――黒江の元の実力は『剣技で鳴らした』ものの、魔力は平凡に入る数値のウィッチであり、引退後はテストパイロットとして余生を送るはずであった。黒江はそれを良しとせず、運命に抗い、転生を重ねた。転生の度に限界まで己を限界まで鍛え、最終的な結果が現在の超絶的戦闘能力なのだ――
「貴方、どこでそんな力を……」
「そうだな、輪廻転生をマジで何回もして、記憶を引き継いで、その上で肉体をその度に鍛えた最終的な結果だ。お嬢ちゃんとは差があって当たり前さ」
「輪廻転生…フィーネのような?」
「違う違う。本当に死んでから、生まれる頃に戻って…を繰り返した結果だよ。その内にオリンポス十二神の闘士になっただけだ。」
聖闘士はなれる確率は低いとは言え、一応は女性にも門戸は開かれている。黒江の代では特別枠の『聖闘少女』が廃止され、完全に通常聖闘士と統合された(聖戦後はそんなに人間を確保できない上、先代黄金聖闘士の全滅で育成制度も崩壊しているため)ため、黒江が素顔を晒したままでも黄金聖闘士である事が許容された。黒江は世代的には星矢の後輩であるが、黄金聖闘士であるのと、童虎の弟子筋であるため、タメ口を聞いても許されるのだ。
「オリンポス十二神…?」
「そうだ。オリンポス十二神は配下となる軍団を持つが、俺はその内のアテナの軍団の最高位の階級に属している。そいつらが神話の時代から定期的に聖戦を繰り返してるのさ」
オリンポス十二神は配下となる軍団をそれぞれ有する。アテナの聖闘士はその中でも大規模な軍団の一つであるが、真っ向から神と戦えるのは神話の時代を除けば、12人の黄金聖闘士のみ。黒江はその内の山羊座を掌るが、聖衣自体は射手座、天秤座、獅子座を拝借することも多い。また、ハーデスを倒した後の聖闘士は空位が目立つ。蘇生した先代達はZ神の厚意で派遣される『ゼウス直轄の軍団』扱いに変わっているので、黒江、智子、箒の三人を空位の星座の内、要となる星座につかせたのが始まりであった。この時点では黒田が蠍座に叙任された頃で、その内の射手座と水瓶座は本来の資格者であり、先代の正統後継者でもある『星矢達が成熟する』までの繋ぎ扱いである。
「貴方、どうして……」
「お前、この姿の元の持ち主のガキの保護者だろ?そいつがいずれ帰ってきた時に備えて、お前には事情を知ってもらわんと」
「貴方、どうするの。これから…」
「しばらくは一匹狼でも気取るさ。お前もあの緑のガキの面倒をみなくちゃならんだろうから、大変だよな」
「貴方のおかげで……あの子。精神に変調きたし始めてるのだけど」
「なぬ?あのガキ、百合だったのか?」
「ど、同人用語!?」
「同人誌即売会のサークルやってんだよ、プライベートで。で、精神バランスが狂ったのか?」
「ええ。貴方のその振る舞いから、フィーネに乗っ取られたに違いないって思い込んでしまって…。いくら言っても……」
「……チッ。まずったな、そりゃ。一応、いなくなる前に情報は仕入れたが、確か…ルナアタック事変の黒幕だったやつだな?」
「ええ。フィーネはリーインカーネーションという仕組みを使い、有史以前から、自分の子孫達、あるいは僅かでも血を継ぐ者を自分の輪廻転生の素体にする仕組みを構築していた。あの時に倒されし者の次の転生体を演じるのが私に課せられし役目……。私と妹、それに調と切歌はその素質を持つと見込まれて、米国に連れてこられた子供達の一人」
マリアは黒江がこの世界の住民ではない事を確信したらしく、身の上話をしだす。溜まっていたものを吐き出すようであるのは、彼女の置かれている立場と境遇によるものであり、亡き妹であるセレナ(後に、十六夜リコ/キュアマジカルへの転生が確認された)は自分が悪事に手を染める事を喜ばないはずと考え、オリンポス十二神の闘士という黒江の前で懺悔する選択を取った。その表情は哀しげなものに変わっており、場をシリアスな雰囲気に戻した。
