――黒江はシンフォギア世界に事故で飛ばされた後、月読調の立場に置かれた。だが、黒江は即座に武装組織『フィーネ』から離脱。風来坊のような事をしつつ、コスプレ喫茶で生活費を稼ぐ生活をやり始めた。小日向未来はしばらくは黒江と共に行動を共にする事になり、休学届だけは出した後は市内の東西南北を転々とする日々となった。これは米軍特殊部隊が未来の家族を襲う可能性を考えてのものであった。とは言え、シンフォギアのスペックを用いなくても、黒江は充分に強い(後に、続々と現れるプリキュア達を尚も上回る)ため、自分自身のことは深刻に受け止めてはいなかった。銭湯に置かれているマッサージチェアにお互いに隣り合わせに座りながら、二人は浴衣姿でくつろぐ――
「あなたのいた時代って……」
「1945年。史実なら太平洋戦争の終わり頃だ。だが、根本的に歴史が違うからな。この世界で言うノイズ、だったか。それと似たようなものと戦ってた。だが、別の世界からの迷い人が現れたことで状況が変わっちまってな。人同士で久しぶりに戦争するハメになった世界にいた。そこの日本軍のパイロットだった。パイロットと言っても、機械の箒で飛ぶ魔女みたいなのが本業だったが」
「機械の箒?」
「飛行機の胴体を小さくして翼をつけたようなものを履いて飛ぶんだ。箒で飛ぶより簡単だから、軍隊に行った魔女はそれで飛び、バケモノと銃や剣で戦う。そんな世界だったが、別の世界の23世紀の宇宙戦争に負けた軍隊の残党が迷い込んできたことで状況が一変した。俺の世界の日本は、そいつらを追いかけてきた『勝った側』に与して、アメリカを抑えた連中と戦争をしてる。バケモノと戦い続けて、欧州はてんでダメだからな。日本がやるしかない状況になった」
未来は黒江の本来の仕事が軍人であり、本当に戦争をしているという事を感じ取った。SFのようだが、シンフォギアがある以上、何でも起こり得ると思ったのか、すんなりと受け入れた。黒江は予想外と言った表情だったが、未来はそういった突拍子もない状況に慣れていたため、黒江の話を信じたのだ。
「…普通は『嘘ぉ』とか言うもんだが、お嬢ちゃん、慣れてるな?」
「友達が友達ですからね」
「なるほどな。極道の事務所を一個潰してるから、俺の噂は街に流れてるはずだ。だが、写真は撮られてねぇし、証言だけじゃ、俺には辿り着けん。たぶん、お前の友達がいる機関はお嬢ちゃんを探しているだろうが、我慢してくれ。休学届で生存している事は分かるはずだ」
「ええ…。(ごめんね、響)」
バツが悪い思いだが、米軍に目をつけられていないという事が確認できるまでは隠遁生活を送るしかないのだ。そして、黒江綾香という目の前の人間は『月読調』と誤認されているという。姿は月読調そのものだが、背丈は元の黒江と調の中間程度。能力は黒江のそれがそのまま維持されている。着の身着のままなので、シンフォギアを使っているという。
「お前の友達の仲間とは戦ったが、手加減してある。本気でやったら、えらいことになるからな」
「シンフォギア使わなくてもいいんじゃ?」
「万一の身体保護と訓練を兼ねて、使ってんだよ。あれに負担はかけないからな、俺の力なら」
後に判明するが、黒江のチバソング値であれば、可視のサウンドエナジービームが出せるために、外部からシンフォギアを強制起動させる事も可能である。だが、これでもチバソング値は熱気バサラ以下、ミレーヌ・ジーナスと同レベルなあたり、熱気バサラのポテンシャルが分かる。その関係で、シンフォギアを整備なしで超長時間の展開をしていても、シンフォギアに負担がかかっていない。(後に、エルフナインはこの事を『信じられない』と驚愕する)
「さて、戻るか」
「ええ。」
黒江は着の身着(背丈が急に伸びたため、離脱前にマリアが慌てて買って、着せていた洋服)に着替えた後、シンフォギアを展開する。ほぼ瞬時に展開するため、何が起こったかに周囲は気づかない。外に出、再び『非常Σ式 禁月輪』でネット喫茶へ戻る。黒江と未来の奇妙な共同生活はこうして幕を開けた。
