――ダイ・アナザー・デイのサボタージュは戦線の多数派である一般将兵の反感を買い、ウィッチへのつるし上げやバットなどでの集団リンチも生じ、ウィッチ達の政治的立場はこの時から急速に悪化していった。奇しくも、カールスラントの軍事的衰退と同期していたため、カールスラントの威を借りて威張りくさっていただけとの陰口を叩かれている。その一方で前線で戦う扶桑ウィッチの古参は兵士からの尊敬を得たため、皮肉な事に古参ウィッチほど、戦う覚悟ができている問題が生じた。扶桑海事変の経験者が重宝されたり、大戦初期から軍にいる古参が屋台骨となったため、1945年当時に中堅とされた17歳前後の世代は周囲の反感を買ったために針の筵状態となり、世代として徐々に疎んじられ始めるのだった。――
――この当時、戦線の脅威の一つとされたのがネオ・ジオンがティターンズに放出したドム系統であった。ティターンズが鹵獲してきた機体もあるが、経年劣化も大きいため、ネオ・ジオンのメンテナンスを受けた機体が投入された。ドム系は宇宙では凡庸な機動力だが、地上ではホバーで高速移動ができるため、脅威であった。ジオンがアフリカで勢力を戦後も保った要因の一つであるため、第二次世界大戦レベルの戦力では足止めがせいぜいであった。そこも地球連邦軍のTMSが活躍する理由であった。――
――カールスラントの誇ったティーガー重戦車もドム(ドワッジ型だが)の前では鉄屑同然であり、カールスラント派遣軍は士気が崩壊寸前であった。撤兵で実質的に戦力を減じた事もあり、彼らは足止めの役目すら果たせなくなっており、損害回復もままならなかった。ドイツは流石に現地の要請に応じ、軍備ノウハウ維持のためという名目で、カールスラントの軍備の整備を許可したが、その頃にはカールスラント派遣軍は半ば形骸化しており、戦線の主役は日本連邦軍へ交代していた。――
――地球連邦軍の誇るTMSのフラッグシップモデル『Zガンダム』が戦場を駆ける。設計図を元に新造された機体で、コックピット周りにサイコフレームを搭載されている。ジェネレーターも次世代型になっており、以前よりパワーアップしている。戦場に舞い戻っていたカミーユ・ビダンが乗りこんでおり、ブランクがあるのが嘘のように、その神通力を発揮していた。――
「出てこなければ、やられなかったのに!」
カミーユはドムを撃破し、そうつぶやく。マン・マシーン化し、性能が初号機投入時より段違いに上がったZガンダムとグリプス戦役当時の技術でレストアされたにすぎないドム系MSとでは隔絶した性能差があった。歴代ガンダムで比較的に細身の体型であるZだが、一から次世代技術でアップデートされて新造されたため、見かけに反する大パワーを秘めるようになった。
「一年戦争の旧式を持ち出すって事は、奴らも台所事情は厳しいってことか…」
Zにコックピットだけを撃ち抜かれ、沈黙するドワッジ。ドムは重装甲で鳴らしたが、Zガンダムの高出力ロングライフルの前には意味はなかった。Zに果敢に挑むドム部隊だが、結果は火を見るより明らかであった。
「雑魚は消えろ!」
Zの華麗なるサーベル捌きの前に、ドム部隊は容易く両断する。古典的なMS戦術『ジェットストリームアタック』も見切られ、瞬殺される。Zガンダムは地上で擬似的なホバー移動が可能であるため、ドムに優位はなく、接近戦で容易く屠られる。かつての初代ガンダムより早いタイムでの秒殺であった。Zは華奢な外見から侮られるが、曲がりなりにもガンダムタイプであるため、格闘能力も備えている。ただし、本来は申し訳程度の緊急危難の意味合いが強い。Zプラスも抱えている問題だが、エースパイロットへ支給される機種であるので問題視されていない。(アムロ、カミーユ、ジュドーの三人がガンガン接近戦を行っていたが、想定外の運用であるという)ただし、接近戦は実際には多く発生するため、後継機の一つであるZプルトニウスが接近戦主体で設計されたわけで、脆弱性を解消するためにBWSが模索され、オリジナルよりは単純な変形機構のゼッツーが量産されたのである。Zプルトニウスは長年のZ乗りの要望への答えであり、Zプラス第二世代型として必要な性能を備えた新世代機であり、ZプラスA/C型の後継機種して注目されている。(Z系の括りでは第四世代機で、シータプラスと同期である)
