ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前話の続きです。


第三十九話「ダイ・アナザー・デイの戦いその7」

――扶桑は五輪開催を辞退するつもりだったが、日本の意向で開催する事になった。その関係もあり、開催反対派の官僚や軍幹部が複数、失脚していった。特に軍部への締め付けは大きく、強かった。(史実1940年五輪のこともあり)五輪の妨害と見做されたクーデターの首謀者達への処罰が厳罰になる理由であった。各国は戦争を理由に不参加を当初は決め込んだが、同位国の政治的都合からの経済制裁が恐れられた上、暗い世相の光にもなるため、五輪参加の辞退をするわけにもいかなくなった。選手の多くを有力な軍人で占める事になった他、五輪参加を渋ったため、以後の世界でカールスラントの発言力が低下する端緒となった。カールスラントは疎開先がアルゼンチンにあたる地であるため、21世紀世界で同地の領有権を持つアルゼンチンから未来における同地からの退去を遠回しに要請されるなど、踏んだり蹴ったり(ドイツの主導した『軍縮』も疎開地からの退去を念頭に置いていたから……と後に、ドイツは公式に釈明している)である。ただし、怪異に占領された地は金属資源がほとんど吸われているという点から、カールスラントは疎開先のアルゼンチンを結局は手放す事はなかった(世界秩序の維持の観点からも)。また、オストマルクを吸収していた関係上、どうしても国土解放後の復興を行うべき地域は広大であったからだ――

 

 

 

 

――カールスラントはロシア連邦の嫌がらせで撃墜王のスコアへ疑義が生じ、その名誉が毀損された。現場の士気はそのせいで壊滅的であり、ミーナの降格処分が一時でも伏せられたのは、鬱病に罹患し、療養中のエディタ・ノイマンが退役願を出した事に続いてのショッキングなニュースでは、現場の士気が崩壊してしまうとされたからだ。当時は人種・出生国差別問題で減俸処分が一律で下され、士気に混乱が生じていた時期である不幸も大きかった。その代わりとして、有無を言わせない実績のある黒江達が代わりに祀り上げられたわけだ。実際、黒江達はあらゆる機動兵器で戦果を挙げられる上、生身でも最強を誇る事は政治的にケチが付いたカールスラント撃墜王らの代わりにするには、うってつけであったからだ。カールスラント空軍はこれから長らく、『冬の時代』を迎える事になる。軍用機の自主開発能力を低下させ、豊富とされたはずの人的資源の大量喪失という緊急事態に陥っていくからだ。一方の日本連邦空軍も黄金世代とされた事変世代の退役と新世代への世代交代期に突き当たる時期に戦争が起こり、Rウィッチ化させてでも、『ベテランを慰留せねばならない』という前代未聞の珍事に見舞われ、10代前半の若者の軍入隊が複数の要因で抑制される事となったため、ウィッチの『常識』では高齢とされた黒江達が『象徴』とされるようになる。その一方で調、芳佳、ことはなどが『新世代』と祀り上げられてゆくため、新世代の台頭を示し、若者の自尊心を一定範囲で満たさなくてはならない事も理解していた。これは黒江達が新世代とされていた時期の政策の『失敗』が後々に響いている事の教訓であった。皮肉な事に、クロウズ後を見越し、ジェット時代に備え、集団戦闘を前提に育てていたはずの世代の思想そのものが異端視されてしまい、逆に彼女達の世代が軍の要職とはほとんどは無縁の軍歴を辿るという後世の記録からは、扶桑皇国にとって『レイブンズが前線に復帰して、かつてより強くなっていた』事自体がイレギュラーであった事が分かる。武子もかつては集団戦闘至上主義であったが、個人練度が伴っていなければ、マニュアル小僧を量産するだけという事実を覚醒後に実感し、64Fの隊長の任を引き受けた。つまりはそういうことなのだ。――

 

 

 

 

――こちらは調。この時は久しぶりにシュルシャガナを纏っていたが、得物に関しては、エクスカリバーである――

 

「こいつら、キリがない!」

 

「チィ、第二次世界大戦中の米軍の物量は馬鹿げていると聞いているが、ここまでとはな…」

 

