ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第百九話「次元震パニックその二十八」

――1949年も扶桑にとっては忍耐の年であったが、近代化は成功しつつあった。加速度的に近代化は進み、戦車は最低でも戦後第一世代相当に強化され、携帯式対戦車火器の普及も数カ年かけて普及が進み、陸戦ストライカーも新式が造られつつある。とは言え、予定よりかなりの遅れが出ている事には変わりない。それを補う目的で量産型マジンガー『イチナナ式』が大量導入され、ジェガンと共に導入が進んだ。64Fについては『ブラックグレート』や『ゲッタードラゴン改』を有しており、イチナナ式のメインでの運用はされないことになっている。フェリーチェの挙げた大戦果で64Fは南洋守護の要と見なされるようになり、人事的優遇も公に許されるようになった。同時期の海軍では、新参である空軍に軍隊の主導権を握られる事を危惧する声もあったが、評議会で、史実で豊田副武が戦艦武蔵の世間への公表を拒んだ事が槍玉に挙げられており、海軍の立場がまたも悪化してしまう危険が大きくなっており、空軍と取引を行い、播磨型戦艦の諸元を主砲口径をぼかす以外はウィッチ世界に正式に公表した。戦艦を造らせる事で敵空母の増勢を鈍らせる為であった。(もっとも、ジェット機の運用を当初より運用できる戦後式の大型空母の建造は米国相当の国家を以てしても、蒸気式カタパルトの開発含めて、三年以上はかかるものであるため、杞憂ではあるが)――

 

 

 

 

――海軍は陸軍よりは予算で優遇されていた。日本系国家では、海軍が国家防衛の要であったためだ。ここ数年の不遇はウィッチたちの政治策謀の失敗が理由であり、多数派である連合艦隊の要員には殆ど影響はなかった。クーデター後は空軍との協調路線を取る提督が主導権を握ったため、その路線で海軍航空の再建を図ることになり、坂本は結果として、その派閥に与することになる。海軍はこの頃には海援隊出身者を海上護衛総隊に編入しつつ、連合艦隊の近代化の進展に一定の目処が経っており、既に全艦艇にファランクスやRAMといった近代的近接防御火器が備えられ、戦艦と空母にはパルスレーザーも備えられていた。だが、日本側が数合わせの旧式艦の運用を嫌った事で、駆逐艦の数が特に不足してしまうという事態が発生。そこで動力や装備にある程度の近代化を施した秋月型防空駆逐艦を緊急で造船するという本末転倒的かつ、泥縄式な対応が取られた。これには1945年当時、既に起工済みの秋月型防空駆逐艦が多数存在し、陽炎型駆逐艦と夕雲型駆逐艦を実質的に代替する予定があったのが撤回されたものの、既に多数が起工済みであった。造船所の雇用と補償問題が起こるのが懸念されたのもあり、秋月型防空駆逐艦は第三ロットという形で改良型に切り替えられる形で生産が結局は続けられた――

 

 

 

 

 

 

――とは言え、秋月型防空駆逐艦も戦後基準では小型の部類に入るため、近代化には限界があった。そこであきづき型護衛艦が海自の派遣艦隊に交代で加わる形で第一艦隊の護衛についていた。戦後型艦艇は打撃戦での生存性に難があるものの、防空力はピカイチである。そのため、フェリーチェが単騎で艦隊を半壊させた事で交戦の機会が遠のいた事は残念がられたのはいうまでもない。当時、敵はデモイン級重巡洋艦を量産しつつあり、重巡洋艦の質では完全に連合艦隊を凌駕した。日本側は超甲巡で対抗しようとした連合艦隊を嘲笑し、『デモイン級を超える程度の重巡洋艦を』と提唱した。超甲巡は元が水雷戦隊を率いる目的の高コスト旗艦なので、日本側はそれを嫌ったものの、デモイン級になると、排水量は弩級戦艦に匹敵しており、重巡洋艦としては高コストに入る。連合艦隊は悩んだ挙句、旧式の高雄型重巡洋艦をベースにしての高性能化は限度があるため、改高雄型重巡洋艦の計画は撤回された。だが、空母改装が取りやめられた伊吹をもったいないという事で当初の予定通りに重巡洋艦として完成させる流れになり、主砲を連装五基から三連装四基へ設計変更し、全ての装甲を予定の倍以上に強化し、近代化した上で、この年の一月に竣工。結局、同様の道を辿った姉妹艦の『鞍馬』、『音羽』も高雄型重巡洋艦の代替艦となる予定である。(伊吹型は空母に改装されても軽空母の粋を出ない上、史実でかなり工事が進んだのを無理に転用した結果、終戦までに完成しなかったため、空母改装は見送られる運命であった。)そのため、連合艦隊は超甲巡を整備しつつ、甲巡も依然として持ち続ける事になった。(要は従来の甲巡と乙巡の関係を置き換えた)――

