――カールスラントのクーデターに至る道筋はドイツの過剰な干渉が原因であった。ロンメルの予期していた通り、ドイツ連邦共和国はカールスラントに『軍備の7割弱を廃棄すべし』という強行な要請を行った。もちろん、海軍の水上艦は年式の新しい駆逐艦以外の大型艦の廃棄が入っていたし、空軍は保有機の80%相当の数千機の廃棄が条件であった。日本連邦はその混乱に乗じ、コンドル軍団出身者と彼女らの現時点での所属部隊の全人員を好条件でヘッドハンティング。その中には、メルダース大佐も含まれており、カールスラントのトップ30の撃墜王の多くは1946年までに、扶桑へ部隊ごと移民していった。そのため、カールスラント空軍が気づいた時には、空軍総監すら扶桑に在地状態で太平洋戦線の勃発に至っていた。ダイ・アナザー・デイの時点で深刻に見られていなかったのは、ドイツ側がエーリヒ・ハルトマンの同位体たるエーリカ・ハルトマンの存在を『扱いにくそうだから、いなくて良い』と考えていたからだが、実際はハルトマンが抜ければ、マルセイユも自動的にくっついていったため、史実では『入れ替わりで戦史に現れた』故の盲点を突かれた形であった――
――1945年 ダイ・アナザー・デイの最中――
「ルーデル。君たちが軍を予備役になり、日本連邦の義勇兵に衣替えしたことで、ドイツが慌てだした。ハルトマン君とセットで、マルセイユが抜けたことで責められだしたぞ」
「ハルトマンは平和な時代には疎んじられる存在ですから。在籍し続けても、閑職で大佐止まりでしょうから、これで良かったのですよ、元帥」
「やれやれ。ハルトマンが日本連邦へいけば、自動的に、バルクホルンくんやマルセイユもセットで抜けるんだぞ?なぜ分からんのだ」
「我々の関係は史実の撃墜王のそれとは微妙に異なりますからな。マルセイユが『1945年まで健在である』ことが想定外だったのすよ。それに、ドイツは政体の統一のため、皇室の亡命までは想定内のようですが、そんなことをすれば、我々は根無し草も同然に成り下がるというのに」
「この世界は民主共和制の醜聞をガリアが示しすぎた故に、共和制の説得力が下がっていたからね」
ドイツ連邦共和国はカールスラントの共和制化を推し進めたいが故に、カールスラントの内戦まで想定していた。だが、ドイツ連邦共和国の誤算は、カールスラントが既に旧オーストリア・ハンガリー帝国の統治地域までも版図に収める連合体の様相を呈し、21世紀でいうオーストリアとハンガリーの両国はその領土であったという基本を見逃した事、21世紀ではポーランド領である『元・東プロイセン』地域はカールスラントの領土であったからだ。
「日本連邦はどうして、上手くいったのだ?」
「事前に、要人の複数を篭絡しておいたし、日本国は接触した時、既に『盛りを過ぎ始めた』のを自覚していた。だから、扶桑の資金力で経済復興を成し、扶桑の軍事力で国際発言力を高められるのなら、安いもの。そう考えたんですよ」
日本連邦の成功は『共通点が多く、日本の抱えていた諸問題を扶桑の力ですぐにも解決できる事、攻撃軍備を扶桑に負担させれば、無理に自分たちの金を軍事につぎ込む必要もない。そのメリットを重視した保守政党が政権を(一時期除いて)担っていたためであった。この成功例を目の当たりにし、ほぼ同様の利害関係の一致で生まれたのが『キングス・ユニオン』であるが、更にそれに追従しようとした『ドイツ領邦連邦』は最初の失敗例になってしまった。皮肉だが、この失敗例はド・ゴールの目論んでいた同様の『連邦構想』が見送られてしまうきっかけとなり、同位国といえど、うまくいくとは限らないという教訓を残した。その一方で、ダイ・アナザー・デイでの統帥の失敗はあれど、多くの分野で成功した日本連邦だが、問題も多々起こった。その最たる例が『予備役将校の転職に制限を儲けるべし』という文部科学省の一部左派官僚の暴走である。
「文部科学省の左派官僚に動きがあります」
