、どういう……」

「とにかくだ。俺は君に力を与える。

 君は難しい事を考えずに、思うがままに力を振るう。

 本当はそういう事、タブーなんだけど、君なら、君たちなら大丈夫だと思うから」

 

 男は、手のひらから光をだし、その光の玉は善明へと入っていく。

 

「え、ええ!? 何、さっきの!?」

「俺の力だよ。とは言っても、君が何を『想う』かで、変わっていくはずだ」

 

 男の言うことに何一つ理解できていない善明、しかし別れの時間と言わんばかりに、男はさらにぼやけていく。

 

「こ、今度は一体……?」

「時間切れだ。細かい説明はあまり出来なかったね。

 とにかく、君は気負わずにいけばいい。俺が勝手に期待しているだけだから。

 何をするべきかは自分で決めることだから」

「ま、待ってくれ! そんなこと言われたって何も……!」

「君の知りたいこと、それは僕の——が教えてくれる。だから……」

 

 ノイズ、善明の視界にそれが走る共に、真っ白な空間はなく、男の姿はなく、現実である暗い森があった。

 大樹や、周りを囲んだツタの壁もそのまま。そして、迫りくる触手、それが彼を襲おうとしている。

 

「なっ……く、来るな!」

 

 手に持っていた剣で触手を斬るが、無数に近い数に襲われては、その勢いを止めることはできない。

 

「これじゃ、キリが……!」

 

 素人の彼でも分かる絶望。今の自分では、乗り越えられない状況。

 そう、もっと力があれば……

 

 ——おい、俺を使え。

 

「えっ?」

 

 彼が求めたと同時に、脳内に声がかかる。またあの男かと思われたが、確実に違う。

 それは、そう、どこか親近感があるものだ。

 

「誰、だ?」

 

 ——いいから、使え! その手に持ってるやつをな!

 

「手って……」

 

 彼は剣を眺める。手に持っていると言えば、これと盾しかない。

 その剣が、語りかけてきた。彼はそう直感する。

 

「これしかない……!」

 

 右手に持った剣を、彼は無意識に左手に持ち替えて、掲げる。

 するとどうであろう。

 

「うわっ!?」

 

 掲げた本人ですら、驚くほどの光が剣から放たれる。

 

「なっ……!」

「何……!」

 

 そして、壁の外にいたルディアとカリューオンでさえも、その光に驚きを隠せなかった。

 

「あれは……ヨシアキか?」

「だとしたら、あの光は……いや、あれは炎!」

 

 彼の剣から放たれる光は、全てを焼き尽くす。植物の魔物やツタの壁。彼の障害となるものは、炎に包まれる。

 

「これは、俺の力……?」

「そうさ! お前の隠されし力だ!」

「な、なんだこれ!?」

 

 そして、善明は自身が持つ剣の変化に初めて気づく。

 人の顔した霊のような何かが、剣の周りに漂い、しかも剣自体も変化していた。多少の装飾と鍔の真ん中には赤い宝石が埋め込まれている。

 そして、最大の変化はその刀身だ。刃渡りが先ほどの五割増しとなり、ルディアの剣よりも長くなっていた。

 

「お、お前は……?」

「俺か? 俺はそう……『ムラクモ』だ! よろしくな!」

「お、おう! よろしくな!」

「さて、ヨシアキ……今はイーサンだっけか?」

「な、なんで俺の名前を?」

「そりゃあ、俺はお前だからな!

 そんなことより、敵を倒すんだろ?」

「そ、そんな事できるのか?」

「おうよ! 俺がついているんだから当然だ!」

「おおっと……!?」

 

 そういうと、剣は持ち主の意に反するかのように、刃先が大樹へと向く。

 

「さあ、『想え』! 敵を倒すってな!」

「あ、ああ! 敵を倒したい!」

 

 彼の言葉と共に、赤き炎は強く輝く。

 燃え盛る炎は白にも近く、天まで突き刺さりそうなほど巨大と化していく。

 

「うおっ!?」

「そうだ! その気持ちだ!」

 

 そして、それと共に、ムラクモと名乗った霊もその体を大きくしていく!

 

「来た来た来た! その『想い』受け取ったぜ!

 そう! 我が名はムラクモ! 火をつかさりし剣だ!」

 

 火炎の嵐が剣を中心として吹き荒れる。彼を襲っていた触手も、その炎に焼かれ、近くことさえ許されなかった。

 

「熱い! 熱……くない?」

「そりゃそうさ! この炎は敵を倒すためのモンだからな!

 さあ! 今度はこの俺を振るえ! あの大樹に向かってな!」

「大樹……」

 

 善明は視線を手に持つ剣から、この元凶である大樹に向ける。

 不気味なその顔は、彼を睨み、また天敵として恐れているような気さえもした。

 

「よし、それじゃあ……」

 

 彼は構える。その剣を、敵を全て焼き尽くす炎の大剣、いや巨剣を!

 振り下ろすような構え。一撃で決めるという想いから来たそれは、

 

「ムラクモ! 行くぞ!」

「おうよ!」

 

 今、天が堕ちるがのように斬撃として放たれる!

