ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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太平洋戦争前のプリキュア達の鍛錬&日常回になります。

※この話で言及する、UFOロボグレンダイザー関連の設定と単語の出典ですが、かの桜多吾作氏が同アニメの放映中に手がけていたコミカライズ版からになります。


第四百五十五話「プリキュア達の少し不思議な日常生活 1」

――扶桑皇国は元帥の階級の復活を行った。皇室の軍事的役目が大きく縮小され、天皇=最高司令官という図式は(扶桑の国家統治に必要であったので)形式的なものになり、天皇が大元帥の肩書きを用いる必要は無くなったが、扶桑国民が二度のクーデターで『有無を言わさない権威の喪失』に強い不安を覚えた事から、大将たちを束ねる『元帥』の階級が必要になった(元帥府の廃止に伴う措置でもある)のだ。日本はこれに強く反対したが、扶桑は過去の経験から『会議は踊る』な有様になる事を恐れており、戦時ということもあり、日本も『実務上の都合』ということで認めざるを得なかった。統合参謀本部議長が元帥の指定席と定められ、実績のある提督/将軍がその有資格者とされた。その初代は小沢治三郎連合艦隊前長官であった。(山本五十六はそれが決まる前に昭和天皇に功を認められ、元帥府に列せられていたため、新法制下での元帥に名誉的に任ぜられているが、日本側の意向で、元帥府に列せられていたが、体制の転換を理由に、以後も元帥を名乗ることを許されなかった将官も発生し、問題となった)元帥の階級が復活したのは、元帥がいる扶桑(称号としてだが)と戦後は元帥という存在のいない日本でのお互いの戦時の実務での都合が大きい――

 

 

 

 

 

――日本側でも、Gフォースは『実戦を経験してしまった』自衛官の押し込め所と認識されていたが、扶桑で戦争が起こり、自衛隊としても『面子を立たせるために』彼らを用いないわけにもいかず、Gフォースという形で送り出した。日本政府の指揮下では無くなるために独走が懸念されたが、Y委員会の実質的な統制下にあった。扶桑はクーデター後の粛清人事で前線の将校の人手が足りなくなり、小・中部隊の敗走が増加しており、Gフォースは実質的にその穴埋めを強いられていた。そのため、自衛隊の秘匿装備が優先的に回された他、書類上は旧・地球守備隊やその前身のイーグルの遺産の21世紀時点の遺産権利の継承者とされていた――

 

 

 

 

――扶桑の沖縄は日本の市民団体らが非武装地帯化を目指し、大規模に運動を展開したが、地元住民がそれを怪異の脅威を理由に否定し、お互いに大揉めとなり、遂には抗争となった。日本政府の仲裁で、間を取って『港に繋留した空母を拠点にし、市内にはMATの出張所を置く』という方法が妥協的に取られ、軍の駐留で得られる補助金で振興を目論んでいた那覇市は肩透かしを食らう形になり、結局はMATがその代わりの補償金を支払う羽目となった。この騒動により、日本政府は海軍と空軍の充実に多額をつぎ込む一方で、陸軍を『失業対策の置き物』と認識している現状が顕になった。怪異という『世界特有の脅威』を軽視していたこともあり、結局は超人と超兵器頼りな扶桑軍の有り様を作り上げてしまった日本政府。ヒーローユニオンを警備会社という体裁で認めたのは、その償いの一環であった――

 

 

 

 

 

――歴代の仮面ライダーらが扶桑の軍事行動に協力したのは、ティターンズ残党の背後に組織の影があったからであった。また、ドラえもんへの恩(ドラえもんは統合戦争で組織と戦い、相打ちで世界から姿を消していた)を返す意図もあった。現役時代には緩めの集まりであったプリキュア達に明確な団結が生じてきたのは、彼らという先達の存在による。昭和を生きた彼らと平成~令和を生きてきた彼女らは時代の差による考えの違いはあるが、『力を持ってしまった以上はそれにふさわしい使命を果たすべし』という考えを持つ者はプリキュアの中でも、意外に増えていた。これは成人し、就職した後の記憶がある、あるいは転生後に部活で大勢を束ねる立場にある者が多いからだ――

