――聖闘士は人が到達し得る最高の可能性の一つである。上位の星座の聖闘士ならば、相手を異次元に飛ばす事も容易である。黒江も実際に使用した事がある。切歌の周囲の被害を顧みない暴走を止めるために、かつて、双子座のカノン(サガの双子の弟)が得意とした技『ゴールデントライアングル』を使用し、異次元にぶっ飛ばした事がある。切歌が聖闘士に転じたのは、その行為の罪を償うためでもあった。アナザーディメンションとゴールデントライアングルは発動が一瞬である上、聖闘士でも抗えないほどの力なので、切歌の暴走を止めるには仕方のない処置であったという。(その時に、切歌はギアのアンカーを地面に打ち込んだり、スラスターを吹かして抵抗を試みたが、ゴールデントライアングルのパワーには無意味であった)黒江は正式な資格を持つ聖闘士であるので、聖衣が次元を超えてやってきた時には聖衣で戦っている。そして、そのフルポテンシャルを発揮した場合、通常のシンフォギアでは歯が立たない。それは黒江が滞在中に証明されている――
――黒江がシンフォギア世界にいた時期――
「シンフォギアは世界線によっては心象変化を起こすらしいが、俺は詳しくは知らん。面倒見てるガキが、スマホのゲームやってるのをちらっと見ただけだ」
「げ、ゲーム……」
「そもそも、俺がいることそのものが原作をぶっ壊しとるからな。この姿も本来の姿じゃないし、陸士50期の陸軍将校だ。普通に生きてりゃ、90超えてるし」
シンフォギア世界(後にA世界と分類される)の派生世界であるこの世界では、シンフォギアにまつわる動乱が2010年代に起こっている。黒江は戸籍上の生年月日から換算すれば、2010年代には90歳代の高齢になる。2005年前後のカミングアウトの時にも、当時の時点で80歳を超えている事が問題にされたが、防衛省が『換算年齢よりも肉体年齢を優先する』という声明を出している。異なる時間軸からやってきた以上、肉体年齢を優先するのは理に適う理屈である。
「それに、ガキ共と本気でやりあったら殺しかねんからな」
当時の時点での装者達は聖闘士との実力差は絶対的であった。音速には対応できても、光速にはどうあがいても対応不可能であったからだ。
「言っちゃなんだが、死を乗り越えた身だから、肉体の再生は即座にできる。異次元に飛ばすなんてのもな。もっとも、聖闘士でも、戦闘態勢でなければ、銃弾は避けられんがね」
と、聖闘士でも不意打ちを食らう+戦闘態勢でなければ、銃弾を浴びる事はマリアと未来に教える。
「あなた、どうしてギアを使うの?」
「コスプレ喫茶で飯代稼いでる関係だ。こいつの名前は聞いてたから、身分証も偽造した」
黒江は名前は聞いていたが、『月読』となるべきところを勘違いで月詠と表記してしまっていた。この表記は後に調本人も心機一転の意図で採用し、のび太の世界で使うのである。
「元々働いてる世界と身分証システム似ていて助かったぜ」
「え、どうやって」
「ハッキングだ。平行世界跨いで仕事してんから、免許証とマイナンバーカードを偽造して、後はデータバンクに偽造データをぶっこんだ。能力使ったから、コンピュータを使うより早くできた」
「あなたの能力っていったい……」
「元々が電流操れる能力多用してるから、遠隔ハッキングとか、端末介さずのハッキングなんか、御茶の子さいさいってもんよ。技能は転生で増やした面もあるが、元は俺がガキの頃に、演技や歌をお袋が英才教育していてな。その流れで、何かを鍛えるのが日課になったんだ。あいにく、俺の本当の姿の写真はないが、美人だぞ?」
そう言って、ウインクしてみせる。黒江は元の姿では凛々しくもクール系の容貌であり、往時は智子には及ばないが、人気は高い方であった。
