ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第百三十二話「回想~黒江のシンフォギア世界での選択~4」

――黒江の言う通り、未来世界は一言で言えば渾沌である。その一方で、宇宙戦艦ヤマトやスーパーロボットという希望もある。黒江がシンフォギア世界に飛ばされていた時期、ブラックゲッターの二種の設計を完成させた敷島博士は早乙女博士亡き後のゲッター製造を指揮する立場にあった。その彼の次なる案は『単機でゲッターとして戦えるゲットマシンで構成されるゲッターロボ』である。それがゲッターノワールである。その更に合体形態がゲッターノワールGである。ゲッターノワールはブラックゲッターの後継を目指した案であるが、ネイサーの製造能力の問題で(量産ドラゴンの製造に割かれていたため)実機製造は太平洋戦争にまでずれ込むが、プランはダイ・アナザー・デイ直前に出されていたわけだ。また、その概念図は黒江は飛ばされる前日に敷島博士から見させられていたため、黒江と圭子の『得物』に影響を与えていた――

 

 

――黒江はシンフォギア世界滞在時から、圭子はダイ・アナザー・デイ後半から、智子はデザリアム戦役から用いたゲッターロボの射撃兵装『ゲッタードラグーン7000』。見かけはシングルアクション式のリボルバー銃で、敷島博士が兼ねてから制作していた『ゲッター用の拳銃』である。元はゲッター號かネオゲッター用にと制作していたが、號の趣向には合わなかったため、竜馬の復帰に伴い、ゲッターノワールに流用された。黒江たちはそれを二丁拳銃で乱射できるようにしたものをそれぞれ携行した。黒江はシンフォギア世界に飛ばされ、小日向未来を匿った時期から使用し始めた。後に竜馬はゲッタードラグーンによる技を『ガンファイトハリケーン』と名付けたという――

 

 

――シンフォギア世界――

 

「え、どこから拳銃を取り出したんですか?」

 

「元素の段階まで分解していたものを再構築した。この姿の上からガンベルトして、弾切れに備えるって手もある」

 

「クリスみたいですね」

 

「ああ、あのガトリング好きのガキか。あれは弾幕張るってやつだろ?俺のダチが見たら嘆くぜ」

 

黒江は小日向未来にそう明言した。雪音クリスは弾幕で圧倒する戦い方だが、圭子とのび太が見れば『ヘビーアームズじゃあるまいし…』というのは目に見えている。

 

「その銃、えらく古めかしい見かけね?」

 

「製作者が物好きでな。コルトM1848を基本ベースにしてんだ。だから、シリンダーごと交換だ」

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴもその銃の古めかしい外見が気になったようだ。のび太がSAAの外見を好んでいるのに対し、敷島博士はもっと前の世代の銃を選ぶ逆張りを図っている。黒江はシリンダーを交換しまくる戦法を取れるため、見かけが古かろうが、別に構わない。要はストッピングパワーの問題だ。

 

「見かけが古かろうが、俺は構わん。要はストッピングパワーの問題だ。このシンフォギアだろうと、胸のペンダントの部分を破損させれば解ける」

 

「でも、普通の弾丸では無理よ?」

 

「こいつの弾丸は戦闘用サイボーグもぶち抜ける特殊弾だ。貫通力は普通の銃の比じゃねぇよ」

 

敷島博士のレシピで作られる弾丸は通常の弾丸より威力が遥かに高い。爬虫人類の強固な鱗などを撃ち抜くための加工が施されているからだ。黒江、のび太、ゴルゴなどはそのレシピに基づく弾丸でダイ・アナザー・デイを戦っている。また、組織の技術で作られ、超合金Zくらいまでを一瞬で腐食させる『コローション弾』も用意しており、黒江は今後、シンフォギア装者の篭手や武装を溶かすのに用いる。この特殊弾は元は改造人間の失敗作の始末と粛清用にショッカーなどが支給していたもので、かのアポロガイストもゴッド機関で使用していたという。

 

「なるべくは使いたくないものがある」

 

「なんですか?」

 

「対改造人間用の腐食弾頭だ。改造人間の特殊合金をも一瞬で溶かす恐るべき代物だ。シンフォギアでも溶かせると思うぜ。ま、普段は振動弾とかでどうにかする。俺の闘技は動画で見たと思うが、多分、この世界には過ぎたる代物だしな」