「なぜ、そんな事を?」
「夢原中尉が転職の斡旋を我々に頼んでいるんですよ。それで、月詠くんに状況を調べさせていますが、彼女がプリキュアという事も知らぬ存ぜぬな者が多いようです」
のぞみはこの頃、ダイ・アナザー・デイが済んだら予備士官になり、普段は教職である事を志望しており、複数の人物に斡旋を依頼していた。その流れで、圭子の勧めで、ルーデルに頼み、G機関に『日本の文部科学省内部の動き』を調査してもらっていたのだ。
「それで?」
「恐らく、彼女の経歴だけを見て、文部科学省は話を潰すでしょう。幼年学校からの生え抜きの陸軍軍人など、彼らの憎悪する『軍国主義者』そのものですから。ですが、まさか、彼女がプリキュアの中でも筆頭格に近い人物そのものであることなど、想像だにしないでしょうな。彼らはプリキュアを『子供騙しの番組』なり、商売と見てますから」
「世間に知られたら、文部科学省の大臣のクビが飛ぶような」
「監督不行き届きで、当事者はもちろん、大臣、下手すればナンバースリーの役職の首までが一気に懲戒免職ものです」
「なぜだね」
「中尉は名家である中島家の息女に転生しています。故に、扶桑の陛下に謁見できる立場ですので、陛下にお墨付きを依頼します。扶桑では絶対のものですが、日本の官僚社会では嫌われるものですからね、お上のお墨付きなど」
ルーデルの言う通り、のぞみはダイ・アナザー・デイの後、戦功を武器に『扶桑の陛下』に謁見。転職のお墨付きをその場でもらい、予備士官への転身願いを提出する。扶桑の法律に基づいた正式な転職の方法である。だが、案の定、日本の左派官僚の妨害で話を潰されてしまう。彼らが先手を打ち、日本連邦評議会に『職業軍人の予備役編入後の就職の自由の制限』についての議案を提出。予備士官の教職への転身そのものの道を閉ざそうとしたのだ。
「日本の文部科学省の一部官僚は生え抜きの職業軍人であった者の教職への転身を異様なほど嫌いますが、彼らは師範学校卒の人々が教職へ着くことも見下していますから、問題はそこで必ず起きるでしょう。扶桑にしてみれば、師範学校卒の人々の未来が奪われるようなものですから、性急な制度変更は反対します。ですが、日本の官僚は成果を焦ってますから…」
日本には、師範学校などの史実戦前型の学校を一切廃し、戦後式の新制大学・新制高等学校などへの早期移行を扶桑に促したい勢力も存在していた。そのため、軍からの直接的な教職への転身は潰すべし対象でしかなく、のぞみは運悪く、そのことで揉めだす時期に届けを出したため、格好の標的にされたのだ。彼女を救ったのは皮肉なことに『キュアドリームとしての名声』であった。
――2018年前後――
「のぞみさんのこと、週刊誌に流して良かったんですが、ケイさん」
「ヤツの夢が頭越しに潰された上、プリキュアを『子供騙しの商売』と侮辱しやがったんだぞ、はーちゃん。どんどん売り込め。今度はC社に向かってくれ。騒ぎは大きいほうがいい。世間を味方につければ、今回のことへの補償もよくなる」
「それじゃ、C社にスネ夫さんの友達がいるようなので、変身した姿で接触しますよ?」
「ついでに『泣き落とし』もしとけ。あそこは政府のスキャンダルが大好きな社風だからな」
2018年前後、日本連邦が日本側で漕ぎ出して間もない時期にのぞみの一件は起こった。既にダイ・アナザー・デイも終わり、デザリアム戦役が未来世界で起ころうかという時間軸での話であった。のぞみは面談でプリキュアとしての誇りを見下され、更には『子供騙しの商売』と侮辱され、面談後に様子を見に見た圭子にその事を伝え、泣き崩れた。後輩の有様を目の当たりにし、義憤に駆られた圭子はジャーナリストとしての自身のコネをフル活用し、ことはを使いとして送り込み、各出版社にスキャンダルとして売り込んだ。キュアフェリーチェが『偉大な先輩の名誉回復』に奮闘するという構図は願ったり叶ったり。B社がいの一番に記事に採用。その週の週刊誌の表紙を飾り、ネットニュースでも流された。更に、圭子と黒田が匿名SNSに要約データを投稿したため、飛びついたネットニュースなどは『日本政府と官僚の高慢!!プリキュアの夢を潰し、高笑い!』というセンセーショナルな見出しの記事で報じ、瞬く間に世間の注目を集めた。K社は自社の週刊誌『金曜日』で特集を差し替え、紙面の多くを割くなど、話題を攫った。この余波は魔女世界にも波及。扶桑の陛下が困惑する旨の談話を発表するに至った。