――とは言え、黒江(姿はシュルシャガナを纏った調)の目撃情報そのものはネットに溢れていたため、断片的には特異災害対策機動部二課も武装組織『フィーネ』も情報は得られていた。また、日本のシンフォギア装者が組織に属さずに動いているとは思われていない時期でもあった事、黒江がノイズを倒していたため、日本の新たなシンフォギア装者かと取り沙汰されていた。特異災害対策機動部二課も困惑し、回答を控えていた。黒江が未来を保護して数日後のこと――
『ダブルトマホォォォク!!』
二課では、ネットで確認された『月読調』の動画の確認作業が行われていた。ノイズを二振りの両刃のポールアックスらしき武器で両断し、人々を救助している。そして、別の動画では。
『まーた出やがったか。引導を渡してやるぜ!』
見たことのないデザインの機関銃を二丁拳銃のように持ち、乱射。ノイズの先鋒を蹴散らす。続いて、マントを纏ったかと思えば、両腕のアーマーに複数の刃を展開し、突撃していく。なんとも劇的であると同時に、シンフォギアの機能とまったく関係を見いだせない。歌を口ずさむ様子すらなく、シンフォギアのポテンシャルは発揮されていないように見えるのに、何かの特撮ヒーローのような強さだから、もうわけがわからない。
「アームドギアじゃないのか?」
「いや、見てみろ。雪音。彼女はアームドギアを召喚する素振りはない。むしろ、空中の元素を固定して、一から武器を作っているようだ」
「本当だ……。昔の特撮ヒーローよろしく、ワイヤーフレームみたいな光で武器の輪郭が現れて、そこから実体化してやがる」
「調ちゃん、前と別人みたいだよね…。前は鋸を使ってたのに、こんな斧や銃を使えるなんて」
「……あいつ、そんなこと言ってやがったな。前に戦った時、あいつはあたしと大差ない背丈だったはずだ。それが見てみろ」
「あ、翼さんと大差ないくらいになってる…?」
「人間、いくら食い物を食っても、短時間でこんな背丈が伸びるわけねぇ」
「そうだ。姿は以前に確認された『鋸を使うシンフォギア装者』と酷似しているが、ギアの細かい形状の違い、装甲のカラーリングの違いが確認され、使用している武器の傾向もまったく異なる上、『彼女』らとも敵対しているようだ。」
「本当かよ、おっさん」
「各地の監視カメラや衛星、ドローンなどで撮影された映像などで確認は取れている。未来君の捜索と並行して行っているが、双方ともに目立った成果はない。ただし、彼女から休学届が出されたということだけは確認が取れた」
「え、休学届!?って事は、師匠!」
「うむ。少なくとも無事ということだ」
「でも、休学届なんて……なんで……」
「立花、あまり気に病むな。緒川さんも小日向を探してくれている。今はこの装者の事を考えるんだ」
「調ちゃん、どうして一人で行動してるんだろう?切歌ちゃんとあんなに仲が良かったのに」
不思議がる響。率直だが、的を射ている指摘である。切歌と調は『二人で一人』かのように、常にペアで動いていた。それが仲間割れを起こすのだろうか、と。調が別人のようになっていることと併せ、この場では結論は出なかった。
「街の東地区でノイズの反応をキャッチ。現地の映像を出します!」
オペレーターの一人である藤尭朔也が二課の臨時本部(潜水艦)からネットワークに接続し、現地の映像を出す。すると。
『そうか…こいつらが……。あの人とあいつから得た力の試しどころだな』
「調ちゃん!」
「何をするつもりだ……?」
『エレクトロファイヤー!!』
掛け声と共に腕をこすり、静電気を発生させてから地面に手を叩きつけることで瞬時に砂鉄を浮き上がらせ、相手への導線にして高電圧を流す映像が大写しで映る。ノイズは単純に電流を流した程度では吹き飛ばないはずだが、盛大に吹き飛んでいく。そして。
『~放て!心に刻んだ夢を~♪未来さえ置き去りにして~』
その歌は明らかに、以前の調とは全く異なるビートを刻むものだった。そして、シンフォギアの機能を使わず、その身で起こした電気エネルギーで以て戦っているようにしか見えなかった。その戦い方は荒っぽいが、どこか洗練されているようでもあった。