「妹がいたのか?」
「亡くなったわ。実験に失敗した尻ぬぐいをして、ね。妹は私のたった一人の肉親だった。それを米国は奪った!」
マリアは米国を憎んでいるようだった。ウクライナとロシアの領土紛争で両親を失い、残された唯一の肉親を米国の行った実験で奪われたことから、米国へ復習したい気持ちがあるからだ。だが、テロ行為をして、心優しい性格だったセレナが喜ぶのか?という良心の呵責に悩んだマリアは第三者である黒江にその胸の内を明かす。セレナを奪った米国は滅べばいいとする元・難民としての復讐心、記憶の中の妹の笑顔が年月とともに薄れていくことへの恐怖がマリアを破滅的な行動に駆り立てた。
「貴方が輪廻転生を重ねたのなら、妹もしている。そうよね」
「きっと、どこかで新しい人生を歩んでるさ。幸せに、な」
と、その場は言ったのだが、帰還後にキュアマジカル/十六夜リコが『セレナ・カデンツァヴナ・イヴの転生体』であると判明した後、黒江はマリアにそれを知らせた。リコにも記憶が蘇っており、再会。マリアは二度と戻れないと思った『妹との日々』を取り戻せたわけでだ。リコの現在の生活には干渉しないが、転生後にプリキュア戦士になっていた事には狼狽し、リコの相方の朝比奈みらいに詰め寄るなど、シスコンぶりを見せている。マリアの切なる願いが天に届いた形であった。
「できるなら、もう一度……あの子に会いたい、話したい……。分かってはいるけれど……」
マリアは本来、妹思いの穏やかな人物である。それ故に成人後も妹の死を受け入れられないという脆さをさらけ出す。ガングニールのギア姿で泣き言を言うあたり、誰にも聞かれていないからだろう。
「妹に報いたいのなら、悪事への加担をやめろ。テロ行為をしたところで、その子が帰ってくるわけじゃない」
「なら、残された私はどうしろというの!?両親を紛争で殺され、私にはあの子しか……家族がいなくなったのよ!?あいつらの尻ぬぐいを妹はして、死んだ!!死んだのよ!?もう、引き返せない……するつもりもないわ!!」
マリアはセレナを失ったことへの復讐心のタガが外れかけ、ヒステリックにわめき出す。元々が戦災孤児であった事、残された唯一の肉親であった妹を理不尽に奪われた形だったため、そのきっかけとなった実験をした米国を滅ぼし、その同盟国である日本もメチャクチャにしてやりたい。それがマリアの選んだ復讐であったと言える。
「今更、復讐をしたところで、その子が喜ぶものかよ!!」
「何も知らない貴方に……私たちを……いえ、私を止める権利があるとでも!?」
「ないさ!……だがな。お前が復讐をすれば、必然的にお前ら姉妹のような子供達ができるんだぞ!戦争の被害者のお前が今度は加害者になるのか!?」
「知ったようなことを!!私はただ、妹の魂にやすらぎを与えたいだけなのよ!あの子は報われずに死んだのよ!?誰かのために犠牲になったのに!!」
マリアは支離滅裂な言葉を発しつつ、穂先が破砕されたアームドギアを再構築し、小型の槍にして、黒江へ突き立てようとする。黒江はカッと目を開き、エクスカリバーを両手で構える。
「……お前の家族に代わって、俺がお仕置きしてやる!天国のお前の両親と妹のためにもな!!」
「お前なんかに………!お前なんかに、お前なんかに!!私達姉妹の何がわかるのよぉぉ――ッ!!」
「この……バカヤロウがぁ!!」
マリアは突撃しつつも泣いていた。妹を奪った世界への復讐。それが彼女の成人後における行動原理だったからだ。黒江はマリアを止めるため、約束された勝利の剣を全力で放つため、周囲の魔力も一点に集束させる。
『束ねるは星の息吹、輝けるは命の奔流……!』
エクスカリバーに周囲から集めた魔力が集束し、更に黒江自身の魔力を注ぎ込むことで、伝説の通り、いや、それ以上の輝きを放つ。これがこの世界には存在しない『宝具』の力だった。
『お前のその復讐の心を……この一撃で断ち切る!!