「こちら、カミーユ。敵MSを排除した。これより帰還する」
ウェーブライダーに変形し、その場を離脱する。その勇姿に神々しさを感じた兵士とウィッチは多く、後の第三世代宮藤理論式ストライカーにトランスフォーム機構が取り入れられた遠因となったという。
――この頃から、MSは基本的に双方で戦線の火消しとして運用されており、怪異へも対処可能な火力を持つ『超兵器』としての位置づけを築いていた。MSの登場はウィッチの存在意義を侵すと、一部から敵視されたが、『第二次世界大戦レベルの通常の戦車砲にビクともせず、火器を撃てる』点は軍事的に大きな意味合いを持ち、ティターンズの躍進を担い、地球連邦軍の反攻の礎でもあった。ウィッチの軍事的意義は未来兵器の投入で薄れ、航空兵器の急速な進歩は航空ウィッチの存在意義を急速に削いだとも言え、存在意義を失った急降下爆撃ウィッチの多くが爆撃と攻撃ウィッチを統合した『バスターウィッチ』へ転じていく。ストライカー自体のジェット化が従来の種別の航空ウィッチの淘汰を進めたのも事実である。また、ウィッチ狩りで『P-47』が名を馳せたためもあり、扶桑は対抗するため、単にMe262の模倣に過ぎない『橘花』と『火龍』を放棄し、自由リベリオンが試作型を持ち込んでいた『F-86』の完成と生産に全力を傾ける。これに不満を持った横須賀航空隊のウィッチ達は幹部の志賀の預かり知らぬところでクーデター派に与し、機材焼却事件を起こし、部隊の組織自体が解体されるに至る。震電は皮肉な事に、この事件をきっかけにさらなる次世代機による淘汰を免れることとなったが、実機の試作機は1947年に完成したものの、初飛行を控えていたレシプロストライカーとしての試作機が焼失(正確には、事件を事前に察知していた黒江達が事前に入れ替えていたダミーだが…)したことで、ストライカーの開発は表向きは遅延したとされる。吾郎技師の提言で極秘に『ジェットストライカー』として再開発される都合、ダイ・アナザー・デイに『芳佳専用機』として投入される線は完全に消え失せた。(史実では、稼働データ収集も兼ねての支給となったが、この世界では吾郎技師の提言もあり、レシプロとしての投入は見送られている)芳佳は烈風改を改善しつつ、ダイ・アナザー・デイを凌ぐ事になったが、そもそも、キュアハッピーに覚醒したために、ウィッチとしての出撃自体がダイ・アナザー・デイでは少なかったため、問題とはならなかった。なお、本来は陸軍の機体である五式戦闘脚を履く姿もこの頃に目撃され、翌年の海軍中堅のクーデターの理由に使われたが、芳佳曰く、『単に予備機借りただけだってのに。アホだね~』とのこと。――
――この頃、日独はそれぞれの政治勢力が強大と見なした軍部を強力に抑え込もうとしたが、尽く裏目に出てしまった。日本連邦は『史実で東独に属したり、親ナチだった人材の排除をやりすぎる』など、目に見えて軍隊の掌握に失敗したドイツ領邦連邦を他山の石とし、自身は改革派の有力軍人達を使っての間接的統制を取り、概ね成功した。だが、兵器行政では致命的に近い失政をしたため、前線の兵器不足は致命的であった。牽引式火砲が処分、あるいは自走砲化されたため、再配備に手間取り、更に機甲科と砲兵科で縄張り争いも起こった。黒江が配備の際に機甲科と砲兵科の仲裁に走る場面も多く、64が過労死レベルにこき使われる理由であった。