『~迷いなんて吹き飛ばせばいい~♪この心が叫ぶ限り~誰ひとり邪魔などさせない~!』
そう歌いつつ、指でコインを弾いて、電磁加速を加えて極超音速で放ち、大型ノイズを真っ向から撃ち抜く。シンフォギア世界の人々には信じられない光景である。射程はコインの耐久度の限界の都合か、50m台。『射撃』としては短いが、電磁加速させて撃つため、その貫通力は折り紙付き。イチイバルの重火器でも容易には撃破できなさそうな大型ノイズを真っ向から貫き、完全消滅させる威力は二課の面々を呆然自失に追い込む。
「嘘だろ……!?」
「あの大きさのノイズをいとも簡単に屠っただと……ッ!?今のはなんだと言うのだ!?」
「おそらくは、ローレンツ力を応用し、物体へ電磁加速を加えていると思われますが……信じられません…。現在考えられるだけのあらゆる科学的パワーソースを用いても、あの出力を実現させる事は……!」
「なんだとッ!?」
女性オペレーターの友里あおいが冷や汗タラタラで報告するが、臨時本部のコンピュータで試算した先程の『超電磁砲』の電圧は何億ボルトという途方のないもので、あらゆるパワーソースを用いても叩き出す事はほぼ不可能と思えるほどの数値であった。もちろん、付近の電気機器は黒江の電撃の余波で壊れるのが続出しているのは言うまでもない。
「言うならば、今の攻撃はレールガンか、コイルガンのようなものとしか……。しかも、弾に使ったのはゲームセンターのコインの模様です…」
普段は冷静な彼女が青ざめ、説明に四苦八苦する様子から、三人の装者は事の重大さを悟る。特に翼とクリスは『力の差』を改めて突きつけられ、言葉を失っている。響は調(?)の唄う様子から、ちょっと安堵したようだ。
「良かった。調ちゃん、歌を捨ててないんだ」
この場では的外れ気味なので、クリスに呆れられる。
「お前なぁ~…」
「だって、ギアは歌わないと、力が出せないんだよ?」
「そりゃそうだけどよ……」
「いや……あの装者はギアの力には頼っていない。見ろ」
翼に促され、二人が場面に向き直ると。
『ライトニングフレイム!!』
黒江もこの時点では習得間もない、『アーク放電を用い、『焔』を追加して威力と有効範囲を強化した究極のライトニングプラズマ』を放つ。これは先代の射手座の黄金聖闘士『アイオロス』が用い、実弟のアイオリアへ伝授できなかった獅子座の失伝技の一つ。黒江はそれを極め技として放った。超高温の青白い焔を伴う、途方のない威力の電撃がもたらす破壊はその場に出現していたノイズを一つ残らず焼き尽くす。
「ノイズ、完全消滅を確認……」
オペレーター達の震える声がその凄まじさを物語っていた。幸いにも、避難で無人となった区域とは言え、周囲の鉄筋コンクリート造の建造物群をドロドロに溶かすほどの超高温の焔が奔った後の地面はあまりの高熱でガラス化を引き起こしている。
「なんだよ……。とんだバケモンじゃねぇか!?」
「ルナアタックの時の最終決戦で使われた完全聖遺物をも上回るものがこの世に存在するとは……」
「調ちゃん……いったいどうなったの……?」
映像の調は人智を超えた技を繰り出し、街の一区画を完全に焼き払った。しかも、それほどの大技を繰り出して尚、苦にしていない様子。シンフォギアの機能を一部しか用いていないと推察される上、何度かの交戦で繰り出された『エクスカリバー』と称される技は見せていないのだ。二課の面々は突きつけられた事実の重大さに息を呑む。
「待ってください。彼女のまとっているシンフォギアのエネルギー反応は微弱ですが、波長を解析した結果、わかりました。ですが………」
「どうした?」
「シュルシャガナです」
「シュルシャガナ…だとッ…!?シュメール神話のものか!」
この時に、調が使うシンフォギアはシュメール神話のシュルシャガナを基にしたものである事が判明したが、これまでと矛盾するところが多すぎるのである。(実際には、黒江はエクスカリバーとエアの霊格を宿しているため、シンフォギアと関係なしに宝具の力を行使できるのだが)
