――黒江達は最高位に近い宝具を合法的に得ている。オリンポス十二神の一柱『アテナ』を守護する聖闘士だからだ。これに嫉妬したのが、シンフォギア装者たちである。仕方ないが、彼女たちの力の根源は『先史文明が遺した遺産』を再構築したもの。対して、黒江達の持つものは真に神授の力。そもそもの格が違ったのである――
――ダイ・アナザー・デイ中の事――
「ばーちゃん達は転生を繰り返して、オリンポス十二神に認められたわけだろ?あたしたちは先史文明の遺物を利用してただけかよ。そう考えると……」
「雪音、それは私も考えた。だが、お互いに住んでいる世界が根本的に異なる以上、深く考えても詮無きことだ」
「でもよ、あいつがおかしくなった原因の一つでもあるんだぜ?そう考えると…」
「立花はガングニールの絶対性を信じすぎたのだ。全く別の世界、私達と関連性がない世界では、ガングニールは神殺しの槍ではないのだからな」
「あいつ……調が出ていってからと言うものの、切歌の奴は精神不安定になるし、あのバカはおかしくなりやがった。どこでおかしくなったんだ?」
「綾香さんと感応したことで、精神構造が根本的に変わった月詠さんの心境を響さんが読みきれなかったからですよ、皆さん」
「前にもいっていたが、君はマリアの妹の転生であり、現在はプリキュアというが、なんと呼べばいい?」
「前にも言いましたが、十六夜リコと名乗っています。ですが、マリア姉さんは以前の名で呼んでいますので、呼びやすいほうで構いません」
「それがややこしいんだよ」
「そう愚痴るな、雪音。今の我々は立花と月読を欠いている以上、爆発力に欠けるのは否めん。平行世界に跨って存在する戦士たる君等に比べれば矮小な存在かもしれんが、我々とて誇りはある」
「ええ。それはわかっています」
リコは調の離脱以後、何かとギクシャク感が否めないシンフォギア装者らとの折衝役を引き受け、何かと多忙であった。その兼ね合いで、キュアマジカルにはここのところは変身していない。(と、いうよりはできないのだが)
「でもよ、シンフォギアをコピーして使うばーちゃん達も物好きだぜ?それ以上の代物があるんなら…」
「それもおいそれと使えないのですよ。色々な兼ね合いで。身体保護にシンフォギアは丁度いいのです」
「身体保護ぉ?いったいどーなってやがる!?」
愚痴るクリスだが、シンフォギアを単に身体保護目的で使うという贅沢な運用は普通は不可能だが、黒江と調は修行と身体保護目的で行っている。更に、縁も縁もないはずの篠ノ之箒までもが普通にアガートラームを纏えるため、装者達、特にLINKERを必要とするマリアと切歌は立つ瀬がなかった。更に素で自分達を上回る基礎ポテンシャルを持つ歴代プリキュア達の登場はシンフォギアの戦力価値が元の世界で危うくなるほどの衝撃であった。
「君たちは新参者というが、日本には何時頃から英雄がいるのだ」
「豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった時代に仮面の忍者赤影という英雄がいました。それが全ての始まりです。江戸期には変身忍者嵐、快傑ライオン丸、風雲ライオン丸がいました。第二次世界大戦後の時代には、最初の仮面ライダーが生まれています。平成年間に生まれた私達は新参者なのですよ」
「その論理でいきゃ、平成に生まれたあんたらは新参者だな…」
翼とクリスはここで遥かな昔の日本で勇名を馳せた四人のスーパーヒーローの存在を知らされた。自分たちの世界には存在していない存在であるが、日本にはスーパーヒーローがアメリカと同レベルで生まれやすい土壌がある事を実感した。
「あいつ…えーと、キュアドリームだっけ?気さくな感じだけど、本当は何歳なんだ?」