 

 

 

 

 

 

 

――リベリオン軍はキュアフェリーチェの活躍で輸送任務についていた任務部隊を失った。輸送物資の中には量産開始間もないリベリオン最新鋭の戦車『M48』が含まれており、フェリーチェの活躍でその先行生産車両は自由リベリオンへと渡る事となった。これに扶桑は大慌てとなり、その後継のM60の出現も間もないと警戒し、74式の増産と10式の増勢を決定する。とは言え、M48はリベリオン本国でも量産開始間もなく、相当に内部の反対意見を振り切っての生産であったため、輸送部隊の降伏は寝耳に水であった。(とは言え、その前型のM47は既に配備されており、日本連邦に強い危機感を与える事には成功していた)南洋島は道路網が整備されている都合、戦車戦は起こりやすい土壌が整っていた。M47程度の車両でも、質的には日本連邦の有する中戦車の大半を凌駕していたために危機感を強くした日本連邦は戦車の刷新に本腰を入れ、翌年には105ミリ砲級戦車が増勢され、砲戦車は120ミリ砲に強化されていく)――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――奉天市に潜入していた仮面ライダー二号とプリキュア達はF-106やM47などの敵方の最新兵器の存在を確認。写真を撮り、地域のレジスタンスを焚き付けて陽動をしてもらい、ウニモグを使ってのジャングル突破を図った。だが、敵もさるもの。仮面ライダー二号/一文字隼人の存在を知ると、組織から派遣されていた仮面ライダー四号とスカイサイクロンを追手として差し向けた――

 

「追手!?ヘリでも送ってきたの?」

 

「いや……あれは……スカイサイクロンだよ!?」

 

「ホッパーNO.4か!ジグザグに走れ!あの火力を食らえばひとたまりもないぞ!」

 

サイクロン号を走らせる二号の指示で、キュアダイヤモンドはウニモグをジグザグに走らせる。(スカイサイクロンはベース機がA-1攻撃機であり、その名残りが機影からも伺い知れる。ベース機の搭載量を引き継いでいるため、翼のハードポイントにはロケット弾が備えられている)なお、仮面ライダー四号は脳改造済みのショッカーライダーの一体である故か、正規の仮面ライダー四号である『ライダーマン』と区別するため、脳改造を受けていない三号と違い、味方陣営からは『ホッパーNO.4』と呼ばれている。

 

『フハハハ……久しぶりだな、一文字隼人、小娘共!!さぁ、地獄を楽しみな!!』

 

外部スピーカーで高らかに宣言する四号。言い回しなどから、仮面ライダーWが戦った『仮面ライダーエターナル』であった大道克己の同位体が改造された姿である事が読み取れる。(エターナルとしての彼と違い、完全に冷酷非道の戦闘マシーンそのものであり、脳改造の影響がかなりある事がわかる)

 

「だめだ、ハートは乗り物酔い起こしやがった!お前、戦車乗りだろぉ!?」

 

「そんな事いわれても~~!」

 

キュアハートは弓形の武器『ラブハートアロー』を持つため、キュアメロディは対応させようとしたのだが、よりによって乗り物酔いを起こしてしまい、それどころではなかった。

 

「しゃーない、ロケット弾くらいだったら、あたしがどうにかする!」

 

「ドリーム、ゴッドフィンガーやる気か?」

 

「どうせ避けられるけれど、ロケット弾は落とせるさ」

 

スカイサイクロンはA-1がベース機であるため、運動性能も攻撃機ベースとは思えないほどに俊敏である。ベース機は連合艦隊でも流星の代替機として使用され、ダイ・アナザー・デイでは実質的な主力攻撃機として使用されている。(これは流星が開発で迷走した挙句にダイ・アナザー・デイに生産機の殆どが間に合わずじまいだったため。流星はエンジンと防弾装備、搭載量を強化した後期型が救済措置で開発され、日本製レシプロ艦上攻撃機の掉尾を飾っている)組織による改造が施され、スカイサイクロンは激烈なロケット弾攻撃を仕掛ける。キュアダイヤモンドはウニモグのスピードを上げ、突っ切ろうとする。キュアドリームはサンルーフを開けてもらい、車の上に乗ると、ゴッドフィンガーを遠距離放射タイプで放ち、ロケット弾を撃ち落とし、スカイサイクロンに回避運動を取らせる。

