――日本連邦では、参謀という存在が忌み嫌われたため、幕僚という言葉への言い換えが進んだ。同時に、陸軍幼年学校卒は中央から殆どが追放された。(黒田のように、幼年学校が小学校の代わりであった者も多いため、思想的問題のない一部は残ることが認められた)近代的幕僚教育を受け直されるのを屈辱と捉えるエリート層も多く、結局、実務の多くを自衛官が担う羽目となった。1949年初夏になると、扶桑軍人からも出始めたが、ウィッチ出身の者は多くが戦闘要員に戻されたため、江藤は貴重な参謀として活躍していた。皮肉なことに、参謀としての職務に邁進したことで再評価されたわけだ。彼女は参謀として評価されたことで、その後の運命を切り拓く。こうして、江藤はGウィッチとして初の参謀畑の人物となった――
――Gウィッチはほぼ全員が戦闘要員であるので、江藤は稀有な『参謀』の進路を進んだ者となった。これは自身の行為が軍の混乱の遠因であることへの贖罪でもあった。また、実質的に元・部下(黒江たちは若き日に江藤の部下であった)の進路を狭めてしまった事への贖罪でもあり、源田実の右腕という形で辣腕を奮っていく。参謀として有能だったわけで、元ウィッチ出身で最初に空軍の中枢につくことになる――
――江藤は64Fの報告書を司令部に最終報告する役目も負っており、報告書の最終精査も仕事のうちであった。特に、自身の在任中に隊きっての目立ちたがり屋と評価していた黒江とその弟子筋の者たちには目を光らせている。しでかすことのスケールが大きいからでもある。――
「黒江め。しでかす事のスケールがますます、大きくなりおって」
黒江は江藤の知る本来の容姿を使用しなくなり、偶発的なケースを入れて、1949年までに、二人に成り代わっている。しかも、元の人物より普通に強いため、事態がこんがらがるケースが常態である。
「若い頃から、そういうところは変わってない上に、ノリがいいからな」
江藤は提出されてきた報告書を読みつつ、コーヒーを口にする。読んでいるのは、黒江がシンフォギア世界及び、『プリキュアオールスターズの世界』に飛ばされていた際の出来事の報告書である。黒江の強さが結果的に、その世界の本来の流れを大きく変えたからであった。
――シンフォギア世界の事を黒江がそう認識したのは、マリアとの接触後の事。そして、自身の行動で既に流れは変わっているとし、いっその事、根本から変えると告げる――
「いいの?ある程度の交戦は密約でOKだけども…」
「思い出したが、アニメの通りに事が進むのなら、あと三回も動乱が起こる。それさえ終われば平和になる。だが……俺を飛ばした遺跡の作動状態、直前に戦った相手……。それらを考えると、何かかしらは俺同様に流れ着いた。そう感じてならんのだ。……俺のカンだがな。それに、向こう側につくにしても、小芝居は必要だ。俺は多少で済むが、お前が問題だ」
黒江は風鳴弦十郎との取引で密約を結んだ。とはいえ、小芝居じみた戦闘は必要となる。これは小日向未来も『グル』である。なんとも言い難いものはあるが、壮大なレベルでの芝居を行うわけだ。
「どうするの?」」
「俺だけで、見定めを行う。今度からは向こうも相応に対策を講じるだろう。あのおっさんも場合によっては来るだろうが、ありゃ……只者じゃないな」
「貴方も彼をそう?」
「体つき、動き、滾らせている気……。常人の比じゃない。未来から聞いた話を精査する限り、この世界で一、二番の強者だろう」
黒江も、風鳴弦十郎の実力については『白銀聖闘士くらいはあるだろう』と踏んでいた。声色が成人後の流竜馬に似ている事もあるが、滾る気の大きさは相当なもので、シンフォギア世界特有の枷がなければ、彼が英雄になっていたのでは?と思わせるほどの存在感である。
「俺とも互角にやれるだろう。あの人なら、極超音速くらいは見切れそうだ」