 

「ブレイクバースト!!!」

 

 耳を貫くような轟音と、視界を塞ぐような輝きが、この場を全て包み込む。

 

「ウオオオオ……!」

 

 それは大樹の叫び声であろうか、低重音の断末魔を上げるが、それは炎によってかき消される。

 燃えて燃えて、幻覚も現実も、彼の敵となった者たちは灰と化していく。魔物の軍勢も、大樹の全ても。

 

「これが、本当に俺の力……?」

「だから、そう言ってんだろ。まあ、ここまでとはな。俺も驚きだな!」

 

 ニヤリとムラクモは笑うが、善明はそれどころではなかった。目の前をゴウゴウと燃え盛る炎に、それは自身がやったのかが、未だ半信半疑であった。

 

「たった一回、剣を振っただけなのに……」

「ヨシアキ!」

「ヨシアキ、大丈夫か!」

「る、ルディア! カリューオン!」

 

 駆け寄ってくるルディアとカリューオンに、善明はその困惑する心を一旦置いておく。

 

「大丈夫、なんとか平気だ」

「本当ね? なら、速くここから離れるわよ! 事情は後で聞くから!」

「な、何でだよ」

「周りをよく見ろ! こんな火事現場の真ん中にいると危険だ! 何が倒れてくるか……っ!」

 

 カリューオンが言ったそばから、火を纏った大木が彼女らに向かって倒れてくる。

 

「はあっ!」

 

 が、しかし、カリューオンの手刀の一閃により、それは砕ける。

 

「こういう事だ! 他にも何があるか分からん!」

「わ、分かった! とにかく離れれば良いんだな!」

 

 善明が了承した共に、三人はその場から走り去るように離れる。

 

「アンタ、そんな力どこに隠し持ってたのよ!」

「分からない! 急に変な男に会ったと思ったら今度は剣に変な……ムラクモっていう奴が現れて……」

「剣に……ムラクモ……ってそれ、ツクモじゃない!」

「おうよ! 俺がヨシアキのツクモ、ムラクモだ!」

 

 霊のようにフワリと浮きながら、ムラクモが彼女らの目の前に現れる。

 その姿は人間のようでありながら、炎を象徴するかのように熱い男だ。

 

「つまりは、ヨシアキの世界でもツクモは存在するということか」

「そ、そんなはずないって! だって俺の世界はそういう不可思議というか、非現実的というか……魔術とかそういう物は全部ない筈だ!」

「じゃあ、なんで……!」

 

 走りながらも討論が繰り返される中、彼女らと並行するように、ここ最近で見慣れた物が、何もない場所から現れる。

 それは黒孔であった。

 

「これは、メティスの……」

「はい、正解〜」

 

 黒孔(ブラックホール)から、上半身半分だけ現れるメティス。

 

「カリュからの連絡があったみたいだけども、今はお取り込み中だったかしら」

「いやタイミングはバッチリよ!

 アンタの力であの火事、どうにかできるでしょ!」

「あら、ずいぶん派手にやったわね。このままだとこの森全部焼き尽くしちゃうかしら?

 そうなるとまずいわね。ここら一体の生態系が崩れて、人の生活にも……」

「分かってるなら、さっさとやって!」

「はいはい。もう、せっかちなんだから」

 

 メティスはその上半身だけの状態から、全身を黒孔から出し、空中へと飛ぶ。

 そして、それ以外の三人と一霊は彼女を見守るため、その足を止める。

 

「範囲指定、効果確認。外なる魔力よ、汝らのためにも、我に力を」

 

 手を差し出し、その上に光が集まる。

 その光は魔力だ。しかも、彼女の者だけではない。

 森全体が呼応するように、彼女に魔力を分け与えていた。

 

「確定せよ」

 

 詠唱とともに、燃え盛る木々が結界のようなバリアに包まれる。

 

「集約せよ」

 

 詠唱とともに、その結界は小さくなり、木々は取り残されたまま、炎だけが結界の中に集まる。

 

「静まれ」

 

 詠唱とともに、結界はさらに小さくなり、中にある炎と一緒に、音もなく消えていく。

 

「魔法って……こんな事もできるんだ……」

「……やっぱり、あの時は本気出してなかったわね」

 

 わずか数秒の出来事、しかし災害はその間に治る。これが、英雄と呼ばれた者の力だ。

 

「ふぅ……それで、森に医者を探すはずが、何故こうなっているのかしら?」

 

 メティスは振り返り、善明とルディアを見つめる。

 それは怒りか、はたまた蔑みか。

 

「そ、それは……俺が……うごっ!?」

 

 正直に白状しようとした善明だが、脇腹にルディアの手刀が入る。

 

「私よ。私が魔法で敵を焼き払おうとした。そしたら、不注意でこんなに被害が大きくなってしまったの」

「あら、アナタもこんな失敗することがあるのね」

 

 微笑むメティスであったが、ルディアの言葉を信用しているかどうかは怪しい。その真意を見抜いているかどうかは……

 

「……む? そこに誰かいます! メティス様、失礼!」

 

 しかし、それらを遮るように、カリューオンは黒く焼け焦げた森の中に入っていく。

 かつては木だった物をどかしたり、持ち上げたり、大樹があった根本の場所へと向かっていった。そして、そこには人がいた。

 

「ゲホッゲホッ……ったくよぉ、土ん中に閉じ込められたと思ったら、火が上から迫ってくるなんて、どんな地獄だ……」

 

 すこし口の悪い女性が、火災の跡から出てくる。その様子に、善明とルディアはあることを思い出していた。

 

「なあ、ルディア。あれってもしかして……」

「ええ、私もそうだと思うわ」

 

 淫魔から言われていた医者の特徴、その一つ一つを確認していく。

 

「ええと、確か、赤いショートヘアに、白衣。それから、メガネと目つきが悪くて、不良のような顔つき……」

「特徴とピッタリね」

 

 そう、今出てきた彼女こそが、善明達が求めていた医者、そして行方不明となっていたあの淫魔の同居人だ。

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