第七十二話「次元震パニックその十四~別世界の坂本美緒の奮闘~」
――64Fはダイ・アナザー・デイの戦功もあり、1940年代後半以降は司令部直属部隊という特権を得た。そして、その使用機種も他と隔絶したものになっていた。ダイ・アナザー・デイはウィッチに無条件で与えられていた『特権』を奪っていったが、同時に編成の大半が凍結された統合戦闘航空団に代わる外国義勇兵の引受所としても機能していた64Fが身元を引き受けることで、カールスラントから脱出した44JVの構成メンバーはカールスラント軍からの厄介払いを免れたわけである。その関係もあり、64Fでは愛称呼びが多く生まれ、普及した。64は実質、1946年以降には部内で統合戦闘航空団の代替と見なされていた証であった。つまりは軍ウィッチの中で配属がステイタスとなったのである。――
――1948年――
「これはすごいな……。これで型落ちしかけだと?」
「お前らの世界だと、たぶん……試作があるかどうかだろうな。ノースリベリオン社がP-51の後継機として開発したF-86。実機に続いて、ストライカーも量産体制が完成しつつある」
「加東。そっちだとアフリカ戦線なのか?」
「ああ。そっちだと、あたしは北方に行ったらしいな?立ち位置が違うってのは面倒だぜ」
「この機体はどうして現れた?」
「三年前の作戦で世界情勢が急変した時、ノースリベリオン社が持ち出した試作機を手直しして量産させたものだ。当時の時点で一番に総合的に優秀だったから、扶桑も国産機の計画を放棄して、ライセンス生産をした」
「信じられんな、よく軍需産業が…」
「シュワルベの劣化コピーを作るより、コイツをライセンス生産したほうが割がいいからさ」
坂本Bは広瀬大佐と面会し、圭子の案内で64Fの基地を見学していた。揉め事の収集をつけるためにF-86(ダイ・アナザー・デイで大量に使われたため、この時期には型落ちし始めているが)の見学を望み、許可されたため、間近で見ていた。
「この機体の速度は?」
「コイツは最終型だから、1100キロは出る。三年前に活躍したが、その後継機が出始めて、そろそろ型落ちし始めた」
「後継機か…。つくづく、信じられんよ」
「隣にあるだろ?あれがシャーリーが取り寄せてたF-100。自由リベリオンに頼まれて、テスト中なんだよ」
「これが……」
B世界では、登場するのに10年近くはかかるだろう機体。第二世代ジェット戦闘機の先駆者『F-100 スーパーセイバー』。シャーリーが上層部の依頼でテストを行っている次期主力戦闘機。史実での改良型に更に改良を加えたリベリオン独自のモデルであった。第二世代理論型ストライカーの先駆者でもあり、自由リベリオン最初期の主力超音速ジェット機/ストライカーとなったと記録される。
「F-100 スーパーセイバー。ノースリベリオン第三世代の戦闘機だよ」
スーパーセイバー。愛称はその型式番号由来の『ハン』。当時は実機のほうが先に史実の『F-100E+α』の状態で完成し、その機体がシャーリーに回されたのである。装備も当時としては最新鋭の誘導弾装備となっていた。扶桑のドラケンやF-104、F-8と並び、1948年までに生産開始済みの機体としては最高性能を誇る機体となった。だが、あくまで『F-4』以降の世代の新鋭機が完成するまでの『繋ぎ』の位置づけであるため、生産数はそれほど多くない予定である。だが、自由リベリオンは超音速機に慣熟するため、F-100を意外に多く使用する事になる。これは早期に爆撃能力が高いF-105を爆撃機の代替として使用した事、第二次大戦中の高官達がまだ現役の時代に登場したためと、史実の運用の失敗のメタ情報があるおかげで、『ミサイル万能論』が史実ほど流行らなかったからである。
「昨日、港を見てきたが、艦上機をあんなに多く空母に積んでいるのは何故だ?」
「ウィッチの空母運用が縮小されたからだ。運用の軍事的意義も下がったし、艦上機のジェット戦闘機への世代交代でスペースも確保できなくなったしな、在来艦だと」