 

「さぁ来い……。次は当ててやる…」

 

態勢を崩されたスカイサイクロンが反転し、再攻撃を仕掛けようとするのが見える。四号はライダーマンのように、口元が露出した仮面ライダーであるため、唇を噛んでいる事、顔に改造手術の痕がある事が分かった。スカイサイクロンが再攻撃にかかった時、ドリームはゴッドフィンガーを放つ。

 

「これでどうだっ!」

 

彼女のゴッドフィンガーは草薙流古武術の炎を組み合わせているために放射範囲は意外に広い。1945年の南斗鳳凰拳、デザリアム戦役でのタウ・リンへの敗北はドリームを変えた。ZEROとの融合後であるこの時点では、往時の兜甲児のような熱血漢かつ無鉄砲なところが生じていた。また、りんへの想いがデザリアム戦役で強まったためか、攻撃に炎を多用するようになっており、雷を多用する黒江と趣を異にする。キュアスカーレットやキュアエースと同じ属性の攻撃をする一方で、状況に応じて、サンダーブレークなどを撃つこともあるため、そこもマジンガーの化身と化した点だろう。

 

「ドリーム、腕を上げたわね…」

 

「なんとか、ロケット弾は撃ち尽くさせたよ!機銃のレンジには入れさせないから、そのままぶっ飛ばして!」

 

「分かったわ!」

 

「おい!お前ら、ちょっと待て!キュアハートが乗り物酔いで虫の息だぞ!」

 

「吐き気止めないの!?」

 

「持ってくりゃ良かったぜ!畜生、この野郎、戦車乗りのくせに変にヤワだ!」

 

「愚痴ってる場合!?」

 

メロディがガサツなところを見せ、ダイヤモンドに窘められる。キュアハートは乗り物酔いで虫の息の状態。普段は第二期プリキュア最強を自負するのだが、こうなってしまえば、ただの乗り物酔いの少女である。(これはウニモグを悪路でぶっ飛ばす運転であるためだが)

 

「し、死ぬぅ~……じ、地獄だぁ…」

 

キュアハートはプリキュアにあるまじき情けない姿を見せた。転生後は戦車乗りであるのにも関わず、この状態であるあたり、ウニモグが如何に悪路を走っているのがわかる。だが、状況が状況であるので、同情は充分にできる。仮面ライダー四号の豪語する『地獄を楽しみな』という言葉はキュアハートには見事に当てはまってしまったと言える。

 

 

 

 

