――ダイ・アナザー・デイで一式陸攻、銀河、飛龍ら『政治的理由で退役させられた双発機』の代わりに用いられたのが『戦闘爆撃機化した烈風』であった。これは烈風の大柄かつ逆ガル翼の機体が『強化すれば、戦闘爆撃機に使える』と判断されたからで、実質的に『下手な日本系双発機より効果がある』と見なされた。それは歴代の双発機の開発関係者を憤慨させたが、四発機でさえ、マルチロール化されるジェット戦闘機に駆逐されそうになっているので、時代の流れを受け入れるべしという結論になった。しかし、1945年の軍隊にいきなり、高度に電子化されたジェット戦闘機を扱うのは無理があるため、ダイ・アナザー・デイ当時には、未来世界行きの経験がある部隊のみが教習を受けて、連合軍の規模に比して『細々と使用する』に留まった――
――カールスラント軍はドイツの政治的介入に屈する形で戦線から撤兵したが、『国際貢献』という題目で戦線に残留を許された一部の精鋭達は細々と活動をしていた。政治が軍隊を締め上げ始めたので、緊急避難的に扶桑の部隊へ組織的に協力することで追求を逃れたのだ。折しも、カールスラント空軍は当時の新技術であるジェット戦闘機に『組織としては懐疑的』であったが、日本連邦軍の高性能ジェット戦闘機の登場で一気に技術的優位が崩れていくと、慌てて開発を促進させたが、ドイツ連邦共和国の横槍で頓挫。以後は二つの意味で没落の道を辿る。その過程で、ヘルマン・ゲーリング元帥、ディートリッヒ・ペルツ少将などは実効的な権限を持たぬ名誉職に充てがわれ、事実上の中央からの追放。アドルフィーネ・ガランドはG機関の設立を発表後に退役(最終階級は中将)と、人事的なパニックが続いた。更に、扶桑が精鋭中の精鋭を全戦線から引き抜いて『第64戦隊』の結成を行ったという報はカールスラント空軍をしこたま驚愕させ、逆にジェット戦闘機(戦闘脚)実験部隊の『第44戦闘団』の人的充実が図られるに至った。だが、当の44戦闘団は所属人員にコンドル軍団の経験者がいたことから、政治的な懲罰を恐れ、部隊ごと64Fへ『亡命』してしまった。軍縮での予算の大幅削減に憤慨した技術者も続々と諸外国へ流れたため、カールスラントは民需がその後も堅実に儲けていくのに対し、軍需は技術力低下が航空分野で顕著になり、暗黒期に突入していく状態で1950年代を迎える――
――64Fは転生者の一括管理の場という裏の目的も含まれていたため、黒江らの所属は既定路線だった。だが、扶桑の精鋭の多くが転生者であったという『珍事』が起こったため、その人員の一括管理ということで、必然的に人員の質が向上した。七勇士の過半が現役で属することから、異名として『七勇士部隊』がついた。その異名に違わぬ強さを持つ64Fはダイ・アナザー・デイでの『ほぼ唯一のウィッチ基幹の航空部隊』として孤軍奮闘する事になった――
――ある日――
「参ったね。他の部隊の連中は偵察情報をこれっぽっちも寄越さないと来てる」
「偵四は?」
「彩雲ストライカーの工作精度が悪くて、飛行訓練もままならないって。だから、地球連邦軍から情報もらってる始末だよ」
芳佳はある日、戦線の偵察情報が近隣の部隊からももたらされないという『軍団規模でのいじめ』を64Fが受けている事を、リーネに愚痴る。これは64Fの豪華な陣容に嫉妬する『近隣の航空部隊の幹部ウィッチ』による組織的嫌がらせの一環であったが、64Fは地球連邦軍の一部隊扱いで『情報ネットワーク』を閲覧可能になっているため、任務になんら支障を来してはいない。とはいえ、空技廠の嫌がらせで、彩雲ストライカー(偵察用ストライカー)がまるで使い物にならない有様なのは大問題なので、圭子が山本五十六(国防大臣)に直電で文句を言い、その日のうちに、64F用の偵察用ストライカーを選定した空技廠の担当者は国防省から直々に左遷人事が言い渡されている。
