邪神のお仕事   作:SINSOU

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はじめまして、見知った他人です

「ほへ~、人だかりが出来てるよ~」

 

多くの女子生徒たちが、とある教室の前で壁を作っていた。彼女らはどうにかして教室を覗こうと必死で、「見せてよ~」だの「ちょっとどきなさいよ!」「いたっ!?誰か私の足を踏んだでしょー!」など、騒々しい声を発していた。その光景にビビる伽耶を見て、私は苦笑する。なにせ、私たちも彼女らと同じように、とあるものを見るためにこの教室に来たのだから。結局、他から見れば彼女らと同じ穴のムジナだろう。

 

どうする?と人だかりを見ながら、私は伽耶に顔を向ける。伽耶の方は、人の多さと騒々しさによる目標達成の困難さと、とあるものを見たくてたまらない興味を天秤にかけてるようで、その眉間にはしわがで来てる。というか、考え込み過ぎて私の話を聞いていないのではないか?そう思い、私は伽耶の頭を指でこつんと揺らす。

 

「ふぇっ!?」

 

案の定、突然のことに驚く伽耶。変な声を上げながら私の顔を見る。どうするんだ?この人だかりでは無理だぞ?

 

「え~!?でも気になるでしょ~?織斑千冬先生の弟君~!」

 

そうなのだ。私たちが見たいものとは人物なのだ。名前を織斑一夏。第1回モンド・グロッソの優勝者にしてIS界における超有名人物、織斑千冬の弟である彼がこのIS学園に入学したのだ。IS学園はいわばIS操縦者の訓練校。よって、女性しか操れないISなのだから、当然生徒は女性しかいない。そうなのだから結局は女子高と変わらないわけだ。ところが彼、織斑一夏はなぜか男性でありながらもISを操縦したということで、特別としてこの学園にやってきたというわけだ。まあ、私が知る限りでは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今のところは唯一の男子であり、かの千冬先生の弟なのだから、当然注目されるのは当たり前。というわけで、一目見ようとする女子生徒のよって、この壁が出来たというわけである。()()()()()()()()()()()()()()()()()()を思い出し、私は自分に苦笑する。最も、私は別の目的があって()()()一緒についてきたわけだ。

 

どうにかして、織斑一夏に聞かなければならないことがある。それは、()()()()()()()()()()()()()()

 

おかしいことだとは思う。そもそも話が脈絡がなさ過ぎていると自覚している。だが前のことを覚えている私からすれば聞かなければならないことなのだ。目の前の伽耶よりも実は私の方が織斑一夏に会いたいと思っているのだが、私の無表情さのおかげかバレてはいないようだ。しかしながら、この目の前にそびえたつ人の壁壁壁…。どうにかしてこれを突破しなければ、私は彼に会うことが出来ない。ちらりと周りを見れば、2つの出入り口は完全に封鎖され、通路側の窓にももたれかかる人らでいっぱいだ。ふと窓の上の方が空いていることに気づく。

 

………………

 

「モガちゃん?」

 

私は立っていた場所から後ろへ下がり、窓とちょうどまっすぐになるように適当な距離をとり、窓の空間(目標)を確認。

 

「え、モガ……ちゃん?」

 

そのまま一気に走りだす。

 

「モガちゃん!?」

 

人の壁の手前で跳躍し、窓の空間へて飛び込んだ。さながらプールに飛び込むように。

 

 

「モガちゃーーーーん!!??」

 

 

迫りくる地面に両手を突き出し、そのまま転がって衝撃を分散。

 

「ひえー!?」「な、なにあれ!?」「きゃー!?」「アイエエェェェェェェェェ!?」などなどの声が聞こえるが無視。ガバリと顔を上げれば、私を見ている集団の中に唯一の存在を見つけた。おぼろげな記憶ではあるが、間違いなく彼だ。すたッと立ち上がり、私は茫然と見つめ返してくる彼の前へと歩いく。君が織斑一夏で間違いないか?

 

「は、はい…」

 

まるで奇妙なものを見るような表情にはいささか憤慨だが、私は彼をじっと見つめる。あの時の彼とは別人のようだというのが最初の感想。死んだ魚の目のように濁り、ぼさぼさで白髪交じりの黒髪、黒い縁取りの隈やこけた頬とは真逆の、キラキラした瞳、しっかりとした黒髪、好青年を抱かせるような整えられた顔。一瞬別人と思わせるほどに差異だったが、どこかで出会ったような印象を抱くあたり、やはり同一人物だったのだろう。そんな思いがよぎるが、いかんせんそんなことをしている余裕はない。すぐに用事を済ませてしまおう。織斑一夏に、私を覚えているか?という問いをだす。

 

「えっと、どちら様…ですか?」

 

ふむ。私は、君が寝ていた保健室のベッドの右隣にいた者だ。どうして入学式の時に保健室にいた?

 

「急にめまいがして……その、気付いたらいたらしい…というか、なんでそんなこと」

 

そんなことはどうでもいい。では次に、寝ている時に何か夢を見たか?

 

「ごめん、覚えてない」

 

では最後に、前のことを覚えているか?

