技術工作室を出た後、僕らは職員室を目指していた。
その道中で他とは群れずに単独で佇んでいる彼らを見つけた際に、高城さんは僕に向かって立ち止まるように指示してきた。
「どうしたのですか?」
「しっ!いいから黙ってなさい」
唇に手を当てながら言った後に高城さんは、近くに放置されていた雑巾をバケツの中へ入れて水に浸し、近くのロッカーに向かって投げた。
ガシャンと大きな音をたてたからか、音の方向へ向かって歩き始めてロッカーにぶつかりながらも歩行を止める様子は見られない。
高城さんは、今度は雑巾を彼らの顔面に向けて投擲し見事命中させた。人間だったら何らかのリアクションをとるがそのような行動に移すそぶりは見られなかった。
「・・・やっぱり、自分の体に物がぶつかってもは反応しない。痛覚とかないのよ。視覚じゃなくて聴覚に反応してるようね。じゃなきゃロッカーにぶつかるはずがない」
高城さんは事態が長期化することを見越して、彼らの特徴を探っているようだ。
だがあいつらが
「高城さん今から僕がすることを止めないで下さいね」
後ろから「ちょっ!?」と止めるような声が聞こえたが声を無視して僕は彼らに向かって歩き出す。すり足で近づくことでなるべく足音を殺して近づく。2・3歩歩き出すだけで触れ合える距離まで近づいたところであいつらに目はないが、目と目が合ったような気がした。
僕は足払いをして奴を膝立ちにさせ、頭と顎をつかんで思いっきり捻る。湿り気を帯びた鈍い音を立てて奴は廊下に倒れこみそれ以上は動かなくなった。
「高城さん、どうやらあいつらは視覚もあるようだけど、主に音で僕らを判断しているようだ」
振り向きながら高城さんに向かって話しかける。最初はポカンと呆然とした様子」だったが、僕の言葉を聞いて眉を寄せながらがなりたててきた。
「あんたね・・・!!そこまで確かめなくてもいいじゃない!噛まれたらどうやってアタシをエスコートする気だったのよ!」
僕を追い越して指をさしながら高城さんは僕に向かって宣言した。
「いつまでここにいるつもりよ、さっさと行くわよ!」
何とか職員室にたどり着くと既に先客がいた。
「鞠川校医のことは知ってるな?わたしは毒島冴子。3年A組だ」
「2年B組、野比のび太です」
僕が自己紹介をしたところで後ろから足音が響いてきたため、武器を構えたが、見知った顔であったためすぐに武器を下した。
「おいおい、随分とすごそうなものを持ってるじゃないか野比」
宮本さんを引き連れて、どこかあきれた様子を浮かべながら小室がつぶやいていた。
「全国大会で優勝した毒島先輩ですよね。僕は小室孝、2年B組です。」
そして槍術部である宮本さんが自己紹介をしたあとで、職員室の扉を机や段ボールなどの重いもので即席のバリケードを作り封鎖することで安全を確保し、小休止と同時に今後の方針を話し合った。
「ところで鞠川先生。車は全員が乗れるような車なんですか?」
鞄をゴソゴソと探っていた鞠川先生は「ヴッッ!?」と一息漏らして鞄をそっと閉じていた。問いかけるまでもなくこの場にいる6人を乗せられるサイズではないのだろう。
「部活遠征用のマイクロバスはどうですか?まだ駐車場に止まっていますが」
「鍵なら壁掛けにまだあるけど、バスでどこに向かうの?」
「僕は家族の無事を確かめたいと思っています」
小室は続けて自分の主張を話していく。
「近い順にみんなの実家を回って必要なら家族も一緒に乗せてどこか安全な場所まで行こうかと」
「たしかにこの規模の災害では警察や自衛隊も動いているだろう。地震などのようにどこか避難所が開設されているのではないだろうか」
ある程度今後の方針が固まってきたところで、情報収集のためにつけっぱなしにしていたテレビから衝撃的な報道が飛び込んできたため、毒島先輩がすかさずテレビの音量を上げていた。
