ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第百三十一話「回想~黒江のシンフォギア世界での選択~3」

――シンフォギア世界の日本政府は米国からの干渉を受けまくっていたが、第三勢力のシンフォギア装者がいる事は断固認めず、対外的には二課の装者として、『シュルシャガナの装者』の存在を肯定する選択をした。これは自分たちに都合が良かったのだ。黒江の強さは他国への示威になり、なおかつ抑止力になると見込まれたからである。これに本人はかなり苦笑した――

 

「ち、ちょっと!どうなってるの!?これ!?」

 

「都合がいいからだろ?俺の強さは一国の軍隊とピンで戦えるくらいだと見込まれてるそうだし、外国の内政干渉への抑止力になると踏んだんだろう?実際は協力もクソもねぇってのに」

 

こうして、『月読調』という存在は最初から日本の装者であるかのように情報操作された。彼女の出自は似た平行世界では、『調神社の当代の宮司の孫娘で、両親が死亡した現場から連れ去られた』というもので、後に調本人がそれを知り、自分の故郷の世界に嫌気が差したとも言っており、かなりのショックであった事が分かる。(行った先でも国が滅んだため、調が野比家に定住する理由となる)。切歌はこのニュースに激怒したが、イガリマをナスターシャ教授に没収されているため、独自行動はできない。間接的に言えば、切歌が躍起になる原因はそのニュースであった。

 

「これを切歌が知ったら……」

 

「間違い無しに俺を殺しに来るな。周りがどうなろうがな」

 

「あの子はそんな子じゃ……」

 

「愛は臨界点を超えると、憎しみに変わっちまうこともある。俺はそういう光景を見てきたんでな。昔、伝説的ロックバンドのメンバーが狂信的なファンに殺された事件があったろ?あれを思い出してみろ」

 

「……」

 

「ま、いざとなれば……切り札がある」

 

「切り札?」

 

「そう。オリンポス十二神から授かった防具だ。それを呼び出す」

 

マリアは切歌の愛が憎しみに変わってしまう可能性を提示され、恐怖で震える。黒江はいざとなれば、黄金聖衣を呼び出し、纏うことでイガリマを防ぐことを明言する。イガリマの絶唱は『魂を刈り取る』特性を持つが、それは神の加護を持つ宝具には無力である。そもそも、その特性はイガリマ本来の特性ではないからだ。黒江はそれを確信している。切歌はイガリマの絶対性を信じているため、それを木っ端微塵に壊すものが存在するという事実を受け入れない可能性が大である。

 

「神授の宝具を使えば、確かにシンフォギアはねじ伏せられる。けど……」

 

「仕方ない。あのガキに暴走されて、一般人の被害お構いなしに、鎌を振り回されるわけにもいかんだろう。かと言って、加減しないと殺しかねないぞ、俺」

 

「あの力は全力ではないと?」

 

「俺の本気は神と戦えるレベルだ。お前らには視認すらできないと思う。シンフォギアは身体能力は上がっても、知覚は強化されないようだしな」

 

シンフォギアはあくまで『身体能力を引き上げるもの』で、感覚が特に強化されるわけではないので、白銀聖闘士までとは戦えても、光速を誇る黄金聖闘士相手には赤子同然である。(逆に言えば、映画の見様見真似だけで白銀聖闘士と戦えるレベルになった風鳴弦十郎は超人である証である)

 

「見えた瞬間には攻撃が当たってるから、鍛えてても、防御すらできんよ。攻撃に耐えたところで、反撃を掠らせるのが関の山だろう」

 

黒江は黄金聖闘士の中では珍しい、『素の身体能力を鍛えている』聖闘士である。一時は天秤座の後継を目されたこともあるが、シュラの死後に空位であった山羊座を継いだ。箒と智子が『正資格者が成熟するまで』の繋ぎ扱いであるのに対し、こちらは正式な後継である。

 

「なんだか、超人じみた話ね……」

 