――報道の過熱で騒動を知った、日本の当時の内閣総理大臣は『扶桑皇室の噛んでいる案件を文部科学省が潰した』ことに青ざめ、直ちに文部科学相を首相官邸に呼び出し、叱責。だが、当の文部科学相も『何も知らされていない』としか答えられなかった。どういうことか。文部科学相は総理からの追求にたまりかね、『近日中に調査結果を報告する。扶桑の皇室には自分が謝罪に行く』と表明。その日の総理大臣の定例会見で明言されるに至った。この騒動の過熱ぶりは早く、プリキュアが軍人であることに反発する層、女性の権利拡大を扶桑に広めようとする層、プリキュアファンの男女層などが入り混じって、SNSの投稿が入り混じり、日本の総務省も困惑するほどの勢いであった。事態の進展は扶桑の皇居に日本の外相、文科相、防衛相の三人が訪れ、『扶桑軍の軍務制度を混乱させる意図はなかった。混乱で生じた損害の補償は必ず行う』と扶桑の内閣要人、重臣(岡田啓介、鈴木貫太郎などの軍出身の重臣含む)、陛下に明言することで幕引きが図られだした。日本側にとっては『歴史上の人物』である扶桑の要人達との接触は緊張そのものであった。自分たちの曾祖父、あるいは祖父にあたる世代の人間達な上、山本五十六、古賀峯一などの『戦死した将官』も重臣に名を連ねる『オールスター』の様相。彼らと会って話をする事を日本の政府閣僚は及び腰であったが、やむなくの会談となった――
「山下閣下、我が文部科学省の不明をお詫び致します。このことが済み次第、私は辞表を総理に提出致します……」
64Fの所属する航空軍の責任者である山下奉文大将に震え声で告げる文部科学相。
「こちらと致しましては、ウィッチ枠で受け入れ、対怪異戦を基本に活動の拡大を模索中でありました。我々としましては、出鼻を挫かれましたよ」
「私も知ったのは二、三日前なのです。件の官僚には『出向』を命じました。依願退職に持っていこうとするでしょうが、腹を切らせますので、平にご容赦を…」
この場合の『腹を切る』とは、懲戒免職にするという意味である。文部科学省はこの後、外交問題を懸念する総理大臣の意向で『ナンバースリーの役職に当たる人間までが連座で辞職を勧告され、内部の派閥にもメスが入る』という大混乱が待ち受けるのである。なお、彼らの目指したことについては『軍務後に師範学校(制度の変更後は新制大学の教育学部など)を卒業した上でなら採用を認める』という。
「山下さん、彼が怯えていますよ」
「しかしだ、今村君。ワシの部下がぞんざいな扱いをされ、侮辱されたのだぞ」
同席する今村均大将が山下を宥める。今村大将は陸士19期、山下大将は18期。山下が今村の一期先輩にあたるのである。
「彼女の受けた精神的苦痛への補償は、総理自らが確約しておられています。防衛省としましては、件の官僚を法務省の法令に則り、提訴致します。ですが、彼女の予備士官願いは我が国としては取り下げてもらうか、『なかったこと』に」
「我が皇国の法令に則って提出されたものを『なかったことに』だと!?」
「山下さん、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるかね、今村くん!」
ヒートアップの山下大将。防衛相も怒気に圧倒されてしまう。だが、日本側としても、左派の展開する論調を無視するわけにもいかないのだ。