「待ってください、彼女は召喚した剣をエクスカリバーと称していた。シュルシャガナは伝説では曲刀のはずです」
「うむ。矛盾が多すぎる。エクスカリバーが先史文明時代の完全聖遺物として残っているとは考えられん。アーサー王伝説はここ数千年の内に完成されたものだ。それに、彼女はギアの力で武器を召喚しているのではないようだ」
調はこの時期には手持ちのアームドギアを有していないはずであった。それは確認されていたので、多種多様な手持ち武器を使い、ギアの元になった聖遺物がシュルシャガナと、謎を数多く提示した形である。また、全ての点でギアのスペックに頼っていたはずの調とは、まるで別人のように戦闘力が向上している事、見せる表情もまるで異なり、戦闘で血が沸き立つかのような薄ら恐ろしさすら感じさせる。
「彼女が敵か味方かは、まだ判断できん。だが、これだけの力を発揮できる装者である以上、敵であってはほしくないものだ…」
風鳴弦十郎をして、そう言わしめる圧倒的戦闘能力。フィーネ相手に勝てそうな勢いであった彼をして、そう言わしめたのが黒江の戦闘能力がシンフォギア世界の常識の壁を三個は有にぶち破っている事を物語っていた。また、後に調本人も行う『昭和の仮面ライダーのようなマフラーをする』形態はこの時に黒江が纏う際の形態として初めて出現する。響がV3のような形態であるのに対し、黒江(後に調)はオーソドックスな仕方をしている。色は白く、仮面ライダーストロンガー/城茂の影響が強く生じていた。
「あれ、師匠。調ちゃんのギア……よく見てください」
「首に白いマフラーを巻いているな」
「お前と違って、オーソドックスな巻き方だな」
「私のは特別だよぉ、クリスちゃん。どういうことなんだろう?」
「わからんが、何かかしらの心象の変化があったのかもしれん」
黒江にギアが馴染んだかは定かではないが、シュルシャガナのギアには白いマフラーが追加されていた。黒江が転生を重ねても抱く『ヒーローの理想像』が城茂である故だろう。後に、調本人もある時にのび太にマフラーを巻いてもらったこと、キュアドリームを始めとする歴代プリキュアなどのようになりたいとする心象の影響で『マフラーをしている形態』を取る様になる。城茂の影響で風来坊的な事を好む黒江、その影響を強く受けたが故に、帰還前と根本の思考が変わった調。両者を結びつけた最初の共通点の一つは『飛ばされてしばらくした後で、境遇の理解者を得た』ことであろう。
――現地――
「なるほど。こいつは心の変化でも微妙に形を変えんだな。最初に茂さんに助けてもらってもらって、もう随分だが……昔はあの人に本気でときめいた事もあったっけか」
黒江はふと過去を振り返る。自分が今の振る舞いになった最大要因は仮面ライダーストロンガー/城茂との出会いである事を再認識し、転生を重ねる前には恋心を抱いた事を思い出す。仮面ライダーJ/瀬川耕司と仮面ライダーBLACKRX/南光太郎の力で仮面ライダー達に黒江が転生を重ねる選択を選んだことにまつわる記憶が宿ったため、今では家族同然の付き合いになったが、城茂の心には岬ユリ子/電波人間タックルがいるため、黒江は恋については諦めた(黒江がこの後も独身なのは、城茂への淡い思いがあったためで、南光太郎と後に良い仲になる智子とは対照的であった。)形である。
「ケイを現し世に引き戻したのも、俺の責任だし、この世界を守るとするか。智子がプリキュアになりたがってるのは笑えるが、もし、会った時に胸を張れるようにしないとな」
この時は思いも寄らなかったが、黒江の帰還後に歴代プリキュア達が続々と現れ、自分の部下になるのである。その最初の人物が夢原のぞみ/キュアドリームであり、変身完了後の決めポーズに仮面ライダーストロンガーとの共通点があるのは偶然ではないだろう。(のぞみ本人も自分の決めポーズの先駆者が仮面ライダーストロンガーという事は転生後に初めて知り、彼のように強くなりたいと吐露する)なお、ケイが前回の死後にゲッターの使者になったこと、ケイがその本来の使命よりも、自分との約束を守ることを選んだことへ負い目がないわけではないためか、シンフォギア世界を守ることを選んだ。