エクスカリバーから放たれた光芒はマリアを飲み込む。マリアは悲鳴すら挙げる前に飲み込まれ……、魔力由来の大爆発を起こす。その光は光の十字架のようであった。
(セレ……私は……)
飲み込まれる瞬間、マリアは涙を流しつつも亡き妹の笑顔を思い出していた。姉らしいことをしてられぬままに天へ旅立ったセレナこそ、彼女の中での良心の象徴であったと言える。全てを薙ぎ払う聖遺物の光が自分を断罪しようとする。マリアは目を閉じて、全てを受け入れた――。
――その様子を遠くから確認した二課の装者達――
「クソ、あの光は…!」
「間に合わなかったの……!?マリアさん!!」
「待て、立花!!彼女の技が完全聖遺物由来の物なら、我々はこれ以上は近づけんぞ!」
「そんな………!?あそこにマリアさんがいるのに……!こんなのってないよ……」
「彼奴はまさか本当に完全聖遺物を……?馬鹿な……エクスカリバーの伝説はたかがここ千六百年くらいで生まれたもののはず……先史文明の異端技術として存在するはずは…!?」
完全聖遺物のエネルギーの強大さを知る翼はいきりたつ響を諌める。響は青ざめた顔を見せ、マリアの生死を心配することしかできない現状に涙する。翼とクリスは改めて、聖剣と呼ばれる技の破壊力に震え、言葉もなく立ち尽くすだけだった。光の柱が生ずるほどのド派手な炸裂であったが、実際には、マリアとガングニールのその場における繋がりを断つのみであり、マリアの命に別状はない。ギアを強制解除されたマリアはショックもあって昏倒しており、黒江によりその場から連れ出されていた。
――10分後――
「と、言うわけで連れてきた」
「連れてきたって…。どう説明するんです?10分後にはネット喫茶の中だなんて」
「俺の能力とでも言うさ。それにあの青いお嬢ちゃんの爺様、100を超えるってことは、1920年代以前の生まれか?」
「翼さん、自分の家のことは嫌ってますからね、そこはわからないです」
風鳴翼の実家は二次大戦時には特務機関の長だった家柄であり、表向きの祖父の風鳴訃堂はどの世界でも、21世紀には時代遅れの軍国主義や全体主義の権化である。また、血が薄れるのを嫌がり、息子の妻を強姦し、自分の子(翼)を産ませるなどの所業を平然と行う外道であり、その外道ぶりは後に城戸沙織/アテナに裁かれ、五感剥奪と精神的死という制裁を下され、乙女座のシャカによって執行されている。生年月日は1920年代から1930年代の前半までと思われ、世界によっては学徒動員を経験している。黒江はその彼が日本軍への従軍経験を振りかざそうが、1945年に佐官であるという権威で黙らせられる。軍隊とは階級と先任かで偉さが決まるからだ。
「まぁいい。そのじいさんが来ようとも、俺は黙らせられる。俺は1945年に大佐だからな」
「軍隊の世界って、そういうものなんですか?」
「基本的に日本の軍隊は階級よりも、そいつの入隊時の期で偉さが決まる。海軍は特にな。ハンモックナンバーって言葉も残ってるくらいだ。同階級でも、な。自衛隊でもそういう文化は残ったし、警察でも序列はある。俺も世話になった人には頭上がんないからな」
「でも、かなり軍国主義的だって噂ですよ?」
「なーに、いざとなれば、某ドラマよろしく、過去の罪を暴いて、公衆の面前で土下座させてから廃人にでもすればいい」
A世界で風鳴訃堂が策謀に失敗する伏線(ひいては翼の父である風鳴八紘が誅殺されずに存命する伏線)は、黒江の存在を以て貼られたと言える。黒江はネット喫茶のPCチェアにシンフォギア姿のままで座っている。見かけは調を17歳前後へ成長させたような姿だ。(後に、黒江が変身している時はお互いの見分けのために瞳の色が違うのだが、この時は瞳の色も同一であった。)
「なんだか、言うことがぶっ飛んでませんか?」
「ま、よく言われるよ。俺は転生を二回以上繰り返して、今の強さを手に入れたが、『異世界の連中相手にイキって楽しいか?猿扱いしてんだろ?』なんて、ひでえ陰口も周りから言われてる。仕方ないが、俺と親友達は『一騎当千』を近代戦争で実現できるだけの力を持つからな。それが気に入らんのだろう。個人で強いってのは、集団主義の日本人の大半には理解できん理屈なんだろうさ」