「で、空技廠の担当将校は?」
「山本大臣にケイさんが直電で文句言ってね。その日のうちに僻地送り。うちに本社管理下の工場で生産された個体を回すって」
「嫌がらせもそこまでくると、面倒ね」
「源田の親父さん(源田実の事)、そこそこ有能なんだけど、敵が多いからね。史実での事があるから、政治家に嫌われ気味だし。うちはその直接の配下だから、組織ぐるみの嫌がらせ受けるんだ。史実の44戦闘団もそうだけど、エース部隊ってのは、獅子身中の虫とも戦わないといけないのさ」
芳佳は久しぶりに本来の容姿を取っているが、口調その他は角谷杏としての飄々としたものである。リーネも久しぶりに、本来の姿(母親への手紙を写真つきで送るため)に戻っているが、美遊・エーデルフェルトとしての口調は保っている。
「扶桑の状況は?」
「飛行実験部や横須賀航空隊、近衛師団あたりにきな臭い動きがある。数年以内に暴発するね」
「226や515の連中みたいに?」
「うん。だから、監視のために、47中隊を戦隊に昇格させたらしいんだ。彼らの本来の目的は果たしたからね」
「47中隊をその目的で?」
「本土防空名目で残してあった部隊だし、機材の更新を控えてるから、ついでに監視してもらおうってやつ。あそこ、黒江さんの古巣だから、うちに協力的でね」
芳佳の口から、扶桑でクーデターを目論む動きがある事が語られ、ダイ・アナザー・デイ後に本当に起こす。それを逆に利用する形で、Y委員会は地位を確立するのである。
「本題に入るよ。あたしに烈風改が送られてくる」
「震電じゃないの?」
「横須賀の連中が試験未了を理由に、あれこれとごねてね。うちの旦那に烈風を改造させたんだ。数日以内に旦那と一緒にやってくる。坂本さん、かなり荒れてたよ」
「震電の事で?」
「実地試験という体で回せって言ったらしいけど、鶴野大尉に断られてね。技術テストが済んでないとかで。でも、結局は動かせないから揉めてるみたいだよ」
結局、鶴野大尉はこの判断を悔やむことになる。震電ストライカーが焼却されるからだ。震電ストライカーがレシプロストライカーとして生まれる分水嶺はこの時だった。芳佳は他世界では使用できた震電が『この世界では使用できない』ことは悔しいようだ。とはいえ、烈風改は完全に震電とは次元の違う機動性を持つので、制空戦闘が多くなる戦場向きではある。結果オーライではあるわけだが、この判断は間接的に横須賀航空隊の解体に繋がってしまうのである。
「芳佳ちゃん前提のエンジンが、他の子で動くとでも?」
「普通に、量産用に調整し直すだろうけど、クーデターが起きたら、血気盛んな将校たちに燃やされるだろうから、旦那に言って、手を打っとくよ。別の試作機を確保しとくようにって。まぁ、烈風改も同じチューニングはしてあるから、速度と上昇率以外は上だけど。震電は局地戦闘脚だから、航続距離は度外視されてるんだよ。坂本さん、そこ分かってんのかねぇ」
「坂本少佐は『航続距離は気合でどうにかなる』って言いそう」
「今回は笑えないけどね。キ99みたいに、スーパーカー気分で作られた飛行機をコンペに出されても」
「資料は見たけど、盛りすぎじゃ?二重反転プロペラと排気タービン、自動空戦フラップなんて」
「二重反転プロペラはね、アメリカすら、大戦中にはまともに量産ができなかった機構なんだ。それを扶桑が『動く』状態で量産できるとでも思ってんのかねぇ…」