「艦上ウィッチ達が納得せんだろ」
「三年前の戦いで大した戦績が残せなかったからな。一航戦の連中は頑張ったが、それ以外がパッとせんかったんだよ」
一航戦はダイ・アナザー・デイでも高い戦績を残したが、それ以外の部隊は様々な問題が重なったためにひたすら押されっぱなしであったため、空母ウィッチの配置転換がクーデター後は一気に進み、この1948年の時点では一航戦以外に空母ウィッチがその編成に組み込まれている部隊はほとんど残っていない。(第一航空艦隊以外の航空艦隊が解散扱いなためだが)
46年度のウィッチ・クーデターの温床と見なされたからだが、実際は海軍基地航空がクーデター軍の主力であったので、そこは日本の官僚たちの無知によるとばっちりであった。ダイ・アナザー・デイで戦功がある一航戦は『温情』で残されたが、二航戦などはとんど解体処理がなされ、一航戦に組み込まれたが、流石に無理があるため、二航戦と五航戦は編成が復活の見込みだ。
「その三年前の戦いはロマーニャの?」
「こっちじゃ欧州全体での戦だった。お前ら以外の統合戦闘航空団はほとんど501に組み込まれた。あたしのいたアフリカもな」
「そうか、管野や下原が宮藤と同じところにいるのはそういうわけか」
「お前は喜んでたぞ。欧州全体で戦えなんてのは、あのままの規模じゃ無理だしな」
実は統合戦闘航空団は501でさえ書類上の定数を満たしていなかった。どの国も出し渋った上、40年代半ばには扶桑は世代交代期に突入し、撃墜王が事変後の世代にいる割合も低い。また、ブリタニアはマロリー大将がグローリアスに人材を集中させた弊害で501への第二次人員派遣(設立時にいた撃墜王はグローリアスへ転属したらしい)が新人であったリーネなど、政治的利用までされる場であった。だが、A世界では黒江達の現役復帰でテコ入れをしようと、黒江たちの陸軍所属時の上官にあたる山下奉文大将から提案があり、ガランドが承認したのが統合の始まりである。黒江たちの未来での戦果はかつての神通力の復活の証明となり、トントン拍子に話は進んだ。だが、テコ入れ後にミーナが勘違いから冷遇する事案が発生した。これに激怒した山下奉文はカールスラント空軍高官であるケッセルリンクに猛抗議を加えた。やがて、ケッセルリンクから話がロンメルに連絡が行き、圭子の連絡が入ったため、ロンメルは山下奉文の怒りを鎮めるため、国際問題になりかけている事を伝えるついでの査問をアフリカ三羽烏で行ったわけだ。
「揉めたんだぞ、三年前。ミーナが勘違いであたし達を敵視してな。ケッセルリンク、ロンメル、アイゼンハワーと言ったお偉方があいつを責めたてたんだ。お前もその一翼を担ってた。流石に露骨だったってんで」
アフリカ三羽烏のみならず、最終的にケッセルリンクやアイゼンハワーも関わる大事になったため、ミーナはショックで錯乱状態に陥り、坂本に衝動的にワルサーの銃口を向けた。それがもとでロンメルから『錯乱している』と見なされ、隔離指令が下された。それが覚醒のきっかけとなり、同時にミーナ・ディートリンデ・ヴィルケとしての自我が西住まほに飲み込まれた理由である。
「しかし、普通は考えられんぞ。お前らがあの時の神通力を維持したままなんて」
「普通はな。だが、42年の時点であたしが大暴れしたから、知っていて当然のはずだったんだぞ?モンティは智子の一件で気まずい思いがあったからな」
モントゴメリーは智子のいらん子中隊での功績を機密扱いにした張本人であったが、その相棒であった圭子に神通力が戻ったのを目の当たりにし、圭子にしばかれる恐怖を抱いたため、圭子の戦果に関しては秘匿しなかった。圭子が未来行きになったことに抗議したのも、実は彼である。黒江たちの復活が本国に把握されたのは45年以降の話である上、ミーナが錯乱状態になる直接の理由が圭子のストナーサンシャインのフィルムであるので、ある意味、真ゲッターロボを目撃していたことがミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの人格に引導を渡したと言える。
