鬼滅の大剣豪   作:もりも

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始まり

月夜の深い森の中、およそ人などいるはずもない場所にて人によく酷似した叫声が響き渡る。

その叫声の感情を読み取るのならそれは怒気と恐怖にて他ならないであろう。

 

「に、ににに日輪刀じゃ、ない・・・!?鬼狩りではないのか!?」

 

そう呟き、己の胴から離れた首を持ち上げる異形の者の姿。

此奴の頭には4つの角が生え、口内には獣ほどに鋭い牙が見え隠れする。間違っても人間とは答えれない姿のこの生物は鬼。人を食糧源とする人食い鬼だ。

しかしその鬼が怯えるのは、その正面に2本の刀を構える男の存在が故だった。

 

「・・鬼狩り?んなもんは知らんが・・・何だ?てことはお前は鬼ってぇことか?」

 

男はこの時代の男児としては少し長身で珍しい緑の髪色をしていた。

 

「鬼狩りではない・・・というのに、この俺の首を二度も飛ばすか!?」

 

「妖怪かなんかの類か。まぁ首切られて生きてるような奴確かに人間じゃないわな。」

 

「しかしならば、お前は俺を殺すことは出来ず、いずれは体力は尽きていく。フ、フフ。お前ほどの極上の剣士を食えば如何程に強くなれるだろうか!」

 

鬼を殺すには条件がある。

それは日光。

闇夜でしか生きることが出来ない鬼は日の光を浴びてしまうと蒸発するかのように消え去ってしまうのだ。焼こうが煮ろうが死にはしない鬼とって唯一に近い弱点である。

そしてその日の光と同様の効力を持つ日輪刀こそが人が鬼を滅殺できる攻撃手段だ。しかし男の手には日輪刀ではなく無銘でありながらも上質な唯の刀が握られていた。

 

「ったく、おれは桃太郎じゃねえぞ。」

 

男は腰に据えた3本目の刀を咥え込む。そして鬼よりも鬼と感じさせる程の鋭い表情で男はニヤリを口角を上げる。

 

「斬っても死なねえなら、殺してくれと口にするまで斬り殺すまでだ!」

 

 

 

 

 

 

六眼の黒死牟は感嘆の声を思わず上げた。

いかに離れようともいかに視界が悪かろうが1キロ圏内であれば苦もなく物を捉えるこの鬼はもはやこっちが鬼かと見紛うほどに鬼を切り刻む剣士に興味が向いている。

それは彼にとって長らく感じていなかった感覚だろう。己と同じ境地に達する可能性を秘めた才覚は彼が鬼となって以来1人としていなかった。

 

「流石に・・。呼吸も使わず鬼を圧倒する人間は・・記憶にない・・。超越した身体能力・・。我が刃を前にいかな反応を示すか・・・。」

 

男が泣き言を吐き出した鬼の胴を3つに切り伏せた瞬間、男の背後から強烈な殺気が突き刺さる。

 

「!?」

 

男はこれまでかいたことの無い汗が背中に纏わりついた。鬼に襲われても尚先程までの弛緩していた彼の体は硬直し、指一本でさえ容易に動かすことが出来ないでいる。

 

(な、何だこの重圧は・・!?)

 

「・・・安心しろ。・・・後ろから不意打ちはせぬ。・・ただ殺すことなど赤子の手を捻るほどに容易だ。・・貴様との純粋な斬り合いに興味がある。」

 

男はつい先程遠くから感じた圧力が小声がハッキリと聞こえる程の距離まで接近していることにようやく気付く。・・もし黒死牟がその気であれば10数回は殺されている。

男は後ろを振り返り、頬から大粒の汗が滴り落ちらせる。

 

「・・・剣士?い、いや・・この気配・・テメェもコイツと同じ、鬼か?」

 

「・・そうだ。」

 

「同種の割には随分と様が違うこって・・!」

 

明らかに動揺する男。彼を知る人物からすれば彼のこのような姿は一度たりとも見たことはないだろう。刀を握る手が僅かに震えている。

 

