ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第百十五話「キュアスカーレットの告白と新たなプリキュアの覚醒」

――日本連邦軍はダイ・アナザー・デイ、太平洋戦争に至るまで、日本の市民団体による抗議で訓練を妨害されてきた。偶然とは言え、64Fの基地の10キロ四方が空き地であった事は幸運であったと言わざるを得ない。戦時中であるので、扶桑への観光は規制されているが、政治活動のために扶桑に留まっていた者も多いからだ。元から練度の高い部隊が重宝されていたのはそういう事である。64F基地の周りには軍事工場やそこに働く者のための住宅街が建てられるはずだったが、日本の市民団体の抗議で撤回され、路線だけは通った有様。投資していた扶桑人達が日本に抗議するに至った。地下区画が拡大され、秘密工廠と一体化したのは事実上はその代替であった。64Fが総じて、高い練度を保っていた理由はいくつかある。『ダイ・アナザー・デイ、デザリアム戦役を戦い抜いた』、『ロンド・ベルとしての任務にもついている』、『有事即応部隊である』ことだった――

 

 

――訓練中の光景――

 

「ち、ちょいまち!」

 

「問答無用~!」

 

ロボットガールズはこの頃、64Fの講師を勤めていた。1949年にはドリームとピーチのように、マジンガーとゲッターなど、各種ロボットの力を得ていた者、聖闘士を副業とする者とそうでない者の差が開いていたため、その差を埋めるための修行が必要だったからだ。そのため、訓練と言っても中々に壮絶な光景が演習場で繰り広げられていた。スーパーロボットの力を持つロボットガールズは全般的にプリキュアに優越しているため、プリキュア達は訓練とは言え、苦戦を強いられていた。善(一応)に分類される存在には、プリキュアの浄化技は効果が下がるからである。そのため、普段どおりのポテンシャルを出せる者は限られている。

 

「ロケットパーンチ!!」

 

この頃にはロボットガールズに加わっていた『Zちゃん』がロケットパンチ(手袋)を放つ。キュアミントが『プリキュア・エネラルドソーサー』で防ごうとするが、それを貫き、ミントを吹き飛ばす。

 

「プリキュア・プリズムチェーン!」

 

キュアレモネードが光の鎖でZちゃんを拘束するが、Zちゃんはそれを掴むと、逆にマジンパワーでレモネードをぶん回す。

 

「えぇ~!?そ、そんなのありですか~!?」

 

「アリなんだよ!うおりゃあああ!」

 

Zちゃんの怪力はキュアレモネードを目を回す程の勢いでぶん回す。レモネードが完全に目を回したタイミングでチェーンをぶった切り、そのままプロレス技を決めてノックアウトした。

 

「あたしをなめんなよ~!」

 

勝ち誇るZちゃんだが、彼女はマジンガーZのロボットガールズ。その範囲内の力であるため、それ以上の力を持つロボットがベースの力にはめっぽうダメである。それはすぐに示された。

 

「そこまでだよ、Zちゃん」

 

「おいおいおい!!ずりーいぞ、『皇帝』の力なんて!?」

 

Zちゃんが涙目で抗議する。ドリームの翼がカイザースクランダーと同形状になっていたからだ。ZEROと融合したためにマジンガーの力を使えるが、当然ながら、Zを超える魔神の力を選ぶ。その中でも最高ランクである『魔神皇帝』の力を使い、通常フォーム(プリキュアは強化フォームでないと飛行能力がないことが大半を占める)でありながら、具現化させたカイザースクランダーで空を飛んでいる。そして、挨拶代わりにターボスマッシャーパンチを放つ。Zちゃんはロケットパンチで迎撃するも、当然ながら、ロケットパンチで『皇帝』のターボスマッシャーパンチに勝てるはずはなく、軽く弾き飛ばされる。更にターボスマッシャーパンチに殴られ、その場で一回転して倒れる。

 

「くそぉ!光子力ビームだ!!」

 

「ふふーん♪」

 

ドリームは掌をかざし、Zちゃんの光子力ビームを受け止め、完全に無効化する。傷一つつけられないため、さすがに焦ったZちゃんはブレストファイヤーを使うが、ドリームはファイヤーブラスターを放ち、ブレストファイヤーを相殺してみせる。

 

「なぁ!?そんなのありぃ!?」

 

