――黒江は聖闘士の技能に特化しているわけではないため、シンフォギア世界では、通常のギアを用いつつも、ノイズを寄せ付けない強さを見せていた。ギアはフェイルセーフ程度の感覚で用いていた。また、普段から使っていることが結果的にカモフラージュの形になっていた――
「この世界は珍しい世界だな。シュメール人が宇宙人か」
「あなたはそう見るの?」
「俺が仕事で行ってる世界じゃ、シュメール人が最初の地球文明だった。だが、地球に天変地異を定期的にもたらす回遊惑星『アクエリアス』がその文明を洗い流した。奴らはその時に助けた宇宙人を移住先で駆逐し、やがて母星が滅ぶから、先祖の星に戻ろうとした。そこにいる現在の地球人を駆逐してな」
ディンギル帝国。シュメール文明人を祖とする元・地球人だが、極端に弱肉強食とエゴイズムに染まっており、現在の地球人からすれば卑劣な手段を躊躇なく講じる傲慢な種族である。黒江もこれまでの二度の生で戦っている。
「ディンギル帝国って名前だ。地球連邦とそいつらは戦争状態に入って、地球が勝つが、宇宙戦艦ヤマトを失う。それを覆そうとする試みがされているところだ。その前にも星間戦争は何度も控えてるから、その世界は戦国時代みたいになってる」
地球連邦と星間国家の衝突は短時間に何度も起こる。この頃(M動乱後、ダイ・アナザー・デイ前)にジオンが自滅とも取れる蜂起を急ぐ理由も『地球連邦が星間国家として完成されてしまうことで、ジオンの名が埋没する』事を恐れての事であった。地球が星間国家としての道を歩むきっかけは『宇宙戦艦ヤマト』の存在であり、ジオン残党も撃沈を幾度となく試したが、恒星間航行を前提にした宇宙戦艦に『内惑星間航行』がせいぜいのジオン軍が立ち向かえるはずはなく、性能差を例えるなら、赤子と大人ほどの差があり、艦載機戦に持ち込むことすら不可能であったという。単艦でアンドロメダ銀河を制覇した大帝国の主力を翻弄した戦歴は伊達ではないことを証明したが、ジオンにとっては不倶戴天の敵であり、ヤマトの不在を狙うわけだが、彼等はヤマトにも同型艦はいることを知らなかったのである。
「戦国時代……」
「内憂外患って奴だ。地球連邦自体も足場堅めが出来きってないのに、内戦と対外戦争の両方が控えてるからな。お前達が関係するとはわからんが、そういう世界はある。覚えておけ。その世界の戦争をやってきたから、俺は肝が座ってんだ。だから、よほどの事がない限り、俺にまともに対抗できる者はこの世界にはおるまい」
シンフォギア世界で唯一、黒江に対抗可能な力を持つのが風鳴弦十郎であると思われるので、この時点のシンフォギア装者は敵ではないことを明言する。
「あなたのあの力……抵抗するのが馬鹿らしいくらいよ」
「多分、どいつとやってもワンパンだろう。こいつのギミックや、ベースとなってるものの力に頼ってるんじゃ、俺には勝てん」
黒江は自己を極限まで鍛えた上で聖闘士になったので、基礎能力は相当に高い。理性が吹き飛んだ暴走形態になったところで、どうにかできるわけでもない。
「でも、姿は調そのものなのに、背丈が10cm以上も違うのは何故なの?」
「俺は元々、170以上あったからな。その中間をとったんだろう」
調は21世紀基準では小柄である150cm台前半の背丈だったが、黒江が入れ替わった時点では160cm台の半ばほどと、かなり高くなっている。やっていることも違う(ガサツである)が、この当時の立花響達は知る由もない。(本人もその後、この時の黒江と同程度の背丈に成長する)
「それに、連中は対人は経験則でやるだろうが、その手の経験となると、俺とは比較にならんよ。それに、引き出しも多いからな。年の功だな」
「……歳の割に若いわね、口調」
