ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第九十一話「艦娘・長門の登場、十六夜リコの奮闘」

――日本連邦の発言力増大はロシア・中国などの国々には好ましくはないが、ロシアが学園都市に敗れ去ると、中国が事実上の日本連邦最大の仮想敵国となった。また、扶桑皇国に制裁をされた韓国も裏で暗躍したため、ウィッチ世界では近代兵器が早くに流通し、日本連邦は仕方なく、兵器の世代交代を早めた。ダイ・アナザー・デイもたけなわの時勢になると、もはや四の五の言えないレベルの兵器開発速度になった。そんな中、戦線を支える役目を担っていたのは、艦娘、プリキュア、シンフォギア、異能生存体などのなどの『強力な異能』を持ち、なおかつ高い戦闘ポテンシャルがある者達であった。――

 

 

 

 

 

 

 

――地上空母の出現は戦線に衝撃を与えた。規模は大きくないプロトタイプではあるが、当時としては超機動ができ、当時の戦略爆撃機の搭載量を超える無人機を主体にした艦載機を有し、それを海上でなく、地上で行使できる点で充分に強力であり、当時の連合軍はジェット戦闘機、それも通常機を通常は超える機動性を持つゴースト無人戦闘機へ対抗可能な野戦防空装備を有しておらず、連邦軍もロンド・ベルやS.M.Sの猛者以外に迎撃可能な者はいないため、制空権が揺らいでいた。数は多くないが、連合空軍の重大な脅威であった。地球連邦政府も皮肉な事に、自分達が忌避した無人兵器がその威力を発揮している事に悩み、エースパイロットを惜しげなく投入する事でどうにか批判を抑えた。そのエースパイロットの一人『クレア・ヒースロー』大尉はキュアリズム/南野奏の転生体であったが、参陣はダイ・アナザー・デイには間に合わなくなった。だが、南野奏としての自我には既に目覚めており、のぞみに軍事知識を授ける一人であった。――

 

 

――休暇が終わった数日後――

 

「奏ちゃん、今からでも無理なの?」

 

「エレンにも言ったけど、所属部隊の司令官が手放してくれなくてね。そっちに行けるにしても、まだしばらくかかりそうなんだ」

 

「そうなんだ。響によろしくいっとくよ。お互いに、転生したら軍人してるのも不思議だよね」

 

「ま、それも因果なもんだよ。あたしなんてゼッツーに乗ってるし。そっちは?」

 

「いやぁ……。まだ訓練中でね。いいなー。ガンダムに乗れて」

 

「ま、運が良けりゃさ、今の連邦なら、ガンダムがもらえるよ。あたしはエゥーゴ時代の戦功でもらえたからさ」

 

「いいなー。ところで、昔とキャラ変わってない?」

 

「それはお互い様じゃん?頑張る事だね」

 

その後、のぞみは黒江やのび太の計らいで複数のガンダムタイプを乗り継ぐ事になり、最終的にはガンダムダブルエックスに乗る事になる。それをクレア(南野奏)は『ブンビーさんの縁かもね』とからかったという。(逆にパイロット技能がある事がのぞみの同位体の嫉妬を買ったが…)

 

 

 

定時通信を終えると、のぞみは艦娘・長門と鉢合わせした。ビスマルクを送り届けたその足でのことだった。酒保に行っためぐみを待っていた時のこと。

 

「あれ、長門さん?」

 

「誰かと思えば、お前か。話は提督から聞いたが、プリキュアの過去生を思い出したそうだな」

 

「お久しぶりです。リバウではお世話になりました」

 

「うむ。私も日本にカミングアウトしたんだが、私は連合艦隊旗艦経験者だから、何かと言われてな」

 

