――ダイ・アナザー・デイの戦いに参陣したヒーロー達はまさに獅子奮迅の活躍であった。プリキュアの最強フォームで歯が立たない敵を更に倒せるからだが、逆に考えると、プリキュア達はまだ『常識の範疇に収まっている』からこそ、力不足が生じてしまっているのだ――
――栄光の七人ライダーの強さは鮮やかであった。七人で軍隊の一個軍団以上の戦力と見なされた彼らは、ティターンズの背後にいる組織を見据えて行動していた。この当時のプリキュア達は『幹部クラスの怪人に苦戦する』くらいの戦力値であり、仮面ライダー達に比して見劣りすると判定されていた。ただし、安定して高ポテンシャルが期待できるため、僅かながら、シンフォギア装者より高評価であった。そのシンフォギア装者達はというと。切歌が拗ねてしまった上、響は精神的意味での療養が必要、未来は訓練不足。その関係上、『安定して戦力になる三人の年長者』が過労気味なほど多忙であったわけだが――
「あなたが……のび太のいう…未来の切歌?」
「そうデス。18くらいになった頃のアタシデス」
大人切歌が姿を見せる。聖衣姿であるのは、聖闘士になったからだと続ける。そのまま成長したといった姿。口癖は残っているが、年齢相応になっており、声のトーンも落ち着いている。
「のび太の頼みで、ここに来たんデス。クリス先輩、マリア、翼さんの三人に負担がかかってるって聞いて」
「あなた、ギアは?」
「持ってるデスよ。だけど、時間軸が違う『同一のギア』が同じ場所にあることで、何が起きるかは未知数。だから、聖衣を使うデスよ」
大人切歌のいる時間軸でも、その実験はまだ『理論検証』の段階らしいので、聖衣を使う事を明言する。
「調は任務で出かけてるわ。立花響の一件で、子供のあなたが拗ねてしまって」
「『この時』はまだ、ケツの青いガキンチョでしたから。アタシが代わりに働くデスよ」
少女期の面影を多分に残すが、声色などに成長を窺わせる切歌。ダイ・アナザー・デイでの切歌の功績の半分以上は彼女が挙げたものとなる。背丈も相応に成長したらしく、翼とマリアにも見劣りしない。その時間軸での調はどうなっているのか。それが気になるマリア。
「来ましたね、切歌さん」
「リコ、のび太から話は?」
「ええ、まぁ」
「シンフォギア装者に戻るつもりは無いの?セレナ」
「今の私はプリキュアだから。とはいっても、私のバディはまだ復活してないから、変身はできないのだけど」
「あなたは『バディと同時にいる事が変身の条件』なの?」
「それに加えて、妖精がその場にいる事。変身さえしちゃえばいいんだけど。今、のび太の子孫に頼んで、機動兵器の建造をオーダーしてるところ」
「パイロットに?」
「仕事が仕事だから、資格取ったの。私たちのチームは変身の条件が厳しいってのもあるけど」
リコはマリアたちの前では、『セレナ・カデンツァヴナ・イヴ』として接している。実際に生まれ変わりなので、間違っていない対応である。マリアも『生まれ変わりではあるが、正式には別人である』ということは理解しているが、どうしても『生前』同様に接してしまう。リコはその想いを汲み、マリアたちの前では『セレナ・カデンツァヴナ・イヴ』として振る舞うのである。
「でも、調はここのところ、何をしていたの?」
「シンフォギアがある世界の派生世界の調査。つまり、平行世界の調査。で、行った先で挑まれること、調査される事が多くて、なかなか帰してくれない事が多くて。途中から、プリキュアの先輩方が護衛と説明役についてた。今の月読さんは特異体質になったようなもので、本人もうまく説明できないところがあるから。同位体とは『似て非なる存在』って言ったほうがいいと思う」
実際、調は自分自身の同位体とも差異が大きくなり、『自分自身』と模擬戦で一戦交える羽目にもなっていた。また、『フィーネの器になった』という誤解もあったために、切歌の暴走に繋がった経緯はどうしても、説明がややこしいのだ。
「おまけに、暁さんは勘違いとはいえ、かなりの人の魂を消しちゃったようなもんだから、表向きは死刑囚として収監されて、執行された。これがね…」
「ええ。あの時はなんと言おうか…。それじゃ、子供のアタシの様子を見に行ってきます」
