ツクモ!〜俺以外は剣とか魔法とかツクモとかいう異能力で戦ってるけど、それでも拳で戦う〜   作:コガイ

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突入、初ダンジョン

 私が見るに、こいつはかなり()()()

 普段は面倒くさそうにしたり、戦いを避けたりしている。今回の件も気乗りじゃないし、なよなよしているが、それは力を隠しているだけだ。

 ならば、無理やりにでもついてこさせるべきだ。極限状態になればその力を使わざるを得ないし、最終的には盾にもなる。そうなれば、私は楽にここのボスへと辿り着き、ほぼ疲弊しない状態で倒せる。

 

 先行されてしまったルディアも、流石に道中の魔物との戦闘で体力を使わざるを得ない。そこを横取りしてやれば、私の名声はグンッと跳ね上がる。まあ、そこはオマケだが。

 

 なんにせよ私には力が要る。少なくとも()()()以上の力が。その為にはなんだって利用してやる。

 ここのボスに勝てばこの『ダンジョン』にいる魔物達は私の下につくだろう。魔物の絶対は強者だ。勝てば官軍、負ければ死という価値観がここのやつらには植えつけられている。故に、その個々の強さは人間の上を行く。そいつらからならば力も得られるだろう。

 

 私は力をつけなければならない。どんなやつにでも一人で、この手に持つ武器一つで。『魔法』なんていうセコイやり方じゃダメだ。()()()を倒すのは通過点に過ぎない。私にはそれ以上の目的がある。

 前衛の人間こそ戦いにおいて最強。後ろでちまちまと攻撃するのはただの臆病なだけだ。だから私は戦士として戦い、そして——

 

 その為にはこいつの力は必要だ。最終的に力を手に入れればいいのだから、過程に関してどうこうは言わない。言わないのだが……

 

 

 =====

 

 

「だ! か! ら! 嫌だったんだよ!」

「そらそら! 逃げろ逃げろ!」

 

 リルとソフィ一行が『ダンジョン』と呼ばれる場所に入ってから、約三十分。リルは棍棒を振り回す小鬼に追いかけ回されていた。

 ここの中は意外にしっかりと作られており、壁や天井などは石で補強されていた。しかし、そこへと入った瞬間にあらゆる方向から魔物が襲ってきた。リルからすれば、少なくとも記憶を失ってから始めての遭遇であり、恐怖心と焦りから、冷静ではいられなかった。

 小鬼や犬猫、どこの動物に似た物もいる。

 今、彼を襲っている小鬼もまた魔物だ。

 

「後ろは常に注意しとけ!」

「あべしっ!」

 

 しかし、ソフィの大剣に背中を斬られ、あっさりと倒されてしまう。

 

「ふぅ、この階層は片付いたな」

 

 額の汗をぬぐい、余裕だったというあっさりとした顔で周りを見渡す。彼女の目に映るのは地面に倒れた魔物の数々だった。

 

「はぁはぁ……た、助かった」

 

 対して、肩で息をして安心感で地面に座り込んでいるリル。彼は魔物への恐怖から逃げ、追いかけ回されただけだが、畑仕事の疲労により、体力はもう限界だ。

 

「礼なんていらない。……ったく、私の見立て違いだったか? 逃げてる最中もただ闇雲に見えたし、何回もズッコケてたし」

 

 自身の見当違いに呆れる彼女は、襲ってくる魔物をほとんど一人で倒していた。彼女らがいる階層は地下五階で、階層の広さはそんなに大きくない。

 しかも、魔物は数が多いが、強さに関してはそこそこで、ソフィが大剣を一振りするだけで吹っ飛んでいき、簡単に奥へと進むことができた。

 けれども、リルにとっては一匹だけでも脅威で、戦うすべを持っていないため、ほとんど彼女頼りだった。

 

「……うっ」

 

 しかし疲れからなのか彼は吐き気をもよおす。顔は青ざめ、口を手で押さえて今から吐くのではないのかと思わせる様子だ。

 

「おいおい、ちょっと走っただけでだらしねぇな」

「……いや、そんなんじゃない。この有様を見てると何だか気持ち悪い……うっぷ」

 