「ミーナは自分の理解を超えたり、自分の大切な何かが侵される恐怖を抱くと、途端に錯乱しだすからな。クルトの死を引きずっているんだろうが、そちらでは人格の変容まで…」
「精神的には別人になってると思え。それでお偉方も厳罰を見送ったんだ」
圭子の言う通り、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケはA世界では実質的に死んでいる。西住まほの精神が肉体と記憶を引き継いで過ごしているからだ。その関係で予定されていた厳罰の一部は見送られ、二階級降格(この頃には一階級戻っているが)だけで済んでいる。世間的には『降格のショックで寝込んだ後に悟りを開いた』ということにしているが、実質は人格の変容が起こったのである。部内では、ダイ・アナザー・デイの二大変身に数えられている。もう片方が錦がのぞみへ変わった事なので、そう例えられるほどの変化であったと言えよう。
「中島中尉もか?」
「あいつは名前も姿も変えたようなもんだし、こっちだと少佐だぞ」
「それだが、愚痴ってたぞ?こちらでの彼女」
「別人級に変化したんだから、文句どころじゃねぇよ。むしろ、家族への説明に四苦八苦したそうだ」
のぞみの精神が立ち直った理由は中島錦としての実姉『中島小鷹』元・陸軍大尉の激例文も含まれる。また、天姫も『分かっていて、その上で身を引いた』ことを小鷹が手紙で伝え、『たとえ、その心が別人になろうと、お前は私の妹だ』と記されていたのが大きな要因で、小鷹は妹の変貌を受け入れた上で後輩(小鷹は江藤の同期である)の黒江に面倒を託したのである。(ちなみに、錦の更に妹である疾風は次姉のプリキュア化を羨ましく思っているとの事)
「中島中尉のとこは下の子もウィッチだぞ。そちらだと、もう大尉になった頃か?」
「いや、その妹はまだ少尉だよ。三年前の時点で15歳だった上、カリキュラムが大幅に変更されるまでに任官が間に合わなくてな」
のぞみもそこはデザリアム戦役で気にしている事を口にしているが、中島錦の妹の中島疾風はダイ・アナザー・デイ開始までに15歳にギリギリでなれなかったため、飛行学校卒からそのまま高等工科学校行きになり、任官が大きく遅れた。所属する軍は違うが、同学年に三隅美也(ひかりの同期)がおり、美也と疾風はダイ・アナザー・デイ開始までに15歳を超えていなかったため、飛行学校からそのまま高等工科学校へ進学の扱いになり、その世代は任官が大幅に遅れたのである。
「18歳になってから任官か?遅すぎるぞ」
「こっちじゃ、ウィッチの寿命をコントロールする術が見つかった上にガチの戦争だ。だから、今まで通りの任官は芳佳の世代が最後になったぞ」
圭子はサバサバした態度で言う。容姿は元に戻していたが、この時期の服装はタンクトップとホットパンツ姿に軍服を羽織ったものであるので、智子Bに『破廉恥よ、破廉恥!』と言われているが。
「そうか…。しかし…なんだ。その格好だが、こちらの穴拭が破廉恥って喚いとるんだが…」
「あの野郎、どこでも気がちいせぇな。ガキじゃあるまいし」
圭子はこの世界では『ウルトラ短気で粗野な態度』が素であるため、B世界での代替存在『桂子』に文句を言われまくり、智子Bからも『破廉恥』扱いだ。だが。圭子は48年度の扶桑最新の雑誌のグラビアショットを坂本Bに見せる。それ21世紀基準ではどうということはないが、この時代本来の基準では大胆である。
「これぐらいまで来てたら、ハレンチかもしれんが、あれくらいなら普通の夏の服装だぜ?それに北欧なら、夏場あれ以上に脱いで日向に出てる連中居るだろうが」
「あいつが見たら卒倒するな…」