黒江の見立ては正しく、風鳴弦十郎は本当に下手な装者よりよほど強く、青銅聖闘士くらいであれば容易に制圧できるだろうと、乙女座のシャカも認め、実力のほどを認められた。(なお、シンフォギアは世界線によっては、聖衣との共鳴で、擬似的に聖衣の力を扱えるようになるが、この世界線においては、それは起こることはなかった)また、シンフォギアを纏ってはいても、戦闘の主体はそれ以外の力である黒江(シンフォギアのキャパシティ容量を探る意図もある)の存在そのものがイレギュラーである。黒江に『力の面のペナルティが存在しない』のもあり、フロンティア事変当時の全装者の通常ポテンシャルを遥かに上回る。
「それはそれとして、貴方の力はどれが本来のものなの?」
「聖闘士は練度が高ければ、上位の聖闘士、ないしは前任者が遺した秘伝、またはチャネリングで『他星座の技』を持てる。俺は山羊座を継承したが、いくつかの星座の失伝技を蘇らせた関係で、引き出しはそれなりにある。拘束技や拷問まがいの技もある」
黒田を経由して、スカーレットニードルを会得しているが、スタイルの違いもあり、この時点では戦法に正式には組み込んではいない。それに言及する。
「だが、俺が本気を出したら、このシンフォギアがキャパオーバーを起こして、自壊しかねん。本来の持ち主に返さないといかんからな」
シンフォギアは奇跡を重ねた『バーニングエクスドライブ』状態であれば、セブンセンシズに対応できるが、通常のエクスドライブまでの状態では、セブンセンシズの全力に耐えきれず、機能異常を起こす。黒江はこの時期においては『シンフォギアが拘束着になっている状態』であると言っていい。(後々、聖闘士となった者の仲介で、城戸沙織/アテナによって『洗礼』を受けることで『自壊の問題』は解消され、聖衣に並ぶ。)
「それじゃ、貴方にとっては『シュルシャガナ』は拘束着も同然じゃない?」
「まぁ、事実上はな。だが、俺が全力を出す時はそうないとは思う。もしも聖衣が飛んでくりゃ、それを使うだけだ」
実際に、黒江はこの後に『全力』を出す時は、飛来した聖衣を纏うことになる。射手座と山羊座である。
「俺と戦闘になれば、あの黄色のお嬢ちゃんが、宝具のエネルギーを制御しようとするだろう。だが、何かかしらの機能異常が出ると思う。因果律までは干渉はできんだろうし、エネルギーが駆け巡るだろうから、何かが起きるだろう」
「何かって?」
「わからん。当分はギアを任意で解除できなくなるのはあるだろう」
シンフォギアは常温核融合反応のエネルギーにも耐えられるが、宝具の発するエネルギーに基になった聖遺物(先史文明期の兵器の欠片)の隆起(あるいは勃起)にはエネルギーの質の違い故か、恒常性を保てなくなると思われる。これは小宇宙であっても同様である。
「直にお前は戻る時がやってくる。その時には、あの緑のお嬢ちゃんに注意しとけ。何か一線を超えそうな匂いがある」
「まさか、あの子がそんな……」
「強すぎる愛は、ちょっとしたきっかけで憎しみに変わるもんだ。昔、人気バンドのメンバーをぶち殺したのも、狂信的ファンだろ?」
黒江はこの時、切歌の言動から、何かかしらの事を起こしそうというカンがあったが、それが彼女の運命を変えるほどの出来事となるとは、流石に予想だもしていなかった。
「それと、お前の妹の形見というペンダントだが、少しいいか?俺の能力なら、修復できるかもしれん」
「どういう事?」
「コンバーター部が破損したなら、それを『壊れていない』ものに組み替えればいい。俺のような者の能力の一つに『元素を操れる』というのがある。それを使って、内部構造を解析すれば、修理できるかもしれん」
「この間からそれを?」
「ああ。俺の仕事先の世界には、かのキューティーハニーがいてな。彼女の創造主『如月博士』の理論を読んだ事がある。それと似たものらしい。それを応用すれば……」
「シンフォギアすらもコピーできると?」
「理論的には可能だ。まだ仮説にすぎんがな。試す価値はある。お前のそのガングニールは仮初めのものだが、妹の遺したものなら、真に適合するかもしれん。だが、敵に破壊される危険もある。コピー品ができたら、報告する。同一のものの破片があれば、コピーは作れるのは、お前のものが証明している」
