――西暦2020年。疫病が流行り、各種イベントも自粛され、暗い世相が世界を覆っていた。そんな暗い時代の新野比家にやってきたキュアアクア。彼女はデザリアム戦役の途中から戦列に加わったわけであるが、青のプリキュアの草分け的存在である彼女には明確な弱点があった。元祖生徒会長&お嬢様属性持ちなので、戦闘はともかく、家事一般はまるで駄目であるため、家事はその時々に野比家にいる後輩達に丸投げであるが、プリキュア達の知恵袋的役目を担い始めている。また、医師志望でもあったため、デザリアム戦役後は軍医となり、インターン中の身である――
「疫病が21世紀の世の中で流行るなんて、現実感ないな~」
「みらい、衛生環境や観念はその国によって違うものよ。日本は少なくとも近世…そうね、江戸の頃には下水道が完備されていて、当時の江戸は同じ頃のパリより清潔な都市だったわ。範囲が今の山○線の円の内側相当と狭かったけれど、そこに100万人が住んでいたのよ」
「ひ、百万人!?」
「人の往来が盛んなところに街ができると、必然的に大きくなるわ。イスラム帝国が華やかりき頃のバグダッドや、中国史で有数に華やかと言われる唐の長安、全盛期のローマの都が典型例に取り上げられるわね」
「百万人ってそんなにすごいんだ」
「今より人口が少ない頃、それほどの大都市は大帝国の皇帝のお膝元か、交易都市しかないわ。それを抱えてることが繁栄の証だったのよ」
アクアの言うことは本当だ。バグダッド、ローマ、長安など、歴史上で栄えた記録がある大都市は交易で栄えたか、大帝国の首都という特徴を持つ。
「でも、アクア。なんで軍医になるって決めたの?」
「大学の医局に入れば、金まみれの汚い裏のやりとりに関わるだろうし、いくら実家が資産家でも、日本だと、若くしての開業は無理だもの。分野にもよるけれどね。それが嫌だったから、軍医を志望したのよ」
アクアはぶっちゃける。日本で医者になれば、医局での派閥抗争と無縁ではいられないため、デザリアム戦役での経験もあり、軍医を志望したと。古典的医療ドラマ『白い巨塔』でも描かれているが、教授(有力な医師)の派閥抗争はとても醜悪なものであるため、自分はそれが嫌であったから軍医になったと。
「それで、元の世界はどうしたの?」
「フェリーチェが分身ハンマーで分身を作ったわ。元の世界ののぞみに泣かれたから。まぁ、元の世界ではまだ、エターナルと戦っていたから、気持ちは分かるのだけども」
「え、元の世界から離れたの?」
「平行世界の記憶が宿った時、自分の居場所はその世界じゃない気がしてならなくてね。元の世界ののぞみには悪いけど…」
「なんだか複雑…」
「分身を置いていったとは言え、騙しているようで気が咎めたものよ。あの子の事だから、何かかしらの事情は感づいてると思うわ」
「のぞみちゃん、そこまでカンいいかなぁ?」
「あの子、普段は天然だけど、自分の大切な誰かに何かあると、能力がブーストされるのよ。平行世界の事を知っている以上、別の自分に何かがあった事は気づいているはず」
朝日奈みらい/キュアミラクルはプリキュア5以前のプリキュアオールスターズと面識が現役時代にできた最後のピンクのプリキュアである。宇佐美いちか/キュアホイップ以後のピンク達と違い、従来のオールスターズ的な共通感覚を持っているため、それ以降の後輩達との仲介役を担っている。のぞみ以前の先輩を同年輩と認識している最後のプリキュアは伊達ではない。
「わたしが最後だから、なんか、すごくプレッシャーあるなぁ。だって、いちかちゃん、はなちゃん、ひかるちゃんとかはのぞみちゃんたちと現役時代に会ったか…」
「はなとは会ったけど、それ以外の子は知らないはずよ」
「あ、そっか、はなちゃんの時代、一回だけ共闘したっけ」
プリキュアオールスターズが最後に揃ったのは、みらいの記憶では『HUGっとプリキュア!』の現役時代の頃である。いちかの時代からは直近の三代でどうにかすることが常態化したため、オールスターズが揃う機会も減ってしまった。それがGウィッチ化した場合ののぞみの運命を狂わせたという皮肉がある。
