――黒江はシンフォギア世界滞在中は調の容姿で過ごし、その空白になった立場を埋める役目を強いられた。ある意味では不幸であったが、結果的にはシンフォギア世界の歴史の流れを変えた。その初期において、黒江は事情を知った未来とマリアと共に行動していた――
――ネット喫茶――
「ネット喫茶がまだ残っててよかったぜ。お前の友達らがたぶん必死に探してるだろうから、街外れの裏道にある店を選んでる」
「でも、貴方はその格好で大丈夫なんですか?」
「俺にとっちゃ、この『シンフォギア』は普段着と変わらん感覚だ。これを普段から使ってれば、バレる可能性はむしろ低い」
「貴方、1920年代の生まれにしては、サバサバしてるわね……」
「別の時代や別世界を知れば、必然的にそうなる。面倒見てる奴が平行世界を股にかける組織の調査官でな。今頃は俺を探しとるだろう」
調の外見になっているものの、ギアについては『適合率』の差からか、フロンティア事変当時のダークトーンのカラーリングではなく、本来の歴史においての魔法少女事変当時以降に見られるはずのヒロイックなカラーリングになっている。シンフォギアの正規適合者だろうが、わずか数週間以内にカラーリングが顕著に変化することはありえないため、関係機関は捜査に手間取っている。更に、黒江はこの頃に後々の出来事に繋がる事を意図せずにやっていた。この日はノイズに『プリキュア・シューティングスター』を放ち、見事に倒していたのだ。これは転移前に『プリキュア5』を見ていたからだが、この出来事が終結してしばらく経った後、そのプリキュア5のリーダーであった夢原のぞみが自身の部下となるのであるが、この時は知る由もない。
「貴方、元の世界でどんな事してたのよ」
「日本陸軍のパイロットだったが、今じゃ宇宙戦艦ヤマトにも乗った事あっからなぁ。本物だぞ。但し、イスカンダルから帰ってきた後だけど」
「それで、本当は90歳超えなんて、誰も思いませんよ」
「普通にこの時代まで生きてりゃな。俺自身は1945年にいたから、ピチピチの20代だ」
黒江は1945年当時、22歳前後。21世紀の基準では大学生で通じる若さだが、ウィッチの基準では『超高齢』になってしまう。この固定観念が帰還後にミーナの悲劇を生むわけだ。
「ま、自分が別世界に事故で飛ばされることはあまり経験はねぇ。俺の仲間がこの世界を早く見つけてくれる事を祈るしかないさ。もっとも、今は容姿まで変わっちまってるがな」
調の容姿となっているが、黒江の普段の振る舞いは健在である。本来の調より背丈が10cm以上も高いこと、口調も調本来のものとはまったくかけ離れている事、姿が同じになったものの、黒江がギアを普段遣いしている事もあってわかりにくいが、実は指紋などは黒江のものであるので、当時の特異災害対策機動部二課が必死に捜査しても、限界がある。そこも黒江が風来坊的な事をしていても、捕まることがなかった理由である(黒江自身、忍術の心得もあったため)。
「どうして、ギアを大っぴらに使ってて、向こう側にばれないの?」
「俺がコスプレ喫茶でこいつを使ってるからさ。それに、以前の『こいつ』と色と形が違う。それもあって、探すのに手間取ってるんだろう」
これは黒江の推測であったが、実際にはギアを起動させると『アウフヴァッヘン波形』という特殊な波形パターンが感知されるが、黒江はセブンセンシズで以て起動させたため、その波形が感知されない。更に小宇宙が自然な形で力を引き出しているためか、この時期の調本人が使用していた段階のギアより遥かに能力が高い上、聖遺物の探知システムに反応を示さない。(ただし、黒江の宿す聖遺物の霊格のエネルギーは感知されるが)その関係もあり、二課は捜索に四苦八苦していたわけだ。
「何故、そんなに気楽なの?」