「鍛えるのが日課だったんですか?」
「ガキの頃の名残りだ。お袋がクソみたいな性格でな。若い頃の夢を俺を使って叶えようとしたんだ。それでな。士官学校の同期の奴に、任地として、ドイツに行きたがってた奴がいるんだが、事もあろうに、ドイツ語がダメダメ。それで俺が教えてた。親父や三人の兄貴達も勉強には厳しかったから、小学校の時は近所の帝大生に教えてもらってたから、その流れで覚えたんだよな」
黒江の言う同期とは、智子のことで、智子は今回、事変当時に『ブリタニア語出来れば、世界中何処行っても困らないって聞いてたんだけどーっ!!』とヒステリックに喚き散らし、圭子に『んなわけあるか!ブリタニア語、ガリア語、カールスラント語、エスパーニャ語から2つ以上覚えないと、国際部隊じゃ仕事にならねーよ、バカ!!』と叱られていた。黒江は小学校時代に帝大生から勉強を教わっていたために、語学も堪能なのだ。
「欧米の五ヶ国語は使える。中国がある段階で滅んだ世界だから、中国語は手間取ったが」
「中国が滅んだ?」
「話せば長いんだ、これが」
ウィッチ世界では中国は明朝の段階で滅んだため、流石に漢文には手を焼いているらしい。そもそも、中国や朝鮮の存在を知ったのは、自衛隊に入ってからなのだ。
「今はその暇はないから省くけど、21世紀にいるダチのツテで自衛隊に入ったのが1999年。2003年に任官。その二年後に『別世界から来ました』ってカミングアウトしたんだ。式典で旧日本軍の勲章とかつけて出たのが国会で問題にされたから」
黒江のカミングアウトは衝撃であったが、異世界との交流が始まったことを示す格好の材料であるので、式典に記章や勲章をつけて出た事は咎められなかった。却って野党が恥をかくだけであった。金鵄勲章は扶桑の勲章であり、日本の旧勲章と似て非なるものであるからだ。
「そん時はまだ二尉くらいだったのに、国会で証人喚問だよ。ま、出し抜いてやったよ。嫌がらせに持ってる略綬をつけて、飾緒もつけて出てやった。当時は防衛庁だったな…」
黒江が別世界の旧軍人である事、それも航空部隊で名を馳せるトップエリートかつ、トップエースの一人である事がその時に公になった。元々の所属部隊が64戦隊であったことも明らかにした。
「航空自衛隊の現場の対応が一夜で変わったよ。カミングアウトした後は上官が敬語使ってきたから、苦笑いしたの覚えてる」
「なんでですか?」
「加藤隼戦闘隊って軍歌あるだろ?その部隊の幹部だったのよ、俺」
黒江は64Fの幹部である。潜入当時には『復活の内示』があった段階であったが、同位体が誰であるかの察しがついた防衛庁では丁重に扱われる様になった。また、史実と違い、戦闘機パイロットの制限も黒江の任官時になくなっているため、黒江は当初から自衛隊でも戦闘機乗りであった。やがて、防衛庁が防衛省に昇格した後、旧・職業軍人という経歴が警察系官僚に警戒され、政権交代後に内規で幕僚長への就任と統幕入りの道を閉ざされた。その後に政権再交代で日本連邦構想の具体化で統括官という職責についた。2020年でも在任中である。黒江の在任期間は8年を超えるため、次の職が検討されている。これは黒江以外の扶桑出身の自衛官が順調に佐官まで昇任してきたからだ。この当時では空将補であった頃だが、扶桑での階級は大佐で留め置かれていた。
「そんなわけで、空将補にまで上がったが、本国だと大佐のままでな。お上が言ったんだから、早く約束通りに少将にしてくれよと」