「我が国としましても、生え抜きの軍人が軍籍を名簿上でも、維持したままで教職に就かれる事は承服しかねるのです。我々は軍が政治を混乱させた果てに、旧体制の破滅を招いたのです。たとえ、同位国と言えど、その芽となり得る要素は摘んでおきたいという論調も指示を得ているのです。どんな意見も言う事は自由。それが民主主義の世なのです、閣下」
外務大臣が日本側の意向を伝える。名だたる将軍らを前にしても、堂々と意見を述べたため、帰国後、彼の評価は爆上げとなる。
「もちろん、夢原中尉……」
「いえ、大尉へ昇進しました。聖上が彼女を高く買っておいででして…」
「大尉への補償は明日にでも、統合参謀本部で詰めましょう」
彼らの会談の第一段階はこれで終わった。のぞみはダイ・アナザー・デイ時点で昇進しているが、日本への通知はその後になった。第二の会談は皇居で行なわれ、御前会議の様相を呈した。その様子は扶桑の報道班経由で日本に伝わり、『会談が御前会議になってしまった』と報じられた。日本の政府閣僚が冷や汗タラタラで、軍服姿の昭和天皇、更には1940年代時点の名だたる重臣達に混ざる光景は『映画のようだ』と評判となった。昭和天皇に彼らが謝罪し、総理大臣からの親書を手渡し、重臣の軍高官らが対応を上奏するという姿は明治か大正期の光景と錯覚するようなものだが、日本でも、1945年八月までは行なわれていた光景だ。軍高官らはのぞみへの補償として、『届けをなかったことにする代わりに、大佐までの早期昇進の確約、危険手当等の倍額化などの金銭面の補償』を上奏した。また、扶桑では一貫して、戦役の終了時に授与するとされた『金鵄勲章の授与』を制度移行前に行う事、同様の被害に遭った者へも一階級昇進を直ちに行う事を昭和天皇は要請した。また、のぞみの転職の斡旋をしていた中島家の長姉『中島小鷹』元・大佐には、自分が詫びに行くことに言及した。この上奏は扶桑の新内閣『小泉純也内閣』の発足で協議に入り、初代国防大臣に親穂された山本五十六が最終的に『基本給のアップ、武功章の迅速な授与、金鵄勲章の等級を上げ、年金受給の確約』でまとめる。中島家への詫びには、加賀藩の元藩主の前田家の当主である前田利為大将が名代として訪れたという。中島家は古くは草薙流古武術で扶桑を守護し、近世以降は代々の継承者が織田、豊臣、徳川の扶桑三英傑の家系に時代ごとに取り立てられるなど、武門の家柄として名を馳せた。身分的には士族だが、裏の役目が役目なので、実質的に華族と同等の家格を誇った。ここ数十年は長島飛行機の創業者『長島知久平』と小鷹たちの祖父が海軍で同期であった関係から、長島飛行機と懇意にあった。とはいえ、小鷹達は長島飛行機が陸軍に航空機を多く卸すようになった関係で、当代の姉妹の全員が陸軍に入隊している。だが、陸軍飛行戦隊が空軍の大元になったため、1945年時点で実務についていた次女の錦(のぞみ)は空軍へ地滑り的に移籍。任官が先延ばしされていた末妹の『疾風』は1949年の春に空軍少尉に任官されるという道筋を辿った。日本で騒動の決着がついたのは、2019年度の春となった。これはのぞみへの補償の支払いや、件の官僚への社会的責任の取らせ方で議論があったからだが、日本に非があるため、比較的迅速に処理された。この騒動で、のぞみは(騒動の当事者であるので)職業軍人であり続けることとなった。ただし、黒江たちの計らいで『プリキュアの後輩や先輩に軍務のイロハをコーチングする』のが日課となり、太平洋戦争勃発後は割に自由な立場となる。
――騒動の直後――
「のぞみさん、残念でしたね」
「姉貴(小鷹のこと)があたしを認めてくれたから、気は楽になったよ。戦争が終わったら、軍学校に出向させてくれるみたいだから、そこで、存分に教えるよ。望んだ形じゃないけれど、先輩達があっちこっちに手を回してくれて、切り開いてくれた道だからね。昔とは違うけど、教える事には変わりないしさ」