――プリキュア達が情報を持って奉天市を脱出した頃、日本連邦評議会では、日本の野党が自分達が発言力を失っている事を糾弾していたが、『戦争を知らないのに、自分達本位のめちゃくちゃな論理を振りかざす』事を失笑され、それに怒ってヒステリックに喚き散らすという醜態を見せた。野党は代表者が立て続けに軍事に無知であるという点を露呈し、その度に醜態を晒し、憲兵につまみ出される事を繰り返していた。評議会はもはや治安当局と国防当局間の合議を双方の首脳が追認する場と化していたが、日本側には戦争に大局観を持つ者が当局者以外にはおらず、議論もできない場合が多いため、結局は当局同士の話し合いになってしまう。ダイ・アナザー・デイで散々に政治家が情勢を振り回し、既存兵器の増産すら妨害されたからだろう。ダイ・アナザー・デイは結局、ロマーニャとヒスパニアに大損害を強いたため、日本側の不手際が指摘される結果になった。流石に日本側も自衛隊に参加の大義名分を与えるためとは言え、ダイ・アナザー・デイの口火が防衛戦であることに固執した件は大失敗であったと言わざるを得なかった。Gフォースの編成を固定化し、64Fの指揮下に置く事で自分達の名誉挽回を狙ったが、長期化は避けられなくなった事で『戦略的には失敗』と断じられた。太平洋戦争に突入したこの頃になると、太平洋戦争での建艦計画が話し合われたが、迷走しまくったのは言うまでもない。松型駆逐艦の量産が改めて協議され、伊吹型重巡の四隻前後の整備、阿賀野型軽巡の調達打ち切りなどのまともな計画はいいのだが、海防艦が問題であった。旧軍式は粗製乱造と批判されているが、戦後型護衛艦は旧軍式駆逐艦の調達より調達費が高価になってしまう難点があり、結果として旧軍式海防艦で一番にマシな鵜来型を強化する方向となっていく。主力艦艇のうち空母は、大戦型サイズの正規空母の調達が正式に取りやめになり、戦後サイズの建造となったが、1953年前後の竣工になってしまう事は覚悟され、それまでの繋ぎを宇宙艦艇で行うことになり、ウラガ級護衛宇宙空母などが相次いで供与され、宇宙艦艇がこの時期から急速に整備され、空軍は本当に『航空艦隊』を有することになる。後にこの宇宙艦隊が22世紀以降の地球連邦宇宙軍の編成的意味での祖になるという点は見逃せない。また、太陽系直掩艦隊に『連合艦隊』の名が冠されるのは、日本連邦時代の名残りである――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――予算上は空軍の大型ガンシップとして調達された宇宙艦艇たち。64Fはラー・カイラム級を二隻、アンドロメダ級を三隻、ヤマト型を一隻(轟天はヤマト型扱い)を主力として有し、クラップ級巡洋艦なども運用する。ティターンズの有する艦艇が一年戦争からグリプス戦役までの旧式艦である事を考えると、大きなアドバンテージであった。いずれも有に500m超えの巨艦であり、日本連邦の軍事力の誇示にはもってこいであった。(そのために編成が肥大化した嫌いがあるが。46年度以降の64F基地は地下施設のほうが遥かに大規模であり、空軍が海軍式の大規模工廠を有すると揶揄された)実際、ウィッチ世界の軍隊の大半はティターンズの宇宙艦隊に対抗可能な戦力がないため、日本連邦の突出を許した面がある。MSと22世紀型兵器の数々はウィッチ世界の軍隊にとっては『兵法のミスが出る』か、『物量による不意打ち』くらいしか対抗手段がないのである。しかもそれとて膨大な犠牲を払う上でのことだ。現に往時の規模からすれば『細やか』な規模の残党軍がリベリオンを恫喝で手中に収め、傀儡にしている上、世界の歴史を太平洋戦争と冷戦に至る流れに変えた。それほどの力を与えるのが科学技術の差である。1944年に『人類兵器のネウロイ化研究』は危険度が大きすぎることから打ち切られ、施設も極秘裏に研究者ごと闇に葬られた。その代替が未来兵器の活用であり、Gウィッチの力の活用である。ティターンズは下手すれば、反応弾頭やG3ガスと言った非合法手段を講じる可能性は1944年度からずっと議論され続けており、その報復手段をチラつかせることは重大事だった。それが波動砲であるのは皮肉であった――

 

 

 

――統合参謀本部――

 

「源田くん。君は今次大戦で原爆を使う可能性はあると思うか」

 

「存在が明らかになった以上、どこかに使うでしょう。怪異に効かなくとも、街一個は有に吹き飛ばすのが可能な爆弾なのですから。恫喝にも使えます。高度12000mを時速900km超えで飛来するジェット爆撃機を余裕を持って迎撃可能なのは現状、キングス・ユニオンと我が方のみですので」

 

「自由リベリオンの体制固めを急がせなくてはな…」

 

「いかがなされます、閣下」

 

「私から聖上に自由リベリオンへの援助を強めるように上奏しよう。カールスラントの軍事的衰退は予想以上に早く進行している。この分では、今のうちに機甲師団の主力を引き抜いておかなくてはならんよ」

 

「ハッ。明日にも輸送機を向かわせ、機甲師団主力を輸送いたします。表向きは演習の名目で」

 

「削減が決まる前にできるだけ多くを輸送し、南洋防衛に寄与させんとならんよ、源田くん。我々は人はいても、兵器が足りん。生産はさせているが、半年は待たされるだろう。彼等に仕事を与え、充足感を与える。彼等に残された第三の道を我々が示す必要があるとはな」

 

「ドイツはナチ化を異常に恐れ、戦前の指導層の失脚を目論んでいます。カールスラントはエクソダスでかなりの人的資源を損失しているというのに、そんな事になれば、国家が崩壊してしまう」

 