 

「あの技、シンフォギアのできることも超えてますしね…」

 

「貴方、あんな完全聖遺物をどこで!?」

 

「俺のは霊格だ。実物は同僚が持ってる。そいつ、アーサー王の生まれ変わりだ」

 

「!?」

 

「色々とややこしいのよな、俺の周り。(そのうち、プリキュアも来そうだしな)」

 

「どういうわけぇ!?」

 

「俺が知るか!」

 

黒江もなんとなく、プリキュアの登場は予感していたが、部下がそれになることまではあまり考えていなかったのがわかる。

 

「俺の聖剣の顕現させる方法は霊格を設計図に手持ちのエネルギーを物質化させる事で器を作って霊格を憑依させてるんだ。だから、それそのものじゃないし、魔法でもない、ましてや錬金術でもないわけだ。多分、この世界のどんな解析でもわからんだろう」

 

黒江のそれを解析するには、最低でも23世紀世界の技術である空中元素固定理論が必要である。それが黒江たちの力を説明できる唯一無二の理論だからだ。

 

「この世界の技術では、どんな方法でも無理というのは…?」

 

「錬金術でも、モノを一から作れないだろう?」

 

「……確かに」

 

「たとえ、この世界に錬金術師がいようと、俺の力は解析もできないぜ」

 

この一言は後に、「エルフナイン」の登場で現実となる。黒江が持つ力は錬金術からでも解析もままならなかったからだ。それ以前の時間軸であるこの時点では、二課がどう頑張っても解析もできない有様である。辛うじてエレクトロファイヤーと超電磁砲が分かった程度である。

 

「それ以前に、俺が恒常的にギアを使ってられる理由を考えるはずだ。あいつらは理論上は展開時間に制限が無くても、ギアの整備が必要なはずだからな」

 

黒江はギアの整備をしていないが、ギアの最高ポテンシャルを維持できている。これは小宇宙でベースになった聖遺物の力を自然に勃起させているためで、黒江(後に調も)にとっては純粋に身体保護の目的で使っている代物に過ぎない。

 

「貴方の力はそこまでというの?」

 

「言ったろ?オリンポス十二神の闘士だと」

 

「この世界の聖遺物は先史文明の遺産だということも分かったんですよね?」

 

「商売柄、本物の宝具を使いまくるとか普通なんでな。俺の守護星座の山羊座は剣士属性だから、手刀で普通に空母は斬り裂ける」

 

「……あ、アハハ……バケモノじゃない」

 

マリアはへたり込む。力の差があまりにもあるからだ。

 

「要は第六感を超えたか否か、だ。この世界のどんな奴が来たところで、俺なら倒せるだろう」

 

黒江が苦戦する相手はこの時点では、世紀王であるシャドームーンや聖闘士級、ガンダムファイター級の実力者に限られる。ゴルゴ13もそのクラスに加え、異能生存体という最強の属性があるため、もし戦っても殺せないのである。

 

「大体、本業の衣装(聖衣のこと)が宝具レベルのアーティファクトだし、スーパーロボットやワープ機関なんてのは『科学の結晶』だけど、能力がアーティファクト級って物がゴロゴロ有るから。有難み薄れるんだよな。こいつはそれらに比べりゃ、かわいいおもちゃに見えるよ」

 

「……響が聞いたら、怒りそうですよ、これ」

 

「そもそもの基礎が違うんだから、文句言われてもな」

 

黒江が何故、シンフォギアを普通に起動できたのか?ミレーヌ・フレア・ジーナスと同等レベルのチバソング値を出せるからである。(ミレーヌより多少上らしい)後々に調と箒が測定を受けた結果、サウンドブースターを起動できるレベルの数値になっていたとのことである。この『チバソング』は未来世界での歌エネルギーの基準単位であり、シンフォギア世界でのフォニックゲインに相当する。

 

「貴方、軍人なのに、何故、歌唱力がプロ級なの?」

 

「おふくろが俺を大阪のあの歌劇団に入れたかったんだよ。それで英才教育されたクチだ」

 