「さーて。レモネードとミントの分のお返しをさせてもらうよ」

 

ニヤリと微笑うドリーム。雷を呼び、それを指で受け、増幅する。Zちゃんは思わず恐怖する(生まれて間もない頃、黒江に雷で攻撃されてから、Zちゃんは雷の攻撃恐怖症である。対するドリームはこの頃には、特訓で雷を克服していた)。

 

『闇を切り裂け、サンダーブレーク!!』

 

グレートマジンガーが『Zを超える勇者』と評される理由の一つはこの技『サンダーブレーク』。ゼウスの権能とされる雷を操れる点で、『Zを超えた』とされている。キュアピースが抗議しそうな光景だが、ドリームはグレートマジンガーと同じ流れで放った。

 

「うわああああ~!?」

 

Zちゃんも流石にサンダーブレークは強烈だったようで、爆発が収まった後はビリビリに伸びていた。うわ言で『ビリビリ嫌ぁ~…』とぼやくあたり、生まれて間もない頃に受けた黒江の攻撃がかなり堪えているのがわかる。

 

「悪いね、こっちも勝たせてもらったよ」

 

気絶したZちゃんを一瞥し、ミントとレモネードを介抱する。

 

「勝ったんですか、ドリーム」

 

「サンダーブレークでね。レモネードとミントは下がってて。負け判定ついたから。あとは引き受けるよ」

 

「すみません、早々に負けちゃって」

 

「まさか、エネラルドソーサーを真っ向から貫けるなんて。あれがマジンガーZの力なのね…」

 

「伊達に『神にも悪魔にもなれる』って言われてるわけじゃないですからね。だけど、こっちも『神を超え、悪魔も倒せる』ってところを見せないと。じゃ、行ってきます~!カイザースクランダー、GO!」

 

神を超え、悪魔も倒す力。その象徴が魔神皇帝の翼『カイザースクランダー』である。プリキュアには相応しくない攻撃的で鋭角的な意匠の翼だが、デビルウイング以来のヒロイックな形状でもある。ドリームはレモネードとミントにそういうと、二人に代わり、模擬戦を続けるのだった。(ドリームは基本的に『善』の存在だが、闇に落ちかけたという点では、不動明/デビルマンに通ずるものがある。キュアルージュ/夏木りんは自分を失いかけた事がのぞみの闇落ちの引き金になった事に驚愕し、回復後はのぞみの自分への精神的依存を治すため、のび太に託している。その経緯上、のぞみやりんは魔神の力とは意外に親和性が高かった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1949年になると、レシプロ戦闘機の大半は退役していた。第一線機が超音速ジェット機へ切り替わっていたからだ。ダイ・アナザー・デイで多くが消耗した事もあり、戦闘任務での運用は1946年で終了したが、連絡機としては依然として現役である。また、二線級機材としてだが、ターボプロップ機化された烈風、紫電改、陣風、百舌鳥が配備されており、日本型プロペラ戦闘機の最後の意地を見せていた。ダイ・アナザー・デイで花形であった三機種も、この頃には『型落ち』になり、幸せな余生を送っている。これは実戦配備に至らずに『より高性能な機体に取って代わられた』火龍と橘花よりは遥かにマシである。クーデター後に回収された二機種は無傷な機が少なく、日本側が『技術遺産』という事で三機を領収。扶桑にはそれぞれが四機ずつ残されたに過ぎない。なんとも物寂しい結末だが、日本側にとっては『日本軍もジェット機をたしかに造れた証』。双方の博物館で静かに余生を送ることになった。その一方でダイ・アナザー・デイで注目され、この時代に次期主力機の一つに成り上がったのが『F-20』である。ドラケン同様に扶桑向けの愛称がつけられるはずだったが、クーデター後の政権交代などもあり、ドラケン共々、国内向け愛称は1947年に取りやめられた。(国内開発との誤解を招くという批判もあったため)F-20は採用に反対論が大きかったが、ダイ・アナザー・デイでの64F機の一騎当千ぶりが報じられており、扶桑空軍は採用を内定していた。だが、日本側は『より総合性能の良いF-2を!』とゴリ押しした。F-2には一つの問題があった。ベース機(F-16)ができている前提があり、いくら技術発展の加速があろうと、1960年代まで造れない可能性が大であった。更にF-4EJ改の受けが悪いため、手っ取り早く身軽な単座機が求められていた時勢もあり、既に私的に入手したとは言え、『実機がある』F-20は各所の妨害工作にも関わらず、1949年に採用された。F-20は日本連邦が唯一の採用国となり、結果的に実戦で活躍した(黒江は同機で多数のレシプロ機を撃墜している)事で第五世代ジェット戦闘機の『ステルス性特化』ぶりが疑問視されるようになったという副次効果が生じた。――