調と箒は共に黒江たちの弟子筋かつ、聖闘士に任ぜられた共通点を持つが、元来の武器なども依然として使う。そのため、箒は赤椿を纏っている。(ただし、この頃には翼の意匠が射手座の聖衣に近くなっているなど、聖衣の特徴も入り交じるイレギュラーな進化を遂げ、束が仕込んでいたあれこれな仕掛けを自律的に無効化している)

 

「箒さん、どうします!?」

 

「敵の一点を突破してから引き揚げるぞ!続け!」

 

二人はM4中戦車の60両からの猛砲撃を加えられていたが、当然ながら、屁でもない。二人は第二次世界大戦レベルの戦車では傷をつけられないからだ。攻撃力に関しては言うまでもなく、随伴歩兵ごと戦車を蹴散らせる。唯一の難点は体力だけだ。調は元が体力があるほうではなかったため、この時点では短期決戦タイプである。箒も長期戦向けの気質とはいい難い上、敵中突破を好む気質であるため、敵中突破で撤退するという選択肢を取った。

 

『アトミックサンダーボルト!!』

 

『ライトニングプラズマ!』

 

二人は聖闘士としての闘技を使い、兵士と戦車を塵に還す。聖闘士の技は服装に関わらず使用可能であるため、シンフォギアとIS展開状態でも特段の問題はない。これは後に、黒江がキュアドリームの姿で闘技を躊躇なく撃つ理由につながるのである。

 

「最短でラブリーたちと合流するぞ!!一番層の厚いところに叩き込め!」

 

「はい!!はぁああああ……!」

 

調は腕に光子を集束させ、それを敵の中央にいたM4シャーマン・ジャンボに叩きつけ、光子を爆発させる。

 

『フォトンバーストぉ!!』

 

光子を大爆発させる恐るべしこの技、かつてはアイオリアがティターン神族を屠るために使用したと伝えられる失伝技の一つであった。ティターン神族を封じられるほどのエネルギーの奔流があたりに撒き散らされるため、敵軍団の三割ほどが同時に消失する。爆心地は余りの熱で地面が結晶化を引き起こしており、敵軍の三割をいっぺんに消失させたとは思えないほどの静寂が訪れる。

 

「よし、このまままっすぐ『帰る』ぞ!!』

 

「はい!!」

 

二人は黒江の教育のせいか、思考が薩摩人じみてきていた。敵中突破を何の躊躇もなく実行する上、大技で相手を怯えさせるという黒江にそっくりな戦術を使った。敵は呆然としつつも、すぐに攻撃を再開する。しかし、箒と調はタイ捨流と示現流を混ぜた独特の構えに移って突貫を始めており、黒江の薩摩人教育の戦闘狂の側面が表れていた。この独特の構えは一説によれば、かの『島津豊久』が得意としたともされ、後に黒江がキュアドリームの姿で披露し、キュアブラック達の度肝を抜く事になる。黒江もそうだが、九州の人間達は狂奔に入ると、狂戦士の如き様相を呈する。その黒江が教育したため、二人もその気質になり、基本世界の自分達とは異なる気質に転換したのだ。

 

「止めろ、なんとしても止めろ!!」

 

戦車隊と随伴歩兵達の必死の攻撃も意味は無く、二人の前に残骸と屍を晒すのみ。調は黒江から甲冑術も仕込まれているため、可愛い顔して残酷なことを躊躇なく行うことでも恐れられている。また、箒はパワー型の聖闘士になったため、打ち合った銃剣ごと相手の首を切り落とすほどのパワーアップを遂げており、ISのパワーアシストの意味があるのか不明である。二人は上斜めからの剣の振り下ろしなどに全力を費やしているが、それだけで戦車もまっ二つにするため、リベリオン兵士らは武器を捨てて逃げ出す者続出である。

 

「アメリカ兵って臆病者多いですね」

 

「徴兵で集めたヒョロガリの若者が多いからな、この時代。海兵隊のほうがまだ肝が据わっとるよ」

 

