鬼滅の大剣豪   作:もりも

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十二鬼月

「ハヤクシロ!脳無シ!東ダ!東!バカタレソッチハ南ダ!!左手ノ方ニイクンダヨ!!」

 

「食うぞテメェ!!」

 

鬼殺隊に入ってひと月、初めての指令をこなして三週間。この間にゾロにつく鎹烏はイライラの頂点を達してた。

何度も何度も何度も行き先を教えているのに、間違えやがるからこのひと月でまだ討伐数が一しかないのだ。山に向かえと言うのに船に乗り、街に出ろと言えば富士山に登頂していたりと指令が来ても着く前に終わっているのだから、津々浦々旅しているただの浪人である。

 

そんな中ようやく任務にありつけたゾロはギラついた表情で鬼を追いかけていた。

 

<渓谷の里を支配している徒党を組んだ鬼を討伐せよ。>

 

浅い川で飛沫を上げながら子供の姿をしている鬼、<四稜鬼>は追いかけて来る剣士に恐れをなして逃げ惑う。

 

「くそっ!!アイツ強すぎる!?二稜鬼を苦もなく殺りやがった!!俺たちは五人揃えば負けないが単独では勝てねぇ!!他の三人と連携しなければ!!」

 

子供の姿らしく大岩や木々をスルリと躱しもって走る四稜鬼に絶望的に方向音痴のゾロが追い縋れる訳もなく烏の健闘虚しく目標を失ってしまった。

 

「脳無シ!脳無シ!!コンナ頭悪イ奴初メテ見タ!クアアア!!!」

 

「ぐ・・・・。」

 

今回の目標の鬼で確認されているのは、五つ子の鬼である事、異様に隠れたり逃げることが上手い事だ。要は鬼ごっこが上手い子供鬼達だった。

字面は何だがほっこりするがこれが意外に厄介で、複数の隊士から逃れ運よくゾロが不意をついて一匹仕留めれたが、この任務が開始してから四日経っていると考えれば相当苦戦している。

そんな状況が続くかも知れないと踏んで、現場で最も階級が上の隊士が<隠>に<柱>の要請を出していた。そして柱は今日の子の刻頃に到着するとの事だったので丁度今頃の時間なのだが・・。

 

「あれ?貴方は確か会議の時の?」

 

現れた柱は甘露寺蜜璃だった。

 

「・・・・あんたは・・・確か、色狂の?」

 

「色狂!?そんな覚えられ方!?恋柱の甘露寺蜜璃!流石にそれは傷つくよぉ〜。」

 

(そんな大差なさそうだが・・。)

 

「え?でも待って。あの会議って半年ぐらい前だよね?でも日輪刀持ってて任務ついてるってことは、もう悲鳴嶹さんの修行終わったの!?」

 

「ああ、ひと月前にな。」

 

「すごーい!!悲鳴嶹さんって凄く過酷な鍛錬してるから誰も継子になれないって言われてるのに!」

 

(だろうな・・。)

 

彼女が来て闇夜の中に灯火が差した様に場が明るくなり、彼女に続いて揃った隊士も緊張が緩和している様子だ。その中で丙の階級の海原は柱である彼女に話しかけられている初見のゾロに何者なんだ?と頭を傾げる。

 

「さっきアイツの戦闘見てましたけど、凄まじく強かったですよ。岩柱の継子みたいですし、甘露寺様とお知り合いなのでしょう。」

 

ゾロの近くで捜索していた庚の隊士からしてもゾロの実力は鮮烈であった。

甘露寺が加わったことで指揮権は彼女に移ったが、今回の対象の鬼を考えれば一人の指揮官より八人の隊士を二手に分け、一班を甘露寺、二班を乙の隊員を班長とした。構成はとりあえず階級で割り振ったため唯一癸のゾロは甘露寺と同班となったが、正直一班に戦力が偏っているのが否めない・・・。

 

単独の方が良かったゾロとしては不本意だが、上司命令とあれば大人しくそれに従う他なかった。

甘露寺が加わった事で隊士の動きは活発となり、捜索速度はこれまで以上に上がる。しかし一班の足並みはお世辞にも揃っている訳ではなかった。

 

「おい!霜月!先走るな!歩調を合わせろ!」

 

海原は一人突っ走るゾロに後方から注意を飛ばす。それを知ったことかと半ば無視するゾロに甘露寺は眉尻を下げ困ったような表情を浮かべる。

 

「張り切ってるなぁ。勇み足にならなきゃいいけど・・。」

 

この渓谷はさして広い訳ではない。鬼が逃げ出したのであればもう此処から抜け出している可能性はあるが、隊員お付きの鎹烏が周囲を囲っているのでその心配はあまり無いだろう。しかしこれほどの人数で探しているにも関わらず見つからないのは何かしらのカラクリがあるはずだ。