「・・さて・・・言葉を交わすことなど・・この場において・・・意味など無い。」

 

黒死牟は柄に手をかけ、スルリと刀を抜く。

男はその動作を一瞥しただけで、この鬼がどれだけ剣士として洗練されているかがわかった。圧倒的熟達度。その人間が息をするかの如くあまりに自然な所作に気が遠くなるほどの修練が頭によぎる。

 

「っ・・・・。」

 

切っ先がまだ己に向いていないのにも関わらず男は己の敗北を確信した。そして同時に沸々と笑みを浮かべ出した。

その様相に黒死牟も思わず疑問を口にする。

 

「なぜ・・笑う?」

 

男はその問いで更に口角を釣り上げる。

 

「・・あぁ、悪いな。今まさに最強が・・対峙していると思うとよ。舞い上がっている自分がいんだよ。」

 

「・・・・なぜだ?」

 

「世界一の大剣豪になることが俺の目的だ。間違いなくテメェをここで倒せば俺が最強になる!」

 

男は刀を咥え込み覇気を纏う。

 

「・・・ほう。」

 

男はいかにも攻撃を仕掛けると言わんばかりに腕を胸の前で交差させ前傾姿勢で構える。それに黒死牟は中段に刀を構え受けたつ。

 

「鬼・・斬り!!!!」

 

爆発的な突進ともに黒死牟を斬りつける。だが3本同時の斬撃を黒死牟は返す1本の刀で剣技をもっていなす。

完全に勢いを殺された男は別段それに驚くことなく、次刃3刃の攻撃を加える。その豪腕から繰り出される豪剣は苛烈を極めるが、黒死牟はヒラリと躱しきる。

男は腰を落とし、2歩間合いをとった鬼に『飛ぶ』斬撃を魅せた。

 

「鷹、波ィ!!」

 

地面に走らせた切っ先からの斬撃の衝撃波が黒死牟の足下を抉りこんだ。

「む・・」とくぐもった黒死牟はそれすらも防御せしめたが、ガキィンと先程までと違いけたたましい金属音を鳴らした。

 

「・・・さすがだな。こうも簡単に防がれるたァ・・自信無くしそうだぜ。」

 

一連の攻撃を防がれたことに半ば呆れ声を出した男をよそに瞠目する黒死牟。

当然だ。どれほどの筋力と、どれだけの瞬発力があれば斬撃波を繰り出せるというのか。

この一撃にこの黒死牟でさえこの男に天賦の才を感じるしかない。

 

(・・・痣もなければ・・呼吸さえも使えぬ人間が・・なぜ・・・このような芸当ができる・・。此奴もまた・・・縁壱・・のように神に愛された者だというの・・か?いや・・あくまで此奴は凡百の中の優れた者に過ぎぬはずだ。もし・・仮に神に愛されているのであれば・・・余りに理不尽な・・永遠と研ぎ続けたとしても・・・到達し得ない剣才を生まれ持つだろう。もし・・そうだというのであれば・・己のこの湧き出た感情はあり得ないはずだ。)

 

 

黒死牟の脳裏に数百年前の苛立ちが再燃するも、目の前の男は自身の弟とは違うと頭を振る。そしてもう一つ思い出したのは弟が語った後世生まれ出づる自分たちを超える才覚たちこと。

負の念の塊である鬼に本来前途ある人間の若者など劣等感をくすぐる目障りな存在でしかないが、剣士としての本能かこの男に興味を持ち、しかもこの先を見てみたいなどと鬼舞辻から大きく逸脱した感情まで抱いてしまっている自分に多くの疑問が浮かぶ。

 

男が我流で編み出したであろう技と斬り結び、剣戟が鳴り響く。

受けばかりで致命傷を狙う攻撃を仕掛けてこない黒死牟に男は防御の意識を捨て躍起に刀を振るうが、とてつもなく厚い壁が男の前に遮り、些細な切り傷すらつけられないでいた。