(後に、自走砲に改造した榴弾は砲兵、カノン砲は機甲科管轄との陸自の仲裁がなされ、黒江は胸を撫で下ろしたと言う)また、扶桑の工業力を見くびった議員が『マシンガン用の弾もまともに造れない化学工業レベルのくせに…』と嘲笑し、激昂した工員のストライキが起こったため、扶桑は大量に他国の装備を現地で購入、あるいは鹵獲し、そのまま使用したのである。その議員は『陸軍は一次大戦のMP18のコピーもできなかったくせに』との言い分だが、扶桑ではできていたために問題となり、アメリカ軍から銃と弾薬を現地購入する羽目になった。64Fとて例外ではない。黒江が緊急で米軍からM4カービンを購入し、Gフォースに支給する事態になった上、基地警備員用の小銃も支給が遅延する事態になったからだ。当然、隊員が陸戦に入る場合の装備も年式がバラバラなため、黒江と圭子が奔走し、弾薬の統一を図る始末で、ルコの三八式やカールスラント勢のボルトアクション式も武器庫にある始末で、黒江をして、武器庫の管理責任者の坂本を叱責する事態となった。しかも、坂本のトレーニング用具が仕舞い込まれていたため、黒江も流石に怒り、坂本を叱責した。
「なんだ、このバラバラさ!カルカノやモーゼル、九九式はいいとして、なんで…明治期の村田銃なんて骨董品あるんだよ、お前!!」
「すまんな。ウチの親父が爺様の遺品だとか言って送って来てな…。古すぎて流石に…」
「古すぎだぞ、部屋にでも飾ってろよ。時代はバトルライフルやアサルトライフルだぞ」
「わかってるさ。だが、爺様の遺品だからな。無下にも出来ん。部屋に飾るさ」
坂本の祖父は1903年事変に従軍しており、坂本が13歳の頃に亡くなったが、その子である父親が送って来たと告げ、無下にも出来ないと嘆く。
「後で鍵付きロッカーをくれ。そこに入れとく」
「次の定期便の要望に入れとくぞ。それとなんだ、竹刀にダンベルにストレッチマシーン?お前、こんなのを武器庫に入れとくなよ」
「す、すまん。ミーナが今回はうるさくてな。武器庫に隠しておくしかなかったんだ。空中元素固定で作った器具も多いから、説明できんだろ」
「お前、ボディブレードなんて、作ってどーすんだよ…」
「バルクホルンの頼みでな…2年前の時に」
「お、おう…」
それらはその翌日、圭子が引き取り、トレーニングルームへ運ばれた。人格が変わったミーナの要請で、ランニングマシーンなども設置されたという。
この頃はカールスラント軍の撤退で航空戦力と陸上戦力の頭数が減ったのも連合軍には誤算そのもので、Bf109は完全に旧式化したと見做され、生産が差止められ(最終型のK型が生産中であったが…)、Fw190も後期型のD型が生産継続とはなったが、実に細々としたもの。軍に本命視されたTa152もエンジン稼働率の問題がドイツに問題視され、本格生産されるか怪しく、カールスラント派遣空軍がそれらの要因で有名無実化していたからだ。44JVの管理が日本連邦に移った事は財政的には喜ばれたが、前線部隊としては大いに困惑したという。対する日本連邦は問題が中央に把握されれば、前線へのリカバリーは早かった。F-86や最終世代レシプロ戦闘機の生産が進み、迅速に配備され、日本連邦空軍はカールスラント空軍に代わるエアカバーの主力に登り詰めた。この事実を以て、大空の覇者の座はカールスラント空軍から、扶桑皇国空軍に移ったと判断された――
――創立間もない扶桑皇国空軍。航空自衛隊の持つノウハウを伝授された上、大量の質がいいパイロットを確保できたため、急速に戦力としての体裁を整え始める。機材もウィッチ世界としては当時最新鋭の機材を持ち、中でも、カールスラントでも地上試験段階のはずの胴体内蔵式ジェットエンジン設計の後退翼ジェット機たる『F-86』は日本連邦の技術のシンボルマーク代わりにプロパガンダされた。ただし、出自が自由リベリオンの試作機であるため、存在に反感を覚える技術者やウィッチ、パイロットも多く、その不満が約一年後に爆発する事となる。だが、1945年当時の状況で自前でなんとか製造可能な戦闘機としては『最高峰の性能』を持つ事は変わりない。実戦ではレシプロ機の危機を救う事も多く、その銀のボディは『新世代の象徴』とされ、自衛隊出身の教官らがレクチャーする形で航空隊編成が進み、ダイ・アナザー・デイも三週間目に入ると、一個航空軍規模の機数は配備され、月光/鍾馗などの後継機種扱いで邀撃部隊にも配備されだした。月光装備部隊が優先度が高く、レシプロ双発戦闘機の淘汰を進める一因であった。(F-86Dも配備され、この形式はこの時代のジェットに比較的近い運用から、F-104J生産まで使用されることになる)――
