ベルが魔王の義息なのは間違っているだろうか? 作:クロウド、
「ふう、リヴェリアさん今日も飛ばしてきたなぁ〜」
初ダンジョン探索から数日、僕はリヴェリアさんの座学口座が終わりホームの中を歩いていた。流石に覚えることが多いらしく戦闘面以外でのダンジョンや派閥についてのことまで教え込まれた。
運がいいことに僕は元々容量はいいほうだ。鉱石の種類を覚えるよりは簡単だしね。
ふと、芝生のある中庭を通りかかると一人無心で剣を振る金髪の少女、言うまでもなくアイズちゃんが目に映った。
つい先日の危なっかしい戦いで今日はダンジョンに行くことを禁止されているから、素振りで気を紛らわせているんだろう。
彼女のダンジョンでの戦闘の様子を何度か見て理解した。彼女がダンジョンで戦う理由は……
戦うアイズちゃんから確かに発せられたモンスターへの憎しみ、そしてあの年で両親を亡くしている。そこから導き出される結論は簡単に想像できる。
僕は袖にしまってあるタロットカードを一枚引く。
「『月の正位置』。不安定、トラウマ、潜在する危険、か」
これ以上ないくらいピッタリなカードだな。
「朝から素振りかい?」
「…………。」
タロットをしまって近づき、そう尋ねるがアイズちゃんは僕の言葉に無視を決め込む。
「たまにはこうやって大の字になって寝転んでみるのもいいものだよ?」
「………いい。」
芝生に寝転びながらそう訪ねても彼女はただひたすらに剣をふるだけだ。
ユエ母さんと出会う前の父さんのストイックさとどっこいどっこいだな。
はあ、仕方ない。今はちょうど誰もいないし……。
僕はアイズちゃんに手を翳して【重力魔法】を発動する。
「ッ!?」
いきなり体が浮かび上がったことに驚いてアイズちゃんは体をジタバタさせるが、そんなものは意味がない。
そのまま僕の隣に僕と同じように、仰向けに大の字になった状態でポサリと落ちてくる。
一泊置いてガバっと起き上がったアイズちゃんは目をパチクリさせながら僕を見下ろす。
「今、何したの……?」
「さあ?でも、こうして寝転んでいれば僕が口を滑らせるかもしれないよ?」
「…………。」
僕の返しに少しブスリとしたが、やはり僕のこの魔法が気になるのか言われたとおり寝転ぶ。
やがて、彼女の無機質な表情がゆっくりと穏やかな表情へと変わっていき、彼女の目に光が宿っていく。
「どうだい?」
「っ!…………気持ち、いい」
そっぽを向きながらも素直に答えてくれた。多分、【ロキ・ファミリア】に来てからの半年、こんなことをしたのは初めてだったろう。今日も天気もいいし、とても気持ちいいだろう。
子供らしいこんなことをするのは随分久しぶりだろう。
「……君が戦う理由は大体察したよ」
「ッ!?」
僕の言葉にアイズちゃんの目が一瞬の驚愕の後、元の暗いものが宿って目に戻っていく。
「全く……その歳でなんて目をしてるんだ君は」
隣で寝転ぶ少女の頭を優しく撫でてやる。最初ビクッとしたがこの娘はなんの抵抗もなく頭を撫でられる。全く、折角のきれいな髪が痛みまくってるじゃないか。
僕は幼少期は殆どトータスでの思い出が強いし、地球に行ってからも自分からはミュウと違って趣味に走ろうとはしなかったそんな暇があったら技術を磨くって息巻いてたし。
だから、だろうなぁ。この子が妙に気になるのは。勝手だけど過去の自分と何処か重ねているんだろう。
僕の場合は父さんたちが偶に息抜きに色んなところに連れて行ってくれたけど団長達も仕事上そんないつも構ってはいられない。
子供は本来、『背負われる』存在だ。その小さな体に重荷を『背負える』ようになったとき人は大人になる。無理に背負おうとすれば僕のように手に負えない力を得るか、それとも重荷に押しつぶされるか、二つに一つ。
あの【ライセン大迷宮】で読んだ手記に記された言葉が酷く頭をよぎる。
『子供が笑えねぇ世界になんの価値がある?』
ミレディ・ライセン。貴方がその言葉に心が動いた理由があの娘を見てると、よく理解できる。