「海援隊だと、ふんどし一丁で過ごす姉さんも多いし、ケイさんなんて、まだ大人しい方だぞ、乳振れとかしねーし」
「お、シャーリーか。今日はそのパイロットスーツ姿か?」
「ハンのテストあるしさ」
「お前、そんな格好で飛行機に?」
ふらっと現れたシャーリーは『紅月カレン時代に着ていたパイロットスーツ姿』をしていた。自前の能力で誂えたもので、デザリアム戦役頃からはナイトメアフレームなどに普段の姿で乗るときは着用するようになったという。これは多分に紅月カレン時代の名残りでもあるが、機動兵器に乗る時に気分を締める効果もあると豪語する。
「ジ・エンドの時のほうじゃないのな?」
「あれは記憶がぼやけてんだ。直近のこれのほうが楽だったし、それに、あれを着れる年齢でもねぇし」
「プリキュアしてるくせに」
「るせー!」
漫才のようなやりとりの二人だが、いずれにしても、飛行帽とゴーグル姿が飛行兵の服装で通っていた時代しか知らない坂本Bには奇異に写る格好である。
「そんな格好で大丈夫か?」
「耐Gスーツなんだぜ、これ」
「シャーリーさん、そろそろ模擬戦ですよー」
「OKー。機体のエンジン回しとくわー」
この時代には同じ基地にいるGフォース航空部隊の隊員(空自出身)がシャーリーに声をかける。こちらは自衛隊正式のパイロットスーツ姿だ。
「……えらく大仰な装備だなぁ…あれ」
「21世紀中の技術で耐Gスーツを作れば、ああなる。シャーリーのは特別製だ」
シャーリーのパイロットスーツは自衛隊の耐Gスーツより遥かに軽量・高性能である。人型機動兵器の動きに耐えるためのものなので、見かけは軽装だが、用いられる技術は遥かに高度である。
「あんなんでも、+5G耐性の人間を+9Gくらいまでブラックアウト防いでくれるんだぜ?」
「嘘だろ…」
「しゃーない。この時代だったら、ジェット機が出始めて、本格的にブラックアウトやレッドアウトの研究が始まったばかりなんだ。あんなもんでも、この時代の飛行服より遥かに質いいよ、少佐」
坂本Bの故郷の世界では、シュワルベが出始めであるため、ジェットを詳しくは知らない。だが、A世界ではすでに超音速時代に突入した。その差でもあった。
「お前、得体のしれない新型によく乗れるな?」
「メーカーでテスト飛行は済ませてるし、マルセイユの事例の教訓でメーカー側にテスト飛行が義務づけられたから、いきなり落ちはしねーって。それにコイツは設計段階で欠点を是正してるからね」
F-100は史実では『セイバーダンス』なる重大な欠陥があった。ノースリベリオン社はその情報を事前入手し、予め改良した状態で完成させた。また、アビオニクスも史実と違い、対空レーダーが積めているため、それが史実より使われた理由だろう。
「ほれ、これが標準飛行用防寒着な、かるいだろ?-30℃でもさむくないぜ」
「……すごいな。私の世界じゃ、まだサラシかハラマキ締めてお茶濁しとる部隊も多いというのに」
「人絹に綿入れしたものだから、単価安くて革のジャケットより暖かいんだ」
「技術は日進月歩ってこった。シャーリー。ハンの飛行を見せてやれ」
「あいよ」
シャーリーはF-100のエンジンの出力を上げておく。坂本Bにとってはウォーロック以来の音だが、それとは異質な何かを感じた。
「ウォーロック以来だよ、この音は。だが、アレとは違う。次世代の何かを感じる」
「お前んとこのハルトマンが見たら、腰抜かすぞ、たぶん」
「それよりバルクホルンが喜ぶぞ。そちらでは?」
「超音速ジェットのテスト中だ。ハルトマンがやらかして、謹慎した代わりに教導に回ってる」
「そちらでは剣術を?」
「ああ。綾香が仕込んだらメキメキと上達してな。智子より断然強くなってるぜ」
「こちらのあいつが聞いたら怒るぞ?」
「あいつ、ガキンチョの頃から自信家装ってる割に臆病だからなー。そっちでも同じか」
