鬼滅の大剣豪   作:もりも

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キリがいいので短めです。


岩柱

山脈に位置する所に悲鳴嶼の住居はある。

普段柱として活動しているため戻ることも少なく生活感などない。あるのは最低限の調理道具と布団、訓練用の木刀だけだった。

普段は獣たちが闊歩する息がよく聞こえる場所なのだが、それらの気配は一切遠ざかってしまった。鳴るのは木がぶつかり合う弾けた音だけだ。

 

「ぐっ・・・・!!」

 

ゾロが木刀で防いだ筈の衝撃に体ごと後方へズラされる。

 

(・・なんて重さだ!一度受けに回れば反撃するキッカケがない!!)

 

ゾロは震える両の手に冷や汗をかいた。

 

岩柱に着いていったゾロは彼の住居に着くなり手合わせを申し入れた。いち早く強くなりたいゾロにとって当面の目標である柱の力を知っておきたかった。そして数分手合わせして実感したのは想定以上の実力差であった。

 

(呼吸術にはそれぞれの型がある。雷は善逸の霹靂一閃がそうだ。呼吸で爆発的に高めた身体能力を最大限に引き出すための型。)

「岩の呼吸にも技があるんだろ?それも見たいんだがな。」

 

「・・・すまないな。ここまで連れてきてなんだが、私は皆のような真っ当な刀を使う剣士ではない。このような木刀で発揮する型ではないのだ。」

 

今悲鳴嶼が握りしめているのはゾロ同様木刀である。しかし本来彼が得物にしている日輪刀は数多くいる隊員の中でも異彩を放つ。彼の日輪刀は棘のある鉄球と手斧を鎖で繋げた西洋でいうモーニングスターなのだから、初めてその姿を見た者は必ず困惑してしまう代物だ。最も型を極め、刀鍛冶が最も心血を注ぐ柱には一風変わった刀を持つ者も何人かいるのだが。

 

「まぁ、そういうことじゃ仕方ねえっ・・・な!!!」

 

返す刀でゾロも力で真っ向から斬りかかる。型を使えないというのならば、こちらも技術ではなく力で対抗する気だ。ズガン、と木刀が大きくしなり軋む音をあげるも、根を張ったような悲鳴嶼の下半身はビクリとも動かない。

シィイイ・・・と独特の息を吸い込む音が鼓膜を振るう。ゾロは強力な攻撃が来ると身構えたが、呼吸法を身につけていないゾロと悲鳴嶼では乗用車と機関車ほどに積んでいる馬力が違うのだ。

 

「う、・・おおおっ!!!」

 

豪腕から振るわれる連撃に八間程ある樹木まで吹き飛ばされた。

「ぐっ・・」と衝突した背中に苦悶の表情をあげ肘をつくゾロ。そして悟る。元鳴柱の桑島慈悟郎が言っていたように柱の実力は別格なのだと。

 

(どれ程の男かと思ったが・・・。確かに非凡だ。その剣筋と身体能力の高さは柱を含めたとしても特筆に値する。だが・・)

「揃十郎よ。君はここに来る道中話してくれたな?君が望む事を。もう一度聞いてもいいか?」

 

「・・目指すは世界最強の剣士。だから鬼殺隊の呼吸術を知りたい。」

 

「・・・その目的を否定するわけではないが、我々は人の脅威である鬼から人々を護るために剣を振るう。責務が伴うのだ。命を天秤に賭けるこの戦いにその君の剣は重みがない。」

 

悲鳴嶼が言うように鬼殺隊の目的とゾロの目的は根本の指針が違う。

鬼殺隊には肉親を鬼に殺された者たちが大半であり、鬼に対しての憎悪が原動力となっていることが多い。勿論それと同時に自分と同じ境遇を生まない様に人々を護る優しき者たちでもあるということを忘れてはならない。

それに対してゾロはあくまで我欲。鬼とは関係なしに剣術の向上のみを目的にしているのだ。悲鳴嶼がいう重みとはそこを指している。

 

「言わんとしてることは分かるが、別に大義名分があるからってそれが強さの根拠にはならねぇだろ。俺は俺なりの目的のためにやっている。本当に俺の剣が軽いかどうかはそれは俺が死んだ時に分かることだ。」

 

「命を賭けるほどのことなのか?その称号を得られたとて、何の形にも残る者であるまい。」

 

「地位、名誉なんざ求めちゃいねぇよ。俺が自分でそう確信した時にその目的は終わる。まぁつまり自己満足さ。」

 