「別の世界には、素手でビルを蹴り上げるバケモノがいるからな。俺なんざ、かわいいほうだ」

 

「嘘ぉ!?」

 

「そんな連中がゴロゴロいる世界にいたから、必然的に強くなったってわけだ。まさに魔境だよ」

 

黒江は未来世界で人類最高峰の格闘家たちの手ほどきを受けてもいたので、小宇宙頼りの黄金聖闘士もいた(蟹座のデスマスクなど)先代たちの多くと違い、肉体を鍛えた上で聖闘士になっている。そのアドバンテージはシンフォギア世界で実証されたわけだ。また、この頃には既に歴代昭和ライダーの技のいくつは再現可能な領域に達していたため、風鳴弦十郎でもない限りは対等に戦う事もできない。(他には、織斑千冬は最高の戦闘力を持つ人間をコンセプトに生み出されたデザイナーベビーであったので、なんとか戦える)

 

「素で音の速さを見切れないと、聖闘士と戦える土俵に立てないからな。たぶん、今の時点のお前らじゃ無理だろう」

 

黄金聖闘士と戦うには、最低でも青銅聖闘士最高位級の力を持つ必要があるため、この当時の装者全員が通常形態で束になろうと、相手にもならない事を黒江ははっきりという。黒江の実力は赤松には及ばないが、それでも当代屈指と評される実力を持つ聖闘士でもある。当時の装者達の実力では、戦う土俵にも立てないレベルの実力差である。

 

「どうして、そこまで断言できるのよ」

 

「神の聖戦が起きたら、いの一番に突っ込ませられる立場だからな。並の異能くらい、素でねじ伏せないとまずいだろうが」

 

「言えてますね…」

 

「だーからー!!」

 

未来はたいていの事には動じなくなっているのか、普通にコメントする。マリアは改めて、二人の会話がぶっ飛んでいる事にツッコミを入れる。

 

「ま、深く考えるのはやめろ。マジンガーZやゲッターロボが本当にある世界だってある上、そいつらが敵を倒すために惑星破壊級のエネルギーを奮うまでに進化していくんだからな」

 

「昔のアニメが本当に実現した世界もあるというの?」

 

「俺は実際に見てきたが、マジンガーZやグレートマジンガーどころの話じゃないぜ」

 

――終焉の魔神と魔神の神、魔神皇帝の対決はもはや、単なる機械の範疇を超えた戦いである。地球が滅ぶか否か。そのレベルである。当時、既に門矢士からマジンガーZEROの脅威を知らされていた甲児はカイザーの強化、ゴッド・マジンガーの調整、マジンエンペラーGの完成を急いでいたし、グレートマジンカイザーにエンペラーの『エンペラーソード』をテストさせるなどの対策を施している最中であった。また、旧・新早乙女研究所地下に眠るゲッタードラゴンの発するゲッター線濃度が急速に低下し始めている(進化を終えつつある)のもこの頃だが、敷島博士の発案で『ゲットマシンそのものがゲッターロボとしての能力を持つ』ゲッターの開発計画がネイサーで始まったのも、この頃にあたる。ブラックゲッターの後継機を目指して開発されるそのゲッターのベースには戦闘用ゲッターの祖である『ゲッタードラゴン』が選ばれた。だが、ゲッタードラゴンも元のままでは旧式化が目立ってきたので、真ゲッター世代の設計を取り入れることで新世代化が図られるはずである――

 

「スーパーロボットもどんどん威力上がってるからなぁ。マジンガーZが玩具扱いのとんでもない代物が生まれまくってるんだよ、その世界。たぶん、異端技術ってのも超えてるかもな」

 

「何よ、それ!!」

 

「俺に聞くな。実際にそうなんだから。つか、口じゃ説明できねぇよ、あんなの」

 