長門は連合艦隊旗艦を長らく務めた経験がある。ウィッチ世界では加賀が戦艦として生まれたが、土佐の機関の不具合もあり、旗艦としての後継者にはなれなかった(紀伊型も第二戦隊に配置されたままで大和型戦艦以降の新世代に取って代わられたが、二番手というポジションが定着していたために、こちらはひっそりと花形から降りていった)ため、長門は大和型戦艦の登場後も連合艦隊旗艦としての知名度はあった。史実の経緯もあり、実艦も記念艦になり、解体されなかった。長門が記念艦になったのは、ウィッチ世界では『日露戦争の三笠が実働状態であった』兼ね合いであり、三笠を無理矢理に持って行った(海援隊が手を入れていたため、オリジナルの部品はだいぶ減っていたが)ことのバーターだ。

 

「実艦が記念艦になったんですよね」

 

「その時の評議会に立ち会ったが、海援隊と海保長官が大いに揉めてな」

 

海保はトップが海援隊の次期経験者と揉めたため、大恥をかいた。海援隊は坂本龍馬の遺産であり、才谷家が坂本龍馬の血統の継承者である事が判明したためだ。才谷家は太平洋戦争までに黒江と接触し、雇用維持のための努力を政治的にした結果、海援隊は国営化し、戦時には連合艦隊に組み込まれる事になる。

 

「え、どうだったんです」

 

「海保の長官が海援隊を癒着だの何だの罵って、海援隊のトップを殴ろうとしてな。それで海保の長官はその場で懲戒免職処分だ。海援隊は歴史のIFの具現化みたいな存在だから、解体が憚られて、戦時は実働部隊の運営は連合艦隊に委託が内定したよ。海保は巡視船の譲渡を上のポカで決められたから、現場は困ってるんだろうな」

 

「海保って、学園都市とロシアの戦争で巡視船が沈んだんじゃ?」

 

「その後、面子にかけて、国内の海上警察業務は勝ち取ったが、船が古いわ、数が減るわ…の二重苦。海援隊のフネを欲しがったんだろうが、先方の艦艇は第一次世界大戦までの旧式だ。薩摩など、手違いで解体されてしまったくらいだからな」

 

戦艦薩摩は日本側の手違いで解体されてしまったため、その代替に日本は新型巡視船を与えた。だが、第一次世界大戦以前の旧式とは言え、戦艦の代替が軽武装の巡視船(船体規模はむしろ巡視船が大きいのだが)という事に不満はかなり大きい。(近代武装で身を固める護衛艦は海援隊では扱えないためもある)戦艦近江は太平洋共和国を宥めるために譲渡されるのだ。

 

「それで?」

 

「旧式の護衛艦をいくつか流すそうだ。いくら軍艦構造とは言え、巡視船は戦艦の代わりにはならんからな」

 

戦艦は本来、その代替とされただろう装備が怪異には決定打にならないために残置されているにすぎないというのがウィッチ世界での評価だったが、皮肉な事にその真価が海戦で証明されると、海の覇者に返り咲いた。そこは『核兵器に引導を渡された』長門にとってはある意味では嬉しい経緯である(大艦巨砲主義の旗手であった自負からか)。

 

「嬉しそうですね」

 

「核兵器がこの世界では普及せんからな。私はあれに引導を渡された。戦って死ねなかった事は心残りだよ」

 

長門は戦艦の戦争抑止力としての面に引導を渡した核兵器を嫌悪している節を覗かせた。自身がビキニで焼かれたためだろう。九十九神化しても気にするあたり、史実で『戦って死ねなかった』事の口惜しさが残っているからだろう。

 

「堅物って言われません?」

 

「妹や大和にはよく言われる。だが、こう見えても、甘党なんだぞ」

 

長門は一見して、武人と取られそうな堅物な性格だが、実は甘味に目がない。実艦で指揮を執った山本五十六の影響だろう。また、扶桑海軍でも、アイスクリーム製造設備を自前で備えたのは大和型が初であり、そこの面でも大和は新世代感を醸し出している。

 

「山本提督の影響ですか?」

 