「♪つっぱしれ~そらをとべ~ブラックサタンを倒すまで~……」
のび太の世界となのはの世界で放映された仮面ライダーストロンガーの特撮ヒーローとしての主題歌を口ずさみながら、その場を去る黒江。小日向未来のこともあり、黒江はシンフォギア世界での自分の役目を悟り始める。そして、この頃から出会う予感はしていた『歴代プリキュア達』や自分が敬愛する昭和ライダー達に恥じないようにこの世界で過ごすこと。御坂美琴やのび太が来ていても、同じ選択を取っただろうと考え、どことなく晴れ晴れとした気持ちであった。
――黒江はこうして、シンフォギア世界での自分の役目を悟った。この世界を『月読調』(後に、黒江は調の名前の漢字の肝心なところをど忘れしたため、読ではなく、詠の字を使う事になる。それを後に調本人も心機一転の意図で使い始める)として守りつつ、元の世界に戻るきっかけを探すことを決意した。未来もその思いを応援してくれたため、黒江はこの日を境に行動を変化させ、しばらくは第三勢力的なポジションのシンフォギア装者として振る舞う事になる。この大胆不敵な振る舞いに『確信』を抱いたマリア・カデンツァヴナ・イヴは切歌に暫くの外出禁止を科しつつ、単独で調を追うようになる。その切歌の精神状態は二度の敗北で急速に不安定となり、『調はフィーネに乗っ取られた』という実際には起こっていない事を信じ込むようになり、他人のこともお構いなし、問答無用でイガリマを突き立てるという妄執に囚われ始め、言動が狂気を帯び始める。共依存状態が強制的に解消されたことに『フィーネの覚醒への強い恐怖』が重なっての悲劇であった。組織の統率者であるナスターシャ教授も切歌の精神状態の急速な不安定化には強い懸念を持ち、外出禁止令を出すに至った。だが、切歌の抱く強度の被害妄想は徐々に彼女を狂わせ、周りの人的被害すら顧みない行動をしてしまうのである。それが切歌が国連に『未成年テロリスト』という認識を持たれ、彼女らが過去にいた国である米国が国際司法裁判所に死刑を求刑するに至る理由であった――
――マリア・カデンツァヴナ・イヴはしばらくは単独で調を追うと、ナスターシャ教授に告げた。出かける際にウェル博士にLINKERをもらうと、単独行動を取った。切歌を連れていけない上、二課との交戦を考えたからだ―
――その三日目の事――
「なんだ、この前のお嬢ちゃんか」
黒江はマリアと対峙した。
「貴方、月読調の姿をしていても、調本人じゃない。そうでしょう?」
「そうだ。どうして、そうなったかは俺にも説明できん」
「貴方がどこの誰なのか、簡単には答えてくれなさそうね?」
「少なくとも、この世界の住民じゃないのは確かだがな」
「そう……。あの子のためにも、そのギアは腕尽くでも返させてもらうわ。Granzizel bilfen gungnir zizzl……」
聖詠を口にし、当時の彼女のギアであった『黒いガングニール』を纏い、槍型のアームドギアも構える。対する黒江は。
「槍か……いいだろう」
黒江はシュルシャガナのギア(マフラー発現形態)を使用しつつ、得物は風王結界を纏い、不可視の形態である聖剣である。
「なっ……貴方……!私を……」
「馬鹿、よく見てみろ」
「風のように見えるけれど……それでこのガングニールに立ち向かう気かしら?」
風王結界を纏うため、不可視の剣と言った体裁の聖剣。マリアはガングニールの槍に風で立ち向かう気かと煽る。芝居がかった口調であるが、マリアなりのはったりが入る。
「グングニルか。なら、見せてやるとしよう!」
黒江はシュルシャガナのギアで踏ん張りは効かないはずだが、それを感じさせない動きでの剣さばきを見せつける。得物の関係でマリアが優位のはずだが、黒江の剣技は間合いを感じさせないほどの熟練のものだった。翼と互角に戦える技能を持つマリアだが、ガングニールのアームドギアでは宝具である聖剣には分が悪かった。
「くらいなさい!!」
