――『ドイツ連邦』は戦闘機技術での外貨獲得を自ら封じる形になり、軍部と政府が対立してしまった。主目的はヘルマン・ゲーリング元帥の影響力を完全に封ずるためであるが、カールスラントの軍事的影響力を自ら減じた格好になった。F-86などの次世代機がアメリカの手引きで日本連邦に流れた事、義勇兵らは液冷エンジン機を嫌い、空冷に載せ替える事も行う事も多いため、飛燕が原型通りの機体を回収する方が難儀になってしまった。飛燕のハ40は稼働率が扶桑でも安定せず、圭子もライセンス元のエンジンに載せ替える事をしていたため、川滝航空機の技術者らに「お前らのエンジン、精度が安定しねーんだよ」と嫌味を言うほどである。また、ドイツ連邦は扶桑にエンジンと整備機器などを提供する見返りに燃料供給をさせるというカールスラントの協定の破棄すら検討した。これはアメリカからのジェット燃料や高オクタン価燃料の供給が約束されたからだが、現場としては困るものである。その扶桑も確実性を約束されている空冷エンジン機に生産の主体を移すつもりであるが、震電の実機は試作二号機の回収が辛うじて成功したため、液冷エンジンでのテストが提言されている。これは『震電は翼面冷却か下部ラジエーター装着必須じゃないか』という分析からだが、扶桑はジェット化を前提にしている。ストライカーとしての震電はジェットとして作り直しであるため、実機と姿があまり似なくなったが、実機は試作機の手直しから始められたので、その分の試行錯誤がないためだ。――
――黒江達がテストをしているMSは悪く言えば、アナハイム社とサナリィの試作機の在庫整理であった。ネオガンダムやF90Ⅱ、クラスターガンダムなど、きな臭い経緯がある機体が大半である。ネオガンダムはシルエットフォーミュラの集大成であり、サナリィからは目の敵にされているが、機体ポテンシャルは優秀であるため、最後の一機が提供され、64Fで試験されている。シルエットフォーミュラ自体がアナハイム社の非合法スパイ活動での技術習得だからで、シルエットガンダムも改型で納入されており、小型MSそのものに魅力が失せ始めた23世紀時点では貴重なガンダムタイプである。その点で『在庫整理』と揶揄しているのである――
――64Fの中でも、未来のストライカーを含めた『未来兵器運用部門』を新選組が担当している。転生者が中隊の構成メンバーだからである。維新隊はプロパガンダを含めた広報用と前線での人員育成担当の部隊であるからだ。維新隊はこの時期、中隊長に雁渕孝美が任ぜられ、りん(キュアルージュ)やいおな(キュアフォーチュン)はそちらで育成がされる事になって出向した。新選組には即戦力になるプリキュアが所属する事になったが、キュアマカロンを除くアラモード組は炊事担当で新選組に同行している扱いだ。軍に属しておらず、出向扱いなのは時空管理局の研究員『アリシア・テスタロッサ』として生きているキュアブロッサム/花咲つぼみだけだ。また、キュアサンシャイン/明堂院いつきはステラ・ルーシェを素体にした都合やシン・アスカを心配させたくないという意向もあり、ガイアガンダムのテストが終わらないと戦線に参加できないと連絡が入っている。その兼ね合いで、ダイ・アナザー・デイに参戦したプリキュアはピンクチームが主力となるのは確定したと言える。もっとも、ピンクチームが土台を作らないと他のメンバーを呼び寄せる事が出来ないのもあるが…――
「いつきちゃんはガイアのテストが終わんないって?」
「ああ。なんでも、新システムの稼動テスト中らしいんだ。ほら、みゆき宛にリコが送ってきた写メールなんだけど、シュールな絵面だろ」
「うーん…確かに」
地球連邦軍が秘匿のために人間サイズでのMS新操縦システムのテストを始めたが、明堂院いつきはその被験者のステラ・ルーシェを素体に転生したので、本人も面食らっている。この時期は新野比家の警護をそのテストも兼ねて担当しているので、リコを通して、参戦を打診されたが、当分は無理だとぼやいている。メールはその時のもので、撮影はみらいとのことだが、人間サイズのガンダムがガックリと肩を落とすのはシュールな絵面である。
「ネルガルが神経接続で五感を機体のセンサーに置き換えるって技術を開発したからだそうだが、いつきのヤツ、かなり難儀な立場だそうだ」
「まぁ、ねぇ」