黒江はこの頃から、言葉の端々に独特のニヒリズムが表れ始める。それは軍に有益になるはずの個人での強さが部隊で疎まれる対象にされてきた時期があった事、彼女の現在の地位は昭和天皇の寵愛によるものだという陰口が海軍ウィッチを中心に存在していたからだろう。元上官の江藤がピンチになったのは、部下が国家元首の寵愛を受けていた事実を知った上、第一次現役時代に人事部に上げたはずの注釈が人事部のミスで顧みられず、ミーナに冷遇をされた事に昭和天皇が怒りを見せたからだ。ミーナは政治的保身を図るカールスラント空軍高官の生贄にされた形だが、現場での能力が惜しまれた結果、降格処分で済んでいる。黒江の帰還後に扶桑軍ウィッチの間での派閥抗争が極限に達するが、昭和天皇という錦の御旗を掲げる改革派が最終的に勝利を収めるわけだ。
「転生って本当は無作為じゃ?」
「動物になったりするからな。だが、神の眼鏡に適った魂は同じ人間のまま転生できる。俺は事実上のやり直しのようなもんだが、その度に鍛え直しになったが、何回も繰り返す内に死を超えちまってな。今は不死属性を手に入れちまった。ギリシア神話かなんかの英雄みたいにな」
「不死……」
「それが気に入らん連中は星の数もいるからな。不死ったって、好きでそうなったわけじゃない。神様に奉仕した褒美のようなもので、ゼウスから今回の転生で与えられたものだ」
「ゼウス……実在してるんですね」
「浮気しまくりだが、基本は親バカで気のいい神様だよ。お前の友達の使ってるグングニル、この世界だと、ガングニールったっけ。俺の先輩たちが本物を破壊した事あるって聞いたことがある」
「え、本当ですか?」
「調べて回ったが、この世界だと、ロンギヌスと同一視されてるみたいだな。それがこの世界での絶対性を確立させたんだろう。だが、別の世界の存在にはロンギヌスとしての神殺しの力が働かなくなる。もし、お前の友達がこの世界とまったく別の世界の神々に喧嘩を売る事態になったら止めろ。一方的に『こいつ』を破壊されて殺されかねん」
黒江は未来に警告する。『シンフォギア世界とまったく別の世界の神々には、ガングニールからロンギヌスとしての効力が失われ、効果を発揮しない可能性』があると。後に、キャロル・マールス・ディーンハイムを依代に覚醒した邪神エリスがその可能性を現実としてしまう。立花響が後々まで引きずる蟠りの一つは『自分の力なら、キャロル・マールス・ディーンハイムを救えたはずなのに……』とする一つの結果への不満、もう一つはグレートマジンカイザーという『現代科学の延長線上の機械兵器が『シンフォギアなどの拠り所であった異端技術を真っ向からねじ伏せた』ことで『自分の居場所を奪われる恐怖』を強く抱いたことである。後にそれらは自身がキュアグレースへ覚醒したり、スーパーロボットはあくまでも『平行世界の超科学が生み出した機械仕掛けの神』ということを理解したことで、一つづつ解決していく。
「どうすれば?響は頑固なところがあるから……」
「少しづつ、理解させるしかないだろうな。そんな事態……、そうあるもんでもねぇが…」
二人もこの時は知る由もないが、ここから一年後に本当に起こってしまうのである。
「うぅ……ん。こ、ここは……!?」
マリアがそこで目覚めるが、状況が飲み込めずに目を白黒させ、パニクりかける。黒江は口をとっさに抑え、静かにしろと言う。そして、自分が街のネット喫茶へ連れてきた事を教える。
「え!?そんな、どうやって……」
「俺の力を以てくれば、10分もあれば、街まで連れて来れる。この子もいることだ、クールにいこうぜ?」
黒江はおどけてみせる。マリアはこうして、なし崩し的に小日向未来とも面識を持つこととなった。
「そうだ、私のギアは!?」
「回収しといた。だが、聖剣でお前とギアの『繋がり』を強引に断ったから、少なくとも一週間は纏えんよ」
「う、嘘!?」
「聖剣は威力を加減すりゃ、そういう芸当もできる。ところで、連れてくる時にお前の体からこぼれ落ちた、これはなんだ?」
「LINKER。聖遺物に適合はしても、そのままではギアを纏えない人間を装者に仕立て上げる薬よ……。私達は日本の装者と違って、適合率が低いのよ…」
「なるほどな。人工的に仕立て上げる代物ってわけか…いけ好かねぇな」
「貴方は人を超えた身だから、そんな事言えるのよ」
「この境地は人間の誰にも可能性があるんだがな。だからこそ、育成枠があるんだ。誰にでも可能性はある。心の中に小宇宙を感じられれば、な」
「心の中の小宇宙ですって…!?」
「そうだ。そうすれば、こんな薬品に頼らずギアを自由に使えるようになる。整備の頻度も減るから、いいことづくめだ。俺を見てみろ」