大人切歌はそう断り、過去の自分の様子を見に行った。本人が言いよどむほど、切歌の犯した罪はとても大きい。本人が愛ゆえに起こしたが、消した人数が多すぎた。そのため、表向きは死刑囚として収監され、ある日に処刑が執行されたと発表されている。そうでなければ、遺族が納得しないからである。その兼ね合いで、切歌はそれがなされるまでのごく短期間しか、SONGに属さなかった。(以後はシンフォギア世界を離れ、聖闘士世界に移住した)この経緯を説明するのが骨であった。また、調本人にしても、『F.I.F側の装者として活動していた事実はない』ので、余計にややこしい。おまけに、(黒江のおかげで)風来坊的な姉御肌と認識されているため、本人がそれで出奔する事を選ぶ経緯も絡むので、黒江は直接的・間接的に二人の運命を大きく変えてしまった。そのことへの贖罪もあり、調と切歌を聖闘士に推薦したのである。
「もっと言えば、月読さんと暁さんの関係が一度は冷却化して、修復された時には『以前とは違う』関係性になっている事、響さんが出来事の中心から外れ気味になった事で聖闘士にコンプレックスを持ったり、異世界の超兵器がシンフォギアの根幹になる異端技術を上回る(グレートマジンカイザー)って出来事も説明に難儀しちゃうの」
「たしかに…」
「それに、イガリマの力はエクスカリバーとぶつかり合うと『効かない』っていうのも、本来はありえないことらしいけど、本当の聖遺物と先史文明の超兵器の残骸。どちらが強いと言われるとね。それに聖遺物同士がぶつかりあうと対消滅を起こすってのも、先史文明の兵器の『安全装置』のようなものだという調査結果も効くのよね」
「完全聖遺物がゴロゴロしてる世界っていうのも、なんだかオカシイのだけど。しかも、全てをねじ伏せる『機械仕掛けの神』がいるっていうのも」
「ゲッターロボの究極の進化だもの。神を超える存在と戦うために生まれていくもの。宇宙の理の一つは『闘争』だから」
シンフォギア世界では『和解』も一つの理だが、次元世界全体では『闘争による進化』が絶対的な理である。地球人がアケーリアス超文明の後継者として生み出された事の真の答え。
「神々が本気になれば、人はそれに抗い、神殺しを起こす。ガングニールはそのきっかけの一つではあるけれど、『元の世界』じゃ、ロンギヌスと混合された末の結果。聖闘士クラスの戦闘じゃ、オリジナルのグングニルも破壊されるくらいだから、響さんのガングニールは効かないのよ。言っちゃ悪いけれど、彼らにとっては『マガイモノ』なのよ。シンフォギアの根幹を担うものは『先史文明が遺したコピー品』だから」
シンフォギア世界の先史文明はシュメール神話のそれがベースだが、ドラえもん世界は日本神話とギリシャ神話がベースになっている。また、双方に『自然発生的な先史文明』が存在しているが、ドラえもん世界では『ドラえもんとのび太が生み出していった』ものと、『シュメール人』、『爬虫人類』などがおり、シュメール人の後身が『ディンギル帝国』である。
「聖闘士はそこまでの力を持つというの?」
「まぁ、神の闘士だから。神々はそれぞれの配下となる軍団を持つの。持たないのは、最高神『Z神』くらいね。オリンポス十二神の殆どは同様の軍団を持ってるわ。自身の護衛や雑務処理のための手足ってところ。聖闘士はアテナの軍団を指す言葉よ。それに匹敵する力を持つのがスーパーロボット」
スーパーロボットの力は多くのリアルロボットを上回る。マジンカイザーや真ゲッターロボクラスにもなると、超常現象は当たり前である。ある一定のレベルを超えると、神の領域に入るのだ。
「真ゲッターロボくらいから、一気に神の領域に入るわ。その真ゲッターロボをも超えるゲッターロボが羽化したところよ」
「羽化だと?」
「ええ。真ゲッターロボの前型機であるゲッターロボGが自己進化して生まれた『真ゲッタードラゴン』。それが現状の最強。多分、武器一つで街が消し飛びますよ」
「あの『皇帝』はどうなの?」
「上の下だそうよ。それでも、天変地異を起こせるレベルだから。多分、『シンフォギア世界』のどんな聖遺物もお遊戯に見えると思う」