――カールスラント軍は自分達と関係ない政治的なところで面子を潰された。自慢のビスマルク級戦艦を時代遅れの『張子の虎』と馬鹿にされ、エースのスコアは粉飾計算のハッタリと誹られ、有能な人材を同位体の罪という理由で軍隊から追放されるなどの苦難を味わった。ゲーリングの策略で、実にボッタクリな技術ライセンス料を取ろうとしていた事が国際問題化し、日本連邦に目に見えて『報復』をされるなど、まさに踏んだり蹴ったりが続いた。カールスラントの頼みの綱が予備役に編入したはずの44JVの面々という皮肉が生まれた。44JVを政治的に疎んじていたミルヒ元帥、ヘルマン大佐、ペルツ少将などの反ガランド派高官は良くて左遷、あるいは『軍籍剥奪』などで次々と中央から失脚したが、司令官のガランドは既に隠居を宣言した後であり、空軍に皇帝直々の叱責が飛ぶ事態に陥った。
『朕はガランドを信頼しておったというのに、貴公らは朕から信頼できる臣下を奪うのか!?』
カールスラント皇帝の叱責はものすごく、反ガランド派の高官は皇帝に対して終始、保身目的の言い訳ばかりであった。皇帝の怒りは結局、ガランドの後輩であるグンドュラが空軍総監就任を受諾し、ガランドからの親書を手渡すまで収まらず、高官らは相次いで、胃潰瘍になり、療養を強いられたという。カールスラント空軍最大の問題は、最精鋭部隊の44JVが部隊ごと予備役編入後すぐに、部隊ごと日本連邦の義勇航空隊『魔弾隊』に衣替えし、欧州戦線に引き続き留まっていたことであったが、これは皇帝が直々に吉田茂と会談し、『カールスラント義勇兵には引き続き、カールスラント空軍の軍服の着用を義務付けること』で妥協された。有能な人材を部隊ごと傭兵化した事はガランドに批判があったが、カールスラントへのドイツの露骨な政治圧力に批判の矛先が向き、ウィッチ世界の批判に慌てたドイツが圧力を急いで緩めるが、二年後には『カールスラント本土の自力奪還は不可能である』と判定されるに至る。グンドュラ・ラルはそんな苦難の時代にカールスラント空軍の再建を託されるわけだ。まさに前途多難、ハルトマンと就任早々に揉める事態にもなるため、グンドュラは御坂美琴から得た一途さでそれらに向き合うことになる。――
――そんな状況の1945年。当時は未来世界の地球連邦内部でザンスカール帝国戦以降に立場が悪化したサナリィが自社製のガンダムタイプに正式に『ガンダム』のペットネームを授与することを企業として認めた。これはガンダムトリスタンの事が21世紀のルートで次期大統領たるユング・フロイトにバレてしまい、ガンダムタイプをブッホ・コンツェルンに極秘に譲渡していた事が彼女の手で白日の下に晒され、世間の批判にさらされたことで、ザンスカール戦争での失態と併せての懲罰を恐れたサナリィ上層部が政治的に妥協したわけだ。(これにより、サナリィ・ガンダムという分類が公式化された)当時、既にサナリィに技術的優位は無く、代わりにアナハイム・エレクトロニクスのMS開発部門が中興を迎えた。ちなみに、史実と違い、ビスト家の専横が23世紀の野比家当主(セワシの孫)の手によって、一定程度は抑え込まれている都合、マーサ・ビスト・カーバインもアナハイム・エレクトロニクスを好き勝手できるほどには影響力を発揮できず、彼女は『目の上の瘤』と言わんばかりに、ウィッチ世界のティターンズ残党の支援をいくつかのロンダリングを介する形で行い、野比家のアナハイム・エレクトロニクスへの影響力を減じようとしていた――