全くもってそのとおりだ。
「……僕はね、君が心の底から笑えるようになってほしいって思ってる」
「心の……底から」
アイズちゃんは自分の胸に手を当てて僕の言葉を反芻する。
「復讐とか、憎しみとか、そんなものぜ〜んぶっ、忘れて、心の底からただ『楽しい』、『嬉しい』って言って笑えるようにね」
「そんなこと……できるわけない……。」
「そんなことはないよ。君がそれを望んでいる以上できない事はないさ」
「そんなもの、望んでないっ!私が望んでるのはっ……!」
アイズちゃんは立ち上がって僕を怒気を孕んだ厳しい目で見下ろす。だけど、僕は言葉をやめない。
「そんなことはないさ。君だって、出来るならーーー
「ッ!」
アイズちゃんが息を呑むのが聞こえる。目の前の少女は反論する言葉が思いつかないようで歯を噛む。
「今すぐに笑え、なんて無茶言う気はないよ。だけど、僕は君がいつか……本当の意味で笑顔になれる日が来るって信じてる」
体を起こして真っ直ぐな目で僕はアイズちゃんを射抜く。
ミレディ・ライセン、オスカー・オルクス、ナイズ・グリューエン、メイル・メルジーネ、ラウス・バーン、リュースティス・ハルツィナ、ヴァンドル・シュネー。
貴方達、解放者の意思を継ぐなんて傲慢なことは言わない。だけど、せめて……目の前にいるたった一人の少女を、憎しみから解き放つ"解放者"を名乗るくらいは、許されてもいいだろう?
そこから僕達は暫く何も言わずにそこに寝転がっていた。
「ねえ……さっきの力について教えて?」
「……さぁて、なんのことかな?」
僕がとぼけてみせるとアイズちゃんは目を見開く。
「さっき教えてくれるって言った」
「僕は寝転べば教える"かも"とは言ったけど教えるとは言ってないよ?」
僕がそう言うとアイズちゃんは顔を赤くして頬を膨らませた。うわっ、リンゴみたい。
「むぅ〜〜〜! 嘘つきっ!」
「残念、こういうのは嘘じゃなくて賢いっていうんだよ」
「ズルい!ズルい!ズルい!」
片目だけ開けてみてみるとアイズちゃんはふがーと言う擬音がつきそうな様子で両手を上げていた。今度は威嚇する小動物みたいだ。
こうやって感情を表に出せるなら笑顔になれる日もそんなに遠くないんじゃないかな。なんて考えていると、いきなりかけていた"黒眼鏡"をかっさらわれた。
「なっ!?」
「教えないと返さない」
「ちょっ、返しなさい!」
「いやっ!」
流石に子供相手に【身体強化】やら無理矢理とったりするのは気が引けたので普通に取り返そうとするが、流石子供。すばしっこい、眼鏡を奪われないように動き回った。
そこから僕とアイズちゃんの目まぐるしい攻防が始まった。
「ハァハァ……やるじゃないか、アイズちゃん」
「ハァハァ……貴方、こそ」
結局、眼鏡を取り返すことができず僕らは互いに疲れて再び大の字になって寝転ぶ。凄まじい攻防の果て、お互いにお互いを変な形で認めてしまった。
「……何をやっているんだ、お前達は?」
「なんや、一緒になってお昼寝か?」
「これはロキ様に皆さん……こんな姿で申し訳ないです」
現れたのは呆れ半分、意外半分な表情で現れた首脳陣の皆さん。それに、相変わらずの笑顔を浮かべるロキ様。
「いやあ、アイズちゃんに息抜きをさせようと思ったら何故か眼鏡を奪われてしまいまして……取り返そうとしていたらこのザマです」
「ホントに何をやっているんだ……。」
「まあまあ、リヴェリア。アイズのこんな姿そうそう見られるものじゃないよ?」
「よい傾向じゃろう」
「そやそや、お昼寝するアイズたん……かわえ〜な〜!ウチらも寝転ぼうや〜!」
僕らの隣にゴロンと転がるロキ様。
「おい、ロキ。……全く、仕方のない」
「いいじゃないか、偶にはこいうのも」
「そうじゃな、儂らも最近忙しかったのでこういうのもよいじゃろう」
そして、その隣に団長、ガレスさん、リヴェリアさんと寝転ぶ。
しかし、眼鏡どうやって取り返すか?ん?何かが引っかかるな……あっ、そうか!