「遊戯…か。それが真なる神の意思だというのか」
「ええ。宇宙を征服したとしても、その先の敵と戦う宿命があるから。それに、物理的にワームホールを握りつぶせるのよ、ゲッターエンペラーは。響さんにしてみれば、ゲッターロボの果てなき進化は『人類が侵略者になりかねない要素』だから、知れば、腕尽くで止めようとするでしょうけど、敵から地球人を守っているのは事実なのよ、姉さん」
リコは宇宙の理たる闘争を知った故か、人類がゲッターエンペラーを生み出す事を肯定した。ディンギル帝国、白色彗星帝国などの『話し合いの通用しない敵』に襲われ続け、ジオン、将来的にはセイレーン連邦と『内輪揉め』にも事欠かないのが、未来世界の地球人である。響はそれらの状況に悲観的であった(自身の家庭が崩壊してしまった経緯もあったため)。その一方で、北条響(シャーリー)の過去生での『神聖ブリタニア帝国』のことは『最後の皇帝が、それまでの罪を償わさせるために、国家を生き永らえさせたのでは?』という見解を出すなど、理知的な側面も出している。(実際、シャーリーの記憶にあるブリタニア帝国は帝政の解体後に『ブリタニア公国』と名を改め、『帝政の承継国家ではない』としながらも、帝政時代の関係者が要職に残り続けるなど、旧ソ連のような状態で復興を進めていた。シャーリー曰く、『ナナリーが代表でなければ、ブリタニアは全世界から攻撃されても文句を言えない』とのこと)
「それと、確認された事があるわ」
「何?」
「響さん個人には『プリキュア因子』があるわ」
「あの子、プリキュアの素質が?」
「立花には、その素質があるというのか?」
「前世、あるいは同位体。そのどちらかの理由だと。先輩方と出会うことで、彼女の中の何かが目覚めた。その証拠に、ガングニールのギアの装着が『何かの原因で阻害された』と報告が上がっています」
「ああ。それは見た。ギアが何かの干渉で装着できず、戸惑っていたが……。一時的なものではないのか?」
「わかりません。しばらくの調査が必要です。おそらく、プリキュア因子が目覚めたことで、彼女を何かのプリキュアに変身させようとしているようですが……」
リコもこの当時、その現象の原因をそう総括していた。響はガングニールの力に強い執着を持つが、その一方で、プリキュア達との出会いで生じた『心境の変化』とで揺れ動いていた。それが『原因不明の装着阻害』の一因である。これは『活性化するプリキュア因子を無意識レベルで抑え込もうとしたが、プリキュア因子の強さがそれを上回り、ギアの装着機能を阻害した』ためである。そのため、響はしばらくは戦列離脱を余儀なくされていた。
「彼女達は……なんなのだ、十六夜」
「女児の少なからずが持つであろう『男児と同じような戦いたい、暴れたい心があってもいいじゃない』という心境が生み出した偶像であり、『戦士』です。仮面ライダーらが男児の憧れの具現化なら、プリキュアは女児の『昔のステレオタイプ的な女の子の定型に押し込められたくない』という心の発露なのです」
とはいえ、『ハートキャッチ』以降は『昔ながらの魔法少女もの』に歩み寄っている特性の世代もいるが、徒手空拳主体の戦闘という点は殆どの代で守られている。その当初の存在意義に近い特性の者たちは『世代を問わずに戦闘力が高い』傾向にある。
「男児のように…か。私達の時代では、すっかり前時代的な考えだな」
「2000年前後までは残っていましたよ?いわば、昭和の名残りですね。昭和生まれの最末期世代と平成初期生まれが子供だった頃までの世間的な風潮ですね。垣根が無くなってきたのは、2010年代以降ですね」
「そう考えてみると、割に新しい時代だな?」
「親の世代が1970年代以降の世代になったからですよ。昭和最末期の生まれだと、『親が1950年代生まれ』な事もザラでしたからね」
「高齢で子を儲けることは、普通に存在するからな」
「携帯にしても、2009年くらいは普通にガラケーが主流でした。それが2014年位には、スマホに移り変わってます。五年一昔とは、よく言ったものです」
「そういえば、通信技術とコンピュータ技術は80年代からの40年で天と地ほどの差があるのよね?」