本人も愚痴っているように、少将への昇進は昭和天皇の口約束であった。軍上層部は『ウィッチ出身者の若齢での将官任官は例がない』、『将官にすると、前線に出せなくなる』事への危惧でを理由に拒んでおり、反故にされていた。だが、黒江がシンフォギア世界に飛ばされてた時期は501での冷遇が耳に入っていた頃にあたる。その時期の動きに触れよう。
――1945年の夏 皇居――
「君は私を嘘つきにしたいのか?」
「め、滅相もございません!私の監督不行き届きでして…」
皇居で言い訳をしているのは、当時の陸軍航空総監。静かに怒る昭和天皇を前に、言い訳がましいことを連発しまくっていた。黒江は当時、陸軍航空部隊の所属だったからだが、陸軍の当局側も『黒江は天皇が全幅の信頼を置く将校であった』のをこの時に初めて認識した。そもそも、これは彼の前任者らの責任なのに、彼が叱責を受けるのは人事異動の悲哀であった。
「これほどの逸材をなぜ、大佐で留め置くのか?私にもっともらしい解答を示してくれたまえ」
「ハ、ハ……現時点ではお答え出来ませんので、後日にご報告いたします……」
というのが、この日の彼にできる精一杯の誠意だった。軍部としては、『佐官の優秀なウィッチをデスクワークに回したくないから』というのが本音だった。だが、直後に黒江が自衛隊で出世してしまった事が自衛隊から上奏されたことで、陸軍当局は瞬時に窮地に陥ってしまう。更に折り合い悪く、黒江、智子、圭子の501での冷遇が扶桑のある新聞紙に報じられてしまったのだ。
――連合軍司令部、扶桑海七勇士の筆頭格を冷遇か?――
翌日、一面記事でそれが報じられると、カールスラント大使館は天変地異でもあったかのような騒ぎに陥った。大使館から本国に当てられた電文は直ちにカールスラント皇帝に上奏され、皇帝名義での返事が現場責任者であるエルヴィン・ロンメル将軍に伝わった。
――その日の501――
「坂本、これを見ろ」
「連合軍司令部、扶桑海七勇士の筆頭格を冷遇か…。どこから漏れた?」
「本国は大騒ぎになってやがるぞ。カールスラント皇帝も問題視しているそうだ」
「バカな、皇帝陛下がなぜ、お前らのことを」
「閣下の線に決まってるだろ。アンポンタン」
圭子はどこでもドアで買ったらしい扶桑の新聞紙を坂本に見せた。坂本も事の重大さに青ざめている。
「ミーナはどうしている?」
「今は他部隊との連絡で留守だ。お前の教育不足だぞ、坂本」
「面目ない…」
ミーナの行う冷遇が報じられてしまった事は連合国軍幹部達すら認識していなかった事であるので、カールスラント派遣軍の責任者であるロンメルは今頃、盛大に腰を抜かしているだろうとボヤく圭子。
「はい、こちら加東圭子。モンティか?新聞は見たな?何、ブリタニアでも報じられたぁ!?どこの新聞だ!」
ブリタニアの大手新聞社も『連合軍のスキャンダル』という形でそのことを報じた事が圭子に伝わる。
「大手だ。今、広報部に対応させているが、この先、どんどん『スキャンダル』として報じられるだろう。差止めはもはや無理だ」
「お前らのほうで躱せねぇか?」
「無理だ。扶桑の大衆の怒りに火がついたら、カールスラントの大使館は焼き討ちものだ。扶桑の近衛師団が警護についたそうだが…」
「話が出ちまったなら、人身御供を出して、これ以上の延焼を食い止めるしかねぇな。この時代、ネットが未発達なのが救いだな。ミーナにはそれになってもらう」
「いいのか、ケイ」
「それ相応の罰は受けさせる。査問は避けられんだろうから、お前らで査問役を固めろ。パットンには根回ししておく」
「ロンメルも青ざめていたよ。」
「ミーナが転生者であるかどうかわからんが、このストレスがきっかけになるやもしれん。パットンには悪役になってもらう」