「でも、それがのぞみちゃんの運命の一つを狂わせたってのは、なんでだろう」
「のび太さんの推測だけども、あの子は教師生活に疲れ、子育てにも行き詰まってからは、戦うことだけが自分の存在意義の証明のようなものだったって。2010年代にはモンペアが当たり前のように出しゃばってくるし、エセフェミニストがしゃしゃり出る。教師は割りに合わない仕事になったって言えるわ。あの子には悪いのだけど」
キュアアクアこと、水無月かれんは資産家の令嬢として、早い内から世の中の闇に触れる機会が多いため、現役時代は15歳であったわりに老成している。黒江からは完全にフェニックス一輝と同じ扱いである。そこは苦笑交じりになりつつも否定はしていないため、かれんは自分が歳相応の雰囲気を持っていない自覚はあるようだ。
「戦いだけが存在意義、か。重いなぁ」
「実の子供に母親としての自分を否定され、精神不安定に陥ったであろうあの子は、戦う事に拠り所を求めた。その世界の自分が恨めしく思えるくらいだわ」
のぞみのデザリアム戦役での暴走の一因はその世界での成人後に起こった不幸の連続のトラウマが蘇ったからであった。だが、それを逆手に取り、自分の闇を取り込み、更には平行世界の自分を倒したであろうマジンガーZEROと同化し、その身に取り込んだ事で神域たるナインセンシズへ至った。それ以後は総じて、黒江と同レベルの戦闘能力となり、光子力の制御を完全とした。マジンガーZEROそのものを取り込むことが彼女の真なる覚醒だったのだ。
「でも、光在って影を差す、陰陽交わりて世の理っていうけど、 あのバケモノを取り込んだって事は…?」
「フェリーチェが失った神性が代わりにドリームに宿ったというべきね、あれは。それも魔神の、ね」
「いや、あの子は新たに『魔神』の力を手に入れたって言えるよ」
「のび太さん、帰ってたんですか」
「今日はカミさんとの結婚記念日でね。帝国ホテルを予約してたのよね。去年に。カミさん、大学の山岳部時代の友達と『新高山』のある台湾にいくとか言ってたけど、残念だけど、飛行機がね…。ほら、このご時世でしょ?」
「あー…なるほど」
「それは…。残念ですね」
のび太の口から、この日はしずかとの結婚記念日であること、前々から帝国ホテルのディナーを大枚はたいて予約していた事、しずかが楽しみにしていた台湾への登山旅行がパーになった事が語られた。柄にもなく、めかしこんでいるので、これからディナーらしい。
「んじゃ、落ち込んでるカミさんを慰めてくるよ。倅は今日から林間学校だから、留守番頼むよ~」
のび太はそれだけいって、部屋を出ていく。この後、のび太夫妻はダイ・アナザー・デイ後の懲罰と再教育を兼ねてであるが、なのはが家に来る事をいいことにノビスケを押しつけ、扶桑の南洋島へ静養しに訪れる。まだ戦争前の平和な時期であったので、しずかは存分に楽しんでいったという。
「仲のいいご夫婦ね」
「うぅ。20年近くもはーちゃんの面倒を見ててくれたのはありがたいだけど、複雑だぁ~…」
みらいは自身の知らぬ間に、ことはを中・高・大に通わせていた野比家の人々にジェラシーがあるが、同時に嬉しいことなので、複雑な心境らしい。
「ところで…去年のことだけど、何の式典に呼ばれたの、リコは」
「ダイ・アナザー・デイで金鵄勲章が扶桑政府から授与されたのよ、あの子。その授与式ね。のぞみ、ラブ、マナ、響、ことはは特に働きが顕著だったっていうんで…」
「勲章ぉ!?」
金鵄勲章。旧大日本帝国が公式に制定していた武功勲章であり、扶桑でも同じようなものが存在している。一時は日本の一部勢力の反発と工作で廃止が検討されたが、結局、瑞光章にビクトリア十字勲章のような役目まで担わすのは無理があるため、存続した。扶桑の金鵄勲章の日本での取り扱いは『危険業務従事者叙勲の一環』扱いだが、瑞光章と違い、現役期間中に授与される事が特長である。日本は武功勲章を忌み嫌うものが多いが、功績や業績を国家が表彰するための制度という意味で考えれば、武功勲章こそが本道である。存続が正式に決まったのは、自衛隊から受賞資格を満たす者が続出したダイ・アナザー・デイの事後処理の際の事で、銀杯と感状の授与で済ませようとする者が多かったが、扶桑軍人との釣り合い取りということで容認された。授与されし感状は個人感状のため、扶桑海軍ウィッチ出身士官層から嫌味を言われたという。(最も、黒江のように、双方で授与資格を有している者もいたため、その場合は日本連邦軍名義で授与された)