「俺は神を守るための軍団の最高位の闘士でもある。オリンポス十二神のうちのアテナ。彼女に仕えてる関係で、いつしか『死』を本当に乗り越えちまったんでな。普通に人生を数回やり直したから、本当は500年近く生きてる。死ぬのも何度も経験したから、怖いものは殆ど無くなったさ。よく不死身になると、人間らしさが無くなるなんて言うが、神様のほうが意外に人間くささを見せるんだよ。人の持つ感情こそが神も理想とするものだしな。人間社会で普通に財閥経営してるしな、アテナ」
「なっ!?」
驚くマリア。アテナは人の姿で現世に降臨する。そのスパンはおおよそ数百年ごと。神話の時代から長らく続いてきた。ハーデスとの決着がついたのは1990年代初頭の頃。その時期におけるアテナこそが『城戸沙織』なのである。マリアは後々に城戸沙織に出会うことになる。神々しくも美しい姿だが、なんと、聖戦当時は人間換算で十三歳である。それで20代前半のマリア以上に美しく、立花響も圧倒されるほどの神々しさを感じさせるのだから、オリンポス十二神は伊達ではない。
「アテナは神々の喧嘩を止める権利をゼウスから与えられててな。数百年ごとに神々は軍団を率いて、裏でドンパチしてんだ。俺はその戦いの一つが終わった段階で門戸を叩いた。とは言え、才能があったみたいで、数年の修行で最高位に任ぜられた」
黒江は修行時代が数年ほどあるが、黒江は下級聖闘士からの昇格ではなく、黄金聖闘士候補生として修行をし、選抜試験を勝ち抜き、任ぜられた。この頃は叙任から間がなかったが、黒江は転生を経ていたため、100%の戦闘能力を発揮できる。響、クリス、翼の三名を初見で圧倒出来たのも、単純に言えば『経験値の差』だ。
「俺は仕事柄、体を鍛えるのが日課でな。数百年で踏んだ場数は相当だが、常に何か新しいものを覚える。それが慢心しないコツだ。慢心した奴は死んでいく職場だしな、軍ってのは」
黒江は聖闘士としての転生分の経験値と軍人としての経験値が全て加算された状態なので、『経験豊富な黄金聖闘士』である。二課の装者がエクスドライブ状態で襲いかかろうとも、正面から倒せる力を持つと言ってよく、この当時のシンフォギア世界で対抗し得る存在は風鳴弦十郎のみだろう。
「俺のいた世界は色々な平行世界と交わったから、お前らの知る形の第二次世界大戦は起きなかった。だが、これから、史実寄りになっていくだろう」
「何故なの?」
「日本にいるだろ?近代の日本をやたら否定する連中。そいつらがあれこれ介入したから、俺らは苦労してんだ」
扶桑はM動乱の頃より、日本側の介入が激しいことに悩んでいた。軍隊への食料品供給体制も日本の左派が批判し、国としての供給をよりによって、ダイ・アナザー・デイが控えていた時期に廃止されたため、各部隊は市井への買い付けを慌てて行ったりする有様である。結局、予想外の混乱に慌てた防衛省は自衛隊の戦闘食を緊急で提供することにしたが、左派の政治的妨害と予想外の備蓄品の払底で上手くいかず、事態を憂慮した地球連邦が備蓄品を放出することにし、防衛省と財務省は各世界に恥を晒すことになる。黒江はちょうどその時期に休暇を取っていたわけだ。
「あなた、別の世界に行った時はどうしてるの?」
「基本的に自衛隊の隊員。俺は一応、将補(ダイ・アナザー・デイ直前の当時)の階級を持ってるんでな。元の世界でも、昭和天皇から少将昇進の確約をもらってる」
黒江はマリアにそう言ったが、この少将昇進の確約は『前例がないから』という現場の判断で反故にされる。事態を知った昭和天皇が人事担当者を直々に叱責(その担当者はそのショックで後に寝込んだとか)した事、黒江がその時点で自衛隊で少将相当の階級になっていた事(すぐに空将となる)で人事部は大荒れとなり、陸上幕僚長の助け舟で准将の階級を創設し、それに充てがった。(ダイ・アナザー・デイの長期化で中将へ昇進するため、結局は一手間かかっただけであった)この人事部の失敗は『将官にしちゃうと、前線に出せなくなるやん?』という危惧からのものだったが、日本連邦体制が本格化すると『指揮官先頭や!』という風潮が定着してしまい、この時の人事部の判断は『誤りであった』と語り継がれてしまう。(『将官が前線で戦う』風潮は間接的にジオン公国に引き継がれ、地球連邦にも影響を与えたわけだが、ダイ・アナザー・デイでは大規模な作戦会議がなかなか開けないという弊害が生じた)