 

 

 

 

――また、不死身の体を持ちつつも、自分たちが必要とされない世界を願い、関係者に見守られ、1984年、バダンの先遣隊を倒した10人ライダーは後事を仲間(スーパー戦隊や宇宙刑事、キカイダー兄弟)に託し、コールドスリープについていたことを知らされたのも、プリキュア達が『人間の自由を守る意義』を再認識した理由だった。そして、時代は進み、暗黒結社ゴルゴムが現れ、彼らに対抗できる唯一の男であった南光太郎/仮面ライダーBLACKが倒された際に、人々が縋った希望が『伝説の十人ライダー』であったという理由で、眠りを解かれたという経緯があった事を。十人ライダーは自分たちを必要とする世界のままである事に絶望する者が数名ほど生じた(本郷猛、村雨良、沖一也など)が、それを振り切り、時代の願いに応えた事実は、彼女らの意識に影響を与えた。彼らがどのような形であれ、『仮面ライダー』でいることを選んだということは『力を持った者は時代が求める限り、誰かの希望にならねばならない』事の表れでもある。プリキュア達は彼らが『自分たちが本来生きていた時間軸では、既に老齢に達しているはずの人間達』である事に(当然ながら)驚愕。十人ライダーがそれまでの全てを捨ててまで『仮面ライダーであろうとした』姿勢には何も言えなかった。

 

 

 

 

 

――プリキュア達はそうしたカルチャーショックも受けつつ、ダイ・アナザー・デイから本格的に戦いに参戦したが、ティターンズの擁する『格闘技を極めた超人』に苦戦を強いられる場面が多かった事から、普段からプリキュアの姿を保ち、精神面の冷静さを変身時でも保つための特訓が課された。宇佐美いちかがキュアホイップの姿で厨房に立っていたり、水無月かれんがキュアアクアの姿で医務室に詰めているのは、その一環であった。ダイ・アナザー・デイ直後からデザリアム戦役が始まる戦間期、太平洋戦線の開戦までの間はススキヶ原を歴代プリキュアが闊歩する光景が見られた。目撃率は『私生活でもつるむ事の多い組み合わせ』ではあるが、代の違うプリキュアの絡みが見られると話題であった。その内、のぞみ、北条響(シャーリー)は軍隊階級も同じ、同じ世界の過去生持ちという間柄であったため、覚醒後はつるむ回数が増加。キュアドリームとキュアメロディの姿で駅前周辺を買い物している姿が度々、目撃されている。野比家をその時々に訪れている面々によって異なるプリキュアが目撃されるのだが、ドリームとメロディ、ミラクルは回数が特に多い。次いで多いのが、現役時代から店を開いていた『キラキラプリキュアアラモード』のキュアホイップ(宇佐美いちか)と『魔法つかいプリキュア』のキュアフェリーチェ(花海ことは)。現役時代の同一チームの組み合わせは意外に少なめな事から、ススキヶ原在住の『ウォッチャー』たちは不思議がっているが、実際は勤務のローテーションの都合である――

 

 

 

――2022年のある日――

 

「変身したままで日常生活かぁ。黒江さんもすげえ羞恥心との戦いを強いてきたな……。あたしゃ、でかリボンとピンクツインテールと、フリフリのスカートだぞ!?」

 

「んじゃ、紅月カレンのあのパイスーとどっちがいいかって言われるよ、先輩に」

 

「かと言って、美雲の姿は余計に目立つし、麦野沈利だと、それはそれで余計に動けねぇし……ちくしょ~!」

 

