――扶桑は結局、日本によって反戦思想を持ち込まれた上、軍と民間の関係を強引に切り離された結果、極度の人手不足に陥ってしまった。内部粛清で将校の中堅・古参層に大穴が空いた結果である。参謀職の『幕僚』への言い換えや人員の入れ替えを促進させたが、育成に時間がかかるため、現場の人員はてんてこまいである。機甲兵器の不足も深刻であった。当時の扶桑は兵器更新期を迎えていたため、ハードルがいきなり上がった形になった。また、軍学校の学費問題も生まれてしまった(日本側は学費の領収の方針であったが、資産を持たない家から『経済的な負担をせずに高等官になれる方法を奪うのか』と反発されたため、結局は『時間をかけて、制度を変えていく』選択が取られた(貧富の格差が大きすぎる時代と環境のため、日本も流石に軍学校の学費徴収は見送った)ため、軍官僚を含めた人材的な意味での新陳代謝は停滞し、大戦開始時の指導層がキャスティングボードを長らく握り続けることになった。また、軍国主義と見なした若手~中堅の軍人を多数追放したら、現場が機能不全に陥る事例が頻発した。仕方なく、有能な人材を集め、数箇所で集中管理する案が採択された。逐次投入で無闇に戦死させるよりも、精鋭を数カ所で集中管理し、有事で活用する。それが日本連邦の選択であった――
――これは『天才肌』も現場の苦労を知るべきだとの意思の表れで、例として、マルセイユのような高慢な者の鼻っ柱をへし折るための措置である。とはいえ、そのマルセイユは既に『敗北』を知ったことで『性格が謙虚になり、自惚れをしなくなっていた』が。こうした日本連邦の『現場主義』は人材育成の軽視と批判されているが、史実太平洋戦争の事もあるため、扶桑軍は強く批判できなかった。連合艦隊旗艦すら前線へ赴くため、他国からは『サムライの国はわけがわからん』と評されたが、日本では『指揮官は前線に立ってこそ』という論理があるため、逆に他国を嘲る風潮が生まれる始末。結局、ロンメルが配置換えにならなかったのは『前線指揮官としては優秀だから』という評価があったからで、パットン共々に前線指揮を遂行することになる。また、カールスラント空軍の撤兵で生まれた軍事的空白を埋めるしかないため、航続距離の長い日本連邦機が使われたのである。当時、扶桑軍は航続距離を切り詰め、攻撃力と防御力重視に切り替えた機種を開発中であったが、結局は太平洋戦線の開戦が確実となり、長い航続距離とそれらを両立させた新鋭機の開発へまたシフト。その第一陣が紫電改であり、烈風であった。軍事費の削減で飛行場の数が維持できなくなるからで、結局は太平洋戦線の開戦確定と空中給油の実用化で『欧州向けの機材の再改良』が必要になったため、航空関連部署は混乱が続いた――
――とはいえ、零式二一型の航続距離がオーバースペックだと批判されていたのに、それより長距離を飛行できる『P-51後期型』が現れたため、連合軍の航空参謀は一様に震撼した。大量生産が可能な航空機(ストライカーは魔力伝導率の良い『触媒』をエンジン部品に用いる必要があるため、意外に『大量生産』は効かなかった)としての同機の投入は連合軍を震え上がらせた。P-51などへの強い恐怖が史実戦後期以降のジェット機の投入論の容認として具現化した。技術者たちからの反対はあったが、既存機では、B-17にすら苦戦するのが目に見えている。史実の日本帝国とナチス・ドイツがそうであったように、高高度性能が不足した迎撃機のできることは体当たりか、一撃で致命傷を与えるしかない。その双方もままならず、本土を焼かれた日本帝国の実例は技術者も黙るしかなく、結局は『ジェット機の早期開発』が決議される。史実での『B-36』以降の高性能な「成層圏を飛べる大型爆撃機」が正式に量産されれば、現状の航空兵器や対空兵器では『為す術がない』のは『子供でも分かる』からだ――