「あなた、皇室に気に入られてるの?」
「若い頃にクーデターを鎮圧してから、何かと目をかけられてる。22歳で大佐になれたのも、半分は陛下の七光りだと思われてる。おかげで、今の職場でも冷や飯を食ってる」
黒江は昭和天皇のお気に入りであるという認識は事変終結直後からあり、妬まれていたのも事実だ。だが、501へ着任しても冷や飯を食うとは思ってなかったようだ。(ただし、戦うたびに強すぎるのは感じたためか、ミーナも少しづつ認識を改めつつあった。悲劇が後年に殊更に強調された理由は、ミーナがその後に出世コースから外れた事や、カールスラント軍が衰退する流れのきっかけとなったためである。とは言え、実際には、黒江達はパトロールや訓練を名目に出撃しては、何かかしらの戦果を挙げてくるので、それとなく情報を示唆したりしていた効果もあり、改善の糸口が見えてきていた時期である)
「こうなったのは、休暇だったから、面倒見てる奴の仕事についていったからさ。そこで遺跡を起動させちまってな。気がついたら、こうなってた。ま、俺のミスだ」
「その割に気楽に構えてますね」
「色々な出来事を体験したから、こんくらいで驚いてちゃ、仕事にならんよ。問題はその後だ。この姿の元の持ち主が帰って来たら、どうなると思う?」
「……間違いなく、苦労するわね」
「その時になってみないとわからんが、俺が面倒見なけりゃならんだろう。俺がこうして、生活していることで確立されるだろう評判や認識に否応なしに合わせなくてはならなくなる。そいつの性格にもよるが、嫌気が差すだろうからな」
黒江は後々の調の運命を予期するような発言をした。なんとなく察しているようでもあり、黒江のカンの良さの表れでもあった。立花響は単純に『元の状態に戻したいだけ』と述べたが、その時は『月読調』への周囲の認識が『破天荒な人物』という風になっており、それを無視するのは色々な意味で無理な相談であった。
「最悪、この世界から連れて行かなきゃならんだろうな。このガキに家族はいないし、あの緑のガキとの関係もこじれるだろうし」
「私の友達が知れば反対しますよ」
「どうであれ、元の生活に完全には戻れんよ。それは頭に入れといてくれ」
黒江はそこは冷静に判断を下した。どの道、調は単純に元の生活に戻れなくなっているであろうことをなんとなく察しているからだった。ただし、調当人の判断で黒江を頼り、小日向未来の手引きで野比家に居着くことになったので、多少は予測は外れたが。
「ん?外が騒がしいが……」
「ノイズじゃない!いったい誰が……」
「しゃーない。ちょっくら、ぶっ飛ばしてくる。このギアのスペックには頼らんがな」
黒江は窓越しにノイズの大群の姿を確認すると、迎撃に打って出た。この頃には聖闘士として既に完成された戦闘力を持つため、ギアのスペックを用いなくとも戦える。心配するマリアと未来を他所に、一暴れすることになった。
――戦場――
「毎度のことだが、絵心ない奴が書いた変な生物みてぇな姿しやがって。この世界の先史文明のセンスを疑うぜ。ミサイル・ストーム!!」
黒江は空中元素固定とゲッター線のコントロールでストロングミサイルを形成し、ぶっ放つ。そのストロングミサイルはクラスター弾頭であり、子弾が途中で発射され、その指弾が広域に広がり、ぶっ飛ばす。なお、ギアを纏っているが、ギアの性能を用いた攻撃はしていない。
『ゲッターサイクロン!!』
腕をゲッターポセイドン型のパペットのような形状の送風機にし、暴風を起こして吹き飛ばし……。