「そこですか?90年代前半生まれなので、少なくとも貴方方よりは年上です。私でおおよそ2000年生まれなので」
「……時間感覚狂いそうだ」
愚痴るクリス。眉間に皺を寄せているあたり、歴代プリキュアは生年月日が90年代から2000年代半ばに及ぶ広範囲の世代に分布しているという事実が悩ましいのが分かる。
「あの人は三代目のチームの中心格ですので、古参のプリキュア戦士です。歴代随一の総合的戦闘能力を持ち、カリスマ性を持っていて、若いプリキュア達の見本です」
基本的にプリキュア5以降のプリキュアはチームであるため、本人達の意思と関係なしにリーダー格というものが生まれる。プリキュア5は現役中の頃はのぞみの意思もあり、明確なリーダー格を定めなかったが、彼女らが現役を終えた後の時代の後輩たちからは『のぞみ/ドリームはプリキュア5のリーダー格である』とされている。いちいち訂正するのも悪いので、現在では当人も外聞的都合で、そういう風に振る舞っている。その事を現役中から『情報』として共有するのは、みらいたち『魔法つかいプリキュア』が最後の世代のプリキュアにあたる。更に『後輩のいちかやひかるは『プリキュアオールスターズが大勢いることを現役中には知らない』というジェネレーションギャップが有る。それがのぞみが出身世界で苦しんだ原因の一端であるのだが。
「あいつ、響と互角にやりあえてたけど、本当に普段はダメダメなのかよ」
「ええ。普段は一言で言えば、天真爛漫なのです。現役中はお世辞にも学業成績は優秀とは言えない方でしたから」
「それで、あの強さだと?」
「あの方は天性の戦闘センスを持っています。あの方は普段の生活でコンプレックスを持っている一方、戦闘センスは歴代随一の才覚を誇っています。夢と光を司るプリキュアであるのもありますが」
リコもそう肯定するほど、のぞみは歪と言える特徴を備えた初の『ピンクのプリキュア』である。先代であるなぎさと咲に特技があったのに対し、のぞみにはない(のぞみの後輩のラブには運動神経と音感という特技があるが)。それと引き換えなのか、戦闘面では歴代随一のリーダーポジションが目立っているのも事実だ。ラブ、つぼみ、北条響の三人が現役の時代には『プリキュアオールスターズの斬り込み役』を自負していたため、仮面ライダーで言えば、風見志郎/仮面ライダーV3に相当すると言える。
「馬鹿な、何の訓練もなしに、あそこまでの技術と判断力を経験則で身につけたと?」
「ええ。基本的に私達は経験則と新しいアイテムで強くなるのが普通ですので」
「単に実戦を繰り返すだけで、あれほどの戦士になれるものなのか…!?」
「一の実戦は十の訓練に勝りますよ、翼さん」
実際、立花響もそのクチであり、いくら風鳴弦十郎による訓練があったとは言え、短期間で一端の戦士になったのは、秘められた素養の強力さにあった。だが、『洗練された強さ』でないため、訓練で洗練されたと自負する自分の力に自信があった翼は、自分達以上に強いキュアドリームが『経験を積むだけで強くなっていった』事に驚きを隠せない。
「私達の存在がその証明ですよ」
「あんたらの中で一番の古株があいつなら、今の所でいいけど、一番の後輩は誰だ?」
「キュアコスモですね。あの子が今のところの一番の後発になります」
「調べさせてもらったが、初代で1990年の生まれか。平成年間に生まれたというのも嘘ではないな。基本世界では、我々は2020年代後半から30年代の生まれとされているから、それより随分と前倒しされているとは言え、君達は年上である事には代わりはない」
この場にいるシンフォギア装者らはアニメより数十年ほど生年月日が前倒しされている。それでも、歴代プリキュアより年下である事には変わりはない。
