花が告げる想い   作:白藜

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走れ果南

熱中症かもしれない。すっかりと青ざめた顔になっていた少女…高海千歌をみて、松浦果南は二つの選択肢を持っていた。ひとつは、今来た道を千歌をつれて戻り、コンビニで休息を取らせること。軽い熱中症なら、これで良い。しかし、もっと深刻なものだったら?ここからコンビニまでは普通に歩いても二十分、体調の悪い千歌を歩かせるなら、もっと…下手したら倍の時間がかかる。その間に千歌の病状が悪化したらどうする?それでもし最悪の事態になってしまったら、どうする?そう考えた瞬間に、果南は射られた矢のように、弾かれるように走り出した。勾配のきつい上り坂だ。いつもはグチグチいいながらも友達と話ながら上っている坂だが、今ばかりは坂上にあるコンビニを、そしてさらにそこから上にある学校を恨めしく思った。

 

足が重い。たかだか二キロメートルの道のりだが、学校終わりかつ夏場となると、駆け上がるのはだいぶ困難になる。それは例に漏れず果南もそうだ。けれど彼女には止まれない理由があった。

 

もう少し。

 

肺が酸素を求める。頭がガンガンと痛み、脳が警鐘を鳴らす。しかし、果南は止まらなかった。

 

コンビニへ駆け込み、塩タブレットとスポーツドリンクを購入した果南は、暫しの休息を得た。しかし、長々と休んではいられない。妹分の千歌が待っている。

 

乳酸がたまって動かなくなりそうな四肢を叩き、己を奮い立たせる。立て、松浦果南。少しの無茶くらい余裕だろ!

 

滑り降りるように、長い坂を下っていく。胸ポケットにいれていた連絡用のガラケーを開き、救急に連絡を入れた。

 

「もしもし、消防で」

 

「救急です!」

 

食いぎみに言って、千歌の容態と今から応急処置をすることを言う。そして、住所を言おうとしたあたりで、ぶつんと嫌な音がした。

 

充電切れ…いや、寿命のようだった。肝心なときに役に立たない携帯だ。邪魔な荷物になり下がったそれを棄て、私は走るスピードを上げた。呼吸が変だった。掠れてしまった喉で無理矢理空気を吸い込み、酸欠ぎみだった体をたたき起こした。

 

帰りは数分でついた。ベンチにいる千歌はひどくぐったりとした様子になっている。汗の量がひどく、脱水症状なのは火を見るよりも明らかだった。

 

「千歌!千歌!千歌!」

 

何度か呼び掛けると、千歌はようやく反応した。かなんちゃん、とちいさく呼び掛ける声に、果南は思わず泣きそうになった。

 

「千歌!これ、飲んで!」

 

ゆっくりとスポーツドリンクを飲ませ、浅かった呼吸が戻り、虚ろだった瞳は僅かに生気を戻す。塩タブレットを一粒口に含ませて、それを飲み込んだのを確認してから千歌を抱き起こして背中に背負う。ふと思いだし、千歌に携帯があるかを聞くも、今日は家だと言った。私は塩タブレットとスポーツドリンクを一口だけもらい、背負った千歌にその二つを持たせてから、もう一度走り出した。

 

 

もう、止まるな。夕方の酷暑の中を走りながら、果南は自身にそう唱え続けた。千歌に負担をかけまいと気を使って走り続けたせいか、全身が警鐘を鳴らす。止まったらもう動けないだろうことは、十分にわかっている。あとは、この坂を上るだけ。それさえ終えれば、病院は目と鼻の先なんだ。折れそうな心を叱咤し、果南はラストスパートと言わんばかりにスピードを上げた。大好きな妹分を、千歌を、守るために。

 

 

意識が朦朧とする。何度、膝を付いてしまおうと考えただろうか。辛い。苦しい。もう止めてしまいたい。思考がどんどんと曇り、ネガティブなものになっていく。千歌は今、どんな状況になっているのだろうか。

分からない。わからないけれど、いち早くこの坂を上りきらなければ、千歌が危ないんだ。それだけは分かっていた。

 

自動ドアが開く。暇そうな顔をしていた受付の人の表情が一気に曇った。事情を聴くために駆け寄ってきた受付の人の肩を強く握って、懇願する。千歌を、助けてください。お願いです、と。

 

「大丈夫よ、二人とも助けるわ。」

 

力強く頷いたその人をみて、気が抜けたのだろう。そこからのことは、覚えていない

 

 

 

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