『フィンガーネット!!』
瞬時に武器をフィンガーネットに切り替え、網で大量に捕縛し……
「大・雪・山おろしぃぃぃっ!」
大雪山おろしで〆、地面に叩きつける。通常、ノイズは位相差障壁を備えているので、通常の物理的攻撃は受け付けないはずだが、黒江の攻撃は小宇宙とゲッター線などを用いており、通常の物理法則を超えてしまっているために『ギアのスペック』に頼らなくとも、ノイズを普通に蹴散らすことができる。そうでなくては『神』と戦えない。(のび太やゴルゴがそうした攻撃から運を含めて、必ず生き延びられるため、異能生存体という定義が生まれるに至ったのは言うまでもない)
「さーて。あいつらに来られても面倒だ。ぶっ飛べ!!」
『試すのは初めてだが…、メテオライト・ストライク!』
黒江は空中に巨大な隕石を小宇宙で形成する。それを落下させ、その隕石を地面に激突させ、周囲のノイズを一掃する。
「牡羊座の闘技をシオンに頼んで、勉強させてもらった甲斐があったな。さて、ガキどもに移動するように言うか」
道路に巨大なクレーターを作るが、周囲のビルには被害は生じていない。小宇宙での攻撃なので、衝撃波の発生などはコントロールできるらしい。また、黄泉帰った『牡羊座のシオン』(先代教皇)に頼んだという発言から、牡羊座の聖闘士に伝わる闘技である事がわかる。これほどにド派手な技であったので、当然ながら二課側もキャッチしており、装者達を向かわせたのだが、三人の装者が到着した時には、現場に巨大なクレーターのみが残るのみであった。その後、二課の分析は必死に行われたが、衛星からの映像に映る『シュルシャガナの装者』は完全にギアの性能に頼らない戦闘を行っていたこと、無から隕石を作り出し、それをぶつけるという所業、それでありながら、周囲に目立った被害がないという超常現象は科学的な説明がつかなかったという。
――黒江は『非常Σ式 禁月輪』を使い、その場から離れ、マリアは未来を連れ、その場に遺棄されていた(鍵がついたままという幸運もあった)大排気量のオートバイで黒江についていった。基本的にノイズが発生した時には、人々が例外なくシェルターなどに避難するため、区画そのものが無人になる。警察も死人を出さないため、シェルターの警護や周囲の封鎖という名目で出払う。それが幸いし、三人は現場に装者が来る前にその地区から離れることができた――
「あの隕石も、貴方の技なの?」
「そうだ。とはいっても、覚えたてだがな。本当は俺の受け持つ守護星座の技じゃないんでな」
「貴方、何座なの?」
「山羊座だ。もっとも掛け持ちしてるから、今はそれでない星座の技も撃てる」
「いいの?」
「戦のあとで人手不足なんだ。掛け持ちしないとならんのだ」
「……でも、よくそれを調と遜色ないレベルで使いこなせてるわね」
「元々、仕事やプライベートでオートバイ乗り回してたからな。一輪車だろうと、慣れりゃ簡単だ」
ただし、『非常Σ式 禁月輪』は小回りが効かないために、バイパスに入る時には足下のローラーでの走行に切り替えるという。
「ここからはバイパスに入るから、ローラーに切り替える。」
「どうしてですか?」
「小回りが効かんし、高架を抜けたら更に裏道に入りたいからな。それに、今から入る高架道路を抜ければ、封鎖地区から抜けるしな」
「どこまで行くつもり?」
「今日は北北西の町外れだ。町外れから町外れに移動してるようにしてる。街の端から端までにゃ、車やオートバイを使っても、20分ほどかかるからな。それくらいあれば、移動は容易だ」