鬼は血鬼術を用いて身を隠す事も出来たりする。正直そのような事ができる鬼に逃走に徹されてしまえばお手上げである。鬼に対して強力な隊士を差し向けるとこういった事が度々あった。今回の五つ鬼もゾロに加え柱も投入されたとなればそうするだろう。しかし五つ鬼はそれをしないだろう。・・いや出来なかった。

 

「情けない。たかだか鬼狩り数人に及び腰とは。」

 

今、五つ鬼の四人はドロリと濃い血の匂いをさせる鬼に見下ろされていた。

 

「目障りな鬼狩りを始末してこそ、あの方に貢献できるというもの。せっかく頂いた血鬼術を鬼事にしか使えんとは、もはや存在価値があるのかとお前達に問いたいね。」

 

「後からやって来て好き勝手ほざくなよ!!確かに強力な鬼狩りが一人いたが、俺たちが全員が揃えばなんて事はない!」

 

先程ゾロに追われていた四稜鬼は岩に座って自分を見下ろす鬼に対して怒気を表す。そして四稜鬼の後ろには二稜鬼を除いた三人のそっくりな鬼が控えていた。

 

「まぁ、そういきり立つな。我が協力してやると言ってるんだ。この下弦の参の我がな。」

 

 

 

 

 

 

『もう修練で君に教えることはない。』

 

修行を始めて六ヶ月が過ぎようとした冬の日、唐突にゾロは悲鳴嶼からそう告げられた。

 

『君の実力は最早柱に近いところまできている。このまま私と山の中で鍛えようとも、最早上澄みは無いだろう。これ以上は命を賭ける程に強度を上げなければならないが、それは鬼との戦いですることだ。』

 

この半年でゾロは悲鳴嶼の岩の呼吸とは違う所謂派生の呼吸を習得し、階級で言えば「甲」に匹敵するまで腕を上げていた。

ゾロの呼吸は悲鳴嶼曰く、岩の呼吸をより精密により繊細に研磨した技の極致だと言う。

悲鳴嶼のように非常に恵まれた体格から繰り出す暴虐な攻撃は鬼をも震え上がらせるが、ゾロの攻撃は岩の呼吸の強靭さのままに多彩性と柔軟性を併せ持つ。さながら金剛石の様であれば、軟らかく如何様に象れる錫の様だった。

ゾロが進むべき次の段階は鬼との殺し合いの戦場である。

 

『鬼との戦いならば日輪刀が必要となる。そこで刀鍛冶の職人をここに呼んである。』

 

『・・話では鬼殺隊の試験に合格したら刀が貰えるって聞いたんだが。』

 

『君が試験など行こうものならそれ用の鬼を一人で狩ってしまうだけだ。最早他の受験者の妨害でしかない。』

 

(善逸の奴は泣いて喜びそうだけどな・・。)

 

藤襲山の試験は受ける必要は無い特例で鬼殺隊へと正式に入隊となったゾロ。街に一度下り、悲鳴嶼と共にこれからの準備を進め、その夜には日輪刀を届けに刀鍛冶が二人が小屋へやって来た。

 

『いやいや、岩柱様のご自宅はえらい遠いとこで中々の旅路となりましたわ。』

 

やって来たのはひょっとこのお面を被った豆粒の様な老人と、そのお供であった。

 

『鉄珍殿自ら来なさるとは、麓の街で待っていればよかった。・・・してなぜ貴方程の方が起こしに?新人隊士に貴方が刀を打ったと?』

 

鉄地河原鉄珍とは刀鍛冶の里の長の名で、彼が自ら足を運ぶなど相当珍しいことである。

 

『そうじゃよ。耳を引く名を聞いたもんでな。のぅ・・霜月殿?』

 

『?何の話だ?』

 

鉄珍が今回やって来たのはゾロの名に対する興味だった。悲鳴嶼には聞き馴染みの無い姓である霜月の意味を鉄珍はつらつらと語り出した。

 

『昔、儂らとは別の刀鍛冶の一派がおった。その一派が創り出す刀剣は正に至極の品々で、戦国の世から世俗の間で密かに語り継がれておった。その者らの名は「光月」。』

 

鉄珍は遠い目をするかの様に視線を上に言葉を紡ぐ。

 

『元は石工職人だった彼らは戦国の世の流れから鉄を打ち、刀剣を打った。儂らの先祖も光月が創り出す刀を見て、如何様にしてそれ程の物が出来上がるのか、教えを請いにいったという。』

 

光月一族は古く源流は古代豪族に仕えていたと記述が残っている。そして室町の時代には紀州の小大名にまで盤石の地位を固めるまでとなった彼らだが、何も刀鍛冶の腕一本で成り上がった訳ではなかった。