――扶桑は戦術爆撃と航空雷撃を重視していたため、戦略爆撃機の用途で使うつもりがあまりなかったので、富嶽の存在を秘匿していたが、B-29の存在誇示のプロパガンダに合わせ、情報が解禁された。B-29のそれよりも強力な射撃指揮装置や自動航行装置、電探などを完備した改良型であるが。つまり、富嶽はB-29の投入で、その『カウンターパート』としての存在意義を見出され、改良がなされることになった。連山も『戦術爆撃機』としてしばらく使用する見込みになったため、航空魚雷の搭載が取りやめられ、代わりに小型化された巡航ミサイルとそれに必要な電子機器などが搭載されることになり、直ちに改修に入った。ダイ・アナザー・デイはこうした『兵器実験の場』となり、平均レベルは僅かな間に『大戦初期相当』から『朝鮮戦争相当』へ飛躍していった――
――スーパーロボットの威力は凄まじく、一機で軍の一個軍団以上の戦力であった。だが、ワンオフの超兵器であるため、数は少数。広大な戦線をカバーしきれるものではない。日本の左派が意図的に情報を流し、扶桑の戦力を削ろうとしたこともバレ、大問題になった。その尻拭いを64Fはやらされている。そのため、スーパーロボットも当初予定より強力な機体が選ばれた。グレートマジンガーは後継機種の『マジンエンペラーG』、ゲッターロボGは(パイロットの都合もあり)真ゲッターロボに変更されている。そこまでしても、戦況が膠着状態であるのも、リベリオンの膨大な物量の証明であった。M4中戦車は敵味方全体で膨大な数が投入されたが、多くがスクラップと化した。戦車駆逐車はそもそも『カテゴリが一過性である』ため、足手まといとされ、重戦車であるM26に押され、姿を消し始めていた。さらに地球連邦軍が『ジークフリート』を複数投入したことも重なり、イタリア半島に展開していたリベリオン軍は各地で敗退し始めた。だが、ロマーニャ陸軍は既に実効戦力を喪失し、ヒスパニア陸軍も同じ理由で有名無実。ガリア陸軍も霧散して久しかったため、大規模攻勢は不可能で、連合軍は戦線の現状維持で精一杯。とても攻勢どころではなかった――
――一騎当千の猛者達はいるものの、兵力差そのものは大きいため、連合軍は薄氷を踏む思いであった――
「ロンメル、いいのか?カールスラント軍の残った兵器を使い潰して」
「構わんよ。どうせ廃棄が通告されたものだ。こちらで好きに使わせる。弾や部品はドラえもんくんの道具でいくらでも補充が効く。使い潰すほうが本望だろう」
「とはいえ、ブリタニアも本気だな」
「絶好のセールスの機会だ。新型の戦車をまだ初期生産の段階で出すとは思わんだ。うちの専売特許だと思ったが…」
前線の臨時司令部では、ロンメルとパットンが軍議をしていた。カールスラント軍はほとんどが保有兵器を放棄した上で撤兵をしていったが、国際貢献活動を大義名分にして、司令部直属の部隊は残留しているため、それらに新鋭戦車、新鋭戦闘機などが渡ることになった。扱う人間が足りないだけで、兵器の数はそれなりにあるのだ。……敵に比して雀の涙程度だが。
「どうするのだ?」
「超兵器と一騎当千の連中で陸戦部隊を蹴散らして、なんとか戦線の拮抗を保つ。その間に、海軍で制海権を握る。日本の高性能な潜水艦隊と『海の怪物』さながらの大戦艦らでね。それについては、アドミラル・オザワに任せるしかあるまい」
「我が海軍のビスマルクとティルピッツは戦力外だそうでね。海軍の連中は顔を真赤にしていたが、フジとハリマの威容を見た途端に顔色を失ったそうだ」
「島が動いてるような大きさのもので、50cm以上の口径の大きさの艦砲を12門も備えるものな。造船技術の物理的限界にチャレンジしているようなものだな。空母機動部隊の連中が腰を抜かしていた。まさか、ヤマトを更に強化してくるとはなぁ。執念だな」