「私と雪音、立花はその気になれば、シンフォギアを恒常的に纏えるが、メンテナンスや負担を考えるとな。黒江女史や月詠、篠ノ之女史は羨ましい限りだ。ほぼメンテフリーなのだから」
「聖闘士というのは、そういう存在です。常に完全聖遺物を使っていますので、シンフォギアは普段着と変わりありません。綾香さんがあなた方の探知に引っかかる事が無かったのは、自分でエネルギーの放出を抑えられるからです」
「……こっちの常識を壊しに来てるな、あんたら……」
「むしろ、聖遺物が一回のぶつかりあいで対消滅するというのが信じられませんが。むしろ、悪用を防ぐためのセーフティ機能と考えるべきですね。コピー品の」
「……コピーか。先史文明が完全聖遺物のコピーを試みたという、そちらの見解は納得いかないが、そうなのだろう」
「完全聖遺物。それを宿してるばーちゃんといい、それと違うにしろ、強力な力を持つあんたら。どうなってんだ?」
「鍛え方?かなぁ……。次元世界とは、そういうものです。常識という眼鏡では測れないものがあるのをご理解くださるよう」
リコはセレナ・カデンツァヴナ・イヴとして、翼とクリスに接した。元・シンフォギア装者であり、転生した現在はプリキュア戦士である身としては色々とややこしい存在になっているからだ。
「マリアはかつての姉として、君に接しているようだが、いいのか?君には今の生活が…」
「……構いません。記憶はありますし、魂は同一ですので、姉がそれを望むのなら、そうしますよ」
ややこしいことだが、十六夜リコはセレナ・カデンツァヴナ・イヴの転生にあたる。セレナとしての死因が自己犠牲に等しいものだったため、マリアはそれを引きずっている。セレナの転生であるリコはマリアの願いを汲む形で、マリアを『姉』として立てている。前世は13年しか生きれなかったため、マリアはその事を引きずり、その転生であるリコに愛情を注いでいる。リコもマリアを気遣い、マリアを立てている。自分の死が姉に一種の呪縛をかけた事は不本意なことである。マリアは守ろうとしているが、リコはキュアマジカルであるため、実質はその必要はないのだが。
「聖闘士だったら、一般人でも10人に1人くらいは修行でなれるって聞いたけど……」
「成れなかったら?」
「半分以上帰って来ないとか」
「なんだよ、それ!?」
「私にはなんとも…」
「それはそれとして、今戦ってるあの連中は何者なんだ?」
「ティターンズ。元はのび太さんの世界の地球連邦軍から生まれた特殊部隊で、表向きはジオン残党の掃討を目的にしていました。ですが、次第に暴走し、一般国民をも弾圧するならず者に成り下がり、遂には別の軍閥であるエゥーゴとの抗争に敗れた」
「地球連邦の軍閥……いつの時代も派閥抗争はあるってのかよ」
「彼らは所詮はその残党に過ぎません。賊軍のね。その背後に控えるのがネオ・ジオン。これもジオン公国という国家の残党の最大派閥に過ぎませんが、彼らは最後の戦争を目論んでいます」
「戦争だとッ!?ジオンって連中の事は調べたけど、オーストラリアを、チベットを、イギリスのダブリンを壊滅させておいて、まだ犠牲がほしいのかよ!?」
「アースノイドとスペースノイドの古い時代の対立がそうさせたのですよ、クリスさん。デラーズ・フリート、アクシズ、新生ネオ・ジオン。それらジオン残党が戦乱という災いを撒き散らし、消えようとしている。それを認めない男達は一人の破滅主義者に利用されようとしている」
「その男の名は?」
「タウ・リン。連邦もジオンも関係なしに世界を破滅させようとする輩です」
「そいつは何者なんだよ!?」
「一年戦争で最初期に強化処理を受けた強化人間です。元ジオン兵士ですが、アナーキズムに傾倒し、遂には破滅主義に行き着いた男。今の時点で私達が倒すべき敵です」