それは一年後、剣鉄也がグレートマジンカイザーで援護に駆けつけたことで証明される。Gカイザーは異端技術をもねじ伏せるほどの威力を以て、『魔神』の名を冠するのは伊達ではないと思い知らせる。同時に立花響に『自分の居場所を奪われる』と誤解されるが、別の世界の超科学が生み出した超兵器だと説明されることで冷静になり、とりあえずは落ち着く。しかしながら、わざわざ助けに来た鉄也にものすごく失礼な態度であるのには変わりないため、未来が怒る羽目になるのだ。響がダイ・アナザー・デイへの従軍を選んだ要因は『恩返し』であると同時に『自分なりのヒステリックな喚き散らしへの贖罪』でもあるのだ。

 

「つまり、昔のアニメみたいなロボットが暴れてる世界なんですか?」

 

「スーパーロボットとリアルロボットが混在する、ゲームみたいな世界だよ。俺が行ってる世界はそんな世界だし、おまけに宇宙戦艦ヤマトのオリジナルシリーズも内包してるから、異星人が馬鹿みたいに攻めて来るんだよ。そんなカオスってる世界だ。おまけに仮面ライダーとかもいるしよ」

 

「どれだけカオスなのよ、その世界……」

 

「スーパーヒーロー作戦とスーパーロボット大戦+宇宙戦艦ヤマトの世界……としか言えねぇよ。波動砲やマクロスキャノンや光子魚雷が平気で飛び交う宇宙戦争だぞ?お前らが見たら、泡吹くぜ?」

 

地球連邦軍は光子魚雷、マクロスキャノン、波動砲、次元兵器の四本柱の切り札を持つが、波動砲はその最高位に位置する。コズミック・イラ世界の軍勢には『拡散波動砲』、『マクロスキャノン』が使用され、地球連合軍、ザフトの双方に再起不能寸前に大ダメージを与え、停戦に持っていった実績を持つ。異端技術は所謂、『超高度な技術を持つ異星人のオーバーテクノロジー』であるため、それをも超える技術レベルの代物が現れれば、ねじ伏せられるのは当然である。グレートマジンカイザーはそのレベルの代物であっただけだ。(逆に言えば、それすらも破壊するZEROの威力がわかる)

 

「銀河全体を支配するような文明になると、惑星なんて軽く破壊する戦争になる。人類はとある世界だと、太陽系サイズの宇宙船で宇宙戦争する時代に突入していくからな。この世界での神様はアナンヌキかもしれんが、こっちは本物の神々と会ってるからな。その世界の人類も元はおとめ座銀河団で栄えた超文明の残党が猿に遺伝子操作を加えて生み出したとも言われてるし、地球の水は回遊惑星がもたらした説まで出てきてるんだ」

 

「その世界に先史文明は?」

 

「いた。だが、そいつらはある星を支配して、いずれは地球を攻めてくる。そいつがシュメール人の子孫だ」

 

未来世界でいずれ現れる『ディンギル帝国』は最初の地球人の末裔だが、エゴだけが肥大化した種族であり、和解は不可能。殲滅あるのみ。ハーロックもクイーン・エメラルダスも彼らの『ハイパー放射ミサイル』の脅威を警告しており、真田志郎へ対ハイパー放射ミサイル艦首ビーム砲の設計図をリークし、真田志郎も開発を急いでいる。また、30世紀の地球が起死回生のためにすがったシャルバート星から提供された技術が地球艦隊を強化したと聞かされ、彼がアケーリアスを祖とするシャルバート文明を理解するに至る道筋も築いている。

 

「この世界の先史文明がシュメールなのも、なんかの因縁かもな。そいつらとの和解は論外、絶滅戦争あるのみって結論だ」

 

「なんでですか?」

 

「回遊惑星がノアの大洪水を起こした時、宇宙人の円盤に救われた一団が先住民を駆逐した後に地球を移住先に決めて攻め込んできた。奴らは今の地球人は殲滅あるのみと考えてる。なら、こっちも情け容赦不要になる」

 