「肉体が若けりゃ、精神も引っ張られるもんだ」
黒江はどこからか調達したタバコ型の喉の薬を咥えていた。この頃から『自分は本来は成人済みである』という記号、『調本人ではない』ことを示すため、バイトの時以外は咥えている事が多くなる。
「タバコですか?」
「タバコ型の喉の薬だ。欧州だと、日本人は童顔だから、欧州だと子供に見られるからな。欧州行った同期はみんな、こういうことをしてるよ」
「そういうことはないと思うけど……?」
「俺の時代じゃ、ある種の常識だった。昭和前期くらいはそうしてたよ」
未来とマリアも疑問に思うが、昭和以前の風習は後世には奇異に映ることの証明である。昭和ライダーが『改造された身体で生きてきた』理由もそれだ。機械式の改造人間である場合は元に戻れる可能性もあったが、人々は『英雄』の不滅を願った。平成や令和の時代の人間からすれば『バカバカしい』だろうが、彼らは『英雄』として生きていく事を選んだ。歴代のプリキュアが戦士である事を続けているようなものだ。
「平成やその次の年号(令和)の頃の人間達は、その時代の価値観で過去を批評した気になってるが、当時の価値観を知れよといいたいぜ」
黒江は戦中期の若者層であるため、自衛隊で苦労をしてきたためか、後世の素人がネットで批評家気取りの事をしていることに苦言を呈する。昭和ライダーが元の身体を取り戻す事をせずに、さらなる未来で戦っている事は暗黙の了解的に、21世紀の世界でも裏で知れ渡っており、その事を『10人の戦鬼』だのと揶揄する声があるのを知っていた。10人ライダーとて、『自分たちが必要とされない世界』を願っていた。故に冷凍睡眠の選択をとった。だが、時代が移り変わり、仮面ライダーBLACKが現れ、彼がゴルゴムに敗れ去ると、古の英雄である10人ライダーの復活を望んだ。それが23世紀に蘇った10人ライダーの真相だ。
「第二次世界大戦が終わっても、朝鮮戦争が起こったし、第二次世界大戦そのものも、第一次世界大戦から20年で起こった。人間はそんなものよ」
「俺の知る世界はそれを知ってるのに、大陸の地殻すら抉る行為を働いても戦争が続いて、遂には『宇宙戦争に慈悲はない』って気づく。あのガキどもには残酷な世界だろう」
地球連邦をウィンダミア強硬派が滅ぼそうとするのは、その『無慈悲さ』を断罪するためであったはずだが、逆に彼らが『大罪人』として断罪されるわけだ。
「あなたの知る地球人はどういう存在なの……?」
「乙女座銀河団に覇を唱えつつも、内紛で滅んだアケーリアス超文明の後継者さ。この世界の現生人類がシュメール人に改造されて、殆ど人為的に進化させられたように、こっちは本当の神がそういう風になるように運命を仕組んだのさ」
黒江は苦笑交じりに言う。未来世界での地球人は神々の意思がプロトカルチャーをそうさせるように仕組んだ。アケーリアスの遺産を最初に受け継いだプロトカルチャーが滅びに向かう中で、その代替となる文明を育むように。波動エネルギーはアケーリアスの後継者である証。ウィンダミアが恐れたのは、地球がゲッターエネルギーと波動エネルギーで銀河を滅びに向かわせる(アケーリアスの二の舞を演ずる)事だが、逆にそれらのパワーを存分に奮われ、ウィンダミアが窮地に陥っていくのだ。その後、ウィンダミアは(地球連邦軍の末端が高慢であった事の罪滅ぼしで)自治権を維持したものの、後継者の枯渇で王政は自然と解体へ向かう。共和制に移行し、穏健派が政権を担うようになると、地球連邦の体制に組み込まれていく。ウィンダミアは強硬派から解放されることで平和を得ることになる。
「魔法が万能と信じられ、それが否定された途端に地球に媚びを売ってきたと言おうか……秩序の綻びを自分の体面より心配する世界もあるからな。そこは見上げたもんだが、主張を掌返しすると信用されなくなるんだがね」