しかしながら、シャーリーの姿であっても『面が思いっきり割れている』のは事実だ。(のぞみは素体が無名に近い魔女なのに対し、シャーリーはトップエースかつ、著名なレーサー)シャーリーは基本は大らかだが、ガサツな一面もあった。それが記憶の覚醒で強まった結果、キュアメロディの姿であっても、現役時代のような『女性言葉多めの口調』にはならない。これは覚醒後に口調が(感情の高ぶりによって)荒くなる事が増えたのぞみと似ており、同じ世界の過去生持ちであるということもあり、黒江は二人を組ませる事が多い。

 

「あ、のぞみさんに響さん」

 

「あ、いちかちゃんじゃん」

 

「スイーツの材料の買い出しか?」

 

キュアホイップの姿で買い出しに出ている宇佐美いちかと出くわした。変身後の姿ながら、変身前の名前で呼びあうのは、平時であることもあるが、お互いに『現役を既に終えたプリキュア』であるという認識を共有しているからである。

 

「ええ。でも、この時代はなんだか、暗いですね」

 

「仕方ねぇさ。疫病が世界的に蔓延して、もう数年だし、ロシアが学園都市に負けた腹いせに戦争し始めたからな。その影響が出てるんだ。疫病がやっと収まり始めたってのに」

 

お互いの年齢の本当の差を知った故か、いちかは二人に敬語で接している。シャーリーは普段の口調のままであるので、現役時代よりだいぶガサツな印象を与える。

 

「ん、見て。未来世界ですごいのが発掘されて暴走したそうだよ」

 

「なになに?」

 

 

のぞみ(キュアドリームの姿)が見せたタブレットの画面には、『未来世界で次元震が起こった結果、『グレンダイザーに似通った外見を持つ宇宙合金グレン製の機体』が発掘されたというニュースが映っていた。その機体は宇宙合金グレンで構築されているが、フリード星の制作ではなかった。それはある平行世界の一つでのミケーネ帝国最強の切り札。その名も『魔神ラーガ』。その世界でのミケーネ帝国/ベガ星/ベガ星/地球の共通の祖『超文明シグマ』の生き残りが作り出したスーパーロボットであった。だが。恐るべき機能があった。兄弟機のグレンダイザー共々、『地球人、ベガ星人、フリード星のいずれかにいる子孫達が自らの星を破滅させる行為を行った場合、全てを滅ぼしても、星だけは保全する』というもの。最終戦争の勃発と同時に、その機能が発動し、最終戦争で滅んでゆく地球文明と核爆発の連続に耐えかねた大地の起こした地割れのショックで起こった次元震で未来世界に漂着した際に、その機能が生き返ってしまい、そのまま、未来世界の地球を滅ぼそうとしたのである。だが、幸いにも、グレンダイザーと同等のスペックと思われるラーガよりも強大な力を持つスーパーロボットは既に存在していた(マジンカイザー&マジンエンペラーGなど)ため、未来世界のグレンダイザー(未来世界のグレンダイザーには、当然ながら、そのような機能は存在しない)との連携でラーガを沈黙させた。事後の調査により、ラーガのコックピットだろうと思われる箇所には『その世界の弓さやか』がコールドスリープ状態で眠っていた。その容貌は10代当時の弓さやかそのものだったという。別の地ではデューク・フリードとグレース・マリア・フリードの同位体の乗る『別世界のグレンダイザー』が発掘され、これも暴走。こちらは真ゲッタードラゴンと戦闘。『真シャインスパーク』にも機体そのものは耐え抜いたものの、凝縮されたゲッター線の力で内部の動力回路が破損。それにより機能を停止したという。

 

「結構な大事だね」

 

「でも、その二機はどの世界から?」

 

「調査によると、最終戦争が起こったであろう『1976年の地球』から転移し、地球を滅ぼしている最中に未来世界に転移してしまい、発掘により、その機能が突然に蘇ったと思われる。しかしながら、マジンカイザーやマジンエンペラーGらの尽力で阻止に成功。その機能がインプットされたコンピュータの除去に成功し……だって」