「かもしれんな」

 

微笑う長門。長門は1920年代以降の歴代連合艦隊司令長官に乗艦されているが、山本五十六の影響が大きい事は、彼がもっとも印象に残った提督なのだろう。

 

「なのはのポカについてだが、先方の事情説明は私も関わったから言うんだが、あいつはデスクワークには向かんよ。現場に慣らされすぎとる。ウィッチ出身参謀からも苦言を呈されて、一時は二尉にまで降格させようかって議論された。だが、手柄は立てとるし、一度のポカでそこまですると、エディタ・ノイマンの事もあって、士気に関わるんでな。今回の処分になった。一佐にはなれるが、将官にはなれん。退役の時にお情けで准将への名誉昇進がせいぜいだろう。時空管理局に相当に配慮せねばならぬからな」

 

連合軍はなのはへの人事処分については地球連邦、時空管理局との三者で協議を重ね、当事者であるSONGの要望も聞く形で最終的に決まった。動乱で分裂、弱体化した時空管理局にとっては貴重なエース魔導師であるため、時空管理局単独では重い処分は下せない。地球連邦と連合軍が音頭を取り、SONGの装者達からのヒアリングも行い、その折衷で決まったと長門はいう。

 

「あの子は時空管理局の教育の負の面が出たようなもんですね」

 

「綾香も落ち度と言っとった。教導部隊にいたから、手慣れとるだろうと『たかをくくってた』とな」

 

「言えてますね。あの子には悪いですけど、メンタルケアサポートがド下手ですから。あれで現在進行形で教導部隊たぁ……」

 

のぞみもなのはの不得手なところに気がついたようで、若干ながら呆れているようだ。生前が教諭だったためだろう。(後に彼女も教導部隊に平時は勤務するようになる)

 

「ごめんごめん~遅くなっちゃって」

 

「めぐみちゃん」

 

「お前の後輩か?」

 

「ええ。めぐみちゃん、こちらは司令部付けの秘書官の長門さん。一応、軍艦の九十九神」

 

「一応とはなんだ。これでも一応は船の魂がな……」

 

「愛乃めぐみです。のぞみちゃんの後輩になります。もうなんでもありですね」

 

「お互いにな」

 

めぐみは普通に長門を受け入れた。この世界のウィッチは艦娘の存在を受け入れがたい者も多いため、わざと『マリンウィッチの噂』を否定しない方向を司令部は取っているが、日本人(あるいは前世が)であるプリキュア達にとっては『九十九神』は普通に受け入れる存在である。

 

「長門さん。実艦は引退したから、式典とかにお呼ばれですよね」

 

「うむ。式典のスピーチはどうも苦手でな。妹にやらせたいよ。奴はぼやいとるがな。忌み名になったと」

 

「後継ぎの原子力船、事故ったような気が」

 

「私だって、連合艦隊旗艦だっただけで、イージス艦にはつけられんのだぞ。大和と武蔵も同様だが。政治ってのはな」

 

「金剛はあったんですけどねぇ」

 

「ま、扶桑の実艦が来たから、防衛省も政治屋も文句言えなくなって、痛快だがな」

 