「金鵄勲章。日本軍唯一の武功勲章よ。日本は一部が渋ったけれど、諦めたみたい。武功章もセットだけど、若年での授与に反対論が強くて、日本の国会が荒れたらしいわ」
「若年、ねぇ…」
「外見的には10代の小娘だもの、私達は。ご老人方の反感を買うのは当然よね」
――馬鹿なのか?階級毎に等級分けされていて若手にはそれなりの低位等級しか貰えんの解ってねーだろ?俺達が事変の時に高位の金鵄勲章をもらえたのは、お上ご自身の意向による特例だってのに――
黒江は国会中継へこの感想を残した。黒江達が事変直後に冷遇された理由の一つが金鵄勲章の等級を特別に上げられたからだが、国家元首自らの意向であったので、事変当時は許容されたのだ。ただし、21世紀には明らかに小学生風の風貌なのに、喫煙飲酒大好きな月詠小萌(上条当麻の高校の担任教諭)がいるため、黒江達や歴代プリキュア達はまだいいほうだ。
「のぞみが一番、不相応じゃないかって言われたもんよ。階級的に二番目に等級高かかったからってのもあるけど、あの子は大尉だったし、素体の子がベテランだったから、その立場を受け継いだ分、武功章も多いとかぼやいてたわ」
のぞみの扶桑国内での扱いは『中島錦が覚醒したという事になっている』ため、錦としての武功章もつける資格を持つ。ただし、覚醒後は夢原のぞみ名義で発行されているため、正式には別管理となるが、人事上は錦の授与歴を引き継いでいる。
「のぞみちゃん、こういっちゃあなんだけど……アホの子だからなー。みゆきちゃんよりマシだけど」
後輩の朝日奈みらいからも、普段ののぞみはこの扱いであるが、この事を知る後輩は彼女が最後である。その点でいちか以降の後輩とは一線を画し、扱いもいちかより上座になるのだ。
「でも、本当に良かったわ。ZEROを取り込んだ時はどうなるかと…」
「どうやって?」
「ZEROがSD体形のマジンガーZの姿になって、シャイニングドリームの翼に包み込まれていったのよ。幻聴のような『アリガトウ』って声がしたと思ったら…同化してたのよ」
そうとしか表現できない『同化』。ドリームはそれ以後はマジンガーの力を自家薬籠中の物とし、『カイザーノヴァ』や『サンダーボルトブレーカー』などの闘技を扱えるようにパワーアップし、性格も往年の兜甲児に近い熱血成分多めな塩梅に変化している。これはZEROがイメージしていた若き日の兜甲児のイメージが影響しており、大卒になり、落ち着いた甲児(ダイ・アナザー・デイ後は結婚済みで、子持ち)は苦笑まじりながらも、のぞみに謝意を伝えている。また、ダイ・アナザー・デイ後に生まれた甲児の愛娘『リサ』(兜剣造の孫娘、兜十蔵の曾孫)はどこかの世界で甲児と共に戦ったミケーネのアンドロイドに酷似した容姿である事から、甲児は『あの子へのZ神からの褒美』と解釈している。
「どうなったの?」
「綾香さんたちと同じ『神力』に目覚めたって本人は言ってるわ。聖闘士の技も撃てるし、マジンガーとゲッターの技も撃てるのがその証拠。魔神と勇者の特性を持ったプリキュアなんて、チートよね…」
「う、うん…」
マジンガーはZを『魔神』、あるいは鉄の城、グレートを勇者と評するのが一般的だが、甲児は相棒の『魔神』呼ばわりは嫌がっており、(ZEROが悪魔として幾多の世界を滅ぼしたためだろう)『鉄の城』で統一してくれと愚痴っている。もっとも、甲児の現在の愛機は『魔神の神』と『魔神皇帝』なのだが、それについては複雑な心境らしい。
「あ、アクア。お昼のパンだけど、クロワッサンでいい?」
「お願い。変身した姿で日常ってのも変な気分よね」
「わたしもできればいいんだけど、最近はリコがあっちこっちに行くから、変身する暇が……」
「それは構わないわ。メロディのように、転生した時点で生前よりパワーアップしてるのは稀だから」