 

デザリアム戦役の終結間もない時期に起こった騒動は『時代がズレていれば、地球を破滅に追い込む』ほどのものであった。だが、既に『グレンダイザーをも凌ぐスーパーロボットが開発されていた』という偶然により、小事という形で収まった。亡き兜十蔵はこの事態を予見していたと思われ、新たな謎をもたらしたわけだ。

 

「中にはデューク・フリード氏、グレース・マリア・フリード女史、弓さやか女史の同位体がコールドスリープ状態で眠りについており、機体の修復が終わり次第、タイムマシンで『最終戦争が起きる前の故郷の世界』か、『最終戦争を回避した世界』へ帰す手筈となった……だって」

 

未来世界のデューク・フリードらは同位体の辿った末路に戦慄したとも記事には記されていたが、未来世界は『異世界の超文明であるシグマ文明の作りし機械神を真っ向から倒せるだけの力を得た』事を示している。もし、一年戦争の最中であれば、当時に建造中であったマジンガーZでも止められなかっただろう。だが、宇宙規模の戦乱の時代は『未来世界の地球』に『(天の川銀河に何処かの世界で栄えていた)シグマ文明の全盛期の科学の証』をもねじ伏せる力をもたらした。それはドラえもんを生み出した超科学の遺産が形を変え、地球の文明を(賛否両論あるにしろ)飛躍させ、イスカンダル、バード星などの幾多の異文明の資産を取り込む形で(軍事的に)飛躍させ、遂には『魔神ラーガ』をも倒す力を示した。『平行世界のグレンダイザーと、その兄弟機であるラーガ』には地球のコアを揺るがし、地殻変動を促す事のできる威力の爆弾が内蔵されており、そのエネルギーが解放されれば、20世紀レベルの文明は為す術もなく崩壊してしまう……だが、我々の力であれば……』と記事は続いていた。

 

「どこかの世界のグレンダイザーには、母星を汚すようになった文明を自動で滅ぼすようにプログラムがされていた。それが発動した世界の地球は最後の抵抗をするかのように、グレンダイザーとその兄弟を追い出した。で、未来世界のいつの頃かに流れ着き、発掘されたことで、自律プログラムが生き返った……って流れか。重すぎだぜ」

 

「よく止まりましたね」

 

「グレンダイザー自体、グレートマジンガーと同レベルの基礎能力だからな。それを上回るロボで止めないと、大変な事が起こったってことさ。そして、グレンダイザーは元々、銀河全体で栄えた文明の遺産で、その子孫を審判する役目があって、未来世界の地球は一年戦争以来の戦争で『20世紀より荒れていた』のが災いして、自律プログラムが滅ぼせと判断したらしい」

 

 

「だけど、ダイザーよりも強いスーパーロボットがそこにいたから、大事にならずに済んだ。で、ここからが問題だ。中には『その世界の大介さん達』がいたってことだ」

 

細部が未来世界でのグレンダイザーと異なる事がわかる写真が載っていた。頭部が(オリジナルと比較して)小顔、体格が若干細めである。真シャインスパークを受けても、外観上は『装甲に焦げ目ができた』だけである(内部の回路はズタボロとなったが)。それぞれのコックピットにいた三人は調査の際に救出されたが、既に特殊な冷凍睡眠の状態であり、23世紀の医療技術で身体組織の修復(強引に冷凍睡眠下に置かれたためか、身体組織に損傷があったため)を行うに留めた。両機の戦闘ロボとしての純粋なスペックは未来世界のグレンダイザーと同等であった。だが、その裏の機能にコンピュータのソースが割かれていたため、『伸びしろ』がない。対して、未来世界のグレンダイザーは光量子ジェネレーターのリミッターを『外す』という最後の『切り札』があった。それが未来世界のフリード星がグレンダイザーに与えた『真のパワー』。それを指して『グレンダイザーギガ』とも、『グレンダイザー・マックスモード』ともされる最大稼働モード。デューク・フリードがグレンダイザーを『グレートマジンガーを超えるロボ』と説明したのは、このモードの存在による。ただし、機体に無茶を強いるので、使用後は機体のオーバーホールを必要とするという弱点がある。フリード星がグレンダイザーの武装の通常パワーでは撃破不能な敵への切り札として与えたと思われる。