箒の言う通り、この時代の陸軍は徴兵で人数を充足しているため、意外に敵前逃亡も多く発生する。扶桑軍も似たようなものであるが、教育のおかげか、意外に敵前逃亡は発生していない。志願兵と徴兵では心構えも違うため、志願兵出身の予備士官や叩き上げの特務士官は実戦で有能なことが多い。なお、この時代はまだ海兵隊のアイデンティティが完成されていないためか、『Once a Marine, Always a Marine.』との標語を地で行くような精強な部隊は意外にいないという。実際、リベリオン海兵隊出身の506B部隊のウィッチ達が戦後のアメリカ海兵隊によって、ブートキャンプからやり直しさせられるなどの光景も起こっている。ちなみに、黒江の知り合いのアメリカ海兵隊将校に『南雲弓』という日系のヘリコプターパイロットがいるが、その彼女曰く、『ブートキャンプからやり直しだよ、あれじゃ』と呆れるほどであったという。

 

「撃ってくるのは…」

 

「志願兵の連中だろうな。面構えが違う。とは言え、M4中戦車しかおらんのか、敵は。ルーチンワークになってきたぞ…」

 

「敵の機甲軍はM4しかいないっていうけど、目が疲れてきますよ、これ」

 

二人は突き進むが、次から次にM4中戦車が現れるため、途中からうんざりしていた。弁護するなら、エンジングリルや車体などに細かな違いのあるサブタイプがいるが、二人にはわからない。調やのぞみ曰く、『どれも同じじゃ?』とのことで、パットン曰く『違うわ!』とのこと。

 

「戦車駆逐大隊も帯同させんで、私達を倒そうとは……片腹痛いな。だが、目がチカチカするぞ、このルーチンワーク…」

 

箒はM4中戦車を流れ作業的に破壊する。この世界ではまともな機動戦のノウハウをリベリオン側が持っていないのか、第一次世界大戦と大差ない戦術しか取ってこない。

 

「心眼の修行代わりに目をつぶってみましょう。わたしたちなら、進む方向は目をつぶってもわかりますし」

 

「そうだな。しかし、敵は菱形戦車時代のマニュアルしかないのか?機動戦をとらんぞ」

 

「この世界の戦車運用は戦前期の教本から更新されていない国が多数派ですからね。カールスラントと扶桑が異常なんですよ。機動戦前提のドクトリンに切り替えてたから」

 

リベリオンは切り替え途上にあったが、経験不足で『手もなくひねられる』ことが常態ながら、物量で勝利する事が多い。犠牲を織り込み済みと考え、血で勝利を得るドクトリンはアメリカではなく、昔年の赤軍が取った戦術ドクトリンだが、そうせざるを得ない事情もあるのは事実だ。

 

「しかし、ドイツ兵の気持ちが分かった。もぐらたたきのようにキリがない」

 

「日本軍の気持ちも、ですよ。心眼で斬りますよ!」

 

二人は心眼に切り替え、中央突破を強引に行った。二人は小宇宙で最短ルートを感じ取り、その通りに剣を振るった。こうなれば、リベリオン機甲部隊は烏合の衆である。二人の動きについていけない対戦車砲の誤射も頻発し、戦前期の教義が如何に実戦に適合しないものであるかを思い知ることになった。

 

 

『うおおおおっ!!』

 

雄叫びと共に中央突破を図る二人。壁役と期待された『M4A3E2(シャーマン・ジャンボ)』も為す術もなく部品以下に細切れにされる。

 

『ストライク・エア!!』

 

調が対戦車砲や兵士らをストライク・エアで吹き飛ばす。こうなれば、ただのカカシ扱いであった。

 

「心眼より音響探知(エコーロケーション)の方がスキルとして伸びたかもしれんな……」

 

「言えてますね。さぁ、ラブリー達のところへ向かいましょう!」

 

「そうはさせるか!!」

 

「くっ……!」

 

二人の前に一両のM4A3E2が勇敢に突進してきた。調はとっさにジャンボの突進を受け止める。シャーマンは基本的に4ストローク星型9気筒空冷ガソリンエンジンを積む。400HPの出力であり、この時期では標準値のエンジンである。そのエンジンが駆動させる履帯と調がとっさにフル回転させたシュルシャガナの脚部内蔵ローラーの押し合いが起こり、M4のエンジンが派手なエンジン音を立て、履帯が高速で駆動する。シュルシャガナのローラーが盛大に土煙を立て、高速回転するが、単体ではパワー不足である難点から、ローラー単独では履帯に力負けしてくる上、調の足が地面にめり込み始める。

 

「やっぱり、ピンの出力じゃ押し返せないかっ…!」

 