二課はヘリコプターも持っていたが、本部が潜水艦になってからはあまり使う機会がない。また、この頃にはこの世界の日本の防衛大臣がアメリカ合衆国による謀略で代替わりしていたため、防衛省がヘリコプターをあまり貸し出さなくなっており、意外な苦労を強いられていた。それも二課の捜索が上手くいかなかった理由である。とは言え、人伝いに『ノイズと戦ってくれている少女がふらっと現れる』という噂は飛び交っていたため、それが調(黒江)であるとする推測は立てていたのも事実である。得られる映像から能力の解析を試みていたが、無から物質を造り出すとしか見えないものや、どう考えても物理法則無視の変形をさせているとしか思えない場面があるため、いくらシンフォギアが変形機構を有すると言っても、歌唱無しで能力は発揮させられはしないため、その謎も残った。また、装者達が現場につく頃には『事態が終息している』事が続いていたため、『シュルシャガナの装者』が確認された当初より遥かに戦闘力を増している事が実証され、単独での接触は風鳴翼であっても危険と判定された。小日向未来のことが気がかりであった立花響であったが、交戦すれば、タダではすまないとされ、単独行動を禁じられたために、仕方ないが、従うしかなかった。
――黒江のこうした行為は後日、日本政府が調の存在を利用し、米国への抑止力として利用せんとすることに繋がる。そして、黒江が時たま『風来坊』のような振る舞いをしていた事もあって『破天荒な装者』であると、アメリカ側に(主に外交筋で)喧伝されることになる。だが、調は本来、レセプターチルドレンとして、幼少期に日本から米国が拉致したはずの人間であるので、米国政府は狼狽。既にかつての威光を失って久しい米国にとって、レセプターチルドレンらは危険な存在であるため、直ちに抹殺が図られた。(違法行為の証人そのものであるため。また、調の本来の出自も黒江は転移前に『アニメ』という形でおぼろげに知れていたため、後にそれを知った調本人が調査し、自分の親のどちらかの名字が『南條』であったらしいという情報を掴むに至る)ただし、シンフォギア世界の米国は世界の覇者たり得なくなっていくことに我慢ならず、非合法的的行為をここ数代の大統領が推進していた事実を闇に葬るために、マリア達に全責任をなすりつけようとしていく。それを推進させたのが、精神的支えが失われた事で『狂ってしまった』切歌の暴走行為であった。一般人の犠牲を顧みない暴走は結果的に切歌やマリアの立場を悪化させてしまい、切歌は結局、フロンティア事変後に収監されることになる。そして、米国が生前のフィーネの口車に乗せられ、彼女の遺伝子と魂の刻印を継ぐ者の候補として、全世界から孤児を拉致していた事実も白日の下へ晒され、米国の政治的権威は失墜するのだった。(切歌が『狂っていた時期』に周囲の被害を顧みずに『調を正気に戻す』ために戦った事で、後に犠牲者の遺族の追及を強く受け、遂には死刑が求刑されるに至るが、日本政府の立ち回りで命は助かった。その後に正気を取り戻したためもあり、その罪の贖罪のために聖闘士の道を歩む)。――
――調当人は古代ベルカに滞在中に過去の自分を客観視する機会があり、切歌への愛は10年あまりの生活の内に冷めていた。心変わりと言われても仕方ないが、盲目的な愛と相互依存関係の異常さに気がついてしまった故であった。10年あまりの騎士生活で価値観が変わっており、黒江がシンフォギア世界で得ていた立場をそのまま受け入れられないとする罪悪感もあり、立花響との口論をきっかけに出奔。野比家に住み込むことになる。立花響はこの口論は比較的に早期に和解できたものの、なのはの行為がきっかけで無力感を抱き、更に沖田総司の人格に主導権を握られていたことで、自身がそれとは別に有していたプリキュア因子が覚醒。太平洋戦争の時期にキュアグレースへの変身能力を得る。ただし、自身の強い思いが力を変質させており、ヒーリングステッキを持たなくとも、従来のプリキュア同様に徒手空拳主体で戦えるという特徴を持つに至った。そして、彼女の『思いを繋ぐ』力が強化された結果、先輩のキュアドリームに新たな力『ドリームキュアグレース』形態をもたらしたのである。