明堂院いつきはプリキュアであるが、素体がステラ・ルーシェであるので、シン・アスカが過保護気味であるとか、シンとの関連性が史実より薄い世界のステラだったせいで、彼女の手元にはシン・アスカとの思い出が殆どない(ステラは俗にいう強化人間であったために、記憶を消されていたなどの言い訳は効くのだが)という問題がある。
「シンにはなんて言ってるんだ、あいつ?」
「シンには、私が誤魔化してます。私なら、英霊としての技能で信じ込ませられますからね」
「ジャンヌ。来てたのか?」
「ガリアのド・ゴール将軍への説教が終わったので」
「大変ですねぇ」
「生前は異端として火あぶりの刑だったのに、蘇ってみてみれば、聖人扱いなので、どうということはありませんよ」
苦笑いのジャンヌ。ルナマリアを素体に転生したせいか、生前より世俗じみている面が多い。口調は生前と変化がないようで、結構エスプリの効いている発言をする。
「ガリアの連中も当時の王族がやらかした事を詫びなきゃって意識なんだろ?だから、代々の練習艦に『ジャンヌダルク』なんて名付けてるし」
「そういうものですか?」
「だってお前をブッコロした王朝はカペー朝だろ?ブルボン王朝ですらねぇ時代だし、中世は倫理観もオカシイだろうさ」
キュアメロディはジャンヌに言う。ジャンヌ・ダルクの名はガリア海軍の練習艦の名としても有名であり、それなりの贖罪意識はあると教え、ペリーヌが『現代のジャンヌ・ダルク』と祭り上げられていたように、死後の時代に現れる女性の英雄の比喩にも使われる。その事を歴史の皮肉と見ているジャンヌを宥める。納得しかねる部分はあるが、名誉回復はされている故か、微妙な心境なのをメロディは悟っていたからだろう。
「お前は後世から強い女性のシンボルみたいに見られてる面あるし、そこはな。ペリーヌは憧れてたんだから、少しは胸を張れよ」
「実際の私は無学の田舎者ですよ?」
「こまけぇことはいいんだよ。要はリーダーシップの問題だよ。のぞみを見てみろ。中坊ん時の学業成績は赤点ギリギリ連発だぞ」
「響、笑えないから、それ。それに響だって現役時代の時…」
「あいにく、紅月カレンとしては成績上位だよ」
「ぐぬぬ…」
妙な自慢のメロディと、図星を言われてタジタジのドリーム。
「そういえば、ペリーヌも大変だよね。軍は辞めるとか?」
「ド・ゴールが遺留して、予備役編入に留めるそうですよ。それに私に議員になってほしいと打診がありましたが、断ってやりましたよ」
「何考えてんだ、あのおっさん。死人に議員って」
「アストルフォ共々、乾いた笑いが出ましたよ。正気を疑いましたね、正直」
「あのおっさん、議会政治っての分かってんのか?愛国狂も困ったもんだ。障害者の次女使って同情誘うとするし、ずるくせぇ奴だぜ」
「この時代、障害者差別は酷いから、気持ちは分かるんだけどさ。扶桑の田舎行くと、私らの時代じゃ言えない表現で差別するし。だけど、障害者を自分の栄達に利用するのはいけ好かないよ」
ド・ゴールは家族さえも自分の栄達に利用する狡猾な面を持つため、Gウィッチから嫌われているところがある。特に、身体障害者である次女のアンリ(アンヌとも)は愛情を注いでいるものの、結果的に栄達に利用したため、黒田やドリーム、メロディなどから嫌われていたり、キュアスカーレットからも『下衆な事をしますのね、将軍』と蔑みの言葉を浴びせられるなど、逸話に事欠かない。その割には名言だけは多く、パリ解放後の『パリよ。パリは辱められ、パリは破壊され、パリは犠牲となった…しかしパリは解放された!自分自身の力で解放を勝ち取ったのだ、ガリア全土の支援の下に、ガリア人の力によって!戦うガリア、これぞ真実のガリアである。ガリアよ永遠なれ!』はGウィッチから失笑を買ったが、世間では名演説とされている。他にも、『ガリアは戦闘に負けたが、戦争には勝った』、『独立独歩で強力なガリアが先頭に立つのでなければ、ヨーロッパは存在しないし、その再建もありえない』、『独自の軍事力なくして国家の独立はありえない。また、国家の運命の支配者たりえない』、『偉大なことは、偉大な人間がいなければ決して達成されない。 そして、人間は偉大になろうと決意して初めて偉大になれるのだ』など、実に愛国主義的な名言をこの時期に連発しまくる。偏屈な愛国主義者とキュアスカーレットは評し、『ドゴーリストは口先だけは勇ましく、内容が伴いませんのね』と嘆いたが、正にその通り。口だけ勇ましい物言いで連合軍の上層部で失笑を買っているのは言うまでもない。