長門は山本五十六の秘書官の立場上、政治に噛んでいる。日本防衛省が連邦成立後に軍艦識別表に名だたる連合艦隊の艦艇を記す事になり、てんやわんやしたのを痛快としつつ、日本が官民で佐官級参謀などを史実の行為で責め立てて精神病院送りにしまくり、沖縄からすべて撤兵しろと市民団体は圧力をかけるなど、扶桑軍隊は味方から損害を受ける有様だった。その事が作戦参謀の不足、現場の強者への依存に繋がった。作戦参謀の不足を補うため、幹部自衛官が緊急で動員され、Gフォースの結成に繋がった。現場のウィッチへの依存はこの時のサボタージュで通常偵察機が活用されたことで次第に解消されだしたが、立場が危うくなるのを恐れたウィッチ部隊が通常偵察機の邪魔をしてでも『成果』を出そうとするという本末転倒が起こり、連合軍はそこの面でもシッチャカメッチャカである。ウィッチ兵科はこの時の足の引っ張りあいで評判を落とし始める。扶桑海事変やカールスラントのエクソダスを経験していない若い世代のみならず、近代戦を知らぬウィッチ出身参謀の無知ぶりも問題になった結果、その後の時代に『ウィッチが引退後にデスクワークをする』ハードルが上がったのみならず、扶桑で皇室の軍事的役割が終焉を迎え、『皇室の軍事顧問と通達を司る』侍從武官の事実上の廃止(役職そのものは扶桑の要請で正式な廃止は免れたが、形式的な任命になる)に伴い、ウィッチがつける引退後の進路が狭まったのも連合軍を長らく悩ますのである。

 

「侍從武官の実質的な廃止も決まったから、うちのウィッチの進路は狭まった。それに反発する部隊がサボタージュしている。だから、私達が公に姿を見せる事になったわけだ。お前らに過剰な負担を強いているのは奴らのせいだ」

 

「そう言えば、ウチ(64F)を除くと、活動してる部隊は陸戦精鋭と一航戦とかくらいですね」

 

「そうだ。多くの部隊は動こうとせんから、補給の厳格化で締め上げてるんだが、それでも動かん。自衛隊やNATO軍、地球連邦軍に我が連合軍の恥を晒しておるようなものだ」

 

連合軍はウィッチ部隊が実働戦力として宛にできなくなったのみならず、メンツ論で勝手に動いて大損害を負うなどの失態を犯す事から、ウィッチ部隊の統廃合を進めている。大規模にウィッチ部隊を保有する意義が薄れたと判断されたからだ。その代わりに維持されている部隊は精鋭が集められて再編成されており、辛うじてウィッチの面目は守られていた。資産家の令嬢や名家の次世代などのうら若きウィッチの入隊が先延ばしされ、現場の新人での人員補充が困難に陥ったため、『教官であった者を口実を作って呼び出す』方法が横行している。扶桑に至っては、昭和天皇がテスト部隊へ不信を抱いていたところへ64Fへの教導部隊の反発が起こったため、教導部隊を64Fに兼任させることを本気で検討させる(クーデター後に現実となる)。結局、教導部隊は戦後に空自の助言で戦技教導群の指導のもとに再編され、テスト部隊は航空開発実験集団の指導で再編される事になるが、戦中は練度と見識を充分に有する『64F』が双方を兼任していく。また、通常装備の部隊も戦争で増勢され、やがて、ウィッチ部隊は時代とともに、軍編成の全体の三割ほどの割合に落ち着いていくのだ。

 

「それで、あなた方が公に」

 

「うむ。リバウ攻防戦以外は影に徹していたんだが、公にされた以上は『艦隊』扱いだからな。これからは同じ釜の飯を食う事になる。よろしく頼む」

 

「外国にも?」

 

「当然ながら、いる。だが、カールスラントはそういう分野に理解ないからな。うちで引き取る」

 

「あそこは自分達の理解が及ばないと、放り出しますからね」

 

のぞみも同情するが、カールスラントは扶桑(日本)のよろずの神々という概念に理解がなく、艦娘を疎んじたために日本連邦が引き取る事になったという。これは西洋諸国の宗教的都合も大きく、傲慢であるという批判も生じた。日本連邦は艦娘に寛容的であるため、艦隊として運用するに至り、さっそく活用している。ビスマルクやグラーフ・ツェッペリンの日本連邦海軍への移籍は政治的打撃と言える。

 

「今後、イタリアや連合国の艦娘も現れるだろうが、ウチで一括して面倒を見ることになるだろう。ただ、イタ公の連中はアテになるかどうか。地中海の番人しか能がない連中だぞ」