(結果的にドリームに合体技とは言え、浄化技をもたらしたわけだ)立花響としては災難が続いたが、花寺のどか/キュアグレースとしても生活するようになったことで彼女の運気が変化。それまでと一転し、運に恵まれるようになり、元の世界での家族関係も急速に修復へと転化していく。ただし、ヒーリング・ステッキを必要としないという特徴があるので、代わりに現役後期に使用した『ヒーリングっどアロー』を常用するようになっていく。のび太の子であるノビスケとは花寺のどかとして出会うわけだ。ドリームとの共闘の記憶も蘇ったため、『憧れ』から『戦友』に関係が変化するが、本来は同じ年齢として出会うことはなかった年齢差(花寺のどかは実は2007年生まれ。その年にのぞみはプリキュアに覚醒している。)にも気付かされる。のぞみはこのショッキングな事実に落ち込む羽目になったが、咲に『あたしらなんて、2022年に30歳なんだけど』と言われ、どうにか立ち直る。咲が一番に後輩とのジェネレーションギャップを気にしていたからだ。
――太平洋戦争中 1949年のある日――
「先輩、その写真は?」
「お前らが来る前に事故で調と入れ替わってた時期に撮ってた写真だ。ちょうど、ぶらついてた時期に撮ったんだ」
太平洋戦争中、報告書を持ってきたのぞみが黒江の机に飾られている写真に気づき、尋ねた。写真には入れ替わっていた時期の黒江、マリア・カデンツァヴナ・イヴ、小日向未来の三名が映っており、誰かに撮ってもらったことが窺える。
「先輩、結果として、歴史変えましたよね、あの世界の」
「アニメで言う第四期と五期のフラグをぶち折った上、シンフォギアが使われる局面を無くしたからな。老師なんて、四期のフラグを直接的にぶち折った。光明結社の幹部皆殺しだぞ」
それは錬金術師らの秘密結社を本格蜂起前に天秤座の童虎が叩き潰した事を指す。したがって、シンフォギアA世界での立花響は錬金術師との関わりをあまり持つことがなかったと言える。しかし、別の世界のサンジェルマンからの転生を経ていたキュアダイヤモンドとの出会いで、『別世界の出来事』の記憶が宿った。その状態をキュアダイヤモンドは『SFでもめったに無い状況』と評している。
「あの子、複雑だって言ってますよ」
「直接的な面識がないのに、記憶だけがある状態だからな。世界線によっては、鉄腕アトムも100万馬力にパワーアップするから、その理屈と同じだな」
「そうなんですか?」
「地上最大のロボットって回でそうなる。確か、アニメ化されてたはずだ。今度見てみろ」
もののたとえにしてはマニアックなようだが、黒江は鉄腕アトムの有名なエピソードは知識として抑えているのが分かる。のび太が漫画評論家志望だったからだろう。
「先輩、詳しいですね」
「のび太、中学校までは漫画評論家志望だったんだ。高校んときに親を安心させたいのと、キー坊のこともあったから、官僚を志した。あいつは親思いだよ」
のび太は黒江と出会う前、自分が育てた知性を持つ植物『キー坊』との別れと再会を経験していたため、環境問題に関心があった。そのため、のび太は地球の環境を悪化させたジオニズムを嫌悪し、スペースノイドの過激化の根本原因であるエレズムにも否定的である。これはのび太の努力をブリティッシュ作戦と星の屑作戦の愚行が無に帰したも同然な結果を残し、コスモリバースシステムを以てしても、完全には回復しきれないほどの影響を残している事に起因する。ブリティッシュ作戦の折に野比家の分家が一つ全滅したことものび太がジオンを『敵』と断じた理由になる。過去の人間に存在意義を否定された事もジオンの終焉に影響を及ぼした。
「ジオンを敵と断じてたのは?」
「セワシの孫の一人の一家がシドニーに住んでたんだよ、財団のオセアニア支部の業務の関係で。セワシが枯れた原因でもあるから、のび太はジオンを嫌ったんだ。それと、一族にジオニズムの犠牲者が多いんだそうだ」