メインを腕力に切り替える。小宇宙を発揮すれば、戦車の押し返しも容易だからだ。このままではローラーの接地圧が上がりすぎてスタックする危険が大きいため、小宇宙で腕力を増強し、そのまま持ち上げる。

 

「ふっ、おぉぉ…!」

 

自重が重くなっているジャンボも聖闘士にかかれば軽いものだ。そのままジャイアントスイングで遅れてやってきた戦車駆逐大隊の車両に向けてぶん投げる。

 

『超電ジェット投げ!!!』

 

超電ジェット投げ。仮面ライダーストロンガー由来のジャイアントスイングである。電気を纏わせてぶん投げ、戦車駆逐車とぶつかった瞬間に大爆発が起こる。電気エネルギーで弾薬と燃料を発火させたのだ。なお、なのは由来の技能として、小宇宙を燃やしても放出しないように身体に循環させながら魔力転換して足場にシールドを張ってめり込みを防止しており、戦車の持ち上げには細心の注意がいるのがわかる。

 

『よぉし!私だって、鍛えればこのくらい!』

 

ガッツポーズを決め、はにかむ調。ポーズにはキュアドリームの影響が出ている。そもそも、片腕を天に向けて突き出す決めポーズの元祖はストロンガーであり、そのポーズは間接的にキュアドリームなどに受け継がれている。茂が自分の存在の誇示などに用いた決めポーズは後世、キュアドリームが取った事には苦笑交じりながらも、指導をするようになっている。調は野比家で過ごしていた都合、黒江の妹分として面識があり、今決めたポーズもストロンガーのそれである。

 

「お前、茂さんにせがんでたな、そう言えば」

 

やれやれとため息の箒だが、実は黒江が自分の代理でIS学園に行った際、アガートラームを箒の姿で纏った際にポーズを決めていたりする事は知らなかったりする。

 

「ええ。その時には連邦の大学に通ってましたけど、またとない機会なんで…」

 

「お前なぁ…」

 

ため息の箒だが、海戦でのび太が華々しく戦っている事は知っている。近頃は自分達の『重介護者』という新たな誹りが出ているため、のび太に模擬戦で『実力』を公に示す事を進言したのは彼女であり、調とことはが兄のようにのび太を慕っている事を知っているが故の進言である。のび太は『僕は綾香さんたちへの恩返しをしてるだけだし、通りすがりの正義の味方さ』と意に介していないが、誹謗中傷への明確な回答を公に示す必要は政治的にあったためだ。のび太は戦闘機操縦も大冒険の経験からこなせる。グレンダイザーとの合体機構のために複雑な操縦系を持つダブルスペイザーを難なく動かせるあたり、その才能も有している。

 

「のび太は今ごろ海戦か」

 

「大丈夫かな…」

 

「キュアドリームやキュアハート、綾香さんがついておるのだ、信じろ」

 

「……」

 

のび太の事になると、心配そうな表情になる調。のび太との付き合いは長いが、長いからこその心配事もあるのだ。のび太が子供の頃には一時でも好意を抱いた事もあるので、尚更だろう。のび太はなんだかんだで、しずか一筋の人生であり、調はそれを悟り、のび太が思春期のあたりで、自分の気持ちに折り合いをつけている。そのことはモフルンも知っている。のび太がかかあ天下気味な家庭を持った事には苦笑しつつも、しずかとも概ね良好な関係である。のぞみはそんな家庭の仲間入りをいずれするからか、この頃にはすっかり野比家の一員と見なされており、また、プリキュアでは最古参級の経歴から、箒からも信頼されている。

 

「のび太…」

 

兄のように慕うのび太、更にその息子であるノビスケ以降の子孫達にも仕えていく身の調。憂いを湛えたその表情は可愛く、自衛隊にファンも多い。実は黒江との感応直後に、どこの世界でも切歌とワンセットでひとまとめに扱われていく事を幻視したのか、その事に不満を抱いたのが、この時期における切歌との不和の理由であった。ベルカで『ベルカ騎士』になった後はオリヴィエとのび太だけが『自分と一人の人間として見てくれ、自分を一つの確固たる存在として扱ってくれた』からか、二人を慕う気持ちは強く、立花響の不用意な『一言』に激昂し、吐き捨てるような一言を残して出奔する、のび太にそれまでの生活をかなぐり捨ててでも尽くすほどの行動力が備わった。調は黒江と感応した時点で、基本世界の自分自身とまったく異なる道へと歩んでいったが、その証明がのび太、ひいては自身が持てなかった『温かい家庭』への思慕であった。