「あるの?」
「…まぁ…、その世界には仕方ない所もあるんだが、一部の強力な連中におんぶにだっこでな。考えようによってはかわいそうと言おうか…。同情するよ」
これは時空管理局のことだが、時空管理局は非魔導師のほうが圧倒的に多数であるのに、『海』の一部の魔導師が威張りくさる事が多く、地上本部は不貞腐れていた。M動乱で純粋科学が見直された後は体裁を守ることばかりに必死になる魔導師に愛想を尽かした者は多く、時空管理局は秩序維持のために、実を取った。地球連邦の傘下に入ったのだ。M動乱後に地球にルーツがある事を知ったミッドチルダの選択であった。
――黒江の強さは圧倒的であった。元々、悪道に徹するつもりはなかったマリアはナスターシャ教授に待ち受ける運命、自らが真に纏うべきシンフォギアはアガートラームである事を知ったが、黒江と組み手する内に、しばらくは『本来の流れに則さないとならない』事を悟り、切歌の暴走を抑えることに全力を注ぐ事を誓う。だが、切歌は理性のタガが既に外れており、完全に『壊れていた』――
――ある日――
「切歌!!」
「だめだ。あいつはイッちまってる。『自分の望む結果』以外を受け入れん。なら、あれを強制解除に持っていくしかないな。未来を安全なところに逃がせ。俺の技の危害半径にいたら、ギャグ補正か主人公補正でもないと、無傷でいられんぞ」
切歌は完全に『壊れて』おり、一般人がどうなろうと、意に介さなくなっていた。理性のタガが外れた場合にどうなるかのいい見本であった。この時が勘違いと早合点が最高潮に達していた切歌との初交戦であった。切歌は歪んだ心象を反映し、禍々しく変貌したギアから鎖を射出して拘束しようとしたが、逆に鎖を利用しての大雪山おろしで盛大に投げられる。
「う、うわあああああっ!!」
切歌は大雪山おろしのダメージを意に介さずに反撃に移ろうとするが、精神に肉体がついてこれずに、立つこともままならない。
「あああああっ!」
切歌は理性など無くなったことを示すかのように、『切・呪りeッTぉ:』なる技を発動させ、鎌の刃部分を分離させ、投擲。左右から挟み撃ちにする。だが、その刃は小宇宙を発動させた黒江の両腕に受け止められ、しかも弾かれる。
「周りをお構いなしか。おいたがすぎるぞ」
イガリマは防御無視の特性を持つが、それは絶唱時にしか発動しない。更に相手が超常の領域にある者相手には、その効力を封じられる。世の中甘くないのである。
「お?」
切歌は空中でアームドギアを脚部に装着。それにエネルギーを纏わせ、肩部の小型ブースターを噴射して、相手を貫く『断突・怒Rぁ苦ゅラ:』を発動する。しかし、黒江が展開済みの『クリスタルウォール』に阻まれる。
「貫けぇっ!!」
切歌は肩の小型バーニアの推進力を全開にするが、目の前のゆらぎを貫くどころか、押し返される。オーバーブーストをかけるが、クリスタルウォールが見事に弾き飛ばしてしまう。しかも、アームドギアを砕きつつ。
「嘘!?」
驚きのあまりに、態勢を立て直すのも忘れてしまう切歌。
「お仕置きだ。スターダスト・レボリューション!!」
黒江はその次の瞬間、指先に小宇宙を集中させ、一瞬の内に光弾を放ち、蜂の巣にする。急所は外してあるが、ギアを貫き、損壊させるには充分すぎる威力である。
「……そんな……、アタシの攻撃が効かないデス……こんな事が……」
ギアの左肩アーマーとヘッドギアが損壊し、アンダースーツも一部が破れた切歌。再度、召喚したアームドギアを杖代わりに立つ。
「やめとけ。お前の力じゃ、俺の髪の毛一つをそよがせる事もできん」
「ふざけるなデス!お前を倒して、アタシは調を……」