リコは23世紀の世界で、破滅主義のもとに月を爆破しようと目論む一人のテロリストの存在を装者たちに教える。その男はのぞみの親友である夏木りんから記憶を奪い、のぞみを修羅道に落としかけたほどの所業をこれから行う。温厚なのぞみすらも『ただじゃ殺さんぞ!』とあからさまに殺意を顕にするほどの外道であり、人質を『見せしめ』として無慈悲に撃ち殺す、子供相手でも情け容赦なく残忍に殺す。その行為でタウ・リンはのぞみから、絶対的な敵意を持たれる事となり、のぞみは彼を討つ事に執念を燃やす事となる。
「彼は……一言で言えば、形容しようがない絶対悪です。その男の行いは止めなくてはならないのです。貴方方が想像もしないような下衆な男ですので、タウ・リンは」
「君がそこまでいうほどのテロリストなのか?」
「旧ジオンのザビ家が目論んだ『月爆破作戦』を実行しようとしていると言えば、おわかりですか?」
「馬鹿な、月を砕けば、ラグランジュポイントも全てが狂い、宇宙のコロニーも壊滅は必至のはずだ!?」
「世界の破滅を目論むといったでしょう?彼にとって、事を成した後の世界などはどうでも良いのです。世界が滅べはいい。そういう男です」
「だから、あんたらが動くと?」
「地球連邦軍は異星人と戦争が近づいているので。私達が動く必要があるのですよ」
ネオ・ジオン強硬派はデザリアムとの戦争中に事を起こし、機能不全に陥る地球連邦軍を尻目に、一時はアフリカ大陸と欧州の一部を手中に収める。だが、パルチザンの態勢が整い出すと、元から寡兵である上、度重なる蜂起で支持基盤が崩壊しつつあるジオン残党は一転して敗北の連続であったという。その『一時の栄光』がネオ・ジオン、ひいてはジオン残党最後の輝きと言え、その最後の僅かな光芒がデザリアム戦役であったと言える。
――23世紀。サナリィはブッホ・コンツェルンと過去に極秘に協力関係にあった事をプリベンターにすっぱ抜かれ、彼らから懲罰を被る羽目となった。罪状は『RX-78NT1の譲渡』。プリベンターが組織解体を提言するのを恐れたサナリィは政府に司法取引を持ち出した。それには自身が生み出したFシリーズのガンダムタイプに『ガンダム』のペットネームを正式に授与する事などが含まれる。それに伴い、サナリィはしばらく、プリベンターの監視下に置かれる。それが結果的にアナハイム・エレクトロニクスの軍需産業分野の中興に繋がっていくのである。保有技術データがアナハイム・エレクトロニクスに渡ったからで、サナリィはこれでせっかく築いたMS先進技術の持ち主の地位を半ば失う事になるが、ガンダムタイプの開発元の一つというブランドは保たれ、それが結果的にはMSをマンマシーンへ進化させる一因となる。マンマシーンは大型MSの進化系である。これは一定は大型の兵器のほうが外宇宙では何かと便利だからで、外宇宙に進出した故の理由がそこにはあった。サナリィがアナハイム・エレクトロニクスと協調路線に走ったのもそれが理由で、小型MSのメリットが外宇宙との戦争で失われたからである。ただし、戦術的に優位が失われたわけではないため、一定の需要もある――
―ギアナ高地――
「将軍、デザリアムは既にこちらへ遠征軍を送ったと考えるべきでしょう」
「うむ。無人艦隊案は認めざるを得んだろう。無人戦闘機などを規制したのはいいが、人的資源の枯渇だけはどうにもならんからな」
当時、無人兵器規制派は度重なる戦乱での人的資源の枯渇で一時ほどの勢いを失い、無人戦闘機や無人艦隊の運用の拡大を妥協せざるを得なかった。シャア・アズナブルやゼクス・マーキスなどの一騎当千の強者はそう簡単には生まれないため、そこも民間軍事会社の規制論が生まれ、一定の説得力を持つ理由であった。結局、この論調は民間軍事会社が政府の意向を汲み、『エース部隊を軍に供出する』ことで軍部を宥めたために決着する。ケイオスもS.M.Sも民間軍事会社を快く思わない風潮がある事は知っており、政府に会社を取り潰される事は望んでいないため、エース部隊を軍の管理下に置く事はお互いのためにもいい契約であった。