 疲れから、ではなかった。彼の具合が悪い真の理由は戦闘の後にできた光景であった。

 斬られたり潰されたりした体。飛び散った赤い血。魔物特有なのか青い血や肉もある。中にはかなりえげつないものもあり、致命傷は免れていても多量出血による死亡となっているのではないのか。

 もちろん、直前まで彼に襲いかかってきた魔物も、だ。

 

「こんなの戦場じゃ日常茶飯事だぞ。それに、こいつらは死んじゃいない」

「う、嘘つけ」

「本当だ。魔物っていうのは心臓と脳みそさえ繋がってれば、勝手に回復しやがるんだよ」

 

 ソフィの言っていることは事実だ。詳細は省くが、魔物の生命力は凄じく瀕死であっても、個人差はあるが半日で完全回復するほどである。

 

「そんで、私はそのどっちも潰さずに倒してきた。

 あ、でも勘違いすんなよ。死ぬ姿が嫌だとか、殺したくないとか、そんか大それた信念とかが理由じゃねえからな」

「そんなもんはどっちでも良い。死んでるか、生きているのかもな。

 俺はこの有様を見るだけで、気持ちが悪……うっぷ」

 

 二度目の吐き気を抑えるリルを、ソフィは『やれやれ』と言いそうな顔で呆れる。

 

「ほら、もう行くぞ。このまま進めば次は親玉かそれを守る門番だ。そろそろルディアとも再開できるはずだ」

「も、もう行くのか? ちょっとぐらい休憩させてくれよ」

 

 気分が悪い、だけではなくまだ息も整っていない彼の具合も考えないソフィは自分勝手な言葉を言い続ける。

 

「残るんだったらいいぞ。残党がお前を狙いにくるかもしれないからな」

「い、行きます! 行きゃあいいんでございましょう!」

 

 疲労と冷ややかな対応に脳みそがおかしくなったのか、訳の分からない返答をしながらも、リルはふらふらと立ち上がり、洞窟の奥深くへと進む。

 

「うう、やっぱ疲れた……」

「文句ばっか言うなよ」

「誰のせいでこんな所に連れて来られてるんですかね?」

 

 リルはソフィを睨みつけるも、彼女はどこ吹く風で、目を逸らす。

 そして、彼らが歩みを進めて地下六階へと降りた時、目の前には一本の通路があった。

 

「ここ、なんかさっきよりも狭くないか?」

 

 そして、異常に気づいたのはリルだ。

 さきほどの階層は広間であったが、ここはそれに比べると道幅がかなり狭い。敵が今まで行ったゲリラ戦には向いていないだろう。

しかも、この通路は整備されておらず、岩肌が表面に直接出ている。今にも崩れやすそうなのに、本当にこの先に黒幕がいるのだろうか。

 

「私の後ろに隠れてろ。死にたくなきゃな」

 

 その警告にリルは素直に頷き彼女の背中に隠れる。

 男としては情けない話ではあるが、この方が危険が少ない。

 

「あれ、なんか見えないか?」

 

 歩き続けて数分、彼らはあるものを発見する。それは縦五メートルほどの大きな影であった。暗くてそれが生物なのかただの物であるのかは判別できないが、たしかにそこには壁以外の物が存在していた。しかも、道を塞ぐほどの大きさであり、ここを通る者を邪魔をするかのよう。

 

「なんだ? これじゃ通れそうにないな」

「いやでも、横からなら通れるかもしれないぞ」

 

 行き止まりではなさそうだが、にしてもソレの違和感は拭えない。一体何の目的でここにいるのか、理解できない。

 

「よし、ちょっときついけどそこの隙間を……」

 

 あまり気にしても仕方ないと思い、ソフィはその大きな影の横を通ろうとする。その瞬間だった。

 

「ココハ通サン……」

 

 巨大な影がついに動きを見せる。

 と同時にその後ろから光が照らされる。

 

「うおっ!?」

「なんだ!」

 

 急な光に、彼らの目はくらみ未だ影の正体は分からない。だが、目が慣れてきたのか、だんだんとそれの正体が見えてくる。

 それは

 

「で、でか……」

 