ことはにそう答えるのぞみ。小鷹の事は錦の記憶から、『姉貴』と呼んでいるのがわかるい。小鷹(江藤の同期)は長子であるが、草薙流古武術は継承せず、軍人になった。後輩にあたる黒江たちに『不肖の妹が苦労をかけた』と労い、引退した身であるが、戦友会などに影響力を公使し、若い世代に多い『七勇士への僻みや妬みからの中傷』を黙らせている。
「発言が二転三転してるってのは、黒江さんの報告書への批判で多いようですよ」
「言った時の時系列の違いだし、内輪での冗談も律儀に書いてるんだけどねぇ。なのはにやったジェスチャーにしても、軍や警察組織でいうところの組織内のハンドサインの意味の齟齬だって」
「それはそうですけど、一般人には理解されませんって。部内でしか伝わらない隠語やジェスチャーなんて。あれは齟齬はあるにしても、ミスですよ。完全に」
「そうだよねぇ。先輩も作戦が終わった後に処分をまとめて受けてたし。なのはなんて、思い出した時、血の気が引いてたもんな」
「なのはと先輩、土下座してたもんね、あの子に」
「そりゃ、土下座しないと。やったことはアレすぎるし、監督不行き届きでもあったんですから」
「で、お詫びに、あの子の好きなモノ、たらふく奢ってたっけ」
「ええ。自腹切って」
のぞみが触れるように、組織は内部の人間にしかわからない隠語やハンドサインが存在しているもの。扶桑軍や地球連邦軍も同様であり、内輪で使われる用語、かつての日本軍でいうところの『武窓用語』が存在しているのである。
複数の組織に属した場合、その僅かな違いで意味が違う場合があるが、ゴチャゴチャになることがある。なのはの場合は『地球連邦軍、時空管理局武装隊、または戦技教導隊』の三つで教育を受けていたため、三つの組織での細かいジェスチャーやハンドサインの意味が、いつしかゴチャゴチャになっていたという事が『事後』に判明している。
なお、黒江は、なのはへの指示の際に『写真を放り出して首切りポーズで指示を出した』のだが、それは地球連邦軍では『対象を教育しろ』という意味のジェスチャーであり、MS兵科や飛行科で一年戦争の頃から使われている比喩表現である。だが、時空管理局の戦技教導隊では『対象をきっちりぶちのめせ』という意味のジェスチャーとして使われており、地球連邦軍の教育を受けた時期から時間の経過していたなのはは、前者の意味が忘却の彼方であり、アムロに指摘されて、思い出すという有様であった。この件は黒江の犯した重大ミスでもあるので、自身も直後に始末書を書いたり、作戦後に改めての謹慎処分を受けている。のぞみの覚醒後に『お前の覚醒が早ければ……』と自戒交じりにぼやいたのは言うまでもなく、なのはもジェスチャーの意味の違いを思い出した直後は文字通りに『血の気が引いた』。
なのはは事後の謹慎処分の一環で、ダイ・アナザー・デイの後半は子供の姿で戦う羽目になった。これははやての指示でもあり、周囲への禊のようなものだった。フェイトもそれに敢えて付き合ったが、こちらは魔導師としてではなく、『獅子座の黄金聖闘士』としての参戦になったため、バルディッシュを用いた戦闘はサービス以外は見せず、もっぱら、闘技を用いた。着ていたバリアジャケットは撮影用のもので、子供時代のものとはデザインが違うのだが、聖闘士として戦うので、そこは気にしなかった。口調も成人後かつ、憑依現象後のもののままだったので、かわいい見かけとのギャップから、人気が出た。風鳴翼よりは高めの声色であるが、言うことは彼女(フェイト)の聖闘士としての先代であった『獅子座のアイオリア』のそれであるので、黄金の獅子にふさわしい威厳があった。
「でもさ、思い出したけど、フェイトちゃんの口調はなんなの?」
「なんでも、高校の頃、先代の黄金聖闘士の魂に一時的に憑依された事があって、その名残りだそうです。その流れで後を継いだらしく、高校時代に、インターミドルの大会で優勝したとか」