この時の会話の通り、黒江は空中元素固定能力と『元からの分析力』を駆使し、後日、それを完成に至らしめる。だが、それが後々に複数の騒動の一因となっていく。一つはシンフォギア世界の公的機関の承諾を得ずに実験を行った事、一つは黒江が(シンフォギア側から見て『完全聖遺物』を持っていたのを出し惜しみしていた(実際は、Z神が飛ばしたりしただけだが)ように見えた事、もう一つは『オリンポス十二神』の実在にも関わらず、なぜ、世界を人の意のままにしたのか?というもっともな疑問などが存在したからだ。逆に言えば、シンフォギア世界の根幹をなす神話の神は先史文明人の支配層の者で、シンフォギア世界の人類は先史文明の消滅後に生まれた第二の『ヒト』であることの証明でもあるため、シンフォギア世界でのシュメール神話への信仰が衰退するきっかけになるという副次効果もあった。
「これからどうするの、貴方は」
「小芝居した後、頃合いを見て、二課につくよ。この時点で本来の流れからは既に変わってるから、元の持ち主は『元鞘には収まれない』だろう。言っとくが、それを決めるのはそいつで、俺じゃないからな?」
黒江は調が帰ってきた場合、『既に元鞘に収まれない』事までは予測できていた。だが、黒江も予想しきれなかった事柄と、マリアの懇願もあり、結果的には切歌の精神安定が優先される。立花響が黒江への反発などから、『責任を取らせたい』という思考に至っていたからだ。これはマリア・カデンツァヴナ・イヴも予想外であった。マリアはその事を諌めた側である。
――『事故でやってきただけの他人に演技を強要するなんて!断られること請け合いの事よ!!それをわかってるの!?』――
響は自分が正しいと思う事になると、未来にさえ相談せずに決めてしまう癖がある。マリア・カデンツァヴナ・イヴはその言葉で立花響を諌めたが、響は『調ちゃんが戻ってきた時に、世界に自分の居場所がないなんて、そんなの悲しすぎます!!』と押し通し、黒江も折れるような形で承諾した。結果的には、その無理強いに近い押し通しが、帰還後の調当人の反発を生んでしまう。この負の側面の発露は『響の過去の経験からの強い自己防衛本能』と内に眠る別人格の影響による複合的なものであった。そして、彼女個人としては『キュアグレース/花寺のどか』の転生であり、キュアドリーム/夢原のぞみとの出会いがきっかけとなる形でプリキュアへ『戻る』。
――1949年――
「なるほどな。そういう流れか」
江藤は黒江が現在の容姿を手に入れるきっかけとなった事件の報告書の精査をする。その世界の本来の流れを大幅に変えてしまってはいるが、結果的には『本来より早く、平和になった』。その時点で『基本世界』とは枝分かれした世界線を生んだと言ってもいい。そして、キュアドリーム/夢原のぞみのファイルをチェックする。
「中島を事実上、乗っ取った存在…。プリキュア5の元リーダー、キュアドリーム……、名を夢原のぞみ……」
本人はリーダーという役割を嫌うが、周りからは『立派なリーダー格の戦士である』と認識されている『キュアドリーム』。二年の戦歴を持つプリキュアとしては、史上二番目にして、最後のチーム『プリキュア5』の中心戦士。本人に自覚はないが、高いカリスマ性(中国史の劉邦のような形であるが)、自身の高い戦闘力(二年の現役期間のおかげで、高いセンスを持つに至った)、変身後において見せる凛々しさは後輩たちからの憧れとされる。とはいえ、転生後は『その後の人生がうまくいかなかった世界線からの転生』だった事も災いし、ダイ・アナザー・デイからデザリアム戦役までの64Fの騒動の中心であった。そのため、『問題児』と見なされている面はある。
「戦闘面では『模範』と言えるほどの強さ、リーダーシップで言うことなし。中島を乗っ取った形の転生なため、運動能力も基礎の時点で、現役時代を超える…」
のぞみの能力は実務に傾いたものの、錦の事務処理能力を引き継いだ関係で、それなりにこなせる。表向き、『黒江の弟子筋』と江藤は宣伝したが、錦が黒江の航士(陸軍航空士官学校)での後輩であるという事実に基づいているため、嘘ではない。