「おまけにオーストリア・ハンガリー帝国相当も編入されていると知ったら、気まずそうな顔見せたそうです。二国を合わせた場合、ドイツの見積もりの倍以上の兵力は最低でも必要ですので」

 

ドイツの失敗はオーストリアハンガリー帝国相当の国家が崩壊し、カールスラントに取り込まれた点を考慮しなかった点であった。それを山本五十六と源田実に公然と話題にされるほど、カールスラントは軍事的には凋落しきっていた。同位国の残党であるバダンが連合艦隊相手に互角に渡り合ったのと対照的であり、カールスラントはこの頃には科学立国と軍事大国というブランドを失った『二流国家』に成り下がっていたのだ。

 

「やれやれ。過度な軍縮が怪異と戦う力すら奪うとはな」

 

「日本も大概ですがね。自分たちが気に入った陸海空の部隊だけを自衛隊に編入し、後は復員させる案があったのですから。もちろん、非現実的すぎて早期に否決されたようですが」

 

「それもそうだ。ドイツは過度にナチの幻影に怯えすぎたし、日本は無謀な戦争で破滅した戦前の日本帝国の轍を踏ませまいと躍起になっていた。だが……彼等の言い分も一理ある。怪異が駆逐された後に何がある?結局は世界の覇権争いだ。その抑止のために軍縮を強引に行わせた面もある」

 

山本五十六は軍略家としては三流と言われるが、軍政家としては超一流であることから、ある意味、1943年に死ぬこと無く、60代半ばに差し掛かる頃まで存命し、政治に関わる立場で名を成したこの世界は彼にとっては幸運な世界である。ある意味、怪異が世界をまとめていたのが、異世界との接触で『本来あるべき血みどろの歴史』に回帰したため、世界大戦の抑止に政治家が動くのはやむなしでもあったが、色々な要因で結局は太平洋の覇権争いは起こってしまい、軍隊も万全を期すとはとても言えない状況で開戦のやむなしに至った事を理解していた。

 

「だが、結果的に突然変異的に現れた彼女たちに『我々が背負うべき業を背負わせてしまった』。私が委員会を立ち上げたのは、彼女たちを支える者が必要と悟ったのだ。我々が世を去った後でも、な」

 

Y委員会の設立の目的にGウィッチ(プリキュア達含む)支援が含まれている事を源田実に明言した山本五十六。多くの歴史で『敗軍の将』になる自分に与えられた一つの役目を果たす事。それが60代を迎えた山本五十六の見出した生きがいであり、さらなる後世、『彼の偉大な遺産』という形で委員会は残っていく。また、自分達が多くの世界で守れなかった国土を突然変異的に生じた超人達に守らせるという選択は自分達が背負うべき業を背負わせたと同時に、転生という得意な事情により、コミュニティのはみ出し者扱いされていた黒江達に明確な生きる意味と『守るべきものとはなにか』という問いを与えるためである。Gウィッチという言葉が歴代のプリキュア達や転生経験を持つ時空管理局の魔導師をも内包する概念へ成長すると、それらを包括支援する組織の必要性を痛感した山本五十六は自身の後半生をつぎ込むに値する仕事とし、Y委員会を設立した。プリキュア達がすんなと軍籍を得られる理由は『プリキュア達の法的庇護』の目的があるのも確かだが、最初の理由は夢原のぞみや星空みゆきが扶桑の軍籍を持つウィッチを素体に転生したからであり、その処理の過程で、プリキュアが立て続けに現れたために方針を明確化したのも理由だ。山本五十六は大臣引退後も1945年次に元帥位を有していたことから、新体制でも『元帥』と扱われ、現役軍人のままである。今やかつての東郷平八郎に匹敵する権威を有するが、山本自身は世代的に老いさらばえた後の彼しか知らないため、東郷には否定的である。(この時期の海軍最長老の岡田啓介でさえ、日露戦争当時は壮年に差し掛かる頃の佐官である)海援隊で余生を送った東郷と違い、現役軍人のままであるなど、細かい違いはあれど、なんだかんだで東郷平八郎の実質の後継者と周囲からは見なされている。

 

 

「私達が世を去った後、この選択を是と取るか、非と取るか。一種の博打だが、私は前者を選ぶよ」

 

山本五十六が生涯で仕掛けた最大の博打。それがY委員会。源田は山本五十六のその言葉を胸に、その後の人生を生きることになり、同位体と多少異なる道をたどる事になった。


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