ディンギルは地球と同祖ながら、エゴだけが肥大化した傲慢な種族である。地球連邦軍も真田志郎に『対ハイパー放射ミサイル艦首ビーム砲』を開発させているように、殲滅あるのみという方向である。マリアと未来は『種族同士の生存競争の前に、文化は無力なのだろうか?』という虚無感に囚われる。別の世界でのこととは言え、心が痛む。

 

「わかりあえる時はわかりあえるが、無理な時は戦いあるのみ、さ。宇宙人の多くが言うことは奴隷か死だ。なら、相手を叩きのめすしかないのさ」

 

未来世界では、遭遇する宇宙人の多くが『侵略者』だったため、敵と見なせば、素直に降参しなければ、敵本土を破壊することにも躊躇がない。地球連邦軍もそのドクトリンに基づき、波動エンジン艦を持つ。ガイアと違い、アースは凄惨な生存競争を経ているため、いざとなれば、敵本星を滅ぼすことで戦争を終らせる。ウィンダミア王国の穏健派が怖れているのもそこである。波動砲を撃たれれば、星団そのものが波動砲で滅びかねない。彼らにとって、波動砲は『アケーリアスの滅びの光』の伝説そのものだからだ。

 

「地球の象徴はなんなの?」

 

「宇宙戦艦ヤマトさ。あれが地球最強の怪物だよ。いくつも星間国家を滅ぼしてきたからな」

 

「宇宙戦艦ヤマト……」

 

「もう古典の位置づけのアニメだけど……実在する世界あるんだ……」

 

あっけにとられる二人。宇宙戦艦ヤマトの名前くらいは聞いたことがあるからだ。

 

「オリジナルの宇宙戦艦ヤマトだから、沈没してた戦艦大和を直して宇宙戦艦にした代物だけどな。馬鹿みたいに強いんだ、これが」

 

地球連邦軍最強の戦艦はヱルトリウムでも、バトル級戦闘空母でも無く、宇宙戦艦ヤマト。その事実がヤマトのネームバリューの強さを示唆する。実際に、23世紀を過ぎた後、地球連邦軍はヤマトの名を受け継いだ戦艦を代々、総旗艦にする慣習を持つようになるからだ。(30世紀の大ヤマトは正規のルートでの後継艦ではないが、正統後継と見なされている)

 

「どうして、第二次世界大戦の沈没艦を?」

 

「完全に一から造る時間も余裕がなかったのさ。だから、戦艦大和の構造を基に、いくつか試作品を用意してテストし、大和型を修繕して改造し、宇宙戦艦に仕立て上げるしかなかったのさ。元はノアの箱舟に使うつもりが、戦艦になった。それがどうしたのか、地球最強戦艦だ」

 

ヤマトの見かけは宇宙時代には古臭く見える舟型の宇宙船だが、以後の地球連邦軍艦艇の多くが着水能力を重視するというインパクトを残した。また、ショックカノンなどとの兼ね合いで第二次世界大戦までの超弩級戦艦と同様の形態が取られる事が多くなったこともあり、地球連邦軍のヤマト以降の宇宙船は船形の姿が増えた。(観光用宇宙船ではロケット型が残っていたが、ある事故で撤廃される)結局、ジオンが航空機然とした大気圏航行能力を持つ船を持つのに対し、連邦軍は船形の船を持つ一方、ペガサス級などの『如何にもSFチック』な風体の艦を持つため、設計思想を使い分けていると言える。

 

「そんな世界で仕事してた身だからな。だから、情報が欲しいわけよ。この世界で何があったか。大まかには知れても、細かいデータは機密扱いだしな」

 

黒江は情報が欲しいことを素直に言う。それがなくては、今後、どう動くべきかの指針も立てられないからだ。

 

「切歌が見たら、泣くわね……その姿」

 

「俺だって、好きでこうなったんじゃないからな。それに、使えるもんは使う主義だしな」

 

シンフォギア姿でPCチェアに座る黒江(姿は調)。マリアがここで気づくが、本来の調より遥かに適合率が高いせいなのか、ギアのカラーリングがヒロイックな組み合わせに変わっているのだ。ギアは纏う個人で形状が変わるが、適合率が高く、なおかつ心象の違いでカラーリングが変わることもある事が確かめられた。