 

 

 

 

 

 

――1949年には扶桑でのウィッチの社会的地位は大きく低下。地方では疎んじられる存在にまで落ちぶれていた。だが、天皇の玉音放送で片っ端から厄介払いに送られるようになり、軍部を困らせていた。そのため、一騎当千のGウィッチの価値はますます高まっていた。元来、自分達の領域以外に疎いのがウィッチの通例であったが、陸海空宙の全てに精通し、参謀任務にも充分に耐えうる。そこが日本による大追放で前線の幕僚不足に悩んでいた扶桑軍にとっての福音であった。義勇兵も便宜上は扶桑軍人として処理され、前線での人手不足は各地からの義勇兵で解消した。特に、カールスラント空軍は部隊ごとやってくるケースが続き、同空軍の統制が崩壊していることを衆目に晒す結果となった。これは軍縮でウィッチ部隊の大幅リストラが恐れられたためで、抗議を受けたドイツ連邦共和国は慌てて政策の歯止めをかけたが、政策の歯止めがかけられた1947年には、カールスラント空軍主力の過半数が日本連邦の義勇兵化しているという『大惨事』となっていた。これは扶桑における軍部の戦前二大軍閥(統制派・皇道派)の主要人物と現場の参謀・青年将校の中央からの大量追放で現場の混乱は甚だしく、人材の温存がされていたY委員会系の人材に依存するようになったのと似た経緯であった。本来、パイロット、幕僚、折衝、諜報を第一級のレベルでこなせる黒江と圭子のような『万能選手』は『世代一つにつき、数人も出ない逸材』である。だが、ダイ・アナザー・デイとクーデターでそれまでのエリート層が大量に失脚してしまった結果、軍部内部はシッチャカメッチャカであり、組織運営に多大な支障が生じていた。黒江はY委員会の承認を得て、自身が自衛隊に持つツテを使い、この頃に大量の幕僚を呼び寄せる。国内の統合幕僚会議のみならず、連合軍統合参謀本部の業務に支障が生じていたからだ。自衛隊内部の制服組は自身らの立身出世の機会と捉え、これに組織的に協力したのだった――

 

 

 

 

 

――1949年になると、64Fの中で比較的に若いウィッチである服部静夏でも18歳に達する。本来なら、ウィッチとしての盛りを過ぎる年齢である。だが、クーデター後の時勢では『18歳はまだまだ青二才』と認識されている。服部静夏は坂本の最後の直弟子であり、アニメにも出ているため、注目度は高い。その彼女もこの世界においては『統合士官学校卒間もない新人』にすぎず、芳佳との接点は史実より薄い。(ダイ・アナザー・デイでは別部署に配属されていたため、会ってはいない。1946年の戦闘時に芳佳に随行してはいるが、史実ほど憧れはしていないため、コメントに困るのが現状だ)――

 

「坂本教官、マスコミにコメントを求められて困っているのですが…」

 

「仕方あるまい。お前は他の時空では、私の後釜として、501に配属されている。当たり障りないコメントを出しとけ。この世界では、お前はまだ新人にすぎんのだ。下手に日本側の怒りを買ってみろ。ミーナとモントゴメリー中将の二の舞だ。当たらず触らずでいけ」

 

「参ります。宮藤少佐との接点はないに等しいのに」

 

「私も助け船を出しておく。もはや、フィクション通りにはなっていないというのにな」

 

