のび太の学園黙示録   作:ネスカフェ・ドルチェ

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ACT.3 脱出

マイクロバスへ一番近い正面玄関を目指して僕らは移動し始めた。

 

「最後にもう一度確認しておくぞ。必要以上に戦う必要はない、避けられえるときは避けろ!最悪転ばすだけでもいい!!」

 

「連中は音に敏感よ!それから、腕力はドアを倒して壊すぐらい強力よ。掴まれたら振りほどけずに噛まれるわ。気を付けて!」

 

注意すべきポイントを共有した後にフォーメーションを組んで進み始める。

特に話し合った訳ではないが、木刀を片手に剣道で優勝経験のある毒島先輩を先頭にし金属バットで武装した小室と、モップの柄をもってる宮本さんが左右に位置どる。自分が最後方で全体を警戒しつつ、戦闘能力が低い高城さんと鞠川先生を挟み込むような隊列を組んで行動を開始した。

 

「きゃあぁあっ!!」

 

2階から、1階を目指している途中で女性の悲鳴が聞こえてくる。

 

「卓造っ!?」

 

「くそっ!下がってろ!!」

 

男女の集団が階段の踊り場で、複数隊の〈奴ら〉に囲まれていた。

僕らは助けに入る。まず僕が〈奴ら〉の頭部へ釘打ち機による先制の一撃を加え、間を開けずに毒島先輩が白樫製の木刀で〈奴ら〉の頭をしばく。包囲網に空いた穴へ小室と宮本さんも突っ込んでいき、直接頭部を殴り倒して場を制圧することに成功した。

 

「あ、あのっ、ありが・・・」

 

「この中に噛まれた者はいるか?」

 

彼女たちがお礼を述べてくるが、そのセリフにかぶせる形で、僕らにとっても重要なことを毒島先輩は質問していた。

 

どうやら、この中に噛まれたものはいなかったようなので僕らが学園から脱出する旨を伝えて、一緒にくるか誘うと「はいっ!」と元気よく返事をしたため、彼らの集団を吸収し正面玄関へ向かった。

 

道中、他の集団を加えながら正面玄関にたどり着くも、ここで少々問題が発生した。正面玄関にいる〈奴ら〉の数が想定より多く、特に狭い昇降口に密集していたため立往生してしまう。

 

「やたらといやがる・・・」

 

「この人数だと静かに移動することは難しいだろう」

 

「校舎内を迂回しても、余計な連中を引き付けてしまうばかりか挟み撃ちに合う可能性が高いがどうする?」

 

「隣にある会議室の窓伝いに外に出るのはどう?きっと扉から出ようとして逃げ遅れたからここに溜まっていると思うわ」

 

高城さんの意見を採用し、毒島先輩が会議室及び、窓から見える範囲で〈奴ら〉の数が少ないことを確認する。また、念には念を入れて僕は落ちていた靴を拾い、会議室とは反対方向に設置されている掃除用具を収納するロッカーへぶつけた。

 

ガシャンと大きな音が響いたため、正面玄関でウロウロしていた〈奴ら〉も音に気を取られて完全にこちらを認識していない隙に僕ら一行は窓から特別棟から脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

最初の内は順調だった。毒島先輩を筆頭に金属バットや木刀で〈奴ら〉の顔をイケてる顔に整形させていったが、マイクロバスに近づくにつれて〈奴ら〉の数がネズミ算式に増えていった。僕らは早々に倒すことよりも下肢へ攻撃し転倒させることで、障害を取り除くことへシフトしていき体力の温存を試みた。それでも「戦いは数だよ」という言葉もあり、〈奴ら〉の数の暴力の前に僕らは徐々に疲弊していった。

 

 

「いい加減にしてよっ!しつこいのってキライ!!」

 

「同感だな・・・!!」

 

〈奴ら〉の数は確かに多かった。だが、動きが鈍重であることやこちら側もモップの柄やサスマタを装備し、攻撃範囲も広いことから接近されるまえに対処ができる点もあり、どこか余裕があった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「えっ?」

 

最初に犠牲になったのは名前も知らない男子だった。男子が驚くのも無理はない。()()()()()()()()()()()()

 

「があぁあぁあああ!!」

 

その雄たけびに皆振り向いてしまい、そして見てしまった。

 

同行人を襲った〈奴ら〉は他の〈奴ら〉とは違い、熊のように爪が鋭利であり、指よっては第三関節から骨が飛び出してより殺傷能力が高そうな形態をしているが、1番の特徴は全身の皮膚が紅いところだろう。背中をひっかかれた男子はその後組みつかれてしまい、首の頸動脈を食いちぎられ鮮血で自らの体を汚していた。

1噛み、2噛みと獲物を捕食し、満足したのか顎に滴る液体を手の甲で拭って、吐息を漏らしつつこちらへ迫ってきた。通常の〈奴ら〉がヨタヨタ歩きをしているとしたのなら、この〈紅い奴ら〉は早歩きといえる〈奴ら〉とは一線を画すスピードで近くにいた男子へ襲い掛かる。不運なことに小柄な体格であったため、爪による一撃は首元を捉えていた。

 

「小林ぃぃぃぃぃ!!」

 

ザシュと首を一閃し、首と胴体が永遠に離別した。

だが、仲間が次々と死んでいく状況よりも更に驚愕する出来事が起こる。

 

「そんなっ!?嘘だろ!!?」

 

「なんで()()??」

 