智子は基本的に自信家を装っているが、本質的には泣き虫で、武子が事故った時は年甲斐もなく大泣きしているため、智子の性格の本質はこの時期には周知の事実であった。そのため、後輩達の作成するランキングで『勇猛果敢枠』から外される珍事が起こり、本人を憤慨させている。(むしろ、のぞみや咲が勇猛果敢枠に入ってしまい、勇猛をマフラーに刺繍している智子を憤慨させ、黒江を爆笑させたという)
「あいつは昔から自信家を装ってる割に泣き虫だからなー。徹子が昔、それで怒った事がある」
「言ってやるな。あいつの本質は泣き虫なんだからよ。綾香のさみしがり屋とタメ張るぜ。もっとも、智子のほうがおおっぴらにしないから、潔くねぇが」
「言えてるな」
「普段や本質が大人しい方が戦闘では思い切りが良かったりするんだぜ?宮藤なんかがそうだろ?それと、智子、そっちでも事変の戦功第一扱いだろ?」
「あいつは見栄えするからな。その影響か、若い頃は前に出たがるから、徹子が『彼奴等は俺たちに迷惑をかけるのが趣味か?』って嫌味垂れた事があるぞ」
「こっちじゃ、そうでもなかったがな。綾香のほうが目立ちたがり屋でな。それで誰とでも組めるから、隊長もあまり文句は言わんかったぜ」
「こっちじゃ目立たなかったが、そちらではでしゃばり屋だったのか」
「あたしら三人の行くところ、敵はいないって言われてな。綾香の奴、今でもあたしらの筆頭って思ってるぜ」
圭子は事変では、自分のほうがトップエースであったと自負があるため、そこは未だに争っていると冗談交じりに話す。どこか昔と変わらない雰囲気を持つ圭子に、坂本Bは事変からの時間の経過で『大人になった』自分の世界の三人よりやんちゃさが残っている事を実感する。
「お、上昇するぜ」
そんな会話をしている内に、F-100が上昇していく。シュワルベとは比較にならない上昇力である。地上からそれを見上げる二人。ジェット戦闘機が普及した世界での訓練風景を垣間見た坂本Bはどこか寂しそうで、なおかつ、自分の世界では『自分が若い内に現れそうにない』超音速ジェットの銀翼の快音への羨望感も滲ませるような表情であった。胴体内蔵式ジェットすら現れていないB世界の人間からすれば、A世界で現れ始めた超音速ジェットは『技術格差』のシンボルだった。
「ウィッチで無くても飛べるんだ、パイロット目指すのもいいんじゃねぇか?」
「考えておくよ。しかし、お前らの持つ機体はあれより格上だろ?」
「あれは超音速ジェットになれるための練習台だ。あたしらはマッハ2の世界にいるからな」
扶桑はドラケン、クフィール、タイガーシャークなどのマッハ2級戦闘機を有しているため、その面では世界をリードしている。もっとも、その世代の戦闘機は秘匿対象だが。
「お前らに見せてあげてぇが、何分、最高機密でな。ガキどもをいくつかの格納庫には近づけさせるなよ」
「分かっとる。暗黙の了解は心得ているよ」
「外観は見ちまったから、写真は見せられる。性能は秘密だが、外観は厳しくないからな」
芳佳BやルッキーニBたちへは目撃した機種の外観は開示されており、感嘆の声が一様に出ている。特にシャーリーBは大興奮し、その性能を概ね推理できているなど、スピード狂らしさを見せている。
「あ、その分、86は好きに飛ばして良いぞ、西の空域使ってならな。バーナーの中とインテーク覗かなきゃ厳しいことは言わねぇし、あと、あと始動した機体の真ん前と真後ろには立つなって注意しとけ」
「ルッキーニはやりそうだからな。今日はありがとうな。付き合ってくれて」
「ガキどもの収集つけなきゃならんお前も大変だろうし、この間は綾香がキレたからな。半分はその侘びも入ってるさ」
「あの子達も悪気はないのは分かってるだろ?」
「ああ。あいつもそれほど馬鹿じゃねぇしな」
「よかった。それと、そちらでは宮藤が医者になれてよかったよ。それと、あいつも戦士なんだって?」
「そうだ。あいつが前世以前に持っていた力が戻ったって言うべきだな。だから、別の部隊から『ドクトル・ミヤフジ』って渾名ついたぜ」
「世界が違うと、こうも違うか」
