『もういい加減にしてよぉ!』
【ま、まぁまぁ落ち着きなさいって……】
グラスに注がれた琥珀色の液体をイッキ飲みし、空のグラスをテーブルに叩きつける彼女に、私は苦い顔をしながら声をかける。
ちょ、てめ、私が買った新品のテーブルに傷を付けるんじゃねぇぇぇぇぇ!グラスも割れたら危ないでしょぅがぁぁぁぁぁぁ!どっちも高いやつなんだぞぁぁぁぁぁ!!の叫びを圧し殺して。
目の前で酷く酔っている女性の出で立ちは、一言でまとめるなら『痴女』である。白い陶器のように滑らかな肌、黄金の糸を束ねたように光り輝く髪。そしてダイナマイトなロケットおっ○い、くびれた腰がロケットを一段と強調させ、また安産型なおしりがドーンとつきでている。
まさにボンッ!!キュッ!ボーンッ!!
それを薄絹一枚で覆っているのだから、そりゃもう色々と見えている。酔ってテーブルにもたれ掛かっているせいで、ナニガとは言わないが、圧し潰れているそれが、私の目にはいる度に、私の
今なら『一瞬千撃』や『君の死に場所はここだ!』、『天から落ちよ』『これは裁き。我、蹂躙せん!』、『電光機関解放!歯を食いしばれぇぇぇ!』とか
おっと失礼、私的な事だったわね。ここで咳払いを一つしましょうか。
顔を引く付けながらも、目の前でおいおいと泣いている
『落ち着いてなんていられないわよ!私のかわいい子供たちが、大切な子供たちが虐げられているのを見ることしか出来ないなんて!もしも制約なんて無ければ真っ先に私がこの手で…!』
【でも仕方がないじゃない。
『でもだからって、だからって!!』
うわーん!と泣きだすSI。酒も相まってかなりヤバいわね。
≪分かる!分かるわー!≫
と後ろから現れたのは、紅い布を纏った、これまたロケットな胸部装甲とぐらまらすぼでーを搭載した世界神DDSHである。右手にはワイングラス、左腕はワイン樽を抱えている。もちろん、酔っています。
≪私だってさぁ、私だってさぁ!出来るなら
そう言いながら、ワイン樽から直接呑みだす世界神DDSH。おい、零れてる零れてる。床が真っ赤に染まってるんだけどさぁ。というかもしかして、その服って実は零したワインで染まったの?あと誰が掃除すると思ってんだよ!!お前がやりなさいよ!?
「ちわー久々に来てやったにゃーん」
カランコローンと扉を開ける音と共に、間の抜けた声が響く。入ってきたのは、地球の日本というところの
【帰れ】
特にこの状況ではお前の存在は拙い。私やお前のためにもだ!
「うわひっど!私だけ扱い酷くないかにゃ!?」
【今までの罪状を考えれば至極真っ当じゃぼけぇ!こっちは出禁にしてやっても良かったんだぞこの邪神がぁ!!】
そう、こいつは見た目に反してどこに出しても問題ありまくりの邪神、NIA。今の容姿も実はただの仮初でしかない。
「くきゃきゃきゃ!そう言いなさんなって!僕だってやりたくてやったわけじゃないんだよ?でもさ、私の本質からすれば何も間違っていないんだからさ」
両手を開き、やれやれと溜息までつきよる。
まあしかし、それもそうなのだから一々構うことも時間の無駄である。というわけでとっとと帰れ。
「いやどす。ここにきて何も食べずに帰るなんて、僕は辛い!耐えられない!料理を寄越せ!上手く安い物を!」
【オラァ!】
「あっつー!?あっっっっっいけどうまいわねこの料理!」
生み出したアツアツのピザを顔面に向けて投擲するも、NIAはその顔を大きな口に変えて一口でペロリ。ちなみにこの光景を想像した人はSAN値1D3引いてください。
『ったく!どうしてこうも酷い奴が私の所に来るのよ!ねぇ!答えなさいよ!あんたが働いていた部署でしょ!?』
【あーお客様困ります!あーお客様困ります!首をがくがく揺らすんじゃない!HANASE!】
SIとDDSHに揺さぶられ、それを見て大爆笑のNIA。
【私だって『元』自分の部署を全部把握できてるわけじゃないのよ!上からの指示で送らされることもあるわけでさ!】
「まあでもぉ、僕からしても異常だと思うよん?それに書類詐欺も多々あるわけだしぃ。やっぱ最近は異常だって」
おい、余計なことを言うんじゃない。いい加減にしないと口を縫い合わせるぞ。ちなみに、やったらやったで、こいつは額から口が生まれるので無意味でした。
≪そうでしょ?そうでしょ!?解ってくるわよねNIA!普段ならただそこにいるだけで有害な廃棄汚染のごときピーーーーー――対象だけど、時には役になってくれるから今は存在を許してあげるわ!≫
「ねぇ、いま酷いこと言われた?わたし酷いこと言われたよね?」
バンバンと困惑な顔をするNIAの背中をぶっ叩くDDSH。ちなみに、一回につき星が壊れる威力です。
『そうよそうよ!こんな時はSRくんちゃんの出番でしょ?どうしてあの子が働かないのよ!』
SIまでが便乗する。私は溜息を吐きながらも言葉を吐き出す。SRくんちゃんとは、こういった問題に対応している知り合いであり私たちの友人である。
【でもさ、だからってSRくんちゃんが働き出したらそれはそれで問題よ?あの子、仕事に関しては私情を挟まない子だから】
(呼んだ―?)