芳佳にも、この評価だ。なお、烈風改(芳佳仕様)は史実での震電ストライカーに相当する存在である。吾郎技師が宮菱の資金力を以て、1945年時点での最高のチューニングを施したため、速度と上昇力以外の全ての分野で震電を上回る性能を持つ。震電を実戦で使えないことは悔しいが、震電を未来に生き残らすための策を弄することをリーネに明言する。普通にいけば、戦前日本の軍用機の血は飛行艇以外の分野では絶えてしまう(自衛隊のUS-2飛行艇は九七式飛行艇と二式飛行艇の末裔である)からで、それに怒りを覚える扶桑の航空技術者は多い。その代表的な人物が、キ99の開発責任者の山越技師であった。
――とはいえ、彼の作った『キ99』試作戦闘機は『戦場での整備性をまるで考えていない贅沢品』で、転移前の黒江がダメ出しするほどに、ハイスペックのみを追求していた。その上、速度性能はエンジンパワーからの概算値が提示されているなど、非現実的。日本の防衛省も『戦線の整備兵に、こんな贅沢品が整備できるものか』と揶揄している。カタログスペックでは『レシプロ機の極限』だが、レシプロ機の構造上の強度限界から、『急降下で音速突破という謳い文句』は机上の空論とされ、非採用となった。エンジンも2000馬力級エンジンのタンデム配置で、戦線の一般的な整備兵の手に負えるものではない。機体も排気タービン装備かつ、二重反転プロペラ、新式自動空戦フラップと新式照準器の装備など、圭子をして『スーパーカーを戦場で使う気かよ?』と呆れさせた。リベリオンでさえも、戦線への量産配備を避けるようなギミックが多すぎるのだ。空戦性能自体は紫電改や烈風以上のものであったことから、黒江や圭子は『一年戦争の徒花だったっていう、ヅダを見るようだ』と評した。実際、烈風や紫電改は愚か、ターボプロップ機の陣風以上のハイコストは確実で、価格も四発機の連山にも迫ると判定された。圭子曰く、『陣風が暫定的に積む3000馬力エンジンより製造コスト高いタンデムのエンジンってどうよ?』との事。軍も流石に採用を見送ったわけだが、山越技師は『要求性能はクリアしているぞ!!』と怒鳴ったが、軍は『戦場で使えるものをつくってくれよ…』と涙目。結局、史実通りの五式戦闘機が採用されたのだ――
――その後、キ99はテストパイロットの台場大尉がクーデターの際に使用し、性能を証明。彼が『反乱に加わった責任』を取るために、急降下で散華するに至る。(後に、この出来事は『衝撃降下90度』という題名で言い伝えられていく)こうした事例が重く見られ、震電のジェット戦闘機化は承認される。その過程で戦前からのテスト部署はひとまず解体される事になり、空技廠も縮小改変で落ち着く。これは史実で『他分野で活躍した者』をその『他分野』に引き抜くためで、空技廠は『名が存続した』だけでも儲けものであった。また、その過程で『史実の公職追放などのせいで、リベリオン人に扶桑人のヘイトが集まる』事を危惧したチェスター・ニミッツ大将が『扶桑の手足となること、やむなし』と判断し、反対意見を『扶桑で平穏に暮らすために』封じ込めたことで、実質、自由リベリオンは『扶桑の手駒』として存在する事になる――
――扶桑空軍に前身となる組織の風習が殆ど受け継がれなかったのは、過去の陰湿ないじめが白日の下に晒されたからで、社会問題になったからである。特に、黒江へのいじめは『軍の英雄がいじめを受けていた』という事実であるので、連合軍全体を揺るがした。カールスラント軍はグレーテ・ゴロプと、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの両名の失態で連合軍での立場と権威を大きく損ねることになった。経費削減のため、前線飛行場の数が減らされた事も、カールスラント空軍には軍事的に致命的であった。