光月に仕える最強と謳われた五つの士族の存在が、光月を上へと押し上げた。

最高の刀は最高の剣士が持つべし、と光月は練兵に最も時間と金を費やしていたのだ。その中で頭角を現したのが天月・雨月・風月・黒炭、そして霜月といった臣下の一族であった。中でも霜月は特筆しており、一軍を率いれば一晩で一国を落とすとまで言われた程であったそうな。

鬼の存在と、日輪刀の存在を知ったその光月家は産屋敷と協力関係を結び、ともに日輪刀の向上に一役買って出たのだ。そして霜月の剣士達が鬼殺隊に加入したことでよりその関係は強固なものへとなっていった。

 

『霜月流馬という名に覚えはないかね?』

 

鉄珍はゾロにそう尋ねたが、ゾロは光月の話も含め頭を傾げるばかりだ。

 

『かの剣士は歴代の鬼狩りの剣士の中でも傑出した男だと残されておる。その黒刀を携えた剣士は上弦の鬼を三体も屠った。』

 

『なっ!?』

 

悲鳴嶼は目を大きく見開き、驚愕の表情を表した。それも無理もない。上弦の鬼はここ百年討伐が為されていない不落の象徴として鬼殺隊に認識された存在であったのだ。それを一人が三体も?俄かに信じ難い・・・・・が、それがゾロの祖先と言うならば強ち否定は出来ないかもしれない。

 

『なぜ・・それ程の存在であった光月家と霜月家が歴史に埋もれているのです?』

 

『鬼舞辻に計略によって滅ぼされたのです。光月に関わる一族皆が・・。』

 

鬼舞辻の擬態は変幻自在で幼児の姿をしたと思えば壮年の紳士を装う事も出来た。つまり奴は鬼でありながら人間社会に溶け込められるのだ。組織の観点からしてこれほど恐ろしいものはないだろう。いつだって国が滅ぶのは内部からの崩壊から始まる。もし一軍を滅ぼせる鬼が間者として内政に紛れ込んでいたとしたら?悪夢以外他ない。

鬼殺隊が政府非公認なのは国政が絡むと光月の二の舞を踏む可能性があるからだ。

 

『江戸の頃には滅んだと思われていたが・・・。』

 

『お館様も彼の名を聞いて屋敷へ呼び寄せたのか。』

 

悲鳴嶼は産屋敷のゾロに対する待遇に合点がいった。

 

『・・・・村の師匠にも聞いてない話だが、んな昔話興味ねぇな。そんなことより刀持って来てくれたんだろ?』

 

当の本人は興味無さげに茶を啜って日輪刀を催促する。鉄珍は「ソウソウ忘れておった!」と言うとお付きが持っていた包みからふた振りの刀を取り出した。

 

『この刀は僅かに残された光月家が打った一対の刀を儂が磨き上げたもんだ。しっかし三刀流とは、また奇怪な・・・それと刀は二本だけど良かったのかい?その刀、日輪刀ではないのじゃろう?』

 

『この刀は特別なんだ。別に鬼の首はその刀で斬ればいい。』

 

『では柄を持ちなされ。日輪刀はその持ち主によって色変わりする刀。儂ら刀鍛治はこの瞬間が楽しみでな。』

 

ゾロが日輪刀を握ると二つの刀身は純白に移り変わる。その刀身はまるで宝石の様な煌びやかさだ。

 

『ほぅ・・まるで砡を思わせる色じゃな。』

 

『砡?』

 

『砡とは珊瑚や翡翠など七宝と呼ばれる貴石のことでな。』

 

『そうですね。今の君の剣術は原石を研磨した宝玉そのものだ。君が体得した岩の呼吸の派生の名・・・密かに考えていたのだが、砡の呼吸は丁度いいのではないか?』

 

『ま、あんたが言うならそれでいいさ。』

 

 

 

 

 

 

ゾロは鬼の気配を捉える。

それは強烈な存在感だった。先程まで追っていた鬼とは違い、隠れる気がない。

 

「右前方に新たな鬼がいやがるな。」

 

「え?わかるの?」

 

「なんとなくな。」

 

殺気を放つ鬼であれば方向音痴であるゾロでも迷うことなく対象まで辿れるだろう。しかしこの鬼にはそう迂闊に近付くのは危険だと直感した。

 

「鬼は基本的に群れることはしないが、力を持った鬼ほど慎重で計算高い。気をつけた方がいいかもしれません。」

 

海原が言うように強い鬼ほど知力があり、弱い鬼ほど本能に流されやすい。ゾロが僅かでも躊躇する程に強烈な殺気を放つ鬼が自身の存在を隠そうともしないのは罠である可能性が高いと推測もできる。

 

「でもいるのが分かってるなら行かない訳にはいかないわ。罠を警戒してここで二手に別れましょう。私は木村さんと。海原さんは霜月君と組んで行きましょう!」

 

「「はい!」」

 

「りょーかい。」

 

ここから鬼へ正面からは甘露寺達が向かい、ゾロ達は回り込んで横撃を企てる。

 

 

 

 

 

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