さて困った。私は目の前で繰り広げられている出来事にいささか困惑している。
ここはIS学園内に設けられている剣道場。下は一面木の板が敷かれ、正面の壁には大きな日の丸の旗。上にはなにやら難しい書式の漢字で書かれた書が飾られている。ふむ、私自身、こうした『武術』特有の空気感は好きだ。それこそ幼少期から剣道を習っていたのだからな。ちりちりと肌が焼けるよな空気は、私の心を震わせる。
さて、目の前の現実に目を向けるとしよう。
「どうしたんだよ箒?さっきからぶつぶつとうわ言を言っててさ。ほら、鈍っていた勘を取り戻したいんだ。もっと打ち込んできてくれ」
「わ、解っている!解っているんだ!だ、だが……い、一夏の真剣な表情を見ていると落ち着かないんだ…」
目の前には剣道の防具を纏い、互いに竹刀を向け合っている2人の男女。解るであろうが、一人は織斑一夏であり、もう一人は篠ノ之箒である。どうしてこうなったのか?と言えば、なにやら特訓とのこと。
どうもクラス同士の代表を決める際に一悶着あったようだ。聞いた話では、クラスメイトからの推薦で危うく織斑一夏が代表になりかけたところ、イギリスの代表候補生である『セシリア・アルフォート』なる生徒が猛反論。わんわんにゃーにゃーと口論の言い合いに勃発。肝心の織斑一夏はクラス代表の推薦を断ろうとするも、「そうはさせねぇ」と織斑先生がすかさずインターセプト。結果、織斑一夏の思いを無視して、ISによる模擬戦で代表を決めようじゃないか、となったらしい。そして来るべき戦に向けて、篠ノ之箒がとりあえず『特訓するぞ!剣道で!』となり、こうして特訓が行われているのだ。
だがしかし、どうも篠ノ之箒が不調のようだ。打ち合ってはいるがすぐに『待ってくれ』と間をおいてしまっているのだ。いかんせんこれでは真剣な特訓にならないのではないだろうか?
無言であった私は、すっと両者の間に入る。そのまま篠ノ之箒の方へと顔を向け、しばらく休んでほしいと一言。代わりに私が一夏と打ち合うことを提案する。もちろん、これは篠ノ之箒からすれば不本意であろう。それこそ、私は横槍をいれたに等しい。
だが、体調を崩している状態で打ち合うと『もしも…』のことでケガに繋がりかねない旨を伝える。渋々と了承する篠ノ之箒に謝罪と礼をし、私は織斑一夏と向き合う。
「よろしくお願いします」
引き締めた顔と、面の隙間から覗く目の圧に私の心は昂った。よろしくお願いする、と私も頭を下げた。
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キュッ、キュッ、とすり足でなる音と、竹刀がぶつかり合う音が剣道場に響き渡る。わざと身体を前に出し、すぐに体を下がらせる。相手との距離を一定に取る様に多大に動きながらも、部位を打ち込もうと一瞬で距離を詰める。こうした攻防を続ける二人の姿。その攻防に一体どれくらいの時間がたっただろうか?おそらく、時間からして10分も経っていないだろう。しかし、剣道場を包む空気は、時間の流れすらも早く感じるほど、異様なほどに研ぎ澄まされていた。しばらくの攻防の後、二人は微動だにせずにらみ合っている。その両者の姿を傍から見ていた観客は、ただただ物事が動く一瞬が来ることを待ち遠しく見守るしかない。
そして両者が同時に動き……「一本!」の声が剣道場に響いたのだった。
「ありがとう最上さん」
借りた防具を片付けた後、面と向かって頭を下げる織斑一夏に私は首をかしげる。
「自分の身体が思っていたよりも鈍ってたことに気付けてさ。勘を取り戻すためにも、今日から試合に向けてトレーニングをしようと思う。もちろん、付け焼刃だって思うけど、やらないよりもやった方がいいと思うし」
そうか。私も久々に楽しかった。できれば、また打ち合いものだと希望を言う。
「すまなかった最上。私が言い出したことなのに、私の不甲斐なさのせいで、最上を巻き込んでしまった」
謝罪する篠ノ之箒の姿。私は彼女に、一夏に言った言葉を再度伝える。気にする必要はない、と。
「そうか、そういってくれるならありがたい」
にこりと笑う篠ノ之箒と、「これからトレーニングしなきゃなー」と呟く織斑一夏。
そんな彼に向かい、「ならば私が付きっきりで鍛えてやるぞ!」と捲し立てる篠ノ之箒と「なんで箒が張り切ってるんだよ」と困惑する織斑一夏。
二人の仲睦まじい姿に私は自然と口元に笑みが浮かぶ。聞けば、二人は幼少の時から幼馴染みとか。ならば、二人の距離が近いのも不思議ではない。竹馬の友、というのだろうか。付き合いが長ければそれだけ互いのことを知っているだろう、それこそ良い点も悪い点も。
それを踏まえて、篠ノ之箒が一夏を好いているということは、つまりそういうことなのだろう。
ゆえに、私は二人の姿から目を伏せる。
私が知っている二人の関係があまりにも残酷に思えてならなかった。なぜ、この二人が
学校の廊下や窓から遠巻きに見えていたあの人盛りと耳に響くような黄色い声を上げて喜ぶ女生徒たちの声を思い出す。
私が凄惨な織斑一夏の姿を目の当たりにし、実情を見てしまったがゆえに止めに入ろうとし、あっさり私が死んだあの時まで、
織斑一夏を虐げる、もう一人の男性操縦者。そしてそんな
私が彼に蹴とばされた際に見えてしまった彼女の目。彼の傍にいるという恍惚と、彼に恋しているという優越感で濁ったような瞳が印象的だった。目の前でボロボロにされる哀れな
今と
やはり鍵を握るのは、
そして目の前に迫った伽耶の靴裏の記憶も。
彼が来るのは確か、『一組のクラス代表戦後』だっただろうか。ブルリと私は寒気を感じて身を震わせる。無表情の中で私は、いずれ来るだろう彼にどうするべきか、その答えを探さなければならない。
私の友達はちょっと変わっている。
一番最初にびっくりしたのは、男性操縦者を見ようと廊下沿いの窓から、他の教室へと飛び込んだことだ。突然走り出したと思ったら、飛び込み台からプールに飛び込むように、綺麗に窓から入る姿は今でも覚えている。
次に驚いたことは、その男性操縦者に告白をしたこと。学校内でずっと彼の後をつけていたから、気を利かせて彼を引っ張ってきたら、まさかの告白。しかも!それにつられるように、他の子も告白をしたことだろうか。まさに三角関係!でも何故か3人とも仲良しだから、こっちがヤキモキしちゃう。
そして最近の不思議なことは、時々一人でどこかに行ってしまう事だろう。先程まで隣りにいたのに気付いたらどこかに消えている。
昨日、どこかに行くのを見つけ追いかけると、そのまま屋上へと走って行ってしまった。入口の扉沿いから声が聞こえていて、誰かと話していた。おそらく待ちあわせをしていたんだろう。でも、私に内緒で相談事をしていることに、ちょっぴ胸が傷んじゃった。
でも彼女が去った後、入れ替わるように屋上に入ったけど誰もいなかった。快晴の空の下、ただただ広い屋上しかなかった。いったい誰と話していたんだろう?