空中給油が影も形もない時代だったため、遠距離進出を考慮していない同国の戦闘機は淘汰され、代わりに史実戦後アメリカ軍機が主力機に収まる。メッサーシュミットMe262のコピーやライセンス生産が取りやめられ、F-86戦闘機がその座に収まることは、カールスラントの後退翼技術が流出した事の表れであったが、それを追求することはできずじまい。更に、再燃焼装置が実用化された事で、カールスラント製のジェットエンジンの普及の芽は断たれた。耐熱合金の改良や実用的な後退翼の実験に手間取っていたカールスラントは、より優れた治金技術を持った日本連邦が、本来は搭載しないはずのF-86にも再燃焼装置を組み込んだことで、技術大国というプライドとブランド力に『最後のとどめ』を刺されたのである――
――ダイ・アナザー・デイも日日が進むと、P-80やF-84Fなどの戦後第一世代のジェット戦闘機が陸上で姿を見せ始め、F-86を単純に揃えるだけでは、兵力の強化に間に合わなくなってきた。そこで、圭子は黒江が転移前に手配していた『F-14ダブルプラス』(地球連邦軍がガトランティス戦役で使用した『数合わせ』の近代化改修機)の使用を決断したのだが――
「何、ウルスラがケチつけてる?」
「ええ」
「あの石頭の技術屋め。転生者のくせにカタブツなんだよ」
キュアマーメイドがそう連絡を入れる。ちょうど智子が留学に行かす日から三週間ほど前の事である。格納庫では。
「竹井少佐、技術チートをやめさせてください!時代にそぐわないんですよ、コンピュータ制御の可変翼など!可変翼はまだ、こちらでは実験段階のものなんです!!」
と、ウルスラが持論を展開していた。当時、可変翼機はメッサーシュミット P.1101というプロトタイプで研究されていて、手動制御かつ、空中での角度変更は考慮外の原始的なものであった。ウルスラは転生者でありながら、技術チートなやり方に強く反対していたが、敵がF-84F(サンダーストリーク)を投入してきたため、敵のほうが技術チートをしているという有様であった。
「やめなよ、ウルスラ。敵はサンダーストリークだよ、サンダーストリーク」
「姉さま……あれの完成は1950年のはず!!この時代に存在するわけは!!」
「敵も同じ手は考えるもんさ。だから、トムキャットを使うくらい、どーってことない。このペースじゃ、敵が戦後第2世代の戦闘機の『センチュリーシリーズ』を使うのも時間の問題だと思うね」
エーリカはこうした事には冷静である。
「智子さんに、駄々こねてたって言いつけるよー?」
「ああ、姉さま。智子隊長の事を出さないでくださいよ!」
「いーじゃん。今はあたしも部下なんだし」
エーリカはこの調子である。噂をすれば。
「あんたは本の虫だから、たまには実地研修に行ってらっしゃい」
「うわぁ!?」
智子がいつの間にか、後ろに立っている。ウルスラはそのまま智子のサイコキネシスでエイラの乗るジープに乗せられ、研修に行かされた。
「あの子にも困ったものね。エーリカ、弾薬を機に装填させて。それと、アビオニクスの動作確認を」
「了解」
智子はF-14をこの時に使用した。黒江の趣味で調達されたものだが、性能は『変形しないVF-1』というほどのもの。同機用の熱核タービンが流用されたためだ。アビオニクスもコスモタイガー用のものに換装されており、地球連邦軍が慌てて用意したいう割に、程度のいい部材が使われている。そのため、部内では『F-14の皮を被ったブラックタイガー』とも比喩されているが、速度面で劣る。これは解体されたVF-1のエンジンをそのまま使ったため、原型機よりは圧倒的に推力に余裕があるものの、ブラックタイガーには及ばないからだ。
