ベルが魔王の義息なのは間違っているだろうか?   作:クロウド、

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入団

「別の世界に迷い込んだことがあるだと?」

 

「……はい」

 

 訓練場から、再びフィンさんの執務室に連れてこられた僕はリヴェリアさんの圧力に屈してゲロっていた。いや、だってこの人怖いんだもの……。

 

「なにか失礼なことを思わなかったか?」

 

「とんでもありません」

 

 なんて人だ、勘までいいなんて……。

 

「まあまあ、リヴェリア。まずは彼の話を聞いてみようじゃないか」

 

「そやそや、ウチもその世界について興味がある」

 

 フィンさんとロキ様が視線で話してくれと訴えてくる。

 

「僕が迷い込んだのはトータスと呼ばれてる世界で、こちらの世界とは違いたった一柱の狂った神を信仰していた世界」

 

 僕はその神のことを思い出し、本気で胸糞が悪くなってくる。そのせいで、魔力の一部が放出される。

 

「お、おい……。」

 

「あっ、すみません」

 

 リヴェリアさん達が僕の魔力に当てられて顔を青くしていたので慌てて魔力の放出を止めた。いけないいけない、感情のコントロールがまだまだ未熟らしい。

 

「どうしたんじゃ、一体?」

 

「いえ、ただあの狂った糞野郎を思い出したら胸糞が悪くなっただけですよ」

 

 清々しいまでの笑みを浮かべて言うと皆さんが若干引く。

 

「よっぽど嫌いなんだね、その神のことが……。」

 

「ハハハ、好きになれると思いますか?世界そのものをボードゲームか何かと勘違いして種族同士の戦争を起こすような変態カス野郎を?」

 

 青筋を浮かべながらそう尋ねるとフィンさん、「あっ、いや、すまない……。」と言って引き下がった。

 

「確かにそりゃ狂った神やな……。ん?でもさっきベルたん『信仰していた』って言ってたような」

 

「はい、僕の父さんと母さんがブチ殺しましたから。真相を知っている人にあの糞神を信仰してる人はいないと思いますよ?」

 

「ええ……。」

 

 ロキ様が身の危険を感じたように両手で自分を抱きしめる。

 

 取り敢えず僕は全てを語った。

 

 6歳の頃トータスの商業都市フューレンで父さん、南雲ハジメに現妹であるミュウと一緒に助けられたこと。

 

 父さんもまたトータスとは違う世界から盤上を盛り上げるための駒として召喚されたこと。

 

 元の世界に帰るためにその世界にある七つの【大迷宮】を攻略して【神代魔法】を集めていたこと。

 

 そして最終決戦で見事、狂った神を打ち倒し父さん達の世界、地球へ帰還したこと。

 

 僕は父さんに憧れ、あの人のように自分の力で元の世界へ戻る道を選んだこと。

 

 偶然にも僕に与えられた天職は父さんと同じ"錬成師"だっこと。

 

 10歳から【大迷宮】に挑戦し12歳になって全ての迷宮を攻略し、概念魔法を付与したアーティファクト"羅針盤"と"ゲートキー"を使いこの世界に帰ってきたこと。

 

 しかし、どういうわけか僕が作ったアーティファクトで帰ってこれたのは僕が行方不明になってから数ヶ月しか経っていなかったこと。

 

 そして、最後に帰ってきた僕に祖父が打ち明けてくれた正体のこと。

 

 それを語ったとき、ロキ様達は驚愕を顕にした。

 

「……()()()、やと?」

 

「そう、僕の祖父はかつてオラリオの双璧を成した【ゼウス・ファミリア】の主神、ゼウスです」

 

 かつて1000年もの間オラリオ最強の地位を維持した【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の片割れ。その片割れが僕のじいちゃんの正体だと聞かされたときは僕も驚いた。

 

「じいちゃんが僕を育てたのは【ゼウス・ファミリア】の主戦力であった両親のような英雄になってほしいということと、願わくば自分の子供たちである【ゼウス・ファミリア】の命を奪った黒竜を倒して仇をとってもらいたいという願いから」

 

 僕がこのことを語ると、ロキ様は視線を鋭くして僕に尋ねた。

 

「ジブン、ゼウスを追放するきっかけを作ったウチを憎んだりしてないんか?」

 

「……いいえ、じいちゃんから聞いた話では仕方ないと思います。オラリオのような闇を抱える都市では絶対的な力を持つものが上にいなければいけない。その力を主戦力を失ったじいちゃんのファミリアには既になかった、それだけのことです」

 

「そうか」

 

 ロキ様は神の特権である子供の嘘を見抜く力で僕が嘘をついていないと判断したらしく満足げに頷いた。

 

「さっきの戦いで僕の足元を崩したのも、君の仕業だね?」

 

「はい、靴底に仕込んだ魔法陣で地つなぎで錬成を行ってフィンさんの足元だけ土を脆くして穴にしたんです」

 

「便利だな」

 