パットンはそう形容した。日本連邦が生み出した『戦闘艦艇の造船技術の限界に挑戦している』巨艦が大和型戦艦の強化型であるというのは、(外観が大和型戦艦のイメージを引き継いでいる事もあり)素人目にもわかったからだ。カールスラントのビスマルク級がまるで巡洋艦、もしくはそれ以下に見えるほどの巨艦。異世界のナチス・ドイツの巨艦『ヒンデンブルク』に対抗するために『大艦巨砲主義を未来技術で突き詰めた怪物』。
「皮肉だよ。異世界で我が国が生み出したものに対抗するために、扶桑があらゆる手段でヤマトを極限まで強化したなんて。レーダー元帥が泣いておられたよ」
ウィッチ世界でのエーリヒ・レーダー海軍元帥は『世界に誇る大洋艦隊の再建』を夢見ていたが、エクソダスと『ドイツ主導の強引な軍縮』で泡と消えたことに激しく落胆している。とはいえ、理論的に『キール運河に縛られない』ため、Z計画で策定されていた新戦艦の建造は可能であったが、海軍の整備にほとんど興味のないドイツ連邦に言いなりになることに、海軍の古参の人員の間で蓄積されており、暴発が危惧されていた。ドイツは『海軍は元からズタボロだし、開戦時の規模で満足しておけ!』と切り捨てた。これがカールスラントでの内乱の直接的要因であった。
「クーデターを起こしかねんぞ?」
「ドイツ連邦の政治屋は我々の事を戦争犯罪人も同然に見ている。私の警告などに耳を貸さんさ。ケイのツテで『NATO』に通報したほうがいい。彼らのほうが取り合ってくれるよ」
ロンメルはドイツ連邦の塩対応に憤慨しており、圭子のツテで『NATO』の軍事介入の密約を結むつもりだと明言した。NATOの軍政に入ったほうがよほどマシな有様であることからの発言だが、これは本当にそうなってしまう。結果、政治的配慮で海軍の戦艦保有数は六隻ほどに制限されるが、鹵獲されていた『ナチス・ドイツの大戦艦』の四隻の修復と保有は認められ、1950年代以降のカールスラント軍の『ささやかな祈り』の象徴とされたという。
「それも織り込み済みか?」
「子供でも分かるくらいに、あからさまな冷遇だ。レーダー元帥でなくても、義憤に駆られるのは容易に考えられる。我々としても、南リベリオン大陸における『海上の抑止力』が損なわれ、向こうでいうオーストラリア大陸が脅かされるのは好ましくないという事だ」
海軍としての総合戦力は(列強の戦艦の世代交代もあって)大きく下落していたものの、異世界のナチス・ドイツと扶桑の艦隊決戦の情報は『カールスラント海軍の溜飲を下げた』。カールスラント海軍は『連合軍の実効戦力』として機能するまでの再建は大きく遅延するが、『南アメリカ地域における海上抑止力』としての存在意義は認められる。それがNATOによることは、ドイツ連邦の露骨な『カールスラントへの優越意識の問題とそれに翻弄され、悲願を潰されたカールスラント帝国の悲劇を強調させる。異世界間連邦の最初の失敗例と見なされる事を恐れたことでの露骨な融和路線は『ドイツ連邦の内部からも』批判される事になり、NATOの軍事介入を容認するしかなく、ドイツ連邦は政策の誤りを認めるしか無くなる。
「カールスラントはどうなる?」
「ドイツ第二帝政にあたる体制が続いていると分かれば、そのうちに掌返しをするだろう。要はナチスでなければいい。それが彼らの論理だ。日本連邦が羨ましいよ。織田信長公が生存したか否か。それ以外では『ほぼ同じ』という理由が信頼に繋がったからね」
「ブリタニアはどの道、今の規模の軍隊は10年と維持できまい。日本連邦が次の王者か?」
「政治屋はそう認識するだろう。向こうの世界での合衆国の役を否応なしに演じさせられるわけだから、ある意味では不幸さ」