床板の一枚がぱかりと上がり、ひょっこりと顔を出す幼児。この幼児こそが噂のSRくんちゃんだ。ところで君はどこから来たのかしら?というか、私のお店は一体どうなってるのかしら?おかしいわね、そんなところに通路なんてなかったはずよ?
ひょい、と床からで出てきたSRくんちゃんは、見た目だけなら人畜無害な幼児に見える。だが私が言ったように仕事に関しては一切手を抜かない根っからの仕事人。基本は常にポヤヤンとしてはいるが、それに反して多くの愚者を血の海に沈めた経歴の持ち主である。ちなみに、一度本気の姿をみたことがあるけど、対象を転生不可能になるまで切り刻み、生まれる前に魂ごと滅却してました。恐い。
「おいすーSRくんちゃん!相変わらずちんまいね……っていたい!痛い!!マジイッテェ!?容赦なく首を斬るのやめてほしいかなぁって私思うの!」
まるで黒ひげ危機一髪みたく、ポーン!と首が宙を舞うが、すぐさま両手で捕まえて叫びながら元の位置に戻すNIA。SRくんちゃんはべったりと赤黒くなった右手の汚れを、着ている衣服で拭う。
ちょこんと椅子に座ると、相も変わらず無表情で(いつものー)と頼んでくるので、フルーツパフェを差し出す。パァァァァァァと、子供のように顔を綻ばせ、スプーンでパフェを掬っては口に運び、じたばたと喜びを表す。
「私と対応ちがくね?」
【お前は黙ってろ】
NIAは顔をしかめて理不尽を訴えてくるが、そこは至極当然と一蹴する。パフェを満喫しているSRくんちゃんに私は尋ねる。最近お仕事はどうしたの?と。
(お暇貰った)
この一言で終わった。お暇を貰ったということはつまり、SRくんちゃんはこの件には対応しないということだ。
『そんな!そんな!?SRくんちゃんが動いてくれませんと子供たちが!子供たちがぁ!!』
床に崩れ落ち、そのままおいおいと泣く出すSI。DDSHは自棄になったのか、新しい酒樽に…やめろやめろやめろ!飲むならお金を払いなさいって!
DDSHを羽交い絞めにするも、じりじりと酒樽に近づいていく。もはやシッチャカメッチャカな中、一人料理を平らげ、「ケプー」とげっぷをするNIA。とう!と椅子から立つと、満面に笑みを零す。
「ご馳走様でしたーん!お金は置いとくからねん」
そう言いながら、カランコローンと外へと出ていった。
「にゃはははん、全く持って気分がいい!やっぱあそこは飽きがこないなぁ!」
大きく伸びをした私は、先ほどまでの喧騒にクヒヒヒと笑う。ごそごそと胸から書類の束を取り出し、さらっと目を通す。そこには顔写真と個人情報がびっしりと書かれており、私はそれをパクンと一呑み。これで情報漏えいの心配ないさー!
世界というものはこうあれかしと決まっている訳ではない。しかし、あからさまに世界を弄ろうとする奴は存在するわけで。そうなると、世界そのものが腐り、果ては崩壊してしまう。そのため、転生をさせるならばその危険性なを慎重に吟味しなければならない。そして転生基準を通過した合格者の資料を渡されて、各々世界神は自身のところへ転生する許可を与えるのだ。ところが、どうも資料と当人が一致しておらず、『子供を助けた少年が、平気で人を貶め、何もかもを奪い去る暴君と化し』たり、『特定の人物だけを徹底して排斥し、周囲の人格や認識を弄繰り回す』といった暴挙に出ているという。なお、そのことを転生神部署に問い詰めても、知らぬ存ぜぬで通されてしまい、結局は世界神たちの泣き寝入りで終わってしまう。何とかしようにも世界神は制約に縛られる。そう、確かに世界神が直接介入することは駄目という制約だ。もちろん、直接じゃなければいいのか?と言われればそうではなく、世界神が関わる介入そのものが厳禁なのだ。結果、送ってしまった時点で手遅れなのである。そのため、外れを引かされた神々たちは、ただただ後悔にうちひしがれながら絶望するしかない。
そして頼みの綱であるSRくんちゃんも、昨今では、力を振るう許可が下りないゆえに関われない。ああ!なんという無力!
ではどうするか?黙ってみるしかない?いやいや、何事も裏口はあるものよ?ようは、
「うん?」
ちょいちょいと服を引っ張られ、目だけを動かすと、いつのまにかSRくんちゃんが隣にいた。
(きをつけてね)
無表情ながら、聞こえてきた言葉に僕はニシシししと笑う。
「心配ご無用!私は邪神ですわよ?」
パチンと指を鳴らせば、私の身体はドロドロに溶けて水溜りになり、それが二つに分かれ、それぞれが粘着音を立てて形作る。一方は白い制服を纏った銀色の少女であり、その胸には2対4枚の翼を纏った天使の校章が縫い付けられている。そしてもう一方は、丸渕眼鏡をかけた金色の美女メイド。銀髪の少女の右手には『CLOCKWORK PHANTOM』と彫られた懐中時計が握られており、金髪メイドの額には、髪で隠れてはいるが、まるで目のような朱い紋様が描かれている。私たちはSRくんちゃんの頭を撫で、にこりと微笑む。
「
風に吹かれて消えていく二人の顔は、綺麗な笑みを浮かべ、醜悪に歪んでいた。
つまり、私たちのお仕事ってわけ。