「そう。それと同じで、時代が進めば、人々の認識も変わる。プリキュアに込められた当初の願いも10年位で忘れられかけてるから」
時代の流れは残酷である。のぞみ(キュアドリーム)が前世で悩んだことの一つだが、ジェネレーションギャップは意外に堪えるのである。
「しかし、扶桑の軍人はよくもまぁ、違う世界の軍隊と共同戦線を組めたものだ」
「ある意味、はっきり別世界とわかっていますからね。問題は日本やドイツの方ですよ。過去の自分たちにあまりに似ているので、政治家や官僚のほうが『理解』していない。地球連邦軍がその二カ国の政治や官僚機構を諫める有様で」
「なんといおうか……」
翼は呆れるが、自分達の過去に似ている世界を目の前にすれば、あれこれしたくなる。扶桑もなんだかんだで、地球連邦軍にあれこれと依頼している。ウィッチ世界は複数の世界の各勢力の思惑の入り交じる場となっていると言える。
「この世界は、壮大な実験場になったわけだな?」
「それも、古今東西の兵器技術の」
「……この世界はどうなるのだ?」
翼が複雑な表情で尋ねる。
「史実から離れ気味な流れが引き戻されるから、史実に似た流れが起こるのは確実です。ですが、この世界では、史実の枢軸国側をリベリオンが、扶桑とブリタニアが連合国の役目を演ずるので、史実で言うところの朝鮮戦争も含めた戦いの流れは確実でしょう」
つまり、必然的に太平洋の両大国の対決の流れが醸成されるので、扶桑は地球連邦などの助力で『立ち遅れ気味の通常兵器研究』を進めたいし、地球連邦はティターンズ残党を叩くための現地での足がかりがほしい。最初はそんな理由で手を組んだのだが、色々と判明した事柄により、地球連邦としても、扶桑の陥落は不味いことになったので、全力で支援することになるのだ。
「色々な勢力の介入がもとで、史実に似た出来事が結局は起こるとはな」
「SFじゃ、『手垢の付き尽くしたような』ありきたりな題材よ。……まさか、それを現実の光景として見ることになるなんて…」
元は孤児のマリアの方が世俗事に詳しいあたり、風鳴家の業を感じさせる。マリアは歌手デビューの際に、世俗事を勉強しまくったのか、翼(天羽奏の健在時はインタビュー関連は奏に任せっきりだった)よりSFなどにも通じているあたり、彼女の苦労が偲ばれる。(とはいえ、調や切歌は史実では幼少期に拉致されたため、世俗事に疎いところがあったが)
「翼、あなた」
「仕方ないんだが、私は家の業を背負わされたようなものだ。だから、その……世俗事に疎くてな」
翼は赤裸々に語る。マリアと翼は訓練直後のためと、クリスと同様の現象に遭遇しているので、シンフォギアは展開しているままだ。
「わかるけど、もう少しは表の仕事にも気を入れなさいな。緒川さん、バラエティの仕事もそろそろ入れたいと言っていたわよ」
「なにィ!?バラエティだとぉっ!?」
歌番組などの仕事は慣れているが、バラエティ番組は予想外だったのか、素っ頓狂な声を出す翼。根が純情なため、気恥ずかしいらしい。とはいえ、後に語るところによれば、マグロ釣りの番組だったとのこと。
「しかし、異世界に行ったら、ギアを解除できなくなるとは。どういう事だ?」
「物理法則も何もかも違う世界に降り立った故の反応らしいわ。当分はこの状態だそうね」
「マリア。RINKERはいいのか?」
「持ってはきているのだけど、現象が起こってからは『安定している』の。何故かしら…」
マリア・カデンツァヴナ・イヴは切歌や自分用にRINKERを持ってきていたが、現象が起こった事もあり、ここ数日はギアを展開したままだが、適合率の低下に伴うギアの解除、ギアの装着感の悪化などは起きていない。その原因は不明である。また、その種の問題から開放された後の切歌が参戦し、子供切歌が拗ねてしまったので、そもそも使う機会が減ってしまったのである。
「でも、シンフォギアを展開したままで食事をすることになるなんて」
「私達は変身したままで食事した事あるけどね。ずいぶん昔の事だけど。まぁ、地球連邦軍はそういうことにも慣れているらしいけれど」
「なにィ!?」