リコはダイ・アナザー・デイ以降、セレナ・カデンツァヴナ・イヴの転生である出自が明らかになってからはS.O.N.Gと微妙な関係である調に代わる形でシンフォギア世界との折衝役を引き受けており、最近は多忙である。そのため、みらいはキュアミラクルに変身したくても、それができないのである。
「リコ、なんか、その気になれば、シンフォギア纏えるとか言ってたっけ」
「やったの?」
「色々な事情でやってないよ。反則だしね、シンフォギアも使えるプリキュア資格者って」
「どうしても戦闘に出る時は?」
「ああ、機動兵器に乗ってる。龍神器の焔龍號だっけ?フェイトさんとペア組んでるよ」
「黒江さん、狙ったわね…」
黒江はフェイトにヴィルキスを、リコに焔龍號を与え、機動兵器乗りとしても鍛えている。ちなみに、フェイトはヴィルキスに乗ると、何かのスイッチが入るのか、粗野な口調になるという。普段は言わない『地獄へ落ちろぉぉぉ!』や『塵に還れぇぇぇぇぇッ!!』などの過激な台詞をストレス解消のためか言いまくり、一部で大人気である。
「あれ、どうやって作ったの?」
「空中元素固定で作ったフレームと外装に色々な部品を入れて、らしいよ。機動兵器に詳しい人なら、フレームは組めるらしいから」
完全な機動兵器を一から造るのは流石に黒江も無理なので、フレームと外装を先に用意し、既成の部品を肉付けする方法で用意したということがみらいの口から語られる。シャーリーもこの手を使ったが、シャーリーは紅蓮聖天八極式の全てを把握していたため、用意が簡単だったのだ。ただし、動力だけは代用だったが。
「なんか、マニアがオートバイを部品から組むみたいな感覚ね」
「自動工場もあるから、プラモデル感覚なんだって、23世紀の兵器製作」
使う部品点数も大きく減り、宇宙戦艦も数ヶ月で竣工する事があるため、23世紀以降の兵器生産現場は21世紀までの玩具工場のような感覚だという。黒江は空中元素固定でフレームを造り、それを組んだ段階で内装を造り、外装を付ける。剣や銃などの単純な武器はその場で完全なものが造れるが、機動兵器は組み立てが必須工程であるので、機械好きでないとやらない。空中元素固定の恩恵がもっともあるのは食物や単純な武器や比較的単純な構造の乗り物。黒江やシャーリーのように機動兵器を造るのは物好きである。(もっとも、人が乗る機動兵器は大きく、構造が複雑怪奇であるため、実用に耐えるレベルを造るには機械工学などに精通する必要があるのも大きいが)
「でも、空中元素固定って、まどかさん……キューティーハニーの能力よね?それを能力として得たのが?」
「今のあたし達の持つ能力ってわけだよ。もっとも、向こうのほうが使い勝手いいかな?機械も念じれば造れるからね」
空中元素固定はキューティーハニーの装置が先にあり、Gウィッチはプリキュア出身者も含めて、『創造』を司る神性の具象化という形で能力を得ている。ただし、使いこなせるかは個人に依存し、黒江とシャーリーが一番の使い手(容姿だけでなく、機動兵器も造れる)となる。ただし、厳密に言うと、『現象は似ているが、空中から元素を本当に取り込んでいるわけではないらしい』とのデータも出たため、正確には不明な能力だ。ただし、高度な使い手であれば、機動兵器を組めるため、何かかしらの念による制御が行われているのは確かであるためと、その種の能力の先駆者がキューティーハニーなので、そう呼んでいるにすぎない便宜上のものだ。
「念じる、ねぇ……」
「ほら、アクアが最初に綾香さん達に会った時、武器を作ってたでしょ、あれもその応用とか」
「原理はわからないのね?」
「23世紀の技術じゃまだらしいよ」
Gウィッチが持つ能力はシンフォギアすらコピー可能なほどに高精度だが、神性の具象化という形で得たため、キューティーハニーの空中元素固定装置と原理が厳密に言うと異なる事がこの時に至って、判明したという。その原理の基本の解明は更に数百年の月日を必要とし、普遍的技術としての実用化は25世紀以降になる。23世紀は機動兵器や宇宙船技術は完成の域に達したが、別方面では未熟であり、ひみつ道具時代の遺失技術は28世紀以降に現れるべき技術もあったとされ、多くの謎を孕んでいる。