 

「それ、イタリア海軍が顔を真っ赤にする案件だと思いますよ」

 

長門は栄光ある大日本帝国海軍連合艦隊の旗艦であった経歴からイタリア海軍をアテにしていないらしい。実際、第二次世界大戦のイタリア海軍は『ドイツより有力な水上艦艇の陣容であったが、タラント空襲の結果に怯え、物の役に立たなかった』からだ。また、ヴェネツィアのほうが有力な海軍を有していた上、それが敵に回ったという事実から、ロマーニャもアテにされていない。それどころか史実通りにタラント空襲をされた有様で、戦力にならない有様だ」

 

「お前たちはこれから戻るのだろう?加藤准将に伝える事があるから、同行する」

 

「うちの隊長に?」

 

長門は二人についていくと告げる。武子に山本五十六からの伝言があるとのことだ。なんだろうと顔を見合わせるのぞみとめぐみであった。

 

 

 

 

 

 

 

――連合軍は同位国から『フリッツXがないだと!?お前らは何をしていたんだ?』と言われる始末だったが、怪異への有効性が優先されていたため、史実では完成しているはずの兵器がいくつかない状況であった。だが、日本連邦とて、驚きもある。21世紀の対艦ミサイルは戦艦のバイタルパートにむしろ通じない(徹甲弾前提の防御を持つ戦艦は現在型の対艦ミサイルにはむしろ強い)という実験結果に驚愕し、ミサイルの位置づけを変えざるを得なかったため、ミサイル万能論はウィッチ世界では、史実ほどの隆盛は起きずに終わる。また、戦闘機無用論はウィッチ優勢であった時勢を反映したもので、史実と趣が違っていたが、それも特攻などに追いやられた大日本帝国の事例が伝わったことで息の根を止められ、同じ趣旨のウィッチ万能論も同時に終焉を迎えた。また、連合軍の一部トップエースに生じた『Gウィッチ』と他ウィッチの人事的区別も進み、ミーナの一件で『他のウィッチと組ませられない』点がクローズアップされた結果、現編成を維持する事が正式に決定された。これはGウィッチの特異さが却って迫害を招いた事への対策であった。当時はカールスラントが日本連邦へ『扶桑と正式な同盟国でないのに、なんで名指しで厚顔無恥って宣伝するの!?』と反論した頃だが、ドイツもその認識であったため、カールスラントはますます苦境に立たされる事になった。カールスラントにしてみれば、評判を落とされ、有能な人材は引き抜かれ、外貨獲得手段を奪われるなどの踏んだり蹴ったりであった。

 

――連合軍 統合幕僚会議――

 

連合軍が日本連邦主導になりつつある時勢、カールスラントは人材派遣センターと揶揄されるほどの窮状にあり、ロンメルやグデーリアン、マンシュタインなどの有能な将帥の保護にNATO軍が乗り出すなど、完全に日本とNATO主導の体制になっていた。第二次世界大戦中の将帥達は普通に行けば、1950年代までに定年を迎える世代であるため、むしろ保護したほうが戦線の士気の維持に必須であった。21世紀の軍の高官が自身の祖父母世代に当たるであろう大戦時の高官たちと同じ会議の場にいる事そのものが不思議な光景であった。主な議題は現地インフラを整備しなければ『主力戦車の運用に差し支える』事、機甲兵器の数の根本的不足などであった。

 

 

「この時代の欧州のインフラでは、MBTの運用に支障をきたす。どうにかならないのですか」

 

「わが方の工兵がインフラを整備しておりますが、最低限整うにも、あと数週間は」

 

「我々の時代の主力戦車の重量は60トン台に達します。貴国の施策は失敗ですぞ」

 

「はい……。政治屋の勝手な考えであなた方を混乱させた以上、我がGフォースは全力を以て戦線を維持致します」

 