マリアと翼は、リコからそこで軽食を渡される。ドラえもんから預かってきた『ホットドッグ』とおにぎり』だ。シンフォギア姿で栄養補給は経験がないが、今回のことは超特殊な事例なので、受け入れることにした。
――こちらはウマ娘世界。ゴールドシップはダイ・アナザー・デイ作戦がウィッチ世界で行われている頃にルーデルとの感応が起き、ルーデルに情報を提供していた。その情報にはウイニングライブの楽曲も含まれており、ルーデルがダイ・アナザー・デイ作戦前の隊内向けの慰問イベントでの歌唱の際、アドリブでナリタブライアンの楽曲である『BLAZE』を歌い、隊の一同を驚愕させている。同日中に、のび太にウマ娘世界の事を知らせたが、フェイトが多忙な事もあり、ウマ娘世界の正式な調査は『デザリアム戦役の直後』にまでずれ込んだ――」
――時間軸は大きくずれて、『接触』の後――
とある年の有馬記念。一年ぶりに復帰したトウカイテイオーは四番人気。同情票や応援票も込みの人気で、勝てると思っていない者のほうが多かった。折しも、その年に活躍した『ビワハヤヒデ』が最盛期を迎えており、ビワハヤヒデの勝利は硬いという下馬評であった。だが、そこからハヤヒデの誤算は始まった。
――レース展開はハヤヒデの予測通りであった。そして、最終コーナーを曲がるところで、ハヤヒデはスパートをかけた。ライスシャワー、ナイスネイチャ、ウイニングチケットを含めた強豪たちの追随を許さない速度にまで加速し、勝利を確信する。観客席のブライアン(この時は最初の怪我中)も姉の勝利を確信しかけたが……――
「なんだ……この感覚……この悪寒は……!……不味い、不味いぞ……姉貴!!」
ブライアンがそう叫んだ瞬間、ターフのハヤヒデは間近で見た。『不死鳥の翼がテイオーの体に生え、天を駆ける』ビジョンを。そして、テイオーの発し始めたオーラが、かつて『芦毛の怪物』と謳われたオグリキャップと同じものに変わっていく様を。それは関係者用の特別席で観戦するシンボリルドルフも瞠目し、平静を失う。それは……。
「テイオー……何故だ……なぜ……その力なんだ……その『領域』は……その力は……オグリの……オグリキャップの…!」
テイオーが見せた領域は『グレイファントム』。かつての名ウマ娘『ネイティヴダンサー』のそれを継承した形のものだ。ネイティヴダンサーは(史実では)オグリキャップの祖父にあたるため、その因果関係がオグリキャップにもたらしたが、テイオーが継承した理由については不明である。だが、言えることはある。テイオーもこの時期、現役晩年期のオグリと似た経緯で低迷していた事、時代は違えど、チームスピカのエース格同士であるという僅かな繋がりが起こした奇跡だったと。
『絶対はボクだぁ―――ッ!!』
テイオーは発動の瞬間、そう叫んでいた。『領域を自家薬籠中の物』にしていて、他人の領域を感知できるウマ娘であるナリタブライアンが狼狽したのも無理はなかった。その力はかつて、世間を熱狂させた『芦毛の怪物』が全盛期と引退時に見せたものと同じものだったのだから。
――トウカイテイオーが来た!……トウカイテイオーが来た!?――
実況アナウンサーも戸惑う。ハヤヒデの独走かと思われたその時、テイオーが猛然と突っ込んできたからだ。二人は競り合う。短い時間であったが、ハヤヒデは必死に限界のスピードを維持するが、テイオーの勢いは凄まじく、とうとうスピードがハヤヒデのそれを上回り始め……。
――ビワハヤヒデとトウカイテイオー!ダービーウマ娘の意地を見せるか!?トウカイテイオーだ!!トウカイテイオー!!――
『うあぁああ――ッ!!』
必死の形相での叫びとともに、テイオーがラストスパートをかける。その瞬間、脳裏に浮かんだのは、親友であり、ライバルのメジロマックイーン。『マックイーンのためにも勝つんだ』という絶対的な意志が『施術』間もない、テイオーの肉体の最大ポテンシャルを引き出し、『領域の重ねがけ』をも実現しえた。ハヤヒデはそれにだんだんと追従しきれなくなり、終いには心中の動揺が表情に出始める。
(何故だ……なぜ!?私の計算は……!?ブライアンが…、タケヒデが……タイテイが見ているんだぞ!!動け、動け!!動け、私の足…!!何故だ、何故動かん!?)