「ドラえもんさんのひみつ道具はいったいどんな技術を?」
「専門用語が造られたよ。RTD。ロストテクノロジードラえもんズって大仰な名前の造語が」
ドラえもんのひみつ道具はロストテクノロジー化したものが数多く存在する。タケコプターでさえもだ。反重力エンジンや光子エンジンなどの残ったものもあるが、どこでもドアはロストテクノロジーの最たるものである。お医者さんかばんやオールマイティーウルトラワクチンもそれである。医療系や時間操作系を中心にロストテクノロジー化しており、統合戦争でその技術が重点的に破壊されたのが分かる。
「なぜそんな事に?」
「統合戦争の起こった理由が忘れ去られたから、有耶無耶になったんだって。反統合同盟の戦争責任。ドラえもんくんが来て、地球連邦が公表したけど、反政府運動の大義名分に逆利用されてるって」
「いつの時代もテロリストは勝手な解釈で破壊活動起こすのね…」
呆れるアクア/かれん。地球連邦が生まれても、反政府運動はあるし、過激なテロリストは存在し続けている。世界政府こそが理想と信じられた時代の人間だからこそ、ジオン残党やティターンズ残党に容赦がないのであろう。
「ドラえもん君が友達と一緒に消えたのは、オーストラリアで眠ってる昭和ライダーを守るためだっていうけど、その場にあたし達がいれば…」
ドラえもんズはバダンから世界を守る希望である昭和ライダーのコールドスリープ施設を守るためにバダンに敢然と立ち向かい、たまたまメンテナンスのために起きていたライダーマン/結城丈二に後事を託した。なんとも泣ける話である。
「いや、消えたとは言っても次元の狭間に落ちていっただけだ、そのうちひょっこり戻って来るさ」
「ノビタダさん、来たんですか」
「ご先祖様に弟の結婚を伝えに来たんだけど、ご先祖様は?」
「今、奥さんがいる帝国ホテルに行きましたよ」
「入れ違いかー。待たせてもらうよ」
のび太の末裔で、23世紀の野比家継承者であるノビタダがやってきた。軍人なので、地球連邦軍の軍服姿である。デザリアム戦役の戦功で大尉へ特進しており、この頃にはロンド・ベルの一小隊長である。青年時ののび太との違いは裸眼と職業軍人としての鍛えられた体躯であり、そこが見分けのポイントだ。(野比家の子孫は眼鏡をかけていない)
「のび太さんとよく似てますね」
「転生した存在だしね、僕は。ただし、ご先祖様と違って、生まれながらのエリートだけど」
「お互いに別の存在として?」
「8代以上も離れていればね」
のび太の末裔であるノビタダはのび太の生き写しと年老いたセワシの寵愛を受けるほどに瓜二つの容貌だが、彼の素の運動神経はのび太の子であったノビスケからの遺伝である。のび太の生まれ変わりであっても、人生はノビスケ寄りであるのが不思議なところだが、のび太同様に一途であるのが共通点で、源家の遠縁に当たる『ミナモト・ヨシノ』(若き日のしずかに瓜二つ)が恋人だという。これものび太の生まれ変わりであるが故の因果であろう。(つまり、野比家はある時期から、定期的に源家と姻戚関係を結んでいる事になる)
「源家の遠縁の子が学生時代から好きでね。結婚したいんだけど、親父が反対してね。ご先祖様に親父を叱ってほしくてさ…」
「いつの時代もこれは変わんないなぁ」
これも考えによってはシュールだが、のび太の生まれ変わりが結婚を許してもらえないので、のび太に泣きついたわけだ。死後の野比家でののび太の権威は絶対的であるため、そこに期待したわけだ。23世紀の某日、のび太はノビタダの父親であるセワシの孫『ノビカズ』を黒幕的貫禄でネッチリ説教する羽目となる。タイムマシンの存在により、野比家ではごく当たり前である、なおかつ珍しくもない光景で、のび太後の野比家の歴代当主が通る登龍門である。以後、転生体+子孫であるノビタダのために、のび太は23世紀の子孫らを自らの手で統制する羽目になり、ますます多忙を極めたという。当人曰く、『何の因果で、孫の孫の孫を怒ってるんだろうか…ぼく』とのこと。