 

「いやなんだよ前のことって?急に言われても何が何だか…」

 

そう…か。

 

私は当てが外れたことに内心動揺してしまった。ならばやはり、私だけなんだな…。

 

私は織斑一夏に、騒がせてしまったことを謝罪するために頭を下げた。彼からすれば、何が何だか…というわけだろうが、気にしないでくれることを願う。

 

「も、モガちゃん何してるの!?」

 

入口の人の隙間から、ところてんのように飛び出てくる伽耶。私は彼女に、用事が済んだことを伝え、先に教室に変えることを言って、一組の教室を出ていった。

 

後ろからは私のことについて色々と聞かれている声を耳にするが、動揺している私には風のように通り過ぎていく。

 

 

「面白いことするデスね」

 

廊下に出てしばらくすると、目の前にはニィーア先輩。彼女の顔はニタニタ笑いに歪んでいる。

 

「いやまぁ、珍しい者を見るには仕方がないにしても、あれはびっくりデス。やはり人間は面白いなぁ」

 

彼女をちらっとみるが、相も変わらず笑顔。

 

「不安なのは分かるけど焦りは禁物。でも、君の行動は間違ってないよ、彼のためにもね。」

 

何を言っている?そう思い、ニィーア先輩を問い詰めようとするが、「いっけなぁーい!チャイムが鳴るから戻らなくきゃデース!」の言葉と共に、階段を昇って行ってしまった。

 

…………

 

頭によぎったのは、ボロボロだった彼の姿。先ほどの彼とは違う彼の未来(姿)。手を伸ばした私を振り払い、まるですべてが敵だと思っているような視線。いったい何があれば、あそこまで変わってしまうのだろうか?フルフルとかぶりを振り、私は自身を落ち着かせる。先輩の言うとおり、焦り過ぎたことの行動を鑑み、あまりの恥ずかしさに顔から湯気が出た。だがしかし、彼と接触できたことを幸運でもあった。それだけは良いこととだと思うことにしよう。前向きな思考をし、私は教室へと戻り、先生から呼び出しをくらうのであった。

 

 

 

 


 

目の前の鋼鉄の扉が、重苦しい音を立てて開いた。扉の前にいる黒い服を着た女性が「どうぞ」と、私に中へ入るように声をかける。真っ白な廊下を歩いていくと広い部屋へと出る。そこには扉がいくつかあり、そこには名前がか書かれた札がついていた。息をのみ込み、私は震える足を前にだし、一つの扉へと近づいていく。

 

『織斑千冬』

 

札にはそう書かれていた。

 

 

 

「久しぶり…ですね。織斑先生」

 

「まだ私を先生と言ってくれるのか。久しぶりです、山田先生」

 

扉の小さな窓から中を覗けば、そこにはかつてのスーツをきた織斑千冬先生がいた。中はまるでホテルのような空間で、床にはカーペットが敷かれ、皮のソファや本が敷き詰められた棚。机や椅子などが置かれている。椅子に座りながら、千冬先生は懐かしむような表情をしている。

 

織斑千冬。かつてISの象徴たる初代ブリュンヒルデであった彼女は、いまは籠の鳥だった。『殺人犯:織斑千冬』唯一のIS男性操縦者であった彼を殺したグループの主犯として、今はここに拘留されている。もっとも、そのことを世間は知らない。むしろ知られてはいけないのだから当然だろう。ISの象徴が男性操縦者を殺害なんてのは、トップクラスのスキャンダルだからだ。このことについては、知っているものはかん口令を敷かれ、今も監視されている。そのうちの一人も私なんですけどね。そんなことを考えながら、私は織斑先生に尋ねた。どうして凶行に及んだのか。

 

「山田先生は覚えていますか?」

 

「いったい何をですか…?」

 

「私の弟、一夏のことです」

 

彼女の言葉に私は首をかしげた。なぜ、あんな奴のことを覚えていなければならないのでしょう?そんな人のことを覚えていることよりも、今は○○○○くんを殺した理由を聞いているわけで……。

 

「帰ってください」

 

「え?」

 

その事を伝えると、千冬先生から告げられたのは拒絶の言葉。その顔にはハッキリと敵意が現れていた。

 

「織斑先生、急にどうしたんですか?」

 

「申し訳ないですが、今の貴女に告げることは何もありません。帰ってください」

 

そう言って背を向ける先生。私は訳が解らず「何故ですか!?」と問い続ける。騒がしい音を聞きつけた黒服の人に抱えられ、私は追い出されるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない一夏」

 

私は唯一残っていた弟の写真の前で謝る。他の写真はすべて、自分が燃やしてしまった。

 

「愚かな弟など私にはいない」

 

そんな言葉を口にして、大切だった弟の目の前で、私は写真や思い出を燃やした。アルバムも、プレゼントも全て、塵として捨ててしまった。泣き叫ぶ一夏の顔を見て、私はただただ鬱陶しかった。

 

今でもその行為を夢でみせつけられる。「やめろ!やめてくれ!」と自分に向かって叫び続ける毎日だ。何度自分を殺したいと思ったか、もう数えてすらいない。

日の当たらない豪華な部屋に私はずっと押し込められたままだ。だがなにかする気などなく、ただ唯一残っていた一夏の写真にずっと謝り続けているだけ。私はただ死んでいないだけで、もはや死人と同じだ。それでも私は、殺してしまった一夏のためにも最後まで苦しまなければならない。たとえそれが自己満足てあろうと。

 

私はまだましな方で、箒や鈴音などの一部の生徒は未だ発狂し、一部は世間を拒絶して引きこもり、一部は罪に耐えきれずその命をたち、一部は心の拠り所として未だにあの男に囚われ続けている。

 

「なぁ一夏。私はどうしたらよかったんだ……」

 

私は一夏に話しかける。もう返事など来ないとわかっていながら。

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