――戦車道世界で謎であった黒森峰女学園の栄光の時代が終わった理由は西住まほとその同位体の転生であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの証言で裏が取れた。まほの前の世代の大半が部から離反し、八連覇した時までの全ノウハウが失われた事、世代交代がPTA主動で行われたことでのチーム弱体化が顕著に現れ、まほもチームの掌握に一年目は失敗していたという事実が語られた。そこから準優勝まで持っていった手腕は褒めるべきだが、まほ自身、高校戦車道を『自分が西住流を継ぐまでの通過点』としか見なしてしなかったという失敗を自嘲気味に語った――
「家元の家系って大変なんですね…」
「今は直接の関係はなくなったし、細かいことは同位体に任すが、妹をそれで追い込んでしまったのは事実だ」
ミーナはダイ・アナザー・デイと途中からは『西住まほ』の魂がその役目を引き継いだため、ある時期からは『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの体を西住まほが使っている』と言える状態となっていた。その関係上、キュアロゼッタになったみほのことを気にかけており、それを公言するシスコンぶりを見せていた。
「ありすちゃん……今はみほちゃんだっけ。あの子も大変だよね」
その場に居合わせたのぞみはこのコメントである。
「妹はいい仲間に恵まれたが、同位体の去った後の黒森峰女学園はおそらく、責任のなすりつけあいだろうな。エリカ。お前には大変な苦労を背負わせたな」
「すみません。ですが、なんとかある程度は…」
「みほを通して、同位体にそれとなく伝えておく。うちの政治力の強さが却って、黒森峰女学園を衰退に追い込んだのなら、罪を償う必要はあるからな」
マナも逸見エリカとして答えるが、完全には再建はできないと断言する。黒森峰女学園は二回の準優勝後で屈辱を味わい、PTAと戦車道理事会とで責任のなすりつけあいを初めてしまった。マナはそんな苦境の中でチームを引き継いだわけで、ダイ・アナザー・デイの直後に逸見エリカとして帰還した後はチームをまとめあげる苦労を味わっていたのだ。
「隊長、うちの学校はどうなっていくんでしょうか?」
「お前の次の代以降が立て直せばいいことだ。お前にできる事は私の先代以前の傾向にチームを戻す事だ」
ミーナ(まほ)は自分が黒森峰女学園の隊長であった二年間以前の非西住流的な思想を持っていたチームに回帰させよとエリカ(マナ)へ明言した。折しも、戦車道世界では西住流と黒森峰女学園の癒着の問題も浮上し、しほも政治的に苦境に立たされていた。その問題がみほがこっそりと『自分もプリキュアとして戦列に立つ』と連絡を入れていた事を黙認した背景にあった。
「みほも戦いに加わるそうだ。政治的に苦境に追いやられた母様を救いたいというのは分かるが…」
「結果として、西住流と黒森峰女学園の癒着が明るみになったこと、島田流が文科省の走狗になったことで西住流も島田流も世間的にバッシングを受けるようになりましたからね。それで、あの子の動きを黙認したんでしょう」
実際はそうでないにしろ、世間の戦車道を見る目は余計に厳しくなった。マナはそう見ていた。そのため、『ガス抜きは必要』として、プリキュア化したメンバーの『留学』があっさり許可されたのだろう。また、そのガス抜きはウィッチにも共通する事項でもある。新規志願が大きく減った代わりに既存ウィッチの福利厚生を充実させているが、反対論も大きい。また、黒江たちのような万能選手は本来は世代辺り、一人出ればいいので、そこも反対論の理由である。また、64Fが国際色豊かな部隊となったのも、統合戦闘航空団の多数編成に意義がないと見なされ、編成が次々と凍結され、各統合戦闘航空団に内定していたメンバー、あるいは所属メンバーの行き場を確保する意味合いが大きい。もっとも、結局は各国の都合で所属の話が流れた者も多いため、ウィッチの主要メンバーはダイ・アナザー・デイ当時のメンバーで固定されている。統合戦闘航空団を擬似的に中隊として再現する試みも行われているが、統合戦闘航空団当時の隊長が不在の中隊も多いために、501とその他の統合戦闘航空団出身者の混成編成が実際には取られている他、プリキュア出身かつ、ウィッチを兼業できる者はストライカーで出撃後、ウィッチとして一定時間は戦った後にプリキュアとして戦闘を続けるという戦法が模索されている。このように、1948年も秋になろうかという頃には『仮初めの平穏は近い内に破られる』事を前提に、各種の計画が策定されてきている事が分かる。