「S.M.Sとケイオスだが、政府のハト派に取り潰されるのは彼らも望んではいない。ロンド・ベルに編入でいいな?」
「ええ。ロンド・ベルなら、彼らも納得するでしょう」
地球連邦政府のハト派は当時、民間軍事会社の規制論をぶち上げ、一定の支持を得ていた。軍部は軍と民間軍事会社の有機的連携関係を壊させないため、民間軍事会社のエース部隊を軍部に供出させる事で法的規制論を抑え込んだ。民間軍事会社も軍事事業に悪評が付き、それが他事業に悪影響を及ぼす事を恐れたからだ。ロンド・ベルは実質、『民間軍事会社からの出戻り』や『民間軍事会社出身者』の受け皿としても機能することになり、64Fと同じように『独立権』が強固になってゆくのである。また、一つの懸案もある。ウィンダミア王国が蜂起すれば、遠未来から『ゲッターエンペラー』が介入し、ウィンダミア王国をブリージンガル球状星団ごと滅ぼす事が容易に想像される。
「遠未来から『皇帝』が介入すれば、ブリージンガル球状星団はこの宇宙から消え失せる。それだけは避けなくてはならん。地球人類でない彼らが『地球殲滅』を一言でも言ってみろ。皇帝がゲッタービームで球状星団ごと消し飛ばすぞ」
「ええ。彼らには自制を促しています。プロトカルチャーの遺跡や遺物など、皇帝の前には玩具以下の代物でしかありませんからな。皇帝の存在を知っている事を祈りましょう」
「うむ……」
ウィンダミア王国でも、ゲッターエンペラーの存在は『宇宙に災いをもたらす悪魔』として伝わっており、宰相のロイド・ブレームの蜂起を却って促す事になる。だが、ゲッターエンペラーの力はプロトカルチャーの遺跡を児戯とする領域のものであり、彼をして『物の怪』と罵倒するレベルの『神』であった。地球連邦軍がその介入を恐れるものであるように、ゲッターエンペラーは因果律すらも捻じ曲げられる。究極のゲッターはウィンダミアがたとえそのすべてを費やしても、傷一つ負わせられない存在である。30世紀に存在する、白色彗星帝国より強大な国家である『イルミダス』を赤子の手を捻るように倒せる存在であるからだ。ゲットマシンの段階で地球より大きく、合体すれば、太陽系より大きい。味方であるはずの地球連邦軍が怯えるため、敵にとっては悪魔以外の何者でもないだろう。レビル将軍が懸念するのは、ウィンダミアが血気に逸る事だった。ゲッターが一応の警告は発しているだろうが、23世紀現在のゲッターを滅ぼそうとすればどうなるか。それが懸念事項であり、ドラゴンの進化の究極がエンペラーであるため、災いと取るのか、大いなる守護の誕生と取るのか。それは地球に仇なすかで決まると言えた。
「エンペラーは我が地球人類にとっては、大いなる守護者だ。だが、彼らからすれば悪魔だろう。エンペラーに時間の違いなどは意味がないことだ。我々の想像を超える意思のもとに動いているのは間違いないだろう」
レビル将軍はそう結論する。ゲッターGが究極の進化を遂げた機械仕掛けの神が何のために動くのか。それは23世紀の人間の理解を超えるものだ。レビル将軍はオフィスに資料として置かれているゲッタードラゴンの模型に視線を移し、こう呟いた。
「巴武蔵の偉大な遺産か…」
と。ゲッタードラゴンは巴武蔵の遺した遺産である。それが究極の皇帝にどうやってなったのか。エンペラーの統括意思は流竜馬のものなのだろうか。そんな謎を秘めるのがエンペラーであった。
