じー
私は視線の先にいる織斑一夏を見つめ続ける。
じーー
ちらりと織斑一夏がこちらを向いてきたので、私はさっと壁に隠れる。いかんな、やはり忍者のように気配を隠せていないようだ。
「モガちゃん?」
そーっと壁越しからみようとして、伽耶から声をかけられた。その顔には、心配するような、何かを言いあぐねているような、そんな表情が見えた。
担任から呼び出された後、私は飛び込み入室について説教された。もちろん、すみませんでしたと謝罪した。私自身、いったいなぜあんなことをしたのか未だに理解していない。おそらく、出入り口は駄目、窓も駄目…ん?窓の上部が空いているではないか、いけ。という天啓が舞い降り、そのまま飛び込んだのだろうとは思う。その後、伽耶からは「も…モガちゃん?大丈夫?」といたく心配された。なぜか私の頭の方を見ていたが、些細なことは気にしないでおこう。
「モガちゃん一体どうしたの?織斑君に会いに行った時から、放課後はずっとそうしてるけど」
伽耶の問いは至極真っ当なものだ。教室へのダイビング入室もだが、こうも彼を付け回しているとなると誰だって何かあっただろうと思う。いかんせん、事情が事情なので話せるわけでもない。正直に話してみることも考えたが、聞いたところで「頭大丈夫ですか?」案件か、
「分ったよモガちゃん!私に任せて!」
そういう也、彼女はててて……と走り出す。そしてこともあろうに織斑一夏の下へと行き、そのまま私の所へと引っ張ってきたのだ。
「モガちゃーん!織斑君連れてきたよー!」
笑顔で手を振る伽耶と私を見て困惑する織斑一夏、そして周りからの視線。私は伽耶の行動に対し……よくやった!と親指を上げるのであった。
「………」
私の顔を見ながら、どう話し出していいのか困っている織斑一夏の姿。その織斑一夏の顔を見ながら、話を切り出すのを悩む私。そしてにこにこ笑顔で見つめる伽耶とぐるりと取り囲むようにこちらを見つめる女子生徒その他。
ちらりと伽耶を見れば、私を見るなり小声で「がんばれー」とつぶやきながら親指を立てる。
ふむ、どうやら彼女は勘違いをしているようだ。だがしかし、これはいい切っ掛けになるとも考え直す。いかんせん、
織斑一夏
「は、はい!」
一度しか言わないからよく聞いてほしい。
「な、なんでしょうか…?」
私はお前のことが気になって仕方がない。ゆえに私がお前の傍にいることを許してほしい。
「え、あ、はい……え?」
うむ、私ながら自然な理由になったぞ。私はうんうんと、そうかそうかと肯く。私の問いに返答する織斑一夏と周りの静寂。うん?私は変なこと言ってしまったのか?ただ一人、首をかしげる私。
「「「キャーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」
突然、周りが声を上げた。その騒々しさに一瞬耳がキーンと音がするほどだ。耳を抑える私の手を伽耶が取り、「やったねモガちゃん!!」とぶんぶんと腕を上下に振るう。何がそんなに喜ばしい事なのだろうか?いまいち状況を飲み込めない私を他所に周りが騒ぎ出す。
「ふ、ふざけるなー!」
そんな状況を切り裂くように、一人の声が響いた。人の壁を切るように私と織斑一夏へと歩いてくる一人の少女。長い髪をリボンで縛ったポニーテールの少女。その顔はまったくもって納得いかないという抗議の表情だ。その顔を見た時、私はかすかな既視感を感じた。私は彼女を知っている。戸惑う私を他所に、彼女は私と織斑一夏の間へと入り、私の方へと顔を向ける。
「い、いったい何の騒ぎかと思ったら、ま、まさか一夏にこ、告白だと!?そんなの私がみとめられるかぁ!」
「一体どうしたんだよ箒!?」
箒という言葉で私は思い出した。篠ノ之箒。インフィニット・ストラトスを作り出した篠ノ之束博士の実の妹。私の知る限り彼女は、常に第二の男性操縦者と共にいた少女たちの一人だった。最後に見た光景は、男が織斑一夏を殴り伏せ、ただただ痛めつけていたのを嗤って見ていた姿だっただろうか。
「お、お前の名前はなんだ!」
意識が飛んでいたのか、我に返ればこちらをじっと見てくる篠ノ之箒。その顔は、警戒心どころか敵意すら感じる。仕方がないので自己紹介をする。
「そ、そうか!お前は最上菖蒲というのだな!わかった!」
私の名前を聞き、仕切りに肯きだす篠ノ之箒。
「た、確かに、一夏は見た目は他の男たちとは違う。目に留まっても仕方がない。時に鈍感で優柔不断な奴だが、一方で色々と頑張っている姿を私は知っている。そ、そういった理由で貴様が一夏にこ、好意をもってしまうのは仕方がない。悪いのは一夏なんだからな」
「え、俺のせいなの?」
織斑一夏の呟きが聞こえたが、周りの耳から通り抜けていった。
「だが残念だったな!」
かっ!と目を見開き右手を胸に当て、左手で織斑一夏を指差しながら叫んだ。
「私だって一夏に惚れているんだ!そう簡単に一夏を取られてたまるものか!」
「だから落ち着けって箒………は?」
ふむ
「「「…………え?」」」
篠ノ之箒の叫びを聞き、再び静かになる。そして
「「「「えーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」」」」
再び絶叫がこだまするのであった。
「いちかー」
薄暗い部屋の中で、少女の声が響く。
「いちかいちかいちかー」
時折何かが軋むような音が聞こえる。
「ふふっ、いちかだーいすきー」
天井近くの窓から注ぐ月の光が、
「みてくれいちかー、おまえがくれたプレゼントのリボン、ずっとみにつけてるんだぞー?ふふ、ほめてくれてもいいんだぞー?」
制服の胸元に「一夏」と書かれた人形を抱きしめる少女。だがそれは少女の思い過ごしでしかない。酷な話だが、彼女のまとっているリボンの中に「いちかのリボン」は一本もない。全て偶々あった、既製品の安いリボンだ。なにせ彼女はそのプレゼントを受け取っていないからだ。正確には、彼からプレゼントを受け取ったが
だというのに、彼女は彼のプレゼントのリボンを大事に身に着けていると思っている。
『リボンはどこだ!?一夏のプレゼントなんだ!一夏からの大事なプレゼントなんだ!!誰が隠した!?言え!誰が私から持っていったんだぁぁぁぁぁ!』
竹刀を振り回しながら生徒を襲い、教室の備品を破壊した少女。唯一大切だった人との繋がりを探し求めて暴れた彼女は、駆けつけた教師等に取り押さえられた。
とんとんと、扉の叩く音がする。少女は自身の幸せな時間を邪魔されるのが嫌いだったが、幸せだったので快く来訪者を部屋へと招き入れた。
「箒ちゃん」
「あ、ねえさんだー」
部屋に入ってきた人物に、少女はにこやかに笑う。
「箒ちゃん調子はどう?」
「ねえさんもしんぱいだなー。わたしはいちかといっしょだからだいじょうぶだよー」
「そう……なんだ。」
姉さんと呼ばれた女性は、少女の言葉にただ頷くだけ。
「そうだねえさん!いちかがね、わたしをすきだっていってくれたんだ!」
「そうなんだ」
「だからね、わたしもいちなつがだいすきって。ねえさん、わたしうれしい!」
「そう、よかったね箒ちゃん」
「うん!」
姉からの祝福の言葉に少女は幸せそうに笑うのだった。