「それと通達だが、501やその他の部隊の同位体たちはこの戦線の戦力には数えん。人同士の殺し合いなどはお客さんにはさせられんからな。第一、向こう側も望まんだろう。年長組はともかく、子供たちは特に」
「そうでしょうね。それで揉めたとか聞きますし」
「怪異と戦う事自体がこの世界では大きく減った上、通常兵器でも一定の対処が可能となった存在だからな。敢えて、航空ウィッチを使う意義も小さくなった。ゲッターエネルギーに弱い特性も突き止められたから、陸戦はともかくも、空戦では技術革新が起きない限りはな」
第一世代理論型航空ストライカーは48年には限界を迎え、その代替となる第二世代宮藤理論の実用化が急がれていた。重武装化/マルチロール化の始まりが第二世代型宮藤理論式ジェットストライカーである。64Fがその完成品を非合法ルートで保有、使用したことで第二世代理論の開発が政治的にも促進され、この時期にはF-100が完成間近、F-104も設計途上の段階である。技術革新で航空ウィッチの軍事的存在意義を守ろうとする取り組みはひとまず成功する。懸案であった重武装化が成功したからだ。この重武装化と身軽さを両立させるには、さらなる技術の革新を必要とするわけである。(その次である第三世代宮藤理論式は装甲服状へ進化するが、それを駆動させるマッスルシリンダーの開発とフィールドモーターの実用化が必須である)
「第二世代式は火力はあるが、機動力はない。第三世代式と使い分けるのが最善だな」
「でも、向こうの智子先輩が気にしてましたけど、こっちだと、智子先輩はどうなってたんですか?」
「42年か43年にスオムスで一暴れしたんで、機密指定への口止めも兼ねての白薔薇勲章だったが、未来行きで神通力が戻っていたんで、そのま復帰扱いだ。向こうと違って、ビューリング大尉も現役に留まってたから、そのままウチに配属だよ。原案だと次世代の隊員を送り込むつもりだったそうだがな、サイレントウィッチーズとして」
サイレントウィッチーズは本来、新生いらん子中隊の正式名称として使われる予定であった名である。世代交代した同中隊へ与えられるはずが、三隅美也の高等工科学校入学による派遣の頓挫、シャムの方針転換、スオムスの国内事情の変容などの事情で再編が頓挫。同隊は前身とされた部隊がそのまま存続した扱いとなり、その主要メンバーだった智子、ハルカ、ビューリングの三名が501へ合流したこともあり、48年当時には『編成されなかった統合戦闘航空団』として公文書にも記されている。智子への白薔薇勲章が最高位のものへグレードアップした事情はそこにある。また、結局はスオムスの撃墜王の一人『ハンナ・ウィンド』が507隊長になることもなくなった都合、501への統合戦闘航空団の一本化の際のいらん子中隊の代表が智子と見做されたのは当然の流れであった。
「『ミーナ』はおそらく、その予定を聞かされていたから、前任者が代替にされたことを期待はずれとみなしたんだろう。だが、閣下の力を見て、不味いことに気がついたのだろう」
ミーナ(まほ)は人格変容前のミーナをそう形容し、期待はずれとみなした智子や黒江が神通力を発揮したことでひっこみがつかなくなったのでは?と推測した。坂本曰く、私心も多分にあっただろうと話しており、ミーナが抱いていた自分への好意を察しつつも、隊の運営に邪な感情を挟むべきではなかったと断じている。
「わたしたちより強いですからねぇ。あれほどの力を何度かの転生と特訓で手に入れたっていうけど…」
「あの方々は聖闘士でもあるからな。だが、理解されにくい。ミーナの失敗は人事記録をろくに調べもしなかった事だよ。」
まほは肉体的には『自分』であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケを暗に『失敗した』と断言する。また、カールスラント空軍を衰退させた要因と周囲に見做され、同期に睨まれていることは知っているようだ。
「なのはにしても、あの子(立花響)の一件でケチがついただろ?だが、誰でもミスは侵すものだ。お前にしてもな、のぞみ」
「はい。独房に入れられた経験あるんで」
日本側はなのはやミーナに厳罰を加えるように圧力をかけたが、『現場の要請』もあり、謹慎処分と今後の人事でかなりのマイナス査定という人事査定メインの処分となった。(つまり、現役中には将官になれない)それに対して、のぞみも実のところ、デザリアム戦役で闇落ちしかけたために独房に入れられた経験があるため、Gウィッチも何かかしらの処分を受けた経験を持つ者は多いのだ。