日本連邦に続く『二匹目のドジョウ』狙いは見事に外れ、カールスラントへの口出しを控えるしかなくなるのは、『双方が手を取り合って発展していく日本連邦』と対極的。カールスラント帝国が『ドイツ第二帝政』相当の国家であることを知ろうとしなかった事を『NATO構成国から批判された』ドイツは(政権交代もあって)カールスラントへの支援を始め、協調路線に切り替えていく。第二帝政であれば『ナチ共よりは遥かにマシな国家』だからで、ドイツの高慢とカールスラントへの偏見が際立つ形になった。その事の弊害により、連合軍は『圧倒的な戦力を持つリベリオン軍』と正面切って戦える力を失い、ゲリラ攻撃に終始している。日本連邦が陸戦部隊を供出したがらないブリタニア連邦(一次大戦での膨大な戦死者への反動)に代わる形で戦線を張っているという事実は、ブリタニアの軍事的衰退、扶桑皇国の台頭を妙実に示していた。元から『東洋の大国』という看板を掲げていた扶桑だが、欧州列強からは、かつての明朝、かろうじて存続している『モンゴル帝国』と混同されている節があった。だが、このダイ・アナザー・デイで鬼気迫る戦闘を見せる事で、『列強で上位の戦闘意欲を持つ恐るべし国家』と認識され、以後の歴史において、連合軍の軍事的役割の多くを負担させられていく。ロンメルはそれを指して『不幸』と評したが、それはどこかが史実アメリカの役回りを演じなくてはならない『歴史の流れ』への同情でもあった。
「あらゆる兵器を渡し、扶桑を強化する。日本側は陸軍の強化を露骨に嫌がっているが、陸軍大国の尽くが軍事的に衰弱しているんだ。仕方がないことだ。日本の高官を説得しにいくよ」
ロンメルは扶桑陸軍の削減を行おうとしている日本国の高官を説得しに行くことに決めたようだ。カールスラントはもはや、軍事大国には戻れない事を自覚しているからだろう。元帥の階級も、ロンメル達の世代の引退後は運用停止が検討されていたため、欧州列強で現役の『元帥』が活躍した実質上の最後の時代が、この『戦乱期』であった。(元帥は戦時に必要とされる階級であるため。だが、日本連邦のように、『政治的に、階級としての元帥を必要とする』ケースもある)以後、欧州では元帥が必要とされる事態が減ったため、時代が進むと、元帥の代替的に『上級大将』が実務で用いられるようになり、元帥は政治的な必要のある時に使われる『名誉称号』に変質する。日本連邦とは逆になったわけだ)ロンメルは史実が史実だけに、暗殺の危険があるため、日本行きには、稲垣真美などの旧『アフリカ』のメンバーが同行したという。
――ロンメルは悲劇的結末を迎えた史実、攻勢期が名声の全盛期であったことから、21世紀でも一定の人気は保っている。(手腕の評価は下落したが)『軍団長から師団長に職位を下げるべき』という声はつきまとったが、軍指揮の問題と変えるべき人材の不在(グデーリアンを現場に下ろす案もあるが、これは参謀本部の反対がある)という問題がある。これは史実での武装親衛隊の人員を排除した影響でもあり、意外に有能な現場指揮官が不足していたことの表れ。そのため、本来は階級的に参謀本部の参謀であるべき黒江達(ダイ・アナザー・デイ開始後は准将の位にある)が現場で戦っている。他国はこの現象を『日本人の心情はわかるが、指揮官が死んだら、元も子もないのだぞ…』と評していたが、そのほうが兵士達に人気があるので、参謀本部は涙目。結局、現場指揮で定評のある者に依存する結果になった。参謀職の有名無実化が進展している事は、近代以降の軍組織としては大問題だからだ――