坂本が引退宣言を派手にかました理由もそこにある。史実と違い、坂本は烈風斬に手を出す事はなく、穏やかに一線を退いている。ダイ・アナザー・デイを最後の華として。そのため、この場にいる坂本は眼帯をしたままである。七勇士最年少に近い坂本が最初の引退者となったのは運命のイタズラであるが、史実で現役に誰よりこだわっていた様からすれば、不思議なほどの穏やかな引退である。ミーナ本来の人格とは半ば袂を分かった形であるが、対外的には親友のままである。そのため、ミーナ本来の人格は仲間内では『死んだ』扱いとなっているため、恋人のクルトの墓前にミーナの好きだったものが備えられるに至っている。まほも『ミーナの名誉回復が自分に課せられた責務である』とし、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケとして生き、デザリアム戦役の戦功で少佐にまで階級を戻している。(大佐がミーナの現役中の上限となったが、退役時に名誉的に准将にし、将官としての恩給は保証されている)ただし、カールスラント籍のままであるが、思考回路は日本人であるため、住居は南洋本島に構えている。留学経験はあれど、本質的には日本人である西住まほにできるのはそのくらいであった。

 

 

「教官……」

 

「ミーナのことは知っていよう?友にしてやれる最後のことはした。だが、今度は教え子であるお前をマスコミからガードする事になろうとはな……」

 

 

 

――坂本のいうように、ミーナが人事的にはケチがつき、モントゴメリーが割を食った経緯は連合軍の恐怖の的であった。ミーナは確かに無知であったが、ちょっとした嫌がらせ程度の行為なのに『たいそれた国際問題』と化した事は連合部隊指揮官経験者を震撼させた。サーシャのやった人事処分もオラーシャの脱退で『なかった事になる』など、連合軍は政治に振り回されていた。マスメディアの扇動で失脚した官僚や軍人は多く、モントゴメリーも元帥昇進が取り消され、補給関連部署の長に押し込められたため、中央から外されたという意味で言えば、出世コースから外されている。坂本はサーシャのように『教え子が取り返しがつかないヘマをやらかさない』ように身の振り方を教えてやる。それが引退した身にできる精一杯の事だからだ……――

 

 

 

 

 

 

 

 

――ペリーヌ・クロステルマンは『扶桑で戦災復興に携わっている』と公式発表されているが、実際には紅城トワ/キュアスカーレットとして戦っていた。トワがペリーヌ・クロステルマンの変身した姿であるのは公然の秘密であったが、ダイ・アナザー・デイで本当に扶桑軍籍を作ってしまったので、ガリアには止めようがなかった。さらにいえば、シンフォギア世界での『フィーネ』も彼女の同位体であったという事実が明らかとなったため、キュアスカーレットは必然的に『トワイライト』時代、シンフォギア世界のフィーネとしての罪も背負って生きる事になった――

 

 

「アンタがフィーネの転生体だったなんて……」

 

「既にこの身は血塗られています。今更、免罪は乞いませんわ、クリス。」

 

「つまり、黒江女史に月詠の体から弾き飛ばされた後、プリキュアの世界に生まれ変わり、そこでも邪な道を歩み、その罪を背負っていく覚悟でプリキュアに…?」

 

「ええ。今の私はフィーネとしての記憶は宿っても、彼女の人格は残ってはいません。ですが、記憶は持っている以上はあなた方には告げておかなくては、と思いましたの」

 

「貴方は了子さんの記憶を持っていても、了子さんそのものじゃないんですね…」

 

「正確には、かつてはそうだったけれど、今は別人に生まれ変わっている。そう考えてくださいな、立花響さん」

 

「……でも、あの時に私に言った一言は覚えてるんですよね?」

 

「そこがなんとも申し上げにくかった点なのですよ」

 

桜井了子/フィーネの魂は調に宿っていたが、黒江に弾き飛ばされた後、プリキュア世界へたどり着き、紅城トワ/キュアスカーレットとして転生し、そこからペリーヌ・クロステルマンへ更に転生した。そもそも、ペリーヌ・クロステルマンがモードレッドの転生でもあるので、正確にはフィーネ↓モードレッド↓紅城トワ/キュアスカーレット↓ペリーヌ・クロステルマンという複雑怪奇なルートで輪廻転生を重ねたと言える。

 

「貴方は私達の世界で悪事を重ね、転生先でも邪な道を歩んだ。それを承知の上でプリキュアになったと?ふざけるなッ!」

 

「言ったはずでしょう?今更、免罪は乞わないと」

 

訓練を終えたばかりでシンフォギア姿の翼は思わず剣をトワに振るうが、トワは二本の指で真剣白刃取りを披露する。

 

「貴方が私たちの世界で妙な気を起こさなければ……奏は…奏は!」

 