黒江は自嘲気味だが、黒江の母は娘を歌劇団に入れること以外に興味がなかったため、二回も転生しても関係は悪いままだ。黒江の幼少期は1920年代であるため、そこも黒江と厳格な母との折り合いがずっと悪い理由でもある。

 

「その結果がこれだよ。歌うことは嫌いじゃないが、おふくろとはそれで折り合い悪いままだ。ガキの頃、俺を道具扱いしたしな」

 

「えーと、貴方の子供の時って」

 

「大正後期から昭和の戦前期までだ。お前らからすりゃ、立派なバー様だろ?」

 

「その時代の日本人の割に、垢抜けてるわね」

 

「なんだと思ってたんだよ、戦前期の日本。敵性語だのは戦中の一時期だけだ」

 

黒江の本来いる時間軸は、この時点では1945年。直に24歳を迎える年頃である。21世紀基準では、まだまだやんちゃ盛りだが、1945年では『大人』になることを強いられる年頃である。なので、扶桑基準だと圭子のぶっ飛びようが異端視されるのだ。

 

「貴方、いつの生まれなの」

 

「1921年。関東大震災より前だよ」

 

「えぇ!?」

 

黒江は1921年生まれ。史実太平洋戦争でも『青年将校』であった世代の人間である。圭子も1919年生まれ。普通の常識ならば、1945年でも若者でまだ通る年頃である。

 

「本当に大正生まれなんですね……」

 

「仕事で異世界行ってるから、生年月日は気にしてないがな」

 

「あなた、魔女だと言ったわね。その力を使えないの?」

 

「漫画みたいに便利な力でもないぜ。多くが10代のうちしか使えないから、平均よりちょっと上程度の俺なんか、見下されたことも多いぜ。そうだな、箒で浮くくらいなら、ここで出来ると思うが、やって見るか?」

 

「お願いします!」

 

未来は興奮気味だ。黒江はサービスで、ネット喫茶の室内に何故か置いてあった箒で浮く。シンフォギア姿だが、きちんと使い魔の耳と尻尾は出現していた。

 

「使い魔の耳と尻尾が出るけど、これでどうだ?」

 

「わー!すごぉ~い!」

 

大喜びの未来。マリアは呆然としてしまい、言葉もない。黒江の使い魔は薩摩犬。調は後に、その先祖にあたる甑山犬の使い魔と契約しているため、その意味でも師弟と言える。

 

「俺、薩摩犬が使い魔なんだよ。俺と入れ違いで転移した調ってやつも似た使い魔を得るだろう。もし、ウィッチになってればな」

 

「ウィッチ……。10代のみってどういう事?」

 

「シールド強度が実用に耐える期間が10代後半までなんだよ、たいてい。俺は今は減衰がない体質だが、仕事場で疎まれててな」

 

「大変ですね…」

 

「よく魔女の箒って言うけど帽子掛けなんかで飛ぶ魔女も居るな、デッキブラシも有名か。俺の世界じゃ機械で補助して効率上げたの使ってるが、箒とは言うものの魔術具としては杖を兼ねる代物だな」

 

「そんなのあるんだ…」

 

「魔法だけが発達するわけでもないしな」

 

 

感心する未来。あっけらかんとしてしまうマリアだった。

 

 

黒江は転移寸前には、まさにその通りに疎まれ気味の状況だった。黒江は扶桑基準の魔力測定でも『平均よりちょっと上程度』の魔力でしか無く、転生前は魔力の運用技能だけでエースにのし上がった。転生後は魔力値には執着しないものの、『年齢』を理由に、ミーナから軽んじられているという空気は感じている。自分でそれなので、更に年が上の圭子などもっとされているだろうというのが転移直前の状況だった。転移前のミーナは坂本への好意もあり、あまり自分を頼らなくなった事、黒江たちが司令部からの派遣ということで、一方的に敵視していた。後に判明するように、ミーナは黒江たちの武功にあまりにも無知だった。彼女の志願年度と促成教育の関係もあるが、予定された統合部隊の指揮官としては大いに問題視された。(ロンメルも『ミーナ中佐の速成教育はオストマルク陥落の直後の時期にあたるが、本当に知らんのか??』とうろたえている頃である)また、ウォーロック事件以降、ミーナはガランドしか、軍の将官を信用していない節があり、そこも後で大問題になるのだ。当時は武子が覚醒したばかりの頃であったが、ロンメルは武子に白羽の矢を立てるわけだ。64Fの編成は正式には黒江の帰還後のことだが、ミーナの無知がカールスラントの顔に泥を塗ったのは確実である。(隊内の不和を煽った形になるので、第一の査問の期日は黒江がいなくなった日に内示されている)