「奴が乗るか?」
「見返りはするさ。第一便で、あいつの357マグナムに代わる44マグナムのオーダーはしといたから、直に届く。それに、パットンなら宥める側より、強く責め立てる役を選ぶさ」
圭子はモントゴメリーとの電話を終える。
「坂本、今から言うことは命令だ。査問でミーナの味方をするな。むしろ上層部の味方をしろ」
「気まずいが……。仕方あるまい」
坂本は目を閉じての一考の後に頷く。葛藤があったからだろう。と、そこに。
「ケイさん、敵だ!まずいことに機材は整備中だ~!」
ハルトマンが駆け込んできた。圭子は柔軟体操をした後、ハルトマンに告げる。
「ガキどもを外に出しとけ。智子はどうしてる?」
「昨日、かき氷食い過ぎで下痢になって、今朝からトイレに籠ってるってさ」
「あのどアホ…」
この時は圭子単独での戦闘になった。黒田が黒田家の相続に関わる仕事で本国に戻ったからだった。圭子はこの時初めて、『ゲッターの使者』としてのフルポテンシャルを見せたわけだ。
「あたしも出るよ。ちょうど、VF-19もらったばっかで、ウズウズしてたとこだよ」
「あ、そんならさ、あたしも22を使う~」
「ガンポッドは使うなよ、レーザー機銃でケリをつけろ。大きな作戦の前だ。弾薬はとっときてぇからな。シャーリー、エーリカ、続け!」
「がってん!」
この日は旧504は残務整理で元の基地の機材を別部隊へ引き継ぐため、元の基地に帰営していたため、旧501と502が基地にいた。その兼ね合いで、マフラーをゲッターウイング化して飛ぶ圭子をシャーリーとエーリカがVFで護衛する構図となった。敵はF6FとF4Uであった。
「グラマンとシコルスキーだと!?」
「敵もいよいよ攻め時ってんで、配備を進めたな」
「まずいな、レシプロだと、整備が終わったところで戦力に出来ねぇぞ」
「グラマン鉄工所は零戦の20ミリでも数発程度じゃ火も吹かねぇからな。ヤーボのシコルスキーを優先して落とせ。格納庫はやらせるな。あ、お前ら。レシプロ相手なら、ガウォークでPBP食らわしても良いな、マックスマニューバの練習に丁度良いぞ」
「そうするべ」
シャーリーはいい加減な返事で機体をガウォーク形態にし、パンチを食らわして落とし始める。エーリカもガウォーク形態でパンチとレーザー機銃で落とし始める。しかし、この日の主役は……。
「さーて。インパクト重視で行くか。ドリルテンペスト!!」
ドリルアーム(槍)をその場で召喚。一撃離脱戦法をかけようとしたF6Fに向けて、『ドリルテンペスト』を放った。槍を動かし、近くの編隊を飲み込み、竜巻で空中分解に追いやる。なにげに電撃も走っており、ゲッター2のドリルストームやゲッターライガーのドリルハリケーンとは桁違いである。
「マックスマニューバは頭使うから、ヒット・アンド・アウェイの方が楽だな……っと」
シャーリーは流れ作業的に敵機を落とす。仕事はこなすが、レシプロ戦闘機相手ではつまらないらしい。
「アホ、力押し以外のことも覚えとけ。下でガキ共が見てんだし」
「とは言っても、バリア展開してるカラスっぽい奴に喧嘩してくるバカがいるか?あー。これじゃ、アパッチで戦車をいじめるほうがマシだぜ」
離脱を図ろうとするF4Uの翼をVFの腕で掴んでへし折って落とすシャーリー。欠伸混じりであるのが流れ作業感を出している。
「バカと勘のいいヤツは戦場じゃ、うじゃうじゃ湧くもんだ」
「そーいうもんかね??」
シャーリーは次の編隊に殴りかかるが…。
「お、避けられちまった、クリーンヒットだと思ったんだけどなー」
「ほら見ろ、言わんこっちゃない」
今度は後続のドーントレス爆撃機が律儀に姿を見せる。二段攻撃の腹づもりだったのか。150機はいる。