そう。井豪が〈奴ら〉となって僕らの前に立ちはだかることも驚愕だが何やら紅く強化されているのだ。

 

「あえて聞かないようにしてたけど、井豪はあんたたちと一緒に逃げてたわよね?」

 

「・・・永は僕らと共に逃げてたけど、道中で〈奴ら〉に噛まれて・・・、最後まで人間でいたいって言って屋上から飛び降りたんだっ・・・!!」

 

小室が言うにはどうやら、井豪は人として終わることと、友人の負担にならないように、自らケリをつけたようだがうまくいかなかったらしい。そして、井豪の鮮烈なデビュー戦によって、【死】を強く意識してしまうことで周囲への注意が疎かになってしまい、背後から近づいてくる普通の〈奴ら〉に気づかなかった。

 

「卓造危ない!!」

 

卓造君の後ろへ魔の手が伸びていたが、常に卓造君の隣にいた彼女が身代わりとなって噛まれてしまっていた。

 

「智江!?くそ、智江から手を放しやがれっ!!」

 

智江さんを掴んでいた〈奴ら〉を吹き飛ばして卓造君が救出するが噛まれてしまった人はもう・・・

 

「永、どうして・・・」

 

こころなしか小室の足並みも乱れていた。また体力の温存をはかり転ばせることに専念していた結果か後ろの〈奴ら〉の圧力が増しており、このままここに釘付けにされてしまえば全滅の可能性も出てきた。

 

「きゃっ!?」

 

緊張と疲労から高城さんが足を躓いてしまい転倒してしまう。すぐ傍には〈奴ら〉が迫っていた。

 

「いっ、嫌ぁ・・・・寄らないで・・・・」

 

涙を瞳にため込んで後ずさりする高城さん。くそっ!こんなときに弾切れ(釘切れ)なんてっ!!!

 

「・・・来るなぁっ!!!」

 

高城さんは持っていた袋から電動ドリルを取り出して〈奴ら〉に向けてスイッチを入れた。

 

「くそぉっ!!死ねぇ!死ねぇ!!死ねぇぇぇ!!!」

 

高城さんは必死に〈奴ら〉を近づけさせないようにしているため周りの状況が見えていなかった。

 

「私が左の2体をやる!!」

 

「麗、右の奴は頼んだ!!」

 

「任せて!!」

 

高城さんの周囲では毒島先輩と小室、宮本さんが互いにカバーしあい〈奴ら〉撃退していた。

3人のフォローに感謝しつつ、高城さんに近づく。電動ドリルによって穴を増やされた〈奴ら〉をどかして高城さんに呼びかける。

 

「高城さん!もう充分ですよ!!」

 

「うるさいっ!バカにしないでよ!!あたしは天才なんだからっ!その気になれば、誰にも負けないんだから!!」

 

コンバット・ハイによる一時的な興奮状態となっている高城さんを宥めるために高城さんを抱きしめる。

 

「もう充分です。もう大丈夫ですよ、高城さん・・・」

 

「黙れこの腐れヲタ!何の権利があってあたしの邪魔をするのよっ!!?」

 

僕にできる精一杯の笑顔を浮かべながら頭を撫でつつ安心させようと試みる。

 

「お話なら、あとでいくらでも僕が聞きますから。・・・もう大丈夫ですよ。」

 

「何よ、野比のくせに・・・・、生意気よ・・・・」

 

くずりながらも落ち着きを取り戻し始めた高城さんにほっとした。

 

「ふふっ、仲良しで羨ましいことだ」

 

どうやら、一連のやりとりを見られていたらしく、こんな最中にも関わらずクスクスと笑われてしまった。

 

「毒島先輩。高城さんを任せても大丈夫ですか?」

 

顔が赤くなるのを無視して先輩にお願いしてみる。

 

「それは構わんが、君はどうするつもりなんだい?」

 

「僕はここで井豪の他、大勢の〈奴ら〉を釘付けにします。その隙に先輩辰はマイクロバスまで向かってエンジンをかけてください」

 

「そんなっ、無茶よ!!」

 

確かに無謀かもしれないが、僕も勝算がなければこんな提案はしない。

 

「どのみちこのまま状況が変わらなければ、僕らはどんどん劣勢に追い込まれていきます。中・遠距離から攻撃出来て守勢に長けている僕がここに残って、突破力のある毒島先輩や小室たちが後ろを気にしないで先行した方が効率がいいです」

 

「でもっ・・・!!」

 

「こうして悩んでいる暇もありません。早く行ってください!」

 

僕はあまり出さない大声を張り上げて先に行くように促す。

 

「・・・信していいんだね、野比君?」

 

「毒島先輩!?」

 

「男がこうと決めたことにあまり口出しするものではないよ。それに男の誇り(プライド)を守ってやる事こそが、私の矜持(スタイル)なのだ」

 

「任せてください。それに、最近のオタクは珍妙な拳法を習得しているものなんですよ?」

 

僕は腕を振り回して力強さをアピールする。・・・あまり効果はなかったようだが。

 

「野比、いいこと?遠足は家に帰るまでが遠足なのよ。雑事は早く終わりにさせて私をエスコートしなさい?!」

 

高城さんが涙を溜めつつどこかイタズラチックな笑顔で僕を励ましてくれた。

 

「仰せのままに」

 

僕が仰々しく一礼すると、毒島先輩一行は程よく緊張感が抜けたのか、ガクっと肩を落とどこか古臭いリアクションを取っていたが、最後まで見ずに彼らに背を向けた。

 

 


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