 

「たぶん、今頃はダチが頭抱えてるはずだ」

 

と、黒江は漏らすが、まさにその通りだった。

 

 

 

――ウィッチ世界――

 

「すまん、ケイ。お前の部下への非礼をあいつに代わって詫びる。今度、飛んだら本気を見せろ。お前の本気を」

 

「いいのか?」

 

「赤松大先輩のお手を煩わせる事になった以上、お前に猫をかぶらせ続ける意味は消えたよ」

 

坂本は胃潰瘍になったらしく、胃薬を服用している。山本五十六が『赤松を送り込むぞ!!』と怒りの電話をかけてきたからだ。

 

「姉御も来るか。おっちゃんにえらい心配かけたな」

 

「お前、よく我慢したな、昨日」

 

「ガキじゃあるまいし、あれくらいで怒ってられっか。ま、猫をかぶるのやめられっから、姉御には感謝だな」

 

圭子は猫をかぶれば、転生前の温厚な人柄を演じられるが、却って肩がこるという。圭子はその猫かぶりと素の落差が大きすぎる事で、今回は『戦場で理性が吹っ飛んだ』という扱いを上層部にはされているが、実際は粗野な振る舞いが素である。

 

「姉御、綾香のことは知ってんのか?」

 

「沙織さんから知らされたって。それでフェイトに探させてるそうだ」

 

「あいつも大変だな。映画撮影に入るって時に」

 

「それで子供の姿に戻ってるそうだ。日本だと、そっちのほうが受けいいんだと」

 

「大人のあいつ、アニメだと評判いいとはいえねぇとこあるからな。なのはのイエスマンっぽく描かれてるようだし」

 

「それ、気にしてるようだぞ」

 

「まぁ、なのはは今回も『やらかす』予感するからな。ありゃ因果だなぁ」

 

「どうにかできんのか?」

 

「無理だ。前回であれこれしたが、一回はやらかす因果を持つらしくてな。事後の影響を抑える方法を探したほうが早い」

 

圭子も、なのはが後で『やらかす』ことは因果律の問題だと述べ、それを聞いた坂本も嘆息する。シェルブリットへの覚醒はその後のことなので、なのはは何かかしらの失点をやらかす因果があると言える。それが予想以上に問題になり、人事的に失点がついたことで気が楽になったのも、シェルブリット覚醒後の素行の変化の理由だろう。また、なのは自身はプリキュア志望だが、シェルブリットに目覚めてしまう。口調もその影響で粗野になり、更に後にはラグナメイルにも乗るので、圭子曰く『赤いラグナメイル与えてよかったぜ』とのこと。

 

「どうする?」

 

「こればかりはどうしようもねぇさ。あたしらにも因果があるように、あいつにもあるからな。事のなりゆきを見守るしかないぜ」

 

「やれやれ。黒江はどこに飛ばされたんだ?」

 

「それを探させてるところだが、そう簡単には見つからねぇだろうな」

 

「あいつ、やらかすだろうな」

 

「いつものことだ。ネットギーク共に嫌われてるが、あたしらは基本的にはいいことをしてるんだ。もっと自信を持て」

 

圭子はそう言って、坂本を励ます。坂本は21世紀の誹謗中傷への耐性があまりないからだ。坂本は前世では2000年に亡くなっているのもあるだろう。もっとも、坂本はネットを気にしない質だが、取材には怒ることが多いことで、後年にインタビュー担当の記者からは『気難しい』とされるのである。

 

「奴のことだ。今頃はどこかで迎えを待ってるはずだが、何かと戦ってるだろうよ」

 

 

 