――アナハイム・エレクトロニクス内部のカーバイン家とマーサ・ビストの権力闘争は史実と異なり、日本の名家たる野比家のバックを持ったカーバイン家の巻き返しにより、一時ほどの専横はできなくなっていた。社長夫人にすぎない彼女には株主総会で決められた決定を覆す力はない。野比家、骨川家、剛田家の三家は日本の名家として名が知られ、ビスト家の専横に対抗できる政治力を有していた。また、ユング・フロイトの資金面のバックがその三家であるなど、23世紀の地球でビスト家への対抗勢力として名を馳せていた。また、当時のハーロック家とも交流があるため、21世紀末期頃からの成り上がりでしかないビスト家には手出しができない聖域であった。なお、野比家の先代当主が存命中に大学時代の友人であったジオン・ダイクンに『人の革新では無く可能性の開花で本質的には変わらない物だから、ニュータイプ論は大きく語らない方が良い』と忠告したが、ダイクンは無視した。あくまで自らの持論を押し通すためであったが、結果的に彼の死後に決起したジオン軍がジオン・ダイクンの理解者とされた野比家先代当主の次男一家(現当主の弟)をシドニーごと消し飛ばす事になった。その出来事以降、野比家はジオニズムへ不信を抱くようになったが、一族の者がコロニー落としに罹災した事が、戦前はジオン・ダイクンの理解者とさえ言われた彼らが反ジオニズムに転じた理由である。
――23世紀――
「ノビタダ、何をしている?」
「父上、軍隊に入隊してきました事をご報告いたします」
ノビ・ノビタダ。のび太の玄孫『セワシ』の曾孫であり、ダイ・アナザー・デイ当時に適齢期を迎え、士官学校へ入学したばかりの若者であった。彼には秘密がある。彼は野比家中興の祖『野比のび太』の転生した姿である。そのため、自我は成人したのび太そのものだが、言葉づかいなどを意図的に変えているため、父親にもバレていない。のび太から数えて九代近く離れた子孫であるが、生い立ちはのび太とかけ離れたエリートそのもので、高校まで優秀な成績を残す俊英であり、経済学者志望とされていた。
「お前が軍に?」
「はい。おじいさまの死後、父上は軍隊にお行きになられなかったことで、ひいじいさまのご叱責を受けられたでしょう?」
「御大は統合戦争当時の価値観を持つからな。御大にしてみれば、私は不肖の孫だそうだ」
セワシはこの時期には死期の迫る老体であり、孫からは『御大』と呼ばれて疎んじられていた。統合戦争当時の価値観をこの時代でも持つからだが、一方で亡き高祖父の面影がある、自身の曾孫を溺愛していた。セワシは統合戦争の緒戦当時の青年期に日本連邦空軍に属していた経験があり、軍隊から退役した後に『事業』を興し、大成功を修めた。だが、老年期以降は息子の一人が一家ごとコロニー落としに罹災してしまうなどの不幸が重なり、気落ちした晩年を迎えていた。唯一、溺愛する曾孫の成人を楽しみにしていたが、壮年期以前の無茶が祟り、宇宙がんである『宇宙放射線病』を患い、この頃には余命宣告を受けていた。
「ひいおじい様ですが、医者の見立てでは、持って、あと二年くらいと」
「そうか。御大のやり口に反対して、私は家を飛び出した時期もあるが…そうか」
「はい。私の任官まで持ってくれればよいのですが」
「御大は多大な苦労を強いられた。統合戦争での中国軍とロシア軍のせいでな。だが、統合戦争以前のことなど、地球連邦時代の今や、無意味だ。それに博愛を説かれた『のび太様』のご遺志にも反する」
当主の書斎には、家をもり立てた立役者である存命時ののび太の肖像画がデカデカと飾られている。40代後半の時代の容姿をモデルにしているようで、タキシードを着て邸宅の階段を降りてくるところが描かれていた。野比家中興の祖という事で、肖像画が描かれたここ最近の歴代当主の中で一番扱いが大きい。元々が狩人の家系であった野比家を『地球連邦随一の名家』とされるまでに大きくした英傑として。