 

 

「どうするんです?」

 

「元の世界に近い世界に送るしかない。最終戦争が起きなかった場合のな。それがそいつらにとってはいいだろう。元の世界に持ったところで……自分達しか生き残りがいない世界じゃな」

 

それには語弊がある。実際には兜甲児などの極小数の人間は天変地異を生き残っている。だが、未来世界はその世界に帰すよりも『最終戦争が回避された世界線』に送る方がいいだろうという判断を下した。それが彼らの『平行世界のデューク・フリード』たちへの慈悲であった。

 

「こっちの世界の補修パーツで直せるのは救いだな。危険な機能は取っ払って、こっちのグレンダイザーと同じ構造に直す」

 

「できるんですか?」

 

「スーパーロボットの構造はどこの世界も、どの時代でも似たようなもんだ。人型兵器なんて、設計の基本はどれも同じだぜ」

 

「手足がついて、顔があるかどうかですもんね」

 

「あたしの紅蓮なんて、特注だぞ」

 

「あれ、いくつかタイプあるって聞きましたよ?」

 

「まぁ、基本は紅蓮聖天八極式だよ。ゲリラ活動用だから、ジェネレーターの排熱と燃費に気を使ってるし、ゲッター機動できるしよ」

 

シャーリーは紅蓮聖天八極式を『性能と燃費の兼ね合い』で愛好している。特式は性能そのものは良くなったが、正規の補給を受ける前提で設計されたために、武器の燃費が悪化していた。所属部隊の性質上、ゲリラ戦が多く、補給頻度が安定しない64Fでは、特式はあまり使えないのだ。

 

「それに、初期型の紅蓮が一線張れる状況でもないからな。初期型は陸戦用だし、MSやVFが普通にある世界かつ、機械獣とかのヘビー級ともやり合うからよ」

 

当たり前だが、ナイトメアフレームはサイズがかなり小型の兵器である。超弩級のマシーン兵器が普通にある世界では、ナイトメアフレームは中型パワードスーツよりは大きめであるが、小型に分類される。コンバットアーマーの更に半分ほどの4~5mほど。地球連邦軍の基準では『パワードスーツよりは重装備な乗り物』という扱いである。シャーリーはのび太に『弐式~可翔式の再現もプランがあるんだけど』と言われたが、聖天八極式以降に乗りなれてしまうと、それ以前の型には乗れないと返答している。そのため、シャーリーは仮称・聖天八極改型式と特式を使い分けている。なお、特式のオプション装備の『フレームコート』は再現をしないでいいとしているので、スピード命であるのがわかる。

 

「響はスピード命だから」

 

「まーな。こんななりだから、軍用のサイドカーは似合わないって言われちまって。せっかく、ロマーニャの基地から軍の備品のサイドカーをくすねたのによ」

 

旧501ロマーニャ基地を引き払う際に、備品のサイドカーをくすねたと明言し、プリキュアになっても使うつもりだったシャーリー。流石に無骨な外見の軍用サイドカーとプリキュアは些かのアンバランスさを感じさせる。

 

「だから、のび太に頼んで、キカイダーのサイドマシーンのレプリカを制作してもらってる。あれならヒーローメカだから、プリキュアの姿で乗ってても違和感ねぇだろ?ギャバンさんのサイバリアンは荷物置くには使えるかもしれないけど、実用的じゃないし。坂本さんからは余ってる陸王を回そうかって電話きたんだが、陸王はこっちだと部品ねぇから断った」