ダイ・アナザー・デイの長期化そのものは地上空母の出現もあり、決定事項のように扱われていた。ただ、23世紀技術の産物であるため、連合軍もウィッチ爆撃部隊の敗北後は手出しを控えている。

 

「スーパーロボットは?」

 

「各地の怪異を鎮圧させていますが、現地の部隊が非協力的な事があり、効率はあまり」

 

「ウィッチの世代交代を挟むほどの年月を要していたのを考えればマシだな。査察官の派遣を検討するとしよう」

 

「各国軍の統制を強められるよう、国際連盟に通告しましょう。もっとも、直に国際連合になるでしょうが」

 

スーパーロボットの凄まじい威力に嫉妬する現地部隊が情報を提供しない事もあり、連合軍は緊急事態として、各国軍の統制を強める。また、各国の無闇な政治介入を抑えるために統合参謀本部の権限強化も決められ、その直轄部隊の精鋭化を促進する。その結果、精鋭と通常部隊の練度差が激しくなり、合同行動に支障をきたす事が予想されたため、64Fを始めとする一部の最精鋭が酷使されるのである。また、戦線を支えている一つの要素であるシンフォギア装者には各国の勲章の授与、時空管理局を介しての年金授与も決められた(黒江曰く、がんばったで賞と思っとけとの事)また、ジェット戦闘機の登場で空母が却って巨大化していく事を知り、カールスラントは自前の空母保有計画を一旦は放棄するが、その後に必要上、バダンから鹵獲したほうのグラーフ・ツェッペリン級は現場のウィッチと技術者の強い提言で『運用ノウハウの維持のため』と称し、結局は保有したために、愛鷹を使いものにならなくされた日本連邦から長らく嫌味を吐かれる羽目となるが、それは数年は未来のこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――シンフォギア装者にはリコを通し、その事が伝えられた――

 

「勲章と年金?」

 

「ええ。統合参謀本部の決定で正式に」

 

「でもよ、そんなのもらっても意味なくね?そもそも住んでる世界が違うんだしよ」

 

「時空管理局があなた方の世界に分署を設けたので、彼らが年金を支払うとの事です」

 

「あいつは辞退しそうだな。ほら、あいつの事だから……」

 

「彼女は説得してあります。もらえるのなら、もらったほうが得ですから」

 

リコは装者たちには『セレナ・カデンツァヴナ・イヴ』として接していた。マリアは妹が転生後にプリキュアに覚醒していた事実に腰を抜かした(平行世界の存在でなく、自分の生まれた世界での妹という意味で)が、この時点では受け入れている。彼女の人徳もあり、他の装者達もそれを受け入れている。なお、彼女は現世においては『魔法界』の住民であったため、地球の人種には当てはめられないが、便宜上、外見的都合で『日本人』で通している。(前世はウクライナ人であった)

 

「あいつはなんて言ってた?」

 

「誇りというものを意識するようになったと。沖田総司の記憶を見たでしょうし、私達の事や月詠さんの事も理解できたと」

 

「誇り、か。立花は誰かと手を繋ぐ事に固執するあまり、誰かの琴線に触れることが多かったからな。月詠(調の思いを汲み、彼女らもその表記を使うようになった)は二度もやられた事になるのか」

 

「仕方ありません。二度目の頃はナーバスになっていた上、言うならば、昔のベトナム帰還兵のような心理状態です。そんな時に代役の良かったところまで引き継げというのは、無茶にも程がありますからね」

 