黒江はマフラーをしている以外は史実での魔法少女事変以後のシュルシャガナと同一のデザインのギアを纏っている。聖遺物の力を自然に勃起できるため、脱走以来、まともな整備をしていないのに、フルポテンシャルを発揮できているのだ。
「貴方はどうして?」
「私はタワーで襲われたところを助けられたんです、マリアさん。米軍を綾香さんが退けてくれて、そのまま……」
「そう…。その米軍はおそらく、私たちを拉致するか、始末するために送り込まれた部隊よ…。貴方はそれを見てしまったのね…」
「そう、なんですか」
「ええ…。そういえば、貴方の名前を聞いていなかったわね」
「黒江綾香。こことは違う世界の日本陸軍の将校……だったというべきか」
「私は小日向未来。貴方と戦った立花響の親友って感じです」
「マリア・カデンツァヴナ・イヴよ、本当なら、私と貴方達は敵同士なのだけど…、黒江綾香、貴方の事を教えてくれるかしら?」
「いいぜ。長くなるが」
――黒江はマリアに事のあらましを教えた。自分が別の世界の日本陸軍航空部隊のパイロットであり、魔女である事、平行世界との交流の一環で派遣された先で遺跡の調査に立ち会い、その遺跡をミスで起動させてしまったら、偶々、魂の波長があったのか、月読調と入れ替わる形でこの世界に飛ばされてしまった事、自分がアテナの聖闘士もしている事、その関係で調本人がこの時点で成し得ない『高出力のシンフォギア』を纏えている事。要するに、黒江自身のミスに起因する事故なのだ――
「切歌は信じないわね、こんな事。赤の他人が調の姿になって、シンフォギアまで纏えるなんて……」
「実際にそうなっちまったんだよ。あのガキはフィーネにそいつが乗っ取られたって考えてるようだが、実際は事故で他人が入れ替わっただけだ。俺としてもはた迷惑な話だが、誤解を解く手段がないから、困ってんだよ。事故だけど、調って奴を巻き込んじまったのは詫びるよ。とは言え、気休めにしかならんな」
とは言え、この事故は必然と言えるものであった。調が黒江の姿になって古代ベルカに飛ばされたことは『ベルカの子孫達に言い伝えられている伝説の証明』であったからだ。そして、この入れ替わりが縁になる形で、調は後に、自分と入れ替わった人物である黒江を師と仰ぐ事になり、史実とは違う道を歩む事となる。
「一応、三週間の猶予はもらってるから、貴方の事をもっと知った上で戻るわ。手ぶらで帰るわけにはいかないもの」
「それがいいだろう。あの緑のガキのことを知りたいしな」
「取引成立ね。あなたのおかげで、私は自分の心の闇を自覚できた。復讐をしたって、妹が生き返るわけじゃないのに……」
「その気持ちは分かる。だが、妹のためにも、前を向け。それが大事なことなんだ」
「人間、誰にでも闇はあるんですよ、マリアさん。大切なのは、自分を赦すことですよ」
未来も言葉でアシストする。マリアはこうして、黒江が自分のミスが原因の事故でこの世界に迷い込んだ『迷い人』であること、入れ違いで調がどこかの世界に飛ばされたという事を知った。マリアは切歌の思い込みを正す絶好の材料を手に入れたとも言えるが、なまじっか、フィーネの覚醒という可能性があったり、調が自分を切り捨てるはずがないという確信があったことから、切歌は精神の平静を保てなくなっていく。また、『大好きな調を取り戻すには、他人がどうなっても構わない』という思考に至ってしまったのは、ナスターシャ教授とマリア最大の誤算であった。切歌の調への執着や愛が気づかないうちに、それと真逆とも言えるはずの『憎しみ』へと転化し始めていたのだ。それをこの時の黒江とマリアは知る由もない。
「それで、どうするの?」
「お前がいないかぎり、お前の仲間は行動を起こさんだろ?俺もまだこの世界の事はよく知らんからな。情報を集めるために、しばらくはぶらつくさ」
黒江はそう明言する。米軍が観光名所にいた理由は知れたが、念の為、未来を当面は匿うしかないとも考える。マリアも第三者である黒江を自分たちの事情に巻き込んだり、自分の復讐を止めてくれた借りを返すため、しばしの間、協定を結ぶ。特異災害対策機動部二課はこの一連の動きからは蚊帳の外に置かれた形であり、彼らの知らぬところで事態は動いていたのだ。マリアはこうして、黒江たちと同行する選択を選び、切歌の暴走を懸念するが、ナスターシャ教授も危惧するほど、切歌の心は病み始めていた。