「さて、地球連邦軍も数合わせで使ったとかいう単座改造型の性能を見せてもらいましょうか。班長。整備にどのくらいの時間が?」
「武装とエンジン含めて、5分で完了します」
「ご苦労。47から呼び寄せた甲斐があったわ、刈谷中尉」
機体の整備につく新顔の整備隊長。彼女は扶桑一の敏腕整備兵『刈谷』。階級は中尉(当時)。前任は47中隊。そこの整備班長を務めていた。史実での『刈谷正意』大尉にあたる女性で、ウィッチ志望だったが、魔力が発現しなかったために、整備兵として志願。不具合が多かった誉エンジンの稼働率を100%にした実績で知られ、扶桑の至宝と呼ばれている。彼女はその実績から、未来世界で実習を受けており、本来なら明野飛行学校でエンジン整備の教鞭を取る事が期待されていたほどの逸材だ。だが、本人は現場を望んだため、山本五十六が今村均大将に頼みこみ、64Fの整備班の新任の整備班長として赴任させたのである。ずばり、64Fの縁の下の力持ちの一人である。また、世代的に在籍時の黒江と面識もあったので、その縁も引き抜きに有利に働いた。彼女の技能は抜群であり、64Fの整備体制の構築は(アストナージ・メドッソの助力はあれど)迅速に整い、彼女の熱心な教育で整備兵の練度も整いつつあり、黒江が戻る時には『地球連邦軍に遜色ない整備体制が完成していた。圭子の裁量のもと、彼女が47時代同様に『整備指揮小隊』を組織していたからで、黒江もこれに驚嘆することになる。
「出撃準備よ、エーリカ」
「あーい」
二人は整備班長に機体を任せ、自身は出撃準備に入る。ウルスラは技術者である身ながら、『味方が技術チートをするなら、敵もしてくる』という答えを考えつかないあたり、転生しても『カタブツ』な気質が災いし、出世しにくいのがよく分かる。
「あの子、カタブツなのよ。昔から。味方がチートするなら、敵もしてくるでしょうに」
「ウルスラは柔軟に事を見れないところがあってね。本の虫だったのがねぇ。もっと実地研修させてくれる?」
「ええ。そのつもりよ」
ウルスラは人相手の一方的な虐殺を嫌っているが、それを言うと、B-29に焦土にされた日本、最後に新技術に頼った史実ドイツの立場が無くなるのである。ゲッターエンペラーが宇宙制覇に乗り出すきっかけは、そうしたことの繰り返しが降り積もった結果なのである。30世紀で『イルミダスが地球人を虐殺した』結果、逆に自分達がゲッターエンペラーに根絶されてしまう因果応報の結末を迎えるのも当然と言える。また、敗戦後にイルミダスに協力した地球人も、地球人の報復の対象になったところに悲劇がある。『生き残るために、そうするしかなかった』という事情など、怒れる者が考慮してくれるわけがないのだ。
「あの子、B-29の爆撃の惨状見ても、ああいうのかしら」
「また作ればいいって、そういう次元の話じゃないからね。特に文化遺産とかは。それがわからないんだよねぇ、カタイ人間は」
カールスラントは結局、文化遺産軽視などの罪への懲罰を受けた結果、暗黒時代を迎える事になる。エディタ・ノイマン大佐の更迭はその始まりであった。以後、連鎖的に不祥事や左遷、冷遇が重なった結果、カールスラントは内乱に突入していく。地球連邦軍とNATO軍の連合軍によって短時間で鎮圧はされたが、国家機能その他は完全に崩壊しており、軍政が長く続く原因となる。
「だから、エディタ・ノイマン大佐が更迭されたんでしょ?」
「うん。あの人、直に辞めるよ。ハンナのおかげで中佐で留まれたけど、文化遺産をないがしろにしたって批判はこたえただろうからね」
「打たれ弱いわね」