――人型兵器と超人に依存する体制は、他部隊を拗ねさせる事に繋がったが、弾の数を超える敵が襲いかかるのが陸空で当たり前になったため、従来兵器に比してだが、圧倒的に汎用性がある人型兵器は重宝された。それはパワードスーツであろうと同じ。ダイ・アナザー・デイに交代で従軍したIS組は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』(キュアマーチとしての活動以外では、ラウラ・ボーデヴィッヒの名義を使用)の仲介で鈴(データ回収のため、本国から召還指令が下った)と交代で箒のカバーについたのは、シャルロット・デュノアであった――
「箒、ラウラの仲介で来たはいいんだけど……敵が多くない?」
「仕方ない。敵はノルマンディーの倍以上の兵力を動員しているという。おそらく、陸軍だけで数十万は下らないだろう。車両も万単位。それをわずか数千両の連合軍で迎え撃つなど、本来は不可能だ。だから、チートがまかり通るのだ」
箒は以前より物腰の柔らかい態度が取れるようになっていたため、シャルは新鮮な気持ちにまなった。自分のISが『独自の進化』で他世界とは明確に異なる道を歩んだのも、姉へのコンプレックス解消に繋がった。
「数千の全部が戦闘車両ってわけじゃないからね。だから、モビルスーツとかが使われるわけだね」
二人が空から地上を見てみると、城塞攻略用重MSであるジークフリートが数機の編隊で疾走しつつ、背部のミサイルランチャーを一斉発射。敵の機甲部隊を一掃する様子が見える。
「あれらを使うのに、反対があったそうだ。だが、M4シャーマンの群れをこの時代、この世界の他国戦車で殲滅できるか?」
「ノーだね。個で上回るドイツ戦車が押しつぶされたもの。他国の機甲部隊にできるわけがないよ」
「だから、結局はチートをすることになった。航空兵力も、機甲戦力も、数で絶対に勝てんのは目に見えていたし、B-17にすら手こずるところに、B-29やB-36を持って来られてみろ。目も当てられんことになるからな」
「そう考えてみると、君の国の怨念返し?」
「ある意味ではな。日本軍の軍歴を持つ義勇兵は全国の空襲、あるいは終戦までの戦闘で、身内の誰かどうかは亡くなった経験を持つ。一種の賭けだったと、司令部のお偉方は言っていた。この世界の兵士達は同族殺しに怖気づく。だから、人同士の戦争に『良くも悪くも慣れた世界』の人間、あるいは別世界を知る人間が必要であったと」
「皮肉なものだね」
「この世界は、怪異という脅威のおかげでまとまっていたからな。その認識が崩れた時点で、大国同士の潰しあいがどこかで起こる。ティターンズはそれを促したのだろう。……だが、謎もある」
「謎?」
「考えてみろ。いくら未来世界の医療を以てしても、ヒトの種族的な限界は普通は超えられん。それこそ、聖闘士、あるいはそれに類する職についたか、それに匹敵するほど鍛えたか、ゲッター線に選ばれていない限りはな。病気になれば、40代でも死ぬのが当たり前なのは変わらん」
東方不敗(シュウジ・クロス)も病に冒され、49歳で死去している。また、100歳以上生きれる可能性は上がったが、種としての生存年齢の限界がはっきりした。そのため、自己修復機能を持つサイボーグでも無いかぎり、150年を生きることは(通常は)ないという常識も生まれている。
「ティターンズが黒幕然と振る舞おうが、それができるのは、せいぜい数十年だ。できることは史実のソビエト連邦役をやらせることだが、1991年くらいまでが限界だ。時間をかけて、太平洋戦争と冷戦の史実の焼き直しを演じる事で満足するような連中ではないと聞いているが…?」
歴史を噛んでいれば、ティターンズが目論むことは『太平洋戦争と東西冷戦時代の訪れ』にしか見えない。自分のような『学生』の年齢の者でも考えつく事を『地球連邦軍の選良』という触れ込みであったエリート軍人たちが馬鹿正直にやるとは思えないのだと、箒は言う。
「確かに。史実の焼き直しは、小学生のオタクでも考えつきそうだからね」