「あ、爆撃機がきたよ」
「さーて、一瞬で半分を落としてやるか」
圭子の体からゲッターエネルギーがほとばしり、そのエネルギーが空中でダブルトマホークの形で実体化する。
「これで脱出できれば、運がいいってこった。真・トマホォク・ブゥゥメラン!!」
トマホーク状のエネルギー刃を多数飛ばし、相手を斬り裂く『真・トマホークブーメラン』。圭子お得意の技の一つだ。極超音速でトマホークが飛ぶため、衝撃波がかまいたちのような様相を呈し、軸線上にいる敵機以外の敵機にも損傷を与える。翼を斬られるもの、胴体をまっ二つにされて、脱出出来ずに空中で果てるもの、衝撃波で機体を損傷し、戦意喪失したもの。生き延びたが、爆弾を投棄し、逃げ帰るもの…。各々の行動を見ると、千差万別である。だが、勇気ある者が僚機を囮にし、三人の迎撃網を潜り抜け、ロケット弾の発射コースに乗る。十字砲火で三人の行く手を阻む勇気ある30機のグラマン、そして、まんまと出し抜いたコルセア(中期型相当。ロケット弾装備)の五機。コルセアの戦闘出力は670キロ以上。防衛隊の高射砲がロケット弾で破壊され、本命の二機がロケット弾を格納庫へ放つコースに乗るが…。
その時だった。明らかに『超電磁砲』にしか思えない閃光がコルセアを撃ち抜いて消滅させる。
「超電磁砲だと!?」
さすがの圭子も驚く。超電磁砲を使える者の心当たりは一人しかいないからだ。
「油断大敵ですよ、ケイさん?」
「その声……美琴か!?」
「正確には、その生まれ変わりですよ。もっとも、あなたの知ってる御坂美琴があたしとは限りませんけどね」
「グンドュラか!?お前がみこっちゃんの生まれ変わりかよ!?」
「それはやめてくださいよ…」
圭子も驚きだが、グンドュラ・ラルが警戒で見回っていたジェガンの手に乗り、武装の給電コネクタから電力をもらい、遠距離から超電磁砲を放ったのである。
「だからって、常盤台中学の制服着て、超電磁砲を撃つのかよ」
「記憶戻ったの、ここ数日だったんですよ。それに久しぶりだから、エーリカに取り寄せてもらったんですよ、これ」
「おい、ぱつんぱつんじゃねーか」
「この体のせいです」
グンドュラ・ラルはかなりの長身でナイスバディなので、常盤台中学の制服のサイズは合わせたものの、かなりぱつんぱつんになっている。また、グンドュラ自身が大人びた風貌であるため、かなり無理している感のある姿だ。
「格納庫はあたしが守ります!ケイさん達は敵を!」
「よし、聞いたな、お前ら」
「あいよ」
「でもさ、グンドュラ。その格好さ、無理あるよ、やっぱ」
「エーリカ、うっさい!」
「はいはい。『ひかり』がこの場にいなくてよかったかな、ある意味」
「あたし、その子についてのコメントなんて無理よ?そもそも、うちに配属されてないし」
「あたしがなんとか言い繕ってあげるし、『因果』があるなら、いずれはなんかの形で会うと思うよ」
この日にグンドュラ・ラルのGウィッチ化が正式に確認され、『会議』の一員に迎えられた。Gウィッチの拡大期がちょうど始まる時期に黒江はシンフォギア世界へ飛ばされたわけで、この日から数週間後にプリキュア達の覚醒が始まっていくのである。それと同時に起こった騒動はカールスラント衰退の序曲となる。ドイツ連邦共和国のカールスラント連合帝国への強権的介入も重なった結果、Gウィッチの隆盛と反比例するかのように急激に衰退へ向かう。ミーナはその衰退のきっかけを作ったという事で、本国で白眼視され、本国に『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ』として足を踏み入れたのは、人々からその記憶が薄れ始める1960年代の終盤の頃であったという。