「フィーネが行った事が引き金になって、天羽奏が死んだのは事実ですわ。ですが、彼女が生存していた場合、立花響さんと装者として共存する可能性は極めて低い。むしろ、彼女の死は……」

 

「キサマァァッ!」

 

思わず声を荒げ、頭から湯気が出る勢いの翼。翼らしくない感情的な姿だ。クリスも慌てる。

 

「おい、落ち着けよ!先輩!こいつはフィーネの記憶は持ってても、フィーネそのものじゃねぇんだぞ!」

 

感情的になり、トワの胸ぐらを掴む風鳴翼。天羽奏のことになると、途端に感情的になり、語気も荒くなる。クリスが諌めるが、翼は頭に血が上っていた。

 

「貴方の気持ちはよくわかりますわ。ですが、貴方は防人なのでしょう?天羽奏さんは貴方や皆を守るために命を散らした。それはわかっているでしょう?私は貴方に説教をするような身分ではありませんが、こんな事をして、天羽奏さんが喜ぶとお思いですか?」

 

翼はハッとなり、手を離す。

 

「……そういうのなら、貴方の贖罪の覚悟を見せてほしい。立花に『胸の歌を信じなさい』と言い残し、過去の行いを悔いて転生を繰り返し、プリキュアになったのなら…!!」

 

「……いいでしょう」

 

「了子さん……」

 

「今は紅城トワ。そう呼んでくださいな」

 

響にそう言いつつ、翼の切実な問いに応え、自身の数多の罪の贖罪の証である『もう一つの姿』を見せる。

 

『プリキュア・プリンセスエンゲージ!!』

 

炎に包まれ、彼女はプリキュアとしての姿を装者に見せた。その名も……。

 

『深紅の炎のプリンセス、キュアスカーレット!!』

 

オリエンタルな赤い着物風のコスチュームに身を包む、薄いピンク色の髪をした一人の戦士。ここまでくると、元の原型がないほどの変化である。

 

(なに……?この人を見た途端……胸が熱くなるような……!?あの時と……総司さんの時とも違う感じがする……!?)

 

響はキュアスカーレットを目の当たりにした途端に、胸の鼓動が早くなった事に気がついた。人格の入れ代わった時の前兆に似ていたが、荒々しい沖田総司の人格の時と違い、優しく、穏やかに胸が熱くなるような感覚である。それはキュアドリームやキュアピーチと対面した時と似たもので、彼女の中に眠っていたプリキュア因子が目覚め始めた証でもあった。

 

「あんたにフィーネがしたことを詰め寄っても無駄だってのは分かってる。先輩も悪気はねぇんだ。だけどよ…」

 

「分かってますわ。過去の罪は消えない。けれども、それを背負って新たな未来を掴みたい。その思いが私をプリキュアにさせたのです」

 

「師匠にはなんて…?」

 

「正式には別人なのですが,記憶を持つ者として、弦十郎にはよろしくやっていると」

 

「わかりました!」

 

風鳴弦十郎を愛称で呼ぶなど、シンフォギア世界の記憶がある事が端々で分かるキュアスカーレット。風鳴翼は天羽奏の死などで割り切れない感情があるのか、複雑な表情だ。だが、一番に詰め寄りたいであろうクリスが大人の対応を見せたため、年上の自分が醜態を晒したという恥ずかしさもあるだろう。

 

「本来なら、数千年は悪事を重ねたであろう身ですが、罪を背負って新しい道を歩める。桜井了子…フィーネが今際に響さんに言い残した一言が間接的に、私の運命も変えたのかもしれません」

 

響は嬉しそうだった。桜井了子が本当の意味で転生を重ね、プリキュアにまで至っていた事は自分が諦めなかった事が『キャロルは救えなかったが、桜井了子/フィーネの魂は確かに救えていた』からだろう。キュアスカーレットの優雅な振る舞いはクリスを地味に落ち込ませ、響のプリキュア因子を目覚めさせ、風鳴翼の心にある怒りをも氷解させていく。

 

「待ってくれ、あいつは知ってんのか?あんたが本来なら、あいつ(調)に転生してるはずって」

 

「知ってますわ。だからこそ、切歌が暴走したのです。ただ、姿が変わった別人がシンフォギアを普通に起動させられる事にはまったく考えが及ばなかったのは失態ですわ」

 