「スカーレットも嘆いていますが、この時代のフランスで一番マシなのがあの方なのは、ちょっと…」
「言えてる。ま、ペタンとかよりはマシな事は確かだよ。一応、フランスの影響力は一定程度は保てたしな」
「そのスカーレットはどこに?」
「今日は広報部のほうに出向かれてるとか。紅城トワとしては扶桑人てすからね」
「あいつもとうとう二重国籍かぁ。ペリーヌめ、折れたな」
メロディはペリーヌの高飛車な態度は気に入らないものの、愛国心は認めているので、かなりの葛藤があった事を察する。
「フランス人は鼻っ柱だけは高いからなー」
「あれ、響、なんかあった?」
「昔、ピアニスト時代にフランスでバカにされた事あってなぁ」
北条響、紅月カレンとしての二度の生で、彼女は人生の内、必ず一回は『日本人』というだけで侮蔑、あるいは差別された経験を味わったため、フランス人をけして、好いてはいない事を示唆する。
「ガリア(フランス)人の鼻っ柱折るのは一流の板前の仕事を見せりゃ一発なんだがな」
「あ、先輩」
「オッス。俺も自衛隊で勤務してる時に似た経験あってよ。そういう時は一流の寿司屋に連れていくのが通例なんだ。あんま気にすんなよ、シャーリー」
「あたしゃ前世の事があるからなぁ」
「宇宙大航海時代の視点でモノを見ろ。地球の人種の違いなんて些細なもんだ。ゼントラーディやゾラ人、ウィンダミア人を見てみろ」
「アンタに言われちゃ降参だよ」
「伊達に宇宙生活経験してねぇからな。お前ら、エデンでも良いから、長期滞在してみろ。視点が変わるぞ」
黒江はイサム・ダイソンと懇意であるため、休暇の時は惑星エデンに出向く事が多い。それを踏まえてのものだ。
「エデンか。アンタ、イサムさんと付き合いがあるとか?」
「ああ。VFのことで世話になったから、今じゃ友達だよ。今度、お前らの訓練にアグレッサーとして参加してもらうように手配する」
「先輩、殺す気ですか?」
「板野サーカスできねぇと、ゴーストと戦えねぇぞ?ユダシステム開放状態なら、尚更だ」
黒江はプリキュア達に俗に言う『板野サーカス』を覚えさすつもりらしい。ゴースト無人戦闘機との接敵と撃ち落としの仕方をイサム・ダイソンに教授してもらおうとするが、求めるレベルが高すぎる嫌いがある。
「元BIのソロを二人ほど送って、鍛えて貰ってるから、VFの集団戦闘のデモが見られるぞ?」
「あの人、問題児だろ」
「勲章を半ダース持ってるぞ。剥奪歴も多いけど、腕は良い。俺達の任務にはうってつけだよ」
イサム・ダイソンはマクロスの対空砲火を抜く、VF-19の改造機でVF-25をぶち抜くなど、逸話に事欠かないエースパイロットである。黒江はフロンティア船団の一件以降は懇意であり、彼はヤン・ノイマン博士を通して、VF系の機材調達の窓口にもなっている。
「うへぇ。歴代随一のバケモノ相手に訓練かよ」
「お前だって、ナイトメアフレームでスザクと互角に戦える唯一の操縦者だろ」
「ナイトメアフレームとVFじゃ、勝手が違うだろー!」
メロディはそこを強調するが、ナイトメアフレームとて、ランスロット・アルビオンや紅蓮聖天八極式の世代になると、バトロイドと大して変わりない。黒江はそこを指摘する。
「アルビオンや聖天八極式の代にもなると、バトロイドと変わんねーだろ」
ナイトメアフレームやVFは汎用性や機体強度が技術発展による世代交代を重ねていくうちに、双方で差異が細かな機構以外に違う点が存在しなくなっている。VFが小型MSを駆逐したのもそこの点に由来する。
「ローラーダッシュもガウォーク形態のホバリングと似たようなもんだし、俺に言わせれば、変形しない以外に差異が少なくなってるんだよ、ナイトメアフレームとVFは」
「アンタ、ローラーダッシュ使ったことないだろー!」
「ギアのローラー機構で感じは掴んでるよ。感じはな」
「ぐぐ…!」
黒江はローラーダッシュに縁がないわけではなく、シンフォギアのシュルシャガナのギアにある脚部ローラーダッシュを使った経験はある。間違った事は言っていないため、黒江の万能ぶりに悔しそうであるキュアメロディ。
「なんでも屋ですか、貴方」
「おりゃ、なんでもやらされた世代なんだよ。ガキの頃、実家で兄貴達の夜食作らされた経験もあるんだ。自慢できたことじゃねーが、お袋が俺を歌劇団に入れる事以外に俗事に興味がねぇ人だったからなぁ」