フェイトの口調の変化は高校の頃の事件が由来であり、その事件の直後に黄金聖闘士を継いだ事、ダイ・アナザー・デイ時には聖闘士としての名声も得ており、『雷刃の獅子』と呼ばれている。これは魔導師としては斬艦刀使いであることに由来している。憑依が解けた後もアイオリアの用いていた口調と思考は残ったため、黄金聖闘士を躊躇いなく継いでいた。姉のアリシアはプリキュアであるが、キュアブロッサムは根本的に『強いプリキュアではない』ので、フェイトの姉を想う気持ちもあり、聖闘士の道を選んだのである。
「ああ、それ聞いた。スバルの勧めで一回だけ出たけど、めんどくさいからって、ライトニングプラズマを撃って終わらせてたってゆー…黄金聖闘士が一般人相手に本気だすわけにもいかないからってのはわかるけど、まともに組み合うとかしないのはな~」
「相手からすれば、『眼の前が光ったと思ったら倒されてた』ような感じですからね。ライトニングボルト使わなかったって言ってましたけど」
「あれ使ったらヤバいって…」
フェイトはものすごく加減はしたライトニングプラズマでインターミドルを優勝した。威力は抑えたが、速度は本気であったので、インターミドルの選手では、如何なる者も『何もしないうちに倒れ伏す』のみ。はやては観戦していたのだが、『組み合うくらいしなさいよ!!』と標準語でキレており、ヴィータを震え上がらせていたりする。見ていて面白くない試合の連続であったからだが、フェイトとしては、『加減するのは難しいんだ。うっかりすると、常人の四肢はふっ飛ばしてしまうからな…』とのことで、ライトニングプラズマの命中箇所を集中させていた事を告白している。実際に、黄金聖闘士の拳は本気であれば、聖衣がなくとも光速に達せるので、プリキュア達でも見きれないのだ。
「あたしでも、パワーアップ重ねてなきゃ、手も足も出なかったからなー…。はーちゃんは?」
「試しに模擬戦したら、ライトニングフレイム(炎を纏う最高位のライトニングプラズマ)でボコされた事あります。それも最強フォームの防御を貫かれました」
キュアフェリーチェは最強フォームであれば、ある意味で神に近い能力に達するが、神殺しが仕事である黄金聖闘士にとっては『腕試し』の範疇であり、自信を木端微塵にされた事を乾いた笑いと共に教えることは。
「いつの事?」
「えーと、2010年くらいかなぁ。その頃に、現役の頃の全能力を取り戻せたんですけど、軽くのされました。最も、その時の『ライトニングフレイム』って技は歴代の黄金聖闘士でも滅多に到達できない境地だって言ってましたが」
「ライトニングフレイム……炎のイカヅチかぁ。先輩もエリスを倒す時に使ったのが初めてだって言ってたな…。あたしも炎使い(草薙流古武術の関係)だし、目指そうかなぁ」
ライトニングフレイムは第九感を必要とする最高位の闘技であり、黒江も使用が可能となったのは、割に最近のこと。のぞみはこの時期はセブンセンシズの扉に近づいていたが、まだ青銅に肩を並べるくらいの領域に留まっていた。彼女がその扉を開けるのは、デザリアム戦役での事。それ以降は『草薙の炎を電撃と組み合わせる戦術』を習得する。また、黒江の仲介で聖剣も授けられるので、別世界の自分の救援に赴いた際に披露する機会があった。このように、この時の言葉は後に現実となり、草薙流古武術と聖闘士の闘技の組み合わせで、対魔能力も会得。黒江に次ぐ『魔斬り』の称号を授かるのである。異能を追求していけば、対魔能力を持つのは必然であり、フェイトがダイ・アナザー・デイ当時から数年かけて調査した『波紋法』もその内の一つ。本来は医療技術であったそうだが、いつしか対魔の戦闘法に応用されたそうである。最も、その世界での太古の時代に既に『戦闘法』としての使用がされていたようなので、主敵(柱の男と呼ばれた存在)が姿を消した後に、伝承者たちの意向で医療技術に転用されてきたというほうが正しい。そんな様々な戦いの選択肢の存在を知りつつ、彼女達は戦場に立つのだった。