 

「皆さん、バイク乗るんですか?」

 

「あたしはプリキュアに戻る前に、軍で運転免許を取ってるんだ。だから、陸王とか乗り回してた事あるんだ。それに、ラブちゃんに運転させると、スピード狂で……その、酔うんだ」

 

「意外ですね」

 

のぞみも『陸王は覚醒前から乗り回していた』と明言する。任務で必要だったからである。桃園ラブ(キュアピーチ)の運転がシャーリーですら冷や汗をかくくらいのスピード狂であることもバラされる。

 

「つぼみちゃんなんて、ジープの運転頼んだ事あるんだけど、ついた途端に吐いてたよ」

 

「うっそぉ……」

 

驚くいちか(姿はキュアホイップ)。

 

「だから、あたしにお鉢回ってくんだ。そりゃ、軍でバイク乗りなれたから、変身してれば、サイクロン号も動かせるけどさ」

 

のぞみは『運転が堅実』(黒江の談)と評価されているため、戦友や上官に運転手にされるようになった。これはシャーリーは『運送トラックのエンジンにターボを積む』ような改造をやらかす、桃園ラブは『ハンドルを持つと、途端に暴走族になる』という意外な面の判明、かと言って、月影ゆり(キュアムーンライト/新見薫)や琴爪ゆかり(キュアマカロン/北郷章香)は従卒に運転させたほうが多い。なので、自分で自動車/オートバイを乗れるプリキュアは少ないのだ。なお、キュアハート/相田マナ/逸見エリカ、キュアコスモ/ユニ/ノンナの二人は万能で、戦車からスーパーカーまでを乗りこなすが、キュアハートは戦車道部でティーガー系を愛好している事から、ドイツ系の精密さにうんざりしているが。

 

「マナちゃんはどうなんです?」

 

「あいつか?今は自分の世界の学校に戻ってるが、万能選手だな。ただし、戦中のドイツ戦車の整備はうんざりしてるぜ」

 

「ドイツ戦車って強いんじゃ?」

 

「日本の比じゃねぇが……足回りが複雑で、壊れるんだよ」

 

「あー……」

 

「第二次世界大戦なら、鬼戦車が最適解だが、ロシア製は手に入んねぇからな。まぁ、ウチの国の朝鮮半島世代からはデカくなっていくけどな」

 

「うちの陸軍なんて、1944年でチハたんが余裕で現役だからさ、士官学校の同期の機甲科の子は泣いてた。」

 

「そりゃ、あんな重戦車(M26/M46)じゃ、体当たりでも無理ですしねぇ」

 

いちかも教習を受ける際に、九七式中戦車(旧砲塔)を目にしている。いかにも古めかしい外見の戦車であると感想を持ったのは言うまでもない。新砲塔チハは多少マシになったものの、歩兵直協用の戦車の域を出ない。それは最終発展型の『三式中戦車』であろうが、同じである。そのため、センチュリオンやコンカラー、74式、10式などのものすごい戦車を目の当たりにした扶桑の機甲部隊の将兵は自軍との落差に涙したという。そもそも、パンターを目の当たりにしたのが、四式中戦車、五式中戦車の開発理由なのだが、優秀な魔女をコンスタントに輩出してきたのが災いし、機甲装備は世界から『半歩遅れ』は当たり前であった。だが、必要性が急速に増したことで、太平洋戦争時には『自衛隊・61式』と同レベルの戦車の国産にこぎつけていた。予算の都合で大量生産には至っていなかったが。これがダイ・アナザー・デイから揃えてきた『外国産機甲装備』の運用拡大の大義名分となり、センチュリオンとコンカラーの独自改良タイプが出回ることになる。元々、扶桑は扶武同盟(数百年継続)で、ブリタニア製の装備の調達はむしろ簡単である。その事から、センチュリオンは三式~五式改の全配備数を超える数が太平洋戦争で投入されることになる。