――フェイトが黒江の捜索を開始した時期は、M動乱のゴタゴタからの時空管理局の再編と組織の地球連邦体制への編入が決まった時期であった。M動乱での管理局の醜態は求心力の低下に繋がり、中央の内乱で魔導師の数が激減した上、エリート層の殆どが離反していたという大惨事であった。秩序崩壊は地球連邦も望んでいなかったため、次元世界を間接統治する方法をとり、時空管理局の実務部門の三権分立と軍事部門の独立を時間をかけて実行することにした。また、時空管理局の本局もデルザー軍団の手でかなりの打撃を受けたため、艦艇保有数も減少してしまった。魔導主体の技術体系では立ち行かなくなったため、地球連邦軍の兵器を使用するようになっていく。時空管理局は元から人手不足の組織であった上、発達した科学技術が魔導技術を凌駕してしまっていたこと、聖王のゆりかごの素体が『宇宙戦艦ヤマトのプロトタイプ』であった事で、魔導技術にこだわる意義は消え失せたからだ。フェイト自身も魔導師としての自らに限界を感じていたため、聖闘士になっており、獅子座の後継者になっていた。古代ベルカもミッドチルダも、地球を起源としていた事実は地球が時空管理局を逆に取り込む大義名分にされ、ウィッチ世界がダイ・アナザー・デイに入る頃には、時空管理局の実働戦力の指揮権は八神はやての手に委ねられていた――
――黒江は日賃を稼ぐため、コスプレ喫茶でバイトをしていた。シンフォギアをその目的で使用するという大胆不敵な方策、『シンフォギアが放射するエネルギー反応を小宇宙で抑え込み、相手方に探知させないという強引なステルス、先入観を逆手に取っての開き直り的なアルバイトに、未来とマリアは呆気にとられた。黒江の口八丁は大したものだが、シンフォギアを戦闘以外の目的に使い、(平行世界でいう心象変化無しで)相手方の探知に引っかかる事もないためか、ニアミスしやすい立地で働くというのは、意外に危ない橋を渡っていることをマリアは悟っていた。このご時世では意外にいい水準の日給をもらいつつ、ネット喫茶で寝泊まりする。二課側は先入観もあり、黒江のこうした動きを捉えられずにいた――
「どうして、二課は貴方を見つけられないんですか?」
「向こうが調べに向かわせた時には、もう事が終わってる上、俺が結果的に日本の益になる事をしてるから、役人がガードしてるんだろう。それに、二課の武力は治安維持当局の反発を招いてるようだしな」
ネット喫茶で黒江は未来に自身の推測を話す。当時の特異災害対策機動部はシンフォギアという突出した武力を備えていたことから、防衛省などの治安維持当局の反発を受けており、『シュルシャガナの装者』の目撃情報を黙殺され、二課も確証が得られず、動くに動けなかったのである。他の理由としては、この当時の二課の装者のギアのスペックでは、黒江に全く対抗不可能であるという現実問題があった。
「問題はマリアんとこの緑のガキ(切歌のこと)が暴走しそうなことだ。勘違いが破局を招くってのは、こういうイレギュラーが起こってる時によくある。どうやら、この世界でしばらくは『調』ってガキの存在の穴埋めを否応なしにやらされるしかなさそうだが、あのガキにはわからんし、言ったとこで信じはしないだろう」
調の姿と声色だが、黒江はギア姿のままでPCチェアに腰掛けている。形状とカラーリングは史実で言う魔法少女事変以後の時間軸でのものだが、これはこの当時の調本人との心象と適合率の違いで生じた個人差である。
「どうするんですか?」