 

「ハァッ・・!!ハァッ・・!!ハァッ・・!!くそっ!!バカにしてんのかテメェ!何で攻撃してこねえ!!」

 

「・・殺すには全く惜しい・・・・・・名は何という?」

 

「あぁ?」

 

「貴様の名を・・知りたい。」

 

黒死牟は気づいていない。彼がこの男に惹かれているのは自身が持つ弟に対する劣等感からくるものであることを。

数百年鬼として生きてこようとも届かない弟の背中。凡百である自分では到達できないであろう領域をこの男は手をかけることが出来るのではないかと期待を抱いてしまっているのだ。

 

「・・霜月揃十郎(しもつきぞろじゅうろう)。」

 

「・・・・・く・・・なるほど、この出会いは偶然か、必然か。これもまた神の気まぐれなのかもしれんな。」

 

「?」

 

「ならば・・今此奴が死ぬかどうかも神の導き次第か。来い・・・貴様が放つ最高の技を我が絶技をもって打ち破ってやろう。」

 

黒死牟は男の名を聞くや、遡れば生前からあげた事のない口角を引き上げ、上段に構えた黒死牟に強大な重圧を受けるも揃十郎・・ゾロは気圧される事なく自身の奥義を繰り出すよう構えた。

 

「三刀流奥義・・・!!」

 

右手の柄先を逆手に持った左の柄先に合わせ体の前で回転させる。そして黒死牟は静かに吸い込んだ空気を肺に溜め込んだ。

 

「三千世界!!」

 

「月の呼吸一の型 闇月・宵の宮。」

 

2人の間合いは常人では目も追えぬほど一瞬で潰れ、そして衝突した。

細かい金属音が地面を打ち鳴らす音と鮮血が吹き出す音は同時にお互いの鼓膜を震わす。

 

「・・・俺の、負けか。」

 

ガタリと片膝をついたのはゾロ。

黒死牟が繰り出した横薙ぎの一線は容易くゾロの手に持つ両刀を打ち砕き、両腕と胸を裂いた。

血鬼術として本体同様変化した黒死牟の刀の前に日輪刀でもない刀ではまともにぶつかればこうなる結果は初めから分かっていた事ゆえ、黒死牟はこの結果に驚いた。

即死しなかった。

これが黒死牟がまず感じた驚きだった。

呼吸を用いた攻撃に対し、あそこまで踏み込んでなお内臓に損傷しない程度で済んでいる事は俄かに信じがたい事実であった。それほどまでにゾロが繰り出した剣圧に技が圧されていたのだ。

 

(・・馬鹿な。・・だが、何だ?この教え子が期待に沿ったような昂揚は。)

「・・素晴らしい技であったぞ。」

 

「へっ・・・世辞はいらねぇや。」

 

「・・?何をしている。」

 

ゾロは唯一残った口に刀を鞘に収めると、体を反転させ黒死牟に向かって大の字に姿勢をとった。

 

「背中の傷は剣士の恥だ。」

 

「・・・・見事だ。」

 

ゾロをこのまま生かす道を与えようと考えた黒死牟だが、剣士としての気概をここまで見せられ応えなければ無粋というもの。

僅かに・・ほんの僅か、生き長らえる程度に加減して刀を振り下ろし、先程より一層夥しい鮮血が舞った。

常人では十割死に絶えるであろうが、この男がもし導きを受けるのであれば・・・縁壱の領域に到達する男であれば此処で死なぬであろう。

瀕死のゾロを黒死牟は肩に担ぎ、この山中を下りると人道にドサリと置き捨てた。

 

「・・・死ぬな、霜月の男・・いや揃十郎よ。呼吸を知り経験を積み再び私に挑め。・・私はその時まで貴様の名を忘れないでおこう。」

 

そして六つ目の鬼は音もなく闇夜に消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ゾロの名前は故郷のシモツキ村とワノ国編の偽名から使ってます。
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