ジャンヌに身の上話をちょっと明かす黒江。黒江が擬似的にでも『温かみのある家族』を持ちたがっている遠因は母親が英才教育以外に興味を持たない『教育ママ』の奔りであった事に由来する。のび太の家庭に自身の理想像を見出したという哀しい経緯の根源と言える。
「先輩、よく言ってますね。のび太君が羨ましいって」
「のび太の両親はなんだかんだで倅や孫を可愛がってるだろ?俺の両親は不仲な上、お袋が時代にそぐわないくらいに教育ママだったんだよ。兄貴達とは離れすぎててなぁ」
黒江が野比家に入り浸るようになった理由は一つ。自分が子供時代に求めていた幸せが野比家にはあるからだ。黒江がさみしがり屋の側面を強く持つのは、兄達とも年が離れすぎていた事、母親の英才教育のせいで、子供時代は幸せとは言えない日々を送ったからで、赤松はそれを理解しているからこそ、黒江を娘のように可愛がっている。だからこそ、前史で自爆した圭子、黒江を自身の承認欲求を満たすために一時は利用していた智子、はたまた、黒江を悲しませた坂本の三者を今回の転生で強く叱責したのだろう。
「まっつぁんには頭上がんねぇんだ、俺。新兵の頃に世話になったし、前史で俺の代の身内が全員逝っちまった後の時代に親代わりしてもらったからな。のぞみ、シャーリー。お前らもそのうち分かると思う。俺がまっつぁんに抱いてる思いをな」
「なんだか、アンタの『親父さん』みたいだもんな、まっつぁん」
「そうそう。お母さんって感じじゃないんだよなぁ、大先輩」
「ケイもまっつぁんには頭上がんねぇぞ。あいつも流石に口答えできないしな」
黒江の口から、傍若無人な圭子も赤松を『姉御』と言い、頭が上がらない事が明確に告げられる。ケイは自分より上位である若松と赤松から『小僧』と呼ばれており、子供扱いである。ちなみに智子は二人から『お嬢』と呼ばれており、初対面の雰囲気重視なのが分かる。そのため、二人の松が『お嬢はいるか?』というと、智子を指すというのは古参ウィッチの暗黙の了解である。
「へぇー…あの方が」
「ガキの頃に聞いたら、俺のツレだかららしい。で、智子はどっかのお嬢と思ったらしい」
「でも、すごくわかりやすいくらいにヒエラルキーがありますね」
「わかりやすいだろ?ジャンヌ。基本的にウチはまっつぁんと若さんを絶対の頂点にしたカーストなんだよ」
扶桑ウィッチにあるカーストは基本的に二人の松が絶対の頂点、それに次ぐ地位の黒江達が上位層に君臨するという暗黙のルールであり、このピラミッドを壊そうとしたのが反G派の一派である。
「要は腕と信用が物を言うのさ、ウチは。だけど、ウィッチの内部的栄達の機会が無いとか言って、確立されたヒエラルキーを壊そうとする連中が中堅、それも海軍に多い。俺達は陸軍出身だから、その俺達が源田の親父さんの腹心で、山本五十六元大臣の子飼いの経験があるのを気に入らない連中が星の数ほどいるのさ」
黒江の言う通り、黒江、智子、圭子のレイブンズは陸軍航空の出身。海軍と縁が薄い経歴でありながら、山本五十六に目をかけられ、源田実の腹心として名を馳せてきた。その事を気に入らない者らは星の数ほどいる。また、黒江らの旧64F出身という経歴だけで、強く反発した志賀大尉の例もあるように、如何に優秀でも、『縄張り意識』で反発され、それが騒動になった例も多い。そのため、64Fの『復活』は黒江らの動向を気にかける昭和天皇の意向も一定程度は働いていると言えよう。
「だから、64の名を復活させたんだよ。上は七勇士の部隊だからってんで、復活を躊躇してたが、俺達が現役復帰したんで、お上が験担ぎで名乗らせたんだそうだ」
黒江が語る64F復活の裏話。昭和天皇が黒江らを他のウィッチの邪な行いから守護する『破邪顕正』を願い、源田を皇居に呼び出してまで後押しさせたという裏事情を。昭和天皇は黒江のイジメ問題以降は俗にGウィッチと呼ばれる者達を寵愛するようになったが、東條英機の失脚後、軍部に頼れる生え抜き軍人が海軍の山本五十六、井上成美、陸軍の今村均、空軍の源田実以外に殆どいなくなった故のものであり、それが日本の手での大粛清人事に繋がったのは事実だが、扶桑天皇は国家元首であるが故の苦しみを抱えており、黒江達を庇護する事が彼なりの自己表現であるのかもしれない。信頼した東條を日本からの憎しみを一心に受ける形で奪われ、親しみを感じていた近衛文麿も失脚した時勢に怯えた扶桑天皇は自身に下心無しで仕えてくれる七勇士とその弟子筋のウィッチらにすがる事で、明治天皇や大正天皇と違うやり方で軍部を統制し、国内を七勇士の威光でまとめようとしたのかもしれない。