「ひょっとしてアイズちゃんが僕にそっけなかったのって眼鏡のせいかい?お父さんが眼鏡かけてなかったからとか?」
「………(ビクッ)。」
この反応、図星か。そういえばあの時、眼鏡外してたからなぁ……。
「なんや、アイズたん眼鏡嫌いなんか?そういや前にリヴェリアが眼鏡かけたときも……。」
「それ以上言えばどうなるか理解しているのなら言うといい」
「……なんやったかな〜。」
一体、何があったんだ?まあ、地雷臭がするから聞かないけど……。
「こんなことするのはいつぶりだろうね?」
「うむ。偶にはよいじゃろう」
団長とガレスさんもすっかり体の力を抜いている。さっきも言ってたけど最近執務で忙しそうだったもんな。
「で、アイズちゃん。いつになったら僕の眼鏡返してくれるんだい?」
「……秘密を教えてくれるまで」
「……まさか見せたのか?」
「どのみち、パーティを組んでたらそうなるでしょう?アーティファクトまでいくつか見せちゃってるんだし」
リヴェリアさんのジト目に正論で返した。少し不満そうだったがそれ以上は言わなかった。
「はあ、仕方ない。どうせ長い付き合いになるんだ。さっきの言ったことが達成されたら話してあげるから、眼鏡返してね」
「……………。」
寝返りを打ってまたそっぽを向いてしまったが、小さく頭がコクリと動いたのを見て承諾してくれたように思う。
「約束ってなんだい?」
「ああ、それな。ウチが説明したるわ」
「……なんでロキ様がそれを知ってるんですか?」
「そら、さっきから聞き耳立てとったから。カッコよかったでぇ、十二歳の子供の言葉とはとても思えんかった。なんやったっけ?『君だって……』」
ドパンッ!
僕は話そうとしたロキ様の言葉を遮って発砲した。見事避けられたが。(非殺傷用の硬質ゴム弾です)
「チッ!」
「な、何すんのや!?」
「残念です、神ロキ。まさかこんなにも早く誓いを破ることになるなんて」
「何言ってんのん!?」
「あんな黒歴史を聞かれたとあっては仕方ない……貴方を殺して僕も死ぬ!」
「落ち着け、ベル!覚悟決め過ぎや!わかった、話さんから!」
必死でそう言うロキ様に仕方なくドンナーをホルスターに収めた。
「そこまで言われるとねぇ」
「気になるのう」
「ああ、なんと言ったのだベル?」
「他人に言うくらいなら、自殺するレベルで恥ずかしいセリフです……。」
真っ赤になっているであろう顔を覆って再び寝転んだ。シリアスで言ったときならまだしも……素面で言われると死にたくなる。
さて、眼鏡が駄目じゃコンタクト作んなきゃなぁ……。でもそれじゃ光らせるのは難しいか?名前はどうするか?ブラック・グラス?我ながらダセェな……。