「日本はミスを犯した者に不寛容だからな。二度はともかく、一度は許すべきだ。誰しも一度はミスをするからな。相応にペナルティはつくがな」
ミーナも現役中には将官になれなくなるハンデをこの頃には背負っている。この時代以降、『人事処分の責を負わせて退役させるには惜しいほどに優秀な人材が大きなミスを犯した場合は、前線で使い倒し、定年まで育成費の元を取らせる』という方向の人事が取られていく。なのはやミーナはその典型例であった。
「私も一年目でミスを犯したと言えるが、その時は先輩方がフォローしたから、表には出なかった。だが、みほが転校した後はエリカの献身でどうにかなりかけたが、みほの采配とクルーへの信頼が私の予測を超えたと言っていい。つくづく、ウチの学校のPTAの過干渉ぶりには反吐が出る。それと西住流を政治利用した官僚にもな」
まほとしての本音をぶちまけたミーナ。実際、大学選抜チームとの試合はなぶり殺しを意図したものだが、黒江たちが手を回し、用済みとされて廃棄予定であったカールスラント軍やリベリオン軍の試作車などを大洗連合へ提供したことで大学選抜チームは逆に返り討ちにあった。あまりに大差で大洗連合が勝ってしまったため、大学選抜チームの評判に傷が付きかねないほどであった。また、隊長、副隊長級の多くがプリキュア化していたこともあり、圭子がぶちまけたスキャンダルをあまりに大事にされないように、戦車道世界の文科省は圭子と取引を行い、彼女たちを『留学』(実際は従軍だが)させたのである。(大学選抜チームへのバッシングの火消しを行う時間の確保のためでもあるが…)
「それで隊長は今の立場を…?」
「構わんよ。この体を得てしまったのは不本意だが、そうなってしまった以上は、大佐になってやるさ。体の元の持ち主であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケのためにも、な」
逸見エリカの立場を受け継いだ『相田マナ』へそう微笑み、かつての黒森峰女学園戦車道部隊長の西住まほとしての気持ちを伝えるまほ。現在はまほの冷静沈着さとミーナの能力が合体したような形でその人格が再構築されたため、総合的には以前より遥かに優秀で、『他心』のいっさいない実直な軍人となったと言える状態。このように、人格の変化後のほうが周囲から高評価とされた人物は64Fには意外と多いが、その中でもっとも高い階級の人物がミーナ・ディートリンデ・ヴィルケであったと言える。(以前の追い詰められた際のヒステリックさは意外と周りの顰蹙を買っていたのは事実であったため、人格変容後のほうが上層部にウケが良いのだ)
――来る太平洋戦争は第二次世界大戦後期型中戦車から戦後世代戦車への世代交代を促進させる契機ともなったが、カールスラントはその技術革新に皮肉にも、財政難で立ち遅れてしまう。それも同国軍の権威の低下に繋がったが、ダイ・アナザー・デイ途中から現れた『パンターⅡ戦車』はさらなるマイナーチェンジの結果、M47パットンに伍する能力を手に入れており、『カールスラント機甲師団の栄光は死せず』のプロパガンダに用いられた。レオパルト1相当の次世代戦車の登場は遅延するため、それをごまかすためでもあった。一方の扶桑はダイ・アナザー・デイで現地部隊が大量に購入したセンチュリオンとコンカラーへ更にアップデートをして場繋ぎを行う事となり、M46以降の米軍系MBTの普及に備えた。扶桑は74式戦車の装甲強化・自動装填装置追加型を独自に設計しており、それを普及させる腹積もりであった。これは機動戦が多い外征軍である扶桑特有の都合であった。だが、待ち伏せを主体に設計された74式に機動戦は無理だとする自衛隊内部の反対論もあり、戦車そのものの生産が遅延。持ち込まれた10式戦車が皮肉なことに、有事である太平洋戦争で重宝されることになるが、それはいささか未来の話――
――別の日 新京のとあるホテル――
「これがこの世界で起こった戦いなんですか……」
「そうらしいな……。ジェット戦闘機がこれほど使われたというのか……馬鹿な…!?」
501B側に提供されたダイ・アナザー・デイの映像は彼女たちにとっては信じられないほどに血生臭く、そして大規模な『人同士の戦争』であった。ジェット戦闘機がお互いにドッグファイトを繰り広げ、陸ではティーガーより車格が大きい重戦車(コンカラー)が進撃していき、海では大和を更に大きくしたような大戦艦が跳梁跋扈する。それらの映像はまさに信じられないものであった。