「勘違いが破局を生むというだろ?最悪、あのガキはトチ狂って、周囲の被害を顧みなくなる。それは止めるしかない。どんな手段を講じても、な」
黒江はある種の予感を感じていた。切歌の心のタガが外れ、暴走を始めるだろうと。
「異次元に飛ばして、頭を冷却させるのが最良だろう。俺に言わせりゃ、イガリマは本来は斬山剣で、鎌じゃない。だが、この世界では鎌だ。あれが魂を斬り裂くのなら、壊すしかない。あれで周りに危害を及ぼした場合、あの世にもいけねぇことになる」
イガリマの力はあらゆる防御を無視して対象の魂を破壊するとされるが、それはイガリマ本来の能力ではないと断じ、その機能を破壊すると告げる。切歌が暴走した場合、聖闘士でもない限りはイガリマの刃を止められないからだ。
「イガリマを止めるには、もっと上位の宝具をぶつけるのが手っ取り早い。エクスカリバーだ」
「アーサー王伝説の剣ですよね、それ」
「そうだ。俺、転生してきたご本人に会ってるんだが、俺の知るアーサー王、女なんだよな。なんでも、生前に性別を偽って王位についた世界線の存在らしくて」
それはアルトリア・ペンドラゴンのことだ。少なくとも、そういう世界線から転生してきたというのがアルトリアの言い分である。もっとも、彼女のエクスカリバーと黒江のエクスカリバーは別個体だが。
「彼女のエクスカリバーと俺のエクスカリバーは別物といっていい。俺のは聖闘士になった時に、アテナから授かったものだ。カリバーンから鍛えて、エクスカリバーに昇華させた。霊格だから、実体の剣に宿らせて、威力と強度を上げるのにも使ってる」
「伝説知ってる人が来たら、めまい起こしますよ」
「英国が聞いたら怒るわよ?ホイホイ…」
「ま、事実だ。それに調べたが。この世界はロンギヌスとグングニルが同一視されてるみたいだから、宝具の本来の位を超えた力を出せているようだ。だが、俺はこの世界と関連性のない世界の存在だ。それは例外的に適応されん」
黒江はこの時には、ガングニールの秘密を紐解いていたようである。また、メタ的な理由で『ガングニールの力は自分に適応されない』とも語る。
「あなたの宝具っていうのは、こちらで言う聖遺物なのよね?」
「そうだ。だが、この世界の聖遺物は先史文明が『本物を模して作ったレプリカ』か何かだろう。そうでなきゃ、対消滅など起こさんよ」
黒江は本物の宝具を扱い、聖衣を授かった身である。そのため、シンフォギア世界で言われる聖遺物が厳密には『先史文明の遺産』であり、真の聖遺物ではないと悟っているようだ。マリアはこの時にその事を知ったわけだ。
「それに、ノイズとか言ったな?あれの仕組みもわかった。おそらく、超常的な加護がある何かには通じんよ」
「超常的な加護…?」
「うむ。あれは先史文明が造った殲滅兵器だと思うが、俺たちからすれば『チャチな玩具』だ」
黒江はノイズ(アルカ・ノイズではない)を『チャチな玩具』と評する。シンフォギア世界の月は完全には自然の天体では無くなっているのだが、このA世界では、黄金聖闘士の介入でアナンヌキの覚醒は阻止されることになる(覚醒めたとしても、敵ではなかっただろう)。
「ち、チャチって……、そこまで言う?」
「こちとら、神の軍団とサシで戦うのが商売だからな。仕方ねぇよ。そもそも、惑星破壊級のエネルギーの兵器が飛び交う世界の宇宙戦争の当事者でもあったんだ。ノイズなんぞは有象無象だよ。物理法則すら覆せるような敵と戦う予定があるからな…」
これは当時に主敵であったマジンガーZEROのことだが、ノイズすら有象無象と断言できる聖闘士のポテンシャルはどれほどのものか?マリア・カデンツァヴナ・イヴと小日向未来は息を呑むのだった。