それでも、菊花賞ウマ娘に相応しいだけの走りは見せ、テイオーに再度追いつこうと足掻くビワハヤヒデ。だが、その行為は勝利の女神がテイオーに微笑む様を鮮烈に演出するだけであった。
「ボクの……勝ちだ…!!」
ゴールの瞬間、そう漏らす。史実より馬身差のついた。鮮やかな勝利だった。レース場は瞬く間に換気に湧く。
――トウカイテイオー、奇跡の復活!!1年ぶりのレースを制しました!トウカイテイオー!!なんというミラクル!!――
「やった……やったよ……マックイーン……。ボクは……!……力を貸してくれて、ありがとう。オグリ先輩」
テイオーは勝利した後、片腕を天高く突き出し、ガッツポーズを決めた。換気に湧くスピカの面々は気づいていないが、観客席には何かを察し、満足気に微笑むオグリキャップ、タマモクロスの姿があった。そして、歓喜の中、オグリキャップとタマモクロスは勝利を祝福した…。テイオーへ微笑みながら。そして、テイオーは観客席の最前列で感涙にむせぶマックイーンと向き合い、最高の笑顔で『約束を果たせた』と報告するのだった。
――関係者用の特別室では、『テイオーの勝利は嬉しいが、テイオーが自分ではなく、オグリキャップの力を借りた』ことに複雑な気持ちになり、その事への葛藤も孕んだ涙を流すシンボリルドルフの姿があった。ルドルフはこの後(事情を知らぬ事もあり)、ショックで拗ねてしまうのだった。テイオーは後日、その報に困惑する羽目になり、エアグルーヴに負担がかかってしまい、後に過労で倒れることの遠因となった――
――ウイニングライブにて。
「♪あなたとの約束ぅ~私の決心をぉ~裏切ることはしたくないからぁ~この胸に息づく熱い花が枯れるまで……諦めない…――!」
かつて、オグリキャップが引退時に一度だけ歌ったという幻の楽曲『unbreakable』。テイオーが極めて珍しく、『頑張って出す、低めの声』で歌い上げる。その様に周囲は衝撃を受け、テイオーを見ているルドルフは一目も憚らずに泣く。(色々な意味で衝撃であったため)
「♪思い浮かぶものは~いつか形になる……~可能性、イチでもあるのなら~~それを手にするのは~~私しかいないと思った――ちかってぇ~~見据えている~見据えている~明日をぉ――……」
この曲はオグリキャップの現役期に作られたが、ライブで歌われたのは、引退した有馬記念のみ。したがって、オグリキャップが披露したのは『一回だけ』という事になる。ほとんど専用曲であったため、後代のウマ娘が引き継ぐ事もなく、幻の曲扱いであったが、トウカイテイオーが継承した。
――『スピカのエース格のウマ娘』という繋がりしか持たないはずのテイオーが同曲を歌い上げた。その衝撃は学園全体を揺るがすことになる。そして、前世代のウマ娘が走った証はちゃんと残っているという事実は引退しているウマ娘達にとっての光明となるのだった――