――地球連邦はタキオン粒子の利用が進むことで、その影響力を急速に回復しつつあった。それを危惧するジオン残党の強硬派はジオンを存続させたいという善意で蜂起を選択する。ジオン残党も穏健派は理解している。『自分達の歴史的意義は既に果たした。後はゆっくりと消えゆくのみ』と。穏健派は連邦の改革派の善意にサイド3の運命を委ねるつもりであった。ジオンの歴史的意義は既に果たされた。第一次ネオ・ジオン戦争の際にアクシズ軍が内紛になった際、かのハマーン・カーンは残された唯一の肉親『セレーネ・カーン』(実妹)にそう説かれたという。ハマーン・カーンもそれはわかっていたが、自身はジュドー・アーシタに討たれる事を望んだ。それは病死した長姉の『マレーネ・カーン』が存命中にドズルの死を知らされた際に自殺を図ったのと同じ思考であり、ジオンは日本的な『滅びの美学』を信仰していた節がある。ハマーンは自身の死を予期していたか、ジュドーがプルを誘拐しても好きにさせ、プルが連邦に亡命する事を見逃した。ハマーンは本質的にはシスコンとブラコンをこじらせた気質であったのだろう――
――23世紀 野比家――
「何事も善意から始まる。それは理解しているね、ノビタダ?」
「ええ、おじいさま」
のび太は自身の転生体『ノビタダ』の要請で、23世紀の時点の自宅に来ていた。ノビタダの結婚をその父親に認めさせるためで、奇妙な光景だが、青年のび太は40代後半を迎えたセワシの孫を叱る羽目になり、ノビタダにも心構えを説いている。
「過ぎた善意は毒にもなる。それをわかっているのか、ノビカズ?」
「は、ハハ――ッ…」
のび太は23世紀の頃には一族の絶対的権威であるため、普段は息子に強権を振るうノビカズも肩なしであった。
「私がわざわざ過去から出向く事になったのは、お前が倅の結婚を反対していると聞いたからだ。結婚相手くらい好きにさせたらどうなんだい?」
「しかし、のび太おじいさま。相手は源家の人間。血が近くありませんか?」
「構わんだろ。カミさんは源家の嫡流だったが、ノビタダが惚れた人は従兄弟筋の息女。私から8代以上も離れている以上、その心配はあるまいよ」
のび太は自分の子孫たちから崇められている事には苦笑いだが、言葉遣いはそれらしくしており、野比家中興の祖としての威厳を出している。
「私が許しているのだ。これ以上のお墨付きがこの家で必要か?」
「い、いえ。とんでもございません。おじいさまのご裁可であれば……」
ノビカズはタジタジである。のび太は自分の死後の野比家で絶対的権威である。セワシが『御大』と毛嫌いされていたのに対し、のび太は『のび太様』と崇められている。
「のび太、そろそろアナハイム・エレクトロニクスの視察の時間ですよ」
「おっと。もうそんな時間か。ノビヒサには祝電を打っておくように。私はノビタダの通したプランの視察にいくのでね」
「お見送りを…」
「私は公には死んでる人間だよ、ノビカズ」
釘を刺し、キュアフェリーチェと共に月のフォン・ブラウンへ向かう青年のび太。セワシの孫や曾孫の時代に自分が影響力を振るうのも変な話である。のび太は子孫たちを叱った後、月はフォン・ブラウンへ向かう。義妹であるキュアフェリーチェを秘書代わりに引き連れて。黒江から頼まれた『テスト機の次期プランの進捗状況』の確認である。無人攻撃機として『ガンダムスローネ』の残りの機体が、テスト機の第二弾として『アルケーガンダム』が建造中であると、ノビタダから報告されたからだ。なんとも贅沢だが、兵器局勤務のスネ夫の末裔『骨川スネ郎』曰く『予算が余ってた』から通ったらしい。
――月行きのチャーター便――
「貸し切りのチャーター便か。ノビタダも気を使う」
「民間のチャーター便でいくのは偽装ですか?」
「ウチはビスト家に目の敵にされてるからね。いや、あのマーサ・ビスト・カーバインとかいう女にだね」