槍型のアームドギアでのエネルギー砲撃『HORIZON†SPEAR』を放つマリアだが、そのエネルギーを黒江はこともなげに切り払う。
「え!?」
その呆気にとられた一瞬を黒江は突く。
「風王鉄槌(ストライク・エア)!!」
黒江が開放したそれは全てを吹き飛ばす暴風となり、マリアを空高く舞い上げ、吹き飛ばす。
「ああああ――ッ!?」
吹き飛ばされつつも、マント、更にアームドギアを使うことでなんとか着地した彼女が目にした黒江の得物の真の姿。その輝きに彼女は言葉を失う。
「お、黄金の剣……!?」
辛うじて、その一言を絞り出すのが精一杯だった。そのまばゆい光を放つ、伝説で見たような装飾の施された柄を持つ剣こそ。
「そうだ。聖剣・エクスカリバー。お嬢ちゃんも名前くらいは知ってんだろ?」
不敵な笑みを浮かべる黒江。この時の輝きにシンフォギア世界の機器が反応を示し、アウフヴァッヘン波形という形で感知され、二課の臨時本部で風鳴弦十郎は英語で『Excalibur』と記された表示に『エクスカリバーだとぉッ!?』と驚愕するハメになった。(イギリスで似た聖遺物の破片が過去に発見はされていたため)
「エクスカリバー……。そんな、嘘でしょう……!エクスカリバーはそれと思われる聖遺物の破片は発見されていたけれど、誰も本気にしていないし、そんな完全な形で残ってるはずがないわ!」
「それはこの世界での事だろう?」
「…!?」
「俺は神様ご公認の聖剣使いって奴でな。カリバーンからエクスカリバーへ『霊格』を高め、この身に宿している。それを実体化させたのがこれだ。お前らのいう聖遺物とは根本から違う代物だな。言うならば、宝具だ。これを見せたのは、お嬢ちゃん。お前への礼儀だ」
「聖剣使い……!?霊格…!?宝具!!?」
いきなり、初めて聞く単語に叩きかけられたマリアは混乱状態となる。だが、分かるのは先史文明の遺物でない神授の宝具を目の前の装者は持つことである。
「この聖剣・エクスカリバー、そんな槍で太刀打ちできるとでも?」
「ガングニールをそんな……って…!ふざけ――!?」
黒江はエクスカリバーの突きでガングニールのアームドギアの穂先を破壊する。アームドギアは通常兵器では傷一つつかないが、相手が本物の宝具では分が悪く、刃先が穂先に触れただけで罅が入り、粉砕される。
「言ったろう?太刀打ちできないと」
マリアは呆然自失の状態で立ち尽くす。黒江のエクスカリバーの前には『無双の槍』と自身が誇ったガングニールのアームドギアは無力であった。穂先がエクスカリバーの刃先とぶつかっただけで粉砕されたのだ。内心では泣いて喚き立てたいくらいのピンチとなったが、おくびにも出さずに虚勢を張る。
「貴方のその剣……どうやら本物のようね…」
「さて、どうする?お嬢ちゃん?」
「わ、私は20歳超えよ!」
「こちとら、年金世代だって言ったろ?」
マリアはテンパると、妙にコミカルな側面が出る。精一杯に虚勢を張っているが、黒江を前にして、ペースを乱されている。
「お前、レッサーパンダの耳みてぇなのつけやがってからに」
「れ、レッサーパンダぁ!?」
ガングニールのヘッドギアをレッサーパンダに例えられたのがショックだったのか、一転してコミカルな表情で涙目になる。
「何で、何で……レッサーパンダなのよーーー!!」
と、シリアスな空気が一転してギャグと化した。マリアは涙目で猛抗議を加え、それを『そんなの俺が知るか!』と返す黒江。マリアはギア姿ですねてしまい、『ふーんだ』とも言いたげに落ち込む。意外と子供っぽいところがあるのだ。これには閑古鳥が鳴く黒江。
「……あのなー」
呆れてしまい、そういうのが精一杯の黒江。マリアは装者の中では、黒江と良好な関係になるが、そのきっかけがこの交戦だったのである。
「流石にハタチ超えでこれはどうかと思ったわよ……」
とはいうものの、後にアガートラームを纏う事になるので、そう考えると年齢的意味での羞恥心と戦うというのも大変なのだ。マリア本人が後にアガートラームをノリノリで纏うのを考えると皮肉ではあるが、ある種の真実ではあった。