不幸として、最初に出会った時から間もない時期に入れ替わった都合、黒江の振る舞いを『調もそういう性格だろう』と早合点していた事、黒江が入れ替わったために切歌が精神的に追い詰められたことへの強い反発などから、『黒江と入れ替わる以前の関係に戻ったほうがいい』事を響は調に述べたが、切歌への共依存関係は入れ替わりで終焉していたし、精神的に自立できた状況下では以前と同じ関係には戻れない事を告げたが、結局は最後に口論となった。小日向未来は入れ替わっていた時期に黒江を助けていたため、この時ばかりは調の出奔を手引きした。第三者である彼女から見ても『状況が変わっているのに、一方の言い分を棚にあげて、大人しく元鞘に収まれというのは無理がある』と判断したのだろう。この事は内密にされた。調の出奔の手引きを親友である未来がしたのはショックだろうからで、彼女が関わったという事実は闇に葬られた。

 

「立花響は何を望んでいたのかしらね、セレナ」

 

「綾香さんが来る前に、月詠さんと姉さん達の心の時計の針を戻したかったんでしょう。姉さん達と月詠さんだけで事が済むのなら、それで良かったのでしょうが、帰還までにミディアンに入ってた綾香さんが馴染んでいたからこそ、問題になったんですよ」

 

「だろうな。ばーちゃんとあいつじゃ、気質が違いすぎて、違和感を持たれるからな」

 

黒江は弟子のフェイトがアニメを見ていたとは言え、マリア達が登場する第二期以降はその時には未視聴であった。黒江も事後に『元を知らねぇから、好きにやっちまった責任はある』と述懐している。立花響の落ち度は『リディアンや音楽院や世間に黒江が築いていた評判などを引き継がなくてはならないことを考慮しなかった』点だろう。帰還までにシンフォギア世界で一年間経過したわけだが、その間に切歌の精神安定を意図し、リディアン音楽院へ通う必要があった。そこで黒江は好きに振る舞ったため、『成績優秀の姉御肌だが、素行は良くない』という評判を立てた。それをも引き継がなくてはならない(響は『そんなの気にしなくていいよ』と言ったが、それは事実上、無理である)。

 

「響さんは月詠さんがその評判を引き継がなくてはならなくなるという必然性を理解できなかったのか、それとも、なんとかなると思ったかは定かではありませんが、とにかくも、月詠さんにとって、リディアン音楽院は綾香さんの築いたものを借りているに過ぎず、自分の居場所とは思えなかったのでしょう」

 

「あいつがばーちゃんを押し切ってまで、演技をやらせたのはなんだったんだろうな。」

 

「おそらく、響さんは暁さんが精神不安定に陥っていたのを思いやるあまり、月詠さんがいざ帰還した後に直面するだろう生活上の困難まで考えが及ばなかったと思います。帰る場所というものを一から新しく『見出す』事は難しいものなのですよ」

 

リコは一同にむけて、そう総括する。そもそも、黒江が風来坊的振る舞いをした事などから、調は国連などには最初から『二課の新しい装者』として認知されており、マリアと切歌が置かれていた『犯罪者の立場』になかったため、史実と違い、保護観察の名目でリディアン音楽院に通う必然性はなかった。切歌が保護観察になったため、それに合わせる形になっただけの事である。(調当人は音楽院を出るつもりはなかったが、黒江と未来の計らいで通信課程に切り替えられ、数年後に卒業する事になった)

 

「帰る場所、か」

 

「そうです。だけど、お互いに住む世界が変わったとしても、仲間であった事には変わりないんです。私と姉さんのように」

 

調は装者達を切り捨てたわけではないと注釈を入れるリコ。調と他の装者達の双方の立場を考えて、リコはそう伝える。

 

 

「あんたがいうと、すげえ説得力だよ」

 

「今はプリキュアですから、私」

 

「変身は見せられないってのはマジなのか?」

 

「私の代は相方と妖精がいないと無理なんです」

 

苦笑しつつも、クリスの食いつきがいい事に微笑ましさを感じるリコ。若干ながらクリスが興奮しているのを感じたからで、戦闘中で不在の翼を除いたマリアとクリスがその場にいたわけだが、マリア、翼、クリスはシンフォギア装者の代表として、リコを介する形で連合軍に影響力を及ぼすのであった。

 


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