 

 

 

 

――のび太は華々しく、ダブルスペイザーで戦う。その身の上を心配する調。箒とは姉弟子と妹弟子の関係でもあるが、箒がマリアと『同じ魂を存在の根源とするソウルシスター』の関係にあった事も無縁ではないだろう。切歌がボイコットした関係で折衝業務などに追われ、何かと多忙になり、戦う機会が減ったマリアは『自身と共通の前世を持ち、過去生がとある共通の人物』であることが伝えられた篠ノ之箒に面倒を頼むようになった。箒も断る理由もなく、妹弟子でもあるため、最近はマリアに代わって保護者的ポジションに落ち着いた。箒にも篠ノ之束という姉の七光りという評判が絶えず、その事をずっと気にしていたため、のび太へ向けられた数々の誹謗中傷にもっとも心を痛めていた一人である。奇しくも、調を心配する姿はマリア・カデンツァヴナ・イヴと似通っており、本質的に箒とマリアは良く似ていたと言える――

 

 

 

 

 

 

――扶桑皇国はこの時期から調、ことは、芳佳の三人をレイブンズとクロウズ共通の弟子という触れ込みの『新世代ウィッチ』としてプロパガンダしていく。黒江達三人は既に『偉大な英雄』として再プロパガンダされていた(けして成功したとはいい難いが…)ため、それに続く『新世代の台頭』を軍隊の新規志願数の維持のためにも宣伝する必要があったからだ。だが、その思惑は扶桑皇国海軍ウィッチの中堅層を中心とする第二のウィッチ・クーデターとその事後処理で半ば挫折してしまう。ウィッチ・クーデターの首魁達は『銃後に媚を売って、訓練を怠っている連中に国は守れない』、『陛下はなぜ陸式の奴らを優遇する!』と主張したが、それらの主張は軍国主義的と見做され、クーデターの幹部は極刑に処される。『ウィッチが物申す形のクーデターは許容される』という空気があった扶桑皇国はこの厳罰に恐慌状態となり、1946年度以降、数年間はウィッチ新規志願の募集は『見るに耐えない』、『語るも涙』というような悲惨極まりない様相を呈する。昭和天皇が意を決して行った玉音放送で状況に一定の改善は見られたが、扶桑では存続していた『不敬罪』の自分達への適応を恐れた農村の地主たちが幽閉していた者を含めて手当り次第に送り込むため、ウィッチの質が全体的に悪いという別の問題が生じ、真の意味での事変世代からの世代交代は大戦期には実現しなかった。また、1948年以降の太平洋戦争で数的主力を実質担ったウィッチは亡命者と義勇兵であったため、大戦世代からの世代交代が憚られる風潮が生まれてしまい、根本的に事変を知らない次の世代(芳佳やひかりのさらに子供の世代)が登場するまで、抜本的な世代交代に失敗したなど、カールスラントと別の意味で苦境が続く。実際、才あるウィッチの頻出期は(扶桑で、だが)で数百年ぶりの休眠期が1947年から始まった事も重なり、黒江たちを酷使して戦線を支えるしか選択肢が無かった。中央の若手から中堅の参謀達は黒江たちの権威化を嫌い、間接的なコントロール下に置こうとしたが、送り込む人員の戦死(あるいは事故死)と離反で山本五十六らに知れ渡り、64Fの独立権が総理大臣と天皇の名の下に正式に保証され、軍規にも記されるに至る。ただし、中央の要請で『戦果を挙げ続ける』事は条件として但し書きされた(戦争中のみの適応だが)ため、常に『最高の人材』を中央も供給するせざるを得なくなったが、最前線に配置されづづけることが正式に決められ、一定範囲で中央の要望は通った。ただし、Gウィッチのコミュニティに食い込んでいける折衝能力に優れる者を当初に送り込まなかった事が仇となり、以後の時代に黒江に空軍司令部は『弱み』を握られていく事になった――

 

 

 

 

 


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