 

「お前、パティシエとはいえ、移動でタンクデサントするかも知んないから、一応、戦車の用語は覚えとけ。ゆかりさんはもう覚えたぞ」

 

「えーーーー!」

 

「いや、あの人の立場的に当然だろ。兵科が違ってたら、提督にもなれた立場だぞ」

 

琴爪ゆかりは北郷章香として転生していたため、プリキュアとしては『猫』の属性だが、北郷章香としては『軍神』という渾名を誇った俊英。海軍陸戦隊にも少尉候補生時代に研修の経験がある。現在は空軍へ移籍したが、貴重な『海軍のエリート将校』の経験者であるため、琴爪ゆかりとしての態度からの『エリート軍人』への切り替えは弟子の坂本が手放しで絶賛しているほどの早さだ。

 

「ゆかりさん、そんな立場になってるんですか?」

 

「扶桑の武門の家柄で、おじいさんの代から軍に関係してたって聞いてる。で、お父さんが元の海軍少将で、講道館の館長。自分も講道館で行われてる武術の師範。妹さんも空軍のトップエースの一人と、軍人のエリート家系。で、妹さんは先輩の一期下で、あたしの三期上の先輩」

 

北郷章香には、黒江の一期下(智子と武子の一期先輩)の魔女である『茂子』という妹がいる。表向きは『北郷は妹の誘いで転向した』という扱いだ。これまた『戦線は北郷で持つ』と讃えられる俊英。のぞみ(錦)の三期上の先輩で、智子と武子の一期先輩という立場である。64Fには属していないが、支援部隊の一つ『59F』の魔女で最強格であり、自身も『私がいる限り、南洋で軍の航空を壊滅させる事は無い』と自負するほどの自信家であった。

 

「そんな一家の出になったから、常に鍛えてないといけないんだって。だから、プリキュアとしての自由奔放さは『軍人としてはガチガチに押し込められてる』ストレスの発散じゃないかな」

 

「切り替え早い割に、意外にお茶目なところは変わってませんね」

 

北郷としての正規士官としての凛とした態度と、キュアマカロンとしての自由奔放な振る舞いの切り替えが迅速かつ、シームレスな事に驚きつつも、舌を巻いているいちか。

 

「そういえば、あおいのやつは?」

 

「あおちゃんなら、黒江さんにエレキギターねだってました」

 

「エレキギター、たっけーからな。あいつ、昔にバンド組んでただろ?」

 

「うん。黒江さん、今月は月賦の支払いでオケラだから、智子さんに都合つけてもらうとか……」

 

「当分は厨房で借金返済だな、あいつは」

 

キュアジェラート/立神あおいはエレキギターを黒江にねだったが、その黒江も、オートバイのカスタムパーツの月賦でヒーヒー言う有様であった。そのため、黒江もだが、厨房で借金返済のために手伝いを当分はすることになる。

 

「はーちゃんは?」

 

「確か、ノビスケに頼まれて、草野球のピンチヒッターだったような。みらいとリコも一緒のはずだ」

 

「リコちゃん、野球知ってるかなぁ?」

 

「過去生でアメリカにいたから、知ってるはずだよ。りんちゃんが非番なら、助っ人を最優先で頼んでたってさ」

 

「りんさん、運動神経いいですからね。いつきさんは?」

 

「今日はカルチャーセンターで武術の授業してる。先月、練馬区の文化会館の人に頼まれててさ」

 

「プリキュアの姿で?」

 

「その方が、人も集まるからって」

 

「……大変だなぁ、いつきさんも」

 

明堂院いつき(キュアサンシャイン)は元々、道場の跡取り候補だったので、技術に問題はない。問題は『プリキュアの姿で講義を行う』事での羞恥心との戦いだろう。いちかはいつきが講義で悪戦苦闘する姿を想像し、『精神面の修行』の大変さを実感するのであった。

 

 


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