「ひいおじいさまのご葬式は手配なされるので?」
「うむ。御大は国家へ多大な功績がある。おそらく、国葬になるだろう」
「このご時世にですか」
「仕方あるまい、政府の要請なのだ」
セワシはひみつ道具文明崩壊を目の当たりにし、それに至るまでの青年期にドラえもんズの最後の戦いを目撃したのも、退役後に事業家に転身した理由で、長命を保って、その帰還を待ち続けたが、もはや叶わぬ夢となった。90歳代まで生きてもだ。セワシが事業を興し、孫に反対されるほど強引なやり口で事業を拡大したのは、『生きている内にドラえもんズに会いたい』一心であり、本質は歴代の野比家男子と変わりない。それを理解する者は孫の代にも現れず、曾孫のノビタダ(野比のび忠)のみがそれを理解した。そして彼に自身が敬愛した高祖父の面影を見出した事から、溺愛していたわけだ。
(セワシのやつに最後に明かしてやるか。僕がのび太だって事)
ノビタダは独白する。のび太としての。黒江達にもまだ伝えていないが、彼は『生まれ変わったのび太自身』なのだ。肉体などの都合で『別個の存在』の扱いなので、過去ののび太と共存可能(会話も交わしている)である。表向きはノビタダとして生活しつつも、内面はのび太そのものである。軍隊に入った理由も黒江達に会うためで、デザリアム戦役までには会いたいと思っている。父親のノビカズがセワシの遺言に従い、次期当主に選ぶ(彼には、元から軍人志望の血気盛んなノビスケ似の性格の弟『ノビヒサ』がいるからだ)のは彼の任官時であり、セワシはそれを見届けると息を引き取ったという。
「やあ、兄さん」
「ノビヒサか」
「経済学を修めたいとか言ってた兄さんが軍隊に?どういう風の吹き回しだい」
「私が何を選ぼうと、私の勝手だろ?」
「たしかにね。だけど、兄さんをこれからライバルと見るよ。ノビスケ様に似ているとひいおばあさまが言っておられたからね、俺は」
ノビヒサ(野比のび久)はノビタダの弟であり、のび太の後を継いだ『ノビスケ』の面影を色濃く残す風来坊である。そのため、ノビスケの隔世遺伝かと、ノビタダは疑っている。
「セワシのひいじい様は剛田の気質だから、私とは違うよ、情熱の向かう所は一緒だろうけどね」
「大昔ののび太様みたいな事をいうね、兄さん。ノビマサ兄貴(ノビタダの従兄。ダイ・アナザー・デイにコスモタイガーのパイロットとして参戦中)なんて、戦線で手柄上げてるんだぜ」
「あいつはおじいさまのお気に入りだったからな。運動神経は先祖ののび助様寄りだよ」
ダイ・アナザー・デイにはのび太の血族が参戦していることが語られる。ダイ・アナザー・デイ当時に30代始めで、30代当時ののび助にとても良く似た容姿を持つとのこと。なお、彼は本来、『流しの画家』であったが、ガトランティス戦役時に徴兵で空軍に就職。コスモタイガーのパイロットとして本土決戦に参戦しているという。
「兄貴はダイ・アナザー・デイを最後に退役したいそうだ。その後を私が継ぐことになる。お前も適齢になれば、志願しろ」
「そのつもりさ。おっと、女の子待たしてるから、じゃあな、兄さん」
「お前、何人目だ」
「五人目」
(ノビスケ思い出すよ、お前を見ると。隔世遺伝だな)
のび太の継承者であった『ノビスケ』も学生時代にプレイボーイで鳴らしたため、その面影を見出すノビタダ。ノビヒサは23世紀におけるノビスケのポジションであろうと実感し、来るデザリアム戦役に備え、かつての友に会う準備を進め始める。任官はそのくらいになるだろうという予測があるからだ。自分の自我がのび太である事は黒江達に会うまで隠し通すつもりである。百年単位で待った『未来への約束を果たす』までは…。彼が自室に飾っている『かつての日々』の一枚である2019年の新野比家のメンバーの写真が暗に、その『未来への約束』の象徴であったが、その事は、この時代の野比家の誰も知らない…。