「大和の改良型だと……。こちらでは空母の建造に注力されることになったから、戦艦の新造は武蔵で一旦打ち止めにされたはず。こちらでは建造が続いたのか?」
坂本Bが惹きつけられたのは播磨型戦艦の威容であった。三連装砲塔が四基、あるいは五基に増えている上、口径が46cmより拡大されていたことに気がついた。B世界では砲身命数の都合で46cm以上の大口径化が断念された経緯があり、ペーパープラン化したため、A世界では制式化されたことに驚く。そして、それ以上に驚きなのが……。
「なにィ!?」
イリヤとクロがクラスカードの力を使い、変身して一気呵成に兵士らを蹴散らす映像、アルトリアがカールスラント軍服から甲冑姿になって一騎当千の強さを見せつけ、更にはシャーリー、芳佳、錦がストライカーを地上に置いた後に三人でプリキュアに変身し、突撃する映像が叩きつけられる。更に驚きであったのが……。
『主の御業をここに!!我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!……リュミノジテ・エテルネッル!!』
「なっ、なっ、なっ!?あ、あの方は……まさか……まさか!?」
ペリーヌBは驚きと興奮のあまりに鼻血を吹き出すという取り乱しようを見せた。その映像に映りし人物こそはガリア史上で『悲劇の聖女』と言われ、ペリーヌ自身が擬せられし英雄『ジャンヌ・ダルク』その人だったからだ。宝具である『我が神はここにありて』を使用した時の一幕で、防御用宝具としては最高位に近いレベルの代物である。その由来は彼女が生前に『常に先陣を切って走りながら掲げ、付き従う兵士達を鼓舞したと伝わる旗』であり、近世以降のガリアで顕著な働きを見せる女性が現れると、必ず引き合いに出される『ガリア史でもっとも偉大な女性の一人』。
「ジャンヌ……ダルク……」
ペリーヌBはその名を呟くのが限界だった。坂本Bら幹部はその名にペリーヌの正気を一瞬疑うが、A世界側曰く、この映像は真実であるとのことなので、映像に映る彼女が『黄泉がえりを果たしたジャンヌ・ダルクその人である』事を否応なく信じるしかなかった。後世に伝わる伝説と異なり、顔つきは温和そうだが、秘めた意志の強さに裏付けされた凛々しさも同時に感じさせた。その腕に持っている旗などからの状況証拠からも、そうとしか思えない。
「英雄が黄泉がえりを果たしたというのか……!?」
「だが、そんな事ありえるのか!?」
「待って、あれ!!」
『束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。受けるが良い!!
アルトリアが約束された勝利の剣を放つ映像も叩きつけられ、一同は大パニックに陥る。
「まさか、アーサー王……なの…?」
リーネBもそれを口にするだけで精一杯であった。ダイ・アナザー・デイは何人かの英霊が黄泉がえりを事実上果たして、連合軍に勝利をもたらした戦。事実ではあるが、ベタな英雄譚でもそうはないような御伽じみた映像。1945年には高価とされたはずのカラー映像で撮られている事、当時の合成技術の限界などから、信じるしかない。更に。
『想いを咲かせる奇跡の光!!シャイニングドリームッ!!』
キュアドリームがシャイニングドリームへパワーアップする映像も流れ、もはや次から次に叩きつけられる映像の驚異の数々についていけなくなったようで、誰もとっさには言葉を発せられない。
「ねぇ、あの子って……ここでのニッキー(ルッキーニがつけた錦の渾名)なんだよね……?」
やっとのことでルッキーニBが言葉を発するが、彼女にしては真面目な疑問であった。ルッキーニが真面目に質問するほどに彼女の姿は衝撃であった。
「そうらしい…。信じられんな……。彼女はウィッチとは違う何かに覚醒めたようだが……。詳しくは機密扱いらしい」
「ウィッチとは違う何か……坂本さん!!それは…、それってなんですか…!?この世界に何があるんですか!?」
「……黒江曰く、彼女は世界を守れる資格を持つ戦士だそうだが……。この世界はどうなっているのだ……!?」
「プリキュア……世界を守れる……戦士……」
坂本Bは芳佳B達にそう言うしかなかった。キュアドリームは世界を守れる資格を有する戦士として覚醒めた錦の姿だと。経緯的には、けして間違ってはいないのだが、自分達の想像を超えた戦いが繰り広げられた証である彼女の勇姿は芳佳Bに黒江Aが言った『ウィッチと違う力』の実在を改めて実感させ、自分の想像を絶する力がこの世界に確かに存在する事に、一同は衝撃の大きさのあまりに、ただ唸ることしか出来なかったという。