岸辺露伴は分からない エピソード『喪服人形』   作:読図パニキ

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喪服人形・序 その二

(殺されるってのは穏やかじゃあないが……喪服人形っていうのは一体どーいうことだ? 喪服を着た人形ってコトなのか? 『喪服の人形』じゃあなくて?)

 

 漫画家というある種の言語に関わる仕事をしているからだろうか。

 だからこそ、岸辺露伴は気になった。【喪服人形】――確かに語呂がいい。言葉として収まりは良いだろう。

 だからこそ、()()()()()()……つまり『言いやすい』ということがより奇妙だった。

 誰が名付けたのか? 何をそう呼び始めたのか?

 そして――――誰がそう呼び続けているのだ?

 

 特定の何かを表した名詞のようなこの四文字は、それ自体が存在しているがゆえに――そんな名詞で呼び表す必要があるということがゆえに、奇妙だ。

 ジョジョというアダ名は、ジョジョと呼ばれるような由来の人物がいて、そしてジョジョというアダ名の人間が『何か』をして、誰かに呼ばれ続けるからこそ風化せずに存在する……。

 誰も呼ばなければそれで終わりだ。

 定着しなかった……なんてことはアダ名に限らずよくある話だ。

 

(【喪服人形】……ここに書かれているってことは、何かがあるのは確かだ……)

 

 【ヘブンズドアー】には嘘はつけない。そこに載っている情報は、間違いのない真実だ。

 この【喪服人形】というのは――――有名な固有名詞なのか? それとも、偶然そう言いやすく縮められただけなのだろうか?

 

(喪服の人形……という古臭い時代の短編小説を知ってはいるが、まぁ、関係はなさそうだな)

 

 いずれにせよ現時点では答えの出ない疑問を、人間本になった市岸ごと畳んだ。

 命の危険に関わる【喪服人形】――。

 幸いにして岸辺露伴は、この手の騒動には慣れていた。それだけこの世界には『奇妙な冒険』が蔓延っているのだから。

 

「あれ……何の話をしてましたっけ……?」

「【喪服人形】……まではぼくも聞いたな」

 

 椅子に座り直して二杯目を注文する露伴の前で、市岸がぼんやりと頭を起こして首を捻った。

 それから、「ああッ」と声をあげて、

 

「さっきの話ッ! あれは頼み事をするなら『奢れ』ってことですよねッ! 気が付かず失礼をば! いたしました!」

「いつの話をしてるんだい、君はさ〜〜〜〜〜〜〜! ……それはもういいよ。クリーニング代も必要だろうからな」

「クリーニング代? あ、ああっ……なんでズボンがァァァァ〜〜〜〜〜!? これからアポもあるってのにィィィィ〜〜〜〜〜〜〜ッ」

 

 バタバタと騒ぎ出した市岸の様子に、二杯目を啜る露伴は冷ややかな目線を送った。

 顔を合わせたか合わせていないかも定かではないゴシップ誌の編集。その程度の間柄でしかないし、岸辺露伴の興味度合いはもう変わっていた。

 

「それよりも【喪服人形】だ。君はぼくに一体何を打ち明けようとしていたんだ? ぼくとしても気になるのはそこんとこの事情だ」

「喪服……人形……? 映画のタイトルか何かですか? それともマンガ? それとも実は次のサブタイですかねッ! だとしたらいいこと聞いちゃったなァ〜〜〜〜!」

「……なんだって?」

「いえ、それよりも露伴先生に聞いてほしかったのは……実は自分の叔父が今、ある人と交際していて……いわゆる内縁関係みたいなところまで進んでいるんですが――」

 

 この相談事に関係しているハズの単語に心当たりがない……。

 そんな奇妙さに加え、市岸の口から続けられた言葉に余計に露伴は眉をあげることとなった。

 

「『保険金を受け取る予定のない保険金殺人』ってのは、ありえるんでしょうか?」

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

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