「それにだ。仮面ライダーを始めとするヒーロー達にまで敵に回して、この世界をどうしたいのか…」
二人はそのことが気がかりであった。ヒーロー達までも敵に回せば、世界全体を敵に回すも同然の状況になるのだ。いくらなんでも、無謀だ。更に言えば、どこかの次元には『ウルトラマン達の故郷』である『光の国』も存在する可能性すらある。
「気がかりなんだ。下手すれば、光の国が嗅ぎつけて、ウルトラ兄弟が送られる可能性もなくはないのに、時空管理局も、地球連邦も、銀河連邦さえ敵に回すなど……」
「どこかには存在しているのは、ありえるからね。下手すれば、地球意志がウルトラマンを生み出した世界も…」
「ティターンズのいた時代は、宇宙戦艦ヤマトが生まれるより前の頃だ。その頃の軍事技術を誇示したところで、討伐軍に勝てるつもりでいるはずがない」
「連中は、なにかかしらの手で最新の軍事技術を?」
「そうとしか考えられんのだ。戦艦モンタナを最新規格でリファインされた後のラ級へ改造できるだけの技術を持つなど…」
ラ號と戦った『モンタナ』は波動エンジンと重力炉で稼働していた。波動エンジンを製造する技術はグリプス戦役当時にはなかったという。だが、モンタナは波動エンジンを有していた。
「ましてや、波動エンジンはグリプス戦役の後に実用化され、改良された『コスモナイト』という地球外の鉱石を主原料として精錬される合金がなければ、フルポテンシャルでの運用は不可能だ。核融合炉と桁の違う代物なのだからな」
波動エンジンの技術難度の高さは真田志郎から聞いているため、モンタナの波動エンジンの出自、モンタナをラ號と戦えるほどに改造できるだけの工業力…。ウィッチ世界ではありえない。
「そうでなければ、敵がああやって、M4の集団を突っ込ませ、無駄死させる意味などないはずだ」
「確かに……」
「いくらマイクロミサイルとはいえ、第二次世界大戦の時の中戦車が耐えられるはずはない…。悲惨なものだ…。原型を留めている車両があるほうが不思議なくらいだ」
箒とシャルの眼下で『鉄の墓標』となった無惨な屍を晒す、リベリオン陸軍の機甲部隊。ジークフリートのマイクロミサイルの一斉射撃に耐えられる戦車はほとんどいない。22世紀以降の戦車を基準に開発されている弾頭が第二次世界大戦レベルの車両を消し飛ばせない道理はないのだ。奇跡的に直撃を避けられても、熱で乗員ごと焼かれるだけだ。
「マスコミに見せられないね、これは」
「見方を変えれば、虐殺とも取れるからな。だが、南斗聖拳の連中を見れば、ISとて、絶対有利ではない。単騎で戦うなよ」
「プリキュアに勝てる相手に、むやみに喧嘩を売るほど、僕は猪突猛進じゃないさ」
シャルは自分のできる事の範囲を心得ている。伊達に、一国を担う人材の候補生として訓練されてきたわけでないのだ。
「一夏の様子は?」
「鈴の話じゃ、猪突猛進な性格が災いして、苦労してるみたいだ。織斑先生が相当に怒ってたからね。最近は鈴とラウラの進言で、君のことや、戦いについての情報を解禁されたようだよ」
「千冬さんの信頼を取り戻したいのは分かるが……」
「ただ、未確認の情報もあるって」
「なんだ?」
「織斑先生と一夏の肉体を23世紀の技術で解析したら、明らかに『遺伝子操作』の痕跡が見つかったらしいと」
「千冬さんと一夏は……コーディネイターのような『デザインベイビー』だと?」
「ドイツのある組織が……日本人の遺伝子を使い、培養した『強化兵士』の生き残りで、成功体。まだ仮説の段階だけど、明らかに、織斑先生と一夏は『適性が良すぎる』からね…」
織斑兄弟は『どこかの組織が生み出した強化兵士の成功体』。その事を篠ノ之束が示唆し、千冬も遠回しに肯定したことから、もはや仮説でなくなりつつあると、シャルは告げる。
「一夏には?」