「そのためには、関係ない人々を巻き添えにするのか?」
「調をお前から解放するには、他の何を犠牲にしても!!」
「それがマリアやセレナ、ナスターシャ教授でもか…?」
「黙れ、黙れ、黙れ、黙れぇええっ!!」
「ならば、その歪み……この俺が断ち切ってやる!磁鉱剣!!ソォード・トマホォーク!!」
両拳を突き合わせて、ソードトマホークを召喚する。後にキュアドリームが使用したり、ネオゲッターロボがゲッターロボ號に代わって装備するそれと違い、手頃なサイズの片手持ちの両刃剣である。黒江はそれにエクスカリバーの霊格を上乗せし、十文字の斬撃エネルギーを放った。それを食らった切歌のイガリマのギアはアンダースーツごとひびが入っていき、自壊する形で解除される。
「な……ん…」
「悪いが、そいつとお前のつながりを強引に断たせてもらった。数日は使えなくなるぜ」
黒江はエクスカリバーの効用を応用し、シンフォギアと装者のつながりを断つ戦術を以後、度々使用する。シンフォギアはエネルギーをプロテクターの形状に固着化させているので、エクスカリバーがそれを断った場合、LINKERの効用が残っていたとしても、エネルギーの固着化を阻害する。効果は数日程度だが、戦闘では大変に有効である。逆にサウンドエナジーを活性化させることで、シンフォギアのエネルギー固着化を強く促し、任意解除をしばらく不能にさせる事も可能らしい。
「う、嘘デス!!LINKERの効用はまだ残ってるはずだし、切れるほどの時間は……!」
イガリマはそんな切歌に応えることはなかった。呆然と立ち尽くす彼女にこれ以上手を汚させないため、ひとまずはどこかへ飛ばすしかないと判断した黒江はアナザーディメンションを使った。
「悪いが、お前の頭を冷やすには荒療治が必要だ。……アナザーディメンション!!」
日本のどこかにランダムで転移させるように仕組んだアナザーディメンションを発動させ、異次元空間に強制転送させる。切歌は声も上げる間もないまま、アナザーディメンションで強制転送された。
「さて……あいつらと出くわすわけにもいかんなっと」
自らはマリア達のもとへと転移する。これもサガやカノンが行っていた応用技だ。痕跡が残らないため、二課の装者達が到着する頃には軽い戦闘の跡しか残されておらず、空振りに終わってしまった。二課の捜査が手詰まりになっているのは、戦闘が短時間で終わる上、当事者の痕跡が残されていないからであった。
――数時間後――
「あなた、向こう側の追跡をどう躱してきたの?」
「ワープだ。向こうが来た時には僅かな痕跡しか残ってないから、向こうも困惑しとると思う。あのガキだが、日本のどこかにランダムで飛ばした。遠くへな。小笠原諸島か沖縄、あるいは釧路か網走……それのうちのどこかにランダムにな。多分、目が覚めたら、その内のどこかにいるだろう」
「飛ばしたって……あなた…」
「聖闘士の技には、相手を強制で別の場所に転送するものがある。それを応用した。今日はバイトだから、食事代はもらってくるぜ」
黒江はこうした手法で追跡を躱しつつ、コスプレ喫茶で食事代を稼いでいた。二課の装者達はこのような分野に詳しくはないし、立花響も小日向未来の不在で『心、ここにあらず』。ニアミスしかねない場所にいたのに、まったく気づかないし、気に留められない。夜にマリアがその様子を確認するのも兼ねて、迎えに来たのだが。
「ほれ。給料だ」
「あなた、本当に…」
「言ったろ。形状変化無しでも、バイトはできるって」