 

「あなた、そのカラーリング……」

 

「やっと気づいたか。これでわかんねーって、お前の仲間は相当にテンパってんぞ。」

 

「言われてみれば……」

 

マリアは頷く。未来は知らないが、調はこの時期、適合率の低さから、黒とピンク主体のカラーリングであった。適合率が上がり、心象の変化で明るい配色のギアに変わるのは、史実ではXDモードを経た後の魔法少女事変からだ。黒江はそれを先取りした形である。

 

「それと、貴方が使う武器、どうやって?」

 

「エクスカリバーは霊格の実体化だが、他は元素単位に分解したモノを再構成して呼び出してる。剣、斧、銃…。あと、元から技は撃てるから、それも使ってるな」

 

「以前の調と、大きくかけ離れてるはずなのに、何故気づかないのかしら…?」

 

「うーむ…。つまりだな。愛は盲目……なんて言うだろ?」

 

「ま、まさか……?」

 

青ざめるマリア。

 

「いえ、マリアさん。心当たりあるんで…、それはありえます」

 

「嘘!?……って!どーいうこと、貴方!」

 

「こ、コメント控えます、はい……」

 

「うーむ…」

 

未来は響と夫婦のような関係なので、そこはお茶を濁す。マリアは猛烈に突っ込みたいらしいが、黒江が困った顔をしているので、ツッコむのをやめる。

 

「三週間は稼げたから、その間は付き合うわ。この子を巻き込んだのは、私達のようなものだもの」

 

「サンキュー。よろしく頼む」

 

マリアは三週間ほどを調査の名目で稼げたので、その間は行動を共にすると明言した。未来にこのような生活をさせる事になった責任が自分たちにあるからだろう。装者の中で、比較的に黒江と良好な関係になるのは、この期間が大いに関係しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――黒江がいなくなった事はフェイトから報告が赤松に上がり、赤松はフェイトに調査を命じた。調査の最中に、聖闘士組へ聖域からの定期呼び出しがかかっていたこともあり、フェイトは聖域へ行き、アイオリアの後継扱い(一輝への場繋ぎだが)獅子座への正式な叙任式を終えた後、アテナ/城戸沙織へ報告。黒江の捜索はアテナ直々の勅命となった。その頃から、後にプリキュアへ覚醒するウィッチたちにその兆候が現れだしたのである。今回はキュアドリームの覚醒の出来事が大まかには黒江がいなくなっていた時期に殆ど重なった事を示そう――

 

 

――504基地――

 

「クソ……、あの変な夢だ。どうなってやがるんだ……」

 

中島錦はこの頃、妙な夢を見るようになった。その夢はとても現実味に溢れ、自分の事のような感覚を覚える。

 

――XXX!早く~!行くわよ~――

 

――ち、ちょっと待ってよぉ~!――

 

21世紀の学生がよく着るブレザーを着た自分が親しい誰かに発破をかけられる。体験していないはずなのに、懐かしさを覚える。困惑する錦。504としての残務処理をしている最中のある日のことだ。そんな夢を見る日が何日か続いたある日の事。

 

――ある日――

 

「おい、天姫!!おい!ちっくしょぉぉぉ!!」

 

錦は慟哭した。新型怪異が504基地を急襲し、発進直前の諏訪天姫がその餌食となった。ストライカーが爆発し、放り出され、地面に叩きつけられた天姫は、当然ながら重傷を負っていた。自分では魔力での応急処置はできず、当時の504の隊員で、治癒魔法を触りでも使えるフェルナンディア・マルヴェッツィを呼び出すが、彼女は新型怪異への対処で精一杯。他の隊員も応援に行けない状況だった。(フェルはその数日後、ゴースト無人戦闘機と戦闘。負傷して後送されるため、この時が共に戦った最後の日であった)そんな間にも天姫はどんどん血を流していく。慌てて応急処置は施すが、彼女にはそれで精一杯だった。