〈―――です。各地で発生している今回の暴動に対して、政府は緊急対策の検討に入りました。しかし、自衛隊の治安出動には与野党を問わず慎重論が唱えられており―――〉
チャンネルを切り替えても一連の騒動で話題はもちきりだった・・・。
〈―――すでに地域住民の被害は1,000人を超えているとの見方もあります。知事による非常事態宣言と災害出動要請は―――〉
パンッとテレビの中で銃声が響く。
〈・・・ッ!発砲です!どこからか銃声が響いてきました!ついに警察は発砲を開始した模様です!!状況はわかりませんが・・・きゃあっ!?〉
〈えっ!?ちょっとなに?い、いやぁあああぁあぁぁぁああ!!〉
現場リポーターの悲鳴が聞こえた後に映像は乱れてしまい、次の瞬間にはスタジオが映し出されていた。
〈・・・なっ、何か問題が起きたようです・・・!!ここからはスタジオよりお送りします・・・〉
「どうしてそれだけなんだよ!もっと他にあるだろう!!」
「パニックを恐れているのよ」
高城さんが冷静に分析している。
「今更?」
「どんなときでもよ!恐怖は混乱を招き、混乱は秩序の崩壊を招くわ。秩序が乱れていてどうやって、愉快な死体に立ち向かえるというの?」
高城さんがしゃべっている間にもショッキングな内容のニューズは流れていく。
〈―――屋外は大変危険な状態になっておりますので、できるだけ外出を控えるようにしてください。また、出入り口は必ず施錠し、できうるかぎり窓は補強してください。やむを得ず自宅に居られなくなった場合は最寄りの各自治体に指定された避難所へ―――〉
〈―――全米に広がった一連の非常事態は収拾する見込みが現在でも立っておらず、合衆国政府首脳部はホワイトハウスの放棄を決定したとの発表がありました。洋上の空母へ政府機能を移転させたとのことですが、戦術核兵器使用に備えた対処であるとの観測が流れており―――〉
〈―――欧州ではロンドンにおいては比較的治安は守られているとのことですが、パリ・ローマでは略奪が横行―――〉
「たった数時間で世界中がこんなになるなんて信じられない・・・ねぇっ!そうでしょ!?絶対に大丈夫な場所はあるよね!?」
宮本さんが涙を浮かべながら小室にそうであってほしいように縋り付いているも高城さんは静かに受け入れられない現実を受け止めるように宮本さんの発言を否定した。
「そんなところあると思う?」
「そんな言い方はないだろう」
小室が窘めるように言うも高城さんは無視して続ける。
「パンデミックなのよ、仕方ないじゃない!」
小室がわかっていなそうな反応だったため、高城さんは意味を話し始めた。
「感染爆発のことよ。世界中で同じ病気が大流行しているって訳」
「インフルエンザみたいにか?」
「20世紀のスペイン風邪なんかがまさしくそうね。インフルエンザをなめちゃいけないのはわかっているでしょ?スペイン風邪なんかは感染者は世界で6億人以上、死亡者は5,000万人だったんだから・・・」
鞠川先生が補足する。
「14世紀の黒死病に近いかも、そのときはヨーロッパの1/3の人が亡くなったわ・・・」
「どうやって病気の感染は終わったのですか?」
小室が質問する。
「色々考えられるけど・・・、一番は人間が死にすぎることかしら?感染すべき人間の数が少なくなるから。でも、死体が動く回っているし・・・」
「感染の拡大を防ぐ方法はないということか・・・」
「これから暑くなって骨だけになれば動かなくなるかもしれないけど」
「腐るかどうかもわからなわよ。死体が動くなんて医学の対象じゃないわ。ヘタをすればいつもでも・・・」
「ともかく、家族の無事を確認した後にどこ逃げ込む場所が重要だな。好き勝手に動き回っては生き残れまい。チームだ、チームを組むのだ!生き残りも拾っていこう」
チームの方針が決定し、体力もある程度回復したため、学園脱出に向けて行動を開始することになった。