黒江はノーマルのギアのままで、戦闘以外の用途をこなしてみせていた。心象変化がなくとも、使いようがある事の証明であった。また、黒江はシンフォギアを(当然ながら)まともなメンテナンスに供してないが、機能に支障をきたしていない。シンフォギアは通常、幾度かの戦闘後にメンテナンスに供される(二課の活動の後期においては根本的な修理は不能であるが、簡易的なメンテナンスは可能であった)が、黒江は展開すると、長時間そのままである。手持ちの服がないからだ。
「あなた、普通の服はないの?」
「着の身着のままだし、サイズがぱつんぱつん。買う金もない。だから、こいつを使ってんだ。向こうは変化の解析とかに追われてるし、俺の痕跡も辿れんから、焦ってるんだろう。しかも、身分証も偽造してるしな」
調本人が帰還後、黒江が築いたものに乗っかることを良しとせずに出奔したのは、『元鞘に戻れない』事を調が自覚していた事、黒江が残した足跡は大きく、帰還時に帳尻合わせでこの時の黒江と同程度にまで背丈が成長したが、調は元来は物静かな生活なので、黒江と同じような振る舞いを否応なしにするしかない環境は苦痛であった。そこも立花響との思いのすれ違いに繋がった。後の時間軸における明朗快活な振る舞いは夢原のぞみや野比のび太、花海ことはの影響によるものなのである。事後ののび太が述懐するように、立花響は黒江と調本人の『違い』をまずは理解すべきであっただろう。(切歌を立ち直らせる事に焦っていたこと、本人が戻ったなら『すぐに元鞘に戻れるだろう』とたかをくくっていた事も悪く作用してしまった)また、調当人はストイックに騎士をしてきていたので、その生活に理解を示せなかった事も、立花響が犯してしまった悪手であろう。
――黒江がシンフォギア世界で生活を初めて、数週間が経過していた。その頃、ウィッチ世界では『日本連邦』が発足していたが、日本側が外交にも口を出すようになり、ロマーニャとカールスラントへの深入りを警戒し、扶桑内部の親カールスラント/親ロマーニャ派を排除しだした。史実で独伊が裏で日本を侮蔑していたことへの意趣返しであった。両国としてはとばっちりもいいところ。たまったものではなかったが、カールスラントが戦後世界の主導権を握る事を懸念するアメリカ合衆国とキングス・ユニオンの後押しで日本連邦への援助が本格化し始める。64Fの基幹人員がトップエースクラスで固められた理由は『作戦会議でカールスラントにでかい顔させないため』でもあった。それを抜きにしても、ミーナの『扶桑海三羽烏の冷遇』は傍目から見ても『目に余る』ものであった。ちょうど黒江の捜索が始まる頃はそれがロンメルに露見し、部下に寛容であることで知られるロンメルが激怒するほどの事態へ発展した。当時はカールスラントへのドイツ連邦共和国の強権的な介入が問題に発展しだした頃であり、ロンメルは501のカールスラント系のメンバーを守るために『鬼』になり、ミーナをとにかく叱責した。扶桑との外交問題になりかけているとも示唆して。
――1945年のウィッチ世界――
「ロンメルがあからさまに怒るのは珍しいが、本気だってことだ」
「外交問題でもなったの、ケイ」
「マジになりかけだ。お上が外務省に調査を指示したそうだ。軍部が今、お上を宥めてる。今度の出撃では、あたしは本気出すぞ」
「うへぇ。血塗れの処刑人の本領発揮?」
「仕方あるめぇ。あたしらは怪異相手には過剰戦力だし、ロンメルからは『あまりでしゃばるな』って釘を刺されてたんだが、お上がご立腹とあれば、動くしかあるまい」