「切歌が暴走したのは、言動が変わっていたからだけど、元々の背丈より10cm以上大きくなっていたのに気づかなかったのは、本当にあの子の失態よ。それに切歌を気遣ったとはいえ、赤の他人に演技を強要した事で…、立花響。貴方に非がないとは言えないわ。黒江綾香がNOといえば、それまでだったのよ?」

 

「マリア」

 

マリアがやってきた。訓練直後のため、アガートラームを纏ったままだ。

 

「それは後で考えました。だけど、あの時は切歌ちゃんのことや、調ちゃんの帰る場所のことを…」

 

「貴方が善意でしたことは調も分かってますわ。ですが、帰る場所は誰かに与えられるものではありません。あの子は帰る場所を新しく見出した。それが野比家なのですよ。それはご理解してくださるよう」

 

「はい…。悪気はなかったんです。ただ、調ちゃんが元の生活に戻れるようにしたかっただけなんです。でも、私はあの子の事を分かってなかった……」

 

「あなたは黒江綾香と調の性格が違う事に思い至らなかったし、結果的に調の10年あまりの生き様を否定してしまった。それがしこりとなって出奔を招いたと後悔しているのでしょう?」

 

「私は調ちゃんが別の世界でどんな苦労をしてきたか知らないで、自分の思いを口に出してしまって、調ちゃんを傷つけた…。手を取り合うべきだったのに…。だから…」

 

「後悔はいくらでもできますわ。これから手を取り合えばいいのです。それが貴方にできることです」

 

「了子さ…じゃなくて、トワさん……。ぇ…が、ガングニールが……勝手に…!?」

 

響は感極まる。そして、その瞬間、響の中で何かが弾け、ガングニールが瞬間的に強制解除されたと思えば、光に包まれ…。

 

「こ、これは……貴方、やはり……!」

 

スカーレットも驚いている。響は周囲が固まっている事に困惑するが、ガングニールを纏った姿では無くなっている事、声のトーンがいつもより高くなっていることなどに驚く。そして、スカーレットが手鏡を渡すと……。

 

「え…えぇぇぇぇ――ッ!?わ、私……プリキュアになってるぅぅぅ――!?」

 

響本人も腰を抜かすが、鏡に映っていたのは立花響自身ではなく、プリキュアだったのだ。

 

「す、スカーレット……。こ、これは……!」

 

マリアがなんとか言葉を出せ、スカーレットも息を呑む。

 

「やはり貴方……因子を持っていたのですね……プリキュアの因子を…。そして、その姿こそ、ヒーリングっど・プリキュアの戦士である『キュアグレース』ですわ!!」

 

「え、えぇ―――ッ!?う、嘘ぉ!?」

 

響は自分の中に眠っていたものがプリキュアになる素質であった事に腰を盛大に抜かす。なお、シンフォギア装者としての属性と特性が影響したか、『ヒーリングっど』のプリキュアに必要なはずのヒーリングステッキ無しで変身(しかもガングニールより変身が優先された)した上、その姿をステッキ無しで保っているなど、イレギュラーである。

 

「わ、私が……プリキュアぁぁぁぁ――ッ!?み、未来ぅぅ……た、助けてぇぇぇぇ~~!」

 

黒江達の予測から四年。遂にキュアグレースに完全に覚醒した立花響。そのグレースの姿で盛大に落ち込み、親友の小日向未来にみっともないくらいにうろたえて助けを求めるという、情けないくらいのうろたえぶりを見せる。なぜ、彼女がヒーリングっど・プリキュアの戦士『キュアグレース』になれたのか?それは本人にもわからない。しかも本来の変身アイテムに加え、妖精を欠く状態でキュアグレースに変身している点についてはスカーレットにもわからない。だが、彼女が心の奥底で、ダイ・アナザー・デイで出会い、歴代プリキュアの中心に立って戦っていたキュアドリームの姿に憧れたことは事実であり、その願望が魂の持っていた因子を呼び起こしたのだろうという推測はすぐに立てられ、『プリキュア因子』のことをリコから聞かされ、予め事情を知っていたマリアのみが納得し、スカーレットに相槌を打つが、蚊帳の外状態のクリスと翼は『だ、誰か説明してくれーーーー!!』と言わんばかりの表情で虚しく叫ぶことしかできなかった。

 

 

 

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