「シャーリーだって、それが副業だしな」
「何ーーーー!?」
「それでいて、歌手のバイトで小遣い稼ぎしてるぞ?」
「こちらのミーナがその映像みたが、泡吹いたぞ」
「綾香がその方面を仕込んだんだよ。それで。容姿は今のあたしらには変えられるものだからってのもあるけど」
シャーリー自身も腰を抜かす事になるが、シャーリーAは機動兵器のパイロット、プリキュア、歌手(影武者)。八面六臂の活躍ぶりを見せている。影武者に関しては、地球とケイオスがいる星団との距離が遠いため、彼らから公認されたものである。シャーリーは美雲・ギンヌメールの影武者として、ダイ・アナザー・デイの頃から小遣い稼ぎをしている。北条響としてはピアニストだったが、特訓で歌手としての才能を開花させたのである。また、愛乃めぐみも同様にランカ・リーの影武者をアルバイトで始めたため、本業のアイドルであるキュアレモネード/春日野うららは『するいです~!!こっちは戦車なんですよ~!』と憤慨していたりする。(本業が芸能人なプリキュアはうららが初だが、パイロットではなく、戦車の砲手が現在の主な仕事なため、そこを気にしている)
「個人の資質も関係するが、綾香、シャーリーは基地祭の度にユニット組んでるからな。そこは気にするなと…」
「うちのミーナが対抗しようとするだろうなぁ。あいつ、本式の教育受けてるし、バッハの一族の末裔だし」
妙なことになりそうな予感がする坂本Bだが、ミーナが自分の本分だと考えている歌手分野では強い対抗心があることを知るため、そんな予感がするらしい。
「ジャンルが違うと思うぞ?」
とはいうものの、ミーナBが渡された端末で音楽をやたらダウンロードしまくっている事は知っているためか、同様の予感がする圭子。ちょうどパニックが始まって半年とちょっとが経過した南洋のある日。気候が常夏に近いため、南洋では夏服だが、日本列島では夏も終わろうとしている頃であった。
「本土ではもう秋だろ?」
「夏の終りだな。ここにいると、季節の移り変わりはわかんなくなりそうになるがな」
「お前、汗をかかないな…」
「アフリカに4年近くもいたからな。それで汗をかかない体質になってんだ」
圭子はアフリカにいた時間が長いため、大して汗をかかない(正確には、かいてもすぐ乾く量しか分泌しない)体質に変化している。アフリカ帰りというのはその体質で見分けがつくという。
「水のんどけよ?直におやつの時間だから、宮藤がかき氷作るはずだが…」
「おやつなぁ…」
「ルッキーニの歯は管理してるな?」
「ああ。お前の言うとおりに…。あいつ、虫歯でやすいしな」
「息抜きは必要だぜ?今日は皆に言ってあるし、食堂でくっていけ。こっちのお前は所用で大鳳に乗艦中だから、わかるだろうし」
「食堂にいる子、本格的な服装だったが、誰だ?」
「のぞみの後輩の宇佐美いちか。本職の菓子職人と戦士を兼業……」
「だーかーら、それをなんで兼業できるー!?」
いちかとあおいは厨房が主な仕事場になっていた。なお、キュアマカロン/琴爪ゆかりは転生先の都合でこの時期は講道館の試合の審判などで多忙であるため、本土にいるが。
「アフリカからのあたしのおつきの事務官は料理裁縫なんでもこなすぞ?」
「嘘だろ……」
「今はそういう問題だ。今日はガキどもにも見学許可を出してあるから、そろそろ食堂につくだろうさ」
「すまんな、重ね重ね」
「ある程度は実情を見せんと納得してもらえねぇようだからな。見せることにしたのさ」
広瀬大佐と圭子は相談し、むしろ『見せる方向』にシフトチェンジし、B側の不満を解消させることにした。見せられるポイントを設定し、誰かどうかが付添につく。広瀬大佐発案の見学方法である。学校の社会科見学のような感覚であるが、ある意味ではそうと言えるもので、三人目の隊長代理である広瀬大佐は明樂大佐までと違う開明的な気質を持ち、紅海で『セラ』という西洋風のあだ名を得ただけはある『大胆さ』を併せ持つ人物なのだ…。