ある日、圭子はフェイトの護衛を南光太郎に依頼し、合流の報を受けた後にハルトマンと会話を交わしていた。当時は連合軍全体で通常装備の充実が図られており、同時に前線部隊に配布されていた覚醒剤の回収と使用禁止令を発表するなどの施策を矢継ぎ早に行ったが、ウィッチ軽視と取られ、多くのウィッチ航空隊がダイ・アナザー・デイでサボタージュを働くことに繋がっていく。これが64Fの孤軍奮闘の要因であり、ウィッチの社会的地位の低下を招いてしまう。また、海軍航空隊が単独での作戦行動を行った史上最後の例になった。また、志願制に完全統一することはすぐには不可能であるし、アウトソーシング化を『傭兵の横行』として忌み嫌う日本の世論もあり、ウィッチ軍人の職業軍人化も進むが、結局は社会に軍役経験者が多い風土であったため、一定の割合で民間軍事会社の存在が認められ、1950年代以降に多数設立されるに至る。しかし、多くが太平洋戦争からの戦乱期で自然淘汰されたので、1960年まで生き残った新興の民間軍事会社は指で数えられる程度であったという。
「お手柔らかにね」
「それは保証できねーな。綾香は不在だが、栄光の七勇士の一人として、ガキ共にバシッと実力を見せねぇと、七勇士の名が泣くしな」
「ミーナは教育段階で『座学を省略された』世代だからなぁ。不安はあったけど、まさか、ここで難点が露呈しちゃうなんて」
「奴は降格間違いなしだが、問題はどの程度で済むか、だ。ドイツが聞いたら、下士官まで下げろと言うかもしれんが、佐官まで上がった者を下士官に下げるわけにもいかない。士気が崩壊するからな」
「どこまでになる?」
「指揮資格の数ヶ月から半年の停止処分が付属する二階級降格だろう。あいつの功績を考慮して、『戦時階級の剥奪』という体裁に落ち着くだろう。武子は既にこちらに向かう準備を始めている。ミーナが責任者として振る舞えるのは、あと二週間か三週間だろうな。正式に64Fが発足すれば、501は64Fに編入される。そうすれば、武子が指揮権を引き継ぐし、あたしらは先任中隊長になるからな」
「どうして、そんなに時間が?」
「交代要員の手配とか、補給体制のチェックで忙しいんだ。正式に空軍はまだ出来てないし、書類上の上位指揮官に色をつけんとならねぇ。そこが面倒なんだよ」
武子は64Fの発足に際し、事前に手筈を整えていったが、その内の交代要員の手配は日本の横槍で頓挫してしまう。交代要員の内、八割方が空母『大鷹』(軽空母)で強制帰還させられたが、二割にあたる十数名が64F発足後に合流。ダイ・アナザー・デイ中は予備隊員として働き、後の太平洋戦争で維新隊の幹部となるのである。
「それに、未来世界に機材を追加で頼んだ。発足後に運び込まれる。ミーナに指揮権があるんじゃ、気軽に使えねーからな」
圭子は皮肉交じりに話す。ミーナは未来兵器を『強力なのは認めるが、兵站面で不安がある』という理由で使用を規制していたが、近々の大作戦(ダイ・アナザー・デイ)では、そんな悠長な事は言えない。
「これはバルクホルン、シャーリーとお前にのみに教える極秘の事項だが、近々に反攻作戦が予定されてる。地球連邦軍も、自衛隊も、米軍に英軍も参加予定の大作戦だ。うちの再編と64の復活はその象徴になる。未来兵器の使用もロンメルやパットンが許可した。ウチの『再編』が一段落次第、攻勢を本格化させる予定だ。問題は自衛隊を参加させる手だが……」
「どうするの?」
「わからねーな。日本の横槍に備えておけと、あいつ(黒江)は言ってたが……」
転移前に漏らしていた黒江の作戦への懸念はその後に的中してしまう。日本の政治家は攻勢作戦に難色を示し、『防衛作戦』であることに固執し、防衛省がせっかく他国と立案していた攻勢計画を破棄させてしまう。代わりの計画の策定前に、ティターンズがリベリオン軍を率いて、先に欧州へ攻め込んでしまうという事態に陥り、ダイ・アナザー・デイの長期化を招くこととなる。そして、その泥沼を救う救世主と目され、ダイ・アナザー・デイで64Fに新たに加わるのが『キュアドリーム/夢原のぞみ』を筆頭とする『プリキュア・スターズ』である。その運命の暗示はこの時、既にされていた。