「マジンガーZEROとの融合で、肉体は更に変質し、黒江達が鍛錬でたどり着いた『セブンセンシズ』にそれで至った……」
プリキュアの中で、聖闘士と同じ高みへ登ったのは、元が神であるフェリーチェを除けば、キュアドリームが最初である。ロボットガールズとプリキュアのハイブリッド的な存在になったため、素でマジンガーやゲッターの技を使いこなせる。さらに、錦の草薙流古武術も自家薬籠中の物としているため、戦闘面の問題はない。
「問題は生活面か…。まぁ、本来は生きる時代が違うのだ。上には耐え忍んでもらう」
のぞみは戦闘では『英雄』だが、実生活はかなりのダメダメである。また、21世紀以降の倫理観を持つため、扶桑軍の古くからの育成での慣習に疑問を唱えてもいた。南洋の邸宅では家事はそこそこできるようになったが、お味噌汁を焦がすところ、時々、間の抜けるところは現役時代のドジを引き継いでしまったと言っていい。古参のウィッチ出身軍人からは生活態度に苦言を呈されている(扶桑は良妻賢母を是としてきたため)が、夫と共同で家事するなどの『いる時間軸を考えれば、すごく先進的』な生活を送っている。江藤が『生きる時代が本来は違う』と言ったのは、のぞみは本来、21世紀の日本の人間であることに由来する。
「さて…と」
江藤は二人に関する書類に目を通した後、二人がどのようにして、『生活の足がかり』を築けたのか?特に、他人の姿になってしまった黒江はかなりの難易度であるはずだと、ページを読み進める。かの世界の常識を明後日の方向に吹き飛ばす『黄金聖衣』。最初は山羊座を纏ったようだが、二課の要請で調査に出したため、フロンティア事変の最終局面では、射手座を纏った。二課はその際に必死に調査を行ったが、構成する金属が現在科学とは別の方法で精錬された超金属『オリハルコン』の実物らしいことしかわからなかった。1990年の城戸財団より遥かに進んだ科学、シンフォギア世界のノウハウを以てしても、それが限界であった。オリハルコンは精神感応金属の一種であるため、極限まで強化され、神の洗礼を受けた場合、23世紀の最強の金属の一つ『超合金ニューZα』に匹敵する強度を得る。オリハルコンはシンフォギア世界の異端知識を以てしても、模倣品すらできなかった。牡羊座のムウのサポート役を仰せつかった城戸財団の誰かでも、粉砕された聖衣の復元は困難であり、Z神の権能である『再生』を必要とするほどであるので、当然だが。
「おそらく、この事がキュアグレースの因子の覚醒を促し始めたのだろうな」
江藤はそう考えた。立花響は、黒江へ送られたものが『本来の力を開放するキー』であること、神聖衣状態になれば、自分らがどんな状態であっても歯が立たなかった『神を名乗る者』(シンフォギア世界からはそう認識されていた)と対等に渡り合える事実に、羨望と嫉妬が入り混じった感情を抱き、キャロル・マールス・ディーンハイムの一件で『誰かを救う事への渇望』が生まれ、その感情がキュアドリームとの出会いで『みんなをただ、救いたい』という穏やか気持ちに変わっていった時、彼女の中の『キュアグレースが覚醒めた』。そう考えればしっくりくる。
「沖田総司と彼女は別個の存在と言うことになるな。彼女個人としては、キュアグレース、別人格が沖田総司なのだろう」
立花響はプリキュアの力を変質させるほどの思いを持つ。『単独変身』、『ステッキ無しで変身を維持でき、技の構成も変化している』。これは彼女がプリキュアになっても、『自らの信念を曲げなかった』からだ。(言うならば、パートナーフォームのような状態を通常フォームでも維持しているようなものだ)江藤はそんな二人の写真に頭を悩ます。ややこしいこと請け合いで、上層部への説明に四苦八苦するのは間違いないからである。ましてや転生、多重人格などへの研究が進んでいない時勢では、お偉方への説明はどうしたものか。元・部下らと違う観点の苦労を背負い込んだ江藤は、ため息をつきながら、報告書の次のページを捲るのであった。