――その通り、黒江はネット喫茶を転々としつつ、二人を連れて、情報収集を行う。コスプレ喫茶の勤務だけは忘れないが。黒江と未来は盲点を突く形でコスプレ喫茶のバイトを行い、その間にマリアが情報を収集するという生活を確立させる。切歌の愛が憎しみに転化し始めたのを三人はまだ知らない。『愛は超越すれば、それは憎しみになる』。どこかの世界のエースパイロットが言ったという言葉だが、切歌はその心境であった。そして、二課の装者との再度のエンカウントは唐突にやってきた――

 

 

――その日――

 

「お前らに手を貸してやる」

 

黒江は理性のタガが外れた切歌に苦戦する二課の装者に加勢する。その際のいで立ちはシンフォギアにガンベルトを巻き、ゲッタードラグーンを二丁拳銃で持つもので、調と共通するところはギアの基本形態だけだ。

 

「調を今度こそ止めるdeath!!たとえ、何人も犠牲にしても!!」

 

「やれやれ。イタズラのすぎるガキだ。躾をしねぇとな」

 

黒江はまずは指弾で振動弾をマッハ3で飛ばす。切歌は鎌を奮う暇もなく、衝撃でクラクラに追い込まれる。そして、その隙を突く形でツインテールの可動部が黒江独自のギミックとなり、切歌を捕縛する。

 

『パァァラァイザー!!』

 

ゼロ距離での電撃。威力は本物と遜色ないもので、切歌は持ち味を発揮する以前の段階でいきなり痛撃を与えられる。そして。

 

『カウンターパーンチ!』

 

黒江は更に篭手をカウンターパンチとして撃ち、切歌はロケットパンチを食らう形になり、更に吹き飛ばされる。そして。

 

『ゲッタートマホォォク!!』

 

真ゲッター以降のハルバードタイプのトマホークを召喚する。ギアのスペックを殆ど用いていないが、ご愛嬌である。切歌と斬り結ぶが、切歌の攻撃は尽くが空を切り、黒江は肩口からトマホークを食らわせる。振り下ろされるトマホークの刃は容易くシンフォギアの装甲をアンダースーツごと斬り裂き、鮮血を吹き出させる。

 

「なんで…なん…!?」

 

「当たり前だが、命までは取らん。さぁ、お前らのことを話してもらおうか?」

 

トマホークランサーで切歌のギアを貫き、地面に縫い付けるかのように突き立てる。余りに一瞬の出来事だった。肩の高機動バーニアも意味をなさないほどに突き刺さったランサーはてこでも動かなかった。

 

「待って、調ちゃん!どうしてここまでするの!?」

 

「話せば長くなる。そもそも、俺はそいつじゃない」

 

余りに衝撃の光景なためか、響が止めさせようとする。急所は外してあるが、ランサーを突き刺している調と、それに必死に抵抗しようと、肩の高機動バーニアを吹かしまくり、ランサーを抜こうとする切歌の構図は残酷であった。

 

「で、でも、これじゃ!」

 

「黙れ、手を出すなら、手加減なしで相手するぞ?」

 

黒江はそう言って威圧する。響も思わず後ずさりするほどの迫力と圧力があった。翼とクリスも手出しができないのか、冷や汗タラタラで見つめることしかできない。切歌は痛みで顔をしかめつつも、『私がわからないのデスカ……?』と泣いているようだった。

 

「人違い、いや、代役だな、この場に居る俺は。本人であって本人じゃない、多分互いの姿を交換して立場も入れ替わってるんだろうな」

 

と返すものの、傍からみた黒江の冷酷さと切歌の涙に、響は黙っていられなくなったのか、止めようとするが……。

 

「もうやめて!!」

 

「そうか。お前が…。……手を出すなと言ったろ?」

 

黒江は響のバーニア込みの突撃からの拳を掌で受け止める。響はガングニールのバーニアを更に吹かすが、逆にそのまま持ち上げられてしまう。バーニアの噴射の推進力も意味をなさない。

 

「ガングニールのお嬢ちゃんよ、怪我しない内に家へ帰んな。頭に血が登ってる状況で相手と話はしないほうがいいぜ?」

 

黒江は忠告する。そして……。

 

「それに、拳を握るって事はこうなる事も覚悟の上なんだろう?」

 

受けた拳を捻って地面に受け流しで響を叩きつける。元の調にはできないはずの高等格闘術である。

 