「伝えないでくれ…と。篠ノ之博士も、二人の関係の真実は伏せたいって言ってるからね。ただ、闇雲に突っ込まれても、鈴達もフォローしきれない。だから、大人しくしてほしいって、先生は」
「アイツは……他力本願を最も嫌う。故に、ヒーロー達に助けられるのに反発したが、それは非礼でしかない。だが、ISでどうにかできない者がいることは理解したのか?」
「うん。僕がこっちに行く直前のことだったかな。神闘士の集団が学園を襲ってね。学園の殆どの候補生やIS保有者で迎撃したんだけど、有象無象のように蹴散らされてね。僕と鈴、セシリアが実質、最後の砦だった。織斑先生と合わせてね。生徒会長は不意を突かれて一撃でダウン。簪もついでに倒されてね。一夏はISをしばらく没収されてたから、三人で必死に戦った。僕は武器が通じず、鈴は青龍刀を折られ、衝撃砲も機能停止。セシリアはショートブレードしか武装が残らなかった。セシリアが破れかぶれで、高機動パッケージのスラスターで突進したけど、ブレードを白刃取りされてね。そのまま組み伏せられた。僕も技で脚部の関節と浮遊機能をやられて、その場から動けなくされた。おまけに、サイコキネシスでISの緊急解除も封じられて、『あわや』ところ。で、先代の黄金聖闘士達に助けられたんだ」
「……簪は楯無さんのついでなのか?」
「うん。薙刀で斬りかかったんだけど、それを砕かれた上で吹き飛ばされて。それで、そのまま戦闘不能」
「それで、彼らがISのバリアを破り、装甲を砕けることはわかったのか」
「簪と会長には悪いけどね。リヴァイブと甲龍、ブルーティアーズはそれで改修が本国から許可されたようなものさ」
シャルが語るところによれば、学園がヒーロー達に助けられて数週間ほど後に神闘士の襲撃があり、IS学園はその襲撃で更に損害を被った事、その戦いの折に、『在籍中の全候補生』の機体は『半壊』以上の損害を被り、神闘士のリーダー格には、代表候補生、もしくは正規の操縦者のほとんどは為す術もなかったと。実戦経験が比較的にあった自分達が食らいついたものの、『食い止める』ので精一杯であり、全員が最終的には『ISの展開は保てたものの、行動の自由をサイコキネシスでの機体の機能阻害で奪われ、動けなくされた』。そこに『カミュ』、『ムウ』、『ミロ』の三人が駆けつけ、神闘士を撃退してくれた事、箒の要請が『アテナ』を動かし、篠ノ之束の監視も兼ねて派遣されたのだと、ムウが述べつつ、『オーロラエクスキューション』『スカーレットニードル』、『スターライトエクスティンクション』の同時発動が次の瞬間に起こったと。
「それで、神闘士への警戒、篠ノ之博士の監視のために、聖闘士が誰かどうか駐在するようになったんだ。君の機体の稼働データと解析結果が伝わったのは、その直後ってことだよ。で、トントン拍子に改修の許可が出たんだ」
「大変だったな…。それと、姉さんは自分勝手だからな。世界を好きなように壊されて、好きに再構築されてはたまらん。だから、アテナとZ神に頼んだのだ」
束のこれ以上の放置はあまりにも危険と、アテナ(城戸沙織)に進言し、それが更に上位の存在であり、オリンポスの最高神である『Z神』に伝わり、彼の直々の沙汰が降ったと箒は言う。
「あのさ、オリンポス十二神に膝をついて頼むような事かい?それ」
「いーや、お前は姉さんの恐ろしさを知らんのだ!うちの姉さんはだな……」
箒は姉妹である分、束に手綱をつけることは『千冬でも不可能』であることは知っている。故に、『黄金聖闘士を動員してもらい、彼女の考えうる全てをねじ伏せる』という反則手段(職権乱用気味だが)を行使する事も躊躇しなかったらしく、シャルを呆れさせる程に本音を漏らす。話す時はコミカルな表情と仕草もつけて。シャルは呆れ半分ながらも、箒の素を垣間見れたことに微笑ましさを感じたのだった。