のび太とフェリーチェはその存在そのものが目立つ上、野比家の重要人物であるため、23世紀ではマーサ・ビスト・カーバインが野比家を目の敵にしているため、非合法的手段に訴える。民間の定期便に乗れば、他の乗客を巻き込むので、野比家はこの時代、チャーター便を使うのが主である。
「航空会社だと、アナハイムのクレジット会社にデータが流れるから避けたいしね。チャーター便なら、ウチの息がかかった要員だけで動かせるしね」
「そういえば…」
「だから月や一部のコロニーでは、クレジットカードが危なくて使えないから、仕事用のカバーのとか、仕事先名義の法人カード使うしかないんだ」
マスドライバーを使い、二人を乗せたチャーター便は離陸していく。ダイ・アナザー・デイの途中だが、23世紀世界は『平時』であるからで、有事では軍艦を使うという。月までは民間の往還機では二日ほど。一年戦争以前と比べれば迅速になった。フォン・ブラウンは基本的にロンド・ベルの息がかかっているが、ネルガル重工との業務提携の都合でプランを承認したとするマーサ・ビスト・カーバインはノビタダを暗殺しようと目論んでいた。だが、のび太が訪れた事は予定外であり、それが彼女の計画の狂いの序章となる。のび太とフェリーチェはビスト家にとっての栄華を終わらせる使者となる。また、ネルガル重工もこの時には野比、骨川、剛田の共同出資ファンドが既に議決権の四割ほどを押さえており、のび太の一声があれば、アカツキ・ナガレも否応なしにプランを通す。アナハイム・エレクトロニクスも三者のファンドが議決権を抑えつつあり、月の女帝とまで謳われしマーサ・ビスト・カーバインの栄華に陰りが見え始めていた。のび太はこの時は偽装のために武器は持っていないため、戦闘はキュアフェリーチェが担当する。暗殺が失敗するのは、のび太の個人的資質『異能生存体』、護衛のキュアフェリーチェの奮闘によるものだ。この時にフェリーチェが用いたのは『ビームシザース』であり、行く直前にガンダムデスサイズヘルの戦闘記録を見ていたと告白している。未来世界で代表的な鎌を使う機体なのと、造形的にカッコいいのか、フェリーチェは行く直前に戦闘記録を見ていたのである。
「フェリーチェ、ガンダムデスサイズヘルの映像見たでしょ?」
「い、いやぁ、その…カッコいいし、なんかピキーンと来たっていうか…」
「素が出てるよ」
フェリーチェは修行を経た後では、変身していても素が出る事がある。そこはみらいとリコも驚きの変わったポイントである。神の後継者から、一人のプリキュアへ変質した故の姿である。
「いーじゃない。この間、メロディなんて、前世の自分の戦闘をアニメで見てたんだよ?」
「あの子もノリいいからなー。ドリームはコージとのキスのシーンをハッピーに見させられて、悶えてたよ」
のび太はシャーリーが自室でこっそり『コードギアス』を見ていたこと、のぞみは芳佳に自分のシーンを他人目線で見させられる羞恥プレイをさせられたと教える。
「あ、キュアエースだけど、同位体の一つに某メロンパン好きの炎髪灼眼の討ち手がいたみたいだよ」
「ああ。それは聞いた。今度、物干し竿持たせよう」
キュアエースはその記憶はぼんやりとしか有していないが、日本刀を難なく扱い、炎を起こせるという特徴が現れていた。また、テンパると名セリフの『うるさいうるさいうるさーい!』が飛び出るなど、特徴は意外に出ている。メロンパン好きなのは、その同位体の名残りだろう。
「メロンパン好きなのは、そのせいかなぁ」
「かもね」
そんな事を二人が話しつつも、船は衛星軌道に高度を上げる。今頃、風の能力が使える事をキュアダイヤモンドが自慢していたり、黒江が出撃準備をしていることだろう。のび太は海戦が始まる直前には月に行っていたのだ…。