 人型の魔物であった。ただし、青肌の腹がとっぷりと出ており胴体が異様に大きく、はっきり言ってデブの魔物だった。しかも、短足で一歩一歩の歩幅は狭そうだ。そのかわり腕が地面につくほど長く、それを振り回せば回避できるかどうか。

 しかも服はほとんど着ておらず、身につけているのは腰回りの布と、頭の不細工な兜くらいか。

 

「こんなの相手できるか! 俺は逃げるぞ!」

 

 山荘で殺人事件が起こった時に発言すれば死んでしまうようなセリフを吐きながら、恐怖心が極限まで高まったリルはその光景から目を背けるように逃げ出してしまう。

 しかし、それは力のない一般人であれば当然の行動だ。むしろ、冷静でいられるはずがない。

 

「おい待て! 不用意に……!」

 

 今日二度目の警告、しかし今度は無視されてしまう。しかもその途中で地響きが起き、リルの目の前で落石が起こる。

 あと一歩踏み出していれば、彼は岩に巻き込まれて本当に死んでしまっただろう。そして、ちょっとチビっていた。

 

「逃ゲル事モ許サン」

 

 どうやら、さっきの落石はデブ魔物が起こしたようで、天井を腕で叩きつける事により、衝撃で崩れさせたらしい。

 

「ふん! ならお前をぶっ倒して先へ進むまでだ!」

 

 これだけ巨体と地形を崩落させるほどのパワーを見せつけられても、彼女は怯える事なく、むしろ立ち向かっていく。

 

「ヌゥゥゥン!」

 

 それが蛮勇なのか勇気なのかはさておき、巨大な魔物、仮称デブは彼女を叩き潰そうと右腕を振り下ろす。大振りではあるけれどそこそこ速く、まともに喰らえば行動不能、最悪の場合は即死もあり得る。

 

 しかし、彼女は重い装備をしているはずなのに、それらの重量をものともせず軽々と左へ避ける。

 次にデブは腕を地面に引きずるように水平に広範囲へと薙ぎ払う。場所が狭い為に跳んで躱すしかないだろうが、その腕は巨体と比例するように太く、生半可なジャンプでは跳び越せない。そのはずなのだが。

 

「ほいよっと!」

 

 彼女は跳んだ。悠々とまるでこのぐらいは楽勝であるかのように。

 その戦士は未熟でしかも男よりも弱いはずの女性であるはずだ。けれども、ソフィは男であるリルよりも優れた身体能力で戦っていた。

 そして接近しきった時、彼女は回避から攻撃へと移る。

 

「まずはその片腕を貰ってくぜ!」

 

 ソフィが先ほど以上の脚力を使いジャンプしたと思えば、今度は体を捻って天井を蹴る。それら一連の行動から読み取れる通り、やはり彼女の身体能力は一般人であるリル以上だ。

 そこから急降下をしていくと同時に彼女は大剣を前方に構え、

 

「そらよ!」

「ヌゥゥゥッ!」

 

 肩へと落とす。

 斬るというよりは叩くと言った方が正しい気がするけれど、やはり剣である故にデブの肩の肉は割かれ、青い血が飛び散る。

 しかし、だ。

 

「ちっ! やっぱ途中で止まるか!」

 

 彼女の大剣は肉に挟まれ動かなくなってしまう。

 

「潰シテクレル!」

 

 相当な痛みを感じているはずなのに、あるいは鈍感なのか、デブは体についた虫を叩くかのように、手の平でソフィを潰そうとする。

 その場にとどまっていればぺちゃんこどころか、とてつもなくエグい姿になってしまう。

 

「抜ぅ、けぇ、ろ!」

 

 それを避けるため肉に刺さった大剣を引き抜いて回避する。そして、その勢いのまま地面に転がっていく。すぐに体制を立て直そうとするが、

 

「ウオオオォォォ!」

「速——!」

 

 右腕の握り拳による追撃が繰り出されていた。

 それは彼女を確実に捉え、地面をクレーターに変えた。しかし、そこから血や肉が飛び散る事はなく、ソフィの影も形もなかった。代わりに舞い上がったのは土ほこりのみ。

 デブもそれにすぐに気がつき、敵の姿を視認しようとするが、

 

「あ……」

 

 リルを視界に入れた瞬間、そのターゲットは戦う力を持たない彼へと向いてしまった。

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