「それだけじゃないですよ、【錬成魔法】だけでなく【生成魔法】を組み合わせれば。黒傘のような、アーティファクトも作れます」

 

 あの黒傘は【大迷宮】、【オルクス大迷宮】の創作者オスカー・オルクスが使っていたとされる武器を僕が蘇らせたものだ。

 

「さっきから言っているアーティファクトとはなんだ?魔道具(マジック・アイテム)とは違うのか?」

 

「まあ、似たようなものですけど、簡単に言えば上位互換でしょうね。僕の【生成魔法】で無数の技能を付与していますから」

 

 この黒傘には身体強化の他にいくつもの魔法が付与されている。

 

「鍛冶師泣かせもいいとこじゃな」

 

「まあ、元々鍛冶職用の天職ですからね」

 

「さっきの指輪は?」

 

「【空間魔法】と【生成魔法】の合作である宝物庫です。その名の通り、色んなものを入れたり取り出したりできます」

 

 宝物庫から黒傘を取り出して実践してみせた。

 

「正直な話、僕みたいな化け物を抱え込むのはそちら側としても不利益を被ると思いました。だから、出来れば信頼を得てから話したかったんです」

 

「そんな言い方をするもんやないで?」

 

 ロキ様はそう言ってくれるが僕の力は正直、この世界でもおそらく勝てるものがいないくらいの力、ハッキリ言って異常だ。

 

【神代魔法】に至ってはこの世界の定理すら覆す危険な代物だ。おまけに、僕の体はユエ母さんの秘術によって神の使徒に等しいスペックを得ている。

 

 こちらの世界に帰ってくるためとはいえ、僕は人間をやめたのだ。これを、化け物と言わずしてなんと呼ぶのか。

 

「だったら、聞いてみようかやないか。そんじゃ、ベル・クラネルの入団に賛成の者、挙手〜」

 

 ロキ様が間延びのする声でそう言うと、まずロキ様本人、続いてフィンさん、リヴェリアさん、そして、ガレスさんと手を上げていく。

 

「えっ、全員?」

 

「何故お前が驚いている?」

 

「いや、だって、僕みたいな存在厄介なだけじゃ……。」

 

 てっきり断られると思っていた僕は理由を聞きたくなった。

 

「ンー、正直な話。君を抱え込むリスクよりも、君を引き入れたときのメリットと、他の派閥に入られたときのデメリットをふるいにかけた結果なんだよね」

 

「無数のアーティファクトを生み出せる錬成師としての腕、この世界にはない【神代魔法】という武器、なにより【大迷宮】という実戦経験からなる技量。これだけの人材を余所にやるほうがどうかしている」

 

「リヴェリアはトータスとか言う世界の魔法について興味があるからじゃろう?」

 

「……ない、とは言わん」

 

 フィンさんの解答にリヴェリアさんが補足し、ガレスさんの指摘にリヴェリアさんはそっぽを向いて答えた。

 

 あと話していないのはロキ様だけなのでその視線は自然とそちらへ向く。

 

「ウチの場合は簡単やろ?面白そうやからや。別世界に漂流したことがある子供なんて長い神生で一度会えるかどうかもわからないんやで?そんなの手放すわけないやないか」

 

 本当に楽しそうに話すロキ様。

 

 神々にとって派閥の運営は子供達と関わる『娯楽』の一種でもあるとじいちゃんは言っていた。流石は遊戯神というべきか。僕みたいな化け物を面白いの一言ですませられるのだから。

 

 でも、そんなことが言えるこの人(神)になら僕の力を預けてもいい気がしてきた。

 

 だけど、その前に……一つだけ問いたいことがあった。

 

「ロキ様、一つだけ聞いてもいいでしょうか?」

 

「なんや?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ないっ!」

 

 僕の質問にロキ様は即答した。

 

「そんなつまらん世界ウチかて願い下げや。子供ってのは()()に生きてるからこそ面白い生き方をする。それを見守るんがウチ等の楽しみなんや。

 笑うこともできない不自由な世界に価値なんてあるわけもないやろ」

 

 【魂魄魔法】を宿した"黒眼鏡"が彼女の言葉に嘘はないと告げている。……うん、やっぱりこの人はあの狂った神とは根本が違う。

 

「それで、なんなんこの質問?」

 

「僕が憧れている七人の英雄が、生まれるきっかけになった言葉ですよ」

 

 僕は椅子から立ち上がりロキ様の前に片膝をつき、胸に手を当てて跪く。

 

「神ロキ。この身、この力、全て貴女に預けましょう。例え地獄の底だろうと貴女の眷属として戦うことを、ここに誓います」

 

 彼女に預けよう、僕が培ってきた力の全てを。

 

「そんな仰々しいもんやんなくてもええんやけどな……。まあええ、その誓い確かに聞き入れた」

 

 苦笑いを浮かべながらも僕の誓いを認めてくれる。

 

「ようこそ、【ロキ・ファミリア】へ。歓迎するで、ベルたん」

 

 差し出されたその手を、僕は確かに握り返した。

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