――シンフォギア世界。黒江が『シュルシャガナの装者』として戦う映像を分析する特異災害対策機動部二課が見つけた映像の中にそれはあった――
『プリキュア・シューティングスター!!』
ドリームの技である『プリキュア・シューティングスター』を自分の技能の範囲で再現してみせた時の映像である。黒江はなのはが子供の頃にプリキュアの映画を見に行くほどのファンであったことを知っており、『YES!プリキュア5』を見させられた事がある。その関係で再現してみせた『お遊び』であった。後日、そのプリキュア5の筆頭たるキュアドリーム/夢原のぞみが中島錦を素体とする形で転生し、自分の配下になるとはこの時は夢にも思わなかったのである。後日、のぞみはいつの間にか、高町なのはになつかれている理由が気になり、黒江に聞いてみると『子供の頃に自分たちをアニメとして見ていたから』と教えられ、のぞみ本人も大いに困惑することになる。
「この少女は……何者なんだ…?」
二課の臨時本部の管制室で風鳴弦十郎は困惑する。響の話ではイガリマの装者やマリア・カデンツァヴナ・イヴと行動を共にしていたはずだというが、何らかの理由で決裂したのか、風来坊とも取れる振る舞いで、ふらっと現れては去っていくという。(結果的に)自分たちに利となる行為を働いているので、敵ではないと思いたいが、恐るべき戦闘力を秘めていると思われる。
「わかりません。聖遺物が存在するかどうかさえわからない『アーサー王伝説』の聖剣エクスカリバー……。それを完全な形で有し、奮える。それでいて、シンフォギアを纏っていながら、その機能を活用しない……謎が多すぎます」
そばに立つ『天羽々斬の装者』である風鳴翼は(名目上は)弦十郎の姪である。公私混同はしない気質であるが、エクスカリバーという存在の謎が気になるあたり、剣術使いである故の矜持が見え隠れしている。
「彼女を見つけ次第、接触を試みるしかあるまい。映像を分析した結果、暴走状態のイガリマの装者を一瞬でねじ伏せている。できるなら、戦闘は避けろ。かなりの手練である事は明らかだ。最悪、俺が立ち合う」
「叔父様……いえ、司令が自ら?」
「彼女が敵なら、俺が出ることもありうるということだ。そうならないことを願いたいが……」
それは装者単独では『謎の少女』に太刀打ち出来ないだろうとする推測からだが、(小日向未来の『失踪』で立花響は『心ここにあらず』であり、最近は『上の空』気味。生活に支障が生じ始めている)立花響が現在は精神状態の関係で、戦力として数えられない以上、頼りになる相棒は雪音クリスのみ。小日向未来が不在なことで不安になるのはわかるのだが、本人による執筆の休学届は出しているというので、生きていることはわかる。そして、監視カメラなどに、この少女と一緒にいるところは確認されているが、まだ確証がない。そのため、響には知らせていない。
「立花に先走られても困ると?」
「そうだ。最初に遭遇したという時とギアの形状が異なる上、明らかにかけ離れているという……。話を聞く限り、その子とこの少女が同一人物とは思えんのだ」
弦十郎一流のカンであった。それは殆ど的中していたが、黒江が偽装の身分証データをデータバンクに入れていたこともあり、確証を得られないままに時をいたずらに浪費する。この時に黒江は『月読』を『月詠』と誤表記していたが、帰還後の調が出奔後にその表記を使用して生活したことで定着。やがて、野比のび太や花海ことはという出奔先での『家族』との生活を手に入れたことで、切歌とは歩む道を違えることになるが、お互いの愛情などは変わらない。切歌と常にセットという『史実』と全く違う道を歩みだすきっかけは、この『入れ替わり』であったと言える。