「挫折してないエリートってのは、そういうもんさ。一度でも挫折しちゃうと、立て直せずに落ちていくだけ。多分、数年以内に民間に出るだろうね。佐官級の年金は保証されてるから」
デロス島の一件でキャリアに影が差し、自身も精神的に大ダメージを負ったエディタ・ノイマンは二年後の1947年に退役。大佐として退役した後、機械工学関連の会社を立ち上げ、財を為す。大佐としての退役は軍としてのねぎらいであり、カールスラントで恩給制度が整えられた(史実東ドイツ軍人への扱いへの教訓)後での受給者第一号となった。また、日本連邦も史実の戦後直後の混乱を鑑み、軍人への金銭支給に相当に気を使うようになっていく。反乱と政情不安の抑止のためである。
「まぁ、うちも結局、任侠の連中の伸長防止のために軍人恩給は多額になるから。戦後直後の混乱の教訓でね」
それはカールスラントの長い混乱の暗示でもある。扶桑の混乱が一瞬だったのに対し、カールスラントは史実戦後の両ドイツの歪みの業を一気に背負わされる形になったため、戦前の列強諸国で『もっとも没落した国の一つ』という屈辱を味わう羽目になる。
「でも、あなたの国は大変よ。これから内乱が起きる。それはすぐ鎮圧しても、現体制の政府はそのままじゃいられない」
「皇室はスイス相当の国に亡命するって。たぶん、長く混乱するね」
「日本と違って、皇室が絶対じゃない故の悲劇だよねぇ」
カールスラントはその指摘の通り、皇室に絶対の権威がないことが悲劇になり、混乱期を迎える。そして、ドイツが民主共和制の導入を目論み、わざと混乱させたことも重なり、カールスラントは本土奪還どころでないほどに消耗。後に解放される本土は扶桑の信託統治地域になり、1999年までの長期にわたり、その状況が継続する。また、カールスラントの体制は結局、ナチに類似する体制の招来を避けるため、無難な立憲君主制として再建される事になる。また、イタリア半島も統一の動きが具現化するのは、ヴェネツィアの衰退が顕著になる1950年代になるなど、欧州全体で混乱が続くのである。
「準備完了しました」
「ご苦労。さて、出撃よ」
F-14は(この時の使用レポートが『質』を最重要視する扶桑軍に採用され、正式に次期(いつとは明言せずに)主力戦闘機に決定される。扶桑は通常戦闘機の技術の立ち遅れを自覚し、危機感を持っていたため、戦闘機の更新に必死になっていた。その一環によるものだ。この頃には、ジェットエンジンの音は『隊内』で聞き慣れた音になっていたため、隊の誰も気に留めなくなっている。また、彩雲は実機(偵察機)も使い物にならない稼働率なので、自衛隊の偵察型のF-4を借り受けている有様。空技廠は嫌がらせのために、却って自分らの評判を落とす事になり、場繋ぎで『一〇〇式司令部偵察機』が司令部から回された事により、彩雲の評価は下がり、一〇〇式司令部偵察機の評価は上がったという。(とはいえ、一〇〇式司令部偵察機も根本的に旧型機なので、使用期間は短いが)偵察型のF-4に短時間で取って代わられるものの、宣伝としての飛行は続けられたという。彩雲は『エンジンの信頼性』が足を引っ張った形で活躍の機会を逃したが、マイルストーン的価値が見出され、1947年に日本側へ多くが買い取られていったという。
「行くわよ、エーリカ」
「あーい。まぁ、たまにはいいかもね」
――明るい空へ、F-14戦闘機が飛翔する。敵のF-84Fを堕とすために。レシプロ機への絶対的優位性を期待されているF-84Fだが、武装は当時の戦闘機の延長線上にすぎず、ミサイルは積んでいない。そこに遥かに進歩した戦闘機であるF-14が、流麗な可変後退翼を振りかざしてやってくるのである。敵への示威、技術力の誇示など、色々な目的も含んでいるが、日本連邦の意志の表れであった――