 

「錦ちゃ……わた……ことは……」

 

「ばっきゃろー!!お前を見捨てたら、お前の妹と姉貴に顔向けができないだろ!!」

 

「……にし…らし……ね…」

 

錦は天姫のそのうわ言で必死に堪えていた感情が一気に爆発した。その時だった。錦の中で何かが始めた。

 

「俺……ううん…、『あたし』の大切な仲間を……これ以上傷つけさせない!!」

 

一気に溢れた感情を引き金に、錦はいつの間にか『別人』になっていた。天姫の傷ついた姿が彼女の宿命を覚醒めさせたのだ。黒髪がピンク色になり、髪型もおかっぱ頭に近い短髪から大きく変化し、完全に別人となる。そして、彼女の手には、いつの間にか何かのアイテムが握られていた。彼女は叫んだ。彼女、正確には彼女が『前世』で世界を守っていた戦士となるキーワードを。それと同時にアイテムのボタンを順序良く押して。

 

『プリキュア・メタモルフォーーーーゼ!!』

 

その叫びと共に、彼女は戦士となった。魂の記憶が呼び覚まされた結果だった。彼女は名乗りをあげる。彼女が前世で戦士であったという確かな証拠でもある。

 

『大いなる希望の力、キュアドリーム!!』

 

――キュアドリーム。プリキュア5の実質的なリーダー格であり、三代目ピンクプリキュア。変身者は夢原のぞみ。錦は彼女の転生体だったのだ――

 

「やはり……!貴方……」

 

「わ、竹井さん!?」

 

「のぞみ、私の事を覚えてないかしら?」

 

微笑む竹井。その仕草に覚えがあるドリーム。ある後輩の仕草そのものだった。

 

「え、ま、待って!?そ、その喋り方……み、み、みなみちゃん!?ど、どうして!?」

 

竹井は自分もプリキュアに覚醒めていた事、自分が海藤みなみ/キュアマーメイドの生まれ変わりであるとカミングアウトした。そして。

 

『プリキュア・プリンセスエンゲージ!!』

 

彼女もキュアマーメイドとなる。ドリームは驚く。竹井もプリキュアであった事もそうだが、上官が現役時代の後輩であった海藤みなみであったからだ。

 

『澄みわたる海のプリンセス!!キュアマーメイド!!』

 

「ま、マーメイド……どうしてここに!?」

 

「お互い様でしょう?これで智子先輩には事後報告になるけれど、仕方ないわね」

 

「え、智子先輩、来てるの?」

 

「本当は統合前最後の視察だったのだけど、今は私たちでなんとかしましょう!」

 

「久しぶりに暴れるよ、マーメイド!」

 

「YES!!」

 

 

 

――こうして、現役時代の隠語『YES!』(プリキュア界隈では了解の意味)を言い合い、二人は二手に分かれ、怪異を撃破した。ドリームはプリキュア・シューティングスターで怪異を貫き、マーメイドも赤ズボン隊が補給をしている僅かな間に、モードエレガントにフォームチェンジし、極め技の『プリキュア・マーメイドリップル』を撃ち、怪異を瞬時に倒した。ただし、竹井は戦闘隊長としての残務処理の関係で、黒江たちへの報告がかなり遅れたため、彼女がプリキュアと認定されたのは、ミューズとビートより後の事になった。黒江がシンフォギア世界で苦労し、帰ってくる頃にプリキュア達の覚醒が始まったわけだ。黒江がシンフォギアを手に入れたタイミングと無関係ではないだろうと推測されたが、既にこの頃には、キュアフェリーチェ/花海ことはが野比家にいたため、のぞみは『ウィッチ世界で最初に確認されたプリキュア』という肩書きとなった。智子がプリキュア・シューティングスターを目の当たりにし、年甲斐もなく変身願望を持つようになったのは言うまでもないが、黒江が帰還する頃には、少なくとも二人は覚醒していた事になる――

 


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