「どういう事なの……教えて…!」

 

「この場じゃ遠慮するぜ」

 

黒江は響を取り押さえつつ、ゲッタードラグーンでクリスのアームドギアの一つである拳銃を弾き飛ばし、翼の天羽々斬は手刀で弾く。その間、わずか十数秒だった。響は顔から地面に叩きつけられ、動けず。クリスは早打ちで自分が遅れを取った衝撃で固まり、翼は刀を手刀で弾かれた事に唖然としている。

 

「ば、馬鹿な……我らが束になって……こうも太刀打ちできんだと…!?」

 

「うーん、その声で言われると、どうにも赤の他人の気がしねぇ…」

 

「なっ…!?」

 

「うーむ…」

 

黒江はここで翼の声色が青年期のフェイトに似ている事に気がついて苦笑した。

 

「と、まぁ。訳も解らん内は誰にも与せんよ、突っかかって来る敵は打ち払うがな」

 

「ま、待って!!」

 

「あばよ、お嬢ちゃんたち」

 

黒江はそこでアナザーディメンションを使い、姿を消す。響が手を伸ばした瞬間には残響のような声が響くのみだった。二課はすぐに考えられるだけの手段で足跡を追おうとするも、完全に反応が消えていた。

 

「テレポーテーションだとッ…!?」

 

「嘘だろ!?フィーネでもできなかった事だぞ!?」

 

「どういうことなの、調ちゃん……」

 

疑問に思う三人だが、と、そこで切歌がランサーをなんとか引き抜く。引き抜いたが、完全に戦闘続行不能であった。

 

「お前達、お前達とフィーネのせいで……」

 

切歌の目は完全に憎悪に染まっており、愛が憎しみに転化したらしく、言うことも支離滅裂であった。

 

「次はお前達を殺すDEATH……!そのためには……」

 

「き、切歌ちゃん!」

 

「私を…気安く呼ぶなぁ!!」

 

切歌は完全に狂い始め、声色も狂気に染まった低めのものへ変わっていた。ドスも効いている。

 

「手に入らないのなら壊せばいい……世界が壊れても……あ、ははは、ハハハ!!」

 

切歌は哀しく笑う。だが、顔は笑っており、完全におかしくなってしまったのが素人目にもわかる。

 

「あのガキ…イッちまいやがった…!」

 

クリスもその狂気にそう漏らした。切歌のギアが禍々しく変貌し、完全にその狂気に身を委ねた心象が反映された姿となる。

 

「みんな壊れちゃえば良い!信じた愛が幻想だったのなら、全部、全部!!」

 

強化人間にでもなったのかと言うような支離滅裂な言動は切歌の憎しみの強さそのものだった。それも調への愛の強さが為せる業であり、もはや誰も止める者はいないというべき暴走のままに切歌はそのまま姿を消す。

 

「……切歌ちゃん……」

 

この時に切歌の狂いようを見てしまっていた事が響の黒江への反発の遠因だった。後に本当に別人と知らされるが、響は切歌の惨状から『責任を取らせる』事を考えており、それが後でのゴリ押しに繋がる。黒江にも原因がないわけではないので、後に一年ほど調を演ずる事になる。マリア・カデンツァヴナ・イヴから事前に懇願されていたことも引き受けた理由であり、本当は断れた。黒江も何かかしらの責任は取りたかったので、渋々という体裁ながらも、演ずることでそれを達成した。ただし、その選択も必ずしも正しい選択ではなく、調の帰還後の出奔の理由になってしまう。とはいえ、黒江の演技と調の出奔が後の切歌の聖闘士化への道筋を築いたのも事実であり、彼女が自分が共依存関係にあったと自覚するきっかけにはなったので、『選択の全部が正しくないが、最終的な結果はビターに近めではあるが、一応はベターであると言える。最善でないにしろ、アンハッピーではない物語にはなれたといえよう。万能と言えるほどの力を得たGウィッチと言えど、全てをハッピーエンドにはできない。だが、ベターエンドは迎えられる。そんな存在なのだ。

 

――後に、黒江はこの時のことをこう振り返る――

 

「最後の最後に辻褄が合えば良いのさ、完璧じゃ無いから人生は面白いんだぜ?」

 

――と

 

 

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