野比一族は元来、ジオン・ズム・ダイクンに理解を示していた。だが、ブリティッシュ作戦の後からは変節したため、テロリズムの標的にされやすく、更に野比財団を脅威と見なすマーサ・カーバイン・ビストの謀略もあり、犠牲者が少なからず生じた。のび太は子孫のノビタダに命じ、アナハイム・エレクトロニクスの主導権確保とビスト財団への『復讐』を指令。ノビタダも自身の叔父やはとこにジオニズムやビスト財団の犠牲者が出たことで復讐の機会を窺っていたため、のび太の指令を実行した。野比財団の月面支部長であった叔父の『ノビロク』がシャアの反乱の頃に謎の死を遂げていたからである。ビスト財団が力を失った背景には『マーサの非人道的な謀略』が大きい。ジオン公国軍残党が一年戦争後は情け容赦なく殲滅されていった理由の一つが『戦も良かろう、だが、無辜の市民を敵対勢力だからと虐殺とは!人としての情けや情というものを持ち合わせていないとみる。ジオン公国の正義は鬼畜の正義、力のみの正義と心得た。戦時条約は無効とみて全面的報復戦を行うべきと考え、ジオン公国軍をテロリストと扱う事を発議する!』と唱える議員が連邦議会の過半数を占めたためで、その世論をジャミトフ・ハイマンに利用されたのがグリプス戦役への道だ。また、南極条約もギレン・ザビとキシリア・ザビは『コロニー市民の離反を防ぐため』の方便としてしか見なしておらず、ギレンに至っては『ギレン公国』に国号を変更したい願望をエギーユ・デラーズに漏らしていたという実情もジオン終焉に一役買った。ジオニズムのテロリズムはメカトピア戦争後に子供時代ののび太達がジオニズムをやんわりと否定的に語るインタビュー番組が流されたことで再燃。野比一族はこのインタビューで結果的に煽られたジオン復興の執念に巻き込まれたわけだ。ジオン側にしてみれば『過去の人間が未来を語るな』であろうが、子供時代ののび太たちから見ても、明らかにジオンは暴虐の集団であったのは見え見えである。ミネバ・ザビがオードリー・バーンになった理由も、このインタビュー番組で自分の親族が犯した罪の重さを自覚しつつも、バナージ・リンクスとの愛に生きたかったからだ。同位体であったメイファ・ギルフォードはザビ家の末裔としての負の面の後始末を引き受け、『贖罪のために慈善活動に精を出すミネバ・ザビ』という自らの姿を演出している。一般に知られるミネバ・ザビのイメージはデザリアム戦役後においては『ロングヘアーの風貌で、ちょっと世俗じみている』人物像になっていくが、これはメイファ・ギルフォードのものだ。そのため、『オードリー・バーン』はバナージ・リンクスと共に平和に生活していく事になり、『ミネバ・ザビ』は移民船団の準備委員会の委員とサイド3の残務整理委員会の委員を兼任していたと記録される。
「のび太くんの一族、これで落ち着けますかね」
「わからん。木星と火星がキナ臭いし、まだプロフェッサー・ランドウがいる」
百鬼帝国滅亡後に台頭したプロフェッサー・ランドウ。そして、女帝ジャデーゴ率いる恐竜帝国残党。野比一族の安息は遠いとため息の黒江。
「デビラ・ムウ。今回はどんな形で襲いかかるのか……」
黒江が引き継いでいる情報にある『デビラ・ムウ』。恐竜帝国残党の資材供与で完成させていた反ゲッター線増幅装置も兼ねた環境破壊メカ。いくつかの時空でゲッターに敵対したメカの一つ。ランドウはかつて、ゲッターに倒されたメカの再生を進めていた。ウザーラ、無敵戦艦ダイ。そして自身のデビラ・ムウとドラゴンタートル。それらの内、ウザーラ、ムウ、ダイの三つをゲッター化する計画。隼人が妨害工作を働き、完全には再生不可能に陥ったウザーラとダイをムウと合体可能にさせること。それがランドウの本当の切り札『ゲッターデーモン』(基礎設計概念は流出していたが)である。1949年での黒江の敵への懸念はそのゲッターデーモンという『悪のゲッターロボ』の構想の実現にあると言って良かった。