「南無。・・若さゆえか。力にものをいわせた強さなど求めても、それは破滅の道だ。本当の強さを理解できないその弱者の考えを改めさせなければならぬ。」

 

悲鳴嶼の視点では、ゾロが掲げるものは自身の才覚からの驕りだと感じ取れた。求め過ぎた力は身を滅ぼすと懸念している。しかしゾロには誓いがあったのだ。親友への誓いだ。それがある限り彼が人道を外れ、黒死牟の様に修羅と化すことは無いだろう。だから悲鳴嶼が意味する「軽い」という指摘は的を得てはいないのだが、ゾロにしてみれば己の剣が軽いと言われたことがただ気にいらない。

ならば己の全力を受けてみろ、と悲鳴嶼を挑発する。

 

「ハッ・・!じゃあ何か?家族が鬼に食われでもすれば、この剣にも重さが加わるってのか!」

 

鬼殺隊に対して最も神経を逆なでする言葉を放った。

鬼殺隊の設立の経緯はゾロも聞いている。隊士の大多数が愛しい人を鬼に殺されているということを。

これは悲鳴嶼の全力を引き出す方便である。

 

「・・・・・。ならばその重み。身を以て知るが良い。」

 

ゾロの目論見通りに憤怒の顔を覗かせる悲鳴嶼は傍に置いてあった己の日輪刀とゾロの一振りの刀を取り出すと、お互い得物を取り替える様に促した。

 

「君の希望通り、殺意をもって技を打ち込もう。それに耐えたのであれば君の剣を認めよう。」

 

巨大な鉄球を握りこむ手に一層の握力が込められる。

ゾロの手には黒死牟との戦いで唯一残った白拵えの刀。誰もが名刀と呼ぶだろうその鮮やかな刀身を抜いた。日輪刀ではないこの刀にゾロの幼き頃からの誓いが込められている。今は亡き、親友の忘れ形見だ。これを使ってこの勝負負けるわけにはいかない。

 

先程よりも呼吸を深くする悲鳴嶼。全集中の呼吸の更に奥を引き出すため、反復動作である念仏を唱える。

この攻撃を向ければゾロは死ぬだろう。しかし悲鳴嶼はこの殺人に躊躇は無い。例の上弦の剣士の様に強さを求めゾロが後に鬼にならぬとは限らないからだ。善の芽を摘むことにもなるかもしれないが、悪の芽を摘むことにもなるかもしれない。どちらに転んでも良かった。

常人であれば相当な重量の鉄球と手斧をまるで鞭が如く振り回し、勢いを強める。

 

「・・・岩の呼吸 肆の型、流紋岩・速征!!」

 

目にも留まらぬ獰猛な攻撃、対処を間違えれば簡単に首が弾け飛ぶ。しかしゾロは極限の集中の中でこの中範囲内攻撃を穿つ攻撃を瞬時に割り出した。

 

「一刀流・・三十六煩悩鳳!!!」

 

何も触れてもいないはずの鉄球が弾け飛ぶ。

 

「!?飛ぶ斬撃だと・・!?だが、一度弾いたとして終わる技では無い!!」

 

鎖に繋がれた鉄球は彼の操作で何度でも目標を襲う。この凶悪な結界を打ち破ることはできない。

しかしこの数分の一秒の隙がゾロにとって最大の好機。

 

「シィイイイィ・・・!!」

 

「!!これは、呼吸音!?」

 

何も黒死牟との戦いから寝ていたわけでは無い。最強を目指すからには一日とて惜しい。確かに雷の呼吸は彼の体には合わなかった。しかし、それは完全なる習得を目指すのであればだ。

 

呼吸術とは肉体を爆発的に向上させる術だ。岩ならば体幹を強化し重厚な肉体を、水ならば関節の柔軟性を高め流麗な肉体を、そして雷ならば瞬発力を強化し稲妻の様な脚部を。

俄仕込みの呼吸、しかしその一撃は軽んじて受けるほど優しいものでは無い。

 

「一刀流居合、瞬閃・獅子歌歌!!!!」

 

悲鳴嶼はゾロの底知れぬ可能性をこの瞬間垣間見た。天性の才覚に驕っているわけでは無いと。存在を知ってからこの短い期間で呼吸を技として昇華することは不可能である。それを可能とするには死に際まで追い込む鍛錬で作り上げた基盤があって初めて為せることだ。

この柱を目の前にしてる様な圧倒的な威圧感。これを目の当たりにして果たして今から繰り出される一撃が軽いと言えるだろうか。

 

目を反らすほどの閃光が夕暮れを照らし、遅れて爆発音と剣戟音が山中に木霊した。

 

 

 

 

鞘に収めた刀を再び抜くゾロ。その顔には悔しさの感情が有り有りと見てとれた。閃光と見紛う程の火花は、それ即ち武器によって防御された証左だ。

消耗した体力と僅かに痙攣する膝。慣れぬ技をしてまで勝ちにいったのにも関わらず、受けられたことに奥歯をかんだ。だが・・・

 

「揃十郎よ。・・・君を認めよう。」

 

悲鳴嶼は背後にいるゾロにそう言った。

彼の足元には一尺は抉れた足跡。

確かに彼の体は無傷。ゾロの一撃を完全に防いでみせた。しかしその一撃に彼は後退させられたのだ。

 

「君の剣の重みは確かなものであった。」

 

手を合わせた悲鳴嶼は詫びる様にゾロへ頭を下げた。先程までの強烈な殺気が一切消えたことに、この勝負が終えたことを理解する。ただゾロの心中は複雑である。

 

「やめろよ。全力の一撃をああも防がれたんだ。その結果は変わらねぇ。」

 

「いや、見事な一撃であった。防げたのはそれは君の技量不足だっただけだ。君の根底から覗くその確固たる意志は本物だ。」

 

「・・・・技量不足ねぇ。」

 

褒められた気分にはならなかったゾロ。ボリボリと頭を掻いて張った緊張感を解く。その姿に悲鳴嶼は本来の柔らかい表情に戻し、闇が差し掛かったを空見渡した。

 

「もう日も暮れる。今日はこれまでにして、晩の食料でも調達しなくてはな。」

 

 

 

 

これから半年続く悲鳴嶼とのゾロの修行は初日を終えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




作者が考える鬼滅の刃解釈講座 善逸編

善「呼吸法で合う合わないってどういうことなんだろ?」

爺「む!珍しく修行について考えておる様じゃの!」

善「うん。前にじいちゃんがゾロさんが雷の呼吸合わないって言ってたじゃん。でもなんでだろうって思ってさ。だってあの人壱の型ほとんどできてた様に思ってたし。」

爺「うむ。確かに合わないと言ったが、それは他の型と比べて・・ということじゃ!」

善「どゆこと?」

爺「例えば炎の呼吸に適正がある剣士が水の呼吸を使えないかと言えば、それは間違いじゃ。あくまで型とは潜在能力を最大に引き出すための術であるのじゃ!」

善「ふんふん。」

爺「呼吸術とは特殊な呼吸法によって空気を取り込み肉体を強化するもの。ワシらの雷の呼吸であるならば脚を強化するようにの。しかし雷の呼吸を習得してもその使い手が元来腕力を自慢としていたらどうじゃ?」

善「う〜ん。弱点を補ってるとも取れるけど、勿体無い感じはするかも?」

爺「そう!人には様々な優れた点がある。短所を磨くより、長所を伸ばし必殺の技を身につけた方が強力な剣士になるのじゃ!」

善「じゃあゾロさんが炎か岩に合うって言ったのはなんでなの?」

爺「奴は全体的に高水準の筋肉の質を持っておった。ならば、体の中心である体幹が優れズシリと構える岩の呼吸か、全身の質を求められ最も万能な炎の呼吸が適しておる。」

善「なるほど!そういことか!」

爺「加えて言うと、あくまで適正に一番近いという表現が正しいわい。」

善「??」

爺「派生の呼吸があるじゃろ?アレは学んだ基礎の呼吸を敢えて崩して己に最適化していった末に生まれるものである。同じ型を使い同質の肉体を持つ剣士同士でも性格までは違う。其の者の趣味趣向、考え方様々じゃ。逆に言えば人間を5つの型枠に嵌めるなんて無理じゃろ?型は磨けば磨く程、細分化されていく。柱に派生の呼吸の者が多いのも、極めた結果なのじゃ。」

爺「つまり揃十郎は岩や炎の適正はあるが、極めた先に派生の呼吸を生み出すかも知れんと言うことじゃ!」

善「おお〜〜〜!わかってきた様な気がする!ハンターハンターの強化系が放出系の念を八割しか極めれないのと一緒で適正のない型は半端にしか極めることができないってことだな!!それが呼